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「顔を見分けにくい・覚えにくい」を測る簡易スクリーニングテストを科学的に検証 ―発達性相貌失認の評価に用いる質問票(PI20)を支える項目分析―

「顔を見分けにくい・覚えにくい」を測る簡易スクリーニングテストを科学的に検証
―発達性相貌失認の評価に用いる質問票(PI20)を支える項目分析―

【ポイント】

  • 発達性相貌失認の傾向を自己回答で簡便に把握する「20項目版相貌失認指標(PI20)」について、尺度全体の信頼性と構造的な妥当性を確認しました。
  • PI20の質問項目の特性を詳細に分析し、顔認識の困難さを捉える力が項目によって異なること、特に項目3と13には改善の余地があることを明らかにしました。
  • PI20を項目反応理論で詳細に検証した初の研究として、質問項目の見直しや、より短く精度の高いスクリーニングテストの開発につながる基盤を示しました。

【概要】

 北陸先端科学技術大学院大学人間情報学研究領域の森将輝准教授は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の杉山翠元大学院生(修士課程)と共同で、発達性相貌失認の傾向を自己回答で簡便に把握する20項目版相貌失認指標(PI20)を、一般成人599名のデータに基づいて検証しました。古典的テスト理論と項目反応理論を用いた結果、PI20全体は良好な信頼性および妥当性を示し、発達性相貌失認を測る尺度としておおむね効果的であることを確認しました。一方、PI20の測定性能は質問項目ごとに異なっていることも把握しました。具体的には、多くの項目は適切な識別力でありますが、一部の項目は識別力が低く、発達性相貌失認の傾向を適切に捉えにくいことが分かりました。PI20に項目反応理論を適用して詳細に分析した研究は本研究が初めてであり、質問項目の改善や短縮版の開発を進めるための科学的基盤となります。
 発達性相貌失認は、明らかな脳損傷がないにもかかわらず、生涯にわたり顔の認識に強い困難をきたす神経発達的な特性です。決してまれではありませんが、国際的に統一された診断基準はなく、評価手法の精度向上が課題となっています。PI20は国際的に広く使われている自己回答式の質問票ですが、20の質問がそれぞれどの程度正確に顔認識の困難さを捉えているかは、十分に検証されていませんでした。
 本研究は、質問票全体として良好さを確認しつつ、質問項目によって発達性相貌失認の傾向を捉える力に違いがあることを定量的に示したものです。公開した回答データと分析コードは、異なる言語・文化圏での追試や比較にも活用できます。研究成果は、心理学・行動科学分野の国際学術誌「Behavior Research Methods」に掲載されました。

1.研究の背景

 発達性相貌失認とは、明らかな脳損傷がないにもかかわらず、生涯にわたって顔の認識に困難(顔を見分けにくい、覚えにくいなど)をきたす神経発達的な特性を指します。国や調査方法によって推定値には幅がありますが、人口の約2~3%にみられるとの報告もあり、決してまれではありません。一方、主要な診断分類では独立した診断名として扱われておらず、評価基準も十分に確立されていません。
 近年、20項目版相貌失認指標(PI20: The 20-item Prosopagnosia Index)と呼ばれる自己回答式のスクリーニングテストが広く利用されています。回答者は20の質問に対し、5段階(1:全くあてはまらない~5:全くあてはまる)で回答し、顔認識の困難さを簡便に評価します。PI20は日本語を含む複数の言語に翻訳され、世界各国の研究で用いられています。
 しかし、PI20は専門家の知見を基に作られた一方、質問ごとの測定性能にはばらつきがある可能性が指摘されていました。特に、どの項目が発達性相貌失認の傾向を鋭く捉え、どの項目に見直しが必要なのかを定量的に示すデータは不足していました。

2.研究の成果

 本研究では、日本語版PI20に回答した一般成人603名のうち、回答の有効性が確認された599名分を分析しました。まず古典的テスト理論により、尺度全体の信頼性や一因子構造の妥当性、各項目と合計得点との関係を主に検証しました。次に項目反応理論を用い、各項目が回答者の発達性相貌失認傾向をどの程度識別できるか、また、どの程度の傾向を持つ人に対して測定力を発揮するかを定量的に評価しました。
 分析の結果、PI20全体は高い内的一貫性を示し、一因子構造にも良好な適合性が確認されました。また、多くの項目は十分な識別力と測定情報を持っていましたが、項目3と13は他の項目に比べて識別力が低く、発達性相貌失認の傾向を測る項目として改善の余地があることが分かりました。項目3は「特徴的な顔は認識しやすい」という一般の人にも当てはまりやすい内容、項目13は「自分の顔の認識」に関する内容であり、発達性相貌失認に固有の困難さを十分に反映しにくい可能性があります。なお、回答データセットと分析コードはOpen Science Frameworkで公開しており、論文からアクセスすることができます。

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図1.項目反応理論により推定した、各回答が選ばれる確率
Item 1~20は各質問項目に対応しています。横軸は発達性相貌失認傾向の強さ(θ)で、右に進むほど顔認識の困難さが強いことを示します。縦軸は5段階の各回答が選ばれる確率です。多くの項目では、傾向が強くなるにつれて選ばれる回答が順序よく移行しています。一方、項目3と13では曲線の重なりが大きく、傾向の強さを段階的に捉えにくいことが示されました。

3.今後の期待

 本研究は、PI20をそのまま診断に用いることを示すものではありませんが、発達性相貌失認の可能性に気づくための簡易スクリーニングを、より高精度かつ効率的にするための基盤となります。具体的には、測定性能の低い項目の表現を見直すことや、有用な項目を選んだ短縮版を開発することに役立ちます。
 また、回答データセットと分析コードを公開したことで、異なる集団、言語、文化圏における再検証が可能になります。今後、顔認識課題などの客観的な行動指標と組み合わせて検証することにより、実用性の高い評価手法の開発と、発達性相貌失認への理解の深化が期待されます。

【論文情報】

論文タイトル Item analyses of the 20-item prosopagnosia index using classical test theory and item response theory
日本語タイトル 古典的テスト理論および項目反応理論を用いた20項目版相貌失認指標の項目分析
著者 Masaki Mori*, Midori Sugiyama(*責任著者)
掲載誌 Behavior Research Methods
掲載日 2026年8月12日
DOI 10.3758/s13428-026-03145-3

【研究資金】

 本研究は、早稲田大学特定課題研究助成費(2025年度)の支援を受けて実施されました。

令和8年8月19日

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