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精密な電子状態シミュレーションで、窒化ホウ素の最安定構造の予測に成功

精密な電子状態シミュレーションで、窒化ホウ素の最安定構造の予測に成功

ポイント

  • スーパーコンピュータを使った電子状態シミュレーションを活用して、長年論争されていた窒化ホウ素結晶の最安定構造の予測を行った。
  • 従来手法では扱いに難渋する特異な物質の結晶構造予測の問題への貢献が期待される。

【背景と経緯】
 元素が組む結晶構造には様々なパターンがあります。どのようなルールに支配されて実現パターンが決定されるのかを解明することは、材料科学における代表的挑戦課題とされてきました。同じ元素から構成される物質でも、温度や圧力の違いによって様々な結晶構造をとります。これを「結晶構造の多形」と言い、結晶構造の違いによって、物質は異なる性質を示します。最も身近な例は炭素で、同じ元素から構成されているにも関わらず、グラファイト、ダイヤモンド、フラーレン、ロンズデーライト、グラフェンなど、 温度や圧力によって様々な結晶多形を構成し、その結晶多形それぞれが示す物性も違います。

 温度や圧力の違いによる物質の状態を表す図を「相図」と言い、その理解は、材料科学分野の根幹といえるものです。しかしながら、実験のみによる相図を求めることはその労力の大きさから困難であるため、理論計算による補完が重要な役割を果たしてきました。ただし、その相図を決定する各結晶の相対的安定性は、電子同士に作用しあう電気力、量子力学の世界に特有の揺らぎや排他性といった各種要因の微妙なバランスで決定されます。そのため、例えば、「ファンデルワールス力」と呼ばれる弱い力が支配的な物質など、特異な物質に対しては、各種シミュレーション手法での近似の流儀によって予見が大幅に変わってしまい、何が本当の答か長年に亘って論争が繰り広げられる難問とされてきました。

【研究の内容】
 北陸先端科学技術大学院大学 サスティナブルイノベーション研究領域の中野 晃佑助教は、同大学の前園 涼教授本郷 研太准教授らとともに、第一原理量子モンテカルロ法*1と呼ばれる、超精細な量子力学シミュレーション手法の研究に取り組んできました。今回の研究では、窒素(B)とホウ素(N)が1:1で構成される「窒化ホウ素」の結晶に着目しました。窒化ホウ素の結晶多形としては、hBN、cBN、rBN、wBNが有名な4種類として知られています (図)。このうち、hBNが最安定なのか、cBNが最安定なのか、という問題が長年議論されてきました。炭素におけるグラファイトとダイヤモンドの関係(つまり、大気圧/室温下ではダイヤモンドよりはグラファイトのほうが安定)からの類推で、窒化ホウ素化合物においてもhBNが安定だと信じられてきましたが、近年はcBNのほうが安定という反論も現れています [Sci. Adv. 5, eaau5832 (2019)]。これまで、実験/理論計算の両方で、いくつもの相反する結果が得られ、論争が続いていました。理論計算の技術的な観点からは、hBN及びrBNは、BNで構成される層の間に働く「ファンデルワールス力」のため、従来の計算手法である密度汎関数計算で扱いが難しい物質群とされてきました。そのため、多くの研究グループが従来法を利用して結晶多形の理論予測を行ってきましたが、その結果には疑問が呈されており、これまでにない高精度な計算手法による取り組みが期待されてきました。

 今回研究グループは、 グループの特色である第一原理量子モンテカルロ法を初めて窒化ホウ素の結晶多形問題に適用し、最終的にhBNが最安定であるという結論を得ました。第一原理量子モンテカルロ法は、厳密な計算手法ではありますが、モンテカルロ法を利用するという特性から、計算結果に一定の不確定性(エラーバー)を持ってしまいます。今回の研究では、本学が有するスーパーコンピュータシステムに加えて、米国国立研究所のスーパーコンピュータも利用し、その不確定性を低減させ、確定的な結論を得るに至りました。

 本研究成果は、2022年3月24日(米国東部標準時間)に米国化学会の科学雑誌「Journal of Physical Chemistry C」のオンライン版に掲載されました。

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図 窒化ホウ素(BN)の結晶多形。(a) cBN、 (b) hBN、(c) wBN、(d) rBNを示している。各結晶構造の空間群も図中に示してある。ホウ素(B)と窒素原子(N)はそれぞれ、茶色及び青色で示した。

【今後の展開】
 ファンデルワールス力が支配的な物質の結晶多形問題は、最も挑戦性の高い典型的難問です。今回の研究では、同研究グループのシミュレーション基盤が、このような物質群での物質構造予測に高い信頼性を持つことが示されました。層間のファンデルワールス力が結晶構造に重要な働きをする2次元の層状化合物は、次世代のデバイスとしても注目されており、今後、より一層研究が盛んになっていくものと思われます。このような物質群に研究グループのシミュレーション技術を適用し、材料科学分野の学説に大きな影響を与えるような結晶構造予測問題を解決していくことを計画しています。

【論文情報】

掲載誌 Journal of Physical Chemistry C
論文題目 Diffusion Monte Carlo Study on Relative Stabilities of Boron Nitride Polymorphs
(拡散量子モンテカルロ法に基づく窒化ホウ素結晶多形の相対的安定性の研究)
著者 Yutaka Nikaido, Tom Ichibha, Kenta Hongo, Fernando A. Reboredo, K.C. Hari Kumar, Priya Mahadevan, Ryo Maezono, Kousuke Nakano
掲載日 2022年3月24日(米国東部標準時間)
DOI 10.1021/acs.jpcc.1c10943

【用語説明】
第一原理量子モンテカルロ法:
 「電子レベルのミクロな世界」を記述する方程式を解く方法の一つ。乱数を使って具体的に様々な状況を作り出して「個別の数」の平均をとるアプローチを採用したもの。従来の「関数(数の枠)を使う方法」よりも手間が掛かるが、枠がない分、正確な見積もりを行える。大量の乱数を発生させて数値評価を行うため、スーパーコンピュータの活用が必須となる。

【リンク】

令和4年4月8日

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