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量子センサーによる熱磁気流の観測に成功
-量子センシングとスピンカロリトロニクスの融合に道-
ポイント
- 熱により励起された磁気の流れ(熱マグノン流)をダイヤモンド中のNV中心と呼ばれる極小な量子センサーを用いて計測することに成功
- 量子センシング分野とスピンカロリトロニクス分野を融合する新手法として期待
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 応用物理学領域のドゥイ プラナント元博士後期課程学生(2019年6月修了、安研究室)、安 東秀准教授らは、京都大学、物質・材料研究機構と共同で、熱により励起された磁気の流れ(熱マグノン流注1))をダイヤモンド中の窒素-空孔複合体中心(NV中心(図1))注2)と呼ばれる極小な量子センサー注3)を用いて計測することに成功しました。 |
【背景と経緯】
近年、持続可能な社会の実現(SDGs)に向けた環境・エネルギー・情報通信などの問題への取り組みが活発化する中で、計測分野においては、量子力学を原理とした新しい計測技術に基づき従来の性能を凌駕する量子センシング分野の発展が期待されています。その中でも、ナノサイズの量子センサーとしてダイヤモンド中の欠陥構造であるNV中心が注目されています。
一方で、デバイス分野においては、これまで情報を入出力する方法として電流が用いられてきましたが、デバイスの微細化とともに多くのエネルギーが熱として浪費され発熱によりデバイスの動作が不安定となる問題がありました。これを解決する分野として、電流を用いずに電子の自由度であるスピン注4)を用いるスピントロニクス分野注5)が期待され、その中でもスピンと熱の相互作用を積極的に利用することで問題を解決しようとするスピンカロリトロニクス注6)が注目されています。
従来、量子センシング分野とスピンカロリトロニクス分野は独立に発展してきましたが、今回、これらを融合した分野の発展に繋がる新手法を実証しました。今回の研究では、熱により励起された磁気の流れ(熱マグノン流)をNV中心に存在する量子スピン状態により計測が可能であることを実証しました。
【研究の内容】
図2に示すように、まず、磁性ガーネット試料(Y3Fe5O12: YIG) 注7)中に温度勾配を印加して熱の流れを創り、これにより熱励起された磁気の流れ(熱マグノン流)を生成します。続いて、試料端でマイクロ波によりコヒーレント(エネルギーと位相の揃った)なスピン波注8)を生成して試料中に伝搬させます。この状況で試料中央にはダイヤモンドNV中心を含有したダイヤモンド片がYIGに近接され、このダイヤモンドNV中心を用いてスピン波を計測しました(図3(左))。今回、スピン波の強度を、光学的磁気共鳴検出法注9)を用いたNV中心のラビ振動注10)により計測し、熱マグノン流による変調信号を観測することに成功しました(図3(右))。
本研究成果は、2021年12月23日(米国東部標準時間)に米国物理学会の学術誌「Physical Review Applied」のオンライン版に掲載されました。
【今後の展開】
本研究では、スピン波を介して熱マグノン流を量子センサーであるNV中心を用いて計測することに成功しました。このことは、量子センシングとスピンカロリトロニクス分野を融合する新手法となることを示唆します。特に、NV中心はナノスケールの分解能で量子計測が可能であり、将来的には熱マグノン流に関する現象をナノスケールで計測すること、さらには熱マグノン流とNV中心の量子状態との相互作用に関する新しい研究展開を可能にし、スピンカロリトロニクスと量子センシングの融合研究に貢献することが期待されます(図4)。
図1 ダイヤモンド中の窒素(N)-空孔(V)
複合体中心(NV中心)スピン状態
図2 スピン波を介したNV中心による熱マグノン流計測の概念図
図3 (左)実験配置図、(右)NV中心のラビ振動計測による熱スピン流による変調信号の観測
図4 量子センシングとスピンカロリトロニクスの融合
【論文情報】
掲載誌 | Physical Review Applied |
論文題目 | Probing Thermal Magnon Current Mediated by Coherent Magnon via Nitrogen-Vacancy Centers in Diamond |
著者 | Dwi Prananto, Yuta Kainuma, Kunitaka Hayashi, Norikazu Mizuochi, Ken-ichi Uchida, Toshu An* |
掲載日 | 2021年12月23日(米国東部標準時間) |
DOI | 10.1103/PhysRevApplied.16.064058 |
【研究助成費】
本研究の一部は、次の事業の一環として実施されました。
・ 日本学術振興会(JSPS)科研費
新学術領域研究「ハイブリッド量子科学」公募研究(18H04289)、基盤研究(B) (18H01868) 、
若手研究(19K15444)、新学術領域研究(15H05868)
・ 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST(JPMJCR1875, JPMJCR1711)
・ 文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP, JPMXS0118067395)
【用語説明】
注1)熱マグノン流
磁性体中の磁気の流れ(マグノン、またはスピン波とも呼ばれる)が熱により励起されたもの
注2)NV中心
ダイヤモンド中の窒素(N)不純物と空孔(V)が対になった構造(窒素-空孔複合体中心)であり、室温、大気中で安定的にスピン量子状態が存在する。
注3)量子センサー
量子力学を原理とした量子状態を利用して超高感度測定を行うセンサー
注4)スピン
電子が有する自転のような性質。電子スピンは磁石の磁場の発生源でもあり、スピンの状態には上向きと下向きという2つの状態がある。
注5)スピントロニクス
電子の持つ電荷とスピンの2つの性質を利用して新しい物理現象や応用研究をする分野
注6)スピンカロリトロニクス
スピントロニクスの分野の中でもスピンと熱の相互作用の利用を目指す分野
注7)磁性ガーネット
希土類元素をイットリウム(Y)としたイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)結晶。スピン波の拡散長が数ミリメートル以上と長いことで知られている。
注8)スピン波
スピンの集団運動であり、個々のスピンの磁気共鳴によるコマ運動(歳差運動)が磁気の波となって伝わっていく現象
注9)光学的磁気共鳴検出法(Optically Detected Magnetic Resonance, ODMR)
磁気共鳴現象を光学的に検出する手法。本研究では532ナノメートルのレーザー光入射により励起・生成されたマイクロ波印加による蛍光強度の変化を計測しNV中心スピンの磁気共鳴を検出する。
注10)ラビ振動
ここではNV中心の2つのスピン状態間のエネルギーに相当するマイクロ波磁場を印加することにより状態が2準位の間を振動する現象。本研究ではスピン波(マグノン)が生成するマイクロ波磁場によりラビ振動を励起した。
令和3年12月27日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/12/27-1.html学生の八木さんが令和3年度応用物理学会北陸・信越支部学術講演会において発表奨励賞を受賞

学生の八木 稜平さん(博士前期課程2年、応用物理学領域、村田研究室)が令和3年度応用物理学会北陸・信越支部学術講演会において発表奨励賞を受賞しました。
令和3年度応用物理学会北陸・信越支部学術講演会は、12月4日に信州大学工学部及びオンラインにてハイブリッド開催され、一般54名・学生78名が参加しました。
この学術講演会において、応用物理学の発展に貢献しうる優秀な一般講演論文を発表した若手支部会員に対して、その功績を称えることを目的として発表奨励賞が授与されます。
■受賞年月日
令和3年12月4日
■講演題目
「光導波路分光法を用いた有機発光ダイオードのオペランド吸収測定」
■研究者、著者
八木 稜平、江口 敬太郎、村田 英幸
■講演概要
有機発光ダイオード(OLED)は、陽極と陰極から有機層中に注入された正孔(ラジカルカチオン)と電子(ラジカルアニオン)が発光層で再結合し、一重項励起子と三重項励起子を1 : 3の割合で生成します。これらの励起子の失活過程によって、OLEDの発光効率と安定性は大きく影響されます。本研究では、光導波路分光法を動作中のOLEDの吸収スペクトル測定に応用することにより、素子内部で発生するラジカルカチオンをその場検出できる新しいオペランド吸収測定法を開発しました。そして、電荷注入によって生成したラジカルカチオンの吸収スペクトル測定に初めて成功しました。
■受賞にあたって一言
この度、令和3年度北陸・信越支部発表奨励賞をいただけたことを大変光栄に思います。ご指導いただきました村田英幸教授、江口敬太郎助教ならびに貴重なご意見を頂いた研究室のメンバーに深くお礼申し上げます。


令和3年12月14日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2021/12/14-1.html生命機能工学領域の藤本教授らの論文がJournal of Chemical Technology and Biotechnology誌の表紙に採択

生命機能工学領域の藤本 健造教授らの論文がWiley社刊行の Journal of Chemical Technology and Biotechnology誌の表紙(Front cover)に採択されました。
■掲載誌
Journal of Chemical Technology and Biotechnology
掲載日2021年12月2日
■著者
Kenzo Fujimoto*, Masakatsu Ichikawa, Shigetaka Nakamura
■論文タイトル
Photoinduced aggregation of liposome modified with DNA containing ultrafast DNA photo-cross-linker
■論文概要
脂質二分子膜により構成されるリポソームは細胞膜のモデル系及びドラッグデリバリーのキャリアーとして魅力的なバイオ高分子である。本研究では、光に応答するDNAをリポソーム膜に修飾させることで、リポソーム同士を光照射エネルギー依存的に会合させることに成功した。さらに、この会合したリポソーム群を別の波長で光照射することで解離させることも可能となった。リポソームの会合状態を光制御するという今までにない独自のリポソーム操作性を実現することに成功した。本成果は細胞間相互作用解析やリポソームを基盤としたドラッグデリバリー開発に役立つものと期待される。
論文詳細:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jctb.6941
表紙詳細:https://onlinelibrary.wiley.com/toc/10974660/2022/97/1
令和3年12月13日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/12/13-2.html生命機能工学領域の藤本教授らの論文がOrganic & Biomolecular Chemistry誌の表紙に採択
生命機能工学領域の藤本 健造教授らの論文が王立化学会(RSC)刊行の Organic & Biomolecular Chemistry誌の表紙(Front cover)に採択されました。
■掲載誌
Organic & Biomolecular Chemistry
掲載日2021年12月7日
■著者
Jun-ichi Mihara, Kenzo Fujimoto*(*責任著者)
■論文タイトル
Photocrosslinking of DNA using 4-methylpyranocarbazole nucleoside with thymine base selectivity
■論文概要
核酸医薬や遺伝子解析への応用が期待される可視光応答型DNA光クロスリンカーは合成収率の低さが実用化への大きな障害となっていた。本研究では新規合成ルートを模索し、従来の5倍の高収率での合成に成功した。また、本DNA光クロスリンカーが従来のものと比較し、今までにない圧倒的な塩基特異性をもつことを明らかにした。これらの知見は可視光応答型DNA光クロスリンカーを用いた核酸医薬や遺伝子解析への実用化にむけて、大きな弾みとなる。
論文詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/OB/D1OB01621K
表紙詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/OB/D1OB90170B
令和3年11月29日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/11/29-1.html学生の筑間さんと渡部さんが2021年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会において優秀ポスター賞を受賞
学生の筑間 弘樹さん(博士前期課程2年、物質化学領域、谷池研究室)と渡部 康羽さん(博士後期課程3年、生命機能工学領域、藤本研究室)が2021年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会において優秀ポスター賞を受賞しました。
北陸地区講演会と研究発表会は、毎年秋に、金沢大学、福井大学、富山大学、北陸先端科学技術大学院大学のいずれかの大学にて開催しています。特別講演のほか、ポスター発表があり、200~300名が参加しています。
今回、2021年度北陸地区講演会と研究発表会は、11月12日にオンラインにて開催されました。
■受賞年月日
令和3年11月16日
【筑間 弘樹さん】
■発表題目
触媒ナノ粒子の構造決定を目的としたニューラルネットワークポテンシャルの構築
■発表者名
筑間弘樹、高棹玄徳、BEHLER Jörg、谷池俊明
■研究概要
近年の計算機や第一原理計算の発展によって複雑な材料の高精度なシミュレーションが可能となった一方、第一原理計算の限界は物理化学的な直感や実験結果に基づいて初期構造を推定する経験的な過程にあった。この問題を解決するため、第一原理計算と遺伝的アルゴリズムを組み合わせた非経験的構造決定が試みられてきたが、第一原理計算手法の計算コストが構造決定の律速であった。本研究では、過去研究によって蓄積されたZiegler-Natta触媒一次粒子に関する第一原理計算データセットを用いて、第一原理計算を高精度に再現できるニューラルネットワークポテンシャル(NNP)を構築することで非経験的構造決定を高速に再現することに成功した。
■受賞にあたって一言
この度は、2021年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会におきまして、ポスター賞をいただけたことを光栄に思います。終始熱心なご指導を頂きました谷池俊明教授のご指導なしでは決して得られるものではなかったと思います。共同研究者である高棹玄徳さんには研究の方針や考察の方法など、細部にわたるご指導をいただきました。ゲッティンゲン大学のBEHLER Jörg教授には数々の適切なご助言、ご協力をいただきました。ここに感謝いたします。さらに、谷池研究室の皆様にこの場をお借りして心より御礼を申し上げます。
【渡部 康羽さん】
■発表題目
超高速RNA光架橋反応を用いた16S rRNA検出困難領域を標的とした新規FISH法の開発
■発表者名
渡部康羽、渡辺ななみ、藤本健造
■研究概要
生体内においてRNAは様々な高次構造を形成するため、核酸プローブの侵入を阻害していた。本研究では、複雑な高次構造を形成する大腸菌16S rRNAの検出困難領域を標的とした光操作法の開発を行った。複数の光架橋性核酸プローブを用いることにより、複雑な高次構造を有するRNAに対する光架橋反応を実現した。
■受賞にあたって一言
この度は、2021年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会におきまして、このような賞を頂けたことを大変光栄に思います。本研究の遂行にあたり、日頃よりご指導いただいている藤本健造教授にこの場をお借りして心より御礼申し上げます。また、多くのご助言やディスカッションに乗って頂いた藤本研究室の皆様に深く感謝いたします。
令和3年11月25日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2021/11/25-1.html物質化学領域の木田助教の研究課題が澁谷学術文化スポーツ振興財団の研究助成に採択
公益財団法人 澁谷学術文化スポーツ振興財団の研究助成「大学の新技術、研究活動への奨励金」に物質化学領域の木田 拓充助教の研究課題が採択されました。
澁谷学術文化スポーツ振興財団では、大学における学術研究の充実を目的とした奨励金の給付事業を行っています。「大学の新技術、研究活動への奨励金」は、石川県内の大学において、機械・電子・電気・化学・情報処理・環境関係等の研究を行う教授・学生等のグループ又は個人を対象とし、成果が期待される新技術開発の研究に対して給付されます。
*詳しくは、澁谷学術文化スポーツ振興財団ホームページをご覧ください。
■研究者名
物質化学領域 木田 拓充助教
■採択期間
令和3年11月~令和4年10月
■研究課題名
振動分光法を用いた重水素化プローブ分子鎖の直接観察による高分子の変形メカニズムの解明
■研究概要
ポリエチレン(PE)をはじめとする結晶性高分子材料は、非常に優れた延伸性や柔軟性、加工性を示すことから、我々の日常生活で幅広く利用されています。結晶性高分子材料は内部に結晶と非晶が入り混じった複雑な構造を有しており、例えば結晶と結晶を繋ぐ分子や、非晶内に浮遊する分子鎖など、さまざまな構造状態の分子鎖が存在しています。材料の変形過程において、これらの分子鎖はそれぞれ異なる力学応答を示すため、各構造状態の分子鎖量の違いによって物性は大きく変化します。そのため、最近では各構造状態の分子鎖量を最適化することにより、従来の高分子材料に比べて飛躍的に優れた物性を有する高性能高分子を開発する試みが盛んに行われてきました。本研究では、我々が有する精密合成技術を駆使することで、特定の分子鎖のみを重水素化し、赤外分光法などの振動分光法で重水素化分子鎖の運動状態を直接観察することに挑戦します。各分子鎖の力学応答を正確に把握することができれば、材料設計者が希望する物性を達成するために必要な分子鎖構造を予測することが可能となり、高性能高分子開発のための重要な知見となることが期待されます。
令和3年11月24日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/11/24-2.html環境・エネルギー領域の高田助教と物質化学領域の木田助教の研究課題が小笠原敏晶記念財団の研究助成に採択
公益財団法人 小笠原敏晶記念財団の研究助成「一般研究助成」に環境・エネルギー領域の高田 健司助教および物質化学領域の木田 拓充助教の研究課題が採択されました。
小笠原敏晶記念財団では、わが国の産業の発達に寄与することを目的として、理学・工学の領域において健全な発展の一助となる助成活動が行われています。一般研究助成は、高分子分野における、新素材・加工技術・新機能に関する研究開発に対して助成する制度です。
*詳しくは、小笠原敏晶記念財団ホームページをご覧ください。
- 採択期間:令和4年4月~令和5年3月
- 研究課題名:主鎖型ポリ桂皮酸ブロックポリマーのミクロ相分離構造の制御と光変形性の精密制御
- 研究概要:光エネルギーを運動エネルギーへと変換することができる光変形性材料はサスティナブルマテリアルとして注目されており、その変形挙動の制御や機能化法の確立が急務の課題となっています。本研究では、私たちが従来から研究してきた光応答性材料の開発と、有機分子触媒を利用したリビング重合技術を発展させ、ポリマーのミクロ相分離にもとづく多彩な変形挙動を有した新しい光応答材料の創出を目的としています。
- 採択にあたって一言:本研究課題を採択頂き大変嬉しく存じます。また、小笠原敏晶記念財団、および本助成の選考委員会の皆様に深く感謝申し上げます。本研究が、地球の環境・エネルギー問題に資するものになるよう邁進してまいります。また、本研究に関して多大なアドバイスをいただいた金子達雄教授はじめ、様々な知見を頂いた研究室の皆様、および研究協力者の方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
- 採択期間:令和4年4月~令和6年3月
- 研究課題名:重水素化プローブ分子鎖の直接観察による高分子材料の結晶化機構に与える分子量分布の影響の解明
- 研究概要:高分子材料において、分子量分布(分子鎖長分布)は材料物性を決定する最も重要な分子パラメータの一つです。我々の日常生活で多く利用されているポリエチレン(PE)は分子鎖が部分的に結晶化する結晶性高分子に分類され、分子量分布の平均値や分散度の違いで結晶度や結晶厚など結晶構造が著しく変化し、結果として材料物性に大きな違いが現れます。従来の研究においても、分子量分布の形状と結晶構造の関係についてはさまざまな報告が行われてきましたが、具体的にどの分子量成分が、どのように結晶構造の形成に影響を与えているかを理解することができませんでした。本研究では、重水素化プローブ法という技術を用いることで、特定の分子量成分の結晶化挙動を独立かつ直接に観察します。具体的には、母材として用いる分子量分布が広い軽水素化PEに対して、特定の分子量の重水素化PEを微量添加することで、特定の分子量成分のみが重水素化された試料を調製します。分光測定を用いることで軽水素化PEと重水素化PEを別々に検知することができるため、特定の分子量成分の結晶化挙動を直接観察することができ、結晶化機構に対する分子量分布の影響を解明することが期待されます。
令和3年10月26日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/10/26-1.html環境・エネルギー領域の金子教授、高田助教らの論文がACS Applied Materials & Interfaces誌の表紙に採択
環境・エネルギー領域の金子 達雄教授、高田 健司助教、並びに村田 英幸教授(応用物理学領域)、桶葭 興資准教授(環境・エネルギー領域)との共同研究に関する論文が米国化学会(ACS)刊行のACS Applied Materials & Interfaces誌(IF=8.758)の表紙(Supplementary cover)に採択されました。
■掲載誌
ACS Applied Materials & Interfaces 2021, 13 (12), 14569-14576.
掲載日2021年3月31日
■著者
Kenji Takada, Katsuaki Yasaki, Sakshi Rawat, Kosuke Okeyoshi, Amit Kumar, Hideyuki Murata, Tatsuo Kaneko*
■論文タイトル
Photoexpansion of Biobased Polyesters: Mechanism Analysis by Time-Resolved Measurements of an Amorphous Polycinnamate Hard Film
■論文概要
本研究では、光(紫外線)によって変形するポリ桂皮酸の変形メカニズムを解明しました。桂皮酸を含む高分子は、紫外線に対して構造中の二重結合がcis-trans異性化及び[2+2]環化付加することが知られています。しかしながら、この2種類の光反応性があるためにその変形メカニズムは解明されていませんでした。本研究では時間分解赤外分光法を行うことで変形の機序を解明し、ポリ桂皮酸が結合様式(分子の形)の違いによって収縮/膨張が起きていることを明らかにしました。
論文詳細:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.0c22922
令和3年4月20日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/04/20-1.html先端科学技術研究科の桶葭准教授が文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞
先端科学技術研究科の桶葭准教授が文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)先端科学技術研究科 環境・エネルギー領域の桶葭 興資(おけよし こうすけ)准教授が、令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞することが決定し、文部科学省から4月6日に発表されました。
*文部科学省の発表はこちら
文部科学大臣表彰とは、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃え贈られるものです。 今回の受賞は、桶葭准教授の下記の業績が評価されたことによります。
若手科学者賞
■受賞者 先端科学技術研究科 准教授 桶葭 興資
■業績名 「水と共生する生体模倣高分子材料に関する研究」
【業績】 持続可能な社会の構築に向けて、エネルギーやマテリアルの革新が緊急課題にある21世紀の今日、数十億年の歴史を持つ生体組織が水と歩んだ進化に学ぶものは大きい。 氏は、ネイチャーテクノロジーに根差した観点から、高分子を用いた種々の生体模倣材料を創製した。高分子網目に光エネルギー変換回路の機能分子を組み込むことで、水素生成の高効率化を実現し、水分解の光化学反応を起こす反応場として人工光合成ゲル「人工葉緑体」を提唱した。一方で、自然界の乾燥環境がつくる水の蒸発界面に着目して「界面分割現象」を発見した。これを利用し、生体高分子の多糖を再組織化させる独自技術を切り拓いた。 本研究成果は、水と共に自己組織化するマテリアルの科学技術、ひいては生物多様性を育む地球社会に貢献すると期待される。 |
【主要論文】
・「Polymeric design for electron transfer in photoinduced hydrogen generation through coil-globule transition.」Angewandte Chemie International Edition 58, 7304 (2019).
・「Emergence of polysaccharide membrane walls through macro-space partitioning via interfacial instability.」Scientific Reports 7, 5615 (2017).
令和3年4月6日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/04/06-1.htmlダイヤモンドを用いた広帯域波長変換に成功 ~新しい量子センシング技術の糸口に~

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国立大学法人筑波大学 国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) |
ダイヤモンドを用いた広帯域波長変換に成功
~新しい量子センシング技術の糸口に~
強い光と物質の相互作用に関する研究は、1960年にレーザーが開発されて以降、非線形光学分野として発展してきました。その中でも特に活発に研究されているのが高調波発生です。非線形光学結晶にレーザー光を照射した際に、その周波数の整数倍の光が放出される現象で、2倍の周波数の光が発生する場合を第二高調波発生、3倍の場合を第三高調波発生と呼びます。レーザー光の波長を変換する際などに用いられます。そして近年は、光共振器や光導波路などの光通信用技術としてダイヤモンド非線形光学が進展してきました。 本研究では、ダイヤモンドの表面近傍に窒素−空孔(NV)センターと呼ばれる欠陥を導入してダイヤモンド結晶の対称性を操作し、第二高調波、第三高調波発生など、広帯域の波長変換を行うことに成功しました。 この実験で波長変換の効率を評価したところ、第二高調波が第三高調波と同程度の高効率で生成されていました。その理由として、第二高調波がダイヤモンドの表面に極めて近い深さ約35nm(nmは10億分の1メートル)の領域で発生し、第三高調波の駆動力となっていることが明らかになりました。 また、このダイヤモンド中NVセンターの非線形光学効果により、波長1350~1600nmの赤外光が、波長450~800nmの可視~近赤外光にわたる広い帯域で波長変換でき、短い波長ほどその変換効率が高いことも判明しました。 ダイヤモンド中NVセンターによる第二高調波発生、すなわち電場振幅の二乗に比例する2次の非線形光学効果が可能となれば、ダイヤモンド結晶では今までできなかった電場による屈折率変調(電気−光学効果)なども可能となり、ダイヤモンド非線形光学の新領域を開拓できます。さらに、第二高調波発生や電気−光学効果などを利用した新しい量子センシングの開発への貢献も期待されます。 |
【研究代表者】
筑波大学 数理物質系
長谷 宗明教授
北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 応用物理学領域
安 東秀准教授
【研究の背景】
天然のダイヤモンド単結晶は、地球のマントルにおいて超高温かつ超高圧下で生成されます。高純度のダイヤモンド単結晶は希少で高価なため、産業応用は限られていました。しかし、20世紀中頃から、不純物濃度が極めて低い高純度ダイヤモンド単結晶が人工的に安価に作製できるようになり、エレクトロニクスや光学分野で応用されるようになりました。
高純度ダイヤモンド単結晶は結晶学的に対称性が高く、空間反転対称性を持つ(対称点を中心に結晶を反転させると結晶構造が重なる)ため、非線形光学の観点では2次の非線形感受率注1)がゼロとなり、2次の非線形光学効果が発現しません。そのため、光学分野でのダイヤモンドの研究開発は、光カー効果注2)や2光子吸収注3)など、もっぱら3次の非線形光学効果を基に光共振器や光導波路に関する研究が行われてきました。応用上でも重要である2次の非線形光学効果の研究はほとんど行われて来なかったのです。しかし、最近の研究で、高純度ダイヤモンド単結晶に窒素−空孔(Nitrogen-Vacancy: NV)センター注4)と呼ばれる格子欠陥を導入することにより、欠陥準位を介したマイクロ波による発光制御が可能になり、この原理を用いた量子センシング注5)の研究が活発になっています。
今回、本研究チームは、高純度ダイヤモンド単結晶の表面近傍にNVセンターを導入してダイヤモンド単結晶の対称性を操作し、第二高調波注6)および第三高調波の発生について研究しました。
【研究内容と成果】
本研究チームは、フェムト秒(1000兆分の1秒)の時間だけ赤外域の波長で瞬く超短パルスレーザー注7)を、NVセンターを導入した高純度ダイヤモンド単結晶に照射し、表面近傍から発生した第三高調波に加えて、第二高調波を世界で初めて観察することに成功しました。
具体的には、波長1350nmの赤外パルスレーザー光を励起光として照射すると、第二高調波が1/2波長の約675nmに、また第三高調波が1/3波長の約450nmに発生することが明らかになりました(参考図1)。この時、レーザーを照射されたダイヤモンド単結晶は紫色(赤色と青色の混成色)に発光していることが分かります(参考図1挿入写真)。
従来のダイヤモンド中NVセンターの研究では、連続発振グリーンレーザー(波長532nm)を照射した際に、NVセンターの欠陥準位を介した発光が、約660nmを中心とした波長領域に現れることが分かっています。このような既知の発光である可能性を取り除き、今回観測された約675nmの発光が第二高調波発生であることを確かめるため、励起レーザーの波長を掃引して波長変換特性を調べました。その結果、励起レーザーの波長の変化に応じて、第二高調波だけでなく第三高調波の発光波長が逐次変化することが確かめられました(参考図2)。これにより、今回観測された発光は、常に660nmを中心とした波長領域に観測される従来の欠陥準位を介した発光ではなく、欠陥により結晶の対称性が崩れることによる2次の非線形光学効果、すなわち第二高調波発生であることが明らかになりました。さらに、その変換効率は短波長ほど大きくなり、最高で5x10-5に達することが分かりました。今回、第二高調波がダイヤモンドの表面近傍約35nmの非常に薄い領域から発生していることを鑑みても、極めて高い変換効率であることが分かります。
また、励起レーザーの偏光角を回転させることで、第二高調波と第三高調波の発光強度の変化を調べたところ、それらの偏光角依存性はNVセンターを導入する前の高純度ダイヤモンドのパターンとは明らかに異なることが分かりました(参考図3)。特に、NVセンターを導入したダイヤモンドでは、第二高調波と第三高調波のパターンが若干の回転を除けば非常に似ていることが分かり(参考図3bとc)、これらのことから、第三高調波は第二高調波が駆動力になっていることも示唆されました。
【今後の展開】
本研究チームは、2次の非線形光学効果である第二高調波発生や電気−光学効果を用いた量子センシング技術を深化させ、最終的にダイヤモンドを用いたナノメートルかつ超高速時間領域(時空間極限領域)での量子センシングの研究を進めています。今後は、フェムト秒パルスレーザー技術が持つ高い時間分解能と、走査型プローブ顕微鏡注8)が持つ高い空間分解能とを組み合わせ、ダイヤモンドのNVセンターから引き出した2次の非線形光学効果が、電場や温度のセンシングに応用できることを示していきます。さらに、今回の成果は、ダイヤモンドNVセンターにより、2次の非線形光学効果のみならず、4次、6次以上の高次の非線形光学効果の開発に貢献することが期待されます。
【参考図】
図1.本研究に用いた実験手法と結果
NVセンターを導入したダイヤモンドに波長1350nmの励起光を照射し、その発光スペクトルを分光器で測定すると、波長約675nmに第二高調波(SHG)が、また約450nmに第三高調波(THG)が発生することが分かった。これは、エネルギーω(波長にすると1350nm)の2光子からエネルギー2ω(波長にすると675nm)の第二高調波がNVセンターによる結晶の対称性の崩れから発生していることに相当する(挿入図)。
図2.変換効率の発光波長依存性
第二高調波(SHG)と第三高調波(THG)の変換効率を励起レーザーの波長を変化させて記録した。
図3.発光強度の励起光偏光角依存性とエネルギーダイヤグラム
高純度ダイヤモンド(Pure diamond)(a)およびNVセンターを導入したダイヤモンド(NV diamond)において、第二高調波(SHG) (b)と第三高調波(THG) (c)の発光強度の励起光偏光角依存性をプロットしたもの。(d) 第二高調波発生から第三高調波発生へ向かうエネルギーダイヤグラムを示す。
【用語解説】
注1) 非線形感受率
物質の光への応答は、パルスレーザー光のように光電場振幅が大きくなると振幅に比例せず、非線形な非線形光学効果となる。非線形感受率は非線形光学効果の大きさを特徴づける光学定数である。
注2) 光カー効果
媒質中に光が入射した際に、媒質の屈折率が光強度に比例して変化する現象で、1875年にJohn Kerrによって発見された3次の非線形光学効果(電場振幅の三乗に比例する効果)の一種である。
注3) 2光子吸収
二つの光子が同時に媒質に吸収される現象で、3次の非線形光学効果の一種である。
注4) 窒素−空孔(NV)センター
ダイヤモンドは炭素原子から構成される結晶だが、結晶中に不純物として窒素(Nitrogen)が存在すると、すぐ隣に炭素原子の抜け穴(空孔:Vacancy)ができることがある。この窒素と空孔が対になった「NV(Nitrogen-Vacancy)センター」は、ダイヤモンドの着色にも寄与する色中心と呼ばれる格子欠陥となる。NVセンターには、周辺環境の温度や磁場の変化を極めて敏感に検知して量子状態が変わる特性があり、この特性をセンサー機能として利用することができる。このため、NVセンターを持つダイヤモンドは「量子センサー」と呼ばれ、次世代の超高感度センサーとして注目されている。
注5) 量子センシング
量子化した準位や量子もつれなどの量子効果を利用して、磁場、電場、温度などの物理量を超高感度で計測する手法のこと。
注6) 第二高調波
二つの同じ周波数(波長)を持つ光子が非線形光学結晶に入射すると、入射した光子の2倍の周波数(半分の波長)の光を発生する現象のこと。2次の非線形光学効果(電場振幅の二乗に比例する効果)の一種である。
注7) 超短パルスレーザー
パルスレーザーの中でも特にパルス幅(時間幅)がフェムト秒以下の極めて短いレーザーのこと。光電場の振幅が極めて大きいため、2次や3次の非線形光学効果を引き起こすことができる。
注8) 走査型プローブ顕微鏡
小さいプローブ(探針)を試料表面に近接させ、探針を表面に沿って動かす(走査する)ことで、試料の原子レベルの表面構造のみならず、温度や磁性などの物理量も画像化できる顕微鏡である。
【研究資金】
本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST「ダイヤモンドを用いた時空間極限量子センシング」(研究代表者:長谷 宗明)による支援を受けて実施されました。
【掲載論文】
題名 | Second-harmonic generation in bulk diamond based on inversion symmetry breaking by color centers. (色中心による反転対称性の破れに基づくバルクダイヤモンドの第二高調波発生) |
著者名 | Aizitiaili Abulikemu, Yuta Kainuma, Toshu An, and Muneaki Hase |
掲載誌 | ACS Photonics |
掲載日 | 2021年3月18日 |
DOI | 10.1021/acsphotonics.0c01806 |
令和3年3月18日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/03/18-1.html学生の石野さんと篠崎さんが2020年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会において優秀ポスター賞を受賞
学生の石野 佳奈子さん(博士前期課程2年、生命機能工学領域、藤本研究室)と、篠崎 一世さん(博士前期課程1年、生命機能工学領域、藤本研究室)が2020年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会において優秀ポスター賞を受賞しました。
日本化学会北陸地区講演会と研究発表会は、毎年秋に、金沢大学、福井大学、富山大学、本学のいずれかの大学にて開催しています。特別講演のほか、ポスター発表があり、200~300名が参加しています。
今回、2020年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会は、11月20日にオンラインで開催されました。
■受賞年月日
令和2年11月26日
■発表題目・発表者・研究概要
- 【石野 佳奈子さん】
発表題目:
光クロスリンクオリゴDNAによるピンポイント核酸塩基編集
発表者名:
石野佳奈子、中野雅元、中村重孝、藤本健造
研究概要:
本研究では、DNA鎖中でのシトシンをピンポイントでウラシルに変換する際の周辺塩基の影響を評価した。従来、光化学的にシトシンをウラシルへの変換する際には90°Cの加熱を必要としており、遺伝子疾患の治療法としての細胞内応用は困難であった。本研究ではリン酸の付与により、細胞内にも適応可能な条件での脱アミノ化に成功し、リン酸基の導入位置による違いを詳細に評価した。以上の成果は今後のウラシルからシトシンへの変異に基づく遺伝子疾患の治療法として期待される。 - 【篠崎 一世さん】
発表題目:
DNA鎖中のメチルシトシン定量解析に向けた核酸類光架橋反応の開発
発表者名:
篠崎一世、中島涼、中村重孝、藤本健造
研究概要:
本研究では、DNA鎖中でのシトシンとメチルシトシンを定量解析に向けた光架橋反応開発を行った。メチルシトシンはエピジェネティクな遺伝子発現制御に関わる重要な核酸であるが、ピンポイントでシトシンとメチルシトシンを定量的に解析することは困難であった。そこで、シトシン、メチルシトシンそれぞれに異なる反応性を示す光架橋型人工核酸を設計・合成し、反応性を評価した。また、反応性の違いを利用したチップ上でのメチルシトシンの定量検出も可能であることを見出した。今後、生体試料中でのメチルシトシン定量解析への応用が期待される。
■受賞にあたって一言
(石野さん、篠崎さん)
この度は、2020年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会におきまして、このような賞を頂けたことを大変光栄に思います。本研究の遂行にあたり、日頃よりご指導いただいている藤本健造教授にこの場をお借りして心より御礼申し上げます。さらに、多くのご助言やディスカッションに乗って頂いた藤本研究室の皆様に深く感謝いたします。

石野さん

篠崎さん
令和2年12月11日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2020/12/11-1.html生体内の高分子混雑に着目した新規の細胞モデルの創成に成功

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生体内の高分子混雑に着目した新規の細胞モデルの創成に成功
名古屋大学大学院理学研究科の瀧口 金吾講師、同志社大学生命医科学部の作田 浩輝特任助教、藤田 ふみか大学院生、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 生命機能工学領域の濵田 勉准教授、法政大学生命科学部の林 真人教務助手、三重大学大学院工学研究科の湊元 幹太教授、京都大学高等研究院医学物理・医工計測グローバル拠点の吉川 研一特任教授らの共同研究グループは、二種類の水溶性高分子のミクロ相分離条件下でDNAとリン脂質を共存させると、内部にDNAを取込み、リン脂質の膜で囲まれた細胞内小器官様の構造が自発的に生成することを発見しました。この発見が元になり、細胞が自律的に複雑な構造や高度な機能を生み出す機構の謎に迫る研究に発展することが期待されます。
その成果をまとめた論文が、国際科学雑誌ChemBioChem誌のオンライン版に2020年7月15日付けで公開されましたが、この度、Very Important Paper の1つに選ばれ、研究内容を紹介するイラストがChemBioChem誌の2020年21巻23号に掲載されました。
この研究は、平成24年度から始まった文部科学省科学研究費助成事業新学術領域『分子ロボティクス』プロジェクトおよび平成31年度から始まった日本学術振興会科学研究費助成事業『細胞結合ネットワークの構築による人工細胞モデルの組織化と集団動態発現』等の支援のもとでおこなわれたものです。
【ポイント】
- 異なる高分子 注1)の混雑によって高分子同士が相分離 注2)を起こしてミクロ液滴を形成している溶液にリン脂質を加えると、脂質が自発的にミクロ液滴の界面に局在化することで、細胞内小器官(オルガネラ)注3)の形成に似た区画化を起こすことを発見した。
- この新知見を利用することで、リン脂質によって小胞化されたミクロ液滴の内部に、長鎖DNAを濃縮して封入させることに成功した。
- 本研究で見出されたミクロ液滴のリン脂質によって区画化される小胞化は、原始生命体(細胞の起源)のモデル実験系と成り得ると同時に、人工脂質膜小胞を調製するための有力な新手法として期待される。
- この研究成果をまとめた論文が、国際科学雑誌ChemBioChem誌に掲載され、さらに、Very Important Paper (VIP)に選ばれた。【論文を紹介するイラスト(下図)はChemBioChem誌の2020年21巻23号に掲載】
【研究背景と内容】
近年、細胞内の複雑な構造が生み出される起源や、脂質膜によって区画化される多様な細胞内小器官および、顆粒などの膜によって隔てられていない領域 注3)などが形成・維持される機構について、相分離 注2)の視点から研究されています。
本研究では、液-液相分離(LLPS)注2)を示すことができる水溶性の高分子ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)およびデキストラン(DEX)注1)の混合によってミクロ液滴を生成させた溶液にリン脂質を加えると、ミクロ液滴の界面に脂質が自発的に集まって膜を形成することを見出しました(図1)。この脂質に覆われたミクロ液滴が、外液の浸透圧を高張にすると、脂質二重膜でできた膜小胞と同様に破裂や穿孔、収縮をすることから(図2)、ミクロ液滴を覆う脂質が、生体膜の基本構造である脂質二重膜と同じ性質を示すことが分かりました。
図1:ミクロ液滴の界面へのリン脂質の蓄積。
リン脂質添加後のPEG / DEX混合溶液の顕微鏡画像(ミクロ液滴の生成を示す明視野像とリン脂質の局在を示す蛍光像)。蛍光像(白の破線部分)から得られた蛍光強度の空間プロファイル。
図2:高張な水溶液(NaCl溶液)の注入による脂質膜構造の形態変化。
外液の浸透圧が変化することによって、リン脂質に覆われたミクロ液滴の内部から外液に向かって大量の水分子が移動しようとする結果、脂質膜の破裂や穿孔や収縮が起きる。左から、破裂後のリン脂質の凝集塊、穿孔を起こした脂質膜の残骸、収縮した脂質膜。
ところで、核酸であるDNAも生体内で重要な働きをしている天然の高分子です。我々共同研究グループの先行研究から、長鎖DNAがDEXを高濃度で含むミクロ液滴に遍在することが明らかにされていました。長鎖DNAを内部に濃縮して取込んだミクロ液滴を形成している相分離溶液系にリン脂質を加えると、やはり脂質が自発的にミクロ液滴を覆うことで、内部にDNAを含む細胞内小器官様の安定化された小胞の形成が認められました(図3)。
このミクロ液滴からリン脂質膜で安定化された細胞内小器官様の小胞が自発的・自己組織的に創成されてくる過程は、原始の生命体の細胞の内部構造の起源を考える際の貴重な知見であり、多種類の高分子の混合によって細胞内小器官(オルガネラ)や膜によって隔てられていない構造が自発的に形成されてくる可能性を示した研究成果です。
図3:リン脂質の膜で区画化・小胞化されたミクロ液滴へのDNAの自発的なカプセル化。
長鎖DNAを含むPEG / DEX混合溶液にリン脂質を添加すると、自発的にDNAを取込んだ脂質の膜に覆われたミクロ液滴が生成される。
【成果の意義】
本研究の発見は、多種類の高分子の混合によって生体高分子(ここでは長鎖DNA)を取込んだミクロ液滴が自発的に生じ、これに生体膜の重要な構成成分であるリン脂質を加えると、更にミクロ液滴の界面にリン脂質が集積して自己組織的に細胞内小器官様の小胞構造が形成されることを示した研究成果です。
この発見の特筆すべきこととして、本研究で用いられたどの成分、高分子のPEGとDEX、生体高分子の長鎖DNA、そしてリン脂質も、酵素と基質との間に観られる鍵と錠との関係のような相互作用を互いに示さないことが挙げられます。このことは、生命現象の説明や理解に必ず分子間の特異的な相互作用の存在を想定して来たこれまでの生命科学に一石を投じるものであり、非常に重要です。
細胞内では、細胞分裂の際、分離・分配された染色体が脂質の膜で覆われ核膜が再生することで2つの娘細胞の核が形成されます。また、オートファジーでは、変性したり役目を終えたりした生体因子や細胞内に侵入して来た細菌などの外敵の分解除去のため、あるいは細胞内物質のリサイクルのため、それらを取り込む様に脂質膜でできた"袋"を形成します。これらのことから、本研究で得られた知見は、非膜性の顆粒の様な細胞内領域と膜に覆われた細胞内小器官との関係に新たな視点を与えると共に、濃厚環境での生体高分子の在り様、細胞内に観察されるような重層的に区画された領域や細胞内小器官の様な特別な構造の起源の理解に迫る成果だと言えます。
【用語説明】
- 注1) 高分子(ポリマー):
ある化学物質が、様々な結合を介して連なっていくことで、より大きな分子になったもの。一本の鎖状のポリマーもあれば、枝分かれしながら繋がっているポリマーもあります。
今回の研究で用いられたポリエチレングリコール(PEG)やデキストラン(DEX)は、その代表的なものです。
DNAも、ヌクレオチドが連なってできた天然のポリマーです。生体内には、様々な糖鎖やアクチン線維や微小管の様なアクチンやチューブリンと呼ばれる蛋白質が繊維状に集まってできた細胞骨格などが存在していますが、これらも天然のポリマーと考えることができます。 - 注2) 相分離、液-液相分離 (Liquid-Liquid Phase Separation, LLPS):
LLPSは、複数の水溶性高分子を混合し混雑化すると(図4 (a))、ある高分子が他の高分子よりも高濃度で存在する領域が水溶液中に現れる現象です。このように異なる領域に分かれていく現象を相分離と呼びます。そのようにしてできてくる領域ですが、混合の仕方によって生きた細胞や細胞内小器官と同等のサイズを持つミクロ液滴になります。
今回の研究では、PEGが濃く存在する溶液中に、DEXが濃く存在するミクロ液滴が生じる条件下で実験が行われました(図4 (b))。
図4:PEGとDEXの混合(左)によって生じるLLPS(上)。Bars = 100 μm。本共同研究グループの先行研究論文 ChemBioChem 2018, 19(13), 1370-1374 (Figure S1) より転載。
- 注3) 細胞内小器官(オルガネラ):
細胞内に存在する核やミトコンドリア、ゴルジ体などの総称。
これまで細胞内小器官は、膜によって外界から隔てられて、その構造や機能が維持されていると考えられてきました。しかし近年、膜によって外部から隔てられていない領域・顆粒(例として核小体やストレス顆粒など)が、非膜性の細胞内小器官として重要な働きを担っていることが分かってきて、それらの形成維持機構が、細胞内の複雑で階層的な構造の組織化に関連して議論される様になっていました。
【論文情報】
雑誌名 | ChemBioChem 2020, 21 (23), 3323-3328. |
論文タイトル | "Self-Emergent Protocells Generated in an Aqueous Solution with Binary Macromolecules through Liquid-Liquid Phase Separation." |
著者 | Hiroki Sakuta, Fumika Fujita, Tsutomu Hamada, Masahito Hayashi, Kingo Takiguchi, Kanta Tsumoto, Kenichi Yoshikawa. |
論文本文 | DOI: 10.1002/cbic.202000344 |
イラスト (Cover Feature) |
DOI: 10.1002/cbic.202000760 |
【研究費】
・科研費 基盤研究(A)(15H02121)
・科研費 基盤研究(C)(19K06540)
・科研費 基盤研究(B)(20H01877)
・特別研究員奨励費(18J12947)
・文部科学省新学術領域研究
「アメーバ型分子ロボット実現のための要素技術開発とその統合」(24104004)
・文部科学省新学術領域研究
「ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立」(25103012)
・文部科学省新学術領域研究
「宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解」(18H04976)
令和2年12月9日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2020/12/09-1.html学生の中村さんが令和2年度応用物理学会 北陸・信越支部学術講演会において発表奨励賞を受賞

学生の中村 航大さん(博士前期課程1年、環境・エネルギー領域、大平研究室)が令和2年度応用物理学会 北陸・信越支部学術講演会において発表奨励賞を受賞しました。
応用物理学会は、半導体、光・量子エレクトロニクス、新素材など、工学と物理学の接点にある最先端課題、学際的なテーマに次々と取り組みながら活発な学術活動を続けています。
北陸・信越支部発表奨励賞は、応用物理学会北陸・信越支部が開催する学術講演会において、応用物理学の発展に貢献しうる優秀な一般講演論文を発表した若手支部会員に対し、その功績を称えることを目的として授与されるものです。
今回、令和2年度応用物理学会北陸・信越支部学術講演会は、11月28日にオンラインで開催されました。
■受賞年月日
令和2年11月28日
■発表題目
封止材無しn型フロントエミッタ型結晶Si太陽電池モジュールの電圧誘起劣化
■講演の概要
近年、太陽光発電システムの導入が急増しているが、そのほとんどは、モジュールに封止材を有している。封止材を有した結晶シリコン(c-Si)太陽電池モジュールは、いくつか問題点があり、その一つである電圧誘起劣化(PID)は、太陽電池モジュールのアルミフレームとセル間の電位差に起因して性能が低下する現象である。PIDは、Na+侵入や電荷蓄積が封止材を経由して起きるため、封止材を無くせばこの問題は解決できると考えられる。本研究では、今後の普及が期待される、n型c-Siを基板に用い、光入射側にp型エミッタ層があるn型フロントエミッタ型c-Si太陽電池モジュールを作製し、封止材の有無がPIDにおよぼす影響を調査した。封止材の無いモジュールでは、SiNx膜からの電子移動やNa+の侵入の経路が存在しないため、性能低下が抑制できた。また、わずかに電荷蓄積型のPIDが見られたのは、リーク電流の経路を介してSiNx膜から電子が流出することにより正電荷が蓄積し、表面再結合が増大したためと考えられる。
■受賞にあたって一言
この度、応用物理学会北陸・信越支部学術講演会におきまして、発表奨励賞を頂けたことを大変光栄に思います。ご指導いただいた、大平圭介教授、Huynh Thi Cam Tu特任助教ならびに研究室のメンバーには厚く御礼申し上げます。本受賞を励みに、今後もより一層精進して参りたいと思います。
令和2年12月7日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2020/12/7-2.html学生の廣瀬さんが令和2年度北陸地区高分子若手研究会においてポスター発表優秀賞を受賞

学生の廣瀬 智香さん(博士前期課程2年、物質化学領域、松村研究室)が令和2年度北陸地区高分子若手研究会においてポスター発表優秀賞を受賞しました。
高分子学会北陸支部では、高分子科学を基軸として研究を展開する若手の交流と、更なる研究の活性化を目的として、毎年若手研究会を開催しています。高分子科学と他の研究分野を融合することによる新規材料の研究・開発に従事し、活躍している研究者の講演および、学生を中心としたポスター発表や交流会が行われます。
ポスター発表優秀賞は、北陸地区若手研究会のポスター発表・動画において優秀な研究発表を行った学生に授与されます。
■受賞年月日
令和2年11月6日
■論文タイトル
温度応答性高分子と液体金属による複合体を用いた光機能性インジェクタブル DDS
■論文概要
液体金属と温度応答性高分子との複合化により、光刺激によって薬物を放出可能な新たなDDS材料を提案した。本研究は物質化学領域都准教授との共同研究です。
■受賞にあたって一言
この度は、令和2年度 高分子学会北陸研究発表会の若手会におきまして、このような賞を頂けたことを大変光栄に思います。本研究の遂行にあたり、日頃よりご指導いただいている松村和明教授、Rajan Robin助教、都英次郎准教授にこの場を借りて心より御礼を申し上げます。さらに、多くのご助言をいただきました研究室のメンバーに深く感謝いたします。
令和2年12月3日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2020/12/3-1.htmlNEDO「ムーンショット型研究開発事業」研究開発プロジェクトに採択
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国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 |
このたび、北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)ら8機関による提案研究が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ムーンショット型研究開発事業※」におけるムーンショット目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」の達成を目指す研究開発プロジェクトに採択されました。
1)ON型光スイッチ:陸域の生活圏では材料として安定ですが、投棄後に海洋流出するまでの過程で生じる表面損傷などにより太陽光がプラスチック内部に届き生分解が始まる(ON)スイッチです。 2)OFF型光スイッチ:蛍光灯や太陽光暴露のある状態では生分解が抑制(OFF)され、海中・海底・コンポストなどの暗所の環境で生分解が始まるという「光スイッチ」です。 3)また、これらを具有させたON/OFF型という理想的システムも同時に提案します。 さらには、海洋生物が誤飲したり周りまわって人間の食料中に混ざり込んでも消化管内で物理的障害や化学的毒性を生じない「食せるプラスチック」の開発も目指します。 2030年にはこれらの海洋実環境における分解性を証明し衣料品やビニール袋などの試作品を作製します。さらに、上記のシステムは広範囲のプラスチックに適用できるため、2050年までにはさらに多くのプラスチックへと展開し様々な種類や形態の光スイッチ型分解性プラスチック製品へと展開します。本プロジェクトは、二酸化炭素の固定化、炭素循環および窒素循環などの概念を取り入れた統合的な地球環境保全・再生に資するものです。加えて、本プロジェクトは、成熟期に差し掛かってきた我が国の石油化学産業をバイオ化学産業に業態転換せしめ、新たな成長に向けたパラダイムチェンジ型イノベーションの一端を担う可能性を有します。 |
<参 考>
1 ムーンショット型研究開発制度
本制度の詳細については、以下を参照
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html
2 ムーンショット目標
2020年1月CSTIにおいてムーンショット目標1~6が決定。2020年7月には健康・医療戦略推進本部においてムーンショット目標7が決定
目標1:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
目標2:2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
目標3:2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
目標4:2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
目標5:2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な
食料供給産業を創出
目標6:2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
目標7:2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむための
サステイナブルな医療・介護システムを実現
3 NEDOムーンショット型研究開発事業の採択結果
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101346.html
令和2年9月7日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2020/09/7-1.htmlナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ -ガン幹細胞制御技術に向けて-

ナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ
-ガン幹細胞制御技術に向けて-
ポイント
- ナノテクノロジーと遺伝子工学を利用し、細胞やマウス体内のガン幹細胞性を制御することに成功
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科物質化学領域の都 英次郎准教授の研究グループは、ウシの角に似た炭素分子「カーボンナノホーン」(CNH)*1と遺伝子工学を使ってマウス体内のガン幹細胞性を制御する技術の開発に成功した。
再発と転移を繰り返す治療抵抗性のガン幹細胞を体内から排除可能な治療法が望まれている。本研究では、生体透過性の高い近赤外レーザー光*2でCNHが容易に発熱する性質(光発熱特性)*3と52℃以上の温度になるとカルシウムイオンを細胞内に取り込むTransient Receptor Potential Vanilloid 2(TRPV2)*4というタンパク質に着目した。遺伝子工学的手法によりTRPV2を導入したガン細胞にCNHの光発熱特性を作用させたところ、細胞内に過剰のカルシウムイオンが流入し、標的とするガン細胞が選択的かつ効果的に死滅することが明らかとなった(図1)。また、マウスを用いた実験で本手法がガン幹細胞性の制御に有用であることも分かった。本手法を利用すれば体外からレーザー光を照射し、その熱で患部を狙い撃ちできるほか、治療の難しいガン幹細胞の予防・治療法にも道が開けると期待している。 本成果は、2020年8月17日に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。なお、本研究成果は日本学術振興会科研費[基盤研究A、基盤研究B、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)]の支援のもと、国立研究開発法人産業技術総合研究所と行われた共同研究によるものである。 |
図1. 機能性CNHとTRPV2によるガン細胞殺傷メカニズム
【論文情報】
掲載誌 | Nature Communications |
論文題目 | Photothermogenetic inhibition of cancer stemness by near-infrared-light-activatable nanocomplexes |
著者 | Yue Yu, Xi Yang, Sheethal Reghu, Sunil C. Kaul, Renu Wadhwa, Eijiro Miyako* |
掲載日 | 2020年8月17日にオンライン版に掲載 |
DOI | 10.1038/s41467-020-17768-3 |
【用語説明】
*1 カーボンナノホーン(CNH)
直径は2~5 nm、長さ40~50 nmで不規則な形状を持つ。数千本が寄り集まって直径100 nm程度の球形集合体を形成している。とりわけ、薬品の輸送用担体として期待されており、バイオメディカル分野で注目を集めている。
*2 近赤外レーザー光
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
*3 光発熱特性
数多くあるナノカーボン材料の特性の一つであり、レーザー光やカメラのフラッシュにより容易に発熱する特性のこと。
*4 Transient Receptor Potential Vanilloid 2(TRPV2)
細胞膜に存在するタンパク質の一種。52℃以上の温度によって活性化し、細胞内へカルシウムイオンを流入する。
令和2年8月17日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2020/08/17_2.html