研究活動の検索
研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。メディカルサイエンス研究領域の松村教授の研究がNature.comで紹介されました
メディカルサイエンス研究領域の松村和明教授の研究が、Nature.comの特集企画「Nature Index Regenerative Medicine」の一環として掲載された記事広告「A two-pronged way to advance regenerative medicine tools」で紹介されています。
記事では、eMEDXにおける産学連携の取組として、東レリサーチセンターと共同で進めている研究が紹介されています。本研究は、日本学術振興会の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」の支援による成果の一つです。
ぜひご覧ください。
*Nature.comは、国際的な総合科学誌『Nature』をはじめとする学術誌や科学関連情報を掲載するウェブサイトです。
■掲載詳細
掲載媒体:Nature.com
掲載日:令和8年9月24日
記事タイトル: A two-pronged way to advance regenerative medicine tools
URL(外部サイト)
https://www.nature.com/articles/d42473-026-00178-2
令和8年9月29日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2026/09/29-1.html学生の福田さんがPESI 2026においてBest Poster Paper Awardを受賞
学生の福田雄太さん(博士後期課程3年、物質化学フロンティア研究領域、山口政之研究室)が、Polymer Engineering & Sciences International (PESI) 2026において、Best Poster Paper Awardを受賞しました。
PESI 2026は、令和8年6月28日~7月2日にかけて金沢市文化ホール(石川県金沢市)にて開催された高分子に関する国際会議です。同会議では、高分子工学および高分子科学の様々な研究分野から国際的な研究コミュニティーが集まり、高分子材料、技術、方法論に関わる最新の研究成果について、活発な議論が行われました。
※参考:PESI 2026
■受賞年月日
令和8年7月1日
■研究題目、論文タイトル等
Relationship between daughter lamellar content and mechanical properties of polypropylene containing hydrogenated oligo(cyclopentadiene)
■研究者、著者
Yuta Fukuda、Masayuki Yamaguchi
■受賞対象となった研究の内容
ポリプロピレンのメゾ相をより高温で形成するために、水素化オリゴシクロペンタジエン(hOCPD)に着目しました。hOCPDの添加によってガラス転移温度が上昇し、流動場においてメゾ相が高温下で形成されることが判明しました。その結果、子ラメラ量が著しく低下し、結晶の配向性が高まることにより力学特性が向上することを発見しました。
■受賞にあたって一言
この度はPolymer Engineering & Sciences International 2026においてポスター賞を受賞でき、大変うれしく思っています。日頃から熱心な指導をしてくださる山口政之教授、そして研究室のメンバーに心から感謝します。
令和8年9月16日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2026/09/16-1.htmlリチウムイオン電池の負極を守り、耐久性を大幅に向上させる新しい電解液添加剤を開発
リチウムイオン電池の負極を守り、耐久性を
大幅に向上させる新しい電解液添加剤を開発
【ポイント】
- リチウムイオン電池で広く使われているグラファイト負極を保護し、耐久性を大幅に向上させる新しい電解液添加剤(FPTI)を開発しました。
- FPTIは、電解液の成分よりも先に反応し、グラファイト表面に丈夫で安定した保護膜を形成します。これにより、電池内部で起こる不要な副反応を抑えます。
- FPTIを添加することで、負極と電解液の界面における抵抗が低下するとともに、リチウムイオンが移動しやすくなることを確認しました。
- 試験用のグラファイト/リチウムハーフセルでは、FPTIを4 mg/mL添加した場合、1,000回の充放電後も、約200回時点で得られた最大容量の95.6%を維持しました。
- 今回確認したのは主に試験用セルにおける負極の耐久性向上です。今後、実用電池に近い条件での検証を進めることで、リチウムイオン電池の長寿命化への応用が期待されます。
【概要】
| 北陸先端科学技術大学院大学物質化学フロンティア研究領域の松見紀佳教授、MANTRIPRAGADA, Bharat Sri Mitra助教、REDDI, Uday Sai大学院生(博士後期課程)の研究グループは、リチウムイオン二次電池*1で広く使用されているグラファイト負極を保護し、その耐久性を大幅に向上させる新しい電解液添加剤を開発しました。 スマートフォンや電気自動車(EV)、定置型蓄電池など広く利用されるリチウムイオン電池をより長く安定して使用するためには、充放電を繰り返しても性能が低下しにくい電極の実現が重要です。 開発した添加剤「FPTI」は、フッ素を高密度に含む分子構造を持ち、通常の電解液成分よりも先に反応して、グラファイト負極の表面に安定した保護膜を形成します。これにより、不要な副反応を抑えるとともに、負極と電解液の界面の抵抗を低減し、リチウムイオンが移動しやすくなることを確認しました。試験用のグラファイト/リチウムハーフセルでは、FPTIを4 mg/mL添加した場合、1,000回の充放電後も、約200回時点で得られた最大放電容量の95.6%を維持しました。 本研究で実証したのは、主に試験用セルにおけるグラファイト負極の耐久性向上であり、実用電池そのものの耐用年数の向上を直接示したものではありません。今後、実用電池に近い条件での検証を進めることで、リチウムイオン電池の長寿命化への応用が期待されます。 本成果は、米国化学会の学術誌「Energy and Fuels」に掲載されました。 |
1.背景
リチウムイオン電池は、高い電圧とエネルギー密度を持つことから、スマートフォンやノートパソコンなどの携帯機器だけでなく、電気自動車(EV)や定置型蓄電池などにも広く利用されています。これらの用途が拡大するなか、電池を長期間にわたって安定して使用できるようにすることは、利便性やコストの面だけでなく、資源を有効に利用するという観点からも重要な課題です。
現在広く利用されているリチウムイオン電池では、負極材料として主にグラファイトが使われています。グラファイトは充放電を安定して行える優れた材料ですが、電池を使い始める際に、負極表面で電解液の一部が分解して「固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interphase)*2」と呼ばれる薄い膜が形成されます。この膜は、負極を電解液から守りながらリチウムイオンを通す、いわば負極表面の保護膜として重要な役割を果たします。
一方、この保護膜が不安定で、充放電のたびに壊れたり作り直されたりすると、その過程でリチウムや電解液が消費され、電池の内部抵抗が増加して容量低下につながります。そのため、グラファイト表面に薄く安定した保護膜を形成し、それを長期間維持することが、負極の耐久性を高めるうえで重要です。
これまで、リチウムイオン電池の性能を改善するためにはさまざまな電解液添加剤が研究されてきました。特に正極を安定化させる添加剤については多くの研究が進められている一方、グラファイト負極を安定化させる添加剤は相対的に限られています。
これは、炭素材料自体の耐久性が一般的に低く、グラファイト負極を安定化するための効果的な添加剤の設計戦略が十分に確立されていないことが原因と考えられます。
そこで研究グループは、負極表面で電解液よりも先に反応し、安定した保護膜を形成できる分子の開発に取り組みました。
2.研究内容
研究グループは、グラファイト負極の表面に安定した保護膜を形成する新しい電解液添加剤として、フッ素を高密度に含むイミン化合物「FPTI(pentafluorophenyl thiophene imine)」を設計しました。FPTIは、3-チオフェンカルボアルデヒドとペンタフルオロフェニルアミンとの反応により、94%の収率で合成しました。
FPTIは、フッ素を多く含むペンタフルオロフェニル基と、硫黄を含むチオフェン構造を併せ持つことが特徴です。研究グループは、この特徴的な分子構造によって、FPTIがグラファイト負極の表面で通常の電解液成分よりも先に反応し、負極を保護する安定した膜を形成することを狙いました。
研究グループは、FPTIを電解液に添加し、グラファイトを負極、金属リチウムを対極とした試験用のCR2025型コインセル(グラファイト/リチウムハーフセル)を用いて、その効果を調べました。
計算化学(DFT計算)による解析の結果、FPTIは一般的な電解液成分やバインダーよりも低いLUMO*3準位を持ち、グラファイト負極上で通常の電解液成分よりも先に還元されやすいことが分かりました。このため、充電時にFPTIが先に反応することで、グラファイト負極の表面にSEIと呼ばれる保護膜を形成し、電解液の不要な分解を抑えることができます。
実際にFPTIを添加したセルでは、添加していないセルと比べて、負極表面のSEI抵抗と、負極と電解液の間でリチウムイオンが移動する際の抵抗がいずれも低下しました。4 mg/mL添加した場合、SEI抵抗は7.6 Ωから2.2 Ωへ、電荷移動抵抗は41.8 Ωから19.8 Ωへ低下しました。
また、リチウムイオンの移動しやすさを示す拡散係数は、非添加系の3.45±4.71×10⁻14cm²s⁻¹に対し、2 mg/mL添加系では2.92±3.96×10⁻13cm²s⁻¹、4 mg/mL添加系では3.58±3.74×10-13cm²s⁻¹となり、FPTIの添加によってリチウムイオンが移動しやすくなることが確認されました。
さらに、負極表面を分析したところ、FPTIを添加したセルでは、フッ化リチウム(LiF)を多く含む安定したSEIが形成されていることが分かりました。FPTIに含まれるフッ素や硫黄などが保護膜の形成に寄与することで、グラファイト負極と電解液の界面が安定化したと考えられます。
長時間の充放電試験では、最初の3サイクルを0.1C、その後0.5Cで評価しました。その結果、約200サイクル時の最大容量を基準とした1,000サイクル時点の容量維持率は、FPTIを添加しないセルでは62.7%だったのに対し、2 mg/mL添加したセルでは89.4%、4 mg/mL添加したセルでは95.6%となりました。FPTIを添加することで、繰り返し充放電した際のグラファイト負極の容量低下が大きく抑えられることが示されました。
また、研究グループは、実際のリチウムイオン電池により近い構成として、NMC811正極とグラファイト負極を組み合わせたフルセルについても評価しました。FPTIを用いてあらかじめグラファイト負極表面にSEIを形成した後、FPTIを含まない電解液を用いてフルセルを構成したところ、4 mg/mLのFPTIで処理した負極を用いたセルで約233 Wh kg⁻¹のエネルギー密度が得られました。
なお、このフルセル試験は、FPTIを実用電池の電解液に直接添加して性能を評価したものではなく、FPTIによってあらかじめ形成した負極側の保護膜の効果を検証したものです。
3.今後の展開
今回の研究により、FPTIを用いてグラファイト負極表面に安定した保護膜を形成することで、試験用セルにおける負極の耐久性を大幅に向上できることが示されました。
一方、今回の成果は、実際に市販されているリチウムイオン電池の耐用年数が延びることを直接実証したものではありません。社会実装に向けては、実用サイズ・実用条件に近いフルセルでの長期試験をはじめ、温度条件、安全性、添加剤の最適な使用方法、製造工程への適合性、量産性などについて、さらに検証する必要があります。
本技術は、電解質や電極活物質そのものを新たな材料に置き換えるものではなく、少量のFPTIを既存の電解液に添加することでグラファイト負極の耐久性向上を図るものです。そのため、既存の電池製造設備や工程を大きく変更することなく導入できる可能性があり、研究グループでは、社会実装に向けたハードルが相対的に低い技術になると考えています。今後、実用電池に近い条件での検証・実証を進めていくことを希望しています。
今後、こうした検証を進め、実用電池でも長寿命化が実現できれば、スマートフォンや電気自動車、定置型蓄電池などの交換頻度を減らし、ユーザーの利便性向上やコスト低減につながる可能性があります。また、電池をより長く使用できるようになれば、電池の製造・交換に伴う資源消費や環境負荷の低減にもつながることが期待されます。
松見教授は、「本研究成果についてはすでに国内特許を出願しています。今後は企業との共同研究などを通じて実用化に向けた研究開発を進め、耐久性の高いリチウムイオン電池の実現と、将来的な低炭素社会への貢献を目指します。現在、開発パートナーを募集しており、サンプル提供についてもご相談に応じます」と話しています。

| 図1.イミン型負極添加剤の設計コンセプト FPTIがグラファイト負極表面で電解液より先に反応し、LiFなどを含む安定した保護膜(SEI)を形成することで、不要な副反応を抑え、リチウムイオンが移動しやすい界面を形成する考え方を示しています。 |

| 図2.FPTIの合成と分子設計 (a) FPTIの合成法、(b) FPTIの1H NMRスペクトル、(c)FPTI、電解液及びバインダーのHOMO-LUMOエネルギーレベル。 |

| 図3.FPTI添加による充放電特性 (a)グラファイト/リチウムハーフセルの長期充放電サイクル特性、(b)第一サイクルにおけるdQ/dVプロット、(c)NMC811/グラファイトフルセルの充放電レート特性、(d)フルセルの充放電サイクル特性。 |
【用語説明】
リチウムイオンが正極と負極の間を移動することで充電・放電を行う二次電池。高い電圧とエネルギー密度を持ち、スマートフォンやノートパソコン、電気自動車(EV)、定置型蓄電池などに広く利用される。
主にリチウムイオン電池の負極表面に形成される薄い膜。リチウムイオンを通す一方で、電解液のさらなる分解を抑える「負極表面の保護膜」として働き、その性質が電池の性能や耐久性に大きく影響する。
電子が入っていない分子軌道のうち、最もエネルギーが低い軌道。一般にLUMOのエネルギーが低い分子ほど電子を受け取りやすく、還元されやすい。本研究では、FPTIが電解液成分よりも先に還元され、負極表面に保護膜を形成する性質を説明する指標として用いた。
【論文情報】
| 論文タイトル | Enhancing the Cycling Stability of Graphite Anodes Using a Dense Fluorine Containing Thiophene-Based Electrolyte Additive |
| 日本語タイトル | 高密度フッ素含有チオフェン系電解液添加剤によるグラファイト負極のサイクル安定性向上 |
| 著者 | Uday Sai Reddi, Bharat Srimitra Mantripragada and Noriyoshi Matsumi* (*責任著者) |
| 掲載誌 | Energy and Fuels |
| 掲載日 | 2026年8月31日 |
| DOI | 10.1021/acs.energyfuels.6c02613 |
令和8年9月7日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2026/09/07-1.html学生の島袋さんが第23回Cat-CVD研究会において優秀学生ポスター賞を受賞
学生の島袋颯馬さん(博士前期課程2年、ナノマテリアル・デバイス研究領域、大平研究室)が第23回Cat-CVD研究会において優秀学生ポスター賞を受賞しました。
第23回Cat-CVD研究会は、令和8年6月18日・19日に旧大連航路上屋(福岡県北九州市)で開催され、Cat-CVD技術を用いた薄膜やデバイスの作製をはじめ、基礎から応用まで幅広い分野における最新の研究成果について、活発な議論が行われました。
優秀学生ポスター賞は、学部学生および大学院生を対象に、日々の研究活動を奨励することを目的として、同研究会において特に優れたポスター発表を行った学生に贈られる賞です。
※参考:Cat-CVD研究会
■受賞年月日
令和8年6月19日
■研究題目、論文タイトル等
レーザー補助FLAによるCat-CVD a-Si膜の結晶化の起点形成効果
■研究者、著者
島袋颯馬、前田健作、大平圭介
■受賞対象となった研究の内容
本研究では、非晶質シリコン膜の結晶化過程で生じる爆発的結晶化について、その発生起点を能動的に制御する手法を提案し、実験的に実証しました。爆発的結晶化は、多結晶シリコン膜を高速に形成できる技術として期待されていますが、結晶化が始まる位置を制御することが難しいという課題があります。本研究では、フラッシュランプアニールとパルスレーザー照射を組み合わせることで、任意の位置から爆発的結晶化を誘起することに成功しました。また、起点形成に必要なレーザーエネルギー密度が比較的低いことを明らかにしました。
■受賞にあたって一言
このたびは、第23回Cat-CVD研究会において優秀学生ポスター賞を受賞することができ、大変光栄に思います。本研究は、Cat-CVD法で作製した非晶質シリコン膜の応用研究として取り組んできたものです。本研究会において、結晶成長の観点から研究成果を発表し、多くの方々に興味を持っていただけたことを大変うれしく思います。日頃よりご指導いただいている大平圭介教授、前田健作講師をはじめ、研究を支えてくださった研究室および研究スタッフの皆様に、心より感謝申し上げます。今回の受賞を励みとして、今後も研究活動に精進してまいります。


令和8年9月7日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2026/09/07-1.html文部科学省「AI for Science 萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)」に採択
文部科学省が推進する「AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)」において、本学から応募した研究課題が採択されました。
本事業は、あらゆる分野の研究者等がAIを利活用して科学研究の高度化・加速化を図ることができるよう、計算資源の確保等の研究環境を整備するとともに、伴走支援を通じてAI利活用の裾野を広げ、萌芽的・探索的な研究を機動的に支援することにより、AI for Scienceの波及・振興を促進し、我が国独自の競争優位につながる新たな研究の種や芽を創出することを目的としています。
また、本事業では、挑戦的・分野横断的な研究や不確実性の高い研究の可能性を幅広く見いだすため、従来型のピアレビューに加え、無作為抽出やAIを活用したインタビュー等を組み合わせた、機動的かつ挑戦的な審査・採択手法が導入されています。こうした新たな研究評価・資金配分の仕組みそのものについても、今後の研究評価システム改革につながる先駆的な取組として注目されています。
このたび第2回の採択結果が公表され、本学から教員2名及び学生2名の計4名が採択されました。これにより、第1回公募での採択者2名と合わせ、本学からの採択者は計6名(教員3名、学生3名)となります。
採択された研究代表者および研究課題は以下のとおりです。
■第2回 採択課題
| 採択者 | 研究課題名 | |
| 1 | 高木 里実さん 学生(博士前期課程2年) |
日本の自動運転の道路交通法準拠判定に向けた専門家監修GTデータセットの構築とVQA精度検証 |
| 2 | 澤飯 天輝さん 学生(博士前期課程1年) |
混合物の高精度定量ラマン解析への生成AI適用 |
| 3 | コンピューティング科学研究領域 NGUYEN, Minh Le 教授 |
Building Self-Updating Legal Language Models through Temporal Legal Knowledge Maintenance and Uncertainty-Aware Revision |
| 4 | AI知性研究領域 GEORGIEV, Georgi 教授 |
設計創造性評価のためのローカル展開可能なエージェント型LLMパネル:フロンティアモデルとオープンウェイト評価者の人間専門家との整合性検証 |
■第1回 採択課題
| 採択者 | 研究課題名 | |
| 1 | 次世代デジタル社会基盤研究領域 BEURAN, Razvan 准教授 |
DefendNonNL: Defending LLMs Against Non-Natural Language Obfuscated Attacks |
| 2 | ZHU, Liyaさん 学生(博士前期課程2年) |
多言語・異文化相互行為における意味のズレの生成性を捉えるAI支援分析基盤の構築 |
本学からは、第1回に109件、第2回に96件、延べ205件の応募がありました。研究代表者の重複を除くと、2回の公募を通じて141名の教員・学生等が本事業に応募しており、このうち64名が両回にわたって挑戦しました。大学の規模を考慮しても、多くの研究者・学生がAI for Scienceを自らの研究に取り入れ、新たな研究の可能性を追究しようとしていることを示すものです。
特に、採択者6名のうち3名が学生であることは、本学において学生自身が研究構想を発案し、研究代表者として主体的に研究に挑戦する活動が活発であることを象徴しています。本事業には採択者だけでなく多くの学生から応募があり、本学が重視してきた、自ら研究課題を設定し、分野を越えて新たな知を創出する大学院教育の成果の一つともいえます。
今回採択された研究課題は、LLM・AIエージェント・知識・言語・人間AI協働をはじめ、材料・計測へのAI応用、実世界AI・モビリティなど、本学の情報科学、知識科学、マテリアルサイエンスを基盤とする多様な研究領域に広がっています。AIそのものの高度化にとどまらず、AIを活用してさまざまな科学研究や研究プロセスそのものを変革していく取組であり、本学が推進する分野融合型研究及びAIを活用した研究力強化の方向性とも合致するものです。
本学では、今回の採択を契機として、採択課題の研究を着実に推進するとともに、学内に蓄積されたAI利活用の知見や経験を共有し、情報科学・知識科学・マテリアルサイエンスをはじめとする多様な分野にAI for Scienceをさらに展開していきます。また、教員のみならず学生を含む幅広い研究者が、新たな発想に基づく萌芽的・挑戦的な研究に取り組む環境を一層充実させ、本学ならではの研究成果の創出につなげていきます。
■関連リンク
文部科学省「AI for Science 萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)」
https://www.mext.go.jp/aifors_spread/
令和8年8月24日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2026/08/24-2.html多様な光触媒の性能を左右する「ボトルネック」を診断し、設計指針を確立 ―大規模材料探索と速度論解析の融合により、高性能光触媒開発を加速―
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| 北陸先端科学技術大学院大学 東京科学大学 東京理科大学 |
多様な光触媒の性能を左右する「ボトルネック」を診断し、設計指針を確立
―大規模材料探索と速度論解析の融合により、高性能光触媒開発を加速―
【ポイント】
- 多数の酸化物光触媒を同一条件で比較し、性能を左右する「ボトルネック」を判別する新たな速度論的評価法を構築しました。
- 光の強さと温度への応答から、材料表面への電荷供給と、表面での界面電荷移動のどちらが性能を制限しているかを診断できることを示しました。
- 遷移金属(Mn、V)を含む材料では電荷供給能力が高く、第3族元素(Sc、Y)を含む材料では電荷供給が制限要因になりやすいことを明らかにし、構成元素に基づく材料設計指針を提案しました。
【概要】
| 東京科学大学物質理工学院材料系の張葉平助教(研究当時、北陸先端科学技術大学院大学特任助教)、東京理科大学先進工学部の中野渡淳助教、北陸先端科学技術大学院大学物質化学フロンティア研究領域の谷池俊明教授らの共同研究チームは、多様な酸化物光触媒について、性能を左右する「ボトルネック」を効率的に見分ける新たな速度論的評価手法を開発しました。光触媒は、太陽光を利用して化学反応を起こす材料であり、水素製造や二酸化炭素の資源化、環境浄化などへの応用が期待されています。しかし、光吸収や熱力学的条件を満たす材料であっても、必ずしも高い性能を示すとは限らず、どの過程を改善すべきかを多数の材料について効率的に診断することは困難でした。 研究チームは、材料データベースから選出した多数の酸化物材料を合成し、ハイスループット評価によって光触媒活性を比較しました。さらに、光の強さと温度に対する応答を組み合わせ、材料表面への電荷供給と、表面での界面電荷移動のどちらが性能を制限しているのかを判別する手法を構築しました。その結果、見かけの活性が同程度の材料であっても、「表面へ十分な電荷を供給できない材料」と「供給された電荷を表面反応に十分利用できない材料」が存在することを明らかにしました。 さらに、こうした速度論的特性が、材料を構成する元素によって系統的に変化することを見いだしました。マンガン(Mn)やバナジウム(V)などの遷移金属を含む材料は高い電荷供給能力を示した一方、スカンジウム(Sc)やイットリウム(Y)を含む材料では、電荷供給が性能の制限要因になりやすいことが分かりました。本成果は、高活性材料を見つけるだけでなく、材料ごとに「電荷供給」と「界面電荷移動」のどちらを改善すべきかを示す、新たな光触媒設計指針となるものです。本研究成果は2026年7月21日に学術誌「Journal of Materials Chemistry A」にオンライン掲載されました。 |
1.研究の背景
光触媒は、光のエネルギーを利用して化学反応を進める材料であり、水素製造や二酸化炭素の資源化、環境浄化などへの応用が期待されています。一般に光触媒の候補は、「光を吸収できること」と「目的の反応を熱力学的に進められること」を手がかりに選ばれてきました。しかし、これらの条件を満たしていても、高い性能を示すとは限りません。
光を受けた材料の内部では、電荷が生成・分離され、材料表面まで移動し、最後に反応物へ受け渡されます。この一連の過程のうち、ある材料では表面への電荷供給が不足し、別の材料では表面での電荷移動が遅いなど、性能を制限する「ボトルネック」は材料ごとに異なります。
高性能な光触媒を効率よく開発するには、活性の高い材料を見つけるだけでなく、どの過程が性能を制限しているかを把握することが重要です。しかし、従来の速度論的解析は複雑で時間がかかるため、多数の材料を対象とする大規模探索への適用は困難でした。そのため、大規模探索と両立し、材料ごとの改善方針まで示せる新たな診断方法が求められていました。
2.研究の詳細
本研究では、大規模材料探索と、大規模に展開可能な速度論解析を組み合わせることで、多様な光触媒材料の性能を支配する要因を明らかにしました。まず、材料データベースMaterials Project*1に登録された82,202種類の酸素含有材料から、安全性、合成可能性、光吸収特性などを基準として1,319種類まで候補を絞り込みました。さらに、その中からランダムに選んだ100組成を、異なる温度条件(400℃と1,000℃)で合成し、計200試料を作製しました。研究グループがこれまでに開発した96ウェルマイクロプレート*2を用いるハイスループット評価系により、メチレンブルー分解反応を指標として一斉評価しました。その結果、明確な活性を示す材料は探索空間のごく一部に限られ、特に銀(Ag)やマンガン(Mn)を含む酸化物に有望な材料が多いことを見いだしました。一方、従来有望と考えられていた元素を含む材料でも高い活性を示さない例があり、既存の経験則だけでは十分な材料設計指針にならないことも明らかになりました。
次に、有望な材料について反応温度と光の強さを系統的に変化させて測定し、各材料が持つ二つの能力を評価しました。一つは、光によって生じた電荷を材料表面まで供給する能力であり、もう一つは、その電荷を表面で反応物へ受け渡す能力です。光の強さは表面へ供給される電荷量に、温度は主に表面での電荷移動に影響するため、両者への応答を組み合わせることで、どちらの過程が性能を制限しているかを判別できます。研究チームは、この応答を理論的に整理するとともに、「温度依存性が現れ始める光強度(OITD:Onset Intensity for Temperature Dependence)*3」という新たな指標を提案しました。OITDを用いて解析した結果、見かけの反応速度が同程度の材料であっても、性能を制限している過程は材料ごとに異なることを明らかにしました。
さらに、電荷供給と界面電荷移動のバランスは、材料を構成する元素によって系統的に変化することも分かりました。銀と、マンガン(Mn)やバナジウム(V)などの遷移金属を組み合わせた材料では、電荷を表面へ供給する能力が高い傾向が見られました。特に、本研究で最も高い性能を示したMnAgO2は、弱い光でも温度依存性を示し、優れた電荷供給能力を持つことが分かりました。一方、銀と、スカンジウム(Sc)やイットリウム(Y)などの第3族元素を組み合わせた材料では、強い光を照射しても温度依存性がほとんど現れず、電荷供給が性能を制限していることが示されました。表面での界面電荷移動は助触媒の担持や表面修飾によって改善できる場合が多い一方、材料が本質的に持つ電荷供給能力を高める手段は限られています。本成果により、高性能材料を探索するだけでなく、材料ごとに必要な改良の方向性を判断できる設計指針が得られました。

| 図1. 大規模探索と速度論解析を組み合わせた光触媒材料の評価フロー Materials Projectに登録された82,202種類の酸素含有材料から候補を絞り込み、100組成を2種類の温度で合成して計200試料を一斉評価した。さらに、有望材料について温度と光強度を変えて測定し、電荷供給と界面電荷移動のどちらが光触媒性能を制限しているかを解析した。 |
3.今後の期待
今回の成果は、多数の候補材料の中から高性能な光触媒を効率よく探索するだけでなく、材料ごとに「電荷供給」と「界面電荷移動」のどちらを改善すべきかを判断できる、新たな設計指針を提供するものです。
特に、光触媒を利用した水素製造や二酸化炭素資源化、環境浄化技術の高度化に向けて、材料開発の試行錯誤を減らし、開発効率を高めることが期待されます。今後は、本研究で開発した評価手法をさらに多様な材料群や反応系へ展開し、次世代の高性能光触媒の開発につなげる予定です。
【論文情報】
| 論文タイトル | Element-dependent charge-supply and charge-transfer balance in oxide photocatalysts identified by high-throughput kinetic screening |
| 日本語タイトル | ハイスループット速度論解析による酸化物光触媒の電荷供給・電荷移動特性の解明 |
| 著者 | Yohei Cho, Kyo Yanagiyama, Emi Sawade, Sunao Nakanowatari, Toru Wada, Toshiaki Taniike |
| 掲載誌 | Journal of Materials Chemistry A(2026) |
| 掲載日 | 2026年7月21日(オンライン公開) |
| DOI | 10.1039/d6ta04494h |
【研究資金】
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業「特別研究員奨励費(課題番号:24KJ1201)」「若手研究(課題番号:26K17938)」、リバネス研究費京セラ賞、公益財団法人ヒロセ財団研究助成、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(課題番号:JPMJMI25G1)の支援を受けて実施されました。
【用語説明】
第一原理計算に基づく材料物性データベース。材料の組成、結晶構造、電子状態、熱力学的安定性などを検索でき、材料探索の出発点として広く利用されている。
96個の小さな容器(ウェル)が並んだ実験用プレート。多数の試料を同時に測定・評価できるため、材料探索の効率化に役立つ。
光を徐々に強くした際に、反応速度に温度の影響が現れ始める光強度を表す指標。値が低いほど、表面反応に必要な電荷を供給する能力が高いことを示す。
令和8年8月18日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2026/08/18-1.htmlAI設計の次世代ステルス材料と極細硬性内視鏡を開発 ―光熱がん治療の新たな可能性を切り拓く―
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| 国立大学法人東北大学 国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 エア・ウォーター株式会社 帝京大学先端総合研究機構 |
AI設計の次世代ステルス材料と極細硬性内視鏡を開発
―光熱がん治療の新たな可能性を切り拓く―
【発表のポイント】
- 血中滞留時間が従来のPEG(注1)の4倍以上で生分解性(注2)を持つ新しい人工タンパク質「IDP1(注3)」を人工知能(AI)を用いて開発しました。
- IDP1でコーティングした光熱変換ナノ粒子(注4)は静脈投与だけで腫瘍に効率よく集積し、正常臓器への分布が少ないことを定量的に確認しました。
- 標準的な注射針に挿入できる極細硬性内視鏡(注5)を開発し、腫瘍内部から直接レーザを照射する「接触型照射システム」を実現しました。
- マウスの大腸がんモデルにおいて、1回の薬剤投与と1回のレーザ照射の組み合わせで腫瘍が14日以内に消失し、40日以上再発しないことを確認しました。
- 観察期間中、明らかな全身毒性は認められませんでした。
【概要】
| 近赤外線レーザでがん細胞を熱で破壊する「光熱療法」は、手術や放射線治療に比べて体への負担が少ない次世代のがん治療として期待されています。しかし、治療薬を運ぶナノ粒子が免疫細胞に排除されて腫瘍へ届きにくいことや、体外からのレーザ照射では深部腫瘍に十分な熱を届けられないことが課題でした。 東北大学 多元物質科学研究所の都 英次郎教授(北陸先端科学技術大学院大学 客員教授)らと、エア・ウォーター株式会社の山下 紘正グループリーダー(帝京大学先端総合研究機構 特任准教授)らは、共同研究によりこれら2つの課題を同時に解決しました。タンパク質構造予測AI「AlphaFold(注6)」を活用して設計した人工タンパク質「IDP1」をナノ粒子にコーティングすることで腫瘍への集積性を高めるとともに、注射針に挿入可能な極細硬性内視鏡を用いた接触型レーザ照射システムを開発し、低出力で高い加熱効果を実現しました。マウス大腸がんモデルでは、1回の治療で腫瘍の消失と長期的な再発抑制を確認しました。 本研究成果は、ナノサイエンス・材料科学分野の専門誌Small Scienceに、2026年7月14日付で掲載されました。 |
【詳細な説明】
研究の背景
光熱療法はがん細胞を近赤外線レーザで選択的に加熱・破壊する治療法で、低侵襲性・繰り返し治療の可能性・免疫活性化効果などから次世代がん治療として世界中で研究が進んでいます。治療薬はナノ粒子に封入して静脈投与されますが、体内の免疫細胞(主にマクロファージ)がナノ粒子を異物として認識し、肝臓や脾臓で回収してしまうため、腫瘍への到達効率が低下するという課題があります。
これを防ぐためにPEGというプラスチック由来の分子でナノ粒子を覆うことが広く行われてきましたが、繰り返し投与によって体がPEGへの抗体を産生し2回目以降の投与では薬剤が急速に排除される「加速血中消失現象(注7)」が起こること、またPEGが体内で分解されず長期的な安全性に懸念が残ることが問題でした。
レーザ照射については、体の外から照射する従来法では皮膚・皮下組織・筋肉などがレーザを吸収・散乱するため、深部の腫瘍に十分な熱を届けるには1 W以上の高出力が必要となり、皮膚熱傷などの副作用リスクが高まります。光ファイバを腫瘍内に挿入する方法も存在しますが、これまでのシステムはファイバが太く、小動物実験への適用や最小侵襲性の観点で課題がありました。
今回の取り組み
研究グループはこれらの課題を以下の2つの独自技術で解決しました。
1つ目は、コンピュータ設計による人工ステルスタンパク質「IDP1」の開発です。血液中に豊富に存在する「ヒト血清アルブミン(HSA)(注8)」は表面に親水性アミノ酸を多く持ち、ナノ粒子への非特異的タンパク吸着を防ぐ性質を持っています。研究グループはまずHSAの立体構造データを解析して水との接触面積が大きいアミノ酸だけを選び出し、得られた改変HSAの立体構造をノーベル賞受賞技術にも貢献したタンパク質構造予測AI「AlphaFold」で予測することで、固有の立体構造を持たない柔軟な領域(固有無秩序領域)を特定しました。この候補配列の中から最も高い親水性と適切な電荷バランスを持つ配列をIDP1として選定しました。AlphaFoldの高精度な構造予測能力があってこそ、従来は困難だった「無秩序な領域の同定」が可能になりました。これらを評価した結果、弱いマイナス電荷を持ち最も高い親水性を示す候補をIDP1として選定しました。IDP1は大腸菌を使って生産でき、マウスへの投与実験では血中滞留時間がPEGの4倍以上(半減期150.5分対17.8分)を達成しました。
2つ目は、エア・ウォーター株式会社との共同研究による注射針サイズの極細硬性内視鏡です。エア・ウォーター株式会社が培ってきたグレーデッドインデックス型プラスチック光ファイバ(GI-POF)のレンズ応用技術を医療応用に展開し、直径0.5 mmのレンズを持つ極細硬性内視鏡を実現しました。この内視鏡は標準的な16ゲージ注射針の内腔に収まり、腫瘍内に直接挿入して808 nmのレーザを照射できます。レーザが皮膚や周囲組織を通過しないため光の減衰がなく、腫瘍全体に均一に熱を届けられます。実験では従来の外部照射(700 mW、ΔT≈40°C)と比べて28%低い出力(500 mW)で同等の温度上昇(ΔT=36.3°C)を達成しました。さらに励起波長785 nm・検出波長810〜860 nmの蛍光観察モジュールを搭載し、薬剤集積のリアルタイム確認と最適照射位置の決定を同一デバイスで行えるシステムを実現しました。
実験結果
細胞実験では、IDP1でコーティングしたナノ粒子(IDP1-CNH/ICG)は免疫細胞であるRAW264.7マクロファージへの取り込みが従来のコーティングなし粒子と比べて大幅に抑制されました。がん細胞(Colon26)に対しては接触型レーザ照射によって濃度依存的な細胞死が誘導され、正常細胞(MRC5)への影響は最小限に留まりました。
マウスを使ったin vivo実験では、投与24時間後に腫瘍部位への強い蛍光集積が確認されました。蛍光解析では腫瘍への集積量が肝臓、腎臓、心臓、脾臓、肺を大幅に上回り、正常臓器への分布が少ないことが定量的に示されました。
がんの治療実験では、IDP1-CNH/ICG投与+接触型レーザ照射群において14日以内に全マウスで腫瘍が消失しました。40日以上の観察期間中に再発は認められませんでした。体重に変化はなく血液検査でも異常は見られず、安全性が示唆されました。腫瘍組織の病理解析ではアポトーシス(細胞の自然死)とネクローシス(壊死)の強い誘導が確認されました。なお薬剤投与なしで接触型レーザのみを照射した群、および薬剤投与+従来の外部レーザ照射群ではいずれも腫瘍の消失には至らず、IDP1-CNH/ICGと接触型照射の組み合わせが治療成功に重要な要素であることが示されました。
今後の展開
IDP1の設計手法はがん治療薬の運搬だけでなく、さまざまなバイオ医薬品の体内での安定性向上(半減期延長)にも広く応用できると期待されます。また接触型光ファイバ内視鏡システムについては、エア・ウォーター株式会社と連携しながら内視鏡が届くさまざまながん種(頭頚部がん、食道がん・乳がん・大腸がんなど)への展開を進める予定です。今後は非臨床安全性試験の実施と早期臨床応用に向けた研究開発を推進します。

| 図1. 本研究の概要。ヒト血清アルブミンからコンピュータで設計した人工タンパク質IDP1でコーティングした光熱変換ナノ粒子(IDP1-CNH/ICG)を静脈投与し、注射針サイズの極細硬性内視鏡を腫瘍内に挿入して直接レーザを照射することで、効率的な光熱がん治療を実現した。 |

| 図2. IDP1の優れたステルス性能。(左)静脈投与後の血中濃度の変化。IDP1(赤線)は従来のPEG(水色線)と比べて4倍以上長く血液中に留まることが示された。(右)がん細胞(Colon26)および免疫細胞(RAW264.7マクロファージ)へのナノ粒子の取り込み量の比較。IDP1でコーティングしたナノ粒子(薄紫)は、コーティングなし(濃紺)と比べて取り込みが大幅に抑制された。 |

| 図3. マウスを用いた光熱療法の治療効果。(左)近赤外線サーモグラフィによる腫瘍部位の温度分布。注射針サイズの極細硬性内視鏡を用いた接触型レーザ照射(右下)では、照射開始から5分後に腫瘍内温度が約67.7°Cに達した。体外からの従来照射(右上)では温度上昇が限定的であった。(右)各治療群における腫瘍体積の経時変化。IDP1-CNH/ICGの投与と接触型レーザ照射を組み合わせた群(黒丸)でのみ、マウスの腫瘍がレーザ照射の14日以内に消失した。他の治療群では腫瘍の増大が確認された。データはマウス5匹の平均値±標準偏差を示す。 |
【謝辞】
本研究は、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(JPMJSF2318)、JSPS科研費(JP23K17209、JP23H00551、JP25K21827)同 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(JPJS00420230006)、文部科学省先端研究基盤共用促進事業(JPMXS0440200021)の支援を受けて実施されました。また、極細硬性内視鏡の開発にあたってはエア・ウォーター株式会社、帝京大学先端総合研究機構から実験的・技術的サポートをいただきました。
【用語説明】
石油由来の水溶性ポリマーで、ナノ粒子を免疫細胞から守るため医薬品分野で広く使われてきた材料です。しかし繰り返し投与によって体が抗体を産生し薬剤が急速に排除される問題や、体内で分解されないという長期安全性の課題が知られています。(ポリエチレングリコール)
体内の酵素や化学反応によって自然に分解される性質のことです。IDP1はアミノ酸から構成されており、体内のタンパク質分解酵素によって最終的に無害なアミノ酸に分解されます。プラスチック由来のPEGが体内で分解されないことと対照的な特長です。
本研究で新たに開発した人工タンパク質です。通常のタンパク質は決まった立体構造を持ちますが、IDP1(内在性無秩序ポリペプチド1)は形が決まらず水の中で柔軟に揺らめく「無秩序な」構造を持ちます。この柔軟性と水との強い親和性が、免疫細胞から認識されにくいステルス効果の源となっています。約100個のアミノ酸から構成される比較的小さなタンパク質で、大腸菌による大量生産も可能です。
本研究で開発したナノ粒子の正式名称です。直径約200 nmの脂質ナノ粒子の内部にカーボンナノホーン(CNH、炭素製の光熱変換材料)とインドシアニングリーン(ICG、FDA承認の蛍光色素)を封入し、表面をIDP1でコーティングしたものです。近赤外線レーザを照射すると効率よく熱に変換され、がん細胞を破壊します。(IDP1-CNH/ICG)
エア・ウォーター株式会社と共同開発した極細の硬性内視鏡です。グレーデッドインデックス型プラスチック光ファイバ(GI-POF)という、光を効率よく伝える特殊な素材を活用したレンズを使用しています。レンズ径わずか0.5 mm、標準的な注射針(16ゲージ)の内腔に挿入して腫瘍内に刺し込むことができ、腫瘍内部から直接レーザを照射できます。同時に腫瘍内の蛍光画像をリアルタイムで観察できる機能も搭載可能なデバイスです。
英国のDeepMind社(現Google DeepMind)が開発したタンパク質の立体構造を予測する人工知能(AI)プログラムです。アミノ酸の配列情報だけから、タンパク質がどのような三次元構造を取るかを高精度で予測できます。この技術は生命科学に革命をもたらしたとして、2024年のノーベル化学賞の受賞対象となった研究に深く関連しており、世界中の研究者が無償で利用できます。本研究では、ヒト血清アルブミンの改変配列がどのような構造を取るかを予測し、形が決まらない「無秩序な」領域を特定するために使用しました。(アルファフォールド)
PEGでコーティングしたナノ粒子を繰り返し投与した際に、免疫系がPEGに対する抗体を産生することで2回目以降の投与では薬剤が急速に排除される現象です。がん治療では複数回投与が必要な場合が多く、PEGベースの薬剤送達システムの重大な課題として広く認識されています。IDP1はタンパク質由来であるため、この問題が起きにくいと考えられます。(ABC現象)
血液中に最も多く含まれる主要タンパク質で、体重60 kgの成人では血液中に約200 gが存在します。脂肪酸・ホルモン・薬物を全身に運ぶ輸送役を担うほか、表面に親水性アミノ酸を多数持ち免疫細胞からの認識を受けにくい性質があります。本研究ではHSA全体ではなく、そのステルス性に寄与する部分の配列だけをコンピュータで特定・抽出しました。
【論文情報】
| タイトル | Intrinsically Disordered Polypeptides-Based Stealth Materials Enable Enhanced Photothermal Cancer Therapy Using an In Situ Fiber-Based Penetrating Laser System |
| 著者 | Kei Nishida, Hiromasa Yamashita, Akira Takahashi, and Eijiro Miyako* *責任著者:東北大学多元物質科学研究所 教授 都 英次郎 |
| 掲載誌 | Small Science |
| DOI | 10.1002/smsc.70342 |
| URL | https://doi.org/10.1002/smsc.70342 |
令和8年7月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2026/07/21-1.html学生の加藤さんがCVG2025において経済産業大臣賞・ビジネス大賞を受賞
学生の加藤裕介さん(博士後期課程3年、メディカルサイエンス研究領域、松村和明研究室)が、第22回キャンパスベンチャーグランプリ全国大会(CVG2025)において、経済産業大臣賞・ビジネス大賞を受賞しました。
学生ビジネスプランコンテスト「CVG2025」は、令和8年2月24日に東京・霞が関の霞山会館にて開催され、全国8地域の地方大会を勝ち抜いた12組の学生がプレゼンテーションを行い、ビジネスプランを競い合いました。
同大会は会場での開催に加え、YouTubeによるライブ配信も行われました。
※参考:CVG
受賞者インタビュー
■受賞年月日
令和8年2月24日
■プラン名
豚凍結精液の販売ビジネス
■提案者
加藤裕介
■受賞対象となったビジネスプランの内容
養豚事業者向けに、豚の精子を凍結する技術を開発・提供する事業を提案した。まずは豚精子用の凍結保護剤販売ビジネスとして開始し、その後凍結精液を販売するビジネスへと移行する。育種改良に携わるブリーダー・ブランド豚を扱う会社へのサービス、海外展開の可能性など、多様なニーズの存在をアピールした。
■受賞にあたって一言
このたびは経済産業大臣賞・ビジネス大賞を頂き、大変光栄に存じます。本事業の共同研究者であり、指導教員である松村和明教授に、この場を借りて心より御礼申し上げます。また、本事業における研究開発およびビジネス可能性の評価には、TeSH GAPファンドプログラムよりご支援をいただいております。内田史彦特任教授をはじめTeSHプログラムに携わられている皆様と、日頃より多くのご助言をいただいている北陸RDXの水野惠介様に、深く感謝申し上げます。
本受賞にあたり、審査において養豚業界に対する解像度を高く評価していただけました。市場調査やヒアリングにご協力いただいた皆様のお力添えに、この場を借りて深く感謝申し上げます。特に、令和7年9月の家畜改良センターでの研修経験は、養豚業界への理解をより具体的で鮮明なものにしてくれました。当時お世話になりました皆様に厚く御礼申し上げます。
関連記事:学生の加藤さんがCVG中部2025において大賞を受賞
令和8年7月13日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2026/07/13-1.html令和7年度(第23回)「学生ビジネスプランコンテスト」において本学学生2名が受賞
一般財団法人学生サポートセンター主催の令和7年度(第23回)「学生ビジネスプランコンテスト」において、本学の学生2名が受賞しました。加藤裕介さん(博士後期課程3年、物質化学フロンティア研究領域、松村研究室)が優秀賞を、大平尚輝さん(博士後期課程3年、社会システムマネジメント研究領域、郷右近研究室)がアイデア賞をそれぞれ受賞しています。
なお、表彰式は令和8年2月9日、新宿NSビル(東京都新宿区)にて執り行われました。
同コンテストは、全国の大学・大学院、専門学校の学生から寄せられたビジネスプランを対象に、書類審査によりアイデアの独創性や新規性、実現性などを評価するものです。学生らしい自由な発想で創造性や意欲にあふれ、自ら考え行動できる学生の育成を目的として開催されています。
※参考:学生サポートセンター
令和7年度(第23回)「学生ビジネスプランコンテスト」受賞者一覧
【優秀賞 加藤裕介さん】
■プラン名
豚凍結精液の販売事業
■提案者
加藤裕介
■受賞対象となったビジネスプランの内容
養豚における人工授精において、既存の希釈精液(生精液)の優れた代替となり得る凍結精液の販売事業を提案しました。現実的な市場性やマーケティング戦略と共に、本事業の社会的意義をアピールしました。
■受賞にあたって一言
このたびは優秀賞を頂き、大変光栄に存じます。本事業の共同研究者であり、指導教員である松村和明教授に、この場を借りて心より御礼申し上げます。また、本事業における研究開発およびビジネス可能性の評価には、TeSH GAPファンドプログラムよりご支援をいただいております。内田史彦特任教授をはじめTeSHプログラムに携わられている皆様と、日頃より多くのご助言をいただいている北陸RDXの水野惠介様に、深く感謝申し上げます。
表彰式当日は、受賞者を代表し、本プランの発表の機会を頂戴しました。多くの方にご関心をお寄せいただき、大変励みになりました。この新たな繋がりを糧に、今後とも一層精進してまいります。
【アイデア賞 大平尚輝さん】
■プラン名
森林現場の業務効率化に特化したDXプラットフォーム
■提案者
大平尚輝、高橋隆造(東北大学)
■受賞対象となったビジネスプランの内容
地理空間データを活用した森林DXプラットフォームを開発しています。森林組合と森林所有者をつなぎ、業務効率化と収益改善を実現するとともに、土砂災害リスクの低減や脱炭素への貢献を通じて、持続可能な森林管理の基盤を築きます。
■受賞にあたって一言
このたび、学生ビジネスプランコンテストにおいてアイデア賞を受賞することができ、大変光栄に存じます。発表にあたり、日頃よりご指導を賜りました先生方、そして審査に向けて繰り返しブラッシュアップの機会を提供してくださった関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。今回の受賞を励みに、今後一層、研究および事業の推進に努めてまいります。


令和8年7月10日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2026/07/10-1.html触媒と反応を同時に探す新手法「反応探索」を実証 ―メタン転換で100万点規模のデータから未知反応の芽を発見―
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北陸先端科学技術大学院大学 科学技術振興機構(JST) |
触媒と反応を同時に探す新手法「反応探索」を実証
―メタン転換で100万点規模のデータから未知反応の芽を発見―
ポイント
- 触媒と反応を同時に探し、未知の触媒プロセスを発見する新しい研究方法を実証
- メタン・酸素・二酸化炭素からなる広大な反応空間を探索し、生成物を限定しない質量分析により100万点規模の反応データを取得
- 従来の探索では到達困難だった高いメタン転換収率を実現し、想定外の生成物へつながる未知反応の芽も発見
| 北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域の谷池 俊明 教授、CHAMMINGKWAN, Patchanee 特任准教授らは、物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター 田村 亮 グループリーダーらと共同で、触媒と反応を同時に探索する新しい研究方法「反応探索」(注1)を、メタン転換を対象として初めて実証しました。 触媒は、肥料、燃料、プラスチック、医薬品などの製造を支える基盤材料であり、カーボンニュートラル社会の実現には触媒技術の革新が不可欠です。しかし、触媒反応では、触媒の材料設計と反応条件が複雑に関係するため、現在でも実験的な試行錯誤に大きく依存しています。従来は、既知の反応に対して触媒を改良する、あるいは既知の触媒に対して反応条件を最適化することが中心でしたが、革新的な触媒プロセスの多くは、触媒と反応の思いがけない組み合わせから生まれてきました。 本研究では、メタン・酸素・二酸化炭素からなる広い反応空間(注2)を対象に、200種類の触媒と50種類の反応条件をハイスループット実験(注3)で評価しました。さらに、生成物を限定しない質量分析によって100万点規模の反応データを取得しました。その結果、触媒ごとに高い性能を発揮する原料組成が大きく異なることが明らかとなり、ある条件では低性能に見える触媒でも、別の条件では優れた性能を示し得ることが分かりました。また、既知反応の条件に限定した場合を上回るメタン転換収率が得られるとともに、従来のように目的生成物を定めた探索では見つけられない未知反応の芽も見出しました。 本成果は、既知の反応を改良するだけでなく、広大な探索空間から未知の価値を持つ触媒プロセスを発見する「反応探索基盤」の有効性を示すものです。今後は、探索する基質、触媒、反応条件の範囲を拡張するとともに、ハイスループット実験と機械学習を組み合わせることで、カーボンニュートラル社会の実現に必要なさまざまな触媒プロセスの開拓へ展開できると期待されます。 本研究成果は、2026年7月8日(ワシントンD.C.時間)に米国の科学誌「ACS Catalysis」のオンライン版で公開されました。 本研究は、科学技術振興機構(JST)「未来社会創造事業 探索加速型 本格研究(No. JPMJMI25G1)」の支援を受けたものです。 |
【研究の背景と経緯】
触媒は、化学プロセスの約80%で利用され、肥料、燃料、プラスチック、医薬品などを通して、間接的にGDPの約35%に影響するとされる、まさに人類の物質文明を支える材料です。私たちの身の回りにある多くの物質は、原料を目的の化合物へと変換する化学プロセスによって作られており、その多くで触媒が重要な役割を担っています。カーボンニュートラル社会の実現には、エネルギー利用の変革だけでなく、こうした物質生産の基盤である触媒技術の革新が求められています。
しかし、触媒は極めて複雑であり、理論だけで最適設計することは困難です。触媒の組成や構造といった材料設計に加え、原料の組み合わせ、混合比、温度といった条件によって、生成物や性能が大きく変化します。このため、触媒開発は現在でも、実験的な試行錯誤に大きく依存しています。特に従来の触媒研究では、既知の反応に対する触媒開発や、既知の触媒に対する反応条件の最適化が中心でした。
一方で、革新的な触媒プロセスの多くは、触媒と反応の新たな組み合わせを"偶発的に"見出すことで実現されてきました。このことは、触媒と反応を同時に探索する必要性を示していますが、その組み合わせは膨大であり、人の経験や直感だけでは効率的な探索は困難です。
そこで本研究グループは、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業において、広大な探索空間の中から未知の触媒と反応を同時に発見する「反応探索基盤」の開発に挑んでいます。これは、「反応を決めて触媒を探す」研究から、「触媒と反応を同時に探す」研究への転換であり、既知の価値を最適化するだけでなく、未知の価値を発見するための新しい考え方です。本研究では、大量の触媒を合成し評価するハイスループット実験を使って、触媒と反応の同時探索を初めて実証することに成功しました。
【研究の内容】
今回、本研究グループは、メタンを特定の生成物に転換するのではなく、メタンを有用な化合物へ転換する広い反応空間として捉え、触媒と反応を同時に探索することを試みました。具体的には、メタン・酸素・二酸化炭素からなるCH4-O2-CO2三元系を対象としました(図1)。この反応空間には、例えばメタン酸化カップリング、部分酸化、ドライリフォーミング、非酸化的分解など、既に知られている複数のメタン転換反応が含まれています。従来の研究では、これらの反応ごとに原料比や目的生成物を定め、その条件で触媒を評価することが一般的でした。これに対して本研究では、既知反応を広大な反応空間の一部として捉え、化学量論組成に制限されない広い条件範囲を、触媒とともに探索しました。
本研究では、研究グループがこれまでに構築してきたハイスループット実験基盤を用いて、単一酸化物、複合酸化物、担持触媒などからなる200種類の触媒ライブラリーを評価しました。各触媒について、25種類のCH4/O2/CO2混合比を、600℃および800℃の2つの温度で調べました。さらに、生成物をC2化合物や水素などに限定せず、質量分析により質量数1~100の範囲を網羅的に測定しました。これにより、200種類の触媒、50種類の反応条件、100種類の質量シグナルからなる、合計100万点規模の反応データを取得しました。
その結果、触媒ごとに高い性能を発揮するCH4/O2/CO2比が大きく異なることが分かりました。すなわち、ある一点の原料組成で「低性能」と判断される触媒でも、別の原料組成では優れた性能を発揮し得ることが明らかになりました。これは、触媒を正しく評価するには、触媒と反応条件を切り離さず、同時に探索する必要があることを示しています。
実際に、エチレン、プロピレンなどのC2-C3炭化水素の生成では、既知反応の化学量論点(注4)に近い条件に限定した場合の最大収率が約27%であったのに対し、化学量論点に限定せず広い反応空間を探索することで、30%を超える収率が得られました(図2)。この条件では選択率も80%を超えており、メタン酸化カップリングの歴史において重要な目安とされてきた高収率・高選択率の領域に到達しました。また、水素生成においても、既知反応の化学量論点に近い条件では最大収率が約85%であったのに対し、広い反応空間を探索することで、100%に近い高収率が得られました。
さらに、生成物を指定しない網羅的な質量分析により、エチレン、プロピレン、水素といった主要生成物に加えて、1-ブテン、1,3-ブタジエン、ベンゼンなど、従来のメタン転換反応では主な標的とされてこなかった生成物も検出されました(図2)。特に、メタンからブタジエンのようなC4炭化水素を作る反応は、収率としてはまだ未成熟であるものの、従来のように目的生成物を決めた探索では見逃されやすい未知反応の芽を示すものです。
以上の結果は、化学反応だけを探しても適切な触媒がなければ反応は進まず、触媒だけを探しても適切な反応条件がなければ性能は発揮されないことを示しています。すなわち、革新的な触媒プロセスを発見するためには、触媒と反応を同時に探すことが重要です。本研究は、メタン転換のような高難度反応において、既知反応の収率を高めるだけでなく、新しい転換ルートを見出し得ることを示し、反応探索基盤の有効性を初めて実証しました。

| 図1 CH4-O2-CO2三元系における反応探索の概念。既知のメタン転換反応は、メタン酸化カップリング(OCM)、部分酸化(POM)、ドライリフォーミング(DRM)、非酸化的分解(TDM)などの化学量論条件に対応します。本研究では、これらの既知反応点に限定せず、CH4、O2、CO2の組成を広く変化させた反応空間を探索しました。 |

| 図2 反応探索により見出された高収率条件と想定外の生成物。CH4-O2-CO2からなる広い反応空間を調べることで、既知反応の条件周辺だけでは見えにくい高いC2収率の領域が見つかりました。さらに、生成物をあらかじめ決めずに質量分析を行うことで、通常の探索では見逃されやすい想定外の生成物と未知反応の芽が示されました。 |
【今後の展開】
本研究は、触媒と反応を同時に探索する「反応探索」の初めての実証です。一方で、今回探索した範囲は、メタン、酸素、二酸化炭素の3成分からなる反応空間、200種類の触媒、50種類の反応条件に限られています。すなわち、広大な反応探索空間全体から見れば、今回の実証はまだごく一部を切り出したものです。
それにもかかわらず、本研究では、既知反応の化学量論点に限定した評価では見落とされる高性能な触媒・反応条件の組み合わせや、従来の目的生成物を決めた探索では見つかりにくい未知反応の芽を見出すことができました。これは、反応探索が、既知の触媒反応を改良するだけでなく、未知の価値を持つ触媒プロセスを発見するための有力な方法であることを示しています。
今後は、探索する基質、触媒、反応条件の範囲を大きく拡張するとともに、ハイスループット実験によるデータ取得のさらなる高速化と、機械学習を用いた効率的・自律的な探索を組み合わせていきます。これにより、研究者の経験や直感だけでは当たりを付けることが難しい広大な探索空間から、革新的な触媒と反応の組み合わせを効率的に発見する反応探索基盤の構築を目指します。
本研究で得られた成果は、メタン転換に限らず、カーボンニュートラル社会の実現に必要なさまざまな触媒プロセスの開拓へ展開できると期待されます。
<参考図>

| 触媒と反応の同時探索「反応探索」: 反応探索とは、触媒だけ、あるいは反応条件だけを個別に最適化するのではなく、触媒、原料組成、温度、生成物を含む広い探索空間から、有用な触媒プロセスを見出す研究方法です。本研究では、200種類の触媒ライブラリーを、メタン・酸素・二酸化炭素からなる広い反応空間で評価し、生成物をあらかじめ限定しない広域質量分析により、100万点規模の反応データを取得しました。これにより、既知反応の条件にとどまらない高性能領域や、想定外の生成物につながる未知反応の芽を見出しました。 |
【用語解説】
本研究グループがJST未来社会創造事業の中で提唱し、発展させている触媒と反応を同時に探索する独自の研究アプローチ。従来の触媒研究では、既知の反応に対する触媒改良や、既知の触媒に対する反応条件の最適化が中心であった。一方で、触媒技術の大きな革新の多くは、試行錯誤の中で、触媒と反応を偶発的に同時に見出すことで生まれてきた。反応探索とは、この同時発見を偶然に任せるのではなく、触媒と反応を同時に探すことで、未知の価値を持つ触媒プロセスを見出す研究方法である。
本研究では、メタン・酸素・二酸化炭素からなるCH4-O2-CO2三元系を指す。この中には、メタン酸化カップリング(OCM)、部分酸化(POM)、ドライリフォーミング(DRM)、非酸化的分解(TDM)などの既知反応が含まれる。本研究では、既知反応ごとに決まった原料比の周辺だけでなく、CH4、O2、CO2の混合比を広く変化させて、未知の反応や高性能な反応条件を探索した。
自動化・並列化・効率化などの手段に基づき単位時間当たりの実験数を飛躍的に増大させた実験を指す。本研究では、多数の触媒を並列に合成し、さまざまな原料組成や温度において、各触媒がどのような生成物を与えるかを自動的に評価した。
反応式から決まる、原料が過不足なく反応する混合比を指す。本研究のCH4-O2-CO2三元組成図では、その混合比は一つの点として表される。例えば、メタンのドライリフォーミング(DRM)では、CH4 + CO2 → 2CO + 2H2 から、CH4/CO2 = 1 が化学量論点に相当する。
【論文情報】
| 雑誌名 | ACS Catalysis |
| 論文タイトル | "Catalyst and Catalysis Co-exploration in Methane Utilization" (メタン転換における触媒と反応の同時探索) |
| 論文著者 | Patchanee Chammingkwan*, Ranjithkumar P. Manchan, Tomoya Nagai, Poulami Mukherjee, Taiyo Kaneuchi, Ryo Tamura, Toshiaki Taniike* *責任著者 |
| DOI | https://doi.org/10.1021/acscatal.6c03318 |
令和8年7月9日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2026/07/09-1.htmlやさしくつかみ、触って感じるロボットハンドを開発 ―ゾウの鼻先に着想を得たソフトグリッパ「EleTac」―
やさしくつかみ、触って感じるロボットハンドを開発
―ゾウの鼻先に着想を得たソフトグリッパ「EleTac」―
【ポイント】
- 把持機能と触覚センシング機能を一体化したソフトロボットグリッパ「EleTac」を開発しました。
- 物体をやさしくつかみながら、接触位置、接触程度、自身の姿勢を同時に認識できます。
- 包括的な把持・知覚実験により、EleTacが有効に機能する物体や条件を明らかにしました。
- 視覚情報が得にくい環境での探索や繊細な物体操作など、人と協働するロボットへの応用可能性を実証しました。
- CADデータやシミュレーション環境、学習済みモデルなどを公開し、研究の再現性と技術発展に貢献します。
| 北陸先端科学技術大学院大学 AI知性研究領域のHo Anh Van(ホ アン ヴァン)教授と、英国キングス・カレッジ・ロンドンのShan Luo准教授が共同で主導する研究グループは、北陸先端科学技術大学院大学のNguyen Tai Tuan博士研究員、キングス・カレッジ・ロンドンのXuyang Zhang大学院生(博士後期課程)、米国パデュー大学のLuu Khanh Quan博士研究員とともに、把持機能と触覚センシング機能を一体化したソフトロボットグリッパ「EleTac」を開発しました。 ソフトロボットは、人や壊れやすい物体に安全に触れられることから、家庭や医療、サービス分野での活躍が期待されています。しかし、物体をやさしくつかみながら、接触位置や力、自身の形状変化を同時に把握することは難しく、より器用なロボットの実現に向けた課題となっていました。 今回開発したEleTacは、ゾウの鼻先に着想を得た柔軟な構造と、視覚ベースの触覚センシング技術を組み合わせることで、この課題を解決しました。EleTacは、多様な物体を傷つけずに把持するとともに、接触位置や力、物体形状、自身の姿勢を単一のカメラで推定できます。砂の中から物体を探し出す作業や食器洗いなどの家庭内作業でも高い把持・知覚性能を実証しており、家庭や病院、食品ハンドリングなど、人と協働するロボットへの応用が期待されます。 |
【1.研究の背景】
ソフトグリッパは、柔軟な材料や構造、駆動機構を利用した新しいロボットハンドです。硬いロボットハンドと比べて、周囲の環境や人と安全に接触できるため、食品や壊れやすい物体を扱う用途で注目されています。
一方で、ロボットが器用に作業するためには、物体をつかむだけでなく、「どこに触れているか」「どのくらいの力が加わっているか」「物体の形状はどうなっているか」といった情報を取得する触覚センシング機能が重要です。
しかし、柔らかい材料は大きく変形するため、グリッパ全体に触覚センサーを組み込みながら、高い把持性能を維持することは容易ではありませんでした。
【2.研究内容】
研究グループは、この課題を解決するため、視覚ベース触覚センシング機能を備えた空気圧駆動型ソフトグリッパ「EleTac」を開発しました(図1)。
EleTacは、ゾウの鼻に着想を得た柔軟な構造を採用し、空気圧によって閉じることで、多様な形状の物体をやさしく把持できます。また、内部に配置した単一のカメラにより、エラストマー全体の変形を観察し、接触位置や接触程度、物体形状、自身の姿勢など複数の触覚情報を同時に取得できます。
包括的な把持・知覚実験の結果、EleTacは物体操作と触覚センシングを一つの設計で高いレベルで両立できることが確認されました。著者らの知る限り、視覚ベース触覚スキンで全面を覆い、自己受容感覚[*1]と外受容感覚[*2]、さらに把持機能を統合したソフトロボットグリッパはEleTacが初めてです。

| 図1 EleTacグリッパの概念図。(a)ゾウの鼻に着想を得た構造。(b)空気圧によってソフトグリッパが閉じることで、やさしく多様な把持を実現します。(c)視覚ベースセンシングにより、外部物体との接触と自己形状の両方を知覚できます。 |
【3.応用例と今後の展開】
EleTacは、やさしい物体操作と触覚知覚の両方が求められるさまざまな場面で有効性を示しました(図2)。
柔軟な構造により、豆腐や果物など壊れやすい物体を傷つけることなく安全に把持できます。また、触覚フィードバックを活用することで、食器との接触状態を確認しながら行う食器洗いなどの家庭内作業や、視覚情報が得られにくい砂の中から物体を探し出す作業にも応用できます。
今後は、家庭、病院、公共空間など、人と近い距離で安全に協働するロボットへの応用が期待されます。接触を感じながら適切な力で作業できることで、高齢者支援や介護、サービスロボット、これまで自動化が難しかった繊細な作業への活用も期待されます。
また、本研究ではCADデータ、シミュレーション環境、開発パイプライン、データサンプル、学習済みモデルを公開し、研究コミュニティ全体での技術発展や再現性向上にも貢献します。

| 図2 EleTacの応用例。柔軟なソフトグリッパにより壊れやすい物体を安全に把持できるほか、統合されたセンシング機能によって自動食器洗いや視覚情報が限られる環境での探索作業を支援します。 |
【用語説明】
ロボットが自分自身の形状、位置、動きなどを把握する能力。
ロボットが外部の物体との接触や相互作用を通じて、周囲の環境を把握する能力。
【論文情報】
| 論文タイトル | EleTac: Elephant Trunk Tip-Inspired Soft Gripper with Vision-Based Tactile Sensing and Proprioception |
| 日本語タイトル | ss視覚ベース触覚センシングと自己受容機能を備えたゾウの鼻先着想型ソフトグリッパ「EleTac」 |
| 著者 | Tuan Tai Nguyen, Xuyang Zhang, Quan Khanh Luu, Shan Luo, and Van Anh Ho |
| 掲載誌 | IEEE Transactions on Robotics (T-RO) |
| 掲載日 | 2026年6月26日 |
| DOI | 10.1109/TRO.2026.3706568 |
【研究資金】
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)(課題番号:JPMJCR2554)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費(課題番号:25KJ1365)、および英国UKRI EPSRC Open Fellowship UKRI3438の支援を受けて実施されました。
令和8年7月7日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2026/07/07-1.htmlベタレイン色素の新たな生合成経路を解明 ― ゴムフレニンI合成酵素 cDOPA6GT を世界で初めて発見 ―
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石川県公立大学法人 石川県立大学 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 |
ベタレイン色素の新たな生合成経路を解明
― ゴムフレニンI合成酵素 cDOPA6GT を世界で初めて発見 ―
ポイント
- ツルムラサキおよびセンニチコウから、ゴムフレニンI生合成に関わる新規糖転移酵素cDOPA6GTを発見
- タバコ培養細胞を用いたゴムフレニンIの人為的大量生産系の構築に成功
- ゴムフレニンIが、ベタニンより高い熱安定性を示すことを発見
| 石川県立大学の重久亮太 修士課程学生、森正之 教授、今村智弘 准教授、高木宏樹 教授、北陸先端科学技術大学院大学 大木進野 教授、山口拓実 准教授らの研究グループは、ベタレイン色素を生産するツルムラサキ(Basella alba)およびセンニチコウ(Gomphrena globosa)を用いて、ゴムフレニンI生合成に関わる新規糖転移酵素cDOPA6GTを発見し、ベタレイン色素の新たな生合成経路を明らかにしました。 本研究成果は、植物科学分野の国際研究誌「New Phytologist」に掲載されました。 |
研究背景と概要
ナデシコ目植物の多くがベタレイン色素*1 を生産し、赤色系のベタシアニン*2 と黄色系のベタキサンチンに大別されます。ベタシアニンは、基本骨格であるベタニジンにグルコースが付加されることで形成されます。この修飾では、分子内の5位または6位にグルコースが付加されることが知られており、5位に付加したものをベタニン型、6位のものをゴムフレニン型と呼んでいます(図1)。ベタレイン生産植物の多くはベタニン型ベタシアニンを生産しますが、ゴムフレニン型を生産する植物は限られています。
それぞれのタイプを決定する酵素について、ベタニン型では、ベタニジンの5位にグルコースを付加する酵素(Betanidin 5-O-glucosyltransferase、B5GT)と、ベタニジンの前駆体であるシクロドーパの5位にグルコースを付加する酵素(cyclo-DOPA 5-O-glucosyltransf-erase、cDOPA5GT)が報告されています(図1右)。一方、ゴムフレニン型については、ベタニジンの6位にグルコースを付加する酵素(Betanidin 6-O-glucosyltransferase、B6GT)は、これまでに1例しか報告されていませんでした(図1左下)。そのため、ゴムフレニン型ベタシアニンの生合成機構の全体像は未解明のままであり、20年以上にわたり未解決の課題となっていました。
本研究では、ゴムフレニン型ベタシアニンを生産していることが知られているツルムラサキ*3 とセンニチコウ*4 を対象として、ゴムフレニンI*5 の生合成に関わる酵素遺伝子の探索を行いました。両植物はゲノム情報が公開されていなかったため、RNA-seq*6 解析によって取得した遺伝子発現情報から転写産物の配列を再構築し、候補遺伝子を抽出しました。まず、これまでに報告されているB6GTのアミノ酸配列を手がかりに候補遺伝子を選抜し、ベンサミアナタバコを用いたアグロインフィルトレーション法*7 によって機能解析を行いました。しかし、ゴムフレニンIを合成する酵素は見いだせませんでした。この結果は、ツルムラサキとセンニチコウにおいて、ゴムフレニンIの生合成に未知の酵素が関与している可能性を示していました。
そこで、私たちは、これまで報告のなかったベタニジンの前駆体であるシクロドーパの6位にグルコースを付加してゴムフレニンIを合成する新たな経路の存在を想定し、その反応を担う酵素(cyclo-DOPA 6-O-glucosyltransferase、cDOPA6GT)の探索を行いました(図1左上)。ベタニン型ベタシアニンでは、複数の植物種でcDOPA5GTが報告されていることから、キヌアのcDOPA5GTのアミノ酸配列を手がかりに、相同性解析を行いました。その結果、ツルムラサキから2つ、センニチコウから1つの有力な候補遺伝子を見いだしました。これらの候補について、機能解析を行った結果、ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GT1およびBacDOPA5/6GT2は、ベタニンとゴムフレニンIの両方を生産すること、一方でセンニチコウ由来のGgcDOPA6GTはゴムフレニンIのみを生産することが明らかとなりました(図2)。これにより、長年未解明であったゴムフレニン型ベタシアニンの生合成において、世界で初めてcDOPA6GT経路の存在を実証しました。
次に、ゴムフレニンI合成活性を示した遺伝子を、他のベタシアニン生合成遺伝子とともにタバコ培養細胞(BY-2細胞)へ導入し、ゴムフレニンIの人為的生産系の構築を行いました。その結果、遺伝子を導入した培養細胞は赤色を呈し、蓄積した色素を精製し、NMR*8 による構造解析を行ったところ、ゴムフレニンIであることが確認されました(図3)。さらに BacDOPA5/6GT1、BacDOPA5/6GT2およびGgcDOPA6GTを導入した培養細胞では、ゴムフレニンIが高濃度で蓄積していることが確認されました。これらの結果から、ゴムフレニンIの人為的生産系の構築に成功しました。
さらに、タバコ培養細胞で生産したゴムフレニンIとベタニンを用いて、それぞれの熱安定性を評価しました。その結果、ゴムフレニンIは、ベタニンに比べて有意に高い熱安定性を示しました(図4)。そこで、両色素の分子構造シミュレーション*9 解析を行った結果、ゴムフレニンIではグルコース部分と色素骨格との間に、ベタニンには見られない分子内水素結合が形成される可能性が示されました(図4)。この分子内水素結合が、ゴムフレニンIの高い熱安定性に寄与していると考えられます。
本研究により、長年未解明であったゴムフレニン型ベタシアニンの生合成機構が明らかとなり、世界で初めてcDOPA6GT経路の存在が実証されました。本成果は、ベタレイン色素の生合成機構の理解に貢献するとともに、熱に強い天然色素の開発や利用技術の高度化、新たな機能性天然色素の創出につながることが期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)の支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業(ARIM)の支援を受けて実施されました。

図1 ゴムフレニン型およびベタニン型ベタシアニンの生合成経路
・本研究により、世界で初めてcDOPA6GT(黄色)の経路を実証した。

| 図2 ベンサミアナタバコを用いたアグロインフィルトレーション法による候補遺伝子の機能解析 (a,b)ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GTsの活性評価(c, d)センニチコウ由来のGgcDOPA6GTの活性評価 ・BacDOPA5/6GTsおよびGgcDOPA6GTがゴムフレニンIの合成に関与することが明らかとなった。 |

| 図3 タバコ培養細胞によるゴムフレニンIの人為的生産系の構築 (a,b)ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GTsを用いた生産系の構築(c,d)センニチコウ由来のGgcDOPA6GTを用いた生産系の構築 ・タバコ培養細胞を用いたゴムフレニンIの安定的な人為的生産系を構築することに成功した。 |

| 図4 ゴムフレニンIの熱安定性評価(a)熱処理前のゴムフレニンIおよびベタニン (b)熱処理後のゴムフレニンIおよびベタニン(c)熱処理後のゴムフレニンIおよびベタニンの残存率(%)(d, e)分子構造シミュレーションによるゴムフレニンIとベタニンの構造解析。黄矢印は分子内水素結合を示す。 ・ゴムフレニンIはベタニンに比べて熱安定性が高いことが示された。また、ゴムフレニンIでは、ベタニンには見られない分子内水素結合が形成される可能性が示された。 |
【用語の説明】
ナデシコ目植物に含まれる水溶性の植物色素。赤紫色のベタシアニンと黄色のベタキサンチンに大別される。
ベタレイン色素の一種で、赤色から赤紫色を示す色素群。ビートやツルムラサキ、センニチコウなどに含まれる。
熱帯アジア原産のつる性野菜。若葉や茎が食用として利用され、赤紫色のベタレイン色素を蓄積する。
熱帯アメリカ原産の観賞植物。色鮮やかな苞を長期間維持することから広く利用されている。ベタレイン色素を蓄積する代表的な花卉である。
ベタシアニンの一種。ベタニンと同じ分子式を持つが、グルコースの結合位置が異なる位置異性体。本研究の中心となった色素であり、ベタニンより高い熱安定性を示す。
次世代シークエンサーを用いて、細胞内で発現しているmRNAを網羅的に解析し、どの遺伝子が働いているかを調べる技術。
植物細胞に遺伝子を導入する性質を持つ土壌細菌であるアグロバクテリウムを利用して、植物葉内に目的遺伝子を一時的に導入し、その機能を評価する実験手法。
原子核スピンの共鳴現象を利用して、分子構造を高精度に解析する分析手法。化合物の構造決定に広く利用されている。
コンピューター上で分子の立体構造や分子内の相互作用を予測・解析する手法。本研究では、ゴムフレニンIとベタニンの構造を比較し、熱安定性の違いに関与する可能性のある分子内水素結合を解析した。
【発表論文】
| 論文タイトル | A cyclo-DOPA 6-O-glucosyltransferase-mediated route for gomphrenin I biosynthesis in Basella alba and Gomphrena globosa |
| 論文著者 | Tomohiro Imamura*,†, Ryouta Shigehisa†, Akio Miyazato, Nami Matsumura, Kaisei Miyaki, Tenta Segawa, Masahide Yoshizumi, Hiroki Takagi, Takumi Yamaguchi, Shinya Ohki, and Masashi Mori* (*:責任著者、†:共同筆頭著者) |
| 雑誌 | New Phytologist |
| DOI | 10.1111/nph.71340 |
| 掲載日 | 2026年6月7日 |
令和8年6月19日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2026/06/19-1.html物質化学フロンティア研究領域の松見紀佳教授がSpringer Nature「Editorial Contribution Award」を受賞
物質化学フロンティア研究領域の松見紀佳教授 が、Springer Natureが刊行する学術誌 『Polymer Bulletin』の編集長(Editor-in-Chief)としての貢献が高く評価され、Springer Nature Editor of Distinction Awards 2026の「Editorial Contribution Award」を受賞しました。
同賞は、投稿論文の綿密な評価および査読プロセスの厳格な管理を通じて、掲載論文の科学的正確性の維持に貢献した編集者に授与される賞です。
■受賞にあたって一言
Polymer Bulletin誌は日本の高分子化学の黎明期における意義深い背景を有したジャーナルです。故三枝武夫先生(京都大学名誉教授)は、立体特異性Ziegler-Natta重合の先駆けを目指してNatta(後にノーベル化学賞を受賞)と熾烈な研究競争を展開されていました。しかし、当時は京都からドイツへ船便で改訂稿を送付するために片道に一カ月以上を要する地理的事情のなか、僅かの差でNattaが本研究において先駆ける結果となりました。以降、三枝先生は、日本人がリーダーシップを発揮する欧州ジャーナルの創刊が急務とお考えになり、Polymer Bulletin誌を創刊し、自ら編集長となられました。三枝先生の在りし日のご講演で創刊のいきさつを拝聴し、フロンティア精神に深い感銘を覚えました。その後同ジャーナルは中條善樹先生(京都大学名誉教授)がEditor-in-Chiefを引き継がれ、三枝先生が灯された灯を守りつつ発展させてこられました。その後、中條先生のご退任を機に、同ジャーナルのCo-Editor-in-Chiefを拝命して現在に至っています。時代の移ろいと共にジャーナルの役割も変化しつつありますが、最新のインパクトファクターは4.2(2025)であり、今日もなお成長を続けているジャーナルです。今回の受賞を励みに、今後も創刊の精神を忘れず、日本の優秀な若手研究者の方々に選んでいただけるジャーナルであるよう微力を尽くしたいと考えています。
令和8年6月18日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2026/06/18-1.html学生の加藤さんがNEDOディープテック分野での人材発掘・起業家育成事業(NEP)開拓コースに採択
学生の加藤 裕介さん(博士後期課程3年、メディカルサイエンス研究領域、松村研究室)が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「2026年度ディープテック分野での人材発掘・起業家育成事業(NEP)/開拓コース」に採択されました。
NEP 開拓コースは、NEDOが実施する起業家候補人材の発掘・育成を目的とした支援プログラムです。 ディープテック分野の技術シーズを有する、またはその技術シーズを活用した事業アイデアを有する人材を対象に、事業化支援人材(Supervisor、カタライザー、Accompany-Runner)が伴走し、研究開発型スタートアップの創出に向けた育成を進めます。
■研究課題名
細胞製剤コールドチェーンを変革する凍結保護剤の開発
事業の詳細は、NEDOホームページをご覧ください。
https://nep.nedo.go.jp/kaitaku
令和8年6月17日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2026/06/17-1.html物質化学フロンティア研究領域の長尾教授の論文がChemElectroChem誌「Top Viewed Article 2025」に選出
物質化学フロンティア研究領域の長尾祐樹教授の論文が、Wiley社の学術誌ChemElectroChemにおいて「Top Viewed Article 2025※」に選出されました。
本論文は、プロトン伝導性高分子が燃料電池、水電解、二次電池、アクチュエーター、センサーなどの次世代エネルギーデバイスにおいて重要な役割を担うことを示し、その設計指針と応用可能性を体系的に整理したものです。
※2024年1月1日から12月31日までに『ChemElectroChem』に掲載された論文のうち、掲載後12か月時点での閲覧数に基づき選出
■論文情報
掲載誌:ChemElectroChem
タイトル:Proton-Conducting Polymers: Key to Next-Generation Fuel Cells, Electrolyzers, Batteries, Actuators, and Sensors
著者:Yuki Nagao
掲載年:2024年3月4日
DOI:10.1002/celc.202300846

令和8年5月20日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2026/05/20-1.html生命の「代謝」を真似た機能性ハイドロゲル材料を開発 ―自律運動や光エネルギー変換を実現する人工材料―
生命の「代謝」を真似た機能性ハイドロゲル材料を開発
―自律運動や光エネルギー変換を実現する人工材料―
ポイント
- 心拍や呼吸(異化)、光合成(同化)といった生体代謝を模倣した機能性の高分子ハイドロゲル材料「代謝模倣ハイドロゲル」開発に成功
- 高分子ゲルが、化学反応の単なる「入れ物」ではなく、化学反応と一体となって機能を生み出す能動的主体として働くことを初めて提示
- ソフトロボティクスや人工光合成によるエネルギー技術など応用に期待
| 北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域の桶葭興資准教授と、東京大学大学院工学系研究科の吉田亮教授の研究グループは、生体の「代謝」機能に着想を得て、化学反応回路と高分子ネットワークを統合した新しい機能性ハイドロゲル*1材料「代謝模倣ハイドロゲル」を開発しました。 生体は外界と物質・エネルギーを交換する「開放系」であり、体内では複数の化学反応が連携して進行することで生命活動が維持されています。こうした代謝は、エネルギーを取り出し心拍や呼吸のように自律的な運動を引き起こす「異化」と、光合成のように外部エネルギーを利用して物質を合成する「同化」に大別されます。本研究では、この2つの機能を高分子ハイドロゲルを用いて、人工材料として再現しました。 具体的には、外部刺激なしに周期的な膨潤・収縮を示す「自励振動*2ゲル」と、光エネルギーを化学エネルギーへ変換する「人工光合成*3ゲル」を開発しました。前者は、異化反応を模したもので、化学振動反応(BZ反応)を利用し、化学エネルギーを機械運動へと変換します。後者は、水分解に関わる反応系を高分子ネットワーク内に組み込むことで、光合成のような同化反応で見られる効率的な電子移動を実現しています。 本研究は、高分子ゲルを単なる反応の場ではなく、反応と一体化して機能を発現する材料として位置づけ、「化学反応回路×高分子ネットワーク」という新たな材料設計指針を提示するものです。今後は、自律して動く人工筋肉などのソフトロボティクスや、人工光合成によるエネルギー変換、さらには環境応答型スマート材料などへの応用が期待されます。 本成果は2026年5月5日、英国王立化学会の学術誌「Chemical Communications」に掲載されました。 |
【研究の背景】
生体は外界と隔絶された閉じた系ではなく、物質やエネルギーを外界と交換しながら機能する「開放系」です。このような開放系において、生体内では多数の化学反応が同時かつ協調的に進行し、それによって生命活動が維持されています。こうした一連の反応の体系は「代謝」と呼ばれます。
代謝機能は大きく二つに分類されます。第一に、物質を分解してエネルギーを取り出す異化反応(例:呼吸)、第二に、外部エネルギーを利用して物質を合成・蓄積する同化反応(例:光合成)です。例えば、異化反応ではTCA回路に代表される循環型の反応ネットワークによってエネルギーが生成され、心拍や呼吸といった周期的な生命現象が支えられています。一方、同化反応では、植物の葉緑体において光エネルギーが捕集され、カルビン・ベンソン回路を通じてブドウ糖などの高エネルギー物質へと変換されます。
これらの代謝機能は、単なる分子反応の集合ではなく、それらを取り囲む生体膜や高分子ネットワークといった「柔軟で動的な媒体(ソフトメディエーター)」と一体となって実現されています。
一方、材料科学においても刺激応答性を有する高分子ゲルが広く研究されてきましたが、化学反応回路と高分子ネットワークが一体となって機能を発現する材料設計は、これまで十分に検討されていませんでした。
【本研究の成果】
本研究では、生体の代謝機能に着想を得て、化学反応回路と高分子ネットワークを統合した新しい機能性ハイドロゲル材料を開発しました。具体的には、以下の2種類の材料を実現しています。
① 自励振動ゲル(異化反応の模倣)
本材料は、生体の異化反応に対応し、外部刺激なしに周期的な膨潤・収縮を繰り返す自律振動挙動を示します。これは、BZ(Belousov-Zhabotinsky)反応と呼ばれる化学振動反応を高分子ゲル内部に組み込み、化学エネルギーを力学的運動へと変換することで実現されました。
② 人工光合成ゲル(同化反応の模倣)
本材料は、生体の同化反応に対応し、光エネルギーを化学エネルギーへ変換する機能を有します。水分解反応に関わる複数の機能分子や触媒を高分子ネットワーク内に組み込むことで、電子移動を効率的に促進し、光合成に類似したエネルギー変換を実現しました。
これらの材料は、生体の代謝機能を「反応回路 × 柔軟媒体」という観点から再構成し、人工材料として実装したものです。
【社会的意義・今後の展開】
本研究の意義は、従来の材料設計の枠組みを拡張し、「化学反応回路 × 高分子ネットワーク」を一体化するという新しい設計指針を提示した点にあります。
高分子ゲルは単なる反応の場ではなく、反応と一体化して機能を発現する材料であり、その構造変化(相転移など)を通じて、化学反応や電子移動を能動的に制御・加速できることが示されました。また、分子レベルからマクロスケールに至る階層的な設計が可能であり、複数の機能が相互作用する「創発的機能」を持つ材料としての可能性が示されています。
こうした特性を踏まえ、本研究で開発された「代謝模倣ハイドロゲル」は、以下のような展開が期待されます。
(1)自律駆動型ソフトロボティクス
自励振動ゲルは外部電源なしで動作する人工筋肉やソフトアクチュエータとして利用可能であり、柔軟なロボットへの応用が期待されます
(2)人工光合成によるエネルギー・環境技術
人工光合成ゲルは、水素生成などのエネルギー変換に応用可能であり、カーボンニュートラル技術への貢献が見込まれます。
(3)環境応答型スマート材料
環境に応じて機能を変えるスマート材料として、高機能センサーへの展開が期待されます。
本研究は、材料を受動的な存在から、エネルギー変換・運動・応答を内包した動的システムへと拡張するものであり、次世代材料科学の基盤となる可能性を有します。
今後は、精密重合や自己組織化と組み合わせることで、より高度な機能材料の創製が期待されます。さらに、精密重合や自己組織化技術と組み合わせることで、より高度で進化的な機能を持つ材料の創製が期待されます。また、生体の代謝機能の理解にも新たな視点を提供するものです。

図 「代謝機能」をまねたハイドロゲル材料
【論文情報】
| 掲載誌 | Chemical Communications (The Royal Society of Chemistry) |
| 論文タイトル | Design of metabolism inspired hydrogels driven by emergence of function |
| 著者 | Kosuke Okeyoshi, Ryo Yoshida |
| DOI | 10.1039/d5cc06562c |
| 掲載日 | 2026年5月5日付、オンライン版(オープンアクセス) |
【関連情報】
高分子ネットワークで人工光合成(2024.11.6 プレスリリース)
https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2024/11/06-1.html
精密な高分子設計による能動的電子輸送が終始可能に
-高分子が触手のように電子を授受-(2023.12.14 プレスリリース)
https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/12/14-1.html
高分子の"伸び縮み"で「人工光合成」を加速する!
-電子伝達を制御する高分子の相転移(2019.6.12 Academist Journal)
https://academist-cf.com/journal/?p=11128
高分子の相転移を利用した人工光合成に成功
-可視光エネルギーによる高効率な水素生成を達成-(2019.5.15 プレスリリース)
https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2019/05/15-1.html
【用語解説】
水を含んで膨潤した三次元網目構造の総称。天然または合成ポリマーの三次元ネットワークであり、大量の水または生体液を吸収する。特に、高分子ゲルの構造や機能は多種多様で、天然のハイドロゲルの身近な例として、コンニャク、寒天、ゼラチンなどがある。合成のハイドロゲルでは、その高分子主鎖だけでなく多様な架橋構造が開拓されている。
その系自体の特性により系内部で非振動入力が振動に変換されて引き起こされる振動現象のこと。例えば、生体のTCA回路を模したベロウソフ・ジャボチンスキー反応(BZ反応)と呼ばれる化学振動反応系がある。
光合成を人為的に行う技術のこと。自然界での光合成は、水・二酸化炭素と、太陽光などの光エネルギーから化学エネルギーとして炭水化物などを合成するものであるが、広義の人工光合成には太陽電池を含むことがある。自然界での光合成を完全に模倣することは実現していないが、部分的には技術が確立している。可視光エネルギーによる水の分解もその代表例である。
令和8年5月12日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2026/05/12-1.html






