連載 最先端の科学と人類の歴史を学び 社会の分断を防ぐには

第2話 自己利益を追求する仕組み
 第1話では, かつてのヨーロッパ列強による略奪が自国を豊かにした一方で, 植民地化を通じて諸国を支配して富を独占する構図が出きたこと, さらにこの構図は多少形を変えた所得格差として現在も続くのみならず, 食料や(石油や水源, 希少鉱物など)資源の独占にも及んでいることを概説しました. これらの元凶として考えられるのは, 強欲に経済成長(自分らだけの利益)を追求することで, その為に都合が良いように社会の仕組みを変えて強いること にあるようです. この構図をもう少し理解するために, そうした資本主義の歴史的な形成過程を知る必要があると思います.

「15世紀になると, ヨーロッパの国々は, 新たな領土を探して海を越えるようになりました. 大航海時代の幕開けです. 航海に必要な膨大な費用を補助したのは, やはり裕福な商人でした. 航海は危険を伴うので, 失敗するリスクもありましたが, 船が未開の知に到達し, 珍しい品々をもち帰ると, 資金を出した商人たちは, 分け前をもらって大儲けしました. そして, 増えたお金で, 次の航海にまた出資します. これが「資本主義」の原型ですが, 彼らの富は, 侵略され, 植民地になった地から奪ったものであり, 他者の犠牲のうえに成り立つものでした.」書籍[2-1]26-27頁引用.

「17世紀のイギリスで生まれた仕組みが, 家族のあり方や信仰, 道徳, 生産などのシステムを, 市場とお金によって統治される新しい世界に適した形へと切り替えた. その結果として多くの変化が生じたが, なかでも特筆すべきは, 労働力を売って生活必需品を買うという層が生まれたことだ. それまで数千年間, ほとんどの人間は自分の家族と自分のコミュニティを持続させていくために社会を形づくっていたが, そうした生き方に決別を強いられたのである. 共有地の囲い込みが行われたことで, 伝統的な生活様式を維持していく力が奪われて, ジェンダーや人種による差別と結びついた工場制手工業が生まれた.(中略) 片方があまりにも多くを奪われ, もう片方があまりにも多くを奪うという不等価な交換が, 利益の成長に必要だとして肯定されてきたのである. 」書籍[2-2]43-44頁引用.

 近世の18世紀半ば, 植民地支配で莫大な富を手に入れたイギリスで産業革命が起こりました.

「お金を出して工場や機械などを所有した産業資本家が, 労働者を雇い, 物を生産して利益を上げる. これが, 資本主義という経済システムの始まりでした.(中略) 資本家は, 労働力という商品を買い, 賃金を超える価値を生み出すまで働かせ, この「剰余価値」を「搾取する(しぼりとる)」ことで儲けている. これでは資本家しか豊かになれない.」書籍[2-1]30-31頁引用.

 こうした批判(マルクスの『資本論』など)から, 1917年のロシア革命で社会主義国家が誕生しました. ところが,

「社会主義は, 資本主義の弊害である搾取を禁じ, あらゆるのもを共同で管理し, 国民みんなが平等に分配を得ることを目指しました. しかし, 政治指導者は独裁や汚職に走り, 労働者は計画経済の過剰なノルマを課せられ, 労働意欲も生産性も低下, 現実は理想とはかけ離れ, 社会主義国ソ連は1991年に崩壊してしまいます. 一方, 帝国化したヨーロッパ列強は, 第一次世界大戦を起こして国力を失い, 資本主義の舞台は, 新興国アメリカに移ります. 資本主義の形も変わっていきました.(中略) 1980年代以降, 再び経済の自由が求められるようになり, 「新自由主義」が誕生. このアメリカ型の経済システムが, ソ連崩壊後, 瞬く間に世界に拡大します. 競争を勝ち抜いた巨大企業や巨大金融資本が, 世界の隅々まで入り込み, 経済のグローバル化が進んでいきました.」書籍[2-1]32-33頁引用.

 アメリカにおけるこの「自由」とは, 強い者, 富める者が, 自分の利益のために自由に行動できるという思想に基づき, 宗教的なプロテスタントとして(神に選ばれ有能ゆえ) 裕福な者は救われるという考え方のようです. この新自由主義によって,

「途上国支援といいながら, 徹底した市場の規制撤廃, 官営事業の民営化, 外国資本への規制撤廃などの政策が, 個々の経済や文化の違いを無視して実施されます. それはまるで, 巨大なブルドーザーが, 環境を破壊しながら地ならしし, そのあとにアメリカの多国籍企業がパラシュートで次々降りてくるかのようでした. 文字通り, 「強者の自由」が行使されたのです. これが「グローバル経済」の姿でした. 日本もこのグローバル経済の波に飲み込まれました. 経済再建, 構造改革の名のもとに同じブルドーザが走り回ったのです. 」書籍[2-1]66-67頁引用.

 産業革命を経て経済発展したおかげで, 今では中世以前の世の中では不可能だった, 美味しいものが食べられたり, 自動車や電化製品などで生活が便利になったのも事実ですが, 際限なく成長を追求する(特に1980年代以降の新自由主義に基づく)資本主義は, 個人の能力・資質や自己責任で生じるとした貧富の格差を拡大させるだけでなく, (経営者や投資家が得る利益を上げる為に必要以上の)大量生産と大量消費, 限りない効率化と長時間労働, そして結果的に気候激変も招いています. 日本国内においても30年ほど前から, リストラや非正規雇用が増えて, 職の不安が社会問題となっていることも挙げられます. しかも, 新自由主義によって経済が良くなる科学的根拠は無く, 米国の一部の経済学者の私見が政治的に利用されたのです. 過去に幾度も, 大量消費市場原理至上主義への批判として警告されています. 要するに, 新自由主義に基づく資本主義は, 現状維持では満足できず, 利己的な「地位財」を私有財産として強欲なまで経済成長を追求し続けるため, 生産性を上げるよう競争させ, もっと多く, 容易に搾取・略奪する仕組み だと言えます. 無限に富が存在しない限り配分は避けられず, 極少数しか富豪に成り得ない訳ですが, そうした富豪になることは望まず, 普通の平穏な幸せで十分な多くの私たちにとって, 経済成長は本当に必要なのでしょうか? 

「現在の経済は, 成長を求めるばかりに, 環境や社会に経済的損失をもたらしており, その結果, 費用に対して便益が少ない「不経済成長」に陥っている, と(アメリカの生態経済学者)デイリーは言います.(中略) GDPが増加しても, 人間の幸福(生活満足度)は増進しない. 」書籍[2-1]76-77頁引用.

 こうした問題を解決するビジョンとして脱成長という考え方が注目されています. 脱成長とは, 安定した雇用は確保するとしても, (投資家などに独占される)利益を各自が追求して富の私的所有を目指すのではなく,

「生活のなかで食べ物を分かち合い, 住む場所を確保し, 地域社会に参加し, 向き合って対話する」書籍[2-2]72頁引用.

ことを意味します. なぜなら,

「賃金労働や, 市場での値段のつく財は, 決してそれだけで存在しているわけでなく, 昔から, 賃金や値段を伴わないケアワークや社会的再生産労働とともにあり, 支えられてきた.」書籍[2-2]73-74頁引用

からです. これら介護医療や社会福祉などにも関わる「社会制度資本」は, 本来は私有物ではなく共有物(コモンズ)であるべき 「社会インフラ資本」や「自然環境資本」と同様に, 通常の経済取引によるお金に換算できるものではなく,

「人々が, 豊かな経済生活を営み, すぐれた文化を展開し, 人間的に魅力のある社会を持続的, 安定的に維持することを可能にする 」書籍[2-1]51頁引用

のに必要不可欠なものと考えられます. ところが上記の資本すら, 金儲けの手段となっています. ところで, 脱成長は技術の進歩を否定するものではなく, むしろ積極的に活用して(過度に利益を追求せず文化的な生活が出来るよう) 人々を幸せに導くことを目指します. これこそ本当の民主主義を手に入れることではないでしょうか. しかしながら, 大国の思想に基づき, 何十年も前から構築されてきた途方もなく大きな社会の仕組みに対して, 個人で立ち向かうにはあまりに無力で,

「私有財産を守り競争を重視する制度が張りめぐらされ, それがあたりまえとなってる環境で, みんなで共有・協働する仕組みをつくり維持していこうとすれば, 苦戦するのは避けられないし, これでいいのかどうか疑問が生じてくることもある. だからこそ, 協働するネットワーク間で相互に支え合うことが必要なのだ. また, より好ましい条件が整うよう, 政策, 制度, 資源の構造を見直していかなくてはならない.」 書籍[2-2]74頁引用.

と言えます. 気候激変を少しでも抑えるためにも, 技術進歩した分の効率化や改善すら自己利益に回すよう強いる 成長追求ゆえに必須となる大量生産と大量破棄(ゴミ排出)を止めて, 人々が協力と共有を元にした節度ある暮らしに改める. それには助け合い連携するネットワークが重要となり, 逆に人々を分断させて無力化させられないよう抵抗していかなくてはなりません. また, そうした行動のみならず, 過度な競争や序列化を当たり前と考えないなど, 以下のような根本的な価値観をも見直す必要性があります. 但し, 切磋琢磨してより良い物事を目指すのは, 勝敗や損得に拘る競争とは違うことには注意しましょう.

「尊厳ある働き方, 利己的な競争の減少, 人や環境の公正な関係, 個人の優劣でランクづけされないアイデンティティ, 結束力のあるコミュニティ, 人間らしい生活のリズム, 自然への敬意は, 脱成長が目指す目標であると同時に手段でもある.」 書籍[2-2]152-153頁引用.

 以上, 近世や産業革命あたりから強欲な世の中になり, 特におかしくなってきたのは1980年代以降の新自由主義によることを概説しました. 第3話では, 人類において助け合いの社会はむしろ長い歴史の中では当たり前だったことを説明します.

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[2-1] インフォビジュアル研究所 (著)
『図解でわかる 14歳から考える資本主義』
太田出版 (2020/11/4), ISBN-13: ‎978-4778317232
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[2-2] G. Kallis(他著), 上原裕美子/保科京子 (翻訳)
『なぜ、脱成長なのか ―分断・格差・気候変動を乗り越える-』
NHK出版 (2021/4/28), ISBN-13: ‎978-4140818558

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