フォノンって何?


 固体は,1023 個ものイオンが規則正しく積み重なって 出来ています。絶対零度なら,これらのイオンは静止しているのでしょうが, ほんの少しでも温度が上がれば,激しく熱振動し始めます。これを『格子振動』 と呼びます。固体物理学では主に「電子」を取り扱いますが,私達の世界は 熱エネルギーで充満しているため, 『格子振動』を無視するわけには行きません。
 これは,すこしまじめに取り扱ってやらなければいけませんね!


最初は一本のストリングから

 現実の物質では,3次元的にイオンが規則正しく積み重なって 出来ているのですが,こういう問題を扱う時は1次元で考えて,あとは 3方向に拡張すれば良いというやり方を良く使います。一度に3方向なんて, 頭がついていきません。

 一本のストリング(弦)を考えましょう。両端を固定して振動させると, いろいろな振動パターンが出来るはずです。ギターや三味線や十三弦で やってみよう。腹(振幅の一番大きな所)が,1こ,2こ,......の振動が 現れます。(と,教科書に書いてありますが,実際は2こ以上の腹を持つ 振動を作るのは難しいよ。ハーモニックス奏法の練習をしよう。)この時, 振動の種類が1こ,2こ,と数えることが出来るのに注目! まるで, 球(ボール)か何かのように数えることが出来ます。


そして1次元結晶は

 N個のイオンで出来た1次元結晶でも,状況は同じです。いまは, 構成イオンは一種類,格子間隔も一定とします。主な違いは,

です。1次元結晶の『格子振動』は非常に複雑でほとんどランダムです。 しかし振動を成分に分解して行くと,
腹が1個の振動の強さ(振幅)が何パーセント
腹が2個の振動の強さ(振幅)が何パーセント
         :
         :
腹がN個の振動の強さ(振幅)が何パーセント
に分けることが出来ます。詳しくは,『フーリエ変換 とは』参照。それぞれのモードの振幅の強さが分かれば, どんな複雑な振動パターンでも理解できます。温度を上げると格子振動は 大きくなりますが,これは,それぞれの(またばどれかの)モードの振幅が 増大することを意味します。


電子は『波』か?『粒子』か?

 ちょっと横道にそれます。
 電子は『波』か?『粒子』か? 

 もっちろん『粒子』と,答えた人は素直な人です。電荷を持った 小さな球が,原子核の回りを廻っている……,電子のイメージとして 正しいものです。
 ところが,電子線の回折現象を上げるまでもなく,電子の振舞いは シュレーディンガーが提案した波動方程式で書けるというのもまた, 良く知られた事実です。

 実際には,電子は『波』と『粒子』の両方の性質を持っています。 私達は時と場合に応じて,これらの描像を使い分けているのです。 (でも,やっぱり,『粒子』と考えた方が,イメージ湧きやすいよね。


そしてフォノン

 横道から,本題『フォノン』の話に戻りましょう。
 先ほど,格子振動のパターンは,それぞれのモード(波)の振幅の強さが 分かれば,理解できると言いました。が,電子の時がそうだったように, 『波』より『粒子』のほうが分かりやすい!

 そこで,格子振動を『粒子』として考えてしまおう。この『粒子』に 『フォノン』と名前をつけよう。あるモードの振幅の強さは,『フォノン』 の数で表そう。都合の良いことに,モードだって1こ,2こ,と,まるで 粒子のように数えることが出来るじゃないですか。

 これが,『フォノン』です。難しくいえば,格子振動(弾性波)を 「量子化」したものが『フォノン』である。

 一度『フォノン』という粒子を考えれば,

という,利点があります。


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