過去の研究テーマ

1. 半導体を用いず金属だけで作られた超微細トランジスタ

 金属と10 nm前後の厚みの絶縁体の間を流れるトンネル電流を、第3電極で制御する新しい概念の超微細トランジスタ。
以下をご参照下さい。今でも沢山読まれている論文群です。

1) Kouji Fujimaru, and Hideki Matsumura, “Theoretical Consideration of a New Nanometer Transistor Using Metal/Insulator Tunnel-Junction”, Jpn. J. Appl. Phys., Vol.35, [No. 4A], (1996), pp.2090-2094.
2) Kouji Fujimaru, Ryouta Sasajima, and Hideki Matsumura, “Nanoscale metal transistor control of Fowler-Nordheim tunneling currents through 16 nm insulating channel”, J. Appl. Phys., Vol.85, [No.9], (1 May, 1999), pp.6912-6916.
3) Ryouta Sasajima, Kouji Fujimaru, and Hideki Matsumura, “A metal/insulator tunnel transistor with 16 nm channel length”, Vol.74, [No. 21], (24 May, 1999), pp.3215-3217.

2.  金属酸化物を用いた薄膜トランジスタ

 今、盛んに研究されている金属酸化物を用いた薄膜トランジスタの研究を、かなり昔に行っておりました。
用いた金属酸化物はCu2Oです。この材料が50 cm2/Vs 近い移動度を示すことに着目した研究です。まず、特性が安定しているCu2O膜の製法に関しては以下の文献1) を、それを用いた薄膜トランジスタに関しては、文献2) の日本国特許をご参照下さい。

1) Hideki Matsumura, Asako Fujii and Tomohiko Kitatani, "Properties of High-Mobilty Cu2O Films Prepared by Thermal Oxidation of Cu at Low Temperatures", Jpn. J. Appl. Phys., Vol.35, [No.11], (1996), pp.5631-5636.
2) 発明者:松村英樹、日本国特許第3479375号、「亜酸化銅等の金属酸化物半導体による薄膜トランジスタとpn接合を形成した金属酸化物半導体装置およびそれらの製法」、出願人:科学技術振興事業団(現、科学技術振興機構)、出願日:1995年3月27日(出願番号:特許願第068270号)

3. 百万個の結晶Siチップを画素位置に配置した大画面双方向平面ディスプレイ

 平面ディスプレイは、現在、液晶ディスプレイ(LCD)が中心になって展開しています。松村は、1990年代から、大画面平面ディスプレイ(FPD)はプラズマディスプレイ(PDP)、小型平面ディスプレイはLCDになるとの当時の大半の意見に疑問を持ち、FPD、すなわち、大画面平面テレビはLCDになると言い続けていました。文献1) は、ディスプレイに関する業界誌「月刊 ディスプレイ」の巻頭言の執筆を依頼された際に、その考えをまとめて書いたものです。先の金属酸化物薄膜トランジスタもそうですが、幸いなことに、今まで予想を立てて先駆的に始めた多くの研究テーマは、自分自身がその本流で貢献できたかどうかは疑問なものもありますが、その後、主流になっています。
 今、LCDの次の技術として、有機ELディスプレイ(OLED)が注目されています。LCDはやがて新興国が安価な製品を発売してくるから、それに代わる、技術の差別化ができる新規FPDが必要だ、と言う意見も聞かれますが、それは、開発者の立場の意見であって、購入者の立場の意見ではないと思っています。購入者は、少しでも安く、性能の良いものを買いたいものです。新規技術は、特別な不可価値がない限り、参入時の価格が高ければ市場で喜ばれることはありません。多くの人は、マニアにしか分らないような技術的差別化には関心がありません。
 大画面FPDにとって必要な進歩とは、単に画面を見せる方式、PDPかLCDかOLEDか、ではなく、何らかの新機能です。将来の大画面のテレビが壁一面に画像を見せる時代、その大画面と壁のスペースを単に画像だけに使ってはもったいない気がしませんか。各画素にセンサーがあれば、大画面分の面積全体で、あたかもアレイアンテナのように、そのディスプレイが置かれた室内を監視できるのです。見るディスプレイから見られるディスプレイへの大きな変化です。タッチパネルなど必要ありません。椅子に座ったまま、その画面の特定な場所を指差せば良いのです。あるいは、声を上げても良いです。家に空き巣が入れば、直ぐに分って警報を出します。わずかな家のきしむ音、虫の這う音から、アブラムシの接近を伝えます。室内の情報端末、センサーとして大画面であることを有効に使うのです。そのことを、実現する手法の一つとして、Alien Technology社が最初に言い出した、各画素に結晶Si集積回路チップを配置する技術の重要性に着目しました。私達の研究室では、絶えず、自分たちオリジナルなものを世界ではじめて提案することを基本としていますが、このテーマだけは、基本アイデアは他人のものです。それを、私たちが提案する新しい手法で実現することを試みたのが、この研究テーマです。結晶Siチップそれぞれには、画素を制御するだけでは留まらない、あらゆる機能が入れられます。画像も、光も、音も、検知できます。それを大画面でアレイアンテナ的に検知しますので、各画素位置で検知した信号を付き合わせれば、室内の3次元空間で信号の発信場所を高精度で特定できます。タッチパネルではなく、画面のある特定の方向を単に遠くから指差せば良くなります。
 50 μm角程度の微細チップを、各画素近傍に、一度に何万個も1,2秒の短時間で配置し、液体を用いた単純な方法で、数秒の桁の時間で配線する技術の開発がこの研究テーマの真髄です。詳しくは、以下をご参照下さい。

1) 松村英樹、「21世紀の大画面ディスプレイとLCD技術」、月刊ディスプレイ、2002年7月号、pp.1-2.(巻頭言)
2) Hideki Matsumura, Masayuki Ishikawa, Kenichiro Kida, Koyu Maenaka, Tadaaki Kuno, Kohei Nitta, Minoru Terano and Shigeru Minami, “Development of Micro-Assembling Technology for a Fabrication of Large Size Liquid Crystal Display”, Jpn. J. Appl. Phys, Vol.45, [No. 5B], (2006), pp.4413-4418.
3) Nguyen Thi Thanh Kieu, Takahiro Yagi, Keisuke Ohdaira, Hideki Matsumura, “Pixel Controlling Substrate Fabricated by Embedding Millions of Silicon IC Chips in Plastic Substrate and Self-Aligned Metal Interconnection among Such IC Chips”, Technical Digest of SID 2012, (Boston, USA, June 4-8, 2012 ), pp.842-845.

MATという微細チップを入れる装置の動画です。