JAIST Nishimoto Laboratory

三人寄れば文殊の知恵.じゃあ百人寄れば?万人寄れば?でも,どうやって?

近年,ブレインストーミングに代表される,グループによるアイデア創造技法が,会社や研究所,学校などで多用されています. グループでアイデア創造を行う最大の理由は,他人が持つ自分とは異なる視点や知識に基づくアイデアから,知的触発が得られることにあります. しかし,毎日顔をつきあわせる同じ職場のメンバー同士でブレインストーミングを行っても,同じような視点や知識に基づくアイデアばかりが提出され, 「他者の異質性」をうまく活用でません.このため,専門分野を異にする「門外漢」を参加させることが有用であることが知られています. しかし,門外漢をたった一人だけ参加させても,知識分野の広がりは限定的です. 多様な知識や視点を持つ人々がたくさん参加できればこの問題は解決できますが, しかし,ブレインストーミングなどの従来の発想技法は,せいぜい10名程度の少人数での実施が限界です.

Hydra Brainwriting は,既存の Brainwriting 法を拡張し,最大100名程度でのアイデア創造を実施可能とする新しい発想技法です. 本手法の基となる Brainwriting 法は,6人の参加者がそれぞれ5分間に3つずつアイデアを案出してアイデアシートに記述し,このシートを隣の参加者に回すという作業を30分繰り返す手法です. Hydra Brainwriting 法では,このうちの1人を「代理参加者」とし,その代理参加者の手元に廻ってきたアイデアシートをネットワーク上で公開し, これを見た不特定多数のオンライン参加者が,LINEのようなオンライン通信機能を用いてアイデアを代理参加者に送信します. 代理参加者は,送られてきた多数のアイデアの中から,良さそうなものを3つ選出して,アイデアシートに記入して,隣の参加者に回します. これにより,従来6人でしか実施できなかった Brainwriting に,多様な知識を持つ大人数の人々からのアイデアを取り込むことが可能となります. 実際に60人程度のオンライン参加者が参加した実験を実施し,Hydra Brainwriting 法の実施可能性を示しました. 将来的には,TV放送などのマス・メディアを活用することにより,数万人~数十万人規模の参加が可能な手法の実現を目指しています.

Hydra Brainwriting 法の概念図
張 弛:大人数による発散的思考の実施手段に関する研究,修士論文,北陸先端科学技術大学学院大学,2017年3月.
張 弛,西本 一志:Hydra-Brainwriting:多数の人々が持つ多様性を活用する非対等型アイデア創造技法の提案,インタラクション2017論文集,1-506-25,pp.195-200,情報処理学会,2017.
張 弛,西本一志:多数の人々が持つ多様性を活用する非対等型アイデア創造手法の開発とその効果の検証,情処研報,Vol. 2017-GN-101, No. 19, pp. 1-6, 2017.