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調律方法

調律は3つの過程に分けられる。最初に中央近くの特定の音を調律フォークで 合わせる。次に中心部の1オクターブを調律する。この辺りの音の振動に対し て、聴力はもっとも鋭敏である。最後に、中心部の1オクターブを上と下のオ クターブにコピーして全体を調律する。

まず小さなゴム製「くさび」(wedge) をつくり(訳注:幅の広い輪ゴムなどでよい)、a' とb♭'/ b' の間に押し込んで、後方のa' 弦が鳴らない ようにミュートする。手前側のa' 弦を低めのピッチにしておき、440Hzの 調律フォークのピッチに上げて合わせる。もし高くなり過ぎたら、もう一度低 くして、440まで高める。低い方から高くした場合は調律した状態が長続きす るが、逆方向はそうではない。(ただし低音弦の方ではそれほど違いがない。) そうしたら「くさび」(wedge) を取り除き、後方のa' の弦のピッチを手前側の弦と合 わせる。

はじめに伝統的クラヴィコードの特徴について述べておいた方がよいだろう。 鍵盤が軽いので、同じ音を出すふたつの弦が互いに強く干渉しあう。この現象 は科学で`coupling' と呼ばれている。これは、二本の弦が単独では微妙に異 なったピッチで鳴るなら(つまり一方の弦は「くさび」(wedge) で止められている)、同時 に鳴った場合に、ある相補的なピッチでシンクロナイズするという現象である。 これは重要かつ幸運な特徴であり、伝統的なクラヴィコードの音質にある程度 寄与している。単弦のクラヴィコードではこの現象が起こらず、味気ない音し か出ない。調律しているうちに、偶然、二本の弦をあまりにも近いピッチに調 律してしまうことがあるだろう。この時、音が突然、静かになって生命力のな いものになってしまうのに気づいて驚くかも知れない。これは相互干渉が起こ り、二本の弦が正反対の位相に振動して互いの音を消し合うためである。これ を防ぐには、一方の弦の調律ピンをわずかに時計方向に巻き上げることである。

しかしながら、もしピンを回しすぎたら、二本の弦は共振しなくなるので、も う一度その弦を調律しなおさなければならない。ときどき出る生命力のない音 に煩わされることはないかもしれないが、気になるときは、説明した方法で改 善すればよい。

両方のa' 弦を調律したら、a弦(a' の1オクターブ下)の組の後方に 「くさび」(wedge) を置き、手前側の弦を調律する。もう一方の弦をやはり手前側の弦に 合わせる。このaの音を基にして、f-e' のオクターブを調律する。すで に説明したが、中心あたりの音に対して耳は敏感なので、ここから調律し始め るのがよい。

a を基にして、a' からa を調律した時と同じように、e' を調律する。 e' は完全に5度上に調律するのではなく、わずかにフラットにする。二つ の音から、2秒ごとに3回のうなりが聞き取れる程度である。うなりを厳密には かる必要はなく、e' が完全5度よりもわずかにフラットであればよい。

e' を調律すると、自動的にe♭'も調律される。今度は、この e♭'から調律していく。理由は、この音は完全5度と4度で調律さ れる一連の音のひとつだからである。b♭ をe♭'から完全4 度下に、またfをb♭ から完全4度下に調律する。これらb♭ とf の音は、e♭'から始まるフラット方向の「5度のサークル」の一部 である。次に、シャープ方向の「5度のサークル」に含まれる二つの音を調律 する。それはe♭'から完全5度下になるg# と、g# から完全4度 上になるc#' である。(5度のサークルとは、一連の4度と5度の関係にあ る音からオクターブにまとめられた12の音であり、調律の過程で利用される。)  a からフラット方向に調律していく音は次の通り: d' , g, c' , f, b♭, e♭, g#, c#', f#, b, e', a。 製作 中の楽器はフレットされているので、5度のサークルの一部だけ調律すればよ い。残された調律困難な音は自動的に調律される。フレットを正しく調整して いれば、調律したc#' の音が自動的にf# から完全5度になるはずである。 f# は f を調律した時、自動的に調律されている。

この時点で、オクターブ中、まだ調律していないのはd' だけである。手 前側の弦を a に対して完全4度上に調律し、g に対してどのように響くか試 してみる。取り立てて良く鳴るわけではないが、d' をシャープ方向に修 正したらよく鳴るはずである。ほんのわずかにシャープ方向に修正し、もう一 度 a と一緒に鳴らしてみる。a とd' の間隔は完全だったので、今度は 前よりも響きが悪くなっているはずである。d' をg-d' とa-d' の両方の響きが同様によく、また同様に悪くなるように調律する。これで1オ クターブの調律が終わり、あとは f を基にf' 、g を基にg' 、b を 基にb' 、c を基にc' という具合に高音の方向へ1オクターブ上にコ ピーしていく。フレットしてあるので、シャープの音は自動的に調律される。 それが済んだら、今度はe' を基にe、d' を基にd、c#' を基に c#、c' を基にc という具合に低音側へコピーしていく。この時は、シャー プの音も同様にコピーしていかなければならない。低音の方はフレットされて いないからである。(もしフレットしたとすると、間隔が開きすぎてしまう。)

オクターブがほとんど完璧に完全5度と4度に調律できたのは、半音のフレット が不均等に設定されているからである。c-c# の間隔はg-g# の間隔と同じ ではない。この工夫のお陰で、c#-g# を完全5度に調律すると、c-g の間 隔はただしく修正された5度になる。同様のことがc とf の間にもいえる。 c#-f# が完全に調律されると自動的にc-f が修正されるのである。

初めて調律する時は、あまり細かいところまで注意を払う必要はない。なぜな ら新しい弦はすぐにピッチが変わってしまうからである。最初の週に調律を繰 り返した後で、やっと弦が伸びてかなり安定する。一月後には完全に伸びてピッ チも非常によく安定する。音もより明るくなる。金属の結晶構造がある程度変 化するせいである。

ここで説明した方法はa' =440Hz のピッチに調律する場合である。もし半 音下げて調律したかったら、まずb♭'を440Hz に合わせ、 b♭'を基にb♭ を合わせる。そうしたらf をb♭ か ら完全4度下に合わる。次に、e♭'をb♭ から完全4度上に、 それからg# をb♭'から完全5度下に合わせ、c#' をg# か ら完全4度上に合わせる。f# は自動的にc#' から完全5度下になってい るはずである。この段階で、a とd' の音が残っているので、e' と a の間、それからa とd' の間、d' とg の間が同じように良く、また同 じように悪く響くように試行錯誤しながら調律する。最後に高音側と低音側へ オクターブをコピーする。



Tsutomu Fujinami
Wed Dec 8 11:06:30 JST 1999