Best Paper Award
 

優秀論文賞

『 地域資源の戦略的活用に対する知識マネジメントの役割 』
Role of Knowledge Management for Community Resource Utilization

北海道大学観光学高等研究センター
敷田 麻実

【PDF(673KB)】

2015年度知識共創フォーラム「優秀論文賞」は,編集委員会が定めた複数の評価者による厳正なる論文評価のもと,上記論文に対して与えることを決定致しました. 本賞は知識科学研究の発展に大いに寄与することが期待される論文に対し与えられるものです.

 本論文は,開発する商品の地域資源への依存度の差(資源そのものへの依存性,資源をとりまく文化への依存性)と商品化された後の流通や販売範囲(地域限定・ユーザ特性限定,グローバル・ユーザ不特定)から,地域資源の商品化を4つのパターンに分類・整理し,4つのパターンに整理することで,地域づくりにおける地域資源の活用戦略を明確にしたうえで,地域がそれを決定するための知識マネジメントについても考察したものであり,知識科学的視点に基づいた地域経営の優れた研究成果である.また,地理的表示制度の施行を含め,地域資源のブランド化に関する関心がますなかで,地域社会が抱える具体的な問題を知識科学的に捉え,その解決に貢献する研究成果としても高く評価できる.
 地域資源の商品化にあたっては,「地域資源(という原料)」に「設計情報」を転写して,商品化していると考え,商品の機能を決定する「設計情報」とは別に,商品の意味を説明したり特徴付けたりする「文化」が存在するとし,文化が転写されるプロセスに介在する知識について深く考察している.最も資源依存性が低く,新たな資源の活用や消費者ニーズによるイノベーションを基本とした資源戦略としたパターン4では,文化を再編集可能な形式知に変換して商品を生産し,新たに利用する資源と設計情報の「擦り合わせ」や消費者からの要求を反映し,設計情報自体や付随する文化も変容させることが重要であり,知識創造のための知識マネジメントが重要な役割を果たすことが論じられている.論文では,地域で使用されていた南部鉄器を例として,それが茶器としての文化の維持にこだわりながら,要求される用途のために変容し,新たな市場で普及する過程を分析し,地域資源活用戦略としてのパターン4の利点と課題が論じられている
 今後の地域づくりでは,従来の地産地消型に回帰するのではなく,またグローバルマーケットを目指す大量生産型の商品化でもない,イノベーションによる設計情報と文化の再編集によって,新たな商品化を目指すことが望ましいこと,そのことが結果的に,地域の伝統産業や生産に基づく地域文化や生産方式の維持にも貢献し,地域の知識マネジメントを充実させると考えられることが結論として示されている. このような本論文における独創性に富む論証は,地域資源の活用を通じた地域活性化に関心のある実践者・研究者に新しい視座を与えるとともに,知識科学の新たな展開につながるものと高く評価できる.
 また,本論文は,フォーラムでの議論をもとに,パターン間の関係性の論証の具体化・精緻化がなされ,結論の了解性・信頼性を高めるように改訂されており,フォーラムにおける知識共創が高い水準でなされていることも評価できる.
 以上のことから,本論文は,地域での重要な課題に対して地域経営の優れた実践的研究の成果を示しているものであり,知識共創フォーラムの趣旨に準じた優れた論文とし優秀論文賞を授与するものである.