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日本で初めて、未就学児・小学生の「騒音下での聞き取り能力」の発達標準値を確立 -15分で実施できる簡便な評価ツールで、支援が必要な子どもの早期発見へー

pr20260701-1-Doshisya-u.png logo_jaist2021.png 同志社大学
北陸先端科学技術大学院大学

日本で初めて、未就学児・小学生の「騒音下での聞き取り能力」の発達標準値を確立
-15分で実施できる簡便な評価ツールで、支援が必要な子どもの早期発見へー

【研究概要】

 同志社大学赤ちゃん学研究センターおよび研究開発推進機構 特定任用研究員(准教授)(研究当時)の加藤正晴氏と北陸先端科学技術大学院大学 人間情報学研究領域 木谷俊介特任准教授は、日本の年長児(5歳児)から小学6年生714名を対象とした大規模横断研究を実施し、騒がしい環境で聞きたい音声を聞き分ける「選択的聴取能力」の発達的標準値を日本語環境として初めて確立しました。2種類の聴覚課題を用いた分析の結果、学年進行に伴い成績が向上し個人差が収束すること、低学年で顕著な右耳優位性が学年とともに縮小することが確認されました。本標準値は、教育・保育現場において聴き取りに困難を抱える子どもを特定する基準として活用が期待されます。両課題は合わせて15分程度で実施可能です。本研究は日本音響学会誌82巻7号(2026年7月1日刊行)に掲載されます。

【研究の背景】

 教室や体育館など騒がしい環境で教師や友人の声を聞き取る力は、子どもが学校生活を送るうえで不可欠です。しかし、この「選択的聴取能力」は純音による基礎的な聴覚機能(8〜9歳で成人レベルに到達)とは異なり、16歳になっても成人と比べて劣ることが先行研究で報告されています。また、発達には個人差が大きく、聴き取りに困難を示す子どもが一定数存在します。
 近年、日本においても「聞こえているのに聞き取れない」聞き取り困難症(LiD)・聴覚情報処理障害(APD)への関心が高まり、診断基準や支援の手引き整備に向けた取り組みが始まっています。しかし、こうした基準を教育・保育現場で実用するためには、子どもの年齢ごとの標準値が不可欠であり、日本語環境でのデータはこれまで存在しませんでした。そのため、教育・保育現場で配慮を要する子どもを定量的に特定することが困難な状況にありました。
 本研究グループはAPDの包括的診断ではなく「選択的聴取能力」に焦点を絞り、教育・保育現場での実用を見据えたアセスメントツールの標準化を独自に進めてきました。先行研究(加藤・嶋田・木谷 2021、日本音響学会誌77巻)では96名を対象とした小規模研究でツールの有効性を実証済みでしたが、実用的な標準値の確立には学年ごとに十分なサンプルサイズに基づく基準値が必要でした。

【研究成果】

 国内の認定こども園・幼稚園・保育所・小学校に在籍する年長児から小学6年生714名のデータを分析しました。
 使用した課題は以下の2種類です。

(1)聴覚的図と地課題
ターゲット音声と妨害音(多数話者の混合会話)が同時に提示される中でターゲットを聞き取る課題。騒がしい教室での聞き取りに対応する、情報マスキング耐性を評価します。

(2)競合語課題(両耳分離聴課題)
異なる単語を左右の耳に同時提示し、両方を聞き取る課題。複数情報源への分割注意能力と、言語処理における右耳優位性を評価します。

主な結果は以下の通りです。

  • 両課題ともに、学年が上がるにつれて正答率が向上し、成績のばらつき(個人差)が収束することが統計的に確認されました。これは先行研究と一致する結果であり、日本語環境においても選択的聴取能力は類似した発達プロセスをたどることが示されました。
  • 競合語課題において、低学年(年長〜小学3年生)では右耳の正答率が有意に高い「右耳優位性」が観察されましたが、小学4年生以降は統計的有意差がなくなりました。この発達的変化は先行研究の知見と一致します。
  • 2課題間の正答率には中程度の正の相関(r = .535)があり、両課題が選択的聴取の異なる認知プロセス(情報マスキング耐性と分割注意)を測定していることが示唆されました。
  • 学年・提示耳別の平均正答率および標準偏差を算出し、パーセンタイル基準値として活用可能な標準データを確立しました。

 本標準値を用いることで、同学年の平均より著しく低い成績を示す子どもを早期に特定し、座席配置の工夫・視覚情報の併用・音響環境の改善などの教育的配慮につなげることが可能になります。

【論文情報】

論文タイトル 日本における未就学児・児童の選択的聴取の発達と標準化 (Development and Standardization of Selective Listening in Japanese Preschool and School-age Children)
著者 加藤正晴、木谷俊介
掲載誌 日本音響学会誌 82巻7号(2026年7月1日刊行)
関連先行論文 加藤正晴, 嶋田容子, 木谷俊介, "学童期における日本語を用いた選択的聴取能力---- 選択的聴取の児童向けアセスメントツール開発---- ," 日本音響学会誌, 77, 500-503 (2021). [doi:10.20697/jasj.77.8_500]
研究助成 日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号23K20763)

【研究者プロフィール】

加藤 正晴(かとう まさはる) 
同志社大学心理学部 実証に基づく心理・社会的トリートメント研究センター 嘱託研究員 
元同志社大学心理学部 准教授(有期)
元同志社大学赤ちゃん学研究センターおよび研究開発推進機構 特定任用研究員(准教授)
子どもと育ちのコホート研究実践協会 代表理事 
京都大学大学院医学研究科 客員研究員 
専門:発達科学

木谷 俊介(きだに しゅんすけ) 
北陸先端科学技術大学院大学 人間情報学研究領域 特任准教授
専門:知覚心理学、聴覚情報処理

令和8年7月1日

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