Reportイベント報告
JAIST BOOST-SPRING SYMPOSIUM「生成AIで世界はこう変わる」第一部講演 レポート【2/5】
AIの未来と人類の分岐点
最初に、AIの発展に大きく貢献した第一人者、ジェフリー・ヒントン先生の言葉を紹介しながら、AIの未来について考えていきます。ヒントン氏は、昨年ノーベル物理学賞を受賞された、まさに人工知能研究の神、ゴットファーザーともいわれています。彼は、現在の生成AIの基幹技術である「ディープラーニング」を生み出し、ニューラルネットワークという人間の脳を模した情報処理方式を生み出した人で、人間の脳を模倣したいというモチベーションがあった訳ですが、最近の生成AIの進化を目の当たりにして、「AIは私が当初考えていた人間の脳よりも優れているかもしれない」と認めるようになりました。
さらに彼は、「人間を超越するAIは、すぐそこまできているかもしれない」とも語っています。シンギュラリティ(Singularity)(注1)という非常に有名な名前がついていますが、これまでAI研究者の間では、「AIが人間を超えるのは30年後か、50年後か、それとも私たちが生きている間に訪れるのか」と議論されてきました。しかし、ヒントン先生は「それはもう数年後かもしれない」と指摘しています。
注1:シンギュラリティ(Singularity)
英語で「特異点」を意味し、「人工知能(AI)」が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)、また、それにより人間の生活に大きな変化が引き起こされるという概念のこと。
また、AIが人を支配するようになる可能性についても警鐘を鳴らしています。そして企業での講演や高校生の前で講演する際に、非常に気になる話として注目されますが、「仕事を奪われる」という話について、ヒントン先生は「人間が持っている能力でAIにできないことはないだろう。人間にできることは全部AIにできるはずだ」「私たちは歴史の分岐点にいる」と述べています。これはまさにその通りです。そもそも人類(ホモ・サピエンス)は、約30万年間、地球上で知的な存在として頂点に立っていました。たとえ最も賢い猿であっても、人間の幼稚園児の知能には及ばないとされてきました。しかし今、その状況が変わりつつあります。まさに分岐点にいるという訳です。

AGIの到来と人類の未来
AI研究の究極の目的の一つに、「汎用人工知能(AGI)」の開発があります。非常に簡単な定義だと、人間にできることは何でもできるAIのことです。AGIの実現には数十年、あるいは100年以上かかるというのが、2021年までの状況でした。しかし、ChatGPTが出てきて生成AIブームが始まり、世界のトップ研究者たちは、AGIの実現が「5~20年以内」に迫っていると予測しています。
そして、コンピュータサイエンスの最高賞であるチューリング賞を受賞したヤン・ルカン先生やヨシュア・ベンジオ先生も「数年から10年以内に人間と同等のAIが誕生する」と予測してます。
また、企業のトップもAGIの進化に言及しています。OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は、もうちょっと踏み込んで、「AGIではなく、人間を遥かに超えた人工超知能(ASI)(注2)が2030年頃には実現する」と述べています。さらに、GoogleのAI研究分野のトップであり、AlphaFoldの開発でノーベル賞を受賞したデミス・ハサビス氏も「10年以内にAGIが登場する可能性がある」と考えています。そして最後、GoogleやOpenAIの生成AIに匹敵するAIを作っているAnthropicという企業のCEOであるダリオ・アモディ氏は、「2026年にはAGIが登場する可能性があると予測しています。来年ですね。さらに、ダリオ・アモディ氏は、踏み込んだ意見として、AGIの実現によって「今後5~10年で人間の寿命が150年ぐらいになる可能性が高い」と述べています。
注2:ASI(Artificial Superintelligence)
AGIがさらに進化したもので、人間の知能をはるかに超えた人工知能
これだけ聞くと驚くような主張ですが、その根拠はAIによって科学的な発見の速度が上がることにあります。例えば、精神疾患の治療、感染症・癌の撲滅などが可能になると考えられています。飛躍的な非常に特徴的、大きい科学的発見というのが人類の社会を大幅に変化させます。最近ですと、新型コロナウイルスのワクチンを作った方がノーベル賞を受賞しましたが、そういった非常に画期的な科学的発見というのは人類社会を大きく進めます。そういう発見をAIによって非常に早くできるようになると、人間の寿命が150年という可能性もゼロではないでしょう。アモディ氏は単なる企業経営者ではなく、もともとGoogleやOpenAIでAI研究者として活躍し、スタンフォード大学やプリンストン大学で物理学を学び、医学部の研究員としても働いた経験を持っています。つまり、彼の発言は医学に全く知識がない人が適当に言っている訳ではなく、科学的な知見に基づいたものであり、決して根拠のないものではありません。
もう一人、注目すべき研究者の発言をご紹介します。2019年に登場した「GPT-2」は、「オモチャ」に過ぎず、小学生の文章問題すら解けませんでした。それが、たった数年で「GPT-4」という大学院の入試問題を解けるレベルにまで進化しました。「もしこの進化が今後も続けば、AIはやがてAI研究者と同等の知能を持ち、AIがAIの研究をする可能性がある」と彼は述べています。ここまで聞くと、もうSFです。では、「GPT-2」から「GPT-4」の間に起ったことが何だったのかというと、これは全然SFではありません。とても賢くはなりましたが、AIの規模を大きくするだけで実現したものです。つまり、人工知能を大きくしたら、能力が勝手にどんどん上がった訳です。これを繰り返すと、先程も言ったようにAIがAIの研究をするぐらい賢くなって、加速的にAIが発展し、20世紀で起こったような非常に大きな発展が今後数年で起きる可能性があると、この元OpenAIの研究員は述べています。
元というのが非常に重要で、現役のOpenAI関係者であれば、「投資を集めるためのポジショントーク」と捉えられる可能性がありますが、組織を離れた彼の発言は、より客観的な見解として注目されています。