第8回知識共創フォーラムの優秀論文賞

第8回知識共創フォーラム後の改訂論文に贈られる優秀論文賞を日髙研の布山美慕が受賞いたしました.(JAIST広報ページ)

布山美慕・西郷甲矢人 「不定自然変換理論の構築:圏論を用いた動的な比喩理解の記述 

■知識共創フォーラムと優秀論文賞の概要
第8回知識共創フォーラムは 2018年3月6日(火)〜7日(水)しいのき迎賓館(石川県金沢市)にて開催されました.2018年度知識共創フォーラム「優秀論文賞」は,編集委員会が定めた複数の評価者による厳正なる論文評価のもと,上記論文に対して与えることを決定致しました.本賞は知識科学研究の発展に大いに寄与することが期待される論文に対し与えられるものです.

■受賞年月日
2019年3月8日

■論文タイトル
不定自然変換理論の構築:圏論を用いた動的な比喩理解の記述

■受賞理由
知識共創フォーラムのウェブサイトより引用:

本論文は,新たな比喩の創造過程を説明する理論として,圏論の自然変換を確率的に扱う理論であるTheory of Indeterminate Natural Transformation (TINT)を提案する.比喩や類推は,新たな知識の創造や探索に不可欠な認知過程であり,その解明に向けて新たな理論的な提案をする本研究は,知識科学の発展に大いに資すると考えられる.
従来の比喩の認知過程に関する理論研究では,グラフに基づく知識表現を前提とする理論が提案されてきたが,本研究は,グラフに代わり,イメージの関係を射とし,射の合成による射の操作を扱う圏をイメージの表現として中心に据える.その定式化では,あるイメージから別なイメージへの関手の措定という形で,比喩が自然に形式化され,比喩の探索過程の確率的なモデルも提案されている.
従来のグラフ表現による比喩のモデルの多くでは,頂点と辺のラベルでしかイメージが表現されず,それぞれのイメージはそれぞれに直接関係するイメージとの関係のみで表現されていた.これに対し,本研究の圏論的な定式化では,比喩を個別のイメージの関連性だけではなく,イメージの間の関係とまた別の関係の関連性をとらえるものとして扱い,構造的な類似性をより本質的に表現する枠組みの可能性を示している.
一方,本論文で提示された考え方は,未だ人の行動データなどを説明するという上では,実証的にその意義が示されておらず,この枠組みによって従来の理論や実験・観察を超えるどのような知見が得られるかという点については未知数である.また,特に確率モデルの部分の用語や概念の定義には不明確な部分もある.こうした萌芽的な段階ながら,豊かな可能性を秘めた発想を提示している点を大きく評価し,その研究をさらに推し進めることを期待する.
本論文はこうした点で,今後の知識科学研究を発展させる示唆に富むものであり本論文を知識共創フォーラムの趣旨に準じた優れた論文とし,優秀論文賞を授与する.

■受賞にあたっての一言

この度は私たちの研究に対し、第8回知識共創フォーラム優秀論文賞を与えていただき、大変光栄で嬉しく存じます。フォラーム当日の深い議論によって、本研究の課題—圏論の精緻な制約の“良さ“を保ちつつ確率過程をうまく導入しノイジーな現実世界の認知を説明する—が明確になりました。受賞いたしました改定後の論文ではこの課題を明記して議論しております。当日ご議論いただきました皆様に深く感謝いたします。今後は、シミュレーションや実証的な研究を取り入れて理論の精緻化と検証を進め、いっそう研究を深めていく所存です。ありがとうございました。

■授賞式の様子

fuyamafokcs2019