連載 最先端の科学と人類の歴史を学び 社会の分断を防ぐには

第5話 近代化に翻弄される日本の協同組合
 第1話第2話において, 現状の深刻な格差問題とその主要因である強欲な経済成長の追求について概説しました. また第3話において, 資本主義的な競争社会となったのは歴史的には新しく, 野生動物を含め人類は, 太古の昔から割と最近までは助け合う社会を基本とするものだったことにも触れました. これらを整理すると, 以下のように「協同組合」が近年注目されている理由が理解できると思います. 国連が認める世界的なその意義を, 改めて考え直さないといけないのではないでしょうか.

「世界を席巻してきた新自由主義がゆきづまりを見せている. グローバル経済の利益を享受する一部の高所得者と, その恩恵を受けられない低所得者との格差が拡大していることが主な原因だ. (中略)そのような情勢の中, 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2016年11月に 「協同組合」を無形文化遺産に登録した. 協同組合が 「共通の利益と価値を通じてコミュニティづくりを行うことができる組織であり, 雇用の創出や高齢者支援から都市の活性化や再生可能エネルギープロジェクトまで, さまざまな社会的な問題への創意工夫あふれる解決策を編み出している」 ことが高く評価されたものだ. そもそも協同組合は, 助け合い, つながることでくらしを守るために設立された. 日本をはじめ世界各国にはさまざまな協同組合があるが, いずれもお金をもうけることが目的の営利企業と異なり, 組合員が出しあったお金をもとに組合員や地域のための事業を運営し, 組合員の願いを実現することをめざしている. つまり, 組合員の, 組合員による, 組合員のための組織. これが協同組合の根幹だ.」書籍[5-1]v-vi頁引用.

 さらに日本では「講」という助け合いの仕組みが民衆に根付き, 江戸時代後期には組合的側面も持つ報徳運動が拡がったことを, 第4話において説明しました. 農民の, 農民による, 農民のための組織として. しかも, 世界初の生活協同組合として知られる1844年に設立された ロッチデール公正先駆者組合 よりも先に, 以下のように実態として協同組合が存在していました.

「天明・天保の大飢饉以降, 関東の農村では農地を手放し没落する農民が続出,(中略)そんななかで, 大原幽学(1797〜1858年)は, 農民の協同の力で先祖伝来の農地を守り, お互い没落を防止しようと, 長谷部村(千葉県旭市) で世界最初の農業協同組合ともいわれる 「先祖株組合」を結成したのであった. 具体的には, 各農家が先祖から受け継いだ農地のうち五両に相当する耕地(七畝) を出資し, そこから生まれる利益を無期限に積み立てる制度である. そして, 万一破産するものが出た時は, それまで積み立てた分の半分を与えて家名を相続させ, 農民の逃散を防ごうとするものであった.(中略) また, 幽学は各戸の農地を合理的に交換整理し, 農業技術を指導したほか, 今日の生協にあたる共同一括購入活動や村民教育なども行い, 平等な社会と人づくりに尽力したのである. 共同購入した品物は, 農具・肥料・種子など農業に必要なもののほか, 下駄・茶碗・手拭・櫛・鏡などの生活用品から薬にまで及んでいる. 」書籍[5-2]23-24頁引用.

 ところが, 明治維新以降, 古くから続く日本の考え方や優れた仕組みは時代遅れと見なされ, (法的整備のみならず, あらゆる点で) ヨーロッパ列強を手本とする風潮が強まったと推測されます. 思想的な議論とは別に, 今なら同時代の比較を論じられますが, 当時は双方の文献は限られ入手困難で, 植民地支配や世界大戦の反省のみならず気候激変の問題も顕在してない状況ゆえ, 特に日本的な考え方や実践の先進性は理解のしようがなかったのかも知れません.

「江戸時代が終わり, 鎖国が解かれた. 明治政府は近代化を急ぎ, 「富国強兵」「殖産興業」 を挙げて当時の主要産業であった農業の振興(勧農)政策を進めた. 」書籍[5-1]29頁引用.

 こうした中, 岩倉具視が金権大使を務める使節団(品川弥二郎や平田東助) が当時のドイツの協同組合を調査研究した帰国後, 信用組合法案が1891年に帝国議会で廃案となったものの, 1892年の日本発の掛川信用組合をはじめ静岡県内で信用組合が相次いで設立され, 1898年までに山形, 栃木, 熊本, 岡山, 京都, 東京, 大阪, 広島など全国に波及しました. 1900年の産業組合法で信用組合に法的根拠が与えられ, 今日の信用金庫や労働金庫へとつながっていることから, その源流は二宮尊徳の報徳五常講に遡ります. 以下から, 循環経済を目指していた ことも分かります.

「五常とは儒教で言う「仁」「義」「礼」「智」「信」のことで, 常日頃守るべきことだ. 節約と勤労によって少額の金を積み立て, 困っている人にお金を貸すのは「仁」, それを返すのが「義」, 利子を付けるのが「礼」, 返済のために工夫するのが「智」, こういう関係で結ばれてるのが「信」だと尊徳は言っている. この「信」で成り立つ貸し借りは, 現代の信用金庫, 信用組合の礎となる「信用」にも通じるものである. 頼母子講などの庶民金融は古くからあったが, 五常講は道徳を前面に出したところがオリジナルと言える. 」書籍[5-1]15頁引用.

「その後, 一部の報徳社は信用組合に転換したものの, 多くは官僚の意向に従う形での信用組合への全面転換を選ばなかった. 掛川信用組合を創立した, 大日本報徳社の前身である遠江国報徳社も, 従来のままの道を選んだ. 」書籍[5-1]29頁引用.

 そして, 植民地支配されないようヨーロッパ列強に追いつけ追い越せと, 軍国主義の波が押し寄せ, 日本社会もおかしくなっていったようです.

「維新後の日本では, 西南戦争の戦費調達のために大量の不換紙幣が発行されて起きたインフレ, その反動としての松方デフレ政策, その後の日清戦争などで国民の生活は大きな打撃を受け, 富は資本を蓄積した一部の人たちに集約されていく. 農民の多くは困窮して土地を手放し小作人化していった. 産業革命後のイギリスと同じような社会状況が現出したのである. そこで明治政府は, 農民の困窮による社会不安を抑え農村経済の維持・充実をはかろうと, 1900(明治33)年協同組合を先取りして日本初の協同組合法(産業組合法) を制定する.(中略) 明治時代の社会主義は, 1917(大正6)年のロシア革命以降の社会主義とは異なり, 実は協同組合と同義語だったのである. その社会主義者たちのなかから日露戦争に反対するものが現れるようになると, 明治政府は「反戦的言論は, 愛国心を抹殺し, 皇室の批判に導く」 として強硬な弾圧に乗り出す.」書籍[5-2]29-30頁引用.

 大正デモクラシーとして知られる1920年代, 大杉栄らの労働運動 も弾圧されました. 一方, 大正・昭和の時代に既に, (今現在も問題となっている)資本主義でも社会主義でもない第三の可能性が, 協同組合に見出されていました.

「共済事業のみならず, 日本の協同組合運動, 労働組合運動を語るときに欠かせない人物に, 賀川豊彦(1888-1960)がいる.(中略) 賀川は協同組合を人間生活のあらゆる分野に広めることによって資本主義の弊害を抑止し, 貧困と恐怖のない社会を築くことを理想とし, 自由主義でもない, 統制経済でもない第三の道, 相互扶助による 「協同組合社会」を目指していた.」書籍[5-1]103-107頁引用.

「日本の協同組合生みの親である賀川豊彦は, 忘れてはならない協同組合の精神を「協同組合中心思想七か条」 としてまとめている(1954年). 「利益共楽, 人格経済, 資本協同, 非搾取, 権力分散, 超政党, 教育中心」の七つである. 生み出した利益はみんなで分かち合う, 投機に走らない・強欲にならない, 元手はみんなで持ち寄る, 誰も掠め取らない, 現場に近いところで物事を決めていく・権力を集中させない・一人一票原則, 時の政府や政党におもねることのない自立精神をうたった, それらのことを繰り返し伝え学ぶ重要性を説いた. 」書籍[5-2]116頁引用.

 ヨーロッパや東アジア各地の当時の協同組合にも触れておきましょう. 貨幣経済が浸透するにしたがって, かつては自給してた生活資材すら購入が必要となり, それら価格の高騰を高利貸しから借金で賄うも, 返済できず農地が奪われていきました.

「欧州の協同組合のルーツは英国だが, 農村信用組合は, 十九世紀半ばにドイツ西南部で誕生した.(中略) 当時の社会状況は, 産業革命後で農村の疲弊が深刻化していた. その中で「農村経済の自立と回復」をめざして発足したものだった. この流れは, 欧州から北米など世界各地に波及し, 十九世紀末には日本にも到達して産業組合となった.(中略) 厳しい状況の打開に向け, 住民が互いに助けあって(協同), 銀行や高利貸しに代わる農村住民のための金融機関を設立する意識が高まった. (中略)ドイツで農村信用組合が発足した当初の信用と経済の兼営は, 欧州では徐々に分化した. 一方, 日本では産業組合法を基盤に兼営組合が一斉に確立. 東アジアでも一部で紆余曲折があったが, 信用と経済が現在は兼営で発展している. 」書籍[5-1]148-159頁引用.

 各国の取り組みなど詳細な違いは多少あれど協同組合の基本的な考え方は, 第2話で触れた「脱成長」を支持するものであり, 人々の幸せに直結し得ることを以下で改めて確認しておきましょう.

「新自由主義の考え方は, 協同組合の理念とは相容れないものである. 協同組合が, ロッヂテール原則以来, 長きにわたって大切にしてきた, 一人ひとりを尊重し, お互いを認めあい, 参加・参画を重視するという考え方, 競争を煽るのではなく, 多様性を認めあい, 多少立場や考え方が違っても, そこで共通する思いや願いを大切にし, 協同を重視した事業や活動を通じてそれを実現する考え方とは, きわめて対照的である. 機会の平等を前提としたうえで一人ひとりの努力のみ促すのではなく, 多少時間がかかっても結果の平等に配慮しながら, 一人ではできないことを協同の力で解決していく. さらには, 単一専門的な利益だけではなく, 複数の事業を営みながら相乗的な利益を求めていくことが協同組合事業の特質であり, 一般に言うビジネスとは異なるものである.」書籍[5-1]218頁引用.

 以上, これまでの社会の仕組みに関する歴史的経緯を概説してきました. 第6話では今後の近未来に目を向け, 格差の根源である資本主義経済でも, 腐敗した社会主義経済でもない, 第3の可能性として協同組合が主体となる 社会的連帯経済の現状を交えて紹介します.

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[5-1] 日本農業新聞 (編集)
『協同組合の源流と未来― -相互扶助の精神を継ぐ-』
岩波書店 (2017/6/28), ISBN-13: ‎978-4000612043
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[5-2] 高橋均 (著)
『競争か連帯か -協同組合と労働組合の歴史と可能性-』
‎ (株)旬報社 (2020/6/29), ISBN-13: ‎978-4845116430

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