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世界初:第一原理量子モンテカルロ法による格子振動計算に成功

世界初:第一原理量子モンテカルロ法による格子振動計算に成功

ポイント

  • 中野助教らが開発しているソフトウェアパッケージ「TurboRVB」により、第一原理量子モンテカルロ法に基づいた固体周期系の格子振動計算に世界で初めて成功。
  • 第一原理量子モンテカルロ法は、従前の電子状態計算では定量的に扱えない強相関系物質への適用に強みを持つ。本成果により、強相関系物質の物性解明に対する、計算科学からのアプローチがさらに加速することが期待される。
  • 近年、大型計算機の発展に伴い、計算科学に基づいた演繹的な材料設計を目指す「マテリアルズ・インフォマティクス」の研究が盛んに行われるようになった。本研究の成果は、従前法よりも高精度な演繹的材料設計を可能とする基盤技術となる。
 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長:寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 環境・エネルギー領域の前園研究室に所属する中野 晃佑助教らは、国際先端研究大学院大学(SISSA/伊)のSandro Sorella教授、ソルボンヌ大学(仏)のMichele Casula研究員 (CNRS常勤研究員)、同Tommaso Morresi博士研究員、及び本学の前園 涼教授と共同で、第一原理量子モンテカルロ法のソフトウェア「TurboRVB」を利用し、世界初となる第一原理量子モンテカルロ法による固体周期系の格子振動計算 (フォノン分散計算)に成功したと発表した。本成果は、米国物理学会が発行するPhysical Review Bに3月15日付けでLetter論文 (旧Rapid communication)として掲載され、特に重要な成果としてEditors' Suggestionにも選ばれた。

 シュレーディンガー方程式は、物質の電子物性を記述するための基本的な方程式であり、ミクロなスケールを対象とする計算科学の研究は、この方程式を厳密に解くことを究極の目標とする。シュレーディンガー方程式を実験値に依らず解く計算手法を、総称的に「第一原理計算」と呼ぶ。現在、最も普及している第一原理計算は、密度汎関数理論 (Density Functional Theory:DFT)に基づく方法であり、凝縮系物理学分野において、数多くの成功を収めている。しかしながら、密度汎関数法は、交換相関汎関数の選択によって大きく予見が変わるという大きな問題点があり、より厳密な、次世代の電子状態計算開発が望まれてきた。

 「第一原理量子モンテカルロ法」は、本学の中野助教が主務とする、モンテカルロ法を利用して多体シュレーディンガー方程式を解く手法であり、結果が交換相関汎関数に依存しない点などから、次世代の厳密計算手法として期待されてきた。しかしながら、第一原理量子モンテカルロ法においては、厳密なエネルギー値は計算可能でも、その微分値 (e.g., 原子に働く力)の評価が容易ではないという問題が長年残されてきた。そのため、材料開発研究において重要になる、安定構造の探索 (i.e., 構造最適化)や、格子振動 (i.e., フォノン)、自由エネルギー等の計算が出来ないことで、その応用範囲が限定されていた。

 今回、中野助教らは、第一原理量子モンテカルロ法における、固体周期系での原子に働く力の評価値が持つ統計誤差発散の問題が、利用する基底関数の重なり行列の条件数、つまり、基底関数同士の線形従属性に起因することを発見し、その基底関数の重なりをうまく排除してやることで、これまで問題となっていた統計誤差の発散を劇的に抑えることに成功した(図1)。中野助教らは、その開発した手法を、参照系として典型的な物質であるダイヤモンドに適用し、実験値と一致するフォノン分散が得られることを確認した(図1)。今回の成果は、これまで限定されてきた第一原理量子モンテカルロ計算の応用範囲の裾野を大きく広げる成果であり、これまで計算材料科学が取り扱いに難渋してきた物質に対しても精度の高い格子物性計算を可能にする、画期的な成果である。

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図1 (a) TurboRVBにより計算されたダイヤモンドのフォノン分散。実験結果とよく一致しており、また、これまで利用されてきた密度汎関数計算の結果を有意に改善する。(b) 周期系における原子に働く力の評価値が持つ統計誤差が、利用する基底関数の重なり行列の条件数に依存することを示した図。

 本研究における第一原理量子モンテカルロ計算は、本学の情報社会基盤研究センターが有する大型計算機 (Cray-XC40)、及びHPCIシステム利用研究課題 (課題番号:hp200164)を通じて提供を受けた、スーパーコンピュータ「富岳」の計算資源を利用して実施された。また、本研究に関連し、中野助教が課題代表者である「第一原理量子モンテカルロ法:ジェミナル型多体波動関数に基づく強相関物質の動的物性研究」が令和3年度の富岳におけるHPCIシステム利用研究課題として採択されている (課題番号: hp210038)。今後は、富岳などのエクサスケール級スーパーコンピュータの計算機能力を最大限に活用し、従前の電子状態計算が取り扱いに難渋する強相関系物質への本手法の適用を本格的に進めていく計画である。

【論文情報】

掲載誌 Physical Review B (Selected as an "Editors' Suggestion")
題目 "Atomic forces by quantum Monte Carlo: Application to phonon dispersion calculations"
著者 Kousuke Nakano*, Tommaso Morresi, Michele Casula, Ryo Maezono, and Sandro Sorella*.
掲載日 2021年3月15日にオンライン版に掲載
DOI 10.1103/PhysRevB.103.L121110

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令和3年3月19日

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