連載 最先端の科学と人類の歴史を学び 社会の分断を防ぐには

第9話 科学が導く脱集中化の必要性
 これまで論じてきた, 現代社会において分断を招く格差(第1話)と, その元凶となる独占支配を強いる強欲な資本主義の問題点(第2話), 一方で長い歴史の中で助け合いが受け継がれ(第3話第5話) 欧州などでは実績もある協同組合企業の今後の可能性 (第6話第7話), 企業組織の価値観をも見直す必要性(第8話)に関して, 信頼できる人々の繋がり, 及び, 公共所有する電力・通信・物流の社会インフラなど, そうしたネットワークの構築と運用の自律的な実現が鍵 であることが段々分かってきたと思います. そこで, カオスやフラクタルなどで知られる複雑系(システム)の科学から派生して, 21世紀初頭頃に誕生したネットワーク科学 (複雑ネットワークとも呼ばれる)についてまず概説します. 最先端の科学的知見が, これら現代社会における問題の根本的な理解を促し, その解決策を導くのに役立ちます.

「本書はごく簡単な目的をもっている. それは読者にネットワークについて考えてもらうことだ. 本書には, ネットワークはいかにして姿を現すのか, どんな姿をしているのか, どのように進化するのかが書いてある. またネットワークの視点から見たとき, 自然, 社会, ビジネスがどんなふうにみえるのかが示されている. ネットワークは, ウェブ上の民主主義からインターネットの脆弱さ, そして恐るべきウィルスの広がりまで, さまざまな問題を理解するための新しい枠組みなのである.(中略) 全面的に人間が作ったものとみなされることの多いインターネットが, 実はむしろ生物や生態系に似ていて, あらゆるネットワークを支配する基本法則に従っていることもわかるだろう.(中略) ひとつのネットワークに関する理解を次のネットワークに応用していくなかで, 経済, 細胞, インターネットなどの多彩な系の類似性に目を見張ることだろう. それはいくつもの学問領域をまたにかけた覚醒の旅になるはずだ. 」書籍[9-1]16-17頁引用.

「二十一世紀に入った今, 基礎的かつ普遍的でありながら, 実生活にも深く関わる概念が浮かび上がってきたのである. それがネットワークだ.(中略) ネットワークの基礎知識は, 流動的な社会に対応したり, 破壊的な危機を回避したり, 明日の社会を考えたりするために必須の装置といえるだろう. 」書籍[9-1]326頁引用.

 20世紀末, 私たちの 身近に存在する多くのネットワーク がどんな姿をしているのか, すなわち, どのように繋がっているのかについて大規模なデータ分析がなされ, 知人関係, 企業間取引, 論文引用関係などの社会的ネットワーク, 電力網, 通信網, 航空網などの技術的ネットワーク, 遺伝子やエネルギー代謝の反応系及び食物連鎖などの生物的ネットワークにおいて, 以下のような繋がり方の共通構造が明らかになりました. もちろん, 社会的, 技術的, 生物的ネットワークはそれぞれ違う構成要素や目的を持ち, 人や企業をノードとして友人関係や取引関係をリンクに趣味や経済活動を行ったり, 発電所・変電所や通信拠点をノードとして送電線や通信回線をリンクに電力や情報を送ったり, タンパク質や生物種をノードとして生化学反応や捕食関係をリンクに癌の発病や生態系維持に関与したり, 異なるのですが繋がり方に着目すると共通性があります. それは, ノードに繋がったリンクの数に関して 非常に不平等で, (第1話冒頭で触れた富の偏在のように) 極少数のハブにリンクが集中する構造になっています. 但し, ネットワーク内の2つのノードをどう選んでも, それらを(仲介ノードを連結したリンクで)結ぶ最短経路は短く, 効率的でもあります. すなわち, 直接繋がっていなくても, 少ない仲介で互いに素早くやり取りできるネットワーク構造になってます.

「ウェブ上では, 少数のハブがリンクの大半を呼び込んでいる. この発見が引き金となって, さまざまな分野で勢力的な調査が行われ, 驚くべき結果がもたらされた. 今日では, ハリウッドもウェブもわれわれの社会も, いかなる意味においても特別ではないことがわかっている. たとえば, 化学反応で結ばれた分子のネットワークでも, 細胞内にはハブがある. 水やアデノシン三燐酸(ATP)のように少数の分子が, 細胞内のロッド・スタイガーとして膨大な反応に関与しているのだ. インターネット, すなわち世界のコンピュータをつないでいる物理的な配線のネットワークでは, 少数のハブがインターネットを故障から守るうえで重要な役割を果たしている. (中略)これまで科学者が調べてきた大きくて複雑なネットワークは, たいていハブをもっている. ハブは複雑に入り組んだこの世界の構成要素として, ごく当たり前に存在しているのだ.」書籍[9-1]93頁引用.

「「小さな世界」は, ネットワーク一般にそなわる性質である. 隔たりの小ささは, われわれの社会固有の誰でもなければ, ウェブ独特の奇妙な性質でもない. 身の回りのネットワークはたいていもっている性質なのだ. そしてこの性質はネットワーク構造に根ざしている. つまり, ほんの少数のリンクをたどるだけで, 膨大な数のウェブページや友人にたどりつけるような構造があるということだ. 」書籍[9-1]62頁引用.

 しかも, その共通構造は, ノードに繋がるリンク数の頻度分布 (ノードに繋がるリンク数は次数, その頻度分布は次数分布と呼ばれる)で見ると, べき法則に従う規則的なものであることも分かりました. 実は, べき法則は, 非常に大きな数値でも稀には起こることを表し, 大地震の発生頻度, 株価の変動, 地球に衝突する隕石の直径, ベストセラー書籍の発行部数, 電話の通話回数, 海岸線や川の長さの頻度分布など, 20世紀のフラクタル物理学では馴染みのあるもので, スケールフリー ネットワークという命名とも関連します.

「科学者たちはここ数十年ばかりのあいだに, 自然界には釣り鐘型ではなく, べき法則に従う分布があることを学んだ. べき法則に従う分布は, 身長分布などに見られる釣り鐘型の分布とは大きく異なっている.(中略) ハリウッドの俳優のネットワークを調べていたわれわれは, それが簡単な数学的関係に支配されていることに気がついた. k個のリンクをもつ俳優の数は, べき法則に従って減少していたのである. その後, エルデシュの共著関係ネットワークもやはりこの法則に従うことがわかった. 細胞内のウェブについても, k個の分子と相互作用する分子の数はべき法則に従って減少することが明らかになった. (中略)このような不均質さは, 度数分布がべき法則に従うネットワークの特徴である. 現実のネットワークのほとんどは, わずかなリンクしかもたない大多数のノードと, 膨大なリンクを持つ一握りのハブが共存しているという特徴をもっている. これを数式で表したのがべき法則なのだ. 」書籍[9-1]98-102頁引用.

 規則的なべき法則に従うのは, 科学的な根拠があるからに違いありません. 実際, 万有引力の原理のように, 「優先的選択」という繋がりの原理によってネットワークが形作られることが, 数理解析的に明らかになっています. この原理にしたがって, 効率を重視してハブへのリンク追加 が意識的あるいは無意識的に行われます (ハブを経由すれば経路は短くなって効率的なので). 例えば, 国内航空路線では, 航空各社は羽田空港への乗り入れ便を増やしたいと思います. なぜなら, 羽田便なら乗客は旅行で乗換回数を少なくできて, 多くの利用者が見込めるので航空会社は儲かる訳です. また, おそらく誰かに命令されて繋がっているのではなく, 目先の利益や何となく効率を重視して(リンク数に比例して)繋がるノードを選ぶのであって, ネットワークを自己組織化 してると言えそうです. 第1話冒頭で述べた富の偏在と基本的に同じ原理と言えます. もう少し細かく言うと(人を取引先会社などにも置き換えて), 「偶然できた知人の友達を紹介してもらい自分は友達関係となる」 真似っ子のような, リンク複写 によっても「優先的選択」が実質的に行われます.

「重要なのは, われわれがリンクしたがるウェブページは平凡なノードではないことだ. それはハブなのである. 有名であればあるほど, より多くのリンクを獲得する. より多くのリンクを獲得すれば, ウェブ上でそのサイトを見つけることはますます容易になり, そのサイトはさらに有名になり, やがてはわれわれは無意識のうちに, 知っているノードにリンクするようになる. 知っているノードとは, ウェブ上で多数のリンクを獲得しているノードにほかならない. 要するに, われわれはハブを選び取っているのである.(中略) ハリウッドも優先的選択に支配されている. 映画で収益をあげることを仕事にしているプロデューサーは, スターを使えば映画が売れることを知っている.(中略) われわれはこの法則に操られるようにして, すでに多くのリンクを獲得しているノードに高い確率でリンクするのである. (中略)こうして優先的選択は, 「金持ちはもっと金持ちに」 という現象を引き起こす. すでに多くのリンクを獲得しているノードが, 新入りを犠牲にして不当なほど多くのリンクを獲得するのだ. この「金持ちはもっと金持ちに」という現象から, 現実のネットワークに見られるべき法則が自然に導かれる. 」書籍[9-1]124-129頁引用.

「帯域幅の広いルーターほどリンクも多くなるだろう. そのため, ネットワーク・エンジニアがリンク先を選ぶ際には, リンクの多いアクセスポイントに引き寄せられるのは当然である. この単純な事実から, 優先的選択が生じている可能性がある. 優先的選択を生み出す要因がこれだけかどうかはわからないが, インターネットに優先的選択が存在することには疑いの余地がない. 」書籍[9-1]219頁引用.

 ところが以下のように, 残念ながら現実の多くのネットワークは, ほんの少数のハブでも標的として攻撃されると, ネットワーク全体の連結性が保てなくなり, すぐバラバラになってしまい極端に脆弱なのです. バラバラになったら, 情報や物資を伝達・輸送するネットワークの本質的機能が失われてシステム崩壊します. この脆弱性は, 電力, 通信, 物流などの技術インフラのみならず, 人間関係や企業間を繋ぐ社会経済システム, さらには生態系にも存在します. こうして極端に集中することの根本的問題が, 科学的に明らかになったと言えます. すなわち, (不平等にリンクを集中独占する) ハブの存在こそ脆く分断を招く元凶なのです. 経済システムでは, もちろんハブは大富豪です.

「インターネットで最大級のハブを狙い撃ちにするクラッカーをまねて, われわれは新たな実験に取りかかった.(中略) まず最大のハブを除去し, 次に二番目に大きいハブを除去し...ということを順に続けていく. この攻撃の影響は実にはっきりしていた. 最初のハブを除去してもシステムは崩壊しない. なぜなら, 残りのハブがネットワークをひとまとまりにしているからだ. しかし数個のハブを除去したところで, 明らかな影響が出た. 大きなノード集団が, メイン・クラスターとのつながりを断ち切られてネットワークから離脱したのである. さらにハブを除去し続けたところ, ある時点でネットワークは華々しく崩壊した. (中略)狙いを定めた攻撃に対する脆弱さは, スケールフリー・ネットワークが本来抱えている性質なのだ. 実際, われわれのグループが酵母細胞タンパク質相互作用ネットワークについて調べたところ, リンク数の多いタンパク質をいくつか除去すると, やはり華々しい崩壊がおこることがわかった. 生態学者も, 食物連鎖のネットワークからリンク数の多いノードを除去すると, 同様の崩壊が起こるのを目にしている. 」書籍[9-1]168-169頁引用.

 極一部の巨大企業が, 富や資源など社会のあらゆるもの支配している現代社会の危険性を, 以下は表しているように思われます.

「近年, 物理学や数学におけるネットワーク・ルネサンスに刺激されて, 企業構造から市場まであらゆる領域でネットワークの威力が明らかになってきた. たとえば, 一握りの実力者からなる希薄なネットワークが, 「フォーチューン1000」 (経済誌フォーチューンが選んだ米の大企業上位1000社) の重要な人事のかなりの部分を支配していることがわかった. またバイオテクノロジー産業では, 企業が成功できるか否かは協力関係のネットワークで決まり, 急変する市場に対応できるかどうかは企業内のネットワーク構造で決まっている. マーケティングの成否も, 消費者層のネットワークとしての性質を活用できるかどうかにかかっている. 」書籍[9-1]286頁引用.

 一方, 少数のハブを持つスケールフリー構造とは別に, 現実の多くのネットワークには, ノードが互いに密に結合した幾つかのクラスター構造 (モジュール構造またはコミュニティ構造とも呼ばれる) が存在することがあります. 例えば残念ながら, インターネットでは超巨大ハブ化とともにモジュール化がますます進んでいます. 以下のゆるく繋がる 弱い紐帯 による情報入手の利点とは別に, 強く繋がる密な団結によるモジュール構造に潜む「自分たちだけ良ければ」 という問題点については, 第11話で議論します.

「グラノヴェッターは「弱い紐帯の強さ」の中で, 一見すると非常識なことを主張している. 職を見つけたり, 情報を得たり, レストランを開業したり, 流行を生み出したりすることに関するかぎり, 強い友人関係よりも, 弱い社会的絆のほうが重要だというのである.(中略) 社会は高度に相互連結されたクラスター構造, つまり結びつきの緊密な友人関係をもつように構造化されており, その中では誰もが互いに知り合いである. これらのクラスターは, 数本の外部リンクによって別のクラスターに結びつけられ, 外の世界から孤立しないようになっている.(中略) 弱い絆, すなわち知人関係は, 外の世界との架け橋である. なぜなら, 単なる知人はわれわれと住む世界が違うため, 親しい友人たちとは異なる情報源をもつからだ. 」書籍[9-1]64-66頁引用.

 ところで, ネットワーク科学とは独立に, システム工学や環境生態学の分野で「レジリエンス」 という考え方が十数年前頃から注目されています. 大災害や悪意のある攻撃からシステムをいかに復活させるか, とりわけネットワークの機能的目的は情報や物資の伝達・輸送であり, その伝達・輸送に必要不可欠な連結性を保つことが健全 であるとする, 竹のようにしなやかな回復力をレジリエンスは意味します.

「経済学, 生態学, 政治学, デジタルネットワーキングといった互いに関係なさそうな分野において, 世界じゅうの科学者や政治家, 技術者, 企業のリーダー, 活動家が共通する根本的な問を発している. 破綻するシステムと回復するシステムが存在するのはなぜか, システムはどの程度の変化を吸収し, 完全性と目的を維持できるのか. どのような特徴がシステムを変化に適応させるのか, 混乱が絶えない時代にあって, 自分自身のために, さらにはコミュニティや企業, 経済, 社会, そして地球のために, どうすればよりよい緩衝装置を構築できるのか.(中略) どのようなシステムであれ干渉策が示唆するのは, 突きつめればまさにレジリエンスの戦略だ.(中略) 本書では全体を通して, システムと人の双方のレジリエンスを検証してゆきたい. そこで, 生態学と社会学の分野から表現を借用し, レジリエンスを 「システム, 企業, 個人が極度の状況変化に直面したとき, 基本的な目的と健全性を維持する能力」と定義する. 」書籍[9-2]8-10頁引用.

 レジリエンスを強化するには, フィードバックによる機能の維持は一つの方法です. (例えば, ネットワークが大災害や悪意のあるハブ攻撃などの) 大きな擾乱に耐えるには, システムの脱集中化すなわち自律分散化が有効な手段となります.

「レジリエンスを強化する他の方法としては, システムの根底にある物質への要求を「脱集中化」もしくは「分離」すること, つまり特定の仕事を完成するための資源を多様化することが挙げられる. 」書籍[9-2]15頁引用.

 また, 社会インフラのレジリエンスを構成する 4つの要素として 「耐性」「信頼性」「冗長性」「対応と回復」が挙げられていますが, 概念的な議論に留まって具体的な設計指針を与えるものではない一方, (少なくとも広義の)レジリエンスは以下のように必ずしも元に戻すことを意味せず, 可能であればより良いものに改善する ことを目指します. 「耐性」「信頼性」「対応と回復」が重要なのは明らかだと思いますが, 冗長性について補足すると, (コスト削減など)効率偏重で全く余裕がないより, 多少の無駄を許容して重複冗長なシステムにした方が部分的でも代替できて良いことを差しています. 但し, バックアップ切替 とは異なります. 具体的にネットワークはどうなると最適耐性を持ち, どのようにより良くするかについては, 第11話で議論します. 少なくとも明らかなのは, 災害や攻撃を受けた後に現行通りのネットワークに元に戻すのは, スケールフリー構造の脆弱さを引き継ぐことになり好ましくありません.

「おそらくもっとも直感に反することだと思うが, レジリエンスは必ずしも元の状態への「回復」を意味するわけではない. 」書籍[9-2]19頁引用.

 多少繰り返しになりますが, 開発当初の1970年頃には想定されてなかったものの, インターネットの弱点はハブです. 一方, インターネットは不慮のノード故障には頑健で, ルーティングと呼ばれる仕組みで自律的に迂回路を見つける優れた分散システムでもあります.

「頑強だが脆弱な力学が作用する典型的な世界がインターネットだ. 1960年代にアメリカ合衆国国防省の予算のもとで開発がスタートした当初から, インターネットはある一つの課題の解決を目的としていた. つまり, 破滅的な状況を耐え抜く通信ネットワークの確立だ.(中略) そこで, インターネットを開発することになる技術者たちは, 外部からの攻撃によって不可避的に発生する設備の故障を感知し, 自動的に通信を迂回させるシステムの開発に乗り出した.(中略) しかし, 現在のインターネットは, 開発当初には想定されていなかった攻撃に対しては極度に脆弱である. つまり, 通信経路を断絶させる攻撃はかわすことができるが, ネットワークのオープンな構造につけ込み, 不要な情報を大量に流すという行為には対処しきれないのだ.(中略) 膨大なデータがシステムに課題な負荷をかけると, 個々のコンピュータ, ハブ機構, さらにはネットワーク全体が停止しかねない.」書籍[9-2]37-39頁引用.

 経済ネットワークにおいても, ハブが弱点となります. 富のみならず, リンクの集中独占も避けなければなりません.

「金融市場はインターネットのように密に接続されたネットワーク構造であるため, 世界じゅうの無数の金融機関のうちどれか一つが機能不全に陥っても, システミックな問題に発展する確率はきわめて低いと言える. 圧倒的多数の金融機関は, ごく少数のハブに接続された無数のスポークの一つにすぎないからだ. しかし, ハブの役割を担う金融機関の一つが破綻すれば (発生の確率はきわめて低いが非常に危険である), 直接的に接続している数千の金融機関のみならず, ほかのハブ機構も影響を被り, それに接続している数千の金融機関が窮地に追い込まれる. 」書籍[9-2]55頁引用.

 以下の指摘はとりわけ重要と考えられます. なぜなら, 現実のスケールフリーネットワークは, (人々や企業など)誰もが同質 に, 効率偏重の優先的選択で繋がるために, 過度に集中 したハブが出来て極端に脆弱になっているから. したがって, レジリエンスの観点からも優先的選択は望ましくない と言えます. また, 大規模で絡まったネットワークの形状が見かけ上は複雑だとしても, その動作原理が自己組織的など比較的単純であることが要求されます.

「システムの脆弱さを増幅するのは複雑さ, 集中度, 同質性であり, レジリエンスを高めるのは適正な単純さ, 局所性, 多様性である. 」書籍[9-2]76頁引用.

自己組織化組織の例として, 米国など中央集権型の軍隊が, アルカイダのテロ組織になかなか勝てない理由として, 分権型の利点 が以下考えられます.

「ゆるやかに結びつくネットワークのなかで構成要素が自律し, 独自性を発揮するダイナミクスは, テロ組織その他の非政府戦闘集団の相互の関係において, そして個々の集団の内部においても複製される. こうした小さな組織は, 従来型の強力な指揮統制ではなく, 臨機応変で, 冗長的で, インフォーマルな社会的関係によって結束している. 海兵隊よりも寄せ集めのバスケット・チームに近い. そのネットワークは内在する小規模集団によって敏捷性を保ち, より大きなネットワークの多対多の結びつきは, 仮にメンバーの10パーセント, 20パーセントが排除されてもネットワーク全体が機能しつづけることを保証している. 」書籍[9-2]85−86頁引用.

「レジリエントなシステムの基本思想は, 分散化とコントロールの共有である. 参集する組織-そこには絶対的権力を握る一つの主体というものは存在しない. かといって, まったくの無秩序でもない. 中央からの指揮命令の利点を残しつつ, 適切な局所敵権限と自律性によってうまくバランスをとるのだ. 」書籍[9-2]120頁引用.

 集団組織でレジリエンスを発揮するには, 中央集権的なハブを作らず, 信頼できる人々の分権的なネットワークを築くことがまず第一歩となりそうです. 但し, どのような分散機構が良いかについては, 科学的に未だ十分解明されていません. 一方, 肩書でなく自律的に動く以下のようなリーダーの人材像は, 第8話のティール組織とも矛盾しません. 例えば, 第7話後半と関連して, ネットワークPC(パソコン)の基本技術のほぼ全てを1970年代に発明開発した, 米国ゼロックス・パロアルト研究所(PARC)の技術管理者 B.Tayor はそうしたリーダーだったようです. それは, 弱い紐帯ながらコミュニティを繋ぎ, 世界的な貿易をうまく回したり, 多様な民族, 宗教, 文化を持つ人々と折り合いをつけられる人であり, また第6話 末尾で触れた循環型経済をつくる地域のキーパーソンにもなると思われます.

「信念と価値観, 思考の習慣, 信頼と協力, 認識の多様性, 強力なコミュニティ, 通訳型リーダー, 危機に対応する適応能力- こうした要素が社会的レジリエンスを育む豊かな土壌を形成する. これらが一体となったとき, コミュニティと組織, そしてそこに住まう人々のレジリエンスを高める新たな方法が見えてくるのである. 」書籍[9-2]22頁引用.

「優れたレジリエンスを発揮するコミュニティには, それを支える特定のタイプのリーダーが存在するという事実だ.(中略) 彼らは典型的なリーダーとはイメージが異なる. 明確なビジョンを掲げる剛腕タイプのCEOとも, 大胆に決断を下し, 采配を振るう政治家とも違っている. あるいは, 一般大衆の意見を汲み上げる草の根の活動家とも違う. 彼らは中間層からリーダーシップを発揮する. これまで注目されることのなかった新しいタイプのリーダーである. 組織階層を自由自在に乗り越えて柔軟に働きかけ, ともすると蚊帳の外におかれがちなグループも引き込み, 各関係当事者が互いに理解し合うための通訳を務める. いわば「通訳としてのリーダー」 と呼ぶべき彼らの影響力は, 正式な肩書きよりは, インフォーマルな権限と文化的規範に根ざしている.(中略) 通訳型リーダーはさまざまな場面において, 橋渡し役, 旗振り役, 指導者, 行動経済学者, 社会工学者の役割を果たさなくてはならない. それも公正かつ寛大に, 透明性の高い方法で献身的に取り組まなければならない. (中略)協調的行動の素地をつくり, 人々と結びつけ, 承認を取りつけ, 人々がその空白地帯に集まるように取り計らう. リーダーは, 命令や支配ではなく, 影響力と調整によって統率する. 」書籍[9-2]319-356頁引用.

 現実の多くのネットワークにおいて, 極少数のハブにリンクが集中して大多数の他ノードが連結性を委ねるしかない構図が, 広く世の中における集中独占と従属化として当てはまることを 第10話で説明します.

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[9-1] A.-L.Barabasi(著), 青木 薫 (翻訳)
『新ネットワーク思考 ―世界のしくみを読み解く-』
NHK出版 (2002/12/26), ISBN-13: ‎978-4140807439
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[9-2] A.Zolli, A.M.Healy (著), 須川 綾子 (翻訳)
『レジリエンス 復活力 -あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か-』
ダイヤモンド社 (2013/2/22), ISBN-13: ‎978-4478012338

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