研究:各研究室の最近の研究成果を紹介します

Workshop design for enhancing the appropriateness in idea generation

KIM 研究室

As technologies advance and replace human labor in a variety of settings, we focus attention on human creativity for generating new ideas. Business organizations, more than ever before, recognize that they need employees who think creatively in order to maintain their competitive edge. Nonetheless, there is a lack of research assessing new ideas and influential factors in generating innovative ideas. The aim of this study is to identify influential factors for creating innovative ideas.

We conducted two different types of workshop with 22 subjects and 23 subjects each. In the first workshop, subjects were asked to generate new business ideas through analogical thinking. As a result, half of the participants generated appropriate ideas, and three influential factors were determined: categorization skill, deliberation and trial and error.

The second workshop was designed to facilitate participants to enhance those three factors. As a result, 70% of participants could generate appropriate ideas. By identifying influential factors, this paper suggests a procedure for designing an innovation workshop that enables the creation of appropriate ideas.

Settings for the workshop: A panoramic view of a group
KIM先生の発表の様子.
Kim, E. and H. Horii (2016). "Analogical thinking for generation of innovative ideas: An exploratory study of influential factors." Interdisciplinary Journal of Information, Knowledge, and Management 11: 201-214. Kim, E. and H. Horii (2016). "Designing the Workshop Process for Generating Innovative Ideas: Theoretical and Empirical Approach." Business and Management Studies 2(4): 30-41. Wonderful paper award, June 2016, Society of Open Innovation, Technology, Market & Complexity, SJSU, CA, USA

せっかくのアイデア出し,案出されたアイデアのすべてをじっくり検討したい

西本研究室

アイデア出しのための会議が,職場や研究室などでしばしば行われます. 思いつくまま,自由奔放にいろいろなアイデアを出し合い,よいアイデアが出ると,そのアイデアを発展・展開させる方法の議論が盛り上がる. うまくいけば,とても優れたアイデアが生み出されます. しかし一方で,あるアイデアに関する議論がおおいに盛り上がっている最中に提出された別のアイデアは, たとえそれがいくら優れたアイデアだったとしても,議論の盛り上がりに埋もれ,誰からも注目されることないままになってしまうことがしばしば生じます. このような,アイデアが埋もれてしまう事態を防止し,提出されたアイデアすべてについて吟味検討できるようにするにはどうしたらよいでしょうか.

Funnel Chat は,アイデアの埋没を防ぐためのテキストチャットベースの電子会議システムです. 通常のテキストチャットの場合,投稿された発言は即座に参加者に配信されます. しかし,Funnel Chat では,新しいアイデアに関する発言はいったんシステム中に蓄積保存されます. 現在進行中の議論に対する意見(賛成・反対・追加・修正など)が出尽くしたら,システムが蓄積保存している新しいアイデアを1つだけ議論の場に投入します. こうして,同時に複数の新しいアイデアが議論の場に投入されることを防ぎ,アイデアを1つ1つ順番に議論できるようにするのが,Funnel Chat なのです.

FunnelChat のユーザインタフェース.3つのタイムラインがある. STLにはこのユーザインタフェースを使用しているユーザが投稿した新規アイデアが蓄積される. DTLは議論用のタイムラインであり,最初の新規アイデアはシステムが自動投稿し,ユーザは先行する発言への返信のみ投稿できる. CTLは雑談用のタイムラインであり,STLやDTLには投稿できないようなちょっとした確認や冗談を投稿する.CTL上の発言は,一定時間で下に流れ消滅する.
DiCoMo2017シンポジウムで発表中の長谷部さん
長谷部礼,西本一志:創造会議におけるアイデアの埋没を防ぐテキストチャットシステムの提案,情報処理学会DICOMO2017シンポジウム予稿集,pp.25-28,2017.

ネットワーク科学最前線2017 -インフルエンサーと機械学習からの接近-

林研究室

インターネットにおける口コミが購買活動を促すことに着目して、SNS のブロガ等でその影響力が強いユーザ(インフルエンサーと呼ばれる) をターゲットに広告宣伝や企業プロモ、人材斡旋まで行うビジネスが 台頭し、業種を問わない多くの大手企業を対象に急速に進展しつつある。 近い将来、インフルエンサー度を測るソーシャルスコアが学歴より重要 になるかも知れないだけに留まらず、Googleの検索エンジンの心臓部 PageRankのようにネットワーク構造からインフルエンサーを抽出する 優れたアルゴリズムが昨年発表され、そのメッセージ伝搬法がネット ワーク科学における浸透解析や中心性指標に新たな息吹を吹き込んで 次々と重要な知見を提示している。

本講演では、こうした最前線の動 向を紹介しつつ、筋の良い機械学習の多くはメッセージ伝搬法である ことを指摘する。更に、インフルエンサーの抽出除去が従来最悪の ハブ攻撃より深刻なこと及び、その新攻撃を逆手に取った自己組織化によって非常に頑健な玉葱状ネットワークを徐々に成長させながら 構築できることを世界に先駆けて発信する。

資料公開: http://ds9.jaist.ac.jp:8080/netsci/pre_be_tutorial_NE2017.pdf

林 幸雄, ネットワーク科学最前線2017 -インフルエンサーと機械学習からの接近-, (社)情報処理学会 第14回ネットワーク生態学シンポジウム, チュートリアル講演, 8/20-21, 2017.

ノード負荷を考慮した迂回ルーティングによるカスケード故障の抑制

林研究室

電力網やインターネットなどにおいて何らかのフローを持つネットワークでは、ごく一部の初期故障をきっかけとして過負荷故障が連鎖的に拡大するカスケード故障が引き起こされうることが知られている。このカスケード故障は、時として深刻な被害を社会インフラにもたらすため、カスケード故障を防止するための方策が強く求められる。

カスケード故障に対する防衛戦略として、これまでに配線替えによる方法や、ノード切り捨てによる方法が提案されているが、これらの方法では配線コストや犠牲が生じるため、ネットワークインフラには実現が難しい。そこで本研究では、 ノード負荷を考慮した迂回ルーティングによって、カスケード故障を抑制することを目指している。ノード負荷を考慮することにより、適用するネットワークの構造によらずカスケード故障を大幅に抑制することができ、なおかつネットワークの効率もほとんど低下させないということが明らかになりつつある。

内山君の発表の様子.
内山 直弥, 林 幸雄, ノード負荷を考慮した迂回ルーティングによるカスケード故障の抑制, (社)情報処理学会 第14回ネットワーク生態学シンポジウム, オーラル発表, 8/20-21, 2017.

遅延耐性ネットワークの搬送蓄積型メッセージフェリーの最適分配

林研究室

遅延耐性ネットワークとして搬送蓄積型のメッセージフェリーを使って断線時にも通信が可能な技術が近年注目されている。しかしながら、メッセージフェリーは有限な資源であり、計画的な利用が必要と考えられる。

本研究では、人口分布に応じた再帰的分割で構築されノードへのアクセス負荷を均等化したMSQ(Multi-Scale Quatered)ネットワークの分割形状の違いによって、各巡回面へのメッセージフェリーの最適分配や送受信ノード間の遅延分布がどのように変わるかについて比較、検討する。

張君の発表の様子.
張 至杰, 林 幸雄, 遅延耐性ネットワークの搬送蓄積型メッセージフェリーの最適分配, (社)情報処理学会 第14回ネットワーク生態学シンポジウム, ポスター発表, 8/20-21, 2017.

「批判歓迎」なブレインストーミングでよりよいアイデア創造を!

西本研究室

オズボーンが考案したアイデア生成技法のブレインストーミングは,今でも多くの企業などで活用されています. ブレインストーミングには,4つのルールがあります.すなわち,1)批判厳禁,2)自由奔放,3)質より量,4)結合改善です. このルールに従うことによって,幅広い視点からの多様なアイデアが得られると言われています. このうち,第1のルールである批判厳禁は,批判されることによってアイデア生成者が萎縮してしまうことを防ぐために設定されています. しかしながら,一方で,アイデアに対する「建設的」批判は,アイデアの改善やさらなる発展的アイデアの創造に有効であることも示されています. なんとかアイデア生成者を萎縮させることなく有用な批判を行うことはできないでしょうか.

Criticism Climber は,この矛盾した要請を満たすことができる,電子ブレインストーミングシステムです. このシステムを用いたブレインストーミングは,2段階に分けて実施されます. 第1段階は,通常どおりのブレインストーミングを行う段階です.このブレインストーミングは,対面口頭で行うのではなく, Criticism Climber の遠隔会議機能を用いて非対面で実施されます. 同時に,ブレストを行うのとは別のグループが,やはりCriticism Climber が提供する機能を用いて, ブレストで生成されるアイデアを逐次チェックし,批判を行います.ただし,このような批判が行われていることや,批判の内容そのものは, ブレストを行っているメンバーには一切知らされません. こうして第1段階が終了すると,第2段階では,ブレストを行っていたメンバーに対し,ブレスト中で提案された個々のアイデアに対して なされた批判を提示します.ブレストのメンバーは,提示された批判を考慮して,その批判を乗り越えるためのアイデアを案出します.

Criticism Climber を用いた批判付きのブレストを,従来どおりの批判無しのブレストと比較した結果, 期待通り批判を乗り越える新たなアイデアが案出される様子が確認され,提案手法の基礎的な有効性が示されました.

提案手法の概要
DiCoMo2017シンポジウムで発表中の生田君
生田泰章,神田陽治,西本一志:アイデア発想におけるツッコミの効用:電子ブレインストーミングにおける批判的発言の活用に関する基礎検討,情報処理学会DICOMO2017シンポジウム予稿集,pp.17-24,2017.

社会技術向上に役立つ情報技術:プレゼンテーション能力編

由井薗研究室

人々を賢くする社会技術の理解・開発を目指して様々な研究(アイデア発想法,場作り,異文化理解)に由井薗研究室では取り組んでいます.今回,博士課程学生が取り組む,知識伝達に不可欠なプレゼンテーション技能向上を目指す研究を紹介します.

よいプレゼンテーションにはジェスチャや声の抑揚といった実演能力が必要です.しかし,現在のプレゼンテーション教育は経験的に指導されるばかりでした.マルチメディア技術を用いることによって,初心者でも第三者の目で自身のプレゼンテーションを把握できる学習支援システムPRESENCEを研究開発しています.

Kinectなどの各種センサから得られる人間情報をプレゼンテーション能力として定量的に評価する基準作りに取り組んでいます.特に,身体表現と音声表現に注目した基準を開発し,システムが学習者にフィードバックする機能を実現しつつあります.

システムPRESENCEの利用風景
システムPRESENCEのインタフェース画面
Xinbo Zhao,Takaya Yuizono,Jun Munemori: Scenario-based Experiments to Design a Presentation Support System for Non-native Speakers, Knowledge-Based and Intelligent Information & Engineering Systems 19th Annual Conference, KES 2015, 10 pages, Sep. 2015.(Accepted)
趙 新博,由井薗 隆也,宗森 純:ノンバーバル表現に注目したプレゼンテーション支援システムの開発,情報処理学会研究報告,GN(グループウェアとネットワークサービス),2015-GN-94(6), 1-6, 2015.

計算論的神経科学:脳の理論的アプローチ

田中宏和研究室

私たちが普段行っている運動は実はとても難しいものです。ヒトの身体には複雑な運動法則に従う数百もの骨格とそれを駆動する骨格筋があり、発達に伴い身体は日々変化します。また、ヒトの運動は不確実な外界の物体とも相互作用しないといけません。ピアニストの優雅な指運びやテニスプレーヤーの力強いショットはもちろん、物を掴むときの手の動きや探し物をしているときの目の動きといった基本動作ですらまだまだ不思議なことがたくさんあります。このような難しい制御問題を脳がどのように解いているのかは依然謎のままです。

脳の知覚処理・運動制御メカニズムを理解するために、様々な数理手法(ロボティクス・制御理論・推定理論・機械学習)を用いて脳の処理過程を計算論モデルとして定式化し、様々な実験結果を統一的な観点で理解することを目指しています。また、計算論モデルから得られる予言を検証するための信号解析法の開発やヒト行動実験なども行っています。

主に学部学生・高専専攻科生を対象に、2015年8月5日から8日までJAISTサマースクール「脳を理解するための理論-身体制御からの計算論的神経科学入門-」を開催します。

計算論的神経科学・信号解析法・ヒト行動実験による脳メカニズムの理解
Tanaka, H., & Sejnowski, T. J. (2015). Motor adaptation and generalization of reaching movements using motor primitives based on spatial coordinates. Journal of neurophysiology, 113(4), 1217-1233.
Tanaka, H., Katura, T., & Sato, H. (2014). Task-related oxygenation and cerebral blood volume changes estimated from NIRS signals in motor and cognitive tasks. NeuroImage, 94, 107-119.
Tanaka, H., & Sejnowski, T. J. (2013). Computing reaching dynamics in motor cortex with Cartesian spatial coordinates. Journal of neurophysiology, 109(4), 1182-1201.

研究題目

永井研究室

1.創造的なデザインの「知」を研究しています。「デザイン思考」はイノベーティブなアイデアを可視化していくことで新しい意味や機能を発見していく過程です。

2.「人は誰でもより創造的になれる」といわれていますが、そのためにはどのような方法や工夫があり、また、どのような環境が望ましいのでしょうか?アートやデザインの制作プロセスを観察し、創造性のメカニズムを明らかにします。

3.「デザイン思考」はアイデアを可視化していくことで新しい意味や機能を発見していく過程です。本研究室では、最新の3Dプリンタを使って、イノベーティブなプロダクトをモデリングしています。

永井研究室学生作品
水脈モデル

映像を知る.映像を創る.

吉高研究室

人は多くの情報を視覚から得ています.また,近年では画像を仲間と共有したり, 映像を配信等により共有することも広く行われるようになりました.個人や企業が 蓄積する映像情報は増加し続けており,多チャンネル放送やインターネットによる 映像配信などもあり,アクセス可能な映像情報は増えるばかりです.  本研究室では静止画像や動画像情報をより扱いやすくするための枠組みの構築に 向けて,感性情報,ヒューマンコンピュータインタラクションの視点から研究を進めています.

【映像の構成,撮影法から意味・内容を理解する】
 撮影方法や編集方法の工夫により,視覚的な効果として雰囲気や印象を表現する 手法が使われてます.それは,映像からそのような撮影,編集上の技法を抽出すれば, その場面の内容などを認識することが可能だということでもあります.このような視点から,映画やドラマなど,人の感情に関わる「感性情報」に基づく映像解析・索引付けを行い,それをダイジェスト生成などに応用する研究を進めています

【撮影時の雰囲気,ニュアンスの表現を助ける】
同じ被写体であっても,撮り方によって見る人が受け取るニュアンスは変わります. 撮影技法や構図法に関する知識や経験が少なければ撮影時にそれを考慮することも 困難です.この問題を解決するために,適切な撮影法や構図決定を支援する手法に 関する研究を進めています.

【体験した視覚情報を利用する】
どの視覚情報に傾注しているかを眼球運動により判断し,そのようにして得た興味 に関する情報を情報検索や情報推薦に応用する研究を進めています.

【実世界の情報を取り込んで活用する】
様々な情報が電子化され,インターネットを介して共有されている現代でも,部分的 に電子情報化されていないものもまだ多く存在します.必要な情報を撮影し,それを 電子情報化して効率よく活用する基盤環境の構築を進めています.

撮影・編集法から映像内容を解析するシステムのスナップショット
適切なカメラワークや構図をサジェストするカメラ

視線計測による視覚情報ライフログ生成と検索
紙媒体データを撮影することにより情報を電子化して活用するシステム
Atsuo Yoshitaka, Shinobu Chujyou, and Hiroshi Kato, “Improving the Operability of Personal Health Record System by Dynamic Dictionary Configuration for OCR”, Knowledge and Systems Engineering, Advances in Intelligent Systems and Computing Volume 326, Springer, pp 541-552, 2015.
Ngoc Nguyen and Atsuo Yoshitaka, "Human Interaction Recognition using Independent Subspace Analysis Algorithm," Proc. IEEE International Symposium on Multimedia, 7pages, 2014.

まだ見ぬ単語を数える

日高研究室

当研究室では主に言語・認知発達,意味認知の計算論的メカニズムを解明することを目的に研究を行っています. 人はどのように言語のように複雑なものを学習するのでしょうか. 人の学習・発達メカニズムを説明する数理・統計的 モデルの構築を目指して、理論的・実験的な研究を行っています.

【発達する乳幼児の獲得語彙数を推計するのは難しい】
乳幼児の言語発達を調べる上で,各月齢における乳幼児の獲得語彙数を推定することが必要になります。 乳幼児の発話を記録し,発話に含まれる語彙数から獲得語彙数を推定するのが一般的です。 しかし,乳幼児が各獲得語彙を発話するのにかかる時間に対して,乳幼児の語彙獲得が速いため,乳幼児の獲得語彙数の正確な推計は難しいのです。

【観測されない語彙数を推定】
こうした問題を解消するためには,限られた発話の観測データから,まだ発話されていない潜在的な語彙数を推定する必要があります。 これに対し,我々は新たな統計的な方法を考案しました. この方法では,ある潜在的な単語の頻度分布の下で発話単語数に対して,観測される単語の種類数の理論的な確率分布を利用し, 部分的な観測データから,十分に観測した場合に収束する潜在的な単語種類数を推定します(図1).
【実際の幼児の獲得単語数の推定】
提案法を実際の幼児の発話データに応用したところ,部分的な発話データ(各1時間相当)から,長期間(3-5年分)の 累積獲得語彙数によく相関する潜在語彙数を算出することができる事がわかりました(図2).

図1: (A) 潜在的な単語数(N)や頻度分布の性質(a)に応じて,抽出単語数Mと平均単語の種類数Kの曲線が変化する.(B) この理論的性質を利用し,曲線をデータから推定することで,十分な観測が得られた場合(M→∞)の潜在的な種類数の極限が計算できます.
図2: 3人の幼児(1: Adam, 2: Eve, 3: Sarah)の累計獲得語彙(縦軸)と従来法で推定された獲得語彙(a:左列)と提案法で推定された獲得語彙(b:右列).
Hidaka, S. (2014). General type-token distribution., Biometrika. 101 (4), 999-1002.
Hidaka, S. (2015). Estimating the latent number of types in growing corpora with reduced cost?accuracy trade-off. Journal of Child Language.

熟練の技を探る

藤波研究室

私たちの研究室ではスキルサイエンスと称して熟練の技を調べています。熟練の技は職人 が長期の修練を経て獲得する巧みな動きとして現れますが、巧みな動きには鋭敏な感覚や 長年の経験から身についた鑑識眼が伴うことが多く、これら感覚・知覚・運動の複合体を 明らかにすることを目指しています。

これまでに陶芸家の土練り動作、サンバの演奏・ダンス、竹馬乗り歩行、野球の投球、歌 手の発声、スーパー精肉部門での肉切り動作などを調べてきました。これらの研究を通し て、運動の精妙さを制御の複雑さとして評価できるのではないかと考えています。

スキルサイエンスの一環として認知症高齢者の介護に注目しており、介護の質を評価する 方法、よい介護の仕方を共有する方法、介護を支援する機器の開発などに携わっています。 最近は技能習得の考え方を応用することで高齢に伴う身体機能や認知機能の衰えを防ぐこ とにも興味を持っており、老化の影響が顕れやすい立位バランスの分析などにも取り組ん でいます。

私たちは「自らの能力を高めてよりよい人生を送る」ことを理想としており、ヒューマン ライフデザイン領域において人々が自ら生活の質を高めていくお手伝いができたらと願っ ています。

陶芸家の土練り動作解析
介護支援システムの開発
Kohei Matsumura, Tomoyuki Yamamoto, and Tsutomu Fujinami, The role of body movement in learning to play the shaker to a samba rhythm: An exploratory study, Research Studies in Music Education, Volume 33 Issue 1, pp. 255 - 270 (2011).
Tomoyuki Yamamoto, Tsutomu Fujinami, Hierarchical Organization of the Coordinative Structure of the Skill of Clay Kneading, Human Movement Science, Volume 27, Issue 5, pp. 811-912, October (2008).
藤波努,杉原太郎,三浦元喜,高塚亮三,屋内位置情報に基づく認知症高齢者の長期的行 動変化の分析,社会技術研究論文集,Vol.10,pp. 42-53

タブレットによるクラフトアート支援 ー切り絵練習帳ー

金井研究室

本研究室では,「人の活動を支援する◯◯◯システムの研究開発」として,「日常の様々な情報,モノ,状況への「気づき(Awareness, insight)」,「個⼈の改善」「集団(コミュニティ)の改善」と「多様な社会の実現」という点から,ICTによる⽣活⽀援技術やシステム開発を進めています. 紹介する研究は,人の創造活動の1つであるクラフトアート支援です.

近年,CAD(Computer-Aided Design)と3Dプリンタを利用したモノ作りに代表されるように,容易に高精度なモノ作りが可能になっています. 一方,試行錯誤しながら手作業でモノを生み出す「クラフトアート」という分野があります.クラフトアートは自らの手で作り上げる過程を通して,自らの手で作ることへの楽しみや充実感を得ることができます.ただし,クラフトアートはほぼ全てを手作業のみで完成させるため,初心者が作品を作り上げるには容易ではありません.

本研究では,クラフトアートの1つである「切り絵」を取りあげ,切り絵の初心者を対象に,熟練者の技を体験出来るタブレット端末とスタイラスペンからなる切り絵練習帳を開発しました. このシステムでは,切り絵の基礎段階で重要である「切る順番」,「適切筆圧」や「切り開始・終了位置」支援機能を実装し,初心者が熟練者の技を体感し,身につけることができます.このシステムで練習をすることで,実際にナイフと紙で切り絵を行うと,熟練者らしい切り絵を行うことができます.

切り絵作品例
「切る順番」支援の様子
東孝文,金井秀明: 切り絵初心者の上達を目的とする切り絵練習帳の評価, 情報処理学会第91回グループウェアとネットワークサービス(GN)研究会, 情報処理学会研究報告, Vol.2014-GN-91, No.3, 8pages (情報処理学会グループウェアとネットワークサービス(GN) 2013年度GN研究賞)

コンピュータに耳と等価な機能をもたせる試み

鵜木研究室

私達人間は,雑音や残響がある実環境において,いともたやすく狙った音を聴きとることができます. また,注意を誘導することにより,このような優れた能力をさらに発揮することができます.しかし, 同じことを計算機上で実現することは非常に難しい問題です.もし計算機上に聴覚と機能的に等価な 信号処理システムを構築することができれば,音声認識のための前処理や補聴システムといった様々な 音信号処理に応用することができます.鵜木研究室では,聴覚の優れた能力に着目し,聴覚的な音信号 処理の実現を目指しています.

【聴覚特性に基づいた信号分析】
 聴覚の主な機能は,図1に示すように、音信号を周波数分析すること(周波数選択性)です. この分析は,非線形処理であることが知られています.本研究室では、聴覚心理物理実験から 聴覚の優れた周波数選択性の機能を解明し,その実験結果に基づいて,聴覚による信号分析と 機能的に等価な聴覚フィルタバンクの構築を試みています.さらに,注意を考慮した周波数選択性 の機能解明にも取り組んでいます.

【聴覚特性を考慮した音信号処理】
 聴覚フィルタバンクを利用した音声信号処理の応用として,選択的音分離法(狙った音を聴きとる 「聞き耳」モデル)や雑音残響除去法,変調伝達関数に基づいた残響音声回復法,骨導音声の明瞭度 回復の研究を行っています.ここでは,非線形フィルタバンクとその後段の信号処理を確立することで, カクテルパーティ効果のモデル化にも応用することができます.
 最近では,聴覚特性を熟知した上で音のセキュリティ対策に向けた研究にも取り組んでいます. 例えば,図2に示すように,インターネットの普及に伴い,ディジタル音コンテンツの著作権保護など が問題になっています.鵜木研究室では,「蝸牛遅延特性」というヒトの聴覚が有する特性を逆手に とって,著作権情報を聴こえないように音楽情報に埋め込み,それを検出する方法を開発しています. この方法は悪意あるユーザに埋め込み情報を破壊されず,容易に入手されないような工夫がなされています.

図1.聴覚フィルタバンクによる信号分析
図2.マルチメディア情報ハイディングとその応用
鵜木祐史, 宮内良太, “蝸牛遅延特性に基づいた音響電子透かし,” 日本音響学会誌, 小特集・解説, Vol. 71, No. 1, pp. 15-22, Jan. 2015.
Nhut Mihn Ngo, Masashi Unoki, Ryota Miyauchi, Yoichi Suzuki, “Data Hiding Scheme for Amplitude Modulation Radio Broadcasting Systems,” Journal of Information Hiding and Multimedia Signal Processing, Vol. 5, No. 3, pp. 324-341, July 2014.
鵜木祐史,鈴木陽一,聴覚モデル,第5章 音の大きさのモデル,pp. 129-167, コロナ社,2011.

おにぎり作ります

宮田研究室

CGの映像作成で手間のかかる作業の一つに形状モデリングがあります。形状モデリングとは、表現したい物体のカタチを幾何データとして表現する作業です。容易に想像がつくとは思いますが、形状が複雑になるにしたがって、作業量は増加します。では、おにぎりのような見慣れた形状はどうすればモデリングできるでしょうか。ご飯つぶを1つずつチマチマとくっつけるような地道な作業をするのは、大変ストレスが溜まるように思います。

本研究では、任意の構成要素を指定した形状に自動的に凝集させる手法を提案します。任意の形状に凝集させるために、物理法則を考慮せずに凝集体を生成することを目指しました。はじめに、指定した凝集体の形状(山のような盛上がり)に沿って構成要素(バナナ)を干渉するように配置します。次に、構成要素がいろいろな方向を向くようにランダムに回転させます。最後に、構成要素同士の干渉を解消するために、凝集体の形状の法線方向に干渉が少なくなるように構成要素の位置を調整します。物理法則を考慮していないために、非常に高速に最終的な形状を生成することができます。

凝集体のような大量の構成要素で形作られるものに対して、本手法が制作支援に役に立つことを期待しています。

凝集体の生成手順
生成例
Kaisei Sakurai, Kazunori Miyata, “Modeling of Non-Periodic Aggregates Having a Pile Structure,” Computer Graphics Forum, Vol.33, Issue 1, 190-198 (2014)

音声信号処理:機械の耳・口を賢くしよう

赤木研究室

赤木研究室では,音声の生成・知覚機構を数理モデルとしてとらえ,ディジタル信号処理の手法を用いて,数理モデルから有益な音声信号処理システムを構築しています。これを行うためには,ヒトの発声発話に対する生理学的・心理学的観測,観測結果にもとづいた数理モデル化,そして,計算機上でヒトと同じように動くシステムの実装が必要となります。これら一連の過程を実際に考え経験することで,音(声)のみならず,自然界で生じる時間波形の計測,分析,変形,合成ができるようになり,産業界での応用範囲は非常に広いものとなります。

【研究内容】

<基本路線> 赤木研究室では,音声信号処理の研究を行っています.音声によるコミュニケーション(聞く・話す)は人間の基本的な営みなので,まず人間を知り,そして営みを模擬して計算機上に記述することで,高度の音処理システムの実現を目指しています。

<研究範囲> 図1は,音声によるコミュニケーション(聞く・話す)がどのような過程を経て行われているかを示しています。赤木研究室では,赤線で囲った部分(話す:音声発話,実環境での音声伝播,聞く:音声知覚)を研究対象としています。このために,工学(ディジタル信号処理)だけではなく,医学・生理学・心理学・音響物理学,音声学などの分野との連携をとりながら研究を行っています。

<研究内容> 図2に研究内容を科学⇔工学,話す⇔聞くの2軸で示しています。

話す: 機械の口がより賢くなるように,より自然な合成音をつくることを目的として,音声スペクトルと声道形状の関係,合成音への個人性・感情などの非言語情報の付与,歌声らしい歌声の合成などの研究を行っています。

聞く: 雑音とか残響が存在する実環境でのヒトのすばらしい聴取能力を,少しでも機械の耳に与えて賢くするために,カクテルパーティ効果の実現,雑音中の音声強調などの研究を行っています。

図1.音声コミュニケーションの基本(ことばの鎖)
図2.研究内容概観
Elbarougy, R. and Akagi, M. (2014). “Improving Speech Emotion Dimensions Estimation Using a Three-Layer Model for Human Perception,” Acoustical Science and Technology, 35, 2, 86-98.
Akagi, M., Han, X., Elbarougy, R., Hamada, Y., and Li, J. (2014). “Toward Affective Speech-to-Speech Translation: Strategy for Emotional Speech Recognition and Synthesis in Multiple Languages,” Proc. APSIPA2014.
Akagi, M. and Irie, Y. (2012). “Privacy protection for speech based on concepts of auditory scene analysis,” Proc. INTERNOISE2012, New York, 485.

ネットワーク科学で近未来の社会インフラをデザインする

林研究室

インターネット, 電力網, 航空網, 知人関係, 経済取引など多くのネットワークには驚くべき共通のつながり構造が存在して, それらは効率重視の利己主義によって自然に構築されることを, 物理学者やコンピュータ科学者が今世紀初頭に発見しました. しかし, 残念ながら, こうした現実の多くのネットワークは攻撃に非常に脆いという誰も予想しなかった大きな弱点も見つかりました. 一方, 豪雨豪雪や地震などによる大規模災害が世界各地で頻繁に発生する中で, こうした脆いネットワーク同士が相互に悪影響を与える社会システムに我々は身を委ねている訳です. 電気, 携帯通信, 交通機関, 物流が全て止まったら社会生活はどうなるのでしょう? 現代社会にネットワークは不可欠であり, その脆弱さが深刻な大問題として世界的に認識され, ネットワーク科学(複雑ネットワーク科学)という新分野が誕生しました. 極めて身近な対象を科学的に捉え, 新技術に繋げる可能性を探る分野です.

そこで我々は, 利己原理から脱却した全く新しい協調原理に基づく考え方で, 効率性を損なわずに攻撃耐性(頑健性)も強いネットワークを自己組織的に徐々に成長させながら構築できることを探り出しました.

本研究には, フラクタル物理, 生物メカニズム, 組織論, 無線通信, 分散処理, 最適化アルゴリズムなど様々な分野のアイデアが活かされています. さぁ, 皆さんも近未来に向けた挑戦にチャンレンジしましょう!

上から下に時間変化に伴って (右)頑健な玉葱状トポロジーを形成しながら(左)空間的に広がって 成長しつつ自己組織化されるネットワーク

Amuse Étude: 楽器練習意欲の維持を支援する伴奏自動編曲システム

西本研究室

楽器の演奏はとても楽しく,我々の生活や人生を豊かなものにしてくれます.でも,楽しく楽器を弾けるようになるためには,長期間にわたる地道でつまらない練習が必要です. このため,多くの人々が楽器演奏技術を習得することなく挫折してしまっています.これはとても残念なことだと思います.

本研究では,つまらない練習曲を,自分が日常的に好んで聴いている音楽の伴奏に変換するシステム Amuse Étude を開発しました. このシステムは,まず練習曲を数拍程度の長さからなる「単位パターン」に分解します.次に,好みの楽曲のコード進行などを考慮しながら 練習曲の単位パターンをあてはめて,伴奏パートを作成します.こうして作成された伴奏パートを好みの楽曲を再生しながら一緒に演奏することで, 合奏を楽しみながら,もとの練習曲を演奏するのに準じる練習効果を得ることができます.

本研究を通じて,より多くの人々が音楽を能動的に楽しむ創造的な社会が実現されることを期待しています.

Amuse Étude の概要
生成された伴奏楽譜の例(3段目の楽譜).
村井 孝明,西本 一志:楽器の継続的練習を支援するために練習曲を他楽曲の伴奏に編曲するシステム,情処研報, Vol.2015-HCI-162, No.11, pp.1-8, 2015. (情報処理学会ヒューマンコンピュータインタラクション研究会 学生奨励賞受賞)