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演奏技術

最後にクラヴィコードの演奏技術について述べておきたい。非常に重要なこと なので最後の章とし、いつでも容易に参照できるようにした。

もしピアノしか弾いたことがない人に、予備知識なしにクラヴィコードを弾か せたら、丈夫な楽器なので損傷する心配はないが、多くの場合、ひどい音しか 出せないはずである。クラヴィコードの鍵盤は(重すぎてはいけないけれども) しっかりと押さえなければならない。そうしないと、弦に触れるやいなやはじ き返されてしまうからである。ひどい音しか出せないと、クラヴィコードに対 して偏見を持たれるので、誤った印象を持たせたままにしてはいけない。悪い 印象を受けたまま、その後一生、クラヴィコードを避けてしまうかもしれない からである。一時間ほど注意深く練習すれば、大抵の場合、ピアノしか弾いた ことがない人でもかなりの程度、音質が改善され、一週間練習を続けた後には、 耳障りな音がほとんど出なくなるはずである。その頃までには、演奏者もクラ ヴィコードの特別な音質を賞賛し始めていることだろう。

鍵盤は手前の方を押した方が、容易にしっかりしたタッチになるので、時には 指遣いを変えてでも、黒鍵を手前の方で押さえなければならないことがあるだ ろう。もっと後ろの方で押さえた方が、演奏上は楽かもしれないが。もう一つ のヒントとしては、手の平を鍵盤から離して、指の関節をほぼ垂直に立てて演 奏することである。この形だと、指をほとんど水平に置いた場合よりもずっと 指の動きを制御しやすい。同様のことは鍵盤を離した時に押し返されないその 他の楽器、ピアノやハープシコード、それにオルガンの演奏についてもいえる。 爪も短く切っておくこと。そうしないと爪がカチカチあたってノイズが出る。

最適な圧力は、鍵盤を押したとき、弦が弾いていない状態より2、3mm持ち上が る程度である。この程度ならピッチの変化が聞き取れるほど高くなることもな く、心地よく響くはずである。鍵盤の押し方を変えて、ヴィブラートをかけた り、ピッチを高くしたりしたくなるかもしれない。確かに、それはクラヴィコー ド特有の技法であり、弦との接触を保ちながら鍵盤を押す力を変えたり、上下 に動かすことができる。しかしながら、ヴィブラートは特別な効果を狙うとき だけ使われるべきであり、やりすぎてはいけない。クラヴィコードはハープシ コードやオルガンに比べて、タッチで動的に変化をつけられるという利点があ る。ダイナミックレンジは近代ピアノと同程度である。もちろん、音量はずっ と小さいが。昔のクラヴィコードは鍵盤が軽かったので、ダイナミックレンジ が広かった。この伝統通り、練習を重ねれば、クラヴィコード特有の効果的な ピアニッシモも出せるようになる。近代になって製作されたクラヴィコードの 多くは鍵盤が重く、ダイナミックレンジに関してはひどい結果に終わった。こ の手のクラヴィコードは、ささやく程度の大きさでしか鳴らない。

実際、近年に設計されたかなりの数のクラヴィコードは、昔の設計を調べなかっ たか理解しなかった製作者の手によるものである。注意深く製作され、美しく 装飾されているものもあるが、問題はクラヴィコードで演奏された古楽の姿を 歪め、演奏家にあやまった演奏スタイルを採用させていることである。

以上で Early Music Shop クラヴィコードの製作に関する説明を終えます。あ なたの努力が成功で報われるよう、心から願っております。しかしながら、も しこれが初めての楽器でしたら、どうしたらよいのかわからない問題に突き当 たるかもしれません。どんなことが起きても、絶望せずに相談してください。 喜んで手助けし、必要な助言をします。修正不可能に思える失敗を犯したとし ても、常に代わりの部品を提供できますので、遠慮なくJonathan Askey か Anthony Calvert にご連絡ください。Early Music Shop社の連絡先は、この日 本語マニュアルの表紙にあるとおりです。

また、このクラヴィコードでのJohn Cranmer 氏による演奏テープが入手でき ます。この楽器の能力がよくわかりますので、ご一聴をお推めいたします。 (了)



Tsutomu Fujinami
Wed Dec 8 11:06:30 JST 1999