芸術と技術という2つの分野から、
活発な意見交換が行われた

−−第1部パネルディスカッション(石川会場)

石川会場では、パネルディスカッションの第1部が「石川新情報書府構想の近未来像 」をテーマに、東京大学の月尾嘉男教授がモデレーターを勤め、芸術と技術という異 なった分野からそれぞれ2人ずつパネリストが参加し、スタートしたばかりの「石川 新情報書府構想」への期待や課題・問題点等を討論した。
パネリストは芸術分野を代表して、金沢美術工芸大学の学長であり、陶芸家でもある 北出藤雄氏と石川県伝統産業振興協議会の会長であり、金箔という伝統工芸に携わる 作田勝氏、コンピュータ技術分野から石川県情報システム工業会の細野昭雄会長と 北陸先端科学技術大学院大学・情報科学研究科の宮原誠科長の4人。まず、月尾教授 から「デジタルアーカイブ構想」の目的や意味、「石川新情報書府構想」について プレゼンテーションがあり、続いて4人のパネリストが「石川新情報書府構想」に ついて意見交換を行った。



世界中から数多くの人々がアクセスしてくるのがインターネットの特徴

−−東京大学・月尾嘉男教授

月尾教授:デジタルアーカイブとは、簡単に言うと、電子図書館のようなも の。もちろん本だけではなく、美術品や骨董品、伝統工芸品とかさまざまなものを デジタル化し記憶しておくところです。有形・無形の文化財をデジタル化するという ことにはいくつかの理由があります。そのひとつが、デジタル化してコンピュータの 中に保存しておくと、劣化が少ないということ。いくら複製しても映像がぼやけた り、遠くまで送っても変形しにくいという特徴があります。また、世界中から誰でも 自由にアクセスできるということも見逃せません。実際、ある新聞社が世界に向けて 電子新聞をインターネットを通して流したら毎日、20〜30万人の人間が世界中から アクセスしてきているそうです。インターネットを通じて情報を流すと、驚くべき数 の人間が、驚くべき広さでアクセスしてくるということが起こりつつあります。


石川県には素晴らしいコンテントがある

ただ、そういう時代になると何を世界に向けて発信するかという内容、我々はコンテ ントと呼んでいますが、それが重要になってきます。
幸い、この石川県にはそういう意味で素晴らしいコンテントを持っている地域である ということを認識すべきだと思います。というのは、明治の初期に行った人口調査に よると、当時の東京の人口はわずか96万人で全国で15番めだった。第1位は金沢の 160万人で日本で最も人口が集積していた地域でした。つまり、豊かな経済活動が あったことを意味しています。経済活動が活発であるというこは文化活動も盛んで あったことを意味していますから、世界に発信し得るコンテントが豊富にあるという わけです。


強力なパワーが要求される

また、文化財の保存・継承ばかりではなく、コンピュータ技術を使って新しいものを 作っていくことも大切です。出版印刷であるとかコンピュータを使った映像や音楽、 デザインなどコンピュータ関連産業の需要が高まり、それが地域発展の新たな原動力 となるのです。さらに石川新情報書府構想という大きな目標を推進していくには、 産・学・官の3つが協力し合うことが大事。せっかくいいスタートダッシュができた のに途中で息切れしていたのでは意味がありません。自治体の先頭を走るためには、 強力なパワーが必要です。


できるところからやっていく姿勢が大事

ただ、これだけの大構想となると完璧にやろうとすると何もできなくなります。コン ピュータの世界では日進月歩ではなく、秒進分歩と言われています。さらに技術が 進歩するまで待っていては何もできません。現在の技術で取り組んでいき、ハイレ ベルな技術が開発されたら、応用すればいい。最初から完璧なものを目指すのでは なく、できるところからやっていくという姿勢がなにより大切だと思います。


作品をデジタル映像化しても
臨場感や迫力までは表現できない

−−金沢美術工芸大学・北出藤雄学長

北出学長:石川には、工芸に関しては全国的に著名な仕事をしている人が たくさんいます。中には国の重要無形文化財に指定を受けている人もいますし、 日展や伝統工芸展に出品する人たちが多いことからもわかるように、現在も工芸の 仕事に携わっている人がたくさんいます。そういう中で石川新情報書府を着々と推進 しているとは、この石川の将来ばかりか、多少なりとも工芸の仕事に携わっている 私にとっても喜ばしいことです。


さらなる技術革新を望む

いろんな形で有形・無形の文化財がきちんとした形で保存・継承されるのはたいへん いいことだと思う反面、現在、工芸の仕事をやっている者の立場で考えると、現在 作っている作品や仕事をみなさんにわかる形で発信できたらいいだろうなと考えて います。ただ、デジタル映像化する場合、まだ、作品の質感や臨場感、作品としての 迫力まで表現されないのは残念です。さらなる技術の進歩や撮影方法の工夫などを 期待したい。


石川県が伝統工芸の一大発信基地となり、匠の技と美が世界中に感動を与える

−−石川県伝統産業振興協議会・作田勝会長

作田会長:95年の6月に伝統工芸の合同見本市があり、初めてインターネット の画面に触れました。ほとんどは国内の需要でしたが、海外にも大きく進出したと いう感触を得ることができました。これからの21世紀は世界的にマルチメディアの 時代を迎えます。インターネットによって世界に情報を発信していくことが、伝統産 業でも必要になってきます。そのために我々がこれまで培ってきた伝統工芸の作品や 技術をデジタル化し記録していくことで、後継者の育成をはかるシステムを作ること が大切です。
この石川新情報書府構想により、石川が伝統工芸の一大発信基地となり、匠の技と 美が世界中に感動を与える時代がくると確信しています。



インタネットという共通環境に中では発信に値する豊富な文化が鍵を握る

−−石川県情報システム工業会細野昭雄会長

細野会長:この石川新情報書府をいかに活かしていくかということは、伝統 産業や私自身が携わっているコンピュータ情報通信の業界ばかりではなく、すべての 分野にかかわってくるだろうと思っています。
インターネットは世界中をコンピュータで共通環境の世界に造りあげます。この共通 環境の中で何が最も大事かというと、インターネットに載せるもの、つまり、発信 させるものです。この世界に向けて発信させるものが地元に豊富にあるということ は、これからのマルチメディア時代には非常に有利なことです。私は、石川にある 文化財を次々と作品化していくこと、地元の発展に貢献できると確信しています。



みんなが目を輝かせる魅力を持った
もの、それがマルチメディア

−−北陸先端科学技術大学院大学・
情報科学研究科・宮原誠科長

宮原科長:私はNHK技術開発局というところにいまして、ハイビジョンの開発 を手懸けてきました。現在、日本の財政投融資は年間約16兆円にも昇ります。ところ が、公共事業の一環としていくら道路を作っても、景気は良くならない時代になって きています。このままでは日本はポシャッてしまします。そうならないためにも、 この投融資を利用して情報産業のインフラを作ることが必要です。中国ではカラー テレビの価格は1〜2年分の給料に相当します。でも、必死でお金を貯めて買おうと する。そんな目を輝かす、あれだったら欲しいと国民みんなの購買力を刺激するよう なものを提案していく必要があるのではないかというのが私の考えです。そういう 観点から見てみると、現在のところ、みんなが目を輝かすものがマルチメディアしか ないのです。


スーパーバイザーが必要

ただ、私は芸術の分野と一般の方々を橋渡しをしている電気紙芝居屋のようなもの ですが、ハイビジョンであれ、デジタル映像であれ、なんでもできるんだと誤解され ている部分もかなりあるのではないかと感じることが多々あります。そんな経験か ら、この石川新情報書府構想を進めるにあたって、芸術も分かり、このレベルのも のはできるとかこれ以上のものはムリといったような技術的な面でもいろいろアド バイスできるスーパーバイザーが必要なのではないかと思っています。



【全体報告】

【東京会場:第一部パネルディスカッション】

【石川会場:第一部パネルディスカッション】

【第二部パネルディスカッション】