連載 最先端の科学と人類の歴史を学び 社会の分断を防ぐには
「所有権付きのソースコードはコンピュータソフトウェアにおける従来の知的財産権の体制の要石だ. (中略)オープンソースソフトウェアは, この論理をあっさりひっくり返す. オープンソースソフトウェアの本質とは, ソースコードがフリーであることだ. つまり, オープンソースソフトウェアのソースコードはソフトウェアと共にすべて使用者に公開されているのだ. この場合, 「フリー」とは自由を指す(無料とは限らない). フリーのソースコードは公開された公共物で, 非独占的なのだ. リチャード・ストールマンの言い方では, 自由にはそのプログラムを任意の用途に使い, その動作を研究して必要に応じて変更し, 複製を他人に再配布してプログラムを改良し, 全員に利益が及ぶように改良点をコミュニティで分かち合うという権利が盛り込まれている. プログラマーはこれを簡単な言い方で表現する. フリーソフトウェアの「フリー」は, 「無料なビール」という意味でのフリーではなく, 「自由な討論」という意味でのフリーだ.」書籍[8-1]14-15頁引用.
「スティーヴン・レビーの『ハッカーズ』は, 1970年代後半から1980年代前半の独占ソフトウェアの伸びがMITコミュニティに与えた切実な影響について触れている. 腕の良いプログラマーの多くは, ソフトウェアを手がける新興企業から実入りの良い条件を提示されて引き抜かれた. そして, MITは職員たちに守秘義務契約を結ばせるようになった.(中略) 彼にとって, ソフトウェアはコンピュータを動かすただのツールではなかった. つまるところ, 人間の創造性と表現の現れだったのだ. さらに重要なことは, ソフトウェアは公共善のために問題を共に解決するコミュニティの重要な産物だった. つまり, これは人間が用いる技術に関する問題であると同時に, 人間が暮らす社会に関する問題でもあったのだ. 独占ソフトウェアは, まともな社会の道徳的感情にまっこうから逆らうものだった.(中略) 主流の知的財産法の主張とは違って, 排他的な所有権は良いソフトウェアを書くように人々を動機付けない. それどころか, 従来の所有権をソフトウェアに適用すれば, 助け合いの心を持つ隣人たちを「海賊」にしてしまう.」書籍[8-1]66-68頁引用.
「1984年に, ストールマンはMITの職を辞した. 「フリーソフトウェア」というものに専念するために, 彼は非営利団体であるFSF(フリーソフトウェア財団)を設立した. 誰でもダウンロードし, 変更して自由に配布できるまったくのフリーOSを作ることがその目的だった.(中略) GPLの下に使用を許諾されたソフトウェアを独占化できず, フリーソフトウェアの派生作品もフリーでなければならない. GPLはさらにこの考えを推し進め, GPLの下にあるコードを独占物に使用するのを禁じたのだ. GPLではフリープログラムを「非」フリープログラムと混合することは許可されていない. 」書籍[8-1]68-70頁引用.
「オープンソースの神髄はソフトウェアではなく, ソフトウェアが作られるプロセスなのだ. (中略)生産プロセスあるいは物作りのやり方は, 生産される人工物よりもはるかに大きな重要性を持つ. なぜなら, さらに広く広まるからだ. たとえば, トヨタは他に先駆けて自動車工場にリーン生産方式を導入した. 二十年後には, この方式は産業経済全体に浸透していた. 同様に, オープンソースもソフトウェア作りの手法の一つとして自らを確立したのだ. 」書籍[8-1]78-79頁引用.
「オープンソースのユーザー兼プログラマーたちの行動論理は, 抽象的な理論から生まれたわけではない. 大規模で分散的な協力体制を維持する方法について, 本格的に議論して必要な課題や手順を導き出したわけでもない. 試行錯誤からそれは生まれたのだ.(中略) オープンソースで人々が何をするのかの要点をとらえた八つの理念をここに並べてみよう. 1. おもしろくて, 必ず実現させること. 2. かゆいところに手は届くこと. 3. 一からやり直すのはできるだけ最小限に. 4. できる限り並行作業で問題の解決にあたること. 5. 大数の法則を利用すること. 6. することを文書化すること. 7. 早めのリリース, しょっちゅうリリース. 8. たくさん話すこと. 」書籍[8-1]98-110頁引用.
「芸術と美, 天職としての仕事, 共通の敵, エゴの拡張, 評判, アイデンティティと信念体系」書籍[8-1]180頁引用.
「コントロールは創造性を抑圧するが, 情報処理は最終的には創造性をもたらすべき」書籍[8-1]191頁引用.
さて, ソフトウエア開発から派生した現行の企業組織の問題を, もっと広い業種における一般性を持って考えてみましょう. これまでの内容と重なる部分は多々ありますが, その問題は以下のように表現できるのではないでしょうか. 働きやすいかどうかを超越して, 働く場の確保そのものが脅かされている と言えます. 新自由主義が広まってから, リストラや非正規雇用が増えてることとも無関係ではありません. 第1話で概説した世界規模ながら表面的な課題は, 私たち自身に深く関わる雇用にも悪影響を及ぼしていることが, やっと鮮明に理解できるようになったと思います.
「企業組織は貪欲で無慈悲なまで利益と成長追求をしています. それに対する乖離が今日増え続けています. そして, こうした誤った経営は, さまざまな組織で見受けられるのです. 私たちが知ってる範囲では, 非営利団体はその崇高な目的にもかかわらずより良い雇用を提供することにはなっていません. 政府機関も同様です. 病院を魂の抜けた工場に変えてしまい, 看護師たちは皆こぞって病院を去っていきます. 教師たちも, 教師と生徒たちがお互いの心を育てあうことができていません. 」書籍[8-2]21頁引用.
「およそ1万年前になって, 私たちは新しいレッド(衝動型)ステージに入りました. 数千人単位の社会が現れ, このまったく新しい複雑さのレベルに対応し, 社会秩序を保つために, 首長という役割が出現しました. 首長は, 必要ならば暴力を行使しました. 研究からわかることは, この時代の人々は, かなり衝動的で自己中心的な方法で組織を運営していたということです. 彼らはまた, 内面化されたルールというものを持っていませんでした. 」書籍[8-2]27-29頁引用.
「アンバー(順応型)組織は, 農耕社会のように安定し, 再現可能なプロセスに従います. (中略)形式的肩書き, 職務, 指揮命令系統を発明しました. 身分が上の位の人間が考え, 下の位で実行がなされます.(中略) 誰もが自分の役割を知っています. 決まりきった儀式とプロセスによって, 誰もが人生の目的を知ることができるようになりました.」書籍[8-2]30-33頁引用.
「これは, 科学と産業革命がもたらしたパラダイム(世界観)です. このステージでは, 普遍的な真と偽のルールによって統治された固定的なものとは, 世界をもはやみていません. その代わり探求することで理解可能な内的仕組みと自然法則によって時計仕掛けのように動く複雑な世界だとみなします. 他人より速く, 賢く, 革新的に, 世界を理解し操作できるならば, より多くの成功, 富, 利益, 市場独占, その他のいろいろなものを手に入れることができると考えます.(中略) 科学による産業革命は, 私たちに自由と繁栄をもたらしました. 一方で, 私たちは同時に未来を隠す大きな影を見るようになりました. 1つは「変革を求めすぎ」という影で, それは, 基本的な生活要求に表れます. 企業は必要性を創り出そうとし, 人が本当に必要としない幻想までも供給し続けるのです. もっと所有したい, もっと新しい流行を, もっと若々しい身体を, とそれが人の幸せのすべてだと訴えるのです. それは, 「成長のための成長」を追求する段階にまで達しています. 」書籍[8-2]34-41頁引用.
「このステージの人は, オレンジ(達成型)組織が投げかける影に敏感に気づきはじめます. それは, 物質主義への執着, 社会的不平等, コミュニティの喪失や自然破壊といった問題への気づきです. 人は, 親密で調和した他者との絆を強く求めようとするものです. グリーン(多元型)組織が主張するのは, あらゆる人には基本的に平等な価値があり, あらゆる声に耳を傾けなければならないということです.(中略) 組織の原動力となる素晴らしい力強い価値観として, 「文化」というものが存在します. 私たちは, それが本当に力を持っていることを理解しています. しかし, 中央集権性をなくし, 権限委譲を拡大することは簡単ではありません! ここにグリーン(多元型)組織モデルがかかえる矛盾があります. 平等主義であることを望み, 参加者合意を求める一方で, オレンジ(達成型)組織の階層的ピラミッド構造を保全してしまいます. ここには, 価値観と現実の間に, まったく困惑させられる断絶が生じています. 」書籍[8-2]42-46頁引用.
「このティール(進化型)組織の世界観は, もはや, 神から付与された固定的なもの(アンバー:順応型)でもなく, 心のない複雑な機械のような(オレンジ:達成型)ものでもありません. それに代わり, この世界を, 本当の自分自身を発現する旅路の場とみなします. 私たちひとりひとりの可能性を広げ, 生まれつき持っている才能の錠を開けます.(中略) 私たちは「こうあるべき」 と言われる前提条件から解き放たれるのです.(中略) ティール(進化型)組織においては, 自分たちの持っている「自我」を手放すことから始めます. 私たちは, 遠くから自分たちの「エゴ」を見つめることを学び, それによって, 「エゴ」が生む恐れ, 野心, 欲望が, ひそかに自分たちの人生を操っていたことを知ります. そうして私たちは, よく見せようとか, まわりに合わせようといった支配を最小限にとどめることを学びます. その結果, 人を信頼する力を身につけ, 人生への信頼を高めることになります. 」書籍[8-2]52-53頁引用.
「ティール的な組織の創設者たちは, まったく異なるメタファーを用います. 驚くほどよく聞くのは, ティール組織を「生き生きした有機体」 あるいは「生命システム」という言い方です. 生命は, 進化に向けてあらゆる知恵を働かせながら, 底知れぬ美しい生態系を管理しています. そして, より高次の全体性, 複雑性, 意識のある組織に向けて進化します. 中心からの命令とコントロールなしに, あらゆる細胞とあらゆる有機体は自己組織化を求め, 自然に変化していきます.(中略) ティール組織は, 3つのブレークスルーをもたらします. それは, 今私たちが知っているマネジメントに根本的に挑戦するものです. (1)セルフマネジメント(自己管理): ティール組織は, 階層的, 官僚的なピラミッド構造から, 集合知と権力を分配委譲し, 流動的システムへ変容させる鍵を見いだしました. (2)ホールネス(全体性): ティール組織は, どんなときでも, 狭い「専門性」の世界に自己を閉じ込めずに, 自己の解放を促進するように活気づけます. ティール組織は, 自分らしさを隠す仮面を外すことのできる一貫した実現方法を開発しつつあります. 心の奥底にある「全体性」を取り戻し, すべての仕事仲間をそこに導きます. (3)常に進化する目的: ティール組織には生命(いのち)があり, 自立の方法性を保持していると言えます. 未来を予測しコントロールするものではありません. 組織のメンバーは, その組織が自然にそうなろうとしてる方向へ身を任せ, それに聞く耳を持つことを理解するように促します. 」書籍[8-2]72-74頁引用.
第9話では, 企業組織にも社会インフラネットワークにも脱集中化が必要不可欠であることを, 最先端のネットワーク科学とレジリエンス科学に基づき説明します.
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[8-1] S.Weber(著), 山形 浩生, 守岡 桜(翻訳)
『オープンソースの成功 -政治学者が分析するコミュニティの可能性-』 毎日コミュニケーションズ (2007/2/10), ISBN-13: 9784839916589 |
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[8-2] F.Laloux (著), 中埜 博, 遠藤 政樹 (翻訳)
『イラスト解説 ティール組織 ―新しい働き方のスタイル-』 技術評論社 (2018/12/11), ISBN-13: 9784297102579 |