Hokuriku Innovators

【北陸未来共創フォーラム presents】 Hokuriku Innovators 人に備わる知覚・知能を科学で解明 人に寄り添う五感情報DX/生体機能・感覚研究センター×北菱電興株式会社

北陸先端科学技術大学院(JAIST)では、人間情報学の専門研究者らが集い、最先端の知覚・知能情報をベースにした五感情報通信技術の研究・開発が進められています。生体機能・感覚研究センターのセンター長を務める人間情報学研究領域の鵜木祐史教授は、次世代五感情報DXを通じて、より豊かな未来社会の構築を目指します。

鵜木教授:「人間は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感を通じて、多岐にわたる情報を集めています。そこから我々がどう感じるか、あるいはそのような多岐にわたる情報を組み合わせてどのように概要を把握し、さらに意思決定をしているかなどのメカニズムを解明することで、人間の持っているモダリティを通じて日々の生活や社会全体を豊かにする、そんな研究を目指しています。」

例えば、サイバーとフィジカル空間を高度融合させる感覚エンリッチメントによる五感情報DXの実現によるリアルを追求したバーチャル空間の創出や、高度な情報科学を駆使した五感センシング技術の確立による高精度の遠隔操作など、様々な分野の産業発展や社会基盤を変革させることで、五感情報通信分野の研究から次世代を担うイノベーションの創出を目指します。

鵜木研究室では、「聞こえ」のメカニズムを解明する生理学や音が与える影響についての心理学、人の耳をコンピューター上に再現する情報科学という3つを軸に聴覚機能の解明に取り組んでいます。
同研究室の木谷俊介講師は、人に備わる聴覚機能の一つである、雑音の中でも自分が必要とする音情報を聞き分けることができる「選択的聴取」のメカニズムや、その発達の研究に取り組んでいます。さらに、人が「音」からどのような感覚を想起するかといった「深奥質感」について、日本の伝統芸能の能楽を題材に解明を進めています。

木谷講師:「能の歌唱の謡の良さは『幽玄』という言葉で説明されることがありますが、本研究は謡の中で人が『幽玄』を感じ取るエッセンスの科学的な解明を目指しています。その取り組みが、人間が「音」を聞いて感動したり落ち着いたりといった、聴覚情報が人の心理に影響するメカニズムの解明につながるのではないかと考えています。」

また触覚分野では、人間情報研究領域のHo准教授の研究チームが全方向に触覚・近接覚をもつロボットアームの開発に成功しました。柔らかいシリコン素材を用いたソフトロボットの開発を通じて、人とロボットの共存・共創を目指します。

五感によって集められた様々な情報を統合するのが、岡田将吾准教授の研究室が手掛けるマルチモーダルインタラクションと呼ばれるコミュニケーション手法です。岡田研究室では、行動やコミュニケーションから人の性格や能力を読み取る人工知能の研究を進めています。

岡田准教授「五感研究は一つ一つの分野において緻密な分析・探究が求められる分野ですので、一人ではなかなかできるものではありません。それぞれの研究者が、自身が専門に研究している感覚器以外の研究動向について把握するのが困難な状況のなか、様々な研究者が集まることで、今まで見過ごされてきていたことやまだ到達できていないような研究にチャレンジできるようになるのではないかと期待しています。」

こうしたJAISTの五感情報通信研究の分野においても、新産業創出のためのネットワーク形成・拡大を目指した産学官金連携の動きが広がっています。鵜木教授が座長をつとめる北陸未来共創フォーラムマテリアル分科会 五感情報通信に基づく学際的研究開発ワーキンググループでは、産学連携を通じたセンシングやデバイスの開発と幅広い分野での活用を通じ、AIデータ分析×知覚情報処理×五感センシングによって、Society 5.0の実現と五感情報通信によるイノベーション創出を目指しています。

鵜木教授:「同ワーキンググループの活動も3年目を迎え、アカデミア、公設試験研究機関、そして幹事企業も多く取り組みに加わっていただいています。その中で行われているのが、企業が課題に感じていることと各大学の教員が持っているシーズの融合です。ニーズとシーズを組み合わせた「共創」がやっと始まってきたので、今後もイノベーション創出に向けて取り組んでいきたいと思います。」

電子機器・制御システムの開発・製造など幅広い分野で技術開発を展開する石川県金沢市の北菱電興株式会社は、幹事企業の1つとして同ワーキンググループに参加しています。同社の研究開発ならびに新規事業開発の責任者である開発事業部 田井仁副事業部長は、産学連携を通じて新たなサービスやソリューションにつなげたいと語ります。

田井氏:「大学側に社会実装するという意識が強くあることは、企業にとってもメリットが大きいですね。五感情報通信分野の産学連携に関しては、「人と人」がキーワードになっている点で当社の理念にも合致しています。人の活動には対話やコミュニケ―ションが必要不可欠です。その中で、五感研究シーズを活用した一つ一つの技術が、どこかで社会実装につながる可能性を感じています。」

最後に、鵜木教授にJAISTの五感研究分野の産学連携の展望についてお話しいただきました。

鵜木教授:「五感研究はまだ基礎研究がメインになっていますが、それが社会でどのように役立てられるかを、アカデミアと産業界がもう少し踏み込んで議論する場が必要であると感じています。企業のニーズを踏まえた産学連携を通じて、社会との有意義な連携ができればいいですね。」

「産学官金連携」は、急速に変化を続ける社会の中で、イノベーション創出のカギを握る取り組みとしてますます注目を集めています。北陸未来共創フォーラムなどの地域横断的な取り組みから、Matching HUBなどの独自の連携活動など、JAISTは世界最先端の研究シーズと社会のニーズを融合したイノベーション創出に向けた様々な取り組みを行っています。JAIST-NETでは、そんな本学の産学連携活動についての情報発信を行っています。ご興味ありましたら、ぜひメルマガ会員への登録をお願いします。

【お問い合わせ】
北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部
Tel: 0761-51-1070
Email: ricenter@ml.jaist.ac.jp