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超広域材料探索技術を実現する「材料イノベーション創出システム」/物質科学領域 谷池俊明教授

企業の研究開発戦略においては新規事業研究と現業の深掘りのバランスが持続成長の要と言われます。しかし、既存の研究に追われる材料科学の開発現場には、新規の事業研究に費やす余力がありません。その課題を解決するために、物質科学領域の谷池俊明教授は、超広域材料探索技術を実現する「材料イノベーション創出システム」を提唱しています。

ハイスループット実験技術と機械学習技術の融合により、材料開発にイノベーションを起こす

技術革新のスピードがかつてないほど加速している中、材料開発の研究現場では複雑な材料設計を迅速に行う ことが今まで以上に求められています。そうした、高次元の業務効率化を実現するのが、谷池教授が提唱する「材料イノベーション創出システム」です。本システムは、個々の研究者のセンスや現場のマンパワーに依存する従来の方法から脱却し、日々刻々と変わる最新技術についての前知見を必要とすることなく、広大な材料空間から材料シーズを迅速に創出することで、人的、時間的リソースを抜本的に削減することを可能にします。

「材料イノベーション創出システム」は、大量の実験データを高速で集める「ハイスループット実験技術」と、過去のデータの蓄積から自ら成長し仮説を提唱する「機械学習技術」の二つの柱で構成されています。ハイスループット実験技術は、実験操作を自動化、効率化、並列化、またプロトコル設計によって実験回数を飛躍的に改善する技術のことで、谷池俊明研究室ではこれまで多種多様な材料に関するプロセスに対して共通の律速となっているボトルネックに着目し、それを解消するようなシステムを独自設計してきました。なかでもメタンの酸化カップリングという高難度な触媒反応の研究においては、たった一日で30年間の文献データの実験数を2倍以上も上回る4,000点のデータを生み出すことに成功し、物質探索の飛躍的なスピードアップに貢献しています。
もう一方の機械学習技術に関しては、ハイスループット実験技術によって蓄積された大量のデータをもとに、候補材料がどのように機能しているのかについての仮説を自動的に生成します。それにより、100万、1,000万通りの材料の探索が可能となります。


 
オープンイノベーションが材料開発の次なるステップへと導く

このような革新的な技術によって超広域材料探索を目指す「材料イノベーション創出システム」を通じて、谷池教授は材料科学分野の研究者と企業とのオープンイノベーションによって、社会を大きく変える新素材を迅速に設計することを目指しています。産学連携の取り組みを通して、各社の研究開発現場のボトルネックから業界全体の共通課題を解明し、その課題解決に資する要素技術や実験手法を、ハイスループット実験と機械学習技術によってデザインすることで、イノベーション創出までの最短経路を示すのがこの取り組みの最大のテーマです。

谷池教授:「たとえば高分子の溶媒混練成形は多くの会社で使われていますが、実験の回転数が非常に低く、どの会社でも大量のサンプルを要することが課題となっています。そうした共通課題を企業とともに見つけ出し、オープンイノベーションを通じて解決をしていく。さらには知財やノウハウを蓄積する中で、共通課題の解決に携わった研究者は、新しい研究のグランドデザインができる人材として、世の中に貢献していくことでしょう。目指すのは日本総イノベーション社会。さらなる基盤技術の集積と人材育成、そして日本の研究開発競争力の飛躍的向上を目指し、これからも材料イノベーション創出システムの開発に取り組んでいきます」