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触媒ビッグデータから「触媒世界地図」を描写 ~ブラックボックス化していた触媒設計を紐解く~

北海道大学 JAIST 科学技術振興機構
国立大学法人 北海道大学
国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学
国立研究開発法人 科学技術振興機構

触媒ビッグデータから「触媒世界地図」を描写
~ブラックボックス化していた触媒設計を紐解く~

ポイント

  • 触媒の組成・実験条件の知識ネットワーク「触媒世界地図」を触媒ビッグデータから描写。
  • 触媒世界地図を用いた触媒設計が可能となり、新たな活性触媒を発見。
  • 大規模な科学データからの材料・触媒設計の技術基盤になることを期待。

【概要】

 北海道大学 大学院理学研究院の髙橋 啓介准教授、髙橋 ローレン学術研究員らの研究グループは、北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質化学領域の谷池 俊明教授らと共同で、触媒ビッグデータから触媒の知識を表現した「触媒世界地図*1」を描写しました。
 これまで研究グループは、多数の触媒データを高速で自動取得可能なハイスループット実験装置によりメタン酸化カップリング反応*2における触媒ビッグデータ(6万件)の構築に成功してきましたが、この規模の触媒データからどのように知識を抽出し触媒設計に結びつけるかが触媒インフォマティクス*3において大きな課題でした。
 そこでメタン酸化カップリング反応におけるハイスループット実験装置により得られた触媒ビッグデータに対して、オントロジー*4(知識の関係性をネットワークとして記述)の概念を活用することにより、触媒ビックデータから元素組成・実験条件・C2収率等の関係性を描写し、触媒の世界地図を作成することに成功しました。この触媒の世界地図により各要件の関係性が明白となり、そこで得られた情報から触媒設計が実現しました。
 結果、触媒の世界地図からKVEu-BaO(20%C2収率)、LiTiW-BaO(19%C2収率)、EuMgZr-BaO(19%C2収率)、MoKW-BaO(19%C2収率)等の未報告の活性触媒を設計し、実験実証することに成功しました。
 本手法は触媒ビッグデータや材料ビッグデータにも適用できるため、大規模な科学データからの材料・触媒設計の技術基盤になることが期待されます。
 本研究成果は、2021年9月22日(水)にChemical Science誌にてオンライン公開されました。

pr20210924-1.png元素と収率の関係、元素と実験条件の関係等が表現された触媒世界地図

【背景】
 触媒は化学反応の反応速度を速める材料であり、自動車の排気ガスの浄化からエネルギーの変換まで幅広い分野で実用化されています。これまでの触媒開発は、研究者の熟練の経験や勘で試行錯誤して開発していました。その中で、マテリアルズインフォマティクス・触媒インフォマティクスの登場により材料・触媒科学は大きな転換期を迎えています。
 マテリアルズインフォマティクス・触媒インフォマティクスでは、第4の科学であるデータ科学を用い、材料・触媒データのパターンから材料・触媒設計を行います。いわば、これまでの研究者の経験や勘をデータ科学で再現することを目的としています。しかし、材料・触媒ビッグデータから知識・設計をどのように抽出するかが大きな障壁となっています。特に機械学習等のデータ科学手法では機械がどう学習したのかを説明することができず、理論的解釈による設計が難しいという問題があります。
 そのため、理論に基づいた触媒設計を行う必要がありました。

【研究手法】
 メタン酸化カップリング反応を対象とし、独自開発したハイスループット実験装置で得られたメタン酸化カップリング反応の触媒ビッグデータに対して、オントロジーの概念を元にデータ内の知識と関係性をネットワークとして表現しました。

【研究成果】
 触媒ビックデータから触媒の世界地図を作成することに成功しました。この触媒の世界地図により元素組成・実験条件・C2収率等の関係性が明白となり、そこで得られた情報から触媒設計を行うことに成功しました。結果、触媒の世界地図からKVEu-BaO(20%C2収率)、LiTiW-BaO(19%C2収率)、EuMgZr-BaO(19%C2収率)、MoKW-BaO(19%C2収率)等の未報告の活性触媒を設計・実験実証することに成功しました。

【今後への期待】
 触媒ビッグデータからどのように触媒科学の知識を取り出すかが大きな課題でしたが、オントロジーという概念を元に知識のネットワークを設計することにより、触媒ビッグデータから知識の抽出・触媒設計が可能になることを初めて提案しました。この方法は今後の触媒ビッグデータや材料ビッグデータにも適用することができるため、大規模な科学データからの知識・材料設計の技術基盤になることが期待されます。

【謝辞】
 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究総括:上田 渉)における「実験・計算・データ科学の統合によるメタン変換触媒の探索・発見と反応機構の解明・制御」(研究代表者:髙橋 啓介)の支援を受けて行われました。

【論文情報】

論文名 Constructing Catalyst Knowledge Networks from Catalysts Big Data in Oxidative Coupling for Methane for Designing Catalysts(メタン酸化カップリング反応ビッグデータから触媒の知識ネットワークの構築と触媒設計)
著者名 髙橋 ローレン1 , Thanh Nhat Nguyen2, 中野渡 淳2、藤原 綾2、谷池 俊明2、髙橋 啓介1
1北海道大学大学院理学研究院、2北陸先端科学技術大学院大学)
雑誌名 Chemical Science(英国王立化学会が発行する化学ジャーナル)
DOI 10.1039/D1SC04390K
公表日 2021年9月22日(水)(オンライン公開

【用語解説】
*1 触媒世界地図...触媒ビックデータから元素組成・実験条件・C2収率等の関係性をネットワークとして描写したもの。
*2 メタン酸化カップリング反応...普遍的に存在するメタンはそのままでは化学的な有用性が低く、これを触媒によって別の有用化合物へ変換することが望ましい。メタンの酸化的カップリングとは、メタンと酸素分子の反応を通してエタンやエチレンを直接合成する高難度反応である。
*3 触媒インフォマティクス...データ科学手法を用いて触媒設計・触媒解析を行う学問。
*4 オントロジー...物事をどの様に概念化したかを記述する学問。

令和3年9月24日

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