第10話では,
東日本大震災において電力網や通信網など様々な社会インフラが崩壊することで顕在化した,
広域システムに内在する<中心-周辺>の根深い問題が,
強国と弱国, 富裕者と貧困者, 都市と地方などにも当てはまることを指摘しました.
ネットワークにおけるハブへの集中依存も同様な構図で理解できます.
また,
重要インフラ14分野には電力や情報通信が含まれ, 社会に多大な影響を及ぼすものと考えられています.
実際例えば,
2003年8月の
北米大停電や,
同9月の電力網と通信網が相互依存して拡大した
イタリア半島における大規模被害などが発生するとともに,
テロ攻撃や戦争による社会インフラの破壊も世界各地で既に起きています.
それらの背後には, 領土や経済的な支配が見え隠れしてなりません.
しかも, 全て他人事ではすまされず,
直接的なシステム障害のみならず, (原油, 農作物, 部品の輸入等を通じて)間接的な物価高騰など,
私たちの身近な日々の生活にも幾度となく影響を与えています.
「今日, 通信, 物流, 電力などの社会インフラが,
日々の経済活動や我々の社会生活を広く支えているのは明らかである.
一方, 経済取引, 人の移動や物資の輸送, 電気・ガス・水の供給,
携帯電話やPCでの情報通信, それらを制御するコンピュータ網は,
お互いに密接に関わっている.
これらは全て相互に関連・依存したネットワーク(のネットワーク)であり,
日々の社会生活の維持と技術インフラの役割はもはや切り離しては議論できない.
(中略)
しかも, 電力やインターネットだけの単一のネットワークの問題ではなく,
相互に影響して被害が拡大する点でより深刻な問題をはらんでいる.(中略)
地震, 津波, 大雨洪水, 台風などの自然災害は世界中で頻繁に発生し,
近年における地球規模の気候激変の影響からかますます巨大化する傾向にある.
ゲリラ豪雨やゲリラ豪雪が日本全国どこで発生しても不思議ではない.
そうした災害に伴って, 建造物破壊, (農業や漁業に不適切な)土地の荒廃,
物流停止, 停電, (システム障害等による)交通や通信の障害などが発生し,
大きな被害をもたらしている.」書籍[11-1]13-16頁引用.
第9話で説明したように,
現実の多くのスケールフリー(SF)
ネットワークは効率偏重の優先的選択により強者のハブに繋がる傾向がありますが,
逆に弱者の低次数ノードに繋がると,
災害や攻撃に対する結合耐性はどうなるのか想像できますか.
以下のように, 結合耐性が強くなる(より大きな被害でも連結性を保てる)だけでなく,
より多くの迂回路が存在して,
各ノードで処理可能な許容量を越えた過負荷の連鎖故障に対しても耐性が改善されることが,
最近科学的に解明されました.
多数の迂回路は, 後述するループ強化がなされていることに対応します.
第3話,
第4話,
第6話,
第7話で,
格差をなくして助け合う社会がより望ましく,
歴史的に人類はわずか数十年前まではそうしてきたことを説明しましたが,
弱者を見捨てないのは,
ネットワーク科学の立場からも繋がりを維持する最善の方法
だと言えます.
少々細かいことですが, そうした比較をする際には,
同じリンク総数であることを前提とします. なぜなら,
リンク総数が増えればバラバラになりにくくなるのは当たり前な反面,
リンクが多いほど維持管理に労力や費用が必要となり,
同じ条件での比較にならないので.
「優先的選択では, 強者に相当する高次数ノードにリンク追加しているが,
逆に弱者に相当する低次数ノードにリンク追加すると,
次数分布はどのように変化するのであろうか?
結論を先に述べれば、こうした逆優先的選択に従うと,
次数分布の分散(バラツキ)が小さくなって次数の格差が少なくなる.
(中略)逆優先的選択のネットワーク成長によって,
指数分布よりもさらに分散が小さく分布の幅が小さい(より格差が小さい)
次数分布となることで, 結合耐性や通信・輸送の効率などが大幅に改善される
」書籍[11-1]27-28頁引用.
「次数分布の分散が小さくランダムレギュラーグラフに近いほど,
結合耐性が強くなるのみならず, 代替経路もより多く存在する.
」書籍[11-1]127頁引用.
電力網や通信網など, 現状の非常に脆弱なネットワークから, 上記のように
弱者(低次数ノード)に繋ぎ変えれば,
災害や攻撃を受けても全体の連結性をより保てることが分かりました.
それは全てのノードの次数(リンク数)が同じで平等になる,
レギュラーグラフに近づくことを意味します.
もちろん, 平等になれば弱点であるハブは無くなります.
一方, 効率に関して,
平等な構造になると(仲介数+1で定義される)最短経路長は多少大きくなるものの,
現実的な規模(ノード総数が数万から数百億)
ではせいぜい倍くらいで抑えられます.
したがって, 科学に裏付けされた原理として,
これまで行われてきた効率重視のネットワーク設計構築では耐性を極端に悪化させるが,
近未来の実現に向けた逆転発想による耐性強化のそれでは効率はさほど低下しないのです.
では, ネットワーク成長を前提としないときは,
どのように平等な構造に近づけば良いのでしょうか.
実は10年ほど前に, そのヒントとなる研究成果として,
少ないノード破壊で最もバラバラに崩壊できる最悪攻撃は,
ネットワークからループ(閉路)
を無くして木構造にするノード除去と等しいことが物理学者によって理論的に示されました.
それらの除去でループ無となる複数ノードは,
コンピュータ科学でフィードバック頂点集合 (FVS)と呼ばれています.
「近年, バラバラに分断破壊される臨界点では以下のように,
ネットワーク構造の細かな違いに依存しないかなり広い範囲のクラスでループ無グラフになる,
より本質的な特性も分かってきた.
(中略)攻撃耐性の最適強化は,
FVSのサイズをできるだけ大きくするネットワーク構造をいかに見つけるかという問題に帰着する.
(中略)単にFVSのサイズを大きくするだけでなく,
局所的な三角形や四角形でないループの形成に不可欠なノードを増やすことが,
結合耐性の強化にはより重要となる. 逆に,
木構造になれば任意の節ノードの除去で必ず分断されるので,
任意のノード除去でも木構造になりにくい
(最小FVSサイズが大きいことに相当する)構造が最適な結合耐性を持つ.
しかしながら, そもそも評価尺度となる最小FVSを求めること自体が,
NP困難な組合せ問題に属する. したがって,
多項式時間の計算アルゴリズムは見つかりそうになく,
近似解法に頼らざるを得ない.」書籍[11-1]85-86頁引用.
上記の理屈から, 最適耐性を持つネットワークを探し出すのは,
様々なネットワークで木構造になりにくさを測って,
その中で最も木構造になりにくいものを見つけることになります.
ところが, それを1つのネットワークについて測るだけで天文学的な時間を要する訳で,
厳密には解けません. そこで,
最適解に近づく何とかより良いネットワークを見つける努力がなされてきました.
中でも特に,
木構造になりにくくするため,
ループを増やすのが実際に有効で,
しかも局所分散処理に基づいた自己修復法まで開発されています.
ここで, 「輪」は,
どこか一箇所のリンクまたはノードが無くなると途切れてしまう最も単純なループであり,
その輪に属するノード間にリンクを追加することでループが増えて強化されることに注意しましょう.
「与えられた割合の本数分の資源割当を考慮した頑健性と通信効率の両面で,
ループ強化に基づく自己修復法はこれら従来法を凌駕している.
輪形成とその後の輪上のループ強化が,
頑健性の向上に最適かどうかは現状では明らかでないが,
最小次数ノード結合の効果や木構造からできるだけ遠ざける方策として考えると妥当であろう.
」書籍[11-1]99-100頁引用.
出来るだけ平等に近づけるには, まずは(弱者救済の)底上げが有効な手段と考えられます.
ネットワークにおいても同様に結合耐性を強めるには,
第9話で述べた自己組織化の際に,
最小次数ノードにリンク追加する底上げが効果的なことや,
引いてはハブを無くして,
完全に
平等なレギュラーグラフが理想的なことが分かってきました.
最適耐性を持つには平等に近づくことが必要ですが, ほどほど近づけば
(半分くらいまでノードが機能不全になっても残りが未だ連結できるなど)
現実的には十分機能します.
但し, 平等に近づくだけでは十分ではなく,
各リンクが属する最短の穴に相当するループが三角形や四角形などでなく,
中くらいの長さ(総ノード数Nに対してlog N程度)であるべきことも判明しています.
伝達・輸送機能を主とするネットワークは,
形状維持機能を主とする鉄橋やビルなどの建造物とは異なり,
三角形による
トラス構造
はむしろ良くないのです.
一方,
中くらいの穴は,
純粋数学で長年研究され良い性質を持つとされてる
Ramanujanグラフとも密接に関連するものの,
繋がり方はガチガチの数式で表現される必要はなく,
偶然の結合があっても良いなどかなり自由度があるものと推測され,
その実現可能性も期待できそうです.
さらに,
第9話
で触れた(排他的な強い)内輪の密な団結によるモジュール構造があると,
不平等から平等に連続変化するいかなるネットワークにおいても,
結合耐性が極端に脆弱化することが極く最近明らかになっています.
また, 道路網や通信網などの社会インフラは地表面上に構築され,
効率性から近接結合に従い平面グラフになっていますが,
都市部などに電力や通信の設備ノードが局所的に集中するとモジュール構造が出来て,
脆弱化することも分かっています(
第10話
の人口減少とは違う別の設備集中の問題).
密に団結すると,
三角形や四角形などの短いループが出来やすくなって結合耐性を弱めるようで,
上記の穴の性質とも整合します.
したがって, 「自分たちだけ良ければ」と密に団結しすぎると分断を起こしやすく,
むしろ全体的にゆるく繋がった方が結合耐性を高める
と科学的に言えます.
「最小次数ノードに結合する効果は,
(比較的長距離の)のグローバルなループ形成を促進するリンク追加戦略でも顕著である.
」書籍[11-1]94頁引用.
「全てのノードの次数が同じ平等な構造が, 結合耐性としては最も良い.
利己的な優先的選択に基づく脆弱なSFネットワークの真逆こそ,
今後のネットワーク設計構築の目指すべき方向である.
」書籍[11-1]111頁引用.
これら最先端の科学的知見から, 災害や攻撃に対して
最も強い耐性を持つネットワークとなるための方向性が明示
されました.
第9話後半
でレジリエンス:復活力の基本的な考え方を説明しましたが,
ネットワークを分断させないようにするなど,
レジリエンス科学の立場からも整合性を持って,
広く安全とはどういう状態かについて以下さらに補足します.
「適応能力の維持として, 予測不能な混乱や変動が頻繁に発生する現代において,
状況の変化に適応しつつ自己の目的を達成する為,
好ましい状態からはじき出されないように抵抗力を強化し,
いざというときに備えて許容性の幅を広げておくことがレジリエンスを高める.
」書籍[11-1]88-89頁引用.
「21世紀においては,
安全は物事ができるだけうまくいくような状態として理解されなければなりません.
したがって, 安全に対する努力の目的は,
物事がうまくいかないのを防ぐということだけではなく, むしろ,
物事がうまくいくことを確実にしていくことになってきます.
これが安全への新しいアプローチであり, Safety-IIといわれるものです.
」書籍[11-2]vi頁引用.
20世紀以前の「安全」に対する考え方として, これまでのSafety-Iは受動的で,
起こってしまった後で原因を探り,
(完全な除去とは限らず費用に見合った範囲内で)出来る限りそれを取り除くことに注力します.
いわゆる事後対策ですね.
またそれは, 起きうることが予測可能であることを前提としています.
いかに高度な技術でも, 例えば人工知能:AIによる予測もこの範疇です.
第10話で触れた原発が,
安全だと主張するのは,
こうした20世紀以前の科学的見解で今や全く的はずれだと言えます.
「Safety-Iでは安全を, 望ましくない事象(事故, 不具合, ニアミスなど)
の数ができるだけ少ない状態と定義する.(中略)
この定義を踏まえれば,
安全マネジメントの目的は前記の状態を達成し維持すること,
すなわち許容可能なレベルにまで不具合事象の数を減らすことである.
」書籍[11-2]54-55頁引用.
「システムは分解可能で, 構成要素の働き方は2つのモード(正常か異常か)
のどちらかに記述でき,
出来事が進展する順序をあらかじめ正確に決めることが可能であるという仮定である.
(中略)20世紀初頭の仕事環境において妥当であるこの考え方は,
社会技術システムが分解できず, 2モード性にそぐわず,
あるいは予測可能でもない今日においては妥当性を失っているのである.
」書籍[11-2]107-117頁引用.
一方, 21世紀以降のSafety-IIでは, 事前対策として以下のように考えます.
災害などでは, 単独では小さな不具合程度で機能していても,
たまたまそれらが重なって大きな機能不全を引き起こす場合が多く,
予めそれらの膨大な組合せを想定して対策を施しておくことは不可能です.
そこでネットワークの安全性を高めるには,
出来るだけ連結性を保持できる確実な構造として,
常にレギュラーグラフに近づけるのが妥当だと考えられます.
すなわち, 災害や攻撃を受けてもネットワークが分断されにくく,
情報や物資の伝達・運搬がうまくいくには,
この第11話の上記で説明したネットワークの自己組織化や自己修復によって,
(ハブを無くして)出来るだけノードの次数を平等にしつつ,
内輪だけの団結(三角形など短いループの形成)
を避けるように常にしていく
ことが, このSafety-IIに相当します.
「Safety-IIは, 物事がうまくいかないことを防ぐのではなく,
むしろ物事がうまくいくことを確実にすることによって達成される.
」書籍[11-2]197頁引用.
「レジリエンスのアナロジーでは, Safety-IIを,
意図した結果や受け入れ可能な結果(言い換えると, 日々の活動)
ができる限り増えるように想定状況下でも想定外の状況下でも同じようにうまくできる能力と定義することもできる.
(中略)Safety-IIの安全マネジメントもレジリエンスエンジニアリングでも,
何事も結果にかかわらず基本的に同じように起こるということを仮定している.
(中略)Safety-IIの観点では,
安全マネジメントは対応処置だけでその目的を達成することはできない.
というのも, 対応処置は起こってしまったことしか修正しないからである.
何かが起こらないように調整するためには,
安全マネジメントはむしろ能動的(proactive)なものでなければならない.
(中略)この理解は個々の事象の原因を探すよりも,
むしろ事象間のパターンや関係を探すことで深められる.
パターンを見つけるためには, 個々の事象の原因探しに全力を注ぎ込むのではなく,
何が起こっているかを理解することに時間をかける必要がある.
」書籍[11-2]149-154頁引用.
日々の生活や経済活動における世の中の仕組みを,
人々や組織(企業など)を含むさまざまな物事が関連した全体,
すなわちネットワークとして理解することの重要性は以下からも伺えます.
残念ながら現実の多くのネットワークにおいて起こり得る「悪魔」の例えとして,
災害や攻撃で極少数のハブが機能不全になったり, 内輪で密に団結しすぎたりしても,
全体の連結性は保てなくなる傾向(パターン)が存在することを理解しましょう.
しかも, 電力網や通信網などのみならず, 経済システムや生態系など,
あらゆるネットワークが同じパターンを持つのです.
「Safety-IIを改善するためにリソースを用いることはコストではなく,
むしろ投資である.(中略)
Safety-IIの見方を探るのであれば, 悪魔はもはや細部に宿るのではなく,
全体に存在する. 実際には, 悪魔は, 我々が見えているところではなく,
見えていないところに存在している. システム, 組織,
社会技術的住居環境を全体として捉えて,
そららの働きについて考えを巡らすことは通常うまくいかない.
対象を細かく分解するというふつうのやり方では全体は理解できない.
そうではなく,
全体をそれ自体として表現するやり方によってのみ理解ができるのである.
」書籍[11-2]186-187頁引用.
そうしたネットワーク, すなわち,
(地球規模の問題に直面している)世の中の仕組みをより良くするには,
この第11話の上記で概説した自己修復や最適耐性を持つ構造が実現できるよう,
投資が必要だと言えます. つまり,
効率重視で無駄と捉えるコストを出来るだけ抑えて,
強者への
優先的選択
で多くのネットワークが構築されてる現状から,
レジリエンス的な多少の冗長性を許容して弱者に繋がる新たな構造に変革
しなければなりません.
その変革を起こせれば, 全体が分断されにくく, 例え部分的にダメージを受けても復活する,
大災害やテロ攻撃にも耐え得る社会インフラや,
信頼できる人々の助け合いの繋がりを維持でき,
格差を是正して平等ゆえ争いも抑えられ,
地球環境や暮らしを守る世の中に近づけられるでしょう.
最終回の第12話では,
分断しにくいネットワークや助け合う社会の実現に向けて,
さまざまな手段を講じる前段階として,
私たちの根本的な価値観を見直さないといけないことに注目して,
この連載のまとめとします.
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