関連研究プロジェクト

本研究室は、以下の大型研究プロジェクトのご支援により、研究活動を行っております。関連の皆様のご支援に心から感謝申し上げます。

1. 科学技術振興機構(JST)・戦略的創造研究推進事業CREST
  研究領域「太陽光を利用した独創的クリーンエネルギー生成技術の創出」
  研究課題「Cat-CVDなど新手法による太陽電池高効率化」
  (研究代表者:松村英樹、期間:2010年10月から2016年3月まで)

 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)を中心に開発されてきた新薄膜技術、触媒化学気相堆積(Catalytic Chemical Vapor Deposition=Cat-CVD) 法は、原料ガス分子と加熱触媒体との接触分解反応を用いることで、従来からのプラズマ支援化学気相堆積(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition=PECVD)法で問題となるプラズマ損傷を基板表面に与えることなく、300℃以下の低温で高品質薄膜を堆積できる方法です。この方法は、各種材料ガスを、プラズマを用いずに分解、活性化できる方法でもあり、この分解種を用いる、表面にプラズマ損傷を与えない、新たな固体表面加工も可能となります。本研究は、これらの特長を持つCat-CVD技術を、結晶シリコン(c-Si)太陽電池の製作に適用、世界最高レベルの効率を持つc-Si太陽電池が実現可能な基盤技術を確立することを目的としています。
 具体的には、JAISTグループにより、
(1) 表面損傷を与えない長所を生かし、キャリヤの表面再結合速度(Surafce Recombination Velocity =SRV) を劇的に低下させる表面保護膜を形成する技術
(2)ドーピング不純物ガスの触媒分解により生じる種を用い、低温でc-Si内にリン(P)やボロン(B)などのドーピングを行い、n型層、p型層を形成する技術
を確立します。(この低温ドーピング法を新たに「Cat-doping法」と名付けました。)
また、共同研究者の静岡大学グループにより、 
(3) レーザー誘起蛍光法、真空紫外吸収法などの解析手段を駆使し、低温不純物ドープに寄与する種の検討を行い、そのCat-doping現象の機構を解明します。そして、それらの知見を合わせて、本研究目的を達成することを目指しています。

 本研究の結果、まずJAISTにおいて、Cat-CVD法で作製されたシリコン窒化膜(SiNx)/真性アモルファス・シリコン(i-a-Si)積層膜でc-Si表面を保護すると、キャリヤのSRVが、c-Siバルク中でのキャリヤ再結合が無いと仮定した最大見積値(SRVmax)ですら1.5 cm/s 以下と、世界最高レベルの値に劇的に下げられること、c-Si内でのキャリヤ寿命にウェーハ供給企業のカタログ保証値を用いると、実に、0.16 cm/s以下にもなることを明らかにしました。また、ホスフィン(PH3)ガスを接触分解して生じる種に、p型c-Siを曝すと、基板温度わずか80℃で、その表面にP原子が導入され、表面がn型に反転すること、ジボラン(B2H6)ガスを接触分解して生じる種に、n型c-Siを曝すと、同様な低温で、表面がp型に反転することを見出しました。さらに、この技術をc-Si表面ポテンシャル制御に用い、透明度の高いSiNx単層膜でも、世界最高レベルであるSRVmaxが2 cm/s 以下となる新手法の開発にも成功しました。
 さらに、JAISTでは、a-Si/c-Si界面の原子構造と欠陥密度に関する検討も行い、Cat-CVD法で作られたa-Siとc-Siの界面は急峻で、界面の凹凸などの乱れ幅(=c-Siからa-Siに遷移する遷移層幅)は0.6 nm以下と、PECVD-a-Siとc-Siの界面に較べ1/3と小さいこと、また、その値は、優れた界面であることが知られている熱酸化膜(SiO2)とc-Si界面、あるいは溶液酸化SiO2膜とc-Siの遷移幅、ともに1.0 nm、よりも狭いこと、を見出しました。また、容量-電圧(C-V)特性などの電気的測定から界面の欠陥密度を算定、Cat-CVD a-Si/c-Si 界面は、その欠陥密度が熱酸化SiO2/c-Si界面のそれの1/10以下と小さく、最も欠陥の少ない界面であり、c-Siの表面保護膜特性の観点から言えば、c-Si太陽電池に用いた場合、Cat-CVD a-Si膜>SiO2膜>PECVD a-Si膜、の順で特性が優れているとの結論を得ました。
 一方、静岡大学においては、PH3とB2H6の接触分解の際に生じる種の同定を行い、PH3はP+3Hに分解されるのに対し、B2H6は触媒体上ではBH3+BH3に分解し、その後の気相反応でBが生成されること、すなわち、PのCat-dopingに較べ、BのCat-dopingでは、気相反応を推進するための条件が異なることなどが示唆される結果を得ました。さらに、静岡大学では、分解種生成機構の検討を通じ、危険度の高い特定高圧ガスであるPH3、B2H6を用いず、赤燐やボラザン(アンモニア-ボラン錯体)などの安全な原料を用いてP、Bのドーピング種を発生させる手法を発見、このCat-doping技術を安全な手法として広い分野で活用できる可能性に道を拓きました。

2.  新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) プロジェクト
 「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/太陽電池セル、モジュールの共通基盤技術開発」
  研究課題「Cat-CVDなど新手法による高性能太陽電池低価格製造技術の開発」
 (期間:2015年5月から2018年3月までの中間評価まで、および、その評価に従い、2018年4月から2020年3月まで、合計5年間)

 国際競争の主戦場である結晶シリコン(c-Si)太陽電池のエネルギー変換効率を向上させ、効率当たりの価格を大幅に低下させる新技術を開発することで、エネルギー供給手段に多様性を与えると同時に、日本の太陽電池産業の国際競争力を高め、その再生を図ることを究極的な目的とした研究です。
具体的には、下地基板表面に損傷を与えず、優れた界面が形成できる低温薄膜堆積法、Cat-CVD (Catalytic Chemical Vapor Deposition=触媒化学気相堆積) 法、および、それから派生した、100℃以下の低温でリン(P)やボロン(B)を結晶シリコン(c-Si)に導入できる新しい不純物ドーピング技術、Cat-doping(Catalytically Cracked Impurity Doping) 技術、など新技術を駆使し、厚み50-70 μm程度の薄いc-Si基板を用いる、低価格で超高効率な裏面電極型アモルファス・シリコン(a-Si)/c-Siヘテロ接合太陽電池を作製する基盤技術の開発を目的としています。

 c-Si太陽電池の価格低下を図るためには、価格構成比の高いc-Siの使用量を大幅に減らすことが重要で、そのため、c-Si基板の厚みを50-70 μm程度へと薄板化することが求められます。しかし、c-Si基板を薄板化すると、二つの問題が生じます。第一に、従来のc-Si太陽電池の製造に用いられてきた800℃以上の熱処理によるp-n接合形成技術は、基板の熱歪による破損のために使えなくなり、太陽電池製造工程の低温化が必要となります。第二に、c-Siを薄板化すると、基板表面でのキャリヤ再結合の影響が大きくなり、それを抑制する優れたc-Si表面のパシべーション技術が必要となります。
 ここで、第一の要求に応えるのが、p型、n型のa-Siを従来のp-n接合形成の代わりにc-Si基板に堆積するa-Si/c-Siヘテロ接合構造の採用であり、さらに、それに加えて、電極を全て裏面に配置し、表面電極影の影響を排除して効率を高める裏面電極型構造のヘテロ接合太陽電池 (Hetero-Junction Back Contact Solar Cell=HBC太陽電池) 構造の採用です。また、第二の要求に応えるのが、c-Si表面に損傷を与えない、新薄膜堆積技術のパシべーション膜作製への適応、および、表面ポテンシャル制御によるキャリヤの表面再結合抑制を行う技術の開発です。

 ところで、a-Si膜や、反射防止膜として使われるチッ化シリコン(SiNx)膜などの低温堆積法としては、プラズマを用いて原料ガスを分解堆積するプラズマ支援気相化学堆積(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition=PECVD)法が広く使用されていますが、プラズマが作る下地基板への損傷の影響を排除することが、これからの超高性能なパシベーション膜形成のための必要条件でした。
 一方、我々は長年、原料ガス分子を加熱金属との接触反応で分解することにより、基板表面へのプラズマ損傷をなくした低温薄膜堆積法、Cat-CVD法の開発を行ってきました。この方法は、すでに表面が脆弱な化合物半導体デバイスの表面保護膜形成法として実用化されていますが、最近、表面の硬いc-Siにおいても、Cat-CVD法によるa-Si製膜後の界面が、プラズマ損傷のあるPECVD法による界面より優れていることが見出されています。また、Cat-CVD法は、原料ガスの利用効率がPECVD法に較べ、数倍から10倍も高く、排ガスの除害コストの削減も含め、薄膜堆積の低価格化にも有効です。
 さらに、我々は最近、ホスフィン(PH3)やジボラン(B2H6)などドーピングガスを加熱触媒体に接触させて生じる活性種にc-Si基板を曝すと、わずか80℃の低温でc-Si中にリン(P)やボロン(B)がドーピングできる新現象を発見、このドーピング法を「Cat-doping法」と名づけ、この新手法が、c-Si表面のポテンシャル制御に有効なこと、また、それにより、キャリヤの表面再結合を劇的に抑制でき、a-Si/c-Siの界面特性の改善もできることを見出しました。
 本研究は、これらの研究成果にもとづいて、上記のc-Si基板薄板化にともなう技術的課題を克服、高効率で低価格な次世代HBC太陽電池を製造する基盤技術を開発することです。まず、①基板表面に損傷を与えず、かつ、製膜コストの安いCat-CVD技術、②およびそれから派生した新ドーピング技術、Cat-doping技術、を発展させ、厚み70 μmの薄板c-Si基板において光を閉じ込める複雑なテクスチャー形状の表面上でもパシベーション性能を最大化する技術を開発します。特に、これらの技術を高効率太陽電池製造の量産に用いるために必要な基礎技術の開発に注力し、本研究成果の速やかな実用化を目指します。これにより、太陽光発電ロードマップ(NEDO PV Challenges)における目標を達成し、日本のエネルギー供給体制の発展に貢献するのみならず、日本の太陽電池産業の国際競争力を飛躍的に高めることにも貢献したいと考えています。