連載 最先端の科学と人類の歴史を学び 社会の分断を防ぐには

第6話 先進的な協同組合の現状と共通課題
 第5話では, 助け合い社会の基盤となり得る協同組合の誕生経緯を, 主に国内に焦点を当てながら概説しました. 日本の協同組合は法的裏付けがあるものとして, 1940年代後半に制定された農業協同組合法, 消費者生活協同組合法, 水産業協同組合法などに基づいて設立されていますが, 規模や雇用確保の観点で優良企業と言えるJA(農協)や生協を除いて, 漁業協同組合, 事業協同組合, 信用協同組合などでは企業と言うより業界団体色の方が強いようです. 改めて以下のように, 協同組合を企業として捉えておきましょう. 但し, 日本の中小企業等協同組合法の企業組合は, 組合員を主体的存在とみなさず 問題があるようです.

「資本家の欲望を擁護した「経済学の父」アダム・スミスは, 一方で, 成功した大企業が社会的に独占することを憂慮する文章も, 『国富論』のあちこちに残しておいた. 市場での唯一の事業者として独占権を行使しようとする資本主義社会の企業の欲望は限りないことを, いち早く見抜いていたのだ. 協同組合は, 多数の経済的弱者がたがいに手を取り, 力を合わせて市場経済力を養い, 資本主義独占の致命的な弊害を克服しようとする企業である. 福祉制度や慈善団体からの助成を期待せず自己責任を基本としているので, 共に歩む人たちの自尊心が高められる.」書籍[6-1]15頁引用.

 理念だけでなく実際に, 協同組合企業は, グローバル資本主義企業に対抗できるのでしょうか?. 世界の現状は以下のようになっていて, 基本的には弱者の集まりながらかなり強力な存在になっている ようです. もちろん, これらは協同組合企業の潜在的な可能性を示す, うまくいっている例であり, 雇用を創出できず苦戦している例もあることは注意しないといけません.

「ヨーロッパの裕福な地域, エミリア・ロマーニャ州全体の経済を, 協同組合企業が引っ張っているって? プロのサッカーチームFCバルセロナとアメリカのサンキストも協同組合だって? 私たちには腑に落ちないことだが, 全然おかしいことではない. たくさんの協同組合企業が, 国家経済に大きな役割を果たしながら経済力を発揮しているのだ. 小売業と金融, 並びに農業の分野で, 協同組合企業の活躍が目立っている. スイスだけでなく, イタリアとドイツ, フランス, イギリスでも, 屈指の協同組合小売企業がその国の業界の先頭に立っているのである.(中略) ヨーロッパ最大の青果卸会社であるオランダのグリーナリー, デンマークの養豚業の90パーセントを掌握してるデニッシュ・クラウン, イタリア最大の牛乳生産企業であるグラナローロ, これらのブランドの共通点は, 園芸農家, 養豚農業, または酪農農業の協同出資で作られた協同組合企業だということだ. 農業改革のモデル国といわれるニュージーランドの農業を引っ張っているフォンテラ(酪農企業)とゼスプリ(キウイ輸出企業)もまた, 自国の農民が出資持ち分の100パーセントを保有する協同組合企業だ. 」書籍[6-1]17-18頁引用.

 もう少し細かく, 各国における協同組合企業の例を紹介しましょう. まずは, イタリアの消費者協同組合や酪農組合における雇用の確保について. (投資家への配当はないものの従業員らの給料分等は稼ぐ) 非営利企業による雇用創出は有効な手段であり, 小売業や製造業に次いで, 実際に米国では3番目の雇用数で, 小売業で支払われる賃金より平均で3割多くて建設業の賃金を6割上回るそうです.

「この都市での生活について次のように話した. 「ここは富に対する考えが私たちとは違うように思います. 私たちは, ある家が裕福だというと, 家を何軒持っていて通帳にはいくらあるのか, といったことを口にしますよね. でもここはそうではありません. 生活できるくらいほどほどに食べられる基盤があって, 福祉施設が整っていれば, それで満足しているみたい.(中略) イタリアはブランド品で有名ですけど, 実際にそんなに高い鞄を持ち歩く人は, あまりいないようです.」(中略) この地方の経済活動の30パーセントは協同組合が占めている. ボローニャに限って言うと, ボローニャでは400余りの協同組合が活発に動き, 経済に占める比重は40パーセントにもなる. 賃金はイタリア全体の平均賃金の2倍もあり, 失業率は3パーセントに過ぎない.」書籍[6-1]37-38頁引用.

「彼は「グラナローロでは職を失った人は一人もいませんでした. イタリアの協同組合では失業者はほぼ出なかったのです. なぜなら, 協同組合の最も重要な精神は働く場を守り, 人を守ることだからです.」 と答えた.(中略) もちろん協同組合も企業なので, 倒産の危機が皆無とは言えない. しかしそういった場合は, 失業した人たちをほかの協同組合で雇い入れるという方法を使って, 雇用不安の問題を解決している.(中略) 協同組合企業もほかの企業と同様に事業を展開して利潤を残すが, 最も重要視するのは組合員とその人たちの働く場なのである. 」書籍[6-1]52頁引用.

 次に, 北欧デンマークにおける風力協同組合や食肉加工組合の取り組みを紹介します.

「1997年に設立されたこの協同組合は, 海上に10基の風力発電機を所有している. 環境に関心を持つコペンハーゲン市民8600人がこのミドルグロン風力協同組合の所有者である. 市民が投資者なのだから, ここで出る利益は特定企業の株主が持っていくのではなく, コペンハーゲン市民に還元されるわけだ.」書籍[6-1]74頁引用.

「デンマーク輸出経済の機関的役割をしているデニッシュ・クラウンの競争力は, 徹底した管理システムにある. カール・クリスチャン・モーラーさんは, 「国家間の競争とアメリカ産の安い農産物が, ヨーロッパ市場を脅かすのは間違いありません. なんといっても, デニッシュ・クラウンの製品は, アメリカやほかの国より価格が高い. でも品質は同じではありません. 私たちは高い品質を武器に競争しています. 動物の福祉と徹底した衛生管理, そして研究開発に持続的に投資しているので, デニッシュ・クラウンを倒すのは難しいと思います. 私たちは砂の城ではなく, 堅固に作られた城なのですから.」と語った. そうしてひと言付け加えた. 「デンマークの畜産農家が協同組合を作らなかったなら, 農民たちは無秩序で荒廃した競争をしながらさまよっていたと思います.」 」書籍[6-1]84頁引用.

 「無秩序で荒廃した競争」を, 私たちは知らず知らずのうちに強いられていると言えませんか. さらに, デンマークの乳加工協同組合は, 自国のみならず欧州各国に拡がって, 自然環境を守り食の安全を確保しながら, 雇用創出にも貢献 しています.

「ヨーロッパのどこに行っても信頼されている, 世界8位の乳加工協同組合アルラ・フーズ. 政府からの支援を受けることなく, 農民の自救策として作られた協同組合が, どうしてこれだけ大きくなれたのだろうか. それは決して, 少数の人によって短期間にここまで成し遂げられたのではない. エンズ・フィスケルさんのように, 協同の重要性に目覚めて共同の利益のために政策決定に積極的に参加した. 8000余りの農家が到達したものだ. これらの人たちは, 誰かが自分たちのために何かしてくれるのを待つのではなく, 自分たちで努力してシステムを作り上げたのである. 」書籍[6-1]88-89頁引用.

 南半球のニュージーランドでは研究を通じた技術や製品の開発で, 環境に配慮した企業活動に取り組んでいます.

「「酪農民が生産した牛乳の価値を高くすることがフォンテラの使命です」 と単純明快に言った. また, 「協同組合同士の協同」と「酪農家全体の協同」が, こんにちのニュージーランド酪農業の競争力を生んだのだと, 誇らしく話した. 「大多数の酪農家がフォンテラ1つに力を結集して, 強力なマーケティングの力量とブランド力を持つようになりました. 新製品を開発するのに年1億ドル以上投資します. フォンテラの研究所で働く研究員だけでも400人を越えます.」(中略) 「フォンテラは, 一貫して社会と地球に対する責任を果たしています. 水質保護と温室ガス軽減プログラムを遂行して, 世界で最初の酪農炭素追跡研究を行っています. フォンテラは協同組合ですからね.」」書籍[6-1]100頁引用.

 以上の例のほか, いくつかの協同組合銀行, 医療協同組合, 農民協同組合は, 世界市場で巨大資本主義企業と競争して成功しています. (多分変わってないと思いますが少なくとも2014年時点までは) 日本では農協や生協など 個別法体制 なのに対して, 世界の各国は国際協同組合同盟ICAによる1995年声明の協同組合原則に基づき統一的に法制定し, 社会目的・コミュニティ利益目的, 剰余金を協同財産として内部保留する 不分割積立金, 労働者だけでなく顧客や支援者も参画できる複合組合員, などの明記と実践が功を奏していると考えられ, 見習うべきでしょう. 但し, 協同組合企業が資本主義の株式企業と市場の均衡を保つほどの規模を持つには, 以下の三つの条件が必要だと指摘されています. これらを満たすことが, 国や地域によらない共通課題と言えます.

「1つ目, 経済活動には, 適者生存という論理を挙げて利潤を追求する形とはまた違うほかの形態があることを, 学校で教えなくてはいけない. ここ2世紀のあいだ世界は, 資本主義市場の拡散が社会病理の解決策であるという論理と, 市場は強者による弱者の支配という反対論理, この2種類だけを教えてきた. 互恵と連帯の精神で働く協同組合という企業形態が入り込む隙を与えなかったのだ. 二つ目, 商品自体の特性のみならず, 商品の生産過程に敏感に反応する消費者, すなわち社会的責任を負う消費者が登場することである. 三つ目, 政治的・制度的装置を完備する. 協同組合をはじめとする多様な形態の企業が, 市場で(資本主義株式会社と) 同じ出発点に立てるよう社会秩序が支えなくてはいけない. 」書籍[6-1]207頁引用.

 どのような社会秩序を形成して, どう維持すべきかについては更に検討が必要と思われます. 一方, 日本における地域の助け合い的な企業活動に着目すると, 現状は余り芳しくないように見受けられます. ヨーロッパ列強を模倣した近代化や軍国主義の悪影響のみならず, 昭和の時代に高度経済成長の下で工業社会化が進み, 製造業を中心に大企業から中小企業, それら中小企業から零細企業へと縦の下請け序列構造が出来てしまい, 弱者が自立して結集することが困難だったと考えられます. 上記の三条件が一つも満たされてません. また, 第10話で触れますが都市と地方の問題もあり, 以下のように苦戦しながらも努力が続けられているようです.

「いままで, 私たちは, 見かけ上の売上や投資額の大きさで, 経済効果を測っていました. しかし, その商店の売上や向上の投資額がどれほど大きくとも, そのうちどれだけが地域経済の中にとどまり, 新たな所得を生み出すかが大切なのです. 私たちは, まず, それぞれの地域において, 一人ひとりが受け取った給料やお店の売上が, その後どのように域内に流れているかを, 確かめていく必要があります. 」書籍[6-2]7頁引用.

 域外からお金が流れ込み, 即座にまた域外に出ていくような外部依存型の状況は, 穴が空いた漏れバケツ理論 として例えられています. 利益の横取りとして即座に域外に使用料などで出ていく典型例には, 第2話 で触れた本来は共有物であるべき社会インフラ資本としての, 電気, 通信, 通販, 物流などのネットワーク事業が含まれていることにも注意しましょう. 一部による独占で強いられた依存は, 第1話で触れた地球規模の格差と規模は違えど, そこからの脱却が同様な共通課題と言えそうです. 一方, 野菜とパン, スーパーやコンビニに関して, グローバル企業など域外企業に横取りされてる具体例を以下に紹介します.

「全国の中山間地域で増えてるパン屋さんについては, どうでしょう.(中略) 1個100円の域外製のパンと1個150円の原料を含めて地元製のパンについて, 先ほどの地元での所得発生率をかけて計算すると, 実は50円という価格差以上の所得差が生じてきます(58円分). 安いからといって, 域外のものばかり買っていると, 地域経済としては「身ぐるみ剥がれる」ような結果を招いてしまいます. 」書籍[6-2]52-53頁引用.

「大手の全国チェーンのスーパーやコンビニでは, 地元からの仕入はゼロに等しく, 当然ながら地元産の商品もほとんど並んでいません. その結果, こうしたスーパーやコンビニで買い物をすればするほど, 多くのお金が域外に逃げていく結果となります.(中略) 一方, 産直市では, 域内の仕入比率も生産比率も5割を越えており, 地域内での所得の確保に大きく貢献しています.」書籍[6-2]56-57頁引用.

 極端な話, 安いからだけで購入していると, 巨大資本主義企業の独占を手助けして, 第12話 で挙げる例のように世界に貧困者を生み出し苦しめることになるかも知れません. どの地域でも多少の差はあれ同じように, 大手企業に利益を吸い取られる構図が蔓延していると考えられますが, では何をどう進めたらよいのでしょうか?

「地域の構造とキーパーソンの把握, キーパーソン同士をつなぎ, 地域の新たな共通価値の創造へ(中略) 地域が一丸となって, 大切に守り育てていくべき共通の価値や資産は, 地域の人々が, 地域のすごさを認識し, よりよい未来を考える, という一連の発見的な活動のなかで見出されていくものです. 」書籍[6-2]91頁引用.

 キーパーソンの存在は重要ですが, お金等の循環が地域内だけで閉じるのは好ましくなく, 地域内外の繋がりを適度にバランスさせないといけないでしょう (強すぎる内輪の問題は第11話で議論します). もちろん, 略奪的な大きなバケツの穴は閉じないといけません. 第7話では, 農業, 畜産業, 小売業のみならず 他の業種においても通信・電力・物流の新技術を活かして, 脱成長の平等社会に向けたさまざまな試み がなされていることを紹介します. またその際, お金の循環だけでなく, 人材の交流移動も重要で, それを可能にするコミュケーション形態の組織文化についても触れます.

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[6-1] H.Kim他 (著), 中野 宣子(訳)
『地域に根差してみんなの力で起業する -協同組合で実現する社会的連帯経済-』
彩流社 (2018/6/19), ISBN-13: ‎978-4779124631
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[6-2] 藤山浩 (著, 編集), 有田昭一郎 (著), 豊田知世 (著)
『「循環型経済」をつくる -図解でわかる田園回帰1%戦略)-』
農山漁村文化協会 (2018/3/26), ISBN-13: ‎978-4540171086

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