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研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。第1回超越バイオメディカルDX研究拠点エクセレントコアセミナーを開催

6月3日(火)、本学イノベーションプラザ2階 シェアードオープンイノベーションルームにおいて、「令和7年度第1回超越バイオメディカルDX研究拠点エクセレントコアセミナー」を開催しました。
本セミナーでは、本学に新たにクロスアポイメント教員として着任したHak Soo CHOI 教授(ハーバード大学医学部 放射線腫瘍学講座 教授)を講師に迎え、「Bioengineering and Nanomedicine Program for Cancer Theranostics」をテーマに講演いただきました。
冒頭では、寺野稔 学長による開会挨拶が行われ、CHOI教授の着任に対する歓迎の意が述べられるとともに、今後の国際共同研究のさらなる発展に向けた期待が示されました。
CHOI教授の講演では、がんの診断と治療を同時に行う「セラノスティックス」の実現に向けた最先端の研究成果が紹介されました。とりわけ、独自に開発された蛍光イメージング技術と、薬剤の物理化学的特性と生体内動態の関係性に基づいた薬物設計戦略により、組織特異的な近赤外蛍光プローブの開発が進められていることが説明されました。これらの技術は、がん組織の可視化、画像誘導手術、光線治療などへの応用が期待されており、ナノ医療および分子イメージング分野における今後の展開に重要な示唆を与える内容となりました。
本セミナーは、CHOI教授と本学物質化学フロンティア研究領域の栗澤元一 教授との長年にわたる共同研究を背景に開催されたものであり、国際的な研究連携の深化とともに、若手研究者や学生との学術的交流の促進を目的としています。当日は、参加者との活発な質疑応答や意見交換も行われ、充実した議論の場となりました。
今後も本学では、超越バイオメディカルDX研究拠点の中核的活動として、世界トップレベルの研究者との交流を通じた学際的かつ国際的な研究の推進と、次世代研究者の育成に積極的に取り組んでまいります。


セミナーの様子
令和7年6月5日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/06/05-2.html機能性バイオマテリアルで難治性疾患を治療する


機能性バイオマテリアルで難治性疾患を治療する
先端ナノ医療・長寿創生研究室
Laboratory on Advanced Nanomedicine and Longevity Creation
教授:栗澤 元一(KURISAWA Motoichi)
E-mail:
[研究分野]
バイオマテリアル、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ナノメディシン、再生医療
[キーワード]
生体内分解性高分子、ナノ粒子、緑茶カテキン、インジェクタブルゲル、薬物徐放・ターゲッテイング、細胞治療
研究を始めるのに必要な知識・能力
高分子化学の基礎知識があれば、問題なく研究を始めることができますが、入学前に特別な知識・能力がなくても大学や企業で活躍出来るように本気で指導します。要は日々の研究活動に対する心構え次第で、いくらでも成長できます。そのためには自他共栄の精神を研究スタッフ・学生と共有できる研究室づくりが大切だと考えています。
この研究で身につく能力
栗澤研究室では、ナノ粒子やゲルの設計・合成、キャラクタリゼーションを行い、細胞実験や動物実験によって、目的とする機能が十分であるのか否かを評価します。幅広い領域を学ぶので、種々の測定装置や実験手法の基礎を身につけることができます。動物実験を完了するころには、緻密な実験計画を立てる能力、討論・プレゼンテーション能力を習得することができます。研究目的を達成することに邁進することは大事なのですが、フェアに実験結果を評価できる能力を習得できるように指導します。
【就職先企業・職種】 大学教員、博士研究員、特許審査官、化学企業、製薬企業
研究内容

図1.緑茶カテキン・ナノ粒子による疾患治療
当研究室では、高分子科学、生体材料、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、再生医療などの学問領域を基盤とし、難治性疾患を治療可能とする機能性生体材料を開発します。昨今、遺伝子治療や再生医療などを含む先端医療が実施され、これまでに治療不可能とされてきた疾患に新しい治療法が切り拓かれてきています。このような先端医療を支える生体材料に関する研究は、難治性疾患を将来的に治療可能とする医療技術開発において益々重要な役割を果たすものと考えられます。シンガポール、韓国、米国をはじめとする海外研究機関との共同研究を展開しており、臨床応用及び産業化を目指した研究開発を推進します。
[緑茶カテキン・ナノ粒子を用いたドラックデリバリーシステム]
栗澤研究室では、タンパク質・抗体・低分子・核酸などの性質の異なる医薬品の内包を可能とする緑茶カテキン誘導体を薬物キャリアとしたナノ粒子の開発によって、癌をはじめとする難治性疾患の治療を目指したドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究を展開します(図1)。 緑茶カテキン・ナノ粒子は、薬物を疾患部に送達することを主な目的とした従来のDDS製剤とは異なる設計指針によって開発されています。疾患部への送達に加えて、薬物キャリアの主成分である緑茶カテキンが抗癌活性を有するために、薬物と緑茶カテキンのそれぞれの抗癌活性に基づくシナジー効果によって、抗腫瘍効果を増幅することを特徴としています。

図2.インジェクタブルゲル・システムによる医療応用
[インジェクタブルゲルによるヘルスケアへの貢献]
生体内での安全なハイドロゲル形成を可能とするインジェクタブルゲルシステムの開発及びその生体機能性材料としての応用研究を展開します。従来、注射によって生体内で安全に化学架橋を誘導する事は困難でありましたが、高分子—フェノールコンジュゲートと酵素溶液の同時注入により、コンジュゲート中のフェノールの酸化カップリングを誘導し、生体内で安全にゲル化させるプラットホームテクノロジーを開発しています(図2)。この手法によって、生体内で薬物及び細胞をゲル内に固定し、長期間に及ぶ薬物徐放及び細胞増殖・分化の制御が可能となることから、様々な疾患に対して新たな治療法をDDS及び再生医療分野において確立されることが期待されます。
主な研究業績
- N. Yongvongsoontorn, J. E. Chung, S. J. Gao, K. H. Bae, M. H. Tan, J. Y. Ying, M. Kurisawa, Carrier-enhanced anticancer efficacy of sunitinib-loaded green tea-based micellar nanocomplex beyond tumor-targeted delivery, ACS Nano 13, 7591-7602 (2019).
- K. Liang, J. E. Chung, S. J. Gao, N. Yongvongsoontorn, M. Kurisawa, Highly augmented drug loading and stability of micellar nanocomplexes comprised of doxorubicin and poly(ethylene glycol)-green tea catechin conjugate for cancer therapy, Adv. Mater. 30, 1706963 (2018).
- J. E. Chung et al. Self-assembled nanocomplexes comprising green tea catechin derivatives and protein drugs for cancer therapy, Nature Nanotechnol. 9, 907-912 (2014).
使用装置
紫外可視分光光度計、NMR、動的光散乱測定装置、HPLC、レオメーター、電子顕微鏡、細胞培養装置、動物実験関連機器
研究室の指導方針
学生に寄り添うスタイルで研究室を運営することをモットーとします。研究のディスカッションや勉強会・雑誌会はできる限り、 頻繁に行い、学生の研究能力の向上に努めます。当然ながら、レベルの高い研究成果を多く創出することは重要ではありますが、学生には先ず、自身が携わっている学問や研究が開拓しうる将来の社会を楽しく想像しながら研究することを提案します。応用研究を遂行する際には、社会貢献の可能性について、学生と十分に議論し、将来に学生が社会でリーダとして活躍するべく力を養う機会にします。また、学生であっても情報受信だけではなく、情報発信ができるよう指導いたします。学生の興味や個性をよく把握し、学生の能力を伸ばします。研究室内では常に世界の最先端の研究を意識しつつ、研究室もその舞台の中であり、世界に向けて発信したいと強く学生が意識する雰囲気を創ります。
[研究室HP] URL:https://kurisawa-lab.labby.jp/
ナノとバイオを融合して医療と環境の問題を解決する


ナノとバイオを融合して
医療と環境の問題を解決する
バイオナノ医工学デバイス 研究室
Bio-Nano Medical Device Laboratory
教授:高村 禅(TAKAMURA Yuzuru)
E-mail:
[研究分野]
BioMEMS、微小流体デバイス、分析化学、バイオセンサ
[キーワード]
血液分析チップ、一細胞解析、質量分析チップ、マイクロ元素分析、微細加工プロセス、バイオチップ、マイクロプラズマ
研究を始めるのに必要な知識・能力
私たちが扱う対象は分野融合的要素が強く、従って本研究室では様々なバックグラウンドの学生を受け入れております。生物、化学だけでなく、物理、機械、電子、制御、材料など、個人のバックグラウンドに応じたテーマを設定し、研究を進めます。
この研究で身につく能力
何かを解析するチップの研究が多いので、分析科学の要素は押し並べて身につきます。微量なサンプルを扱うので、微量な生体サンプルのハンドリング技術、生体分子と無機材料の界面の調整技術、微量な蛍光や光信号の観察・計測技術等が身につきます。また、チップを作成するには、フォトリソグラフィー等、マイクロマシンの技術が身につきます。新しい材料を使う場合は、成膜やエッチングの為のプロセス開発を行うこともあります。チップの開発では、流体の動きや熱の伝達をシミュレーションし設計することもあります。修了生は、計測機器メーカへの就職が多いですが、半導体製造機器メーカや、薬品会社へ就職する方もいらっしゃいます。
【就職先企業・職種】 計測機器メーカ、電気、機械、半導体製造機器メーカ、半導体メーカ、薬品関連
研究内容
半導体プロセスを応用して、ウエハ上に小さな流路や反応容器、分析器等を作りこみ、一つのチップの上で、血液検査等に必要な一通りの化学実験を完遂させようという微小流体デバイス、μTAS(micro total analysis systems)やLab on a chipと呼ばれる研究分野が急速に発展しています。これは、病気の診断、創薬、生命現象の解析に応用でき、大きな市場と新しい学術分野を開拓するものとして期待されております。また、いろいろな形状の微小流路内を、流体や大きな分子が流れるときの挙動は、ブラウン運動や界面の影響が支配的で、流体力学でも分子動力学でも扱えない新しい現象を含んでいます。当研究室は、このような新しい現象をベースに、ナノとバイオを融合した次世代のバイオチップ創製を目指した研究を行っています。
主なテーマを次に示します。

図1.作成したバイオチップの例

図2.汎用微小流体チップ案
1)高集積化バイオ化学チップの開発
高機能バイオチップの実現には、チップ内での流体の駆動機構と、高感度な検出器の開発が重要になります。本研究室では、溶液プロセスによるPZTアクチュエータアレイや電気浸透流ポンプをはじめ様々なチップ内での液体駆動機構と、ナノ材料を駆使した新しい検出器の開発を進めています(図1)。これらを用いて、組織中の一細胞を分子レベルで解析可能なチップや、高度な処理をプログラム次第で様々にこなす汎用微小流体チップの開発を目指しています(図2)。
2)高感度バイオセンシング技術の開発
一滴の血液には、体内の様々な状態を反映した多くの情報が含まれております。これらを頻繁に解析することで、重篤な病気の超早期発見や、日々の健康管理、あるいは老化や病気が起きにくい体質になるために食事や運動をガイドする等、様々なことが可能になると考えられております。このためには、非常に微量なバイオマーカを簡易に測定する技術が必要です。私どもは、自己血糖測定器と同じ手間とコストでpg/mLオーダの測定ができるチップや、質量分析チップの開発を行っております。
3)液体電極プラズマを用いたマイクロ元素分析器の開発
中央を細くした微小な流路に液体のサンプルを導入し、高電圧を印加するとプラズマが発生します。このプラズマからの発光を分光することにより、サンプル中の元素の種類と量を簡単・高感度に測定することができます。この原理を用いて、食物、井戸水、土壌工場廃水・廃棄物に含まれている有害な金属(Hg、Cd、Pbなど)などを、オンサイトで測定できるマイクロ元素分析器の開発を行っています。
主な研究業績
- Pulse-heating ionization for protein on-chip mass spectrometry,Kiyotaka Sugiyama, Hiroki Harako, Yoshiaki Ukita, Tatsuya Shimoda, Yuzuru Takamura, Analytical Chemistry, 86, 15, 7593-7597, 05 August 2014.
- Development of automated paper-based devices for sequential multistep sandwich enzyme-linked immunosorbent assays using inkjet printing, Amara Apilux, Yoshiaki Ukita, Miyuki Chikae, Orawom Chilapakul and Yuzuru Takamura, Lab Chip,13(1), 126-135, January 2013.
- High sensitive elemental analysis for Cd and Pb by liquid electrode plasma atomic emission spectrometry with quartz glass chip and sample flow, Atsushi Kitano, Akiko Iiduka, Tamotsu Yamamoto, Yoshiaki Ukita, Eiichi Tamiya, Yuzuru Takamura, Analytical Chemistry 83(24), 9424-9430, 04 November 2011.
使用装置
クリーンルーム半導体製造装置一式
電気化学測定装置
表面プラズモン共鳴測定装置
イムノクロマトグラフ製造装置
全反射蛍光一分子観察装置
研究室の指導方針
iPS細胞など最近の新しい医療技術の多くは、新しい工学的技術の進歩が発端になっていることをご存知でしょうか。その多くに、高度に発展したナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合技術が使われています。この分野は、まさに今アクティブで、また人類への多くの貢献が期待されている分野でもあるのです。私どもの研究室には、様々なバックグランドと目的を持った学生さんが来ます。私どもは一人ひとりの目的に合わせたゴールを設定し、そこに向かって必要なものを自ら獲得できる様に、サポートとガイドを行うことを主な指導方針としています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/takamura/index.html
材料とバイオを使ってゲームチェンジングテクノロジーを生み出す!


材料とバイオを使ってゲームチェンジング
テクノロジーを生み出す!
先進生物工学研究室 Laboratory on Advanced Bioengineering
教授:都 英次郎(MIYAKO Eijiro)
E-mail:
[研究分野]
生物工学、材料化学、ナノテクノロジー、ナノメディシン
[キーワード]
ナノロボット、ナノバイオ、ナノ材料、生体機能材料、バイオテクノロジー、バイオミメティクス
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究を始めるにあたり特別な知識・能力は問いません。本物の科学者や世界で活躍できる第一線の研究者に本気でなりたいと考えている学生を募集しています。特に新しい技術や新分野を開拓しようと柔軟性、協調性、好奇心、志を持った熱心な学生を求めています。
この研究で身につく能力
私たちの研究室では色々な研究手法を組み合わせた学際的な研究を行っているので多くのことを学ぶことができます。例えば、有機合成、生化学、遺伝子工学、細胞や動物実験に係る手技、ナノ材料、医療用デバイス、ロボットなどの様々な知識や技術を習得することができます。
研究内容

図1. 革新的ナノバイオシステム創出を目指したナノロボットの一例(生体内で光と磁場で駆動するナノトランスポーター)。

図2. 全自動人工花粉交配を目指したミツバチ型ロボット(プロトタイプ)。効率的に花粉を運ぶために粘着性ゲルを塗布した動物体毛を極小ドローンの下部に取り付けている。
私たちの研究室の興味は、生物工学、材料化学、ナノテクノロジー、ナノメディシンの領域にあります。
例えば、我々の研究室では、ナノ材料の様々な物理化学的特性を活用することで、ナノスケールレベルで体の中の生物学的な活性や健康状態をモニターし、制御可能な革新的ナノバイオシステムの開発に挑戦しています(図1)。また、本研究目的のために高性能ナノロボットの合成、それらの表面工学、集合体を研究し、作製したナノロボットを上記の研究領域に統合することに注力しています。さらに、合成したナノロボットの構造と機能の関係における根本的な理解にも努めています。これらの研究はナノテクノロジー等の基礎研究としても重要ですが、とりわけ医学・薬学の分野において有用な知見と病気の治療法を提供できると期待しています。
一方、我々は食品産業や農業分野のためにも社会を一変させる革新的な技術(ゲームチェンジングテクノロジー)を創出しようと奮闘しています。現在、農作物の生産量に直結するミツバチなどの花粉媒介昆虫の減少が世界規模の問題となっています。昆虫を使った花粉交配法の代替手段として古来より羽毛や筆を用いた人の手による人工的な受粉が行われていますが、この方法は手間と労力が掛かる上、実際に作業を行う農家の方々の高齢化と人手不足が深刻な状況になっています。そこで我々の研究室では、全自動の人工花粉交配技術を構築すべく、自然から着想を得て設計するネイチャーインスパイアード材料とロボット工学を融合した研究を行っています(図2)。
このように我々の研究は、化学、物理、生物、材料科学、工学といった多くの研究分野から成る学際的な性質によって成り立っています。
過去の代表的な研究テーマ
- 体の中で光発電するナノデバイス
- 液体金属ナノトランスフォーマー
- 超分子ナノ電車
- 細胞を刺激するナノモジュレーター
- ナノ材料の光発熱を利用した遺伝子発現制御
- 光と磁場で駆動するナノトランスポーター
- 材料工学を駆使した花粉交配用ミツバチロボット
これらは単なる一例にすぎません。自然科学を理解・開拓し、革新的な新技術、ひいては新分野そのものを一緒につくりましょう!
主な研究業績
- Yue Yu, Xi Yang, Sheethal Reghu, Sunil C. Kaul, Renu Wadhwa, Eijiro Miyako*, "Photothermogenetic inhibition of cancer stemness by near-infrared-light-activatable nanocomplexes" Nature Communications 11, 4117 (2020).
- Svetlana A. Chechetka, Yue Yu, Xu Zhen, Manojit Pramanik, Kanyi Pu, Eijiro Miyako*, “Light-driven liquid metal nanotransformers for biomedical theranostics” Nature Communications 8, 15432 (2017).
- Eijiro Miyako*, Kenji Kono, Eiji Yuba, Chie Hosokawa, Hidenori Nagai, Yoshihisa Hagihara “Carbon nanotube-liposome supramolecular nanotrains for intelligent molecular-transport systems” Nature Communications 3, 1226 (2012).
使用装置
レーザー、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、紫外-可視-近赤外分光光度計、蛍光光度計など
研究室の指導方針
ディスカッション、雑誌会、定期ミーティング、学会などを通じて、実験の解析技術、独立した思考能力、論理的な表現力などが身に付くように指導します。特に、博士後期課程への進学希望者には、最新かつ国際的な研究環境を提供し、産業やアカデミアの研究ポジションが得られるように育成します。研究室のコアタイムは基本的には1時間の休憩を除いた9時から17時です。このため効率的、効果的、スピーディに作業をしなければいけません。メリハリをもって研究も余暇もエンジョイしましょう。
[研究室HP] URL:https://miyakoeijiro.wixsite.com/eijiro-miyako-lab
ナノバイオテクノロジー


ナノバイオテクノロジー
ナノバイオ研究室 Laboratory on Nanobiotechnology
講師:高橋 麻里(TAKAHASHI Mari)
E-mail:
[研究分野]
ナノ材料科学、細胞生物学
[キーワード]
ナノ粒子、バイオ医療応用
研究を始めるのに必要な知識・能力
探求心があり、努力することを厭わず、向上心がある方ならバックグランドが違っていても研究を楽しむことができます。研究テーマに対して、自分がこの研究を進めるんだという主体的な立場にたつことが必要です。共同研究をすることが多いため、協調性やコミュニケーション能力も必要となります。
この研究で身につく能力
ナノ粒子の合成法、構造・特性評価及び解析方法に関する幅広い知識。金属・磁性・半導体材料とナノ粒子にすることで現れる特徴的な性質に関する一般的な知識。細胞生物学に関する一般的な知識。新たな課題に対して取り組むチャレンジ精神。
【就職先企業・職種】 製造業(化学、精密機器、ガラス・土石製品、繊維製品、その他製品など)
研究内容
ナノ粒子のバイオ医療応用に関する注目は年々高まっています。私達は金属・半導体・磁性体をナノサイズにすることで現れるバルクとは異なる性質を利用して、ナノ粒子のバイオ医療応用に関する研究を行っています。応用先は様々ですが、主に下記に示す3つの内容に力を入れており、それぞれの用途に合わせたナノ粒子の合成から構造解析、特性評価、応用までの一連の流れを一人の学生が担当して研究を進めます。
1. 磁性体ナノ粒子を用いた細胞内小器官の磁気分離
正常細胞と機能欠損細胞から細胞内小器官を分離し、タンパク質を解析し比較することは、疾患の分子機構の解明において重要です。超常磁性体ナノ粒子を合成し、表面を生体分子で機能化した粒子を用い、細胞内小器官を迅速かつ温和に磁気分離し、生化学的手法による解析を行います。種々の細胞内小器官の磁気分離法の構築や機能欠損細胞のタンパク質解析を通して、最終的には創薬分野への貢献を目指します。
2. 磁気粒子分光を用いたイムノアッセイ
人生100年時代と言われる現代、私達が健康に長生きするためには、疾病の早期発見のための診断技術・精度の向上がますます重要となります。磁気粒子分光(MPS)を用いたイムノアッセイ(抗原抗体反応を用いた抗原の検出)では、種々の磁性体ナノ粒子を合成しMPSで評価し、感度が高いプローブを複数選択することで同時多抗原検出を目指します。
3. アップコンバージョンナノ粒子による光遺伝学的研究
アップコンバージョンナノ粒子とは、波長が長い入射光を照射した際に波長が短い発光を示す蛍光体ナノ粒子です。光遺伝学とは光受容タンパク質を遺伝学的に細胞に発現させ、光で細胞の応答を制御する技術で、この2つを組わせることで、光による生体組織の制御を行う研究をしております。
主な研究業績
- D. Maemura, T. S. Le, M. Takahashi, K. Matsumura, and S. Maenosono: "Optogenetic Calcium Ion Influx in Myoblasts and Myotubes by Near-Infrared Light Using Upconversion Nanoparticles" ACS Appl. Mater. Interfaces 15 (2023) 42196
- T. S. Le, M. Takahashi, N. Isozumi, A. Miyazato, Y. Hiratsuka, K. Matsumura, T. Taguchi, S. Maenosono: "Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic–Plasmonic Hybrid Nanoparticles" ACS Nano 16 (2022) 885
- T. S. Le, S. He, M. Takahashi, Y. Enomoto, Y. Matsumura, and S. Maenosono: "Enhancing the Sensitivity of Lateral Flow Immunoassay by Magnetic Enrichment Using Multifunctional Nanocomposite Probes" Langmuir 37 (2021) 6566
使用装置
透過型電子顕微鏡(TEM) 超伝導量子干渉磁束計(SQUID)
走査透過型電子顕微鏡(STEM) 動的光散乱測定装置(DLS)
X線回折装置(XRD) 共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)
X線光電子分光装置(XPS) 核磁気共鳴装置(NMR)
研究室の指導方針
常に新しい内容の研究を行っており、研究内容に関しては教員が学生へ毎回指示を与えるのではなく、学生自身にも実験と論文調査から次の方向性を決めるといった、一緒に研究を進めていくスタンスで研究を行います。その過程で卒業後の進路(就職希望か進学希望)に合わせて必要な基礎知識と研究力が身につくように指導します。また、分野外の方でも最前線の研究が行えるように効率的な努力の仕方や学習法を身に着けられるように指導しますので、心配なことや研究に関する疑問等は積極的に相談してください。そのためにはコミュニケーション能力も重要であり、卒業後の社会人にとって必要不可欠なスキルが身につくようにサポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/~shinya/
ナノ医療・バイオイメージング分野における国際連携を加速 ―ハーバード大教授が北陸先端科学技術大学院大学に本格参画-

ナノ医療・バイオイメージング分野における国際連携を加速
―ハーバード大教授が北陸先端科学技術大学院大学に本格参画-
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)は、2025年4月1日付で、ナノ医療・バイオイメージング分野における世界的な研究者であるChoi, Hak Soo(チェ・ハクスー)教授を、先端科学技術研究科のクロスアポイントメント教員として迎え、本学での研究活動を開始しました。
Choi教授は、ハーバード大学医学部 放射線腫瘍学講座の教授であり、マサチューセッツ総合病院 分子イメージング研究センターの主任研究者として最前線の研究を統括するとともに、Dana-Farber/Harvard Cancer Centerにも所属し、がん研究と診断に関する世界的ネットワークの中核的存在として活躍しています。
韓国・全北大学校を卒業後、2004年に本学にて博士号(材料科学)を取得。その後、ハーバード大学にて研究を推進し、ナノメディシン、イメージング、バイオエンジニアリングを融合したがんの高感度診断・治療技術の開発に取り組んできました。これまでに、Nature Biotechnology、Nature Nanotechnology、Nature Medicine、Nature Communications、Advanced Materials、Science Translational Medicine などの国際トップジャーナルに多数の研究成果が掲載されており、米国国立衛生研究所(NIH)や国防総省(DoD)などからの大型研究助成を獲得しています。
今回の着任は、本学物質化学フロンティア研究領域の栗澤元一教授との長年にわたる共同研究を背景に実現したものであり、今後は、本学の「超越バイオメディカルDX研究拠点」との連携を軸に、研究成果の社会実装、若手研究者や学生との国際交流を通じて、グローバルトップの研究基盤の構築・強化に大きく貢献することが期待されています。
【セミナーのご案内】
このたび、Choi教授の本学参画を記念し、以下のとおり「超越バイオメディカルDX研究拠点エクセレントコアセミナー」を開催します。当日は、Choi教授より、これまでの研究成果および今後の取組みについて講演いただきます。つきましては、当日の取材・報道をお願いします。
講 演 者:CHOI, Hak Soo, Ph.D
北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 教授 Professor, Department of Radiology, Harvard Medical School Faculty, Cancer Research Institute, Dana-Farber/Harvard Cancer Center Director, Bioengineering and Nanomedicine Program, Mass General Hospital テーマ:「Bioengineering and Nanomedicine Program for Cancer Theranostics」
(バイオ工学とナノメディシンによるがんセラノスティックス*) 日 時:令和7年6月3日(火)10:30~12:00
場 所:北陸先端科学技術大学院大学(JAIST) イノベーションプラザ2F
シェアードオープンイノベーションルーム 申込方法:以下申込先までメールにて事前にお申込みください。
[申込先] 北陸先端科学技術大学院大学 超越バイオメディカルDX研究拠点 教授 栗澤元一 E-mail:kurisawa ![]() |
*セラノスティックス...診断と治療を一体化した新しい医療技術
◆クロスアポイントメント制度とは】
研究者等が複数の大学や公的研究機関、民間企業等と雇用契約を結び、それぞれの組織で業務を行うことを可能とする制度です。本制度により、研究者等は所属の枠にとらわれることなく、複数の場で専門性を活かして活躍できるようになります。本制度の導入により、研究機関間の垣根を超えた知の交流や技術の橋渡しが加速されることが期待されており、研究の質やスピードの向上にも大きく貢献すると考えられます。
今回、本学が本制度を通じて、海外の研究機関に所属する研究者を迎えたことは、本学にとって初の取り組みです。今後は、この制度を活用して、国内外の優れた研究者とのネットワークを一層広げ、世界の先端科学技術研究のハブとしての機能強化を目指します。
令和7年5月29日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/05/29-1.html令和7年度 第1回 超越バイオメディカルDX研究拠点 エクセレントコアセミナー
セミナーを下記のとおり開催しますので、ご案内します。
開催日時 | 令和7年6月3日(火) 10:30~12:00 |
場所 | 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)イノベーションプラザ シェアードオープンイノベーションルーム(2F) |
講師 | Hak Soo Choi, Ph.D. Professor with a cross appointment at the Department of Radiology, Harvard Medical School, and the Graduate School of Advanced Science and Technology, Japan Advanced Institute of Science and Technology (JAIST) |
講演題目 | Bioengineering and Nanomedicine Program for Cancer Theranostics |
使用言語 | 英語 |
参加申込・ お問合せ |
下記の担当へ前日までにお申し込みください。 (定員30名・参加費無料) 北陸先端科学技術大学院大学 超越バイオメディカルDX研究拠点 教授 栗澤 元一 (kurisawa ![]() |
令和6年度 第3回 超越バイオメディカルDX研究拠点 エクセレントコアセミナー
下記のとおりセミナーを開催しますので、ご案内します。
日 時 | 令和7年3月13日(木) 15:30~16:50 |
場 所 | JAISTイノベーションプラザ 2F シェアードオープンイノベーションルーム |
講演者 | 金沢医科大学医学部解剖学Ⅰ,医学博士 八田 稔久 教授 金沢医科大学総合医学研究所 島崎 猛夫 准教授 |
講演題目 | 島崎准教授(15:30~16:10) バイオデジタルツインを目指した生体模倣システムと細胞加工技術 八田教授(16:10~16:50) 生物標本透明化技術の開発とその社会実装に向けた取り組み ※講演要旨は別添フライヤーのとおり |
参加申込 | ・参加費無料 ・要予約(定員30名) 下記の担当へメールにてお申し込みください。 【本件担当・予約申込先】 北陸先端科学技術大学院大学 超越バイオメディカルDX研究拠点長 松村 和明(mkazuaki@jaist.ac.jp) |
令和6年度 第2回 超越バイオメディカルDX研究拠点 エクセレントコアセミナー
下記のとおりセミナーを開催しますので、ご案内します。
日 時 | 令和6年9月20日(金) 15:00~16:20 |
場 所 | JAISTイノベーションプラザ 2F シェアードオープンイノベーションルーム |
講演者 | 広島大学大学院先進理工系科学研究科 スマートイノベーションプログラム 計算材料科学研究室 石元 孝佳 教授 兼松 佑典 助教 (研究室HP)https://cms.hiroshima-u.ac.jp/ |
講演題目 | 【15:00-15:40(石元教授)】 計算科学を活用した機能解明と材料設計に向けた計算手法の開発と応用 【15:40-16:20(兼松助教)】 BI解析ツールの開発とMI解析への応用 |
参加申込 | ・参加費無料 ・要予約(定員30名) 下記の担当へ9月19日(木)までにメールにてお申し込みください。 【本件担当・予約申込先】 北陸先端科学技術大学院大学 超越バイオメディカルDX研究拠点 准教授 本郷 研太(hongo@jaist.ac.jp) |
第9回研究科セミナー(物質化学フロンティア研究領域)「バイオ界面に立脚した高分子バイオマテリアルの創成」
日 時 | 令和6年8月28日(水)15:00~16:00 |
場 所 | 知識科学講義棟 2階 中講義室 |
講演題目 | バイオ界面に立脚した高分子バイオマテリアルの創成 |
講演者 | 東京工業大学 生命理工学院 助教 西田 慶 氏 |
使用言語 | 日本語 |
お問合せ先 | 北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域 准教授 都 英次郎(E-mail:e-miyako ![]() |
● 参加申込・予約は不要です。直接会場にお越しください。
出典:JAIST イベント情報https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/event/2024/08/22-1.html第1回 超越バイオメディカルDX研究拠点 エクセレントコアセミナー
セミナーを下記のとおり開催しますので、ご案内します。
開催日時 | 令和6年7月29日(月) 15:00~16:10 |
場 所 | JAISTイノベーションプラザ 2F シェアードオープンイノベーションルーム |
講演者 | 大阪工業大学 工学部 応用化学科 藤井 秀司 教授 |
講演題目 | 界面吸着粒子が拓く材料化学 |
参加申込 | ・参加費無料 ・要予約(定員30名) 下記の担当へ7月26日(金)までにメールにてお申し込みください。 【本件担当・予約申込先】 北陸先端科学技術大学院大学 超越バイオメディカルDX研究拠点長 松村 和明(mkazuaki@jaist.ac.jp) |
ナトリウムイオン2次電池に高性能・高耐久性を付与する高官能基密度バイオベースバインダーを開発

ナトリウムイオン2次電池に高性能・高耐久性を付与する
高官能基密度バイオベースバインダーを開発
ポイント
- バイオベース化合物であるフマル酸エステルを原料とする高官能基密度バインダー(ポリフマル酸)を合成して、ナトリウムイオン2次電池におけるハードカーボン負極のバインダーとして適用した。
- ポリフマル酸/ハードカーボン系は、12.5 Nと基盤からの高い引きはがし力を要し、ポリアクリル酸/ハードカーボン系(11.5 N)、PVDF/ハードカーボン系(9.8 N)よりも吸着力が顕著に高かった。
- ポリフマル酸/ハードカーボン系を負極としたナトリウムイオン2次電池は、ポリアクリル酸/ハードカーボン系、PVDF/ハードカーボン系のいずれと比較しても放電容量、耐久性、レート特性等において優れていた。また、他系とは異なり、充放電後の負極はクラック形成や集電体からの剥離を示さなかった。
- 集電体への接着力が高く、高耐久性を促すバインダー材料として、ナトリウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用展開が期待される。
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・寺野稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 松見紀佳教授(物質化学フロンティア研究領域)、Amarshi Patra大学院生(博士後期課程)は、ナトリウムイオン2次電池*1の耐久性を大幅に高めつつ、高耐久性を促すバイオベース負極バインダーの開発に成功した。 |
【研究背景と内容】
今日、リチウムイオン2次電池との比較において、資源調達の利便性やコスト性に優れるナトリウムイオン2次電池の研究開発が国内外において活発に進められている。ハードカーボン負極に用いられるバインダーとしては、PVDFのほかポリアクリル酸誘導体、カルボキシメチルセルロース塩等が挙げられるが、特にナトリウムイオンの電極内における低い拡散性に対処するため、イオン拡散に優位な特性を有するバインダー開発が求められる。
従来型のポリアクリル酸の場合には、高分子主鎖において炭素原子ひとつおきに官能基としてのカルボン酸を有しているが、ポリフマル酸においては、主鎖を構成するすべての炭素原子上にカルボン酸を有し、高官能基密度高分子となっている。このようなポリフマル酸の構造的特質は、多点相互作用による集電体へのより強固な接着を促すとともに、高密度なイオンホッピングサイトによる高い金属カチオン拡散性をもたらすと期待できる。
加えて、フマル酸*2はバイオベース化合物であり、バイオベースポリマー*3としてのポリフマル酸の広範な活用は低炭素化技術としても魅力的である。フマル酸エステルのラジカル重合によるポリフマル酸エステルの加水分解において、ポリフマル酸を得た(図1)。ポリフマル酸の合成に関しては1984年に大津らが重合法を報告したが、電池研究への適用研究は行われていなかった。
本研究では、ハードカーボン、カーボンブラック(Super P)、ポリフマル酸から水系スラリーを作製し、銅箔上にコーティング、乾燥後負極とした。1.0M NaClO4 in EC: PC = 1:1 (v/v)を電解液としてアノード型ハーフセル*4を構築し、各種電気化学評価及び電池評価を行った。
電気化学評価に先立ち、基盤からの引きはがし力評価を行ったところ、ポリフマル酸/ハードカーボン系は、12.5 Nと基盤からの高い引きはがし力を要し、ポリアクリル酸/ハードカーボン系(11.5 N)、PVDF/ハードカーボン系(9.8 N)よりも吸着力が顕著に高かった(図2)。
また、充放電試験においては、上記のアノード型ハーフセルは30 mAg-1及び60 mAg-1の電流密度において、それぞれ288 mAhg-1及び254 mAhg-1の放電容量を示し、PVDF系やポリアクリル酸系と比較して顕著に優れた性能を示した(図3)。また、長期サイクル耐久性においても優れていた。さらに、負極におけるナトリウムイオン拡散係数はポリフマル酸/ハードカーボン系では1.90x10-13 cm2/s、ポリアクリル酸/ハードカーボン系では1.75x10-13cm2/s、PVDF/ハードカーボン系では8.88x10-14 cm2/sであった。
充放電後の負極をSEMによる断面像から観察したところ、ポリフマル酸/ハードカーボン系では、他系(ポリアクリル酸/ハードカーボン系、PVDF/ハードカーボン系)とは異なり、系内におけるクラック形成や集電体からの剥離が認められなかったことから、大幅に耐久性が改善されていることが示された(図4)。充放電後の負極のXPSスペクトルにおいては、ポリフマル酸系ではバインダー由来の高濃度の酸素原子の含有が観測されることに加え(図4)、Na2CO3、Na2O、NaCl等の無機成分も他のバインダー系よりも多く含まれ、ナトリウムイオンの高速な拡散に寄与しつつ電解液の更なる分解を抑制していると考えられる。
本成果は、Journal of Materials Chemistry A(英国王立化学会)(IF 11.9)オンライン版に5月10日(英国時間)に掲載された。また、Cover ArtのOutside Back Coverとしての採用も内定している。
【今後の展開】
本高分子材料においては種々の高分子反応等による様々な構造の改変が可能であり、さらなる高性能化につながると期待できる。
今後は、企業との共同研究(開発パートナー募集中、サンプル提供応相談)を通して将来的な社会実装を目指す(特許出願済み)。高耐久性ナトリウムイオン2次電池の普及を通して社会の低炭素化に寄与する技術への展開を期待したい。
集電体への接着力が高く、高耐久性を促すバインダー材料として、ナトリウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用展開が期待される。
図1.ポリフマル酸の合成スキーム
図2.各バインダー系における引きはがし試験
図3.各バインダー系における負極型ハーフセルの充放電サイクル特性
図4.各バインダー系における充放電後の各負極のXPS(C1s)スペクトル及びSEM断面像
【論文情報】
雑誌名 | Journal of Materials Chemistry A |
題目 | Water Soluble Densely Functionalized Poly(hydroxycarbonylmethylene) Binder for Higher-Performance Hard Carbon Anode-based Sodium-ion Batteries |
著者 | Amarshi Patra and Noriyoshi Matsumi* |
掲載日 | 2024年5月10日 |
DOI | 10.1039/D4TA00285G |
【用語説明】
電解質中のナトリウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のリチウムイオン2次電池と比較して原料の調達の利便性やコスト性に優れることから、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車への適用が期待されている。
フマル酸は無水マレイン酸(バイオベース無水マレイン酸を含む)を原料として工業的に生産されるが、糖類に糸状菌を作用させて製造することも可能である。さらに、最近ではCO2を原料とした人工光合成によりフマル酸を生産する技術も脚光を浴びている。CO2もしくは糖類、バイオベース無水マレイン酸から誘導可能なフマル酸を用いた高付加価値な化成品の製造は、カーボンニュートラルへの貢献において魅力あるアプローチといえる。
生物資源由来の原料から合成される高分子材料の総称。低炭素化技術として、その利用の拡充が期待されている。
ナトリウムイオン2次電池の場合には、アノード極/電解質/Naの構成からなる半電池を意味する。
令和6年5月20日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2024/05/20-1.html液体から高機能性材料を創成し、生体・環境の見える化へ


液体から高機能性材料を創成し、生体・環境の見える化へ
プリンテッドバイオセンサー研究室
Laboratory on Printed Biosensors
講師:廣瀬 大亮(HIROSE Daisuke)
E-mail:
[研究分野]
酸化物、バイオセンサー、液体プロセス
[キーワード]
MOD法、薄膜トランジスタ、生体分子検出、バイオチップ、プリンテッドエレクトロニクス
研究を始めるのに必要な知識・能力
分野に囚われない研究を行うための好奇心・挑戦心、未解明の謎を楽しむ心。
専門知識は基礎から指導しますので、知識は問いません。どの分野からも歓迎します。一緒に頑張りましょう!
この研究で身につく能力
研究では様々な実験をすることになります。それによって分野に囚われない研究の着眼点や発想が身につきます。また、課題を解決するための論理的思考やタスクをこなす力も身につきます。学会やゼミの発表を通して、発表力・発信力も身につきます。
【就職先企業・職種】 半導体製造機器メーカー、電子部品会社、計測機器メーカー
研究内容
有機金属分解(MOD)法を基礎とした、モノづくりを行っています。この手法は“ 液体” から石(酸化物)を作製する技術であり、様々な電気的特性を示す酸化物を作り出せます。
さらに私たちはこのMOD法で作製した酸化物や中間体にこれまでにない特異的な特徴があることを発見しました。その特徴と半導体プロセスとを組み合わせることで、新たなセンシングデバイスやパターニング手法の研究・開発をしています。そして、なぜ特異的な特徴が現れるかの物性解析による解明も同時に進めています。
・高感度 - 酸化物センシングデバイス
コロナウイルスの感染拡大が世界的な問題となったことから、PCRやイムノクロマトに代わる迅速で高感度な菌・ウイルスの検査手法の需要が急速に高まってきています。
私たちは迅速で高感度に測定可能な酸化物薄膜トランジスタ型核酸センサーの研究・開発を進めています。図に、これまで作製したセンサーを示しています。この技術は核酸のみならず、多様な分子に適用可能であり、環境・衛生・農業・医療などの分野への応用も目指しています。
・MOD中間体の特性を生かしたパターニング
センサーなどの電子デバイスを作製するには、酸化物の精度の良いパターニングが必要となります。私たちはMOD法から酸化物を作製する際の中間体が変形性を示すことを発見しました。この特性を利用し、型押し成型による低エネルギー・低コストの酸化物の直接プリンティング手法を開発しました。この技術によって、簡単にサブミクロンスケールのパターンの作製が可能になりました。示した図は作製した酸化物パターンと、酸化物を積層した薄膜トランジスタアレイです。このように様々な酸化物の精度のよいパターンが作製できることがわかります。
主な研究業績
- Submicron titania pattern fabrication via thermal nanoimprint printing and Microstructural analysis of printable titania gels, D. Hirose, H. Yamada, T. Jochi, K. Ohara and Y. Takamura, Ceramics International, online,(2024)
- Rapid and Highly Sensitive Detection of Leishmania by Combining Recombinase Polymerase Amplification and Solution-Processed Oxide Thin-Film Transistor Technology, W. Wu, M. Biyani, D. Hirose and Y. Takamura, Biosensors, vol. 13, 8, p. 765,(2023).
- Origin of the thermal plasticity property of zirconium oxide gels for use in direct thermal nanoimprinting, D. Hirose, J. Li, Y. Murakami, S. Kohara and T. Shimoda, Ceramics International, vol.44, p. 17602,(2018).
使用装置
電子デバイス作製装置(フォトリソグラフィ装置、スパッタ装置ナノインプリント)、電気特性評価装置(半導体パラメータアナライザ、インピーダンスアナライザ)、形状評価装置(走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡)、材料物性評価装置(TG-DTA、FT-IR,UV-vis、XRD、XPS、接触角計)
研究室の指導方針
本研究室では液体から機能性酸化物をつくるMOD技術を基礎にして、生体・環境の見える化を目指しています。身の回りのあらゆる分子をターゲットとして、社会や生活へ応用を目指しています。今まさに大きく成長している段階です。みなさんのアイデアと私たちの技術を組み合わせ、新たな見える化センサーを創成しましょう!!
研究では、個々の興味に沿ったテーマを設定します。目標に向け、課題を一つずつクリアできるように指導いたします。生活や就職活動についての不安を取り除きながら、これからの壁を乗り越える力を身につけられるようサポートします。
新しい固体触媒プロセスの構築による資源・エネルギー問題の解決に挑む!


新しい固体触媒プロセスの構築による
資源・エネルギー問題の解決に挑む!
触媒・資源変換プロセス研究室
Laboratory on Catalyst/Resource Chemical Process
准教授:西村 俊(NISHIMURA Shun)
E-mail:
[研究分野]
触媒化学、固体触媒、合金触媒、バイオマス変換
[キーワード]
資源・エネルギーの有効利用技術、金属ナノ粒子触媒、固体酸塩基触媒、新触媒の創成、触媒作用機構の解明
研究を始めるのに必要な知識・能力
基礎的な計算・データ処理能力と仲間と安全に研究を進められる方であれば、バックグラウンドを問わずに歓迎します。物理化学、有機化学、無機化学、分析化学、触媒化学などの基礎・経験があると、よりスムーズに研究を開始できます。失敗にひるまずに挑戦する「忍耐力」や「好奇心・探究心」がより自発的に研究を進める上で役に立ちます。
この研究で身につく能力
新しい固体触媒プロセスの開発は、触媒設計→触媒調製・条件の最適化→触媒活性評価・反応条件の最適化→触媒のキャラクタリゼーション→触媒作用機構の提案→検証・再考といった多くの研究段階からなっています。また、触媒作用に関連する因子は一つであるとは限りません。従って、触媒開発プロセスを経験することで、様々な分析・評価手法の技術習得、多角的に実験データを整理・解析・統合する力を身に付けることができます。また、英語の先行研究を読み自らの研究へフィードバックする力、自分の結果を他人へより分かりやすく伝えるためのプレゼンテーション力を、日常の研究室ゼミや学会発表等を通じて向上できます。
【就職先企業・職種】 化成品・ポリマー製造や自動車触媒製造を主とした化学・材料メーカーなど。
研究内容
触媒は様々な物質変換・合成プロセスに欠かすことができない材料で、身近な生活を力強く下支えしています。そのため、高機能な触媒プロセスの開発は、日常の生活様式の劇的な改善やより低環境負荷なスタイルへと大きく変えるインパクトを持っています。例えば、空気中の窒素の人工的な固定化を実現したアンモニア合成触媒の実現(1918年ノーベル化学賞)は、窒素を含む化学品合成の発展に繋がり、その後の安定的な食料生産による人口増加や火薬製造による工業の発展へと繋がりました。
当研究室では、「従来の在来型化石資源の利用技術で培われた触媒プロセス技術を生かし、より高効率な触媒を設計するための指針の提案」や、「固体触媒を用いた高効率な次世代バイオマス資源変換プロセスの構築」から、持続可能・低環境負荷な社会形成に貢献できる触媒・資源変換プロセス技術の構築を目指しています。
・金属担持触媒の高機能化に向けた触媒設計と作用機構解明
金属活性点を固体表面に固定化した金属担持触媒は、主に1. 金属活性中心の電子状態や形状、2. 金属活性点の周囲環境、3. 担体の性質によって、その触媒作用が大きく異なります。それぞれの因子を系統的に制御し、対象とする触媒反応への性能を評価することで、求める触媒作用に対して選択的に欲しい性能を付与できる触媒調製指針の策定を目指します。例えば、異種金属を合金化させた活性サイトの構築による高活性化、保護配位剤を作用させることによる活性点周囲の環境制御による高活性・高選択性の発現、特異な構造を有する担体合成による超高活性化を実現しています。
・高効率なバイオマス資源変換を実現する固体触媒プロセス開発
バイオマス資源は再生可能でカーボンニュートラルであることから、持続可能な次世代資源としての活用が期待されています。しかし、低いLCA(ライフサイクル・アセスメント)が課題です。固体触媒を用いた高効率プロセスの実現によるバイオマス資源利用の拡大を目指しています。例えば、常圧水素によるバイオ燃料製造プロセス、非可食性グルコサミン類からの高品位化成品合成プロセス、高活性な酸- 塩基反応プロセス、バイオマス由来有機酸・脂肪酸の高効率な水素化転換を実現しています。また、バイオマス資源の連続的なフロー変換プロセスの展開に必要な課題抽出とその改善にも取り組んでいます。
主な研究業績
- S. D. Le, S. Nishimura: Selective hydrogenation of succinic acid to gamma-butyrolactone with PVP-capped CuPd catalysts. Catal. Sci. Technol. 12 (2022) 1060.
- K. Anjali, S. Nishimura: Efficient Conversion of Furfural to Succinic Acid using Cobalt-Porphyrin based Catalysts and Molecular Oxygen. J. Catal. 428 (2023) 115182
- X. Li, S. Nishimura: Synthesis of 5-Hydroxymethy-2-furfurylamine via Reductive Amination of 5-Hydroxymethyl-2-furaldehyde with Supported Ni-Co Bimetallic catalysts. Catal. Lett. 154 (2024) 237.
使用装置
触媒活性評価(GC, HPLC, GC-TOFMS, FTICR-MS, 液体 NMR)
触媒構造評価(XRD, ガス吸着 / 脱着 , SEM/TEM, XPS, 固体 NMR, FT-IR, TPR/TPD, パルス分析など)
状況に応じて、外部の共同利用研究施設(KEK-PF, SPring-8, SAGA- LS など)での XAFS 測定も行います。
研究室の指導方針
当研究室では、月1~2回の研究室ゼミ(研究進捗報告・ディスカッション)を行います。コアタイムは設けませんが、社会人生活に向け て規則正しい生活リズムを作って実験・大学院生活を送ってください。本学には様々な分析機器が共通設備として整備されており、 装置によっては専門職員からのサポートも得られる充実した環境が整っています。在籍中にこのサポート・分析体制を存分に活か し、自らのスキルアップを実現してほしいと思います。在籍中に得られた成果は、国内外での学会等で対外発表を行うことを推奨 します。また、修了生1人に対して1報以上の学術論文・国際会議プロシーディングス等を公開し、各学生の成果を残せるように努めています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/~s_nishim/index.html
人工細胞膜の形や動きを探求する


人工細胞膜の形や動きを探求する
生体ソフトマター物理研究室
Laboratory on Biological and Soft Matter Physics
准教授:濵田 勉(HAMADA Tsutomu)
E-mail:
[研究分野]
ソフトマター物理、生物物理
[キーワード]
ソフトマター、人工細胞、生体膜、リポソーム、相分離、分子ロボティクス
研究を始めるのに必要な知識・能力
リポソームの実験に興味を持って楽しく取り組めること、物理・化学の基本的な知識があることが望ましいです。
この研究で身につく能力
- 人工細胞膜の実験技術
- ソフトマターの物理化学に関する知識
- 光学顕微鏡を主とする分析装置の取り扱い技術
- 英語の学術論文を読み書きする力
- 学会発表や修士・博士論文などで成果を表現する力
【就職先企業・職種】 化粧品、食品、化学、機械、バイオ研究開発など
研究内容
両親媒性ソフトマターである脂質分子は、自己集合して膜を形成します。脂質膜は、2次元膜面内での相分離や、3次元空間でのベシクル変形などの多様な物理現象を示し、その構造は弾性エネルギーにより支配されます。生体細胞は、この脂質膜を器・界面として利用しています。ミトコンドリア・小胞体のような複雑な構造体を形成したり、膜の融合・分裂などのダイナミックな動きが物質輸送を行っています。また、脂質膜小胞は、ドラッグデリバリーや化粧品などの材料としての応用開発も進められています。
私たちは、ソフトマター物理学的な視点から、細胞サイズの人工膜小胞(リポソーム)をデザインします。分子が集まることで創発する膜の秩序状態やダイナミクスに注目し、特に相分離・相転移などの物理現象が関連する膜の動的な構造や機能の研究を進めています。多様な膜現象を支配する物理化学法則の解明や新奇現象の発見を目指し、膜の世界を探求します。
1.膜の動態コントロール
光応答性分子を膜に導入することで、膜の融合、相分離の生成・消滅、小胞の開閉(細胞のオートファジーに類似した動き)、膜の出芽(細胞のエンドサイト-シスに類似した動き)を光で制御できることを発見しています。ナノメートル領域の膜分子の反応を、マイクロメートル領域の膜ダイナミクスに変換する機能システムを、膜の物性に基づき設計します。
2.膜の相分離現象
生体細胞膜を模倣した不均一な膜表面(相分離構造)を人工的に作り出し、不均一パターンを動的に制御する因子や法則姓を明らかにします。これまでに、分子の電荷による影響や、膜曲率との関連、コロイドやDNA等のゲスト分子との相互作用について明らかにしています。
3.膜の力学応答
物理的刺激に対する膜ダイナミクスの研究を行っています。これまでに、シアストレスや浸透圧によって膜面の相分離構造・パターンが変化することを発見しています。刺激の強さ、温度、膜の分子組成などに依存した、膜の応答ダイナミクスの体系化を進めています。
主な研究業績
- "Photo-induced fusion of lipid bilayer membranes" Y. Suzuki, et al., Langmuir, 33, 2671 (2017).
- "Domain dynamics of phase-separated lipid membranes under shear flow" T. Hamada et al., Soft Matter, 18, 9069 (2022).
- "人工細胞膜のダイナミクス解析と構造制御" 濵田勉, 応用物理, 86, 875 (2017).
使用装置
画像解析システム
蛍光・位相差顕微鏡
研究室の指導方針
私たちは、人工細胞膜の新奇現象を発見し、膜の新たな可能性を表現することで、膜系が示す物理現象の原理究明を目的に研究をしています。研究活動を通して、基礎知識を活用し課題を解決する能力を養い、好奇心を持ち自ら調べ学ぶことの楽しさを経験してもらいたく思います。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/hamada
からだの中のコミュニケーションツール・糖鎖に挑む


からだの中のコミュニケーションツール・糖鎖に挑む
分子糖鎖科学研究室 Laboratory on Molecular Glycoscience
准教授:山口 拓実(YAMAGUCHI Takumi)
E-mail:
[研究分野]
糖質科学、有機化学、生体機能関連化学、超分子化学、生物物理学
[キーワード]
糖鎖、分子認識、生命分子科学
研究を始めるのに必要な知識・能力
化学も生物も興味がある、という幅広い好奇心。新しい研究分野を創ることへの意欲。有機化学や物理化学、生化学などを扱いますが、その知識・技術は研究を通して身につけていくことができます。
この研究で身につく能力
当研究室が主な研究対象とする糖鎖は、創薬や医療のターゲットとして大きな注目を集めています。ところが、その取り扱いの難しさから、糖鎖に向き合った研究は多くはありません。既存のやり方にとらわれず、どうしたら問題を解決できるのか?自由な発想と論理的な思考によってプロジェクトを推進する力を身につけます。また、有機合成化学を中心に、分析化学やバイオテクノロジーなどの知識・技術を習得することができます。
【就職先企業・職種】 化学・材料⼯学系企業
研究内容
糖鎖 第3の生命分子鎖
糖鎖は、タンパク質・核酸とならぶ第3の生命鎖ともよばれ、私たちの生命活動の様々な場面で重要な働きをしています。例えば、糖鎖は細胞同士の接着をはじめ、生体内でのコミュニケーションにとって不可欠な役割を担っています。その一方で、糖鎖は、インフルエンザのようなウイルスの感染、がんの転移、さらにアルツハイマー病の発症にも深く関わっていることがわかりつつあります。また、バイオ医薬品の多くには糖鎖が関与しており、糖鎖は医薬品の特性に重要な因子としても注目を集めています。
糖鎖研究について
このように糖鎖は、創薬や医療のターゲットとして脚光をあびています。しかし、糖鎖の重要性が広く認識されてきたにもかかわらず、糖鎖そのものに対する研究はまだまだ発展途上です。例えば、多くのタンパク質のかたち(立体構造)が次々と明らかになってきているのに対し、糖鎖の3次元構造はほとんど未解明であるばかりでなく、アプローチ法すら十分に確立されていません。
糖鎖を知る 糖鎖を使う
私たちは化学的な手法を基盤にした多角的な実験を展開し、糖鎖研究に挑んでいます。糖鎖に構造情報取得のための化学プローブを導入することで、分子分光法による計測と分子シミュレーションを活用した立体構造解析を可能とし、水中で揺らめく糖鎖の姿を描き出すことに成功しました。さらに、細胞表面を覆う糖鎖を模倣したモデル化合物の合成や、糖鎖を応用した細胞機能の制御にも挑戦しています。

図1.糖鎖の3次元構造
化学と生物学の融合 その先を目指して
ライフサイエンス全体でみても、糖鎖をいかに取扱うかは今後の大きな課題となってきています。化学と生物学の融合による糖鎖研究を進展させることを通して、新たなサイエンスの地平を切り拓き、社会に貢献していきたいと考えています。
糖鎖は柔軟な構造をもち、水中で絶えず揺らいでいます。糖鎖と生体分子の相互作用は、とてもダイナミックな過程で進行します。図は、細胞の中でタンパク質の運命決定に関わる糖鎖の化学構造と立体構造モデルです。実験とコンピュータシミュレーションを組み合わせ、その姿を明らかにすることができました。
主な研究業績
- Comprehensive characterization of oligosaccharide conformational ensembles with conformer classification by free-energy landscape via reproductive kernel Hilbert space, T. Watanabe, H. Yagi, S. Yanaka, T. Yamaguchi, K. Kato, Phys. Chem. Chem. Phys., 23, 9753–9760, 2021.
- Experimental and computational characterization of dynamic biomolecular interaction systems involving glycolipid glycans, K. Kato, T. Yamaguchi, M. Yagi-Utsumi, Glycoconj. J. 39, 219–228, 2022.
- NMR analyses of carbohydrate–water and water–water interactions in water/DMSO mixed solvents, highlighting various hydration behaviors of monosaccharides glucose, galactose and mannose, H. Tatsuoka and T. Yamaguchi, Bull. Chem. Soc. Jpn., 96, 168-174, 2023.
使用装置
核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定装置
高速液体クロマトグラフィ
質量分析計
大規模計算機
研究室の指導方針
卒業研究の際、自分で合成した分子の完成をはじめて確認したときのドキッとした感覚は今でも覚えています。何かを新しくつくることへの意欲を大切にしたいと思います。また、実験データやアイデアについて研究室の仲間と相談することや、学会で研究成果を発表し議論することなど、研究を通したコミュニケーション能力の向上を重視します。これだけはゆずれない!という自分の幹を太く育てながら、広く科学を学んでいきます。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/t-yamaguchi/