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やさしくつかみ、触って感じるロボットハンドを開発 ―ゾウの鼻先に着想を得たソフトグリッパ「EleTac」―

やさしくつかみ、触って感じるロボットハンドを開発
―ゾウの鼻先に着想を得たソフトグリッパ「EleTac」―

【ポイント】

  • 把持機能と触覚センシング機能を一体化したソフトロボットグリッパ「EleTac」を開発しました。
  • 物体をやさしくつかみながら、接触位置、接触程度、自身の姿勢を同時に認識できます。
  • 包括的な把持・知覚実験により、EleTacが有効に機能する物体や条件を明らかにしました。
  • 視覚情報が得にくい環境での探索や繊細な物体操作など、人と協働するロボットへの応用可能性を実証しました。
  • CADデータやシミュレーション環境、学習済みモデルなどを公開し、研究の再現性と技術発展に貢献します。
 北陸先端科学技術大学院大学 AI知性研究領域のHo Anh Van(ホ アン ヴァン)教授と、英国キングス・カレッジ・ロンドンのShan Luo准教授が共同で主導する研究グループは、北陸先端科学技術大学院大学のNguyen Tai Tuan博士研究員、キングス・カレッジ・ロンドンのXuyang Zhang大学院生(博士後期課程)、米国パデュー大学のLuu Khanh Quan博士研究員とともに、把持機能と触覚センシング機能を一体化したソフトロボットグリッパ「EleTac」を開発しました。
 ソフトロボットは、人や壊れやすい物体に安全に触れられることから、家庭や医療、サービス分野での活躍が期待されています。しかし、物体をやさしくつかみながら、接触位置や力、自身の形状変化を同時に把握することは難しく、より器用なロボットの実現に向けた課題となっていました。
 今回開発したEleTacは、ゾウの鼻先に着想を得た柔軟な構造と、視覚ベースの触覚センシング技術を組み合わせることで、この課題を解決しました。EleTacは、多様な物体を傷つけずに把持するとともに、接触位置や力、物体形状、自身の姿勢を単一のカメラで推定できます。砂の中から物体を探し出す作業や食器洗いなどの家庭内作業でも高い把持・知覚性能を実証しており、家庭や病院、食品ハンドリングなど、人と協働するロボットへの応用が期待されます。

【1.研究の背景】

 ソフトグリッパは、柔軟な材料や構造、駆動機構を利用した新しいロボットハンドです。硬いロボットハンドと比べて、周囲の環境や人と安全に接触できるため、食品や壊れやすい物体を扱う用途で注目されています。
 一方で、ロボットが器用に作業するためには、物体をつかむだけでなく、「どこに触れているか」「どのくらいの力が加わっているか」「物体の形状はどうなっているか」といった情報を取得する触覚センシング機能が重要です。
 しかし、柔らかい材料は大きく変形するため、グリッパ全体に触覚センサーを組み込みながら、高い把持性能を維持することは容易ではありませんでした。

【2.研究内容】

 研究グループは、この課題を解決するため、視覚ベース触覚センシング機能を備えた空気圧駆動型ソフトグリッパ「EleTac」を開発しました(図1)。
 EleTacは、ゾウの鼻に着想を得た柔軟な構造を採用し、空気圧によって閉じることで、多様な形状の物体をやさしく把持できます。また、内部に配置した単一のカメラにより、エラストマー全体の変形を観察し、接触位置や接触程度、物体形状、自身の姿勢など複数の触覚情報を同時に取得できます。
 包括的な把持・知覚実験の結果、EleTacは物体操作と触覚センシングを一つの設計で高いレベルで両立できることが確認されました。著者らの知る限り、視覚ベース触覚スキンで全面を覆い、自己受容感覚[*1]と外受容感覚[*2]、さらに把持機能を統合したソフトロボットグリッパはEleTacが初めてです。

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図1 EleTacグリッパの概念図。(a)ゾウの鼻に着想を得た構造。(b)空気圧によってソフトグリッパが閉じることで、やさしく多様な把持を実現します。(c)視覚ベースセンシングにより、外部物体との接触と自己形状の両方を知覚できます。

【3.応用例と今後の展開】

 EleTacは、やさしい物体操作と触覚知覚の両方が求められるさまざまな場面で有効性を示しました(図2)。
 柔軟な構造により、豆腐や果物など壊れやすい物体を傷つけることなく安全に把持できます。また、触覚フィードバックを活用することで、食器との接触状態を確認しながら行う食器洗いなどの家庭内作業や、視覚情報が得られにくい砂の中から物体を探し出す作業にも応用できます。
 今後は、家庭、病院、公共空間など、人と近い距離で安全に協働するロボットへの応用が期待されます。接触を感じながら適切な力で作業できることで、高齢者支援や介護、サービスロボット、これまで自動化が難しかった繊細な作業への活用も期待されます。
 また、本研究ではCADデータ、シミュレーション環境、開発パイプライン、データサンプル、学習済みモデルを公開し、研究コミュニティ全体での技術発展や再現性向上にも貢献します。

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図2 EleTacの応用例。柔軟なソフトグリッパにより壊れやすい物体を安全に把持できるほか、統合されたセンシング機能によって自動食器洗いや視覚情報が限られる環境での探索作業を支援します。

【用語説明】

[*1] 自己受容感覚:
ロボットが自分自身の形状、位置、動きなどを把握する能力。
[*2] 外受容感覚:
ロボットが外部の物体との接触や相互作用を通じて、周囲の環境を把握する能力。

【論文情報】

論文タイトル EleTac: Elephant Trunk Tip-Inspired Soft Gripper with Vision-Based Tactile Sensing and Proprioception
日本語タイトル ss視覚ベース触覚センシングと自己受容機能を備えたゾウの鼻先着想型ソフトグリッパ「EleTac」
著者 Tuan Tai Nguyen, Xuyang Zhang, Quan Khanh Luu, Shan Luo, and Van Anh Ho
掲載誌 IEEE Transactions on Robotics (T-RO)
掲載日 2026年6月26日
DOI 10.1109/TRO.2026.3706568

【研究資金】

 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)(課題番号:JPMJCR2554)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費(課題番号:25KJ1365)、および英国UKRI EPSRC Open Fellowship UKRI3438の支援を受けて実施されました。

令和8年7月7日

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