研究

教員インタビュー(この人に聞く)

廣瀬 大亮 講師

酸化物バイオセンサー×AIで人間の感性をセンシング

廣瀬 大亮 講師の写真です

大学時代は生物学系を専攻。JAIST下田達也研究室にて電子デバイスに関する研究を行い、博士号(マテリアルサイエンス)を取得。企業で電子部品の研究開発に携わった後、JAIST高村禅研究室の研究員として酸化物トランジスタ型バイオセンサーの研究に従事。その後、助教を経て2024年より現職となり、酸化物バイオセンサーとAIの機械学習を融合させる研究をスタートさせる。

健康診断や感染症の診断など医療用途をはじめ、環境、食品、農業など幅広い分野で活用されているバイオセンサー。JAISTバイオ機能医工学研究領域の高村・廣瀬研究室では、高感度で迅速にターゲット分子を検出できる酸化物トランジスタ型バイオセンサーの開発に取り組んでいます。廣瀬講師の新たなチャレンジは、酸化物バイオセンサーとAIの解析技術を組み合わせて人間の感性をセンシングすること。その先に、思いもよらないユニークな世界が広がっています。



指先サイズの電子デバイスは、美味しい夢を見るか?

2020年に新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な問題となったことを受け、先手を打つ感染対策として、低コストで、正確かつ速やかに結果がわかる検査法のニーズが高まっています。私たちの研究室ではこうした社会課題に応えるかたちで、酸化物薄膜を利用した指先サイズのバイオセンサーの研究開発を進めており、すでにコロナウイルス、インフルエンザ、大腸菌の検出に成功しています。

近年は、研究の新たな方向性として、酸化物バイオセンサーとAIの解析技術を組み合わせることで、人間の感性をセンシングすることに挑戦しています。その第一歩が、ジュースやビール、日本酒など飲料の「味」の見分けです。リンゴ、オレンジなど5種類の市販のジュースを用意し、デバイスに垂らしたところ、95%の正答率を達成しました。指先に乗る小さなデバイスですが、「味が分かっている」のです。同様に各メーカーのビールと日本酒それぞれ5種の識別を試したところ、こちらも正答率は95%以上でした。
味は食べ物に備わっている絶対的な要素ではなく、飲む人・食べる人の感性や感覚、経験に左右されるものです。ウイルスや菌の“検出”は、測定手法や環境などに由来するばらつきを抑えることが課題になりますが、味の“識別”は、そうした曖昧さを受け入れることが前提になります。私はこれをファジーセンシングと名づけています。

多くの人の手元に楽しい技術を届けたい

AIはテキスト、音声、画像などを認識・解析できますが、人間の五感のうち味覚、そして嗅覚についてはまだ確立された技術はありません。酸化物バイオセンサーと融合させることでAIが味や匂いを識別できるようになると、人間とAIの豊かなコミュニケーションが生まれます。「これは美味しいよね」「この味が好きなら、これも好きじゃないですか?」など、人間に共感し、背中をそっと押してくれるようなシステム、アプリケーションを開発して、多くの人の手元に届けられればと考えています。
現在はワインの評価に取り組んでいます。ワインの香りや味わいには、「果実感」「樽香」「土の香り」など多様な要素、表現がありますが、これをAIに学習させることでスコア化が可能になります。AIと対話しながらテイスティングしたり、データベース化してコミュニティをつくったりと、個人ユーザーが楽しめるコンテンツをつくることもできますし、企業が品質管理に活用することも可能です。

人間とAIのコミュニケーションに焦点を当てると、たとえば、人間同士だと伝え方が難しい職場のスメルハラスメント問題で、AIが不快な匂いを認識し、本人の気づきを促すといった使い方ができます。
ファジーセンシングは、その名の通り、センシングの精度を問わないからこそいろんな使い方ができます。一方で、私たちの研究室ではデバイスのプロセス開発や物性解析も行っており、基礎科学と応用技術を両にらみしています。精度を高めたい場合は、さまざまな角度からブラッシュアップが可能です。

理想は、自分の技術が世の中で自律して回っている状態

こうしたテーマに取り組んだきっかけは、「こんなことができたら楽しいかも」という好奇心です。バイオ機能医工学研究領域の研究室としては、医療用途に開発してきたデバイスにジュースを垂らす…ということはある意味、非常識な発想でしたが、だからこそ誰も目を向けていなかった領域であり、研究テーマとして大きく成長していく可能性を実感しています。将来的には、私の技術や研究成果が、自律して世の中で回っている状態になっていれば嬉しいですね。社会のニーズを取り込みながらいろんな人が関わって研究が進んでいく、社会実装されユーザーが増えていく。世界一を目指すというより、そんなかたちで楽しい世界を実現できたらと思っています。

私は大学で生物学系を学んだ後、JAISTで電子デバイスに関する研究に取り組み、企業経験を経て再びJAISTでバイオセンサーの研究に携わるようになりました。今ではAIも取り入れて、デバイスの設計から作製、評価、解析まで一貫して行っています。これからJAISTに入学してくる学生にも、学部時代の専門のワクを超えて、自分を試してみてほしいと思っています。「自分は○○学部だったから」と最初から可能性を狭めるのはもったいないこと。
JAISTには、マテリアルサイエンス、知識科学、情報科学と幅広い学修分野があり、いろんなことにチャレンジできる環境があります。

令和8年3月掲載

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