ベタレイン色素の新たな生合成経路を解明 ― ゴムフレニンI合成酵素 cDOPA6GT を世界で初めて発見 ―
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石川県公立大学法人 石川県立大学 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 |
ベタレイン色素の新たな生合成経路を解明
― ゴムフレニンI合成酵素 cDOPA6GT を世界で初めて発見 ―
ポイント
- ツルムラサキおよびセンニチコウから、ゴムフレニンI生合成に関わる新規糖転移酵素cDOPA6GTを発見
- タバコ培養細胞を用いたゴムフレニンIの人為的大量生産系の構築に成功
- ゴムフレニンIが、ベタニンより高い熱安定性を示すことを発見
| 石川県立大学の重久亮太 修士課程学生、森正之 教授、今村智弘 准教授、高木宏樹 教授、北陸先端科学技術大学院大学 大木進野 教授、山口拓実 准教授らの研究グループは、ベタレイン色素を生産するツルムラサキ(Basella alba)およびセンニチコウ(Gomphrena globosa)を用いて、ゴムフレニンI生合成に関わる新規糖転移酵素cDOPA6GTを発見し、ベタレイン色素の新たな生合成経路を明らかにしました。 本研究成果は、植物科学分野の国際研究誌「New Phytologist」に掲載されました。 |
研究背景と概要
ナデシコ目植物の多くがベタレイン色素*1 を生産し、赤色系のベタシアニン*2 と黄色系のベタキサンチンに大別されます。ベタシアニンは、基本骨格であるベタニジンにグルコースが付加されることで形成されます。この修飾では、分子内の5位または6位にグルコースが付加されることが知られており、5位に付加したものをベタニン型、6位のものをゴムフレニン型と呼んでいます(図1)。ベタレイン生産植物の多くはベタニン型ベタシアニンを生産しますが、ゴムフレニン型を生産する植物は限られています。
それぞれのタイプを決定する酵素について、ベタニン型では、ベタニジンの5位にグルコースを付加する酵素(Betanidin 5-O-glucosyltransferase、B5GT)と、ベタニジンの前駆体であるシクロドーパの5位にグルコースを付加する酵素(cyclo-DOPA 5-O-glucosyltransf-erase、cDOPA5GT)が報告されています(図1右)。一方、ゴムフレニン型については、ベタニジンの6位にグルコースを付加する酵素(Betanidin 6-O-glucosyltransferase、B6GT)は、これまでに1例しか報告されていませんでした(図1左下)。そのため、ゴムフレニン型ベタシアニンの生合成機構の全体像は未解明のままであり、20年以上にわたり未解決の課題となっていました。
本研究では、ゴムフレニン型ベタシアニンを生産していることが知られているツルムラサキ*3 とセンニチコウ*4 を対象として、ゴムフレニンI*5 の生合成に関わる酵素遺伝子の探索を行いました。両植物はゲノム情報が公開されていなかったため、RNA-seq*6 解析によって取得した遺伝子発現情報から転写産物の配列を再構築し、候補遺伝子を抽出しました。まず、これまでに報告されているB6GTのアミノ酸配列を手がかりに候補遺伝子を選抜し、ベンサミアナタバコを用いたアグロインフィルトレーション法*7 によって機能解析を行いました。しかし、ゴムフレニンIを合成する酵素は見いだせませんでした。この結果は、ツルムラサキとセンニチコウにおいて、ゴムフレニンIの生合成に未知の酵素が関与している可能性を示していました。
そこで、私たちは、これまで報告のなかったベタニジンの前駆体であるシクロドーパの6位にグルコースを付加してゴムフレニンIを合成する新たな経路の存在を想定し、その反応を担う酵素(cyclo-DOPA 6-O-glucosyltransferase、cDOPA6GT)の探索を行いました(図1左上)。ベタニン型ベタシアニンでは、複数の植物種でcDOPA5GTが報告されていることから、キヌアのcDOPA5GTのアミノ酸配列を手がかりに、相同性解析を行いました。その結果、ツルムラサキから2つ、センニチコウから1つの有力な候補遺伝子を見いだしました。これらの候補について、機能解析を行った結果、ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GT1およびBacDOPA5/6GT2は、ベタニンとゴムフレニンIの両方を生産すること、一方でセンニチコウ由来のGgcDOPA6GTはゴムフレニンIのみを生産することが明らかとなりました(図2)。これにより、長年未解明であったゴムフレニン型ベタシアニンの生合成において、世界で初めてcDOPA6GT経路の存在を実証しました。
次に、ゴムフレニンI合成活性を示した遺伝子を、他のベタシアニン生合成遺伝子とともにタバコ培養細胞(BY-2細胞)へ導入し、ゴムフレニンIの人為的生産系の構築を行いました。その結果、遺伝子を導入した培養細胞は赤色を呈し、蓄積した色素を精製し、NMR*8 による構造解析を行ったところ、ゴムフレニンIであることが確認されました(図3)。さらに BacDOPA5/6GT1、BacDOPA5/6GT2およびGgcDOPA6GTを導入した培養細胞では、ゴムフレニンIが高濃度で蓄積していることが確認されました。これらの結果から、ゴムフレニンIの人為的生産系の構築に成功しました。
さらに、タバコ培養細胞で生産したゴムフレニンIとベタニンを用いて、それぞれの熱安定性を評価しました。その結果、ゴムフレニンIは、ベタニンに比べて有意に高い熱安定性を示しました(図4)。そこで、両色素の分子構造シミュレーション*9 解析を行った結果、ゴムフレニンIではグルコース部分と色素骨格との間に、ベタニンには見られない分子内水素結合が形成される可能性が示されました(図4)。この分子内水素結合が、ゴムフレニンIの高い熱安定性に寄与していると考えられます。
本研究により、長年未解明であったゴムフレニン型ベタシアニンの生合成機構が明らかとなり、世界で初めてcDOPA6GT経路の存在が実証されました。本成果は、ベタレイン色素の生合成機構の理解に貢献するとともに、熱に強い天然色素の開発や利用技術の高度化、新たな機能性天然色素の創出につながることが期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)の支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業(ARIM)の支援を受けて実施されました。

図1 ゴムフレニン型およびベタニン型ベタシアニンの生合成経路
・本研究により、世界で初めてcDOPA6GT(黄色)の経路を実証した。

| 図2 ベンサミアナタバコを用いたアグロインフィルトレーション法による候補遺伝子の機能解析 (a,b)ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GTsの活性評価(c, d)センニチコウ由来のGgcDOPA6GTの活性評価 ・BacDOPA5/6GTsおよびGgcDOPA6GTがゴムフレニンIの合成に関与することが明らかとなった。 |

| 図3 タバコ培養細胞によるゴムフレニンIの人為的生産系の構築 (a,b)ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GTsを用いた生産系の構築(c,d)センニチコウ由来のGgcDOPA6GTを用いた生産系の構築 ・タバコ培養細胞を用いたゴムフレニンIの安定的な人為的生産系を構築することに成功した。 |

| 図4 ゴムフレニンIの熱安定性評価(a)熱処理前のゴムフレニンIおよびベタニン (b)熱処理後のゴムフレニンIおよびベタニン(c)熱処理後のゴムフレニンIおよびベタニンの残存率(%)(d, e)分子構造シミュレーションによるゴムフレニンIとベタニンの構造解析。黄矢印は分子内水素結合を示す。 ・ゴムフレニンIはベタニンに比べて熱安定性が高いことが示された。また、ゴムフレニンIでは、ベタニンには見られない分子内水素結合が形成される可能性が示された。 |
【用語の説明】
ナデシコ目植物に含まれる水溶性の植物色素。赤紫色のベタシアニンと黄色のベタキサンチンに大別される。
ベタレイン色素の一種で、赤色から赤紫色を示す色素群。ビートやツルムラサキ、センニチコウなどに含まれる。
熱帯アジア原産のつる性野菜。若葉や茎が食用として利用され、赤紫色のベタレイン色素を蓄積する。
熱帯アメリカ原産の観賞植物。色鮮やかな苞を長期間維持することから広く利用されている。ベタレイン色素を蓄積する代表的な花卉である。
ベタシアニンの一種。ベタニンと同じ分子式を持つが、グルコースの結合位置が異なる位置異性体。本研究の中心となった色素であり、ベタニンより高い熱安定性を示す。
次世代シークエンサーを用いて、細胞内で発現しているmRNAを網羅的に解析し、どの遺伝子が働いているかを調べる技術。
植物細胞に遺伝子を導入する性質を持つ土壌細菌であるアグロバクテリウムを利用して、植物葉内に目的遺伝子を一時的に導入し、その機能を評価する実験手法。
原子核スピンの共鳴現象を利用して、分子構造を高精度に解析する分析手法。化合物の構造決定に広く利用されている。
コンピューター上で分子の立体構造や分子内の相互作用を予測・解析する手法。本研究では、ゴムフレニンIとベタニンの構造を比較し、熱安定性の違いに関与する可能性のある分子内水素結合を解析した。
【発表論文】
| 論文タイトル | A cyclo-DOPA 6-O-glucosyltransferase-mediated route for gomphrenin I biosynthesis in Basella alba and Gomphrena globosa |
| 論文著者 | Tomohiro Imamura*,†, Ryouta Shigehisa†, Akio Miyazato, Nami Matsumura, Kaisei Miyaki, Tenta Segawa, Masahide Yoshizumi, Hiroki Takagi, Takumi Yamaguchi, Shinya Ohki, and Masashi Mori* (*:責任著者、†:共同筆頭著者) |
| 雑誌 | New Phytologist |
| DOI | 10.1111/nph.71340 |
| 掲載日 | 2026年6月7日 |
令和8年6月19日

