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健康的なまちづくりをメタバースで支援:疾患予防に寄与する都市環境の具現化に向けて期待されるメタバースの可能性

logo_jaist2021.png pr20221219-logo-u-waseda.png 国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
学校法人早稲田大学

健康的なまちづくりをメタバースで支援:
疾患予防に寄与する都市環境の具現化に向けて期待されるメタバースの可能性

ポイント

  • 糖尿病、心疾患、脳卒中、慢性呼吸器疾患、がんなどの非感染性疾患は、依然として世界の主要な死亡原因を占めており、今後も高齢化社会で増加し続けることが予想される。
  • 非感染性疾患を含めた疾患には、建造環境が影響することが以前から指摘されているが、これらの非感染性疾患の予防に寄与する建造環境の解明には、大規模な調査や、信頼性の高い実験などの介入研究[用語解説]が必要であり、多くの時間と費用がかかることなどの制約から、これまで研究が進んでいなかった。
  • 今回、これらの課題を解決するため、本研究グループは研究デザインの設計にメタバースを利用することを提案した。現在、様々な分野においてメタバースの研究応用に関する議論が行われているが、メタバースが「健康増進」にどのように活用できるかについて議論した研究は少ない。本研究は、建造環境、公衆衛生などの分野におけるメタバースの活用に関する研究の発展に貢献することが期待される。
  • また、建造環境、公衆衛生などの分野においてメタバースを利用することにより、様々な建造環境による健康への影響を検証する介入研究の実施を容易にするだけでなく、介入研究などに必要となる時間や費用の削減につながることも期待される。
 北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)創造社会デザイン研究領域のクサリ モハマドジャバッド(KOOHSARI MohammadJavad)准教授ならびに早稲田大学(総長・田中愛治、東京都新宿区)スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授らの研究グループは、糖尿病、心疾患、脳卒中、慢性呼吸器疾患、がんなどの非感染性疾患の予防に寄与する建造環境の特性を明らかにするための大規模な介入研究の実現に向け、メタバースの利用可能性について提案を行った。

【研究の内容と背景】

 糖尿病、心疾患、脳卒中、慢性呼吸器疾患、がんなどの非感染性疾患は、依然として世界の主要な死亡原因を占めており(2019年の全死亡の74%)、今後も高齢化社会で増加し続けることが予想される。これら非感染性疾患の原因となる、運動不足、不健康な食事、喫煙などの危険因子を低減するため、「建造環境」の有り様が重要な役割を担っている可能性が以前から指摘されている。
 建造環境とは、住宅、店舗、道路、公園、公共空間など「人々が日常的に生活し、働き、憩う、人間が作り出した物理的な空間環境」と定義され、先の指摘からも、非感染性疾患の予防に寄与する建造環境の特性を明らかにしていくことは、健康的なまちづくりを実現していくための重要な課題である。
 しかし、これらの非感染性疾患を含めた疾患への建造環境の影響を検証するためには、大規模な調査や、質の高い実験などの介入研究が必要であり、研究に多くの時間を要することや、費用面などの様々な制約から、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT)[用語解説]など信頼性の高い研究デザインを用いた研究が不足している。

 今回、北陸先端科学技術大学院大学のクサリ准教授(早稲田大学の研究員を兼任)は、早稲田大学の岡浩一朗教授、東北大学の中谷友樹教授、文化学園大学の安永明智教授、カルガリー大学(カナダ)のGavin R. McCormack准教授、サスカチュワン大学(カナダ)のDaniel Fuller准教授、北陸先端科学技術大学院大学の永井由佳里教授と共同で、糖尿病、心疾患、脳卒中、慢性呼吸器疾患、がんなどの非感染性疾患の予防に寄与する建造環境の特性を明らかにするための大規模な介入研究の方法として、「メタバース」を利用することを提案した。

 メタバースは、人間生活のあらゆる側面に影響を与える無限の可能性を秘めたプラットフォームであり、ゲーム・アミューズメントのみならず、多方面へ普及していく技術として世界中の人々の注目や関心を集めているが、この"完全に没入できる仮想空間"の有用性に関する議論は、2021年にFacebook社が社名を「Meta」に改名するまで、一部の研究者、技術者間やSFの世界に限られていた。最近では、様々な研究分野においてメタバースの可能性が議論されはじめているが、研究応用に関する議論はまだ初期の段階であり、PubMed[用語解説]における検索では、「メタバース」をキーワードとして含む公開論文は、わずか50数件であった(2022年7月時点)。公衆衛生の分野においても、メタバースを人々の健康増進のための研究に展開、応用できるよう、研究方法を模索しているところである。

 本研究では、このメタバースを利用することで、建造環境が健康へどのように影響を与えるのかを検証する介入研究がこれまでより容易に実施できる可能性を提案した。メタバースでは、研究参加者が、時間的・空間的な制約を伴わず、様々な条件の建造環境(例えば、人口密度の高い街や低い街、都市環境や自然環境など)を経験できるよう研究デザインを設計することができ、これにより異なる建造環境が人々の健康に与える短期的、長期的な影響を容易に検証することができる。

 また、メタバースは、健康に良い影響を与える建造環境を検証、提供することも可能である。現実社会では、緑豊かな自然に触れることが難しい都市環境に居住する人々に対しても、メタバースはその機会を提供できる。このことはストレスフルな環境で生活している人々のメンタルヘルスの改善にもつながるだろう。
 メタバース上では、住環境やオフィス環境について、無限に修正や変更を行うことが可能であり、その修正や変更は、コンピュータ上で簡単に実行することができる。
 このように、メタバースは新しい住環境やオフィス環境が健康に与える影響をリアルタイムでテストするための仮想空間を容易に提供することができ、現実社会で大規模な介入研究を実施する前に、まずメタバース上で建造環境に関するさまざまな修正や変更を行うことで、現実社会での調査や実験に必要なコスト(時間や費用など)の削減につながることも期待される。

 なお、本研究では、健康の維持・増進のための研究にメタバースを利用していくことの利点を提案する一方、メタバースへの過度な没入が、社会的孤立や反社会的行動、身体活動不足など、健康に悪影響を与える可能性があることも指摘している。

 本研究成果は、2023年2月13日(月)、JMIRジャーナル社が発行する学術誌「Journal of Medical Internet Research」のオンライン版で発表された。
 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費基盤研究A(20H00040)、基盤研究B(20H04113)、Canadian Institutes of Health Research Foundations Scheme Grant (FDN-154331)の支援を受け行った。

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図. 健康増進に向けたメタバースの可能性
(図左:建造環境の例(住環境やオフィス環境など)、
図中:メタバースの例(様々な条件の建造環境を経験できる))
[図の一部をBioRenderより引用]

【用語解説】

介入研究:
治療や予防などの方法を試験として患者に行い、その結果を評価する研究方法で「臨床試験」とも呼ばれます。一般的に、適切に実施された介入研究からは、観察研究よりも信頼性の高い情報が得られます。介入研究では、効果などがまだ十分に確認されていない方法を試験することもあり、高い倫理性と科学性が求められる研究方法です。

ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT):
ランダム化比較試験は、試験対象となる集団を「介入を加える群」と「対称群」に無作為に割り当て、介入による効果を明らかとするための試験方法です。ランダムに割り付けるのは、対象となる集団の背景(性別や年齢、疾患歴)などの要因の偏りをできる限り少なくするためです。
ランダム化比較試験により得られる結果は、客観性が高く、他の試験方法から得られるデータと比べて科学的根拠の信頼性の度合いであるエビデンスレベルが高いといわれています。

PubMed(パブメド):
生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載するMEDLINEなどへの無料検索エンジン。 アメリカ国立衛生研究所のアメリカ国立医学図書館(NLM)が情報検索Entrezシステムの一部としてデータベースを運用しています。

【論文情報】

雑誌名 Journal of Medical Internet Research
題目 The Metaverse, the Built Environment, and Public Health: Opportunities and Uncertainties
著者 Mohammad Javad Koohsari, Gavin R. McCormack, Tomoki Nakaya, Akitomo Yasunaga, Daniel Fuller, Yukari Nagai, Koichiro Oka
掲載日 2023年2月13日
DOI 10.2196/43549

令和5年2月21日

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