自動運転システム「Autoware」の安全性に課題──新たな検証フレームワークで発見
自動運転システム「Autoware」の安全性に課題
──新たな検証フレームワークで発見
【ポイント】
- 自動運転システムの安全性を、業界標準にそって評価できる新しい検証フレームワークを開発
- このフレームワークを公道でカスタマイズ版が使われいている実績があるオープンソースの自動運転プラットフォーム「Autoware」に適用
- 高速走行中の割り込みや急な車線変更など重要な運転シーンで、Autowareが衝突を回避できないケースがあると判明
- 本研究は、安全で信頼性の高い自動運転サービスの実現に貢献
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市) 次世代デジタル社会基盤研究領域のTran Dinh Duong特任助教、冨田尭准教授、青木利晃教授は、自動運転システムの安全性を、業界標準に基づいて評価できる新しい検証フレームワークを開発しました。このフレームワークを用いて、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の安全性を評価したところ、高速走行中の割り込みや急な車線変更が発生した際に、衝突を回避できないケースがあることが判明しました。Autowareのカスタマイズされたバージョンの一部がすでに公道で導入されています。このことからも、自動運転の安全性をより体系的に検証する必要があります。本研究は、今後の自動運転技術の信頼性向上にもつながると期待されます。 |
【研究概要】
車に乗るだけで目的地まで自動で安全に連れて行ってくれる──そんな未来が実現しつつあります。しかし、自動運転技術を社会に広く受け入れてもらうためには、1つの重要な問いに答える必要があります。それは、「本当に安全なのか?」ということです。
この問いに応えるべく、本研究チームは、オープンソースの自動運転システム「Autoware」に対して新たに開発した検証フレームワークを適用し、厳密な評価を実施しました。その結果、Autowareは一部の重要な交通シナリオにおいて安全性に課題があることが明らかになりました。この研究成果は、IEEEの学術誌「IEEE Transactions on Reliability」に掲載されました。
研究チームは、仮想空間上に「自動運転のテストコース」とも言えるシミュレーション環境を構築しました(図1)。専用のスクリプト言語「AWSIM-Script」を使いシミュレーション中には、「Runtime Monitor」が走行データを詳細に記録し(航空機のブラックボックスのような役割)、その記録をもとに「AW-Checker」という検証ツールがAutowareの動作を分析しました。分析基準には、日本自動車工業会(JAMA)が策定した自動運転の安全評価フレームワークが用いられ、このフレームワークは、国連規則第157号(UN Regulation No. 157)にも一部採用されました。
今回評価対象となったのは、JAMAが定義する3つの危険かつ現実的なシナリオ──①前方の車両が急に割り込んでくる「カットイン」、②前方の車両が突然車線変更する「カットアウト」、③前方車両が急ブレーキをかける「減速」です。Autowareの挙動は、JAMAが定める「注意深いドライバーモデル」と比較されました。
さらに本研究では、センサー構成の違いによる性能比較も行いました。一方はレーザー光で周囲の距離を測るセンサーLiDARのみの構成、もう一方はLiDARとカメラを組み合わせた構成です。結果は意外なもので、LiDARのみの構成の方が、難易度の高いシナリオにおいて安定した動作を示しました。研究チームは、カメラ画像を用いた物体検出で生じるノイズがセンサーフュージョンの精度に悪影響を与えた可能性を指摘しています。
これらの調査結果は、現実世界において重要な意味を持ちます。なぜなら、Autoware のカスタマイズ版のいくつかは、すでに自動運転サービスの提供を目的として公道に導入されているからです。本研究の知見は、開発者がより広範な展開の前に安全性に関する懸念を特定・解決するのに役立ち、最終的には一般利用に向けて、より安全で信頼性の高い自動運転ソリューションの開発を促進することが期待されます。研究チームは今後、Autowareの内部処理の詳細で科学的な分析を行いつつ、交差点や歩行者が関与するようなより複雑なシナリオ、さらに天候や路面状況といった環境要因の影響も含めた安全性評価を進めていく予定です。
図1. Autowareを用いた実験におけるシミュレーション交通シナリオ。隣の車線を走行していた赤い車両が、自動運転車の進路に割り込む様子を示している。 |
【研究資金】
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業CREST(JPMJCR23M1)の支援により実施されました。
【論文情報】
雑誌名 | IEEE Transactions on Reliability |
論文名 | Safety Analysis of Autonomous Driving Systems: A Simulation-Based Runtime Verification Approach |
著者 | Duong Dinh Tran, Takashi Tomita, and Toshiaki Aoki |
掲載日 | 2025年5月1日 |
DOI | 10.1109/TR.2025.3561455 |
令和7年5月23日