産学官連携の取り組み

2021年 1月20日

(前編)共創関係から得られた刺激が、アパレル産業に新たな息吹を吹き込む

本学教員の研究シーズの紹介が続きましたが、今回は既に実用化された共同研究を取り上げます。環境・エネルギー領域の増田貴史講師は半導体工学と分子間力を専門としており、アパレル産業と共に取り組んだ共同研究のテーマは染料開発、特に分子間力を活用した吸着力の高い天然色素の設計とその社会実装でした。その成果はSDGs達成に資する活動として反響を呼んでいます。

 

化学染料による染めが普通になっている染色の世界
天然染料で土壌・水質汚染からの脱却を目指した

増田講師が専門とする分子間力(カシミールリフシッツ力)を活用して、天然染料の機能を化学染料の水準にまで向上させることに成功した事例は、「化学染料から天然染料」の社会的な潮流を創り、染色排水を無害化する可能性を秘めた活動として多くの注目を集めました。

この活動成果は、科学技術イノベーションによって社会課題を解決する優れた取り組みとして多くの賞を受賞することになります。2019年には科学技術振興機構(JST)主催の「STI for SDGs」アワードで最優秀賞となる文部科学大臣賞を、2020年には国際的な影響力を持つ研究者の一人として増田講師はドイツの「Falling Walls Award」のEmerging Talents部門でFinalistに選ばれました。また研究成果物の一つ、草木染め加賀友禅(作製:久恒俊治氏)は石川県の「第10回 いしかわエコデザイン賞 2020」の金賞を受賞しています。

活動の背景は、アパレル産業の汚染排水に対し、環境負荷低減への社会要請が高まりつつあることでした。アパレル産業は世界の汚染排水の20%を排出し、その内2~20%が廃棄染料といわれます。そこでは固体換算で年110~150キロトンの化学染料が環境廃棄され、その9割近くで発がん性が疑われており、高い環境負荷と劣悪な労働環境が社会問題となっています。染色排水が無害な天然染料の機能を化学染料水準にまで高めることができれば、これら社会問題の解決に向けた大きな一歩となります。

分子間力を設計した天然染料による草木染めドレス

 

本学知識科学とマテリアルサイエンスの融合がきっかけ
二人が融合の可能性を論じる中で組織の胎動が始まる

6年ほど前、本学では知識科学系とマテリアルサイエンス系の融合について盛んに論じられていました。その流れの中、マテリアルサイエンス系の増田講師と当時本学の知識科学系に在籍していた杉山山梨県立大准教授が協力し社会課題の解決に向けた活動を開始しました。社会課題の解決には科学技術イノベーションだけでなくパートナーシップが必要という認識の下、多様性ある人と対話、協力ができる場所として「ArtTech」というプロジェクトを組織し、このプロジェクトには最終的に6大学40企業130名を超すメンバーが集まりました。その目的は「ポストSDGsの社会像を描く事」であり、その活動の1つとして上述の天然染料の高機能化と社会実装、つまり「アパレル業における脱石油化学のビジョンを創る」取り組みが始まりました。成果物の1つとして昨年、化学染料に匹敵し得る機能を持った天然染料が開発され、実用化されています。

天然染料の原料には北陸地域の農家から提供された廃棄農作物が用いられており、廃棄物の資源化に繋がっています。更に国際的な繊維産業の中心地である北陸(特に石川・福井)で使われる化学染料を天然染料に置き換えることで、天然染料の持つ低環境負荷や地域性といった価値を付与した競争力の高い繊維を実現しています。分子間力の研究は天然染料の高機能化といったアウトプットを通して、地域内の多様な業種が協力した製品作り・地域共創の新たな枠組み作りに繋がりました。

増田本学講師(左)と杉山山梨県立大学准教授(右)

 

多様性を掛け合わせる、共創関係を創る、場所
社会をいかに巻き込むか、にこだわり活動する

ArtTechについて増田講師は、多様性を掛け合わせ、共創関係を創ることで、創造性が生まれるところだと言います。そして「唯一の目的・ビジョンは、ポストSDGsの社会像を創ることです。SDGsは2030年までの目標を掲げていますが、ArtTechではそれ以降にどんな社会を創りたいのか、をメンバーと共に常に考えていました」と、当時を振り返ります。

メンバーそれぞれが自らの専門分野で、実現したい将来像の姿をイメージして協力することが大事だとする増田講師。地域との共創関係作りでは、社会をいかにして巻き込むかをポイントにあげ、「これからの社会では地域の人は科学技術の浪費者ではなく、むしろ発明者です。トップダウン的で均質的な科学技術や社会像が発展する一方で、地域の中から生まれる多様性に富んだ草の根的な科学技術や社会像が社会全体に与える影響も大きくなって欲しい」と期待を込めます。さらに「地域の人たちを巻き込み、彼らとの対話と最先端の科学技術とを通して目指したい社会像を描く、それが実際に形になったのが今回の天然染料です」と続け、先に記した地域共創の活動のひとこまを示します。

草木染めドレスのファッションショーで作製したドレス

 

次回は、増田講師の研究に対する考え方と、これからの方向性を紹介します。

 

本件に関するお問い合わせは以下まで

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@jaist.ac.jp

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■

環境・エネルギー領域
増田貴史 講師

https://www.jaist.ac.jp/areas/ee/laboratory/masuda.html