連載 最先端の科学と人類の歴史を学び 社会の分断を防ぐには

第10話 独占支配を強いられ消滅する未来
 第9話で説明した, 攻撃に対する極端な脆弱性の元凶となる少数ハブへのリンク集中に潜む根本的な問題は, ネットワークに限らず, 強国と弱国, 富裕者と貧困者, 都市と地方などにおける, 集中独占による従属化として同様な構図が広く当てはまると考えられます. すなわち, 大多数の他ノードは個々の効率性からハブに繋がり, 少数ハブにリンクが集中する結果, ネットワーク全体の連結性をそれらハブに委ねてしまう (その結果, 少量のハブ攻撃ですぐバラバラになってしまう)ことは, 便利さや目先の利益で周辺:弱国・貧困者・地方が 中心:強国・富裕者・都市の要求を理不尽でも仕方なく受け入れ, その利益の大半が中心に還流する結果, 周辺は従属化かつ下位化され搾取されるしかない訳です. こうした問題は普段は隠れて見えにくいのですが, 大災害などの際にその本性を現します.

「東日本大震災・福島第一原発事故の発生から二年近くが過ぎた. 多くの人々にとって, この震災はすでに過去の出来事になってしまったかもしれない. だが, この震災がまだ終わってはいない. 事態はいまもなお進行中であり, むしろこれからさらに新たなことが始まる予兆すらある.(中略) ここから我々は何を問い, 何に取り組んだらよいのか. 問うべきものは何なのか. それがいまだに見えてこない. 本書ではそれを, 社会学の観点から考えていく. キーワードは三つ -広域システム, 中心と周辺, 主体性. これらは互いに関連しあってもいる.」書籍[10-1]9頁引用.

この広域システムは主に, 電気, ガス, 水道, 通信, 交通, 物流などに関する社会インフラネットワークだと言えそうです. あるいは, 現代社会における経済の仕組みそのものと考えても良いでしょう.

「日本社会はいまや, 広域にわたって形成された一つの巨大システムをなしている. 今回の震災では, この「広域システム」の存続を脅かす事態が生じた. 広域システムには「中心と周辺」がある. 震災は, 東北という日本の周辺に生じ, そして被災地という新しい周辺が東北の内に広く現れて, 多くの人々が周辺の中の周辺へと押し込まれていった.(中略) あらゆるものが周辺化する広域システムの中で, 当のシステムだけがその存続を果たしていく. そしてその存続も, 何かが主体的に目指されているのではなく, ただ結果としてそうなっているだけであって, ここでは人間は客体として存在するのみだ. もっともこうした人間そのものの周辺化は, 震災から始まったものではなく, それ以前から起きていたものでありそうだ. (中略)ここでいう「人間の周辺化」は, 近年のヨーロッパ思想界で「人のモノ化」 として主題化されつつあることに関係するもののようだ. この震災は, 日本社会の中でも同様の事態が着実に進展しつつあることを示している. いや, その行く着く先は, 西欧のもの以上に陰惨なものになりそうだ. 」書籍[10-1]10-11頁引用.

 第8話 で概説した時計仕掛けの機械とみなされるオレンジ(達成型)組織は, まさに「人のモノ化」に基づいていますね. 私たちは, 現代社会の中で(特に広域システムを通じて), 知らず知らずのうちに周辺化・従属化させられている訳です. 一方, そうした広域システム(つまり社会インフラの種々のネットワーク)は, 日々の社会生活や経済活動に必要不可欠なもの となっています. したがって, 第9話 で説明した現行のスケールフリー構造のままだと(大災害のみならず) 少量のハブ攻撃等でバラバラになり機能しなくなってしまうので, より良くするための対策が必要となります. 復活力を持つレジリエントなネットワーク構造となるよう, どのような対策をすべきかについては, 第11話で議論します.

「現代日本社会における人間生活は, いまや広域にわたる巨大システムによって成り立っている. 我々の暮らしは, 電気・ガス・水道などのインフラ, 高速交通網や, 電話, インターネットなどの通信網の中にある.(中略) また我々は全世界につながる商品流通網の中にいて, 巨大で広域な市場経済の恩恵なしに一日も暮らすことはできない.(中略) むろん消費だけではない. 生産の中にこそそれは大きく現れており, 今回問題になったサプライチェーンの破綻などはこの震災の象徴的な出来事だった. ある箇所の生産は全世界で展開されている生産工程に結びついており, 1ヶ所で生じた破綻が全世界の生産活動に直接影響を及ぼすことになる. (中略)この便利な仕組みがあの日, 壊れた. 」書籍[10-1]28-29頁引用.

「この震災で見えてきたことは, この二十一世紀社会においてはどうも, 大きなシステムが成り立たないと家も成り立たないし, 個の生活も成り立たないということのようだ.(中略) こうした広域システムが崩壊した時, 生活再建の条件は当然ながら, システムの回復を待つことになる. しかしながら, システムを立て直すといっても, システムそのものもまた, そこに人々の生活があったからこそ成り立っていたわけだ. すべてが失われた場所で, その地域を支えていたシステムと家の暮らしを同時に再生しなければならないという非常に難しい課題を, 被災地は背負っていることになる.」書籍[10-1]87頁引用.

 従属化・下位化させられ主体性を失った地方の姿は, 原発事故で特に顕著に現れました. 奴隷ではないものの, 植民地支配と余り変わらない気すらしませんか.

「地方の中央による巨大システム形成への取り込みは, 原発立地自治体のみならず, この数十年の日本の中では実に様々な局面で見られたものであった.(中略) 周辺にある小さな社会を大きなシステムへと取り込んで, 中央に従属させていくこと. しかもその過程で生じるリスクや失敗を, 中央から一時的に巨額な利益をつかませることによって強引に引き取らせ, 結果として小さな社会へと負担を押し付けていくこと. このことは原発に限らない. 広域システム社会の本質的な特徴といえる.(中略) 津波被害も原発事故も, 現代社会の構造からして, 小さな社会で向き合える問題ではない. 我々の生きるシステムはこれがいったん壊れると, その社会を個々人で復旧することができないものとなっている.(中略) 個人や家族, 小コミュニティでは手も足も出ないのであり, 我々は, 誰かがきてそのシステムを復旧してくれるのをただ待つしかない. 」書籍[10-1]36-39頁引用.

 例え通常時には自己責任が妥当な部分があるとしても, 災害時のこうした状況では全く当てはまらないのに, 残念ながら同じような対処しか出来ていません. では, 中央には主体性があるかというと, そうでもないようです. どうも, 個人主義の悪影響なのか, 中央も 自分たちが(便利で得をするなど)良ければそれで構わない, という考え方が蔓延していると考えられます. そして本来は困ってる人々を助けるための義援金なのに, 自分らが儲けようとするその考え方は, 第7話で引用した災害資本主義に基づいています.

「少なくともこの震災を1年半以上観察してみて実感するのは, 地方と中央といった場合にも, 中央で何かが変わるようには見えないということだ. 一方に地方があり, 他方に首都圏・中央があるが, 中央イコールこのシステムを動かす主体ではなく, ただ, この関係の中で自らのエゴを発揮できるという面においてのみ中心であるにすぎない. 」書籍[10-1]43頁引用.

「原発は広域システムの代表である. 広域システムの中で, みなつながっているからこそ生じた災害だといってもよい. しかし, 生じた事故は, 一部の人々のみのものとされてしまう.(中略) 第一原発が東京電力のものであった以上, 両者の関係は一蓮托生のはずだが, 首都圏の人々には, 福島県の人々ほどの当事者意識はない.(中略) 周辺から中心はよく見えるのだが, 中心から周辺は見えない. すり鉢の真ん中と, 縁のようなもので, 縁からは, 鉢の中はすべて見えているのだが, 鉢の底にいるものには自分たちしか見えず, 周りが見えない. 」書籍[10-1]167頁引用.

 そして広域システムが壊れ, 生活の隅々で社会的分断が起こりました.

「分断の諸相は, 避難所指示や放射性物質による汚染によって空間的に生じているのではなく, 他にも様々に, 多次元にわたって観測されている. その中でもっとも大きいのが, 世代間の分断と, 職業間の分断, そして強制避難者に関していえば, 避難元の住居形態の差による分断である. 」書籍[10-1]172頁引用.

「被災者にとっては自分の生活は1つの全体だ. インフラだけ, 仕事だけでできているのではなく, ましてや家屋だけでできているのでもない. すべてが組み上がって生活は成り立っている. しかしここに関わって支援してくれる人々の専門家, あるいは様々な機関はそれぞれが関わる一部しか見ておらず, 一部分だけで作動する. しかもそれはしばしば, 各サブシステムの中心からであり, 我々はこのサブシステムの助けがなければやっていけないが, 助けを借りれば借りるほど暮らしは分断され, 周辺化されてしまう. 」書籍[10-1]242-243頁引用.

 周辺化・従属化されてすぐにはどうしようもない状況は, 規模は違えど, 第1話で指摘した世界の現状と同じでしょう. その解決に向けて, 第2話で紹介した脱成長や 第6話第7話 で紹介した協同組合の取り組みを先取りした, 第4話における西洋近代とは異なる 「報徳」などの考え方を見直すべきと言えます.

「国家至上主義, 経済至上主義の限界の露呈. そして科学至上主義の崩壊. これらをひっくるめて, 日本社会の中にくまなく展開されている <中心-周辺>システムのもつ矛盾の現れこそが, 今回の震災で見えてきた我々の大きな課題である. 国家・経済大国・科学という中心的価値に対し, 地方主権・暮らし・生活の知恵といった周辺的なものの復権こそが, いま本当に求められるべきもののはずだ.」書籍[10-1]26頁引用.

「未来に対する負の予言に抗する知, 広域システムの際限ない合理化に抗する知は, おそらく時間と空間, そしてまた心と社会を, 西洋近代とは根本から違うところでとらえ直すことで生まれてくるだろう. そしてその論理は, 我々自身の姿をいま一度あらためて照射することから見えてくるもののような気がする. 東北の地, 東日本の地は, そうした旧くて新しい社会形成のための実験場として再生しなければならない. 」書籍[10-1]280頁引用.

 <中心-周辺>の問題を, 都市-地方における人口問題からも捉えてみましょう. 2014年5月8日に日本生産性本部で報告された通称 「増田レポート」は, 日本の地方自治体の約半数が2040年までに消滅する可能性があるとして衝撃を与えました.

「このレポートを読んでいて, やたらと目につくのが, 人口に向き合えといいながら実際は経済や産業の問題をたえず気にしている様子である. いや, それ以上にレポートの関心は財政問題にあるようだ.(中略) 人口が減ると経済が縮小し, 財政(歳入)が細る. そうするとこれまでのような歳出はできないので, もはやすべての地域を守ることはできない. そこで「選択と集中」を行い, 残す地域, 残すべきでない地域を振り分け, 残すべきでない地域を早めに切り離して, 残す地域に人口を集中させ, 全体としての生き残りを考えていこう.(中略) さてその際, 残す地域と残すべきではない地域を振り分ける基準は何かといえば, それはまず第一に「人口規模」である.(中略) ある規模以下の地域には, 「もうこれ以上はコストはかけられませんよ」 というわけだ.(中略) そして第二に, 産業の高次化を実現しているかどうかである. 高い生産性があり, 他よりも大きな経済が生まれ, 税の確保が成り立ち, 持続可能な行財政システムを確立している地域 -そうしたところが生き残るのだということのようである. さて, この一定以上の人口量と密度を実現した地域, そして高次産業が集積する場こそ, 「都市」である.」書籍[10-2]31-32頁引用.

 周辺にいる, 世界各国の貧困者が苦しみ生きていけないとしても手を差しのべないことと, 経済的価値がない地方は消滅しても仕方ないとする考え方は基本的に同じですね. ところが, 貧困者の労働があってこそ富裕者の財産が得られるように, 農産物や海産物など地方で採れたもので都市の食生活は成り立っているのみならず, 代々受け継がれた芸能文化資源や自然豊かな観光資源などでも地方の恩恵を受けてるわけですが, 人口と経済的価値だけで線引をして良いのでしょうか? また, 海, 山, 緑もほとんどない都市環境だけでは人々は生きづらく, 人と自然のバランスを考えた里山がさらに無くなることも考えなければなりません.

「ある地域を取り上げて, 「もう守れない. 消えてくれ」といい, あるいはふつうに暮らしているある人々を指して 「あなたにはもうコストはかけられない. いなくなるか, 福祉の対象になるかしてくれ」という. 「選択と集中」を含む都市の正義がはらんでいるのは, こうした客観主義による「生=主観」の否定である. 大規模な人間集団は正しく, 生きていく価値があるが, 小規模な集団は誤りであり, 生きていく価値がない, というものだ.」書籍[10-2]36頁引用.

 世界に蔓延する新自由主義も日本における地方創生も, 「カネ」のことしか考えていません. 成長追求を強制したり消滅と脅したりして競争させ, より一層搾取していく強欲な個人主義(自分さえ良ければ良い強者の考え方)だと言えます. 本来は, 上から管理する行政を効率化させるために人々を都市に集めるのではなく, 地方による自治を促しつつ, 経費支援などを行うべきではないでしょうか.

「地方消滅も, 地方創生も, 正面から人口減少や東京一極集中に取り組むものにはならなかった. 地方消滅は, 20万人程度の都市への集中へ. そして地方創生の中心は「地方の新たな仕事づくりに」に. いずれも共通するのは, ひと(人口)の話をしながら, そこから外れて, カネ(経済, 財政, 産業)の話になっていることだ.(中略) この国はいま, 人口減少を止めようとして様々なことを現場に要請しているが, まさにそれが人口減少を引き起こす元凶なのではないか. 都市の正義に引っ張られた地方創生こそが, むしろ東京一極集中を推し進め, 地方を衰退させ, 人口再生産を阻害している. そう分析できそうなのである. 」書籍[10-2]63-65頁引用.

 つまり, 以下のように結論付けられるということです. 例えば, 首都圏などでは, 家賃や生活費が高くて共働きが必要, 祖父母との同居も難しく子育てを助けて貰えない, 保育園なども満杯で入園困難, 業績優先の勤め先で育児休暇も取れず, 産めない現状を想像してください. さらに, 地下高騰や孤独死など, 都市こそ病んでいます.

「出生率の低下を経済に帰する論理には問題がある. むろんある地域に雇用が増え, 若い人びとが増えれば, その地域の出生数は増えるだろう. しかしそれは移動による効果であって, 出生力(率)が回復したかどうかは別の問題である(事実, 人口急増地帯では出生率が低い場合が多い).(中略) そして都市化が進むこと(人口増大, 高密度化)と経済規模の拡大は正比例し, すでに見たように都市化は出生力の減少につながるので, 都市化と高経済化にもし密接な関係があるとすれば, 経済の強化はむしろさらなる人口減につながる可能性がある. 」書籍[10-2]74-75頁引用.

「経済や財政の面のみで社会をとらえ, そのことによって人間のあり方を軽んじる政策を是とするような風潮が蔓延したのではないか. それが, 実は私たちが「新自由主義」と呼んでいるものの本質ではないか. そして新自由主義に代表される「都市の正義」こそが, 国家のバランスを崩し, 少子化を導く正体なのではないか. 」書籍[10-2]111頁引用.

 一方で, 私たち自身も知らず知らずのうちに 根拠のない序列化を行っているようです, 仕事を含めてあらゆるものが地方は下で都市は上と決めつけて. 当然ながら, 地方にも魅力的で重要な仕事は有り得ます. また(稼ぎ)経済的な面だけで, 誇れる仕事が決まるわけではなく, 時間的ゆとりがあるとか, 静かな生活環境であるとか, 食材が安くて美味しいとか, 世の中の役に立ってるとか, 多様な価値観で決まるものだと思います. しかも, 儲かる仕事なら何でも良いわけでなく, 自然を破壊せず, 危険だったり生活リズムを乱したりすることもなく, 暮らしを守り人を守るものであるべきですね.

「内容が同じ仕事でも, 首都圏で行う仕事の方が格上であり, 地方の仕事は威信が低い. そういう関係になっていないだろうか. 同様に地方の中でも, 農村の仕事より都市の仕事の方が威信が上で, また都市でも人口規模の大きな都市にある仕事ほどその威信は高まっていく. 」書籍[10-2]84頁引用.

 結局, 財政もしくは経済(カネ)のことだけしか考えず, 地方創生と言いつつ消滅させると脅して競争を煽る, 暴力的とも言える政策が進められているのです. ところが, 第6話で例えたバケツの穴から, (多くは都市にある強者の)域外企業が利益を吸い取っていく現状を改善しない限り, いくら頑張っても地域が利することはなく, 域外への一方的な利益追求でしかあり得ません. 本来は, 地方で採れた食材などを都市の人々が購入したり, 観光地として訪れ宿泊したりして, 地方で経済が潤い雇用が確保でき, それらの生産業や観光業を維持して都市の人々が利用できるという, 互いに持ちつ持たれつの関係にある はずですね. 限界集落であればあるほど, そうした地方が消滅すれば, 人が足を踏み入れることが困難なムキダシの自然となり, 貴重な食材や普段できない体験を得ることも不可能になります.

「地方創生の目的は,「まち・ひと・しごとの好循環」を作るということだった. ところがそれを最初のところで「まずはしごと」に集中した. 集中した途端に, この政策は失敗したのである. そこで対流は止まり, 循環はなくなった. 閉塞したプロセスは, 各所に無理を生じ, 創意工夫の余地を奪っている.(中略) いまの都市の正義で欠けている一番大切なもの. それは循環である. 循環がなくなるとどうなるか. 依存が依存で止まる. 共依存ではなくなる. そして何より, 問題を解くことができなくなる. 」書籍[10-2]249-250頁引用.

 第11話では, 最先端のネットワーク科学の知見から, 災害や攻撃を受けても分断されにくい最適構造がいかなるものかを概説します. 分断を避けられれば, さまざまな循環も可能となるでしょう.

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[10-1] 山下 祐介(著)
『東北発の震災論 -周辺から広域システムを考える-』
筑摩書房 (2013/1/9), ISBN-13: ‎978-4480067036
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[10-2] 山下 祐介(著)
『「都市の正義」が地方を壊す -地方創生の隘路(あいろ)を抜けて-』
PHP研究所 (2018/6/15), ISBN-13: ‎978-4569840888

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