研究活動の検索
研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。学生の井上さんがANTEC® 2025においてBest of ANTEC® 2025に選出
学生の井上貴博さん(博士後期課程3年、物質化学フロンティア研究領域、山口政之研究室)がAnnual Technical Conference(ANTEC® 2025)においてBest of ANTEC® 2025に選出されました。
ANTEC® 2025は、米国プラスチック技術者協会(SPE:Society of Plastics Engineers) が主催し、令和7年3月3日~6日にかけて、米国フィラデルフィアにて開催された国際会議です。
ANTEC® 2025では、プラスチックおよび高分子科学に関する産業界、研究機関、学術機関、そして国際的な研究における最先端の成果が紹介され、新たなプラスチック技術、プロセス、高分子研究、新素材など幅広いテーマが取り上げられる中、今年は特に科学的・技術的・産業的な課題とその解決策に焦点が当てられました。
SPEは、ANTEC® 2025において、特に影響力の大きかった発表を厳選し、「Best of ANTEC® 2025」としてオンデマンドで限定配信しています。このコレクションは、令和7年12月31日までいつでも視聴が可能です。
また、「Best of ANTEC®」に選出された発表者には、"Outstanding Presentation"(優秀発表)の認定証が授与されます。
※参考:ANTEC® 2025
■受賞年月日
令和7年7月15日
■研究題目、論文タイトル等
Enhancement of Polypropylene Crystallization by Addition of Novel Nucleating Agent
■研究者、著者
井上貴博、山口政之
■受賞対象となった研究の内容
新しく開発されたポリプロピレン用結晶核剤の性能を調べ、結晶化温度など核剤性能を評価する指標が既存の材料よりも優れていることを明らかにした。
■受賞にあたって一言
この度は、ANTEC® 2025におきまして、Best of ANTEC®という賞を頂けたことを大変光栄に思います。本研究を遂行するにあたり、日頃よりご指導ご鞭撻いただいている山口政之教授に心より御礼申し上げます。引き続き、研究活動に努めてまいりたいと思います。
令和7年9月1日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/09/09-1.htmlサイエンスヒルズこまつで子ども向け科学教室 「JAISTサイエンス&テクノロジー教室」を開催

8月23日(土)、サイエンスヒルズこまつにおいて、「JAISTサイエンス&テクノロジー教室」を開催しました。同教室は、小松市との包括連携協定に基づく青少年の理科離れ解消に向けた取組のひとつであり、サイエンスヒルズこまつが小松駅前に開館して以来、毎年実施しているものです。
今年度の第1回目「スーパーボールの弾み方を変えてみよう<不思議な変形・流れを示す材料の観察>」には、6組の小学生と保護者が参加しました。先端科学技術研究科(物質化学フロンティア研究領域)の山口政之教授の説明を聞きながら、温度や材質によるスーパーボールの弾み方の違いを体験しました。その後、形状記憶プラスチック等が配られ、子どもたちは温度によって異なる応答を示す物質の不思議な様子に夢中になっていました。




令和7年8月26日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/26-2.html能美市の中学生の皆さんが来学
8月21日(木)、能美市の中学2年生20名の皆さんが施設見学のため来学しました。
中学生の皆さんは、本学と学術協力の基本協定を締結している沖縄科学技術大学院大学(OIST)を9月に訪問する予定で、その前に地元にある本学(JAIST)を知るため、見学に来られました。
はじめに学長から挨拶があり、附属図書館の『解体新書』(杉田玄白著)や情報社会基盤研究センターの超並列計算機システム「KAGAYAKI」、ナノマテリアルテクノロジーセンターを見学しました。その後、サスティナブルイノベーション研究領域の小矢野 幹夫教授による研究紹介があり、熱電ミニカーの走行体験をしました。中学生の皆さんにとっては、本学の研究環境に触れるよい機会となったようです。

学長挨拶

附属図書室の見学

大規模並列計算機
KAGAYAKIの見学

ナノマテリアルテクノロジー
センターの見学

小矢野研究室による
熱電ミニカーの走行体験
令和7年8月26日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/26-1.html人と安全に協働できる"ソフトロボットリンク"を開発 触れてわかる、近づいて感じる-近接覚と触覚のハイブリッドセンシング技術「ProTac」

人と安全に協働できる"ソフトロボットリンク"を開発
触れてわかる、近づいて感じる-近接覚と触覚のハイブリッドセンシング技術「ProTac」
【ポイント】
- 透明・不透明を切り替えられるソフトスキンと視覚センサーを用い、近接センシングとスキン変形の解析による触覚センシングを備えたマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」を開発
- 市販ロボットアームにも取り付け可能
- 従来の剛体リンクでは困難とされる、接触の多い環境下での動作制御が可能
- 農業や介護など、人とロボットが協働する作業への応用に期待
- AI駆動型センシングフュージョン技術
北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアル・デバイス研究領域のクアン・ハン・ルウ研究員、ホ・アン・ヴァン教授らの研究チームは、透明・不透明を電圧により切り替えられるソフト素材と視覚センシング技術を融合し、近接・触覚の両モードを切り替えて検知できるマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」を世界で初めて開発しました。ProTacを用いたソフトロボットリンクは、周囲の物体を検知する近接センシングとマーカー画像の変化から触覚情報を読み取る触覚センシングを一台で切り替えて行うことができ、人との接触が多い環境で安全に動作制御が可能です。なお、本研究成果は、2025年7月28日にIEEE Transactions on Robotics(T-RO)に掲載されました。 |
【研究概要】
近年、人と同じ空間で安全かつ柔軟に作業できるロボットのニーズが高まっています。これに応えるため、私たちの研究チームは、ソフト機能材料と画像や映像から情報を取得・解析する技術である視覚センシング技術を融合した新しいマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」(図1)を開発しました。
ProTacは、電圧をかけることで透明・不透明を切り替えられるポリマーディスパースド液晶(PDLC)フィルム注1)と内蔵カメラを組み合わせています。透明時には視界を活用して周囲の物体の近接を検知し、不透明時にはマーカー画像の変化から触覚情報の取得を実現します。また、最新の深層学習ベースの視覚アルゴリズムを用いることで、安定したリアルタイムセンシングが可能です。
図1:ProTacのイメージ図
この技術を用いたソフトロボットリンクは、市販のロボットアームやカスタム製作されたソフトロボットにも取り付け可能で、障害物検知に基づく速度調整や接触時の反射動作など、多様な制御戦略を実現します。ProTacを備えたソフト多機能センシングアームは、人とロボットが密に連携する場面や、従来の剛体リンクでは困難な動作制御において高い性能を示しました。
今後は、この技術を手足や胴体などロボットの各部位に応用し、高機能なマルチモーダルスキンを備えたヒューマノイドロボットの実現が期待されます。また、農業、家庭サービス、介護分野など、幅広い分野での応用も見込まれます。
【研究資金】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 特別研究員奨励費(24KJ1203)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)さきがけ(JPMJPR2038)による財政的支援を受けて実施されました。
【論文情報】
掲載誌 | IEEE Transactions on Robotics |
論文タイトル | Vision-based Proximity and Tactile Sensing for Robot Arms: Design, Perception, and Control |
著者 | Quan Khanh Luu, Dinh Quang Nguyen, Nhan Huu Nguyen, Nam Phuong Dam, Van Anh Ho |
掲載日 | 2025年7月28日 |
DOI | 10.1109/TRO.2025.3593087 |
【用語説明】
電圧により透明・不透明を切り替えられる液晶材料。柔軟であり、ディスプレイやスマートウィンドウなどの光の透過を制御する用途に使用される。
令和7年8月22日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/22-1.html本学教員がEurekAlert! Feature Storyに掲載されました
AAAS(アメリカ科学振興協会)が運営する世界最大規模のオンラインニュースサービス「EurekAlert!」ウェブサイト内の「Feature Story」に、上原教授、岡田教授、栗澤教授および谷池教授が紹介されました。この「Feature Story」は、世界中の大学や研究機関の研究成果について、研究の背景や意義、研究者の視点や社会への影響などを深堀して、わかりやすくまとめた内容となっています。
それぞれの記事は、以下からご覧ください。
- 上原隆平教授(コンピューティング科学研究領域)
"Unfolding patterns: The computer science behind origami, puzzles, and games"
折り紙・パズル・ゲームに潜む計算複雑性を理論コンピューターサイエンスの視点から解析。最適な折り手順を導くアルゴリズムの開発が、太陽電池の設計やドラッグベクター(薬物輸送体)などへの応用にも期待されています。
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093788
- 岡田将吾教授(人間情報学研究領域)
"Bridging the emotional gap in human-AI communication"
視線・身振り・声の抑揚などのマルチモーダル情報から感情を認識し、より人間に寄り添うAIの実現を目指すアフェクティブ・コンピューティング(※)研究。教育や精神医療への応用にも期待が広がります。
※Affective Computing:人間の感情や情動を計算論的に理解・指定・活用する学際的研究領域
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093782
- 栗澤元一教授(物質化学フロンティア研究領域)
"Toward multitasking drug carriers that do more than just deliver"
緑茶成分「EGCG」を活用し、ドラッグキャリアそのものに治療効果を持たせたナノ粒子を開発。高い薬物搭載率と長寿命を両立し、がんや白血病の治療効果向上に貢献する革新的DDS(Drug Delivery System:薬物送達システム)が注目されています。
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093781
- 谷池俊明教授(物質化学フロンティア研究領域)
"Accelerating materials design with high-throughput experiments and data science"
機械学習とハイスループット実験(※)を組み合わせ、材料探索を飛躍的に加速。未知の反応や触媒の発見が可能となり、資源循環・化学プロセスの革新、持続可能な社会づくりに貢献する研究基盤を構築しています。
※ハイスループット実験:多数のサンプルや条件を同時に、または短時間で処理する実験手法
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093790
令和7年8月19日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/19-1.html都教授らの研究成果に関する記者発表を文部科学省で実施

8月4日(月)、物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授は、「2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ『AUN(阿吽)』を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて」の研究成果について、文部科学省記者会見室にて記者発表を行いました。
本研究では、T細胞やB細胞などの免疫細胞の力に頼らずがんを制御する新しい治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発しました。このアプローチは、免疫不全状態にあるがん患者への新たな選択肢となる可能性があり、今後のさらなる研究と検証が期待されます。
記者発表では、都教授から研究・技術の背景や内容、今後の計画について説明がなされ、その後、記者との活発な質疑応答が行われました。
参加した記者からは、2種の細菌「AUN(阿吽)」によるがん治療のメカニズムや具体的な適用癌種、投与方法、副作用の管理、さらにはスタートアップ事業化に向けた今後の展望など、多岐にわたる質問が寄せられ、本研究への期待と関心の高さがうかがえました。
なお、本研究に関する論評がAdvanced Science誌に掲載されているほか、研究の背景やエピソードなどを紹介した記事がSpringer Nature Research Communities の「Behind the Paper」にて公開されています。ぜひご一読ください。
プレスリリース:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
記者発表の様子
令和7年8月7日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/07-3.html物質化学フロンティア研究領域の都教授らの論文がSpringer Nature Research CommunitiesのBehind the Paperで紹介
物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの最新の論文「2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ『AUN(阿吽)』を開発―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―」が、Springer Nature Research CommunitiesのBehind the Paperにて紹介されました。研究開発の発端、裏話などが紹介されています。なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(JPMJTR22U1)、同 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING) 未来創造イノベーション研究者支援プログラム(JPMJSP2102)、公益財団法人 発酵研究所、公益財団法人 上原記念生命科学財団、本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターならびに第一三共株式会社の支援のもと行われたものです。
■論文概要
本研究では、2種類の細菌がまるで"阿吽の呼吸"のように精緻に連携しながら、がん細胞を選択的に攻撃するという新たな治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」の開発に成功しました。
研究チームが用いたのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris[吽形(UN-gyo)]です。この互いに異なる機能を持つ2種の細菌が、それぞれの役割を果たしながら、以下の一連のプロセスを協調的に引き起こし、抗腫瘍効果を示すことが確認されました。まず、がん特有の環境に誘導されて、両細菌はマウス皮下腫瘍モデルにおいて腫瘍の血管やがん細胞を選択的に破壊。これにより、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がん組織だけを効果的に抑制する可能性が示唆されました。さらに、がんが産生する特異的な代謝物の存在下で、片方の細菌(A-gyo)は線維状の構造へと変化。この形態変化により抗腫瘍効果が一段と強化されることが判明しました。興味深いのは、経時的に両細菌の集団構成(ポピュレーション)も動的に変化し、最適な役割分担が自然に形成される点です。加えて、病原性を抑制しながら、重篤な副作用の原因となるサイトカインストームの発生も回避できる可能性があるという点も特徴です。
本研究は、2種の細菌の持つ自然な"協調戦略"を巧みに活用することで、安全かつ効果的ながん治療の新たな道を拓くものです。今後、このメカニズムを応用した新しいがん治療法の社会実装に向けて、スタートアップ創業を計画しています。
プレスリリース詳細:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
令和7年8月7日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/07-2.html物質化学フロンティア研究領域の都教授の論評がAdvanced Scienceに掲載
物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの「阿吽の呼吸で癌を倒す! -灯台下暗し:最強の薬は腫瘍の中に隠されていた-」と「2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ『AUN(阿吽)』を開発―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―」に係る論評(Commentary)が、バイオ・化学系のトップジャーナルAdvanced Science誌に掲載されました。なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、科学技術振興機構 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)の支援のもと行われたものです。
掲載誌 :Advanced Science
論文題目:Reply to "Exploring Bacteria-Based Cancer Immunotherapy"-- Comment on "Discovery of Intratumoral Oncolytic Bacteria Toward Targeted Anticancer Theranostics"
著者 :Eijiro Miyako*
掲載日 :2025年7月14日(オンライン版)
DOI :https://doi.org/10.1002/advs.202511325
■概要
本研究では、2種類の細菌がまるで"阿吽の呼吸"のように精緻に連携しながら、がん細胞を選択的に攻撃するという新たな治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」の開発に成功しました。
研究チームが用いたのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris[吽形(UN-gyo)]です。この互いに異なる機能を持つ2種の細菌が、それぞれの役割を果たしながら、以下の一連のプロセスを協調的に引き起こし、抗腫瘍効果を示すことが確認されました。まず、がん特有の環境に誘導されて、両細菌はマウス皮下腫瘍モデルにおいて腫瘍の血管やがん細胞を選択的に破壊。これにより、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がん組織だけを効果的に抑制する可能性が示唆されました。さらに、がんが産生する特異的な代謝物の存在下で、片方の細菌(A-gyo)は線維状の構造へと変化。この形態変化により抗腫瘍効果が一段と強化されることが判明しました。興味深いのは、経時的に両細菌の集団構成(ポピュレーション)も動的に変化し、最適な役割分担が自然に形成される点です。加えて、病原性を抑制しながら、重篤な副作用の原因となるサイトカインストームの発生も回避できる可能性があるという点も特徴です。
本研究は、2種の細菌の持つ自然な"協調戦略"を巧みに活用することで、安全かつ効果的ながん治療の新たな道を拓くものです。今後、このメカニズムを応用した新しいがん治療法の社会実装に向けて、スタートアップ創業を計画しています。
プレスリリース:阿吽の呼吸で癌を倒す! -灯台下暗し:最強の薬は腫瘍の中に隠されていた-
プレスリリース:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
令和7年8月7日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/07-1.html2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―

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北陸先端科学技術大学院大学 筑波大学 科学技術振興機構(JST) |
2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発
―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
【ポイント】
- T細胞やB細胞などの主要な免疫細胞に依存せずにがん細胞を攻撃する、新しいがん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発
- 免疫機能が低下した状態でも抗腫瘍効果が期待される
- 社会実装に向け、スタートアップ創業を視野に研究を推進中
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授の研究グループは、第一三共株式会社(代表取締役社長兼CEO・奥澤宏幸、東京都中央区)ならびに筑波大学(学長・永田恭介、茨城県つくば市)生命環境系の高谷 直樹教授らとの共同研究によって、2種類の細菌がまるで"阿吽の呼吸"のように精緻に連携しながら、がん細胞を選択的に攻撃するという新たな治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」の開発に成功しました。 研究チームが用いたのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis*1[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris*2[吽形(UN-gyo)]です(図1)。この互いに異なる機能を持つ2種の細菌が、それぞれの役割を果たしながら、以下の一連のプロセスを協調的に引き起こし、抗腫瘍効果を示すことが確認されました(図2にメカニズムの一部を提示)。まず、がん特有の環境に誘導されて、両細菌はマウス皮下腫瘍モデルにおいて腫瘍の血管やがん細胞を選択的に破壊。これにより、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がん組織だけを効果的に抑制する可能性が示唆されました。さらに、がんが産生する特異的な代謝物の存在下で、片方の細菌(A-gyo)は線維状の構造へと変化。この形態変化により抗腫瘍効果が一段と強化されることが判明しました。興味深いのは、経時的に両細菌の集団構成(ポピュレーション)も動的に変化し、最適な役割分担が自然に形成される点です。加えて、病原性を抑制しながら、重篤な副作用の原因となるサイトカインストーム*3の発生も回避できる可能性があるという点も特徴です。 本研究は、2種の細菌の持つ自然な"協調戦略"を巧みに活用することで、安全かつ効果的ながん治療の新たな道を拓くものです。今後、このメカニズムを応用した新しいがん治療法の社会実装に向けて、スタートアップ創業を計画しています。 本成果は、2025年8月5日にSpringer Nature社の発行するNature Biomedical Engineering誌のオンライン版に掲載されました。 |
【研究の背景と内容】
がん免疫療法は、1868年にドイツの医師Buschが細菌感染を意図的に引き起こしたがん患者の治癒例を報告したことに端を発し、1893年にはWilliam Coley博士が「細菌を用いたがん治療法」を提唱して以来、150年以上にわたり発展を続けています。Coley博士は「がん免疫療法の父」と称され、彼の遺志は現代の免疫チェックポイント阻害剤やCAR-T細胞治療へと受け継がれています。
しかしこれまで、細菌療法を含むがん免疫療法は「免疫細胞の力」が不可欠とされてきました。また、化学療法や放射線治療などの標準治療を受けたがん患者の多くが免疫不全状態にあり、このような状況では、免疫細胞の力が抑えられるため、効果が著しく制限されてきました。
本研究では、T細胞やB細胞などの主要な免疫細胞に頼ることなくがんを攻撃する、世界でも類を見ない新しい治療へのアプローチを明らかにしました。登場するのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris[吽形(UN-gyo)]です。この2種が"阿吽の呼吸"で共存することで、各種ヒトがん細胞を皮下移植した担がんモデルマウスに対して明確な腫瘍抑制効果を発揮しました(図3)。
そのメカニズムは極めてユニークで、まさに"阿吽の呼吸"のように2つの細菌が協調し、以下のような一連の現象を連携して引き起こします(図2にメカニズムの一部を提示)。
- 腫瘍血管とがん細胞の選択的破壊
- がん代謝物による阿形(A-gyo)の構造変化(線維状化)による抗腫瘍強化
- 細菌間の構成比率の変化による機能最適化(ポピュレーションシフト)
- 病原性の抑制と副作用の回避(サイトカインストームの軽減)
さらに、吽形(UN-gyo)は、阿形(A-gyo)と共存・混在することによって、両者の病原性を抑制しながら、がん細胞に対する特異的な毒性を高める"制御役"として機能する可能性があります。この2種の細菌が示す絶妙なバランスと相互作用こそが、腫瘍抑制効果の鍵となっている可能性があります。
【社会的インパクト】
この治療へのアプローチは、免疫不全状態にあるがん患者への新たな選択肢となる可能性があり、今後のさらなる研究と検証が期待されます。実際に、本研究では免疫細胞が機能しにくいマウスモデルやヒトがんモデルにおいても、細菌が自律的にがん細胞および腫瘍血管を標的として作用する様子が確認されました。このようなT細胞やB細胞といった"免疫細胞に依存しない"方法は、従来のがん免疫療法とは異なるアプローチとして注目されています。
また、本成果の社会実装を見据え、がん細菌療法の実用化に向けたスタートアップの創業準備も進行中です。150年以上前から構想されてきたがん細菌療法の概念に、新たな技術的進展を加えることで、その応用可能性を慎重かつ段階的に検討していく段階に入っています。
【論文掲載情報など】
本成果は、2025年8月5日に医学・薬学系ジャーナルのNature Biomedical Engineering誌のオンライン版に掲載されました。なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(JPMJTR22U1)、同 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING) 未来創造イノベーション研究者支援プログラム(JPMJSP2102)、公益財団法人 発酵研究所、公益財団法人 上原記念生命科学財団、本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターならびに第一三共株式会社の支援のもと行われました。
【論文情報】
掲載誌 | Nature Biomedical Engineering |
論文題目 | Tumour-resident oncolytic bacteria trigger potent anticancer effects through selective intratumoural thrombosis and necrosis |
著者 | Seigo Iwata1, Taisei Nishiyama1, Matomo Sakari1, Yuki Doi2, Naoki Takaya2, Yusuke Ogitani3, Hiroshi Nagano3, Keisuke Fukuchi3, Eijiro Miyako1* 1 北陸先端科学技術大学院大学 2 筑波大学 3 第一三共株式会社 |
掲載日 | 2025年8月5日にオンライン版に掲載 |
DOI | 10.1038/s41551-025-01459-9 |
【用語説明】
酸素の存在下および不在下の両方の環境で生存可能な腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌(通性嫌気性菌)。運動性、鞭毛を有する数マイクロメートルの棒状の形態を有する。寒天培地上では、Swarming(群化)により独特の波状のコロニー(白色)を形成する特性がある。
酸素の有無に関わらず生存可能な通性嫌気性の紅色非硫黄細菌に属し、運動性のある数マイクロメートルの棒状のグラム陰性桿菌。また、バクテリオクロロフィルから成る光捕集タンパク質を介した光合成を行う。
サイトカインストームとは、体がウイルスや細菌などに反応して免疫物質(サイトカイン)を大量に放出しすぎることで起こる、過剰な免疫反応のこと。この反応が強すぎると、自分自身の体の組織を傷つけてしまい、重い症状や臓器不全を引き起こすことがある。
令和7年8月6日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/06-1.html糖鎖による抗体ダイナミクスの制御機構を解明 ~分子経絡が抗体医薬設計の新たな鍵に~

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大学共同利用機関法人 国立大学法人 東京科学大学 公立大学法人 名古屋市立大学 ⼀般財団法人 国立大学法人 大阪大学 国立大学法人 |
糖鎖による抗体ダイナミクスの制御機構を解明
~分子経絡が抗体医薬設計の新たな鍵に~
自然科学研究機構(生命創成探究センター)の谷中冴子 准教授(現 東京科学大学 准教授)、加藤晃⼀ 教授(生命創成探究センター、名古屋市立大学)らは、抗体の糖鎖修飾、特にガラクトース付加が、抗体分子の構造と動態に及ぼす影響を原子レベルで解明しました。
本研究の成果は、国際科学雑誌 「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)」に掲載予定です。論文は日本時間2025年8月5日の週にオンライン公開される予定であり、DOIおよび掲載URLは公開後に付与されます。
【発表のポイント】
私たちの体には、病原体から身を守るための免疫システムが備わっています。その中心的な役割を担うのが「免疫グロブリンG(IgG)」注1) と呼ばれる抗体です。IgGは、特定の抗原を認識して結合するだけでなく、Fc受容体や補体といったエフェクター分子との相互作用を通じて、様々な免疫応答を誘導します。本研究では、IgGのFc領域 注2) に結合した「糖鎖」の修飾が、IgGの動的な構造変化を制御し、その結果として免疫機能が調節されるメカニズムを、計算科学と実験科学を融合したアプローチで明らかにしました。特に、本研究では、糖鎖修飾による影響が、あたかも私達の体の中に張り巡らされた経絡のように、分子レベルで伝播していく「分子経絡」注3) の重要性に着目しました。
【研究の背景】
治療用抗体は、がんや自⼰免疫疾患など、さまざまな疾患の治療に用いられています。抗体の効果は、標的抗原への結合だけでなく、Fc領域を介したエフェクター機能 注4) の発揮によっても大きく左右されます。Fc領域の糖鎖修飾 注5) は、抗体のエフェクター機能を調節する重要な因子であり、そのメカニズム解明は、より効果的な抗体医薬品の開発につながると考えられています。
【本研究の手法と成果】
研究グループは、遺伝子工学的手法と酵素反応を組み合わせることで、糖鎖構造が異なるIgG1-Fcを調製しました。これらについて、安定同位体標識NMR分光法 注6) を用いてFc領域の動的構造を解析するとともに、分子動力学シミュレーション 注7) によって糖鎖修飾がFc領域のコンフォメーション変化に与える影響を評価しました。また、動的ネットワーク解析を用いて、「分子経絡」を同定しました。NMR分光法と分子動力学シミュレーションの結果から、ガラクトース 注8) 残基は糖鎖の動きを止める「錨」およびFc領域全体の動きを抑える「楔」としてはたらき、フコース 注9) 除去は特定のFc受容体との結合に関与するアミノ酸残基の動態を変化させることが明らかになりました。これらの結果は、糖鎖修飾がIgGのFc領域の動的構造を制御し、エフェクター機能を調節するメカニズムを原子レベルで理解する上で重要な知見となります。特に、「分子経絡」の存在は、糖鎖修飾の効果がFc領域全体に伝播する様子を示唆しています。
(図)(A)糖鎖のガラクトース残基での構造変化がFc分子内を伝わる様子を示している。(B)ガラクトース残基は糖鎖(黄色の丸)の動きを止める「錨」およびFc領域全体の動きを抑える「楔」としてはたらき、エフェクター分子との相互作用を助けている。 |
【成果の意義および今後の展開】
本研究成果は、治療用抗体の開発において、Fc領域の糖鎖修飾を最適化するための合理的な設計基盤を提供します。今後は、糖鎖修飾と抗体の構造・機能相関に関するさらなる研究を進めることで、また「分子経絡」の操作という新たな視点を取り入れることで、より効果的かつ安全な抗体医薬品の開発に貢献できると期待されます。
【用語解説】
【論文情報】
掲載誌 | Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America |
タイトル | Exploring Glycoform-Dependent Dynamic Modulations in Human Immunoglobulin G via Computational and Experimental Approaches |
著者 | Saeko Yanaka, Yoshitake Sakae, Yohei Miyanoiri, Takumi Yamaguchi, Yukiko Isono, Sachiko Kondo, Miyuki Iwasaki, Masayoshi Onitsuka, Hirokazu Yagi, Koichi Kato*(*責任著者) |
DOI | |
掲載日 |
【著者情報】
東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所)
名古屋市立大学大学院薬学研究科)
【研究サポート】
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP20K15981 および JP23K24018 谷中冴子、JP19H01017 および JP24H00599 加藤晃⼀)、日本医療研究開発機構(AMED)(JP21ae0121020 および JP23ak0101209 谷中冴子、JP21ae0121013 加藤晃⼀)、文部科学省研究大学総合研究育成事業:研 究大学強化促進事業(CURE)課題番号JPMXP1323015488(Spin-LプログラムNo. spin24XN014)、生命創成探究センター共同利用研究(24EXC901、25EXC603)、および科学技術振興機構(JST)戦略的 創造研究推進事業(CREST)(JPMJCR21E3 加藤晃⼀)の助成を受けたものです。また、本研究は文部 科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(分子・物質合成)、大阪大学蛋白質研究所共同利用・共 同研究拠点 NMRCR-16-05, 17-05, 18-05, 19-05, 20-05, 21-05、計算科学研究センター(24-IMS-C197)、文部科学省先端研究設備共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)JPMXS0441500024、国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出(DEJI2MA)プロジェクト、およびヒューマングライコームプロジェクトの支援を受けて行われました。
令和7年8月5日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/05-1.htmlIIP(アイ・アイ・ピー)金沢示野校の生徒の皆さんが来学
7月30日(水)、IIP(金沢示野校)のロボット教室およびこどもプログラミング教室に通う生徒の皆さんと保護者の方々が、施設見学のため本学を訪れました。
当日はキャンパス内のさまざまな施設を巡り、研究や学びの現場を間近にご覧いただきました。なかでも、ロボット工学に関心のある生徒に実際の研究現場を見学させたいとのご要望を受け実施した、人間情報学研究領域の池勇勳准教授の研究室訪問では、池准教授や学生による無人移動ロボットの実演などが行われ、実際にロボットが目の前で動く様子を見ながら、研究の説明に熱心に耳を傾ける姿が印象的でした。
また、情報社会基盤研究センターに設置されている大規模並列計算機「KAGAYAKI」や貴重図書室に所蔵されている『解体新書』(杉田玄白著)、パズル展示施設「JAISTギャラリー」も見学しました。ギャラリーに併設されたプレイルームでは、生徒たちが展示されているパズルに実際に触れ、夢中になって楽しむ様子も見られました。
今回の訪問が、生徒の皆さんにとって今後の進路選択や学びへの関心を深めるきっかけとなるとともに、保護者の方々にとっても、本学の教育・研究活動への理解を深めていただく機会となれば幸いです。






令和7年8月4日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/04-3.html次世代プロトン電池へ期待 ―多孔質MXene(マキシン)フィルムが高容量・高速充電を実現―

次世代プロトン電池へ期待
―多孔質MXene(マキシン)フィルムが高容量・高速充電を実現―
ポイント
- 次世代電池「プロトン電池」の鍵となる多孔質MXene (マキシン)フィルムを開発
- 素材の穴の量(細孔密度)を調整することで、従来を大きく上回る電池容量と充電性能を実現
- 長寿命でエコな電池づくりに前進、持続可能なエネルギー社会に貢献
北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域のLinh Chi T. Cao大学院生(博士後期課程)、青木健太郎助教、長尾祐樹教授らは、タイ・タマサート大学シリントン国際工学部(SIIT)およびタイ・国立電子コンピューター技術研究センター (NECTEC)と共同で、再生可能エネルギーの普及や電気自動車の進化に伴い需要が高まる高性能エネルギー貯蔵デバイスの実現に向け、次世代型プロトン電池*1の鍵となる多孔質MXene*2,3アノード(陽極)の開発に成功しました。 本研究で開発された多孔質MXeneフィルムは、MXeneを用いた先行研究の中で最高の性能を発揮し、高容量と超高速充電を両立できることが示されました。この成果は、環境負荷の低い、持続可能な電池技術の発展に大きく貢献すると期待されます。 |
【背景】
現代社会では、電気自動車の普及や携帯端末の進化に伴い、効率の良いエネルギー貯蔵システムの重要性が高まっています。長く市場を牽引してきたリチウムイオン電池は、リチウム資源の限界、環境への影響、安全性といった課題を抱えており、資源の乏しい日本が持続可能な発展を遂げるためには、多様なエネルギー資源の活用と高効率な変換技術の確立が不可欠です。
そこで注目されているのが、プロトンと呼ばれる水素原子(H+)を電荷キャリアとして利用するプロトン電池(図1)です。プロトン電池は、水素イオンを使って電気をやりとりする電池で、材料が豊富でエコ、かつ素早く充電できる可能性を秘めており、次世代エネルギー貯蔵の有力候補として注目されています。二次元のナノ材料であるMXeneは、その優れた電気伝導性や高い表面積から、プロトン電池の有望なアノード候補です。しかし、従来のMXeneを薄膜状にしたMXeneフィルムは、MXeneのシート間の相互作用が強く、反応が起こる場所が減少したり、プロトンの輸送が阻害されたりといった課題を抱え、その性能を十分に引き出せていませんでした。
図1 本研究のプロトン電池の模式図
【成果】
本研究では、MXeneアノードの性能向上を目指し、ある物質を鋳型(テンプレート)として利用してその鋳型を犠牲にすることで目的とする物質構造を形成する合成手法である「犠牲テンプレート法」を用いて、細孔密度を系統的に調整した多孔質MXene(P-MX)フィルムを開発しました(図2)。特に、ポリ乳酸(PLA)とMXeneの比率が1:8の条件で合成された「1:8P-MX」アノードは、1 A g−1で104.8 mAh g−1という高容量を達成し、2000サイクル後も96.7%の容量維持率を維持しました(図3)。これは、これまでに報告されたMXeneアノードの中で最高の性能です(図4)。これは、電池を繰り返し使う中で、電解液が素材のすき間にしみ込みやすくなり、さらにプロトンが出入りすることで、素材同士がくっついてしまうのを防ぎ、性能の低下を抑えることができ、反応が起こる場所の増加に繋がったためと考えられます。
さらに、1:8P-MXアノードと銅鉄プルシアンブルー類似体*4(CuPBA)カソード(陰極)を組み合わせた「フルセル」プロトン電池を構築しました。この「フルセル」は、1 mol L−1 H2SO4電解液中で、1 A g−1(17 C)で57.9 mAh g−1、そして10 A g−1(188 C)という高速充電レート*5においても53.3 mAh g−1という高い容量を保持しました。二次電池(充電可能な電池)の充放電におけるエネルギー効率を表す指標である「クーロン効率」は200サイクル後も97%と安定して高い値を示しましたが、容量維持率は65.4%に低下しました。これは、主にCuPBAカソードの電解液中での溶解・分解に起因すると特定され、今後の課題となります。これらの結果は、MXeneアノードにおける細孔設計が、容量とレート性能の両方を向上させる上で極めて重要であることを示しています。
図2 多孔質MXene(P-MX)フィルムの走査電子顕微鏡観察
図3 1:8P-MXフィルムのサイクル特性:電流密度1 A g-1、
電位範囲 −0.7~0.2 Vにおける容量(左軸)および容量保持率(右軸)
図4 本研究におけるMXeneベースのアノード性能と文献との比較
【社会への還元として期待できる内容、今後の展望】
本研究の成果は、最適化された細孔設計を持つMXeneアノードが、高容量で高速充電が可能な次世代プロトン電池の実現に大きく貢献することを示しています。特に、高濃度酸性電解液や追加の活性材料を用いずに、MXeneのみで高性能を実現した点は、環境への影響を低減し、より持続可能なエネルギー貯蔵システムを開発する上で重要な進歩です。今後は、フルセル電池の長期安定性をさらに向上させるため、CuPBAカソードの電解液中での安定性改善に焦点を当てた研究を進めていきます。これにより、1:8P-MXアノードの優れた性能を最大限に引き出し、プロトン電池の実用化を目指します。
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST(グラント番号 JPMJCR21B3)による財政的支援を受けて実施されました。
【論文情報】
掲載誌 | Chemical Engineering Journal |
論文タイトル | Porosity-controlled MXene anodes for enhanced rate and long cycle life performance in aqueous proton batteries |
著者 | Linh Chi T. Cao*, Kentaro Aoki, Shu-Han Hsu, Sakoolkan Boonruang, Yuki Nagao*(筆頭著者も責任著者) |
掲載日 | 2025年7月15日 |
DOI | 10.1016/j.cej.2025.165882 |
【用語説明】
プロトン(水素イオン、H+)を電荷キャリアとして利用する二次電池の一種です。資源の豊富さや高速な電荷移動が特徴です。
二次元遷移金属炭化物の一種で、高い電気伝導性と表面積を持つ有望な新素材です。
微細な穴(細孔)を多数導入したMXene材料で、電解液の浸透性やイオン輸送経路を改善し、電池性能を向上させます。
プロトン電池のカソード材料として研究される化合物群です。
電池の充電および放電速度を示す指標です。1Cは定格容量を1時間で充放電する速度を意味します。
令和7年7月17日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/07/17-1.html学生のXUさんがEM-NANO 2025においてStudent Awardを受賞
学生のXU, Yuanzheさん(博士後期課程3年、ナノマテリアル・デバイス研究領域、大島研究室)が、The 10th International Symposium on Organic and Inorganic Electronic Materials and Related Nanotechnologies(EM-NANO 2025)において、Student Awardを受賞しました。
EM-NANO 2025は、有機・無機エレクトロニクス材料とナノテクノロジーに関する国際シンポジウムで、令和7年6月11日~14日にかけて、福井県福井市のAOSSA(福井県県民ホール)にて開催されました。
同シンポジウムでは、全体講演(Plenary lectures)や招待講演、特別セッションのほか、開催10回目を記念する式典も行われ、エレクトロニクス分野における最新の研究成果について活発な議論が行われました。
※参考:EM-NANO 2025
■受賞年月日
令和7年6月14日
■研究題目、論文タイトル等
Microscopic study of Kanazawa gold leaves
■研究者、著者
Yuanzhe Xu, Satoshi Ichikawa (大阪大学) , Kohei Aso, Hideyuki Murata, Yoshifumi Oshima
■受賞対象となった研究の内容
超薄膜(約100~200 nm)である金沢金箔の組織変化を調査しました。常温で処理されたにもかかわらず、焼鈍や熱間圧延を行わなくても、面心立方(FCC)金属において強い{001}テクスチャが形成されることは、長年の謎でした。今回、EBSDとTEMを用いて、No. 4金箔において[101]方向に沿って幅約100nmのスリップバンドが形成され、{011}-<011>スリップシステムと一致することを発見しました。この滑り系はFCC金属では稀な現象であり、超薄膜による活性化が原因と考えられます。この現象と交差滑り活動が、ハンマー加工中の{001}組織の形成を促進しています。
■受賞にあたって一言
It is a great honor to receive the "Student Award" at EM-NANO2025. I am truly encouraged by this recognition from the committee, which strengthens my determination to further explore the unique deformation mechanisms of Kanazawa gold leaf. As this research is closely tied to the cultural and scientific heritage of Kanazawa and the Hokuriku region, receiving this award at a local conference is especially meaningful to me. This achievement would not have been possible without the invaluable support and guidance of my supervisor, Prof. Yoshifumi Oshima, and the generous assistance of Specially Appointed Professor Satoshi Ichikawa from the Research Center for Ultra-High Voltage Electron Microscopy, Osaka University. I would also like to thank Senior Lecturer Kohei Aso and all the laboratory members for their generous support in both research and daily life.
令和7年7月17日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/07/17-2.html学生のXIONGさんがEM-NANO 2025においてStudent Awardを受賞
学生のXIONG, Weiさん(博士後期課程3年、ナノマテリアル・デバイス研究領域、大島研究室)が、The 10th International Symposium on Organic and Inorganic Electronic Materials and Related Nanotechnologies(EM-NANO 2025)において、Student Awardを受賞しました。
EM-NANO 2025は、有機・無機エレクトロニクス材料とナノテクノロジーに関する国際シンポジウムで、令和7年6月11日~14日にかけて、福井県福井市のAOSSA(福井県県民ホール)にて開催されました。
同シンポジウムでは、全体講演(Plenary lectures)や招待講演、特別セッションのほか、開催10回目を記念する式典も行われ、エレクトロニクス分野における最新の研究成果について活発な議論が行われました。
※参考:EM-NANO 2025
■受賞年月日
令和7年6月14日
■研究題目、論文タイトル等
Interlayer fracture of multilayer MoS2 evaluated by in situ transmission electron microscopy
■研究者、著者
Wei XIONG, Lilin XIE, Yoshifumi OSHIMA
■受賞対象となった研究の内容
引張変形中の多層MoS₂ナノシートの破断プロセスをin situ透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、新たな層間破断メカニズムを明らかにしました。亀裂は異なる層のジグザグ状の縁に沿って伝播し、層間相互作用と摩擦の弱さにより段差構造を形成していました。この結果は、MoS₂の層間結合に関する従来の計算シミュレーションなどに一石を投じており、ナノエレクトロニクスやフレキシブルデバイス応用における二次元材料の機械的特性と信頼性に関する新たな知見を提供するものです。
■受賞にあたって一言
It is my great honor to receive the "Student Award" at EM-NANO 2025. The recognition from the EM-NANO 2025 committee for my research and presentation has greatly encouraged me to continue exploring the intrinsic properties of 2D materials. I feel fortunate to have successfully built a stable platform for atomic-resolution in situ tensile experiments. However, this achievement would not have been possible without the invaluable support and guidance of my supervisor, Prof. Yoshifumi Oshima, to whom I would like to express my deepest gratitude. I would also like to thank Dr. Lilin Xie, whose research provided both confidence and convenience during my work. In addition, I sincerely appreciate the help and support from Senior Lecturer Kohei Aso and all the laboratory members, both in my research and daily life.
令和7年7月17日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/07/17-1.html学生の福田さんがプラスチック成形加工学会第36回年次大会において優秀学生ポスター賞を受賞
学生の福田雄太さん(博士後期課程2年、物質化学フロンティア研究領域、山口政之研究室)が、一般社団法人プラスチック成形加工学会第36回年次大会において、優秀学生ポスター賞を受賞しました。
プラスチック成形加工学会は、プラスチック材料・成形条件・ベストな製品に至る全工程にわたって科学と技術のメスを入れ、プラスチックの新しい可能性を切り開くため、会員相互の情報交換や議論を行う場を提供しています。
同学会第36回年次大会は、『昨日まで見ていた夢、今日の努力に工夫を加え、いつか形を成す』 をスローガンに、令和7年6月18日・19日の2日間、東京都江戸川区のタワーホール船堀にて開催され、成形加工分野の最新技術や研究成果について、活発な議論と情報交換が行われました。
※参考:プラスチック成形加工学会第36回年次大会
■受賞年月日
令和7年6月18日
■研究題目、論文タイトル等
ポリヒドロキシブチレート系共重合体の引張特性
■研究者、著者
*福⽥雄太、Janchai Khunanya、砂川武宜(株式会社カネカ)、⼭⼝政之
■受賞対象となった研究の内容
バイオマスから製造されると共に海洋分解性を示すプラスチックであるポリヒドロキシブチレート系共重合体の力学特性に関する研究内容である。この材料から得られるフィルムは、石油由来の結晶性高分子と同様の力学的性質を示す。そのため既存の石油系プラスチックからの代替が進んでいる。本研究では、一度、変形を与えた後は架橋ゴムのような力学特性を示すことを明らかにした。今後、包装用材料などへの利用が期待できる技術となる。
■受賞にあたって一言
この度は、プラスチック成形加工学会第36回年次大会におきまして、このような賞をいただけたことを大変光栄に思います。本研究の遂行にあたり、日頃よりご指導をいただいている山口政之教授、研究室の皆さんにこの場をお借りして心より御礼を申し上げます。今後もよりいっそう研究活動に邁進していきたいと思います。
令和7年7月10日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/07/10-1.html第1回超越バイオメディカルDX研究拠点エクセレントコアセミナーを開催

6月3日(火)、本学イノベーションプラザ2階 シェアードオープンイノベーションルームにおいて、「令和7年度第1回超越バイオメディカルDX研究拠点エクセレントコアセミナー」を開催しました。
本セミナーでは、本学に新たにクロスアポイメント教員として着任したHak Soo CHOI 教授(ハーバード大学医学部 放射線腫瘍学講座 教授)を講師に迎え、「Bioengineering and Nanomedicine Program for Cancer Theranostics」をテーマに講演いただきました。
冒頭では、寺野稔 学長による開会挨拶が行われ、CHOI教授の着任に対する歓迎の意が述べられるとともに、今後の国際共同研究のさらなる発展に向けた期待が示されました。
CHOI教授の講演では、がんの診断と治療を同時に行う「セラノスティックス」の実現に向けた最先端の研究成果が紹介されました。とりわけ、独自に開発された蛍光イメージング技術と、薬剤の物理化学的特性と生体内動態の関係性に基づいた薬物設計戦略により、組織特異的な近赤外蛍光プローブの開発が進められていることが説明されました。これらの技術は、がん組織の可視化、画像誘導手術、光線治療などへの応用が期待されており、ナノ医療および分子イメージング分野における今後の展開に重要な示唆を与える内容となりました。
本セミナーは、CHOI教授と本学物質化学フロンティア研究領域の栗澤元一 教授との長年にわたる共同研究を背景に開催されたものであり、国際的な研究連携の深化とともに、若手研究者や学生との学術的交流の促進を目的としています。当日は、参加者との活発な質疑応答や意見交換も行われ、充実した議論の場となりました。
今後も本学では、超越バイオメディカルDX研究拠点の中核的活動として、世界トップレベルの研究者との交流を通じた学際的かつ国際的な研究の推進と、次世代研究者の育成に積極的に取り組んでまいります。


セミナーの様子
令和7年6月5日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/06/05-2.html