産学官連携の取り組み

2020年 8月20日

(前編)材料開発の前に立ちふさがる様々な課題に、スーパーコンピュータを駆使して立ち向かう


本学教員の研究シーズを紹介する2回目は、環境・エネルギー領域の本郷研太准教授です。現在、私たちは、新型コロナウイルスという未知だったものが生活に与える影響の大きさを実感しています。しかし、一方で、私たちはそれまで知らなかったモノ、分からなかったモノを発見し、開発して様々な便益を手にしてきました。今回の本郷准教授が取り組んでいる研究は、未知の物質を探索、発見する手法で、材料開発の効率を大きく促進させることが期待されています。

 

研究者の経験と勘に依拠してきた材料開発の世界は
データ科学、AIによるコンピュータでの開発が主流に

従来、材料開発は日本が得意としてきた分野です。そこでは、研究者が長年に渡って培った経験と勘によって新たな材料を合成し、その材料の特性を調べるという手順で開発が進められてきました。ただ、この場合、優秀な研究者であっても創造力、発想力には限界があり、また合成した材料の特性を確認するにはそれなりの時間経過が必要となります。現在、このような従来の材料開発の状況を一変させているのが「マテリアルズ・インフォマティクス」と言われる世界的な潮流です。

本郷准教授は、「マテリアルズ・インフォマティクスは、新素材の設計と開発、評価を行う材料科学とAI、データ科学等を融合させて、新しい物質、材料の開発を目指す最先端の研究分野です。研究者の実験と理論計算に負うところが大きい従来型の研究ではたどり着けなかった、未知の材料が発見されることが期待されるので、世界中の国々で戦略的に進められています」と、新物質の発見と材料開発におけるその可能性の大きさを口にします。

環境・エネルギー領域の本郷研太准教授

 

この世に存在する物質はすべて元素からできている
那由多の数だけある化合物の特性にスパコンで挑

※那由多=10の60乗

現在までに確認されて周期表に記載されている元素の種類は100個ほどで、この元素の組み合わせによって様々な化合物、物質ができています。例えば、2種類の元素の組み合わせは100×99=990個、3種類では100×99×98=970,200個となり、これが5種類になると90億(9.0×10の9乗)の数となって、以降は指数関数的に生成できる化合物は増えていきます。
「実は、組み合わせが可能な化合物の数は『那由多=10の60乗』にのぼると言われています。このような膨大な組み合わせの中から求める性質や機能を有する化合物を見つけることは、砂漠の中で一粒の砂金を探すようなものなのです」と、本郷准教授は新しい物質の発見の難しさを指摘します。


仮にある研究者が、従来の材料開発法の一環として理化学研究所のスパコン「京」をフルに活用しても、その研究者が生涯に計算できる物質の数は12億程度に過ぎないとのことです。このことから、那由多の数の化合物にアプローチするにはこれまでとは異なる新しい取り組みが求められます。本郷准教授の研究室ではAIやデータ科学の手法を基に、スーパーコンピュータ(以降、スパコン)を使って那由多の化合物の把握に挑んでいます。

この時、本郷准教授が求める化合物や物質をより効率的に探索するために用いている手法の一つに「ベイズ推定」という統計学の手法があります。私たちの身近なところでは、迷惑メールを自動的に選り分ける迷惑メールフィルターの頭脳として使われているものです。
ベイズ推定は、当初のデータが不十分でも”ある事態が発生する確率(例えば、迷惑メールである確率)”を最初に設定し、その後に得られたデータを反映させてその確率を更新し、精度を上げていくことで本来起こるだろう事態の確率を導き出す概念です。
本郷准教授はこの手法を用いて、膨大な数の化合物の組み合わせのシミュレーションとその個々の特性を、スパコンを用いて導き出しています。

 

次回は、マテリアルズ・インフォマティクスで誰も見たことがない化合物の発見に挑む、本郷准教授の研究を見ていきます。

 

本件に関するお問い合わせは以下まで

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@jaist.ac.jp

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■

環境・エネルギー領域
本郷研太 准教授

https://www.jaist.ac.jp/areas/ee/laboratory/hongo.html