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超精細シミュレーションで、超高圧環境における新たな水素結晶構造の予測に成功

超精細シミュレーションで、超高圧環境における
新たな水素結晶構造の予測に成功

ポイント

  • データ科学とスパコンシミュレーションを活用して、基礎物理学にインパクトを与える新しい物質構造を見つけ出した。
  • 地球惑星科学の分野に大きな影響を与えるような結晶構造予測の問題への貢献が期待される。

【背景と経緯】
 元素が組む結晶構造には様々なパターンがあります。どのようなルールに支配されて実現パターンが決定されるのかを解明することは、物質科学の最基礎問題であり、物理学における代表的挑戦課題とされてきました。
 地球をはじめとする惑星深部での超高圧環境では、地表環境下とは異なる結晶構造が実現されます。どのような結晶構造が実現されるかを解明することは、地球の成り立ちや、宇宙全体での物質の分布の探究に重要なヒントを与える鍵となります。興味の対象となる未解明構造は、実験室では容易に到達できないような超高圧環境で実現されるものです。そのため、シミュレーション予測に頼るしかない問題とされています。どのような構造パターンが実現されるかは、電子同士に作用しあう電気力、量子力学の世界に特有の揺らぎや排他性といった各種要因の微妙なバランスで決定されます。
 特に、最も軽い元素である水素の結晶構造に関しては、揺らぎが大きいため予測が難しい問題となっています。各種シミュレーション手法での近似の流儀によって予見が大幅に変わってしまい、何が本当の答か長年に亘って論争が繰り広げられている国際的難問とされてきました。どこまで近似を避けて真面目なシミュレーションを遂行できるかの腕が競われる典型的な挑戦課題となっています。

【研究の内容】
 北陸先端科学技術大学院大学 環境・エネルギー領域の前園 涼教授本郷 研太准教授らのグループは、第一原理量子モンテカルロ法*1と呼ばれる、超精細な量子力学シミュレーション手法を専門に、大学の特色であるスーパーコンピュータシステムを活用して研究に取り組んできました。
 高圧下での結晶構造については、近年のデータ科学手法である遺伝的アルゴリズム*2を用いて、幾つかの候補パターンを弾き出すことができます。ただ、これらの候補構造が本当に高圧下で生き残るパターンであるかどうかは、超精細シミュレーションで検証しなければわかりません。新しい構造自体は比較的簡単に見つかりますが、その答が本当に正しく実現するものなのかについて、分野専門家の厳しい審査眼に耐えうるだけの慎重で多面的な検討が必要になります。例えば、仮定した構造で原子を固定すれば、「安定に実現しそう」と予測されても、固定された位置から滑り出してしまう可能性まで考慮すると安定実現とはいえなくなってしまうなどといった事情がしばしば生じます。そのような検証は実に計算コストがかかり、これまでは容易に行えないものでした。
 水素結晶の問題は、永く国際的競争が繰り広げられてきた課題ゆえ、審査眼は厳しく、研究グループでは、実に3年以上の歳月をかけて慎重な検討を行いました。その結果、P21/c-8タイプと呼ばれる新しい水素結晶構造(水素原子の並び方のパターン)が地球深部などの超高圧下で実現しうることを明らかにしました(図)。
 本研究成果は、2021年12月29日(米国東部標準時間)に米国物理学会の科学雑誌「Physical Review B」のオンライン版に掲載されました。

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図 地球深部などの超高圧下で実現すると予測されたP21/c-8タイプと呼ばれる新しい水素結晶構造(原子の配置パターン)。画面から突き出る方向に積層しており、赤丸と青丸は、それぞれ異なる層に配置される。赤丸、青丸とも水素原子を表す。赤丸は(1)や(2)で示される二原子分子を構成し、青丸は点線で繋がれ六角形状に結合している。

【今後の展開】
 水素結晶の問題は、最も挑戦性の高い典型的難問です。ここに国際的な業績を挙げたことで、当研究グループのシミュレーション基盤が、超高圧下での物質構造予測に高い信頼性を持つ確証が得られました。この方面では、ケイ素やマグネシウムの化合物などについて、地球惑星科学上の学説に大きな影響を与えるような結晶構造予測の問題が多数存在します。これら問題群に対して、引き続き、データ科学による候補構造生成と、第一原理量子モンテカルロ法による高精細検証とを組み合わせた研究を展開していきます。

【論文情報】

掲載誌 Physical Review B
論文題目 Candidate structure for the H2-PRE phase of solid hydrogen
(水素結晶の高圧相に見いだされた新たな結晶相)
著者 Tom Ichibha, Yunwei Zhang, Kenta Hongo, Ryo Maezono, Fernando A. Reboredo
掲載日 2021年12月29日(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載
DOI 10.1103/PhysRevB.104.214111

【用語説明】
*1 第一原理量子モンテカルロ法:
 「電子レベルのミクロな世界」を記述する方程式を解く方法の一つ。乱数を使って具体的に様々な状況を作り出して「個別の数」の平均をとるアプローチを採用したもの。従来の「関数(数の枠)を使う方法」よりも手間が掛かるが、枠がない分、正確な見積もりを行える。大量の乱数を発生させて数値評価を行うため、スーパーコンピュータの活用が必須となる。
*2 遺伝的アルゴリズム:
 コンピュータのプログラミングにおいて、染色体の交叉・突然変異・自然淘汰といった生物の遺伝子の振る舞いと役割を模すことにより解を求める手法。

【リンク】

令和4年1月12日

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