「ひらめき」のきっかけに迫るアート視点研究で、イノベーションへの道を開く

本学ヒューマンライフデザイン領域の藪内公美特任助教は、創造プロセスにおけるひらめきの着眼点となる視点を「アート視点」と定義して、飛躍的な発想につながる独創的な着眼点を解明、内在化(習慣や考え等を取り入れて自己のものとすること)する研究を行っています。その一つが、スターバックスコーヒー金沢百番街Rinto店との共同研究「JIMOTOフォトメッセージプロジェクト」です。「ひらめき」はイノベーションに結び付くことが期待され、その源に迫る今回のアート視点の公開研究は各方面から注目されています。

 

何気ない日常が印象的に切り取られた写真
アーティストの発想の源にアプローチする

「JIMOTOフォトメッセージプロジェクト」は、石川県で活動しているアーティストが、毎日の生活の中から切り取った光景を写真パネルにしてスターバックスコーヒー金沢百番街Rinto店内に展示し、来店者が石川県の豊かな自然や空間、時間とのつながりを感じ、再認識するものです。日常に溶け込んで見過ごしてしまいそうな場所や時間もアーティストが捉えることで、見慣れた景色が思いがけない表情を見せ、ここで暮らすことに新たな感慨をもたらすことを意図しています。同店舗にとっては、写真展によって石川県の新たな魅力を来店者と共有し、顧客と新たな関係を構築する手法の試みと位置付けています。

写真の監修を務める藪内特任助教は、本学でアート視点を研究するとともに金属作家のアーティストとしても活動しています。「アート視点とは、アートを対象とした視点ではなく、アーティストのように常識や既成概念にとらわれない視点を持つことをいいます。この共同研究では、私(藪内)は観察者の立場でアーティストと対峙します。リフレクションという手法を使い、作品が完成した後に、アーティストはどのように発想し、創造を続けて完成作品にたどり着いたのか、というアート視点のプロセスを細かくインタビューして分析します」と研究の意図を語る藪内特任助教は、アーティストである自らがアーティストの発想の源に迫るところにこの研究の意義があるとします。

写真パネルが展示されているスターバックスコーヒー金沢百番街Rinto店

「インタビューや筆記による調査を進めるうちに、多くのアーティストがなんでそうなったのかを自分ではよく理解していないことが分かりました。そのような中、発想のきっかけを与えるようなこととして、視覚的に何かが見えたとか、自らの何気ない無意識の行動がその場所で瞬間的に起きていたことが、ひらめく前のポイントであることが裏付けられました」と、藪内特任助教は自らの創造時と同じ発想のきっかけが生じていたことを突き止めました。さらに、「共同研究の会議でも、作品の選定過程で示されたほかの人の意見や感想をもとに、その意見の内容とは直接関係しない別のアイデアがアーティストに生まれたことが分かりました。他者からの意見や感想がひらめきを誘発し、アーティストにとって新たなアイデアのきっかけになっていると思われます」と続け、アート視点研究としてひらめきの源にアプローチしている現状を示します。

リフレクションでの問いと実際の様子(右)

アーティストが示したアート視点が、見た人によって新たな気づきをアーティストにもたらしていることが判明した現在。この循環は、スターバックスコーヒー金沢百番街Rinto店がアーティストの作品づくりを介して地元に愛される店舗作りを目指した取り組みの一つのフィードバックであり、その循環が新たに来店者に与える影響には興味深いものがあります。同時に本共同研究は、同店の新たなマーチャンダイジング手法の確立に向けて一歩を踏み出したとも考えられ、今後の展開が期待されます。

来店者他から寄せられた声のテキストマイニングデータの一部

 

「ひらめく力」は誰もが持っている素養
ただ、教えてできるようになるものではない

「現代の創造性の研究では、ひらめく力は特別なものではなく、誰にでもあるとする考えから様々な研究がされています。私も誰もが持っている素養だと思っていますが、アーティストのひらめきのメカニズムが解明されても、一般の人にはそれを実践する機会が多くないのが実情かもしれません。スマートフォンは使い方を特に勉強しなくても、なんとなく使っているうちに使えるようになります。ひらめく力も同じで、新しいことを考える環境に身を置くうちに創造力が上がっていくのだと思います」と話す藪内特任助教は、アーティストが備えるひらめく力や創造力は、経験で誰もが備えられるのだと指摘します。一方で、「ただ、教えてできるものではないと思います。教育というよりひらめきが起こるようなきっかけや仕掛けを用意するなど、ひらめきが起こりやすくなる状況をつくることが大切だと思います」と、ひらめく力を内在化するための一つの方向性を提示します。

 

ひらめく力が導く異分野が融合した社会
ブレイクスルーを招きイノベーションへ

誰もが持っているものの上手く活用できていなかったひらめく力を内在化できると、どういったことが社会にもたらされるのでしょう。藪内特任助教は「異分野融合というものに必ず結びつくと思います」とし、そのためには似たような考えや意見が出がちな人とではなく、例えば違う業種で目新しい考え方をするような人たちと接することがポイントになると指摘します。「異業種や他の分野の人とのコミュニケーションが進むと、新しい発見や気づきがもたらされる機会が増えます。そこにこれまでに得た自らの知見や経験が加味されることで思いつくことに慣れ、ひらめく力の内在化が進みます。そうなると異分野の人たちとの交流が促されるだけではなく、ひらめくための行動を起こすモチベーションが自らに生じてくると思われます」と、ひらめく力が及ぼす影響を推察します。
さらに藪内特任助教は、「今すぐということではないですが、ひらめく力を備えた人が増えると、社会をいろんな視点から見られるようになるので、それによって分野の壁を突破する力が強くなるというか、社会がもっと活性化されればと思います。そして、そういう時にアート視点が活かされると嬉しいですね」と、アート視点研究への思いを口にします。

共同研究に参加した多くのアーティストのうちの解さん(上)、大西さん(下)

現在、我が国はこれまでに経験していない人口減少時代にあり、市場や社会の変化のスピード、複雑さが増しています。このような中、内閣府は「我が国が成長力の向上を図り、経済社会の活力を高めていくために、技術革新を含むイノベーションは生産性向上の源泉としてこれまで以上に重要な役割を担う」と指摘しています。
藪内特任助教が指摘した「分野の壁を突破する」ことを言い換えると「ブレイクスルー」になるでしょうか。「結局、ひらめく力を内在化することは、障壁となっていたものをブレイクスルーしてイノベーションに結び付ける、一つの方法を手にすることになるのだと思います。もちろん、その方法はほかにも多くあると思いますが…」と語る藪内特任助教は、「ひらめく力を備えた人が増えることで、社会に与える影響がより大きくなるのではないかと期待されます」と続けます。
「夢はでっかく、っていう感じですね」と、笑顔で研究への意欲を語る藪内特任助教の、これからの研究成果が注目されます。

藪内特任助教と作品「Iris」

※「JIMOTOフォトメッセージプロジェクト」は現在もスターバックスコーヒー金沢百番街Rinto店で開催されています(2021年5月頃までを予定)

 

本件に関するお問い合わせは以下まで

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@www-cms176.jaist.ac.jp

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■

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