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水素を吸蔵するナノチューブ材料の吸着力の詳細を解明

水素を吸蔵するナノチューブ材料の吸着力の詳細を解明

ポイント

■水素燃料貯蔵をシミュレーションで扱う上で困難とされてきた予測信頼性にかかる誤差の原因が理論的に解明された。

【背景と経緯】
 水素吸蔵材料は、水素燃料貯蔵技術の根幹となっている。表面積の大きなナノチューブ材料の表面に、水素分子が「ファンデルワールスの力」と呼ばれる弱い力で吸着されて貯蔵される。どのような温度環境で、どれくらい貯蔵が可能かをシミュレーションで見積もりながら材料開発を加速したい。ところが、吸着の原理が複雑で、従来のシミュレーション手法では、条件によって予測が異なり、どの答えを信頼したらいいか見通せないという歴史の長い問題があった。そこで、この吸着力を正しく表現できる「DMC法」*1 という別手法の適用を成功させ、従来予測の誤差の原因を詳細に解明した。

【研究の内容】
 北陸先端科学技術大学院大学 環境・エネルギー領域の本郷 研太准教授前園 涼教授らのグループは、DMC法(第一原理量子モンテカルロ法)を活用して、この問題を解決した。複雑な吸着原理を「全体像として模式化して扱う」従来の手法と異なり、スーパーコンピュータの計算能力を活用して、電子一つ一つの配置を追って、吸着の仕組みをコンピュータ上で忠実に再構築するやり方で、炭化ケイ素ナノチューブの表面から水素が外れていく様子をシミュレーションした。その結果、水素を外すのに、どれくらいのエネルギーが必要なのか、どれくらいの距離だけ離れると、水素は外れやすくなるのかといった予測結果が、他の従来シミュレーションの予測と大きく異なることが明らかになった。
 本研究成果は、2021年9月16日(米国東部標準時間)に科学雑誌「ACS Omega」のオンライン版に掲載された。

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図1 炭化ケイ素ナノチューブ(右下)の表面から水素が外れていく過程でのエネルギー変化。右上図で定義した「表面から水素分子までの距離」を横軸にとり、エネルギー値(縦軸値)がどう変化するかを評価すると、その深さから「水素分子を取り出すのに必要なエネルギーはどれくらいか」といったことを見積もることができる。凡例でDMCと書かれている曲線が今回評価された「もっとも正確な予見」で、これと従来法による予見(PZ/PBE/vdW-DF2)が比較されている。従来法のうち、「vdW-DF2」は「最も正確なDMC予見とほぼ一致しており、その利用を正当づけている。

【今後の展開】
 DMC法は計算コストが高いが、これを用いて、多種存在する簡便な従来手法のうち、どの手法が、どのようなクセ(予測誤差の傾向)を持つか、どのような場合には、どの手法を使うのが適するのかを明らかにすることができる。これによって「どの答えを信頼すればいいのか」、「出てきた予測をどう修正して役立てればいいのか」がわかり、水素燃料貯蔵技術に関する材料開発を加速することができる。

【用語説明】
*1 DMC法(第一原理量子モンテカルロ法):「電子レベルのミクロな世界」を記述する方程式を解く方法の1つ。乱数を使って、具体的に様々な状況を作り出して「個別の数」の平均をとるアプローチを採用したもの。従来の「関数(数の枠)を使う方法」よりも手間が掛かるが、枠がない分、正確な見積もりを行える。大量の乱数を発生させて数値評価を行うため、スーパーコンピュータの活用が必須となる。

【論文情報】

掲載誌 ACS Omega
論文題目 Importance of Van der Waals Interactions in Hydrogen Adsorption on a Silicon-carbide Nanotube Revisited with vdW-DFT and Quantum Monte Carlo(炭化ケイ素ナノチューブの水素吸着におけるファンデルワールス相互作用の重要性)
著者 Genki Imam Prayogo, Hyeondeok Shin, Anouar Benali, Ryo Maezono, Kenta Hongo
掲載日 2021年9月16日(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載
DOI 10.1021/acsomega.1c03318

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令和3年9月27日

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