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触媒と反応を同時に探す新手法「反応探索」を実証 ―メタン転換で100万点規模のデータから未知反応の芽を発見―

logo_jaist2021.pngpr20260709-jst.png 北陸先端科学技術大学院大学
科学技術振興機構(JST)

触媒と反応を同時に探す新手法「反応探索」を実証
―メタン転換で100万点規模のデータから未知反応の芽を発見―

ポイント

  • 触媒と反応を同時に探し、未知の触媒プロセスを発見する新しい研究方法を実証
  • メタン・酸素・二酸化炭素からなる広大な反応空間を探索し、生成物を限定しない質量分析により100万点規模の反応データを取得
  • 従来の探索では到達困難だった高いメタン転換収率を実現し、想定外の生成物へつながる未知反応の芽も発見
 北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域の谷池 俊明 教授CHAMMINGKWAN, Patchanee 特任准教授らは、物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター 田村 亮 グループリーダーらと共同で、触媒と反応を同時に探索する新しい研究方法「反応探索」(注1)を、メタン転換を対象として初めて実証しました。
 触媒は、肥料、燃料、プラスチック、医薬品などの製造を支える基盤材料であり、カーボンニュートラル社会の実現には触媒技術の革新が不可欠です。しかし、触媒反応では、触媒の材料設計と反応条件が複雑に関係するため、現在でも実験的な試行錯誤に大きく依存しています。従来は、既知の反応に対して触媒を改良する、あるいは既知の触媒に対して反応条件を最適化することが中心でしたが、革新的な触媒プロセスの多くは、触媒と反応の思いがけない組み合わせから生まれてきました。
 本研究では、メタン・酸素・二酸化炭素からなる広い反応空間(注2)を対象に、200種類の触媒と50種類の反応条件をハイスループット実験(注3)で評価しました。さらに、生成物を限定しない質量分析によって100万点規模の反応データを取得しました。その結果、触媒ごとに高い性能を発揮する原料組成が大きく異なることが明らかとなり、ある条件では低性能に見える触媒でも、別の条件では優れた性能を示し得ることが分かりました。また、既知反応の条件に限定した場合を上回るメタン転換収率が得られるとともに、従来のように目的生成物を定めた探索では見つけられない未知反応の芽も見出しました。
 本成果は、既知の反応を改良するだけでなく、広大な探索空間から未知の価値を持つ触媒プロセスを発見する「反応探索基盤」の有効性を示すものです。今後は、探索する基質、触媒、反応条件の範囲を拡張するとともに、ハイスループット実験と機械学習を組み合わせることで、カーボンニュートラル社会の実現に必要なさまざまな触媒プロセスの開拓へ展開できると期待されます。
 本研究成果は、2026年7月8日(ワシントンD.C.時間)に米国の科学誌「ACS Catalysis」のオンライン版で公開されました。
 本研究は、科学技術振興機構(JST)「未来社会創造事業 探索加速型 本格研究(No. JPMJMI25G1)」の支援を受けたものです。

【研究の背景と経緯】

 触媒は、化学プロセスの約80%で利用され、肥料、燃料、プラスチック、医薬品などを通して、間接的にGDPの約35%に影響するとされる、まさに人類の物質文明を支える材料です。私たちの身の回りにある多くの物質は、原料を目的の化合物へと変換する化学プロセスによって作られており、その多くで触媒が重要な役割を担っています。カーボンニュートラル社会の実現には、エネルギー利用の変革だけでなく、こうした物質生産の基盤である触媒技術の革新が求められています。
 しかし、触媒は極めて複雑であり、理論だけで最適設計することは困難です。触媒の組成や構造といった材料設計に加え、原料の組み合わせ、混合比、温度といった条件によって、生成物や性能が大きく変化します。このため、触媒開発は現在でも、実験的な試行錯誤に大きく依存しています。特に従来の触媒研究では、既知の反応に対する触媒開発や、既知の触媒に対する反応条件の最適化が中心でした。
 一方で、革新的な触媒プロセスの多くは、触媒と反応の新たな組み合わせを"偶発的に"見出すことで実現されてきました。このことは、触媒と反応を同時に探索する必要性を示していますが、その組み合わせは膨大であり、人の経験や直感だけでは効率的な探索は困難です。
 そこで本研究グループは、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業において、広大な探索空間の中から未知の触媒と反応を同時に発見する「反応探索基盤」の開発に挑んでいます。これは、「反応を決めて触媒を探す」研究から、「触媒と反応を同時に探す」研究への転換であり、既知の価値を最適化するだけでなく、未知の価値を発見するための新しい考え方です。本研究では、大量の触媒を合成し評価するハイスループット実験を使って、触媒と反応の同時探索を初めて実証することに成功しました。

【研究の内容】

 今回、本研究グループは、メタンを特定の生成物に転換するのではなく、メタンを有用な化合物へ転換する広い反応空間として捉え、触媒と反応を同時に探索することを試みました。具体的には、メタン・酸素・二酸化炭素からなるCH4-O2-CO2三元系を対象としました(図1)。この反応空間には、例えばメタン酸化カップリング、部分酸化、ドライリフォーミング、非酸化的分解など、既に知られている複数のメタン転換反応が含まれています。従来の研究では、これらの反応ごとに原料比や目的生成物を定め、その条件で触媒を評価することが一般的でした。これに対して本研究では、既知反応を広大な反応空間の一部として捉え、化学量論組成に制限されない広い条件範囲を、触媒とともに探索しました。
 本研究では、研究グループがこれまでに構築してきたハイスループット実験基盤を用いて、単一酸化物、複合酸化物、担持触媒などからなる200種類の触媒ライブラリーを評価しました。各触媒について、25種類のCH4/O2/CO2混合比を、600℃および800℃の2つの温度で調べました。さらに、生成物をC2化合物や水素などに限定せず、質量分析により質量数1~100の範囲を網羅的に測定しました。これにより、200種類の触媒、50種類の反応条件、100種類の質量シグナルからなる、合計100万点規模の反応データを取得しました。
 その結果、触媒ごとに高い性能を発揮するCH4/O2/CO2比が大きく異なることが分かりました。すなわち、ある一点の原料組成で「低性能」と判断される触媒でも、別の原料組成では優れた性能を発揮し得ることが明らかになりました。これは、触媒を正しく評価するには、触媒と反応条件を切り離さず、同時に探索する必要があることを示しています。
 実際に、エチレン、プロピレンなどのC2-C3炭化水素の生成では、既知反応の化学量論点(注4)に近い条件に限定した場合の最大収率が約27%であったのに対し、化学量論点に限定せず広い反応空間を探索することで、30%を超える収率が得られました(図2)。この条件では選択率も80%を超えており、メタン酸化カップリングの歴史において重要な目安とされてきた高収率・高選択率の領域に到達しました。また、水素生成においても、既知反応の化学量論点に近い条件では最大収率が約85%であったのに対し、広い反応空間を探索することで、100%に近い高収率が得られました。
 さらに、生成物を指定しない網羅的な質量分析により、エチレン、プロピレン、水素といった主要生成物に加えて、1-ブテン、1,3-ブタジエン、ベンゼンなど、従来のメタン転換反応では主な標的とされてこなかった生成物も検出されました(図2)。特に、メタンからブタジエンのようなC4炭化水素を作る反応は、収率としてはまだ未成熟であるものの、従来のように目的生成物を決めた探索では見逃されやすい未知反応の芽を示すものです。
 以上の結果は、化学反応だけを探しても適切な触媒がなければ反応は進まず、触媒だけを探しても適切な反応条件がなければ性能は発揮されないことを示しています。すなわち、革新的な触媒プロセスを発見するためには、触媒と反応を同時に探すことが重要です。本研究は、メタン転換のような高難度反応において、既知反応の収率を高めるだけでなく、新しい転換ルートを見出し得ることを示し、反応探索基盤の有効性を初めて実証しました。

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図1 CH4-O2-CO2三元系における反応探索の概念。既知のメタン転換反応は、メタン酸化カップリング(OCM)、部分酸化(POM)、ドライリフォーミング(DRM)、非酸化的分解(TDM)などの化学量論条件に対応します。本研究では、これらの既知反応点に限定せず、CH4、O2、CO2の組成を広く変化させた反応空間を探索しました。

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図2 反応探索により見出された高収率条件と想定外の生成物。CH4-O2-CO2からなる広い反応空間を調べることで、既知反応の条件周辺だけでは見えにくい高いC2収率の領域が見つかりました。さらに、生成物をあらかじめ決めずに質量分析を行うことで、通常の探索では見逃されやすい想定外の生成物と未知反応の芽が示されました。

【今後の展開】

 本研究は、触媒と反応を同時に探索する「反応探索」の初めての実証です。一方で、今回探索した範囲は、メタン、酸素、二酸化炭素の3成分からなる反応空間、200種類の触媒、50種類の反応条件に限られています。すなわち、広大な反応探索空間全体から見れば、今回の実証はまだごく一部を切り出したものです。
 それにもかかわらず、本研究では、既知反応の化学量論点に限定した評価では見落とされる高性能な触媒・反応条件の組み合わせや、従来の目的生成物を決めた探索では見つかりにくい未知反応の芽を見出すことができました。これは、反応探索が、既知の触媒反応を改良するだけでなく、未知の価値を持つ触媒プロセスを発見するための有力な方法であることを示しています。
 今後は、探索する基質、触媒、反応条件の範囲を大きく拡張するとともに、ハイスループット実験によるデータ取得のさらなる高速化と、機械学習を用いた効率的・自律的な探索を組み合わせていきます。これにより、研究者の経験や直感だけでは当たりを付けることが難しい広大な探索空間から、革新的な触媒と反応の組み合わせを効率的に発見する反応探索基盤の構築を目指します。
 本研究で得られた成果は、メタン転換に限らず、カーボンニュートラル社会の実現に必要なさまざまな触媒プロセスの開拓へ展開できると期待されます。

<参考図>

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触媒と反応の同時探索「反応探索」:
反応探索とは、触媒だけ、あるいは反応条件だけを個別に最適化するのではなく、触媒、原料組成、温度、生成物を含む広い探索空間から、有用な触媒プロセスを見出す研究方法です。本研究では、200種類の触媒ライブラリーを、メタン・酸素・二酸化炭素からなる広い反応空間で評価し、生成物をあらかじめ限定しない広域質量分析により、100万点規模の反応データを取得しました。これにより、既知反応の条件にとどまらない高性能領域や、想定外の生成物につながる未知反応の芽を見出しました。

【用語解説】

注1)反応探索
本研究グループがJST未来社会創造事業の中で提唱し、発展させている触媒と反応を同時に探索する独自の研究アプローチ。従来の触媒研究では、既知の反応に対する触媒改良や、既知の触媒に対する反応条件の最適化が中心であった。一方で、触媒技術の大きな革新の多くは、試行錯誤の中で、触媒と反応を偶発的に同時に見出すことで生まれてきた。反応探索とは、この同時発見を偶然に任せるのではなく、触媒と反応を同時に探すことで、未知の価値を持つ触媒プロセスを見出す研究方法である。

注2)反応空間
本研究では、メタン・酸素・二酸化炭素からなるCH4-O2-CO2三元系を指す。この中には、メタン酸化カップリング(OCM)、部分酸化(POM)、ドライリフォーミング(DRM)、非酸化的分解(TDM)などの既知反応が含まれる。本研究では、既知反応ごとに決まった原料比の周辺だけでなく、CH4、O2、CO2の混合比を広く変化させて、未知の反応や高性能な反応条件を探索した。

注3)ハイスループット実験
自動化・並列化・効率化などの手段に基づき単位時間当たりの実験数を飛躍的に増大させた実験を指す。本研究では、多数の触媒を並列に合成し、さまざまな原料組成や温度において、各触媒がどのような生成物を与えるかを自動的に評価した。

注4)化学量論点
反応式から決まる、原料が過不足なく反応する混合比を指す。本研究のCH4-O2-CO2三元組成図では、その混合比は一つの点として表される。例えば、メタンのドライリフォーミング(DRM)では、CH4 + CO2 → 2CO + 2H2 から、CH4/CO2 = 1 が化学量論点に相当する。

【論文情報】

雑誌名 ACS Catalysis
論文タイトル "Catalyst and Catalysis Co-exploration in Methane Utilization"
(メタン転換における触媒と反応の同時探索)
論文著者 Patchanee Chammingkwan*, Ranjithkumar P. Manchan, Tomoya Nagai, Poulami Mukherjee, 
Taiyo Kaneuchi, Ryo Tamura, Toshiaki Taniike*
*責任著者
DOI https://doi.org/10.1021/acscatal.6c03318

令和8年7月9日

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