(前編) 世界が注目する光で遺伝子をコントロールする独自技術は、医療、創薬の領域での活用に向け着実に研究が進む

 

通常、DNAやRNAを操作するにはタンパク質の酵素が用いられますが、酵素を最適に、思い通りに機能させるためには様々な条件が求められます。生命機能工学領域の藤本健造教授は酵素の使用に付随する様々な制約の排除を目指し、光でDNA、RNAを操作する技術を確立しました。長年の研究で他の追随を許さないポジションにある研究は世界から注目され、その応用領域の拡大が期待されています。

 

遺伝子工学に一石を投じた光による遺伝子操作
酵素に代わる画期的な技術は積年の研究の賜物

大学で有機化学を修めた藤本教授が研究者の道に進むと決めた時、まだ存在しない分子を創製して社会の役に立ちたい、という強い信念がありました。なぜ分子だったのでしょうか? 「分子ぐらいの大きさは、自分の発想を盛り込むのにちょうどいい大きさなのです。分子をデザインして人工的に作り、操作することもできますから」と、藤本教授は研究対象としての分子の特徴を示します。
化学で博士(工学)の学位を取得し、その後本学のバイオ系の教員に着任した藤本教授は、やはり分子で世の中に役立つ研究を意識していたといいます。「例えばバイオと分子について見てみると、遺伝子検査や診断といったところでは、いま新型コロナウイルスの感染検査で用いられているPCR法があります。これは完成された酵素だからこそできる素晴らしい手法なのですが、一方で酵素を実験等で取り扱うには、濃度や温度等の違いで使用が制限され、操作も複雑という様々な制約が生じます」。

酵素で遺伝子を操作することの問題点を指摘する藤本教授は、それらを解決する手段として光を用いた全く新しい方法を思いつきます。きっかけとなったのは、前職の大学で光を使ってDNAを分解する研究をしていたため、光と遺伝子操作のつながりの可能性を十分に把握していたことでした。「光は酵素より簡便に扱うことができ早く結果が得られ、検査機器への装着も容易です。この光を使う自身のアイデアを検査装置に盛り込むことができれば、社会のお役に立てられるかなと直感的に思いました」。現在、世界から注目を集めている研究は、20年ほど前の時点では特に根拠がなくぼんやりと頭の中をよぎったアイデアがきっかけだったと、藤本教授は当時を振り返ります。

酵素を用いない、光化学的DNA及びRNA操作に関する資料

 

狙った遺伝子の場所と時間を制御して照射
コスト、操作性も酵素の検査を凌駕する光

光を使って遺伝子を操作するメリットは多岐に渡り、「まず時空間制御、タイミングがあります。光は特定の箇所に当てた瞬間に能力を発揮してくれます」と、藤本教授はその特徴を強調します。酵素は放置しておけば寿命があるため次々と死活していくので、その機能を維持するため、あるいは効力を最大限にするために細心の注意を払って取り扱う必要があります。一方で光は、ある場所に当てるとその瞬間にスイッチがオンになり、時空間、つまり当てたタイミングと場所を特定しながら遺伝子を操作できることが他の操作法と比較して圧倒的なメリットになります。
また、使用する光源はLEDなので、検査装置に容易に組み込むことができます。しかも秒単位の照射で済むことから、LEDの寿命を考えると圧倒的なコストダウンが可能となります。
藤本教授は「開発途中のような酵素を取り扱うには専門の知識や、デリケートな扱いが必要になるなど、厳しい品質管理が求められます。そうなると、プロでないと扱えなかったり、準備が大変だったりします。さらに、酵素にはロット番号があって、同じロット番号でないと同じ再現性を得られなかったりします。そういった意味でも光はスイッチ一つで誰でも同じことが再現できるので、操作性にも優れていると思います」と、光を使うことの優位性を指摘します。

 

光を使うことで思い通りのタンパク質を作成
米の遺伝子の解析を通じて光の優位性を実証

では、光を照射して遺伝子を操作することで、何ができるのでしょうか? 遺伝情報の継承とその発現を担う生体物質であるDNAのコピーのようなものにRNAがあります。このRNAが持つDNAの設計図のコピーに基づいて藤本研究室は望みのタンパク質を作ります。「細胞のタンパク質を合成する役割を担うリボソームRNAといわれる物質がメッセンジャーRNA上を動いていくことでタンパク質が作られます。そこに私たちが開発した光に応答する人工DNAと呼ばれるものを挿入します。人工DNAは目指す特定の場所で止められるようになっていて、これを外から操作します。光の操作で人工DNAがメッセンジャーRNAにロックをかけると、リボソームRNAがそこで動けなくなるのでタンパク質の生成が止まり、狙っている性質のタンパク質の生産量を自在に調節することができます。こういったことが実際にリモートで外から光を操作することで可能になったということなんですね」と、光を操作することで、思い通りにタンパク質の生産量を制御できる理由を藤本教授は説明します。

この光を使った操作の有効性は、遺伝子解析の分野でも示されています。それは石川県立大学との共同作業だった米の品種解析でした。品種解析とは米の遺伝子解析のことです。実際に売られている米の中には、コシヒカリといいながら別のものが混ざっていたりするケースがあります。このように、売られている米が本当にその品種なのかどうかを判別することを、光を使った遺伝子解析で実証したのが7年前のことでした。「その解析で使ったDNAチップ(細胞内の遺伝子発現量を測定するために、DNAの断片をプラスチックやガラス等の基板上に配置した分析器具)上には4つの穴があるのですが、その一番右が光ったらアキヒカリ、右から2番目が光ったらコシヒカリと光を当てた時の光る位置によってお米の品種を同定することができます」と、光による遺伝子解析の実際を示します。

石川県立大学との品種解析の共同に関する資料

 

光による遺伝子の解析は医療の分野へ
病理解析の新たな研究で論文を発表

病院で患者の容態を調べる際には病理解析が行わるケースがあります。その時、RNAの情報を解析するために、シャーレに移した細胞を色で染めるFISH解析(蛍光物質をつけたプローブといわれる合成遺伝子を標的遺伝子と結合させ、蛍光顕微鏡下で可視化する手法)がよく用いられます。「光を当てて遺伝子が光るかどうか観察するのですが、この方法によって今まで見過ごしてしまっていたようなものを浮かび上がらせられるようになりました。RNAは3次元構造を持つ大変複雑な構造をしているので、これまでは検出が難しかったケースが多くありました。そこで、光はそういった複雑な構造に関係なく照射できることに着目し、光を当てることで今まで検出や解析が難しかったRNAの情報を取り出すことに成功しました。これは昨年の研究室卒業生の成果で、2020年の12月に論文として発表し、大きな注目を集めました」と、学生の功績を藤本教授は笑顔で語ります。

光による遺伝子操作のイメージと2020年12月に発表した論文に関する資料

 

次回は、藤本教授の長年の念願だった臨床、創薬における研究とこれからの抱負について紹介します。
本件に関するお問い合わせは以下まで

 

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@jaist.ac.jp

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■
生命機能工学領域
藤本健造 教授

https://www.jaist.ac.jp/areas/bb/laboratory/fujimoto.html