連載 最先端の科学と人類の歴史を学び 社会の分断を防ぐには

第1話 社会における物凄い格差とその弊害
 まず最初に現実を直視しましょう. 世界中で豊かな国と思われてるアメリカにおける2010年の個人所得の格差を例として挙げます. 左から右に横軸を少ない所得額から多い所得額に, 下から上に縦軸を高額所得の順位としてこのデータを整理すると, (科学的法則に従う対数正規分布と呼ばれる) きれいな曲線となります. 偶然に良いとき悪いときなどのいろいろな過去の掛け算的な積み重ねで曲線部分が生じて, 特に, この曲線から多少外れた極端に高額所得な部分と極端に低額所得な部分の存在にも着目すると(偶然以上の人為的要因が加わり),

「これは明らかに貧富の格差が近年極端に目立ってきたことを意味」 書籍[1-1]137頁引用.

します. 上記のような曲線になるのは何か理由があると考えられます. それは, 富めるものはより豊かになる (これは後述するネットワークにおける繋がりの法則: 優先的選択に他ならない)ことによる結果と言えます. なぜなら,

「超大企業や超高額所得者は周囲から富を吸い上げて成長し, その結果, 一層吸い上げる力をもつようになるのであって, 大多数の中小企業や普通の人々の場合とは異なる.(中略) 逆に, 経済的に苦しくなると打つ手が限られてきて, いっそう苦しくなるのが世の習い」書籍[1-1]123頁引用.

であるから. こうした一部の富豪による富の独占はずっと前から続いていて, 以下のようにより深刻化していることも分かります.

「上位1%の裕福な人々が, 世界の富の45%を所有. それに対し, 1日6.85ドル(約960円)未満で暮らす貧困層は, 世界人口の約44%に当たる約36億人. この数字は1990年から変わっていないといいます.」書籍[1-2]6-7頁引用.

 所得格差から, 地域格差, 教育格差, 健康格差, 情報格差なども生じています. こうした格差から, 富国と貧国の分断, 都市と地域の分断, 居住地や職の分断, 民族の分断, 思想の分断, などが起きていると考えられます. しかも, 主食である穀物(米, 小麦, 大豆, トウモロコシなど) をはじめ食料が商品となって巨大企業が市場を支配しています. 営利目的で企業が, 遺伝子組み換え作物やマイクロプラスチック汚染の魚介類を流通させる未来は, もはや絵空事ではありません.

「自給率が目立って落ち込み始めたのは, 1970年代から. ちょうどこの頃, 台頭してきたのが, 穀物メジャーと呼ばれる欧米の穀物専門商社です.(中略) 穀物メジャーは世界中にネットワークを築いて需要と供給を結び, 利益を上げることを優先.(中略) その影響力は大きく, 穀物の価格さえ実質的に支配. 本来, 農家に還元されるべき利益が, 巨大企業にもたらされるようになりました. 」書籍[1-2]14-15頁引用.

 世界中で食料をはじめ物資も融通し合って貿易することは良いことで, (石油や鉱物資源はもちろん, 肉, 魚, 果物, 野菜など)日本の現状においては必要不可欠と言えますが, 利益優先なのが問題のようです. 一方, 世界人口をまかなえるのに十分な食料はあるようです. ところが特に途上国では, モノカルチャー農業によって自給自足の伝統農業は失われ, 日常的に必要な食料を輸入しないといけないのに貧しくて買えません. 人が制御不能な自然を相手にする農業(漁業なども) を, 効率重視の工業生産と全く同じに扱うこと にも無理があります. また選択と集中は, 大災害において限られた時間や人手等で人命救助する場合など 非常時の論理で, 日常に行うのは(代替候補の多様性を失って)危険であること も教訓とすべきですね.

「モノカルチャーとは, 一種類の作物だけを集中的につくる単一栽培のこと. その歴史は, ヨーロッパ列強がアフリカやアジアに植民地を築き, プランテーションと呼ばれる大農園で, ヨーロッパで珍重される作物を大量生産したのが始まりです.(中略) 特定の作物に依存するモノカルチャーの欠点は, 天候不順などで不作になると, 大きな打撃を受けること. 商品の国際価格の変動も, 国の経済を左右します.」書籍[1-2]38−39頁引用.

 また, イスラエルとパレスチナなどで水源(川など)をめぐる争いも世界中で絶えません. どうも, 極一部による独占と, それに強く依存させられている状況が根本的な問題 のようですね. 人類の歴史の中で四大文明の発祥地はもとより, その後の中国の唐や宋, インドの王朝など東洋のほうが西洋より経済的にも文化的にも豊かだったと考えられます. では, いつ頃から逆転した富の独占が起こったのでしょうか?

「中世ヨーロッパから見ると, 東方はきらびやかで裕福な世界でした. 東方の豊かさの象徴となったのが, 肉食が普及したヨーロッパで珍重された香辛料です. イスラム商人によって, 東方からもたらされた香辛料は, 高値で取引されていました.(中略) しかし, ヨーロッパの野望は, 貴重な品を手に入れるだけにとどまりませんでした. キリスト教を絶対視するヨーロッパ人は, 異教を信じる先住民を野蛮で劣った民とみなし, 武力で支配しようとしたのです.(中略) ヨーロッパ列強は, 略奪と殺戮によって富の独占を図り, 最盛期には世界の大半を植民地化するまでになっていました. 」書籍[1-2]62-63頁引用.

 植民地化は無くなりましたが, その爪痕として諸々の深刻な事態が未だに存在しています. 例えば, アフリカなどで子供たちも巻き込む戦乱が今も続いています.

「国連の報告書によると, 2024年に紛争で重大な被害を受けた子供は2万2,495人. この数字には死傷者だけでなく, 誘拐された子供4,573人, 徴兵・徴用された子供7,402人も含まれています.(中略) 19〜20世紀前半, ヨーロッパ7カ国は, アフリカほぼ全土を一方的に分割支配. 第二次大戦後, 各国は独立を果たしましたが, 列強が勝手に引いた国境線は, 民族や部族の分布を無視したものでした. そのため1つの国に複数の民族が組み込まれ, 宗教対立や資源争いなどから民族紛争が起こりやすくなったのです. 」書籍[1-2]70-71頁引用.

 数世紀に渡った略奪と支配によって問題は山積していますが, どうやらその根源は 限りない欲望の追求とそれを正当化した思想や社会の仕組み にあるようで, 経済活動としては資本主義に反省点があると考えられます. 第2話では, 資本主義に潜む欲望:成長追求について, その歴史的経緯や気候激変などへの影響を含めて考えてみます.

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[1-1] 松下 貢(著)
『統計分布を知れば世界が分かる -身長・体重から格差問題まで-』
中央公論新社 (2019/10/25), ISBN-13: ‎978-4121025647
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[1-2] インフォビジュアル研究所 (著)
『図解でわかる 14歳から知る世界の格差と資源危機』』
太田出版 (2025/11/27), ISBN-13: ‎978-4778340957

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