ニュース・イベント

プレスリリース

電子レベル精密シミュレーションの根本的効率化を実現

電子レベル精密シミュレーションの根本的効率化を実現

ポイント

  • 物質の電子レベルの精密シミュレーションにおいて、根本的効率化を実現する方法を開発した。
  • 同じ正確さを達成するために必要となる計算回数を減らせることを示す基礎研究であり、コンピュータ自体のスピード向上に頼らない根本的な高速化を実現できるものである。

【背景と経緯】
 近年、材料の特性を正確にシミュレーション予見して、材料開発に役立てるような研究が盛んです。最も正確な予見方法として、物質中での電子がとりうる状態の可能性を、シミュレーションで大量発生させてサンプリングする方法が知られています。サンプリングされたバラバラな値から、背後にある法則性を正確に見出すには、多数のサンプルが「完全にランダムでえこひいきがない」ようにサンプリングされている必要がありますが、計算機で発生させたサンプリング点は、互いの"しがらみ"がある程度持続してしまい、完全なランダムにはなりません。このしがらみの作用を除去しようとすると、例えば「サンプリング20個分で、ようやく完全ランダム点の1つ分がとれる」といった効率の悪さが発生します。
 「サンプリング20個分で、ようやく完全ランダム点の1つ分」と例示したのは、「サンプルを20個分程度吐き出して、ようやく最初の点の記憶が消失し、しがらみがなくなってランダム性が確保される」ということを述べています。この「しがらみの消失度合い」を、これまで正確に測ることができなかったため、「20個もあれば十分だろう」と安全策をとって正確な見積もりとしていました。

【研究の内容】
 このたび、北陸先端科学技術大学院大学 サスティナブルイノベーション研究領域の前園 涼教授本郷 研太准教授のグループは、米国オークリッジ国立研究所の市場 友宏博士(北陸先端科学技術大学院大学修了)、英国ケンブリッジ大学のAlex J. W. Thom博士らと共同で、「しがらみの消失度合い」を正確に見積もる方法を解明しました。「念の為、サンプリング20個分の間隔でとっていたが、5個分も間隔があれば、しがらみは消失する」といったことが正確にわかるようになりました。その結果、「サンプリング20個分で、ようやく完全ランダム点の1つ分がとれる」としていたものを、「サンプリング20個分あれば、完全ランダム点は4つ分とれる」という効率化を図ることが可能になりました(図)。[注意;「20個」、「5個」といったものはあくまでもの例示です。]

 これまでの素朴な処理で「サンプリング20個分からランダム点1つ分相当」となっていたものを、処理の仕方をもっと工夫することで、「サンプリング20個分から、ランダム点4つ分相当とれる」といったような効率化が達成できることが本研究で示されました。こうした工夫により、同じ正確さを達成するために必要となるサンプリング数を、例えば1/4に減らすことができるため、シミュレーションの効率化・高速化につながります。コンピュータ自体のスピード向上に頼らない根本的な高速化を実現しうる、基礎研究の賜物といえる成果です。

 本研究成果は、2022年4月19日(米国東部標準時間)に米国物理学会の科学雑誌「Physical Review E」のオンライン版に掲載されました。

pr20220426-1.png

本研究の概念図

【何故そのような事が可能になったのか】
 「大事をとって念の為、20個の間隔をあける」というのは、「たいていは5個も間隔をとれば、しがらみは消失するが、たまに『5個では足らない事案』が発生する」というためでした。研究グループは、なぜそのような異常事案が発生するのか解明に取り組みました。その結果、同じ「サンプリングに基づく方法」でも、異なる3種類ほどのシミュレーション手法で、「異常事案が発生する手法、発生しない手法」、あるいは「異常事案が発生するような問題対象は何か」といったことが明らかになりました。そこで、このような「手法ごとの癖」をよく反映した「しがらみの長さの見積もり法」を複数準備して、正しい見積もりを実現しました。これにより、「よくわからないから全てのケースで大事をとって20個分間隔をあけよう」という無駄を避けることができるようになりました。

【論文情報】

掲載誌 Physical Review E
論文題目 Making the most of data: Quantum Monte Carlo postanalysis revisited
(マルコフ鎖量子モンテカルロ法の効率的なリブロッキング処理)
著者 Tom Ichibha, Verena A. Neufeld, Kenta Hongo, Ryo Maezono, and Alex J. W. Thom
掲載日 2022年4月19日(米国東部標準時間)
DOI 10.1103/PhysRevE.105.045313

【リンク】

前園研究室 (日/英) [https://www.jaist.ac.jp/is/labs/maezono-lab]

令和4年4月26日

PAGETOP