(後編)<シーズレポート> 東日本大震災を教訓に、災害が社会に与えるインパクトを最小化するシステムの社会実装を目指す

 

取得した多様な災害データをいかに有効に活用するか。地域の防災力を向上させる研究は、データの収集、解析と同じかそれ以上に重要とする、得られた情報を使えるようにする仕組み作りに進展しています。

 

衛星画像以外のデータ取得手法を研究
ドローンを使ったデータ収集は水中でも

郷右近准教授がJAIST着任後に始めたのは、衛星画像に限らないデータ取得手法の開発と、そこから得られたデータを活用して災害被害を把握する仕組みの研究です。一例をあげると水中ドローンがあります。洪水や津波等による水中の被害の状況は、レーダー波が届かず、把握するのが困難です。そこで、水中ドローンを使った画像データの収集を試みています。郷右近准教授は、「先日琵琶湖で180cmほどの大きさのマネキンを水中に沈めて、水中ドローンでマネキンを検出する実験を行いました。一般的なイメージとしては、透明度が高い水中ではマネキンが沈んでいるとすぐに分かる気がしますが、実験はそうはいきませんでした。そこでは3~4m先しか見えなくて、水が濁っていたりすると何があるのか分からないという状況でした」と話し、研究が一筋縄ではいかない状況が伝わってきます。現在は、能美市の協力の下、物見山運動公園のプールでマネキンを沈めて、どれくらいまで水中ドローンを近づけたらマネキンが見えるのか、服の色を変えるとどう見えるのか、といった研究を進めています。
郷右近准教授は、「最終的には得られたデータを分析し、機械学習で目標物を検知してその場所が分かることを目指しています」と研究の目標を話し、「これが実現すれば、ダイバーに危険が伴う捜索活動を水中ドローンが取って代わり、安全に捜索できるようになります」と続け、水中ドローンの研究の意義を示します。

空中ドローンの研究は、産学官連携本部と協力して、能美市の農業地域での作物の作付け状況の把握等に取り組んでいます。今後の研究の構想として郷右近准教授は、「平時にも災害時にも使えるドローン技術の開発を目指しています。普段ドローンを操縦しない人がいきなり災害の時にドローンを飛ばせるかというと厳しいと思われます。そこで、日ごろから定期的に、同じルートをドローンで観測して、作物の生育状況の把握や山間部のクマ出没の安全管理に使用します。こうすることで、いざ災害が起きた時に、平時と同じルートにドローンを飛ばすと、どこで、どのような被害が起きたのかを把握できるので、実用性を備えることになります」と、空中ドローンの有効な活用法を指摘します。。

物見山運動公園のプールで進められている水中ドローンの研究

 

災害被害を最小化するシステムの社会実装に着々
シビックテックは一つの有力なアプローチ手段

平時、災害時を問わずドローンを活用できる仕組みも研究している郷右近准教授は、いまドローンの有効活用を目的としたコミュニティを作ることを考えています。「農家の人だったり、防災士だったり、いろんなバックグランドの人に来てほしいですね。毎月JAISTの体育館でドローンの操縦を練習する機会を設けていますが、画像解析の技術やドローンのオペレーション技術という本学の先端技術もコミュニティに提供します。そうしてコミュニティの技術レベルを上げていくことで、実際の災害時に、より有用な被害情報を得ることができる社会システムを作っていきたいと考えています」と、社会実装に向けた意欲を口にします。

郷右近准教授はコミュニティづくりの一つのアプローチ法としてシビックテックに注目しています。シビックテック(Civic Tech)とは、シビック(市民)とテック(テクノロジー)を掛け合わせた造語で、市民がテクノロジーを活用して、地域が抱える課題を解決する取り組みや考え方のことです。金沢市の企業が、身近な課題の1つ「ゴミの捨て方の周知」に焦点を当てて開発した「5374.jp」(ゴミナシ.jp)はその先例としてよく知られており、また、現在のコロナ禍においてもいくつもの技術者集団が自発的にアプリ等を作って活躍しています。「そのドローン版のシビックテックを作りたいと思っています。その際は単に組織を作って運営するだけではなく、シビックテックの構築過程を分析して、一つのモデルとして確立します。そうすることで、そのモデルがこの地域で上手くいったら、同じやり方を他の地域でも活用して全国に水平展開をしていくことで、各地域で自発的に自分たちの街を守るためにドローンで撮影しようという組織ができます。その状況までもっていくための第一歩として、JAISTがある能美市はとてもやりすい地域なので、モデルケースを作りたいと考えています」と、将来を見据えます。

空中ドローンを操縦する郷右近研究室の学生と空中ドローンからの画像

 

地域の防災力を高めていく方法の理論の構築
大事なことだからこそ腰を据えて研究に取り組む

少子高齢化の進展による税収の減少や現在の新型コロナウイルスの感染拡大防止の施策等により、公助、つまり行政主導の防災対策にも限界があるとの指摘があります。そのような中で、郷右近准教授は「私たちが暮らす街を守っていくには、日本人がもともと持っていた自分たちの地域は自分たちで守ろうとする意識を思い出して、自主的に守っていく必要があると思います」とし、それは誰かに言われたからということではなくて、内から湧き出る動機がないと難しいと指摘します。所属する知識マネジメント領域は、その動機を引き起こす方法を探求することも範疇としており、その方法が確立できたら研究としても興味深く、社会貢献にもつながると考えています。

今後の研究については、「地域の防災力を向上させていくことを前提に、まず災害情報を収集する技術を確立していかにして現場で使っていくか。そして、その情報を活用して人々がいかに協力して災害と対峙できる仕組みを作るか、を追求していきます」と、抱負を語ります。そのためには、災害情報の収集技術の開発にしろ、人々が協力し合えるコミュニティの構築にしろ、一つの科学としてしっかりと信頼性が担保された理論を有している必要があると郷右近准教授は言います。「これらの研究は短期的に成果が出ることではないですし、すぐに論文になるようなこともないと思います。しかし、社会で本当に役に立つものであり、重要なことだと思うので、信念をもって取り組んでいます」。

本学着任から2年が経ち、学内外に着実に活動領域を広め、深めている郷右近准教授。指摘の通り、すぐに結論が導き出せる目標ではありませんが、時間をかけて研究ができる大学という組織の強みを活かし、「災害に強い社会の実現」に向けて精力的に研究を進めています。

JAISTの体育館で行われている空中ドローン操縦の練習

 

 東日本大震災を教訓に、災害が社会に与えるインパクトを最小化するシステムの社会実装を目指す(前編)はこちら。

 

本件に関するお問い合わせは以下まで

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@jaist.ac.jp

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■
知識マネジメント領域
郷右近英臣准教授

https://www.jaist.ac.jp/areas/km/laboratory/gokon.html