産学官連携の取り組み

  • 2020年06月23日 (後編)中小企業のIoT導入の道を開き、IoEで農業や地域の課題解消に挑む
    【シーズ レポート】 中小企業のIoT導入の道を開き、IoEで農業や地域の課題解消に挑む(後編) 前回に続き内平教授のIoTの研究を紹介する今回。内平教授は現在のIoTシステムに欠けているところを指摘し、その解消に向けたAIを使ったシステムの研究を続けています。AIによってIoTが威力を発揮する分野はさらに広がるとする、その様子を見ていきます。   人間の感覚が素晴らしいセンサーとして機能 「音声つぶやきシステム」でIoTからIoEへ 現在、IoTの情報収集というと物理センサーに注目が集まりますが、「物理センサーだけで全てのデータを取るのは難しいのではないでしょうか」と、内平教授はデータ収集における物理センサーの限界を指摘します。そのうえで「人間は五感を持ち、どんなセンサーより感じ取る力があります。ですから人間を素晴らしいセンサーとすることで、物理センサーと合わせて初めて意味のあるIoT になると思います」と話し、IoTの今後の可能性を強調します。 音声つぶやきシステム 内平教授は人間をセンサーとする取り組みとして「音声つぶやきシステム」を開発しました。これは医療・介護の現場で、患者や入居者の表情の変化や発言等、スタッフの気づきを記録し応用するシステムとして手掛けたものです。介護施設で試行評価を行うと、スタッフの連携、ケア記録ほかの品質が向上し効果が確認されました。 「音声つぶやきシステムは人間の活用を主眼に置いています。その背景には、IoTを機械だけの閉じたシステムではなく、人間が関わることでより使いやすくできる、との考えがありました」と、内平教授はその開発の経緯を打ち明けます。 前編で内平教授は、現在のIoTの開発に求められているものとして、現実のビジネスと様々なデータを読み解くAIシステムをトータルに設計すること、と指摘していました。 「音声つぶやきシステム」はまさに、仕事の現場でのつぶやきや表情等の非定型データをAIが処理し、その結果を現場にフィードバックするもので、今のIoTの開発ニーズを満たすものと言えます。 これは人間センサーによる気づきの情報と従前の物理センサーからの情報の融合であり、IoTの高度化というよりIoE(Internet of Everything モノと人のインターネット)を意味し、その本格的な到来はIoTの未来を大きく広げるものだと内平教授は指摘します。   農業分野で進められているIoEの実地研究 農業問題の解消に向けて期待がかかる 二つのセンサーを融合した内平教授のIoEの研究は、農業の分野で進められています。 現在、農業では従事者の高齢化や就農者の減少といった問題を抱え、その対策として、省力化と高品質化を目指したIoTの導入が進行しています。そこでは、様々な物理センサーを使って温度や湿度、土壌の状態等の環境データを収集し活用されています。 一方で、農作物の生育状況や病害虫による被害等は人間が目視で行っているのが現状で、ここでは物理センサーではなく人間が持つ五感がものを言います。 今回の内平教授の研究では、物理センサーが収集する気温、湿度、土壌等の状況と人が音声でつぶやく実際の農作物の状況を合わせてクラウド上のAIが分析、判断することで、様々な気づきをフィードバックする、新しい時代のIoT、IoEによる農業ナレッジマネジメントシステムの実現に向けた取り組みが行われています。 農業ナレッジマネジメントシステム   経験者の潜在的な知識がIoT、AIによって顕在化 IoEによる知識の継承は様々な業界で応用が可能 農業分野に限らず、いろいろな業界で少子高齢化等の進行による影響が出てきています。 例えば製造業では、高度な技術を持つ熟練作業者が引退する事態は珍しくありませんが、そのようなケースでも、熟練者が発するつぶやき等のデータと物理センサーによるデータを融合させることで、知識や技の継承がなされることが期待されます。 内平教授は「人間センサーと物理センサーの融合の取り組みは世界的にもユニークな研究ですが、これこそ将来のIoTの本流になると思います」とIoTのこれからを見据え、さらに「世界がこの二つのセンサーを合わせたIoT、IoEを取り入れる時代が必ずくると思うので、この分野で先頭に立ちたいですね」と意欲を見せます。 これからのIoT 一方で、「IoTニーズの高まりを肌で感じていますが、ビジネスの現場では、自社の製品やサービスにどのように活かせばいいのか分からないという、期待と現実の間にギャップがあるように思えます」と、IoTの導入に向けたハードルの存在を認める内平教授は、「そのギャップを埋めるのが僕らの仕事なんですけどね」と、IoTの活用促進に向けた自らの使命を口にします。 そして、「今後、農業での活用は有望なので、人間センサーと物理センサーの融合に関心がある方と、ぜひお話ししてみたいですね」と、企業等との共同研究について積極的な姿勢を示す内平教授でした。 内平研究室メンバー   <シーズレポート> 中小企業のIoT導入の道を開き、IoEで農業や地域の課題解消に挑む(前編)はこちら。   本件に関するお問い合わせは以下まで 北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部 産学官連携推進センター Tel:0761-51-1070 Fax: 0761-51-1427 E-mail:ricenter@jaist.ac.jp ■■■今回の研究に関わった本学教員■■■ 知識マネジメント領域 内平直志教授 https://www.jaist.ac.jp/areas/km/laboratory/uchihira.html
  • 2020年06月09日 (前編)中小企業のIoT導入の道を開き、IoEで農業や地域の課題解消に挑む
    【シーズ レポート】   中小企業のIoT導入の道を開き、IoEで農業や地域の課題解消に挑む(前編) 産学官連携の取り組みのページでは、これまでの共同研究に加え、本学教員の研究成果であるシーズも紹介していきます。その第一回目は、知識マネジメント領域の内平直志教授が研究に取り組んでいるIoTを取り上げます。   技術の進歩でIoTを取り巻く環境が大きく変化 製造業の中小企業こそ導入して製品の差別化を IoTは既に一般的な用語となり、高品質な製品やサービスを提供するためにその導入を考えている企業は少なくないのではないでしょうか。 一方で、IoTに欠かせないAI(人工知能)等について、中には、そんな難しいことは大企業だけの話、優秀なプログラマーを抱えている一部の企業にしかできない、と考えている人がいるかもしれません。 知識マネジメント領域の内平直志教授 しかし、現在のIoTに関する状況は大きく様変わりしています。 まず、内平教授はIoTの意味について、「現実空間とクラウドをインターネットで相互に結合し、現実空間のモノやヒトからの情報をインターネット経由でクラウドに蓄積し、AI等を用いて様々な処理を行い、現実空間にフィードバックするための仕組み」とIoTの概念が以前より広がっているとし、より高度な活用、展開が繰り広げられていると指摘します。 さらに、コンピュータやAI、アプリケーション、センサー、通信といったIoTを構成する様々な技術が高度に成熟しながら調達コストが低下し、IoTは中小企業にとっても導入しやすい環境が整っています。 IoTの概念図 このような状況の下、「製品に新たな価値を付与する製造業のサービス化こそIoTの強みなのです」と内平教授は強調します。一例を挙げると、あるエンジンメーカーは、稼働しているエンジンの故障の予兆をIoTセンサーがとらえることで早めの対処を可能とし、整備にかかる労力や時間といったコストを大幅に削減することに成功しています。このことはIoTの有効性を如実に物語っています。   IoTを導入する際の課題を解消する方法論を作成 IoTの活用を推し進める一層の高精度化を目指す 大きく改善されたIoTの周辺環境ですが、では実際に導入する時は何から始めればいいのでしょう。内平教授は、企業がIoTを導入する際に対応しなければならない手順を方法論としてまとめています。「まず解決したい課題や将来のビジョンを明確にすることが何よりも大切です。IoTはあくまでも課題の解消や将来の目標を実現させるためのツールでしかありません。IoTを、導入そのものを目的化しないように注意する必要があります」と、内平教授は企業が陥りやすいポイントを示します。 「今回のIoT導入の方法論は、ビジネス的視点とシステム的視点を一貫して設計するところがポイントです」と内平教授は言います。それは、内平教授が東芝で長らくソフトウェア設計の研究に携わり、その後付加価値をもたらすサービスの設計、そしてビジネスへの応用を目指したIoTの設計と、順に研究領域を広げてきた背景があるからこそ実現できたものと言えます。 IoT導入の方法論(IoTイノベーションデザイン手法) 現在のIoTの開発には、センサーからデータを収集し分析するシステムとそれを用いて利益をあげるビジネスモデルをトータルに設計することが求められています。その意味で、内平教授が提案しているビジネス的視点とシステム的視点を有するIoT導入のための方法論(IoTイノベーションデザイン手法)は、導入の前に立ちふさがる様々な課題の解消につながるでしょう。そのうえで、「多くの企業に私たちのIoT導入の方法論を使ってもらい、さらに実践を通じて方法論を洗練化していきたいですね」と内平教授はこれからの研究の展開に意欲を見せます。 IoTイノベーションデザイン手法を解説した書籍 そして、「IoTによる製造業のサービス化をさらに進展させるためには、生産設備等のモノからデータをとり、データを分析して価値を導き出す事例を積み重ねる必要があります。また、IoT導入の方法論は、IoTやAIを活用して地域課題を解消する場面でも活用できます。希望としては、こういったデータの収集、分析、価値化に関心があるところと協力して研究を進められればと思います」と語り、IoTの導入に前向きな企業、団体との共同研究に期待しています。 石川県能美市のIoT/AIの課題解決にIoTイノベーションデザイン手法を活用   次回は、人間センサー(五感)から得られる「気づき」もデータ化して活かす、IoE(Internet of Everything  人とモノのインターネット)の研究に取り組む内平教授を紹介します。 <シーズレポート> 中小企業のIoT導入の道を開き、IoEで農業や地域の課題解消に挑む(後編)はこちら。   本件に関するお問い合わせは以下まで 北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部 産学官連携推進センター Tel:0761-51-1070 Fax: 0761-51-1427 E-mail:ricenter@jaist.ac.jp   ■■■今回の研究に関わった本学教員■■■ 知識マネジメント領域 内平直志教授 https://www.jaist.ac.jp/areas/km/laboratory/uchihira.html
  • 2020年05月29日 (後編)高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出
    【産学連携レポート】 <episode 2 > (後編)高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出   前編では、本学との共同研究によって、優れたオリジナル素材を始め様々な材料の構造や性質が明らかになり、今後の開発の道が開けたことを紹介しました。後編では、これからの展開や共同研究の裏側を見ていきます。   求める材料を作製するデザイン手法を確立 スーパーキャパシタの実現は安全性もカギ 松見教授は、共同研究の現在について、「グラフェン(炭素原子が蜂の巣状に互いに強く共有結合した単原子シート)やカーボンナノチューブを用いた様々な処理方法を検討し、本学の充実した装置群を活用して材料キャラクタリゼーションを繰り返してきました。今は、求める材料を必要十分なプロセスで作製できるデザイン手法の確立に近づいています」と手応えを語ります。 共同で開発した材料を取り出して確認 一方で、高精度なキャパシタ・電池の開発は安全性の担保が不可欠です。松見教授が研究しているリチウム電池の安全性は、例えば、有機溶媒(水に溶けない物質を溶かす有機化合物の総称)を使わないことで発火や爆発を回避するものであることに対して、スペースリンク(株)が開発を目指しているスーパーキャパシタはより安全な電解質を使って安全性に対応するものです。 また、同社は環境負荷が少ないデバイスであることも目指しているので、再利用できる電解質であったり、最初から環境負荷が全くないカテゴリーの電解質であったり、いわゆるグリーン溶媒と言われるものを使用することも重要になると考えています。松見教授は、「その点では、我々もリチウムイオンの研究でグリーンな溶媒を使うことに取り組んでいるので、環境負荷の少ないデバイスの開発はお互いに有意義な研究です」と話します。   共同研究を経験して広がった将来の可能性 サポイン事業に採択され、新たなステージへ 今回の共同研究を通じて梶浦氏は、「分析結果、実験結果、考察などの信頼性が非常に高いと感じました。このことは松見研究室に優秀なスタッフ、学生がいるからだと思います。共同実験を何度か行う中で、実験の準備や進め方、評価方法など、参考になるところがとても多かったです」と感想を話します。さらに「共同研究を行うまでは、この実験結果はおそらくこのようなことが起きているのだろう、といった定性的な考察しかできませんでしたが、共同研究による分析結果に基づくことで定量的な考察ができるようになりました。また、いただいた学術的な知見に基づいたコメントによって、次にやるべきことがより明確になりました。今回、令和元年度サポイン事業の交付が決定したのも、JAISTとの共同研究が大きな影響を及ぼしたと考えています」とその意義を強調します。 ※サポイン事業の採択理由は「オールカーボンキャパシタからなる蓄電デバイスの開発。①急速充放電が可能であり、②リチウムイオン電池に相当する大容量を有し、③高い安全性を担保し、かつ④長寿命である蓄電デバイスが強く求められてきている。弊社は、これらニーズに応えるべく、カーボンナノチューブやグラフェンなどのナノ炭素材料を活用したオールカーボンキャパシタからなる蓄電デバイスを開発する」。 遠心分離実験にて(内尾氏)   情報の共有は英語で行われるWeb会議やメールで 熱い想いで地理的なハンデを乗り越えて続く研究 加賀電子(株)の内尾氏は、「共同研究は期待していた以上に進んでいます。実験の経過はその都度、WEB会議で報告していただいています」と研究の進み具合を評価します。 今回のケースは、加賀電子(株)は東京都秋葉原に、スペースリンク(株)は神奈川県川崎市に拠点があり、地理的なハンディキャップを抱えながら共同研究が進んでいます。このハンデを乗り越えるには、双方のモチベーション、熱意が重要になると松見教授は指摘し「加賀電子(株)、スペースリンク(株)の皆さんは非常に熱心に研究と向き合ってくださっています」と、両社の熱い姿勢を口にします。さらに、「私の研究室のメンバーは外国人研究者が多いのですが、両社の担当の方も英語が堪能であるのに加えて、非常にオープンに接してくれるので、メンバーも大変喜んでいます」と、研究員の指導においても成果は少なくないことを指摘します。 月次定例会の様子。定例会はスケジュールやこの1ヶ月の成果、現在の位置を確認し、次に何をすべきかを議論する 今後の展開について松見教授は「最終的なアウトプットに向けては、本研究室がかねてから取り組んでいる高電圧対応の電解質の研究とも融合させて、さらに高いレベルのスーパーキャパシタの実現を目指したい」と話します。一方の梶浦氏は「松見教授が研究されているリチウムイオン二次電池とスーパーキャパシタ両方の特性を持ち合わせた新規エネルギーデバイスを創出したいですね」と、大きな目標を掲げます。 スーパーキャパシタの登場が社会に与える影響は非常に幅広いものがあります。身近なところでは、スマートフォンやタブレット等の端末は1分以内で充電が完了します。またEVやロボット、あるいはドローン等の充電時間が大幅に短縮されると、それらの稼働率の劇的な向上につながります。スーパーキャパシタの実現に向けて、炭素系材料による電極開発に向けた共同研究は今も熱く続けられています。 研究室メンバーとの食事会は常に刺激的な会話に溢れる   < episode 2 > 高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出(前編)はこちらです。 ■■■今回の共同研究に関わった本学教員■■■ 物質科学領域 松見紀佳教授 https://www.jaist.ac.jp/areas/mc/laboratory/matsumi.html
  • 2020年05月15日 (前編)高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出
    【産学連携レポート】 高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出(前編) 「産学官連携の取り組み」の第2回目は、物質科学領域の松見紀佳教授の研究室と、スペースリンク(株)、加賀電子(株)との共同研究である「次世代蓄電池として期待される大容量のキャパシタ(急速充電を得意とするエネルギーデバイス)の実現に向けた炭素系電極開発」を取り上げます。 現在、EV(電気自動車)や再生可能エネルギーの分野で補助電源として使われているキャパシタですが、単位重量当たりの蓄電能力が低いことがネックとなっています。その大容量化に向けて、加賀電子(株)が、独自のナノカーボン制御技術を持っているスペースリンク(株)との共同研究を本学に持ち掛け、リチウムイオン2次電池等の研究をしている松見教授の研究室との取り組みが始まりました。   急速な充放電が可能で耐久性にも優れるキャパシタ 理想的なエネルギーデバイスの、蓄電大容量化に挑む 今回の共同研究について、加賀電子(株)技術統括部FAE技術グループの内尾誠一郎氏は、「スペースリンク(株)はナノ構造解析機器、測定機材、サンプル作製設備等が不足しているので、JAISTの高度な知見と経験がある研究員の方によって、炭素系材料の分析と実験データによる理論的な考察、助言をお願いしたいと思いました」とスペースリンク(株)と本学とのマッチングの背景を話します。 松見教授は以前から、大容量で充放電サイクル寿命に優れる等の特徴を持つスーパーキャパシタには大きな可能性を感じていたと言います。また、「加賀電子さんとスペースリンクさんが開発されている環境負荷の少ないグリーンキャパシタは、私たちの研究室でもグリーンなテクノロジーを目指したい思惑や方向性が一致していたので、ぜひご一緒にやらせていただきたいと思いました」と当時を振り返ります。 スペースリンク(株)の梶浦尚志次世代蓄電デバイス事業部長は、共同研究を始めるに当たり、「既に社内で炭素素材に関する興味深い実験データが得られていたので、JAISTの最先端の分析装置で炭素材料の高精度な評価をしていただくことや、松見教授や研究室メンバーとの議論を通じて学術的に実験結果の考察が深められばと思いました。そして、学術的な考察を反映した電極構造設計につなげたかった」との期待を持っていました。 開発が進むスーパーキャパシタのイメージ画像(スペースリンク社のホームページより)   スペースリンク(株)の優れた炭素素材を詳細に解析 構造の把握がその後の材料作製プロセスを確かなものに 実際の分析では、スペースリンク(株)は非常に良い炭素材料を持っていましたが、その構造の詳細は分かっていなかったと松見教授は言います。そこで、その炭素素材の構造を詳細にキャラクタリゼーション(材料の構造や性質の調査、測定)するところから研究は始まりました。 炭素素材の構造が明らかになると、素材の合成手法を確立するための実験に移ります。構造の変化がどのような影響を与えるのか、合成処理の方法と構造のモディフィケーション(部分的な変更や修正。加減)にどのような相関関係があるのか等の解明に臨みました。そして、これらを通じて、求めている材料開発の方向性を明確にして、材料の作製方法やそのプロセスの簡略化を図るとともに、コストの低減にもつながる開発を一緒に取り組みました。 様々な材料の構造が明確化され、言わば材料の現在地が示されると、これまでは見えていなかった多様な事実を目にできました。この時のことを梶浦氏は「共同研究の成果が形となって現れたことに、興奮を抑えきれませんでした。同時に、更なる展開を可能にするためにはどうするべきかを考えるよう、自分を落ち着かせました」と、当時の熱い気持ちを振り返ります。 電気化学的特性評価の模様    < episode 2 > 高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出(後編)はこちらです。   ■■■今回の共同研究に関わった本学教員■■■ 物質科学領域 松見紀佳教授 https://www.jaist.ac.jp/areas/mc/laboratory/matsumi.html
  • 2020年04月28日 (後編)熱をエネルギーに変える材料開発に挑む
    【産学連携レポート】 <episode 1 > (後編)熱をエネルギーに変える材料開発に挑む   3者の強力なタッグで進む共同研究 今回の共同研究は(株)白山が熱電材料の開発を、石川県工業試験場が構造解析を、そしてJAISTが電子構造計算に基づく物性予測から研究の指針を示すこと、をそれぞれが担当して進められました。 (株)白山は当初は県外の開発拠点で熱電開発をしていましたが、開発の効率化を求めて拠点を移したのが石川県工業試験場でした。石川県工業試験場で共同研究を担当した電子情報部の豊田丈紫氏は移転の理由を次のように語ります。「熱電研究で優れた成果を世界的に発信されているJAISTとの産学連携の素地が石川県にあることが評価されたのだと思います」。 高分解能分析走査電子顕微鏡   石川県工業試験場と(株)白山の開発は、事業化が難しいとされる熱電開発分野で外部資金を確保しながら進められ、産業化の指標となる熱電性能指数ZT=1を示す素子材料を安定的に生産する製造プロセスを確立する、という大きな結果を生みます。 その後、(株)白山の関係者がJAIST金沢駅前オフィスで開かれた小矢野教授のセミナーに参加したことを通じてJAISTも共同研究に加わることとなり、熱電材料の開発はNEDOの産学官プロジェクトにつながったのでした。   従来の3倍の出力因子の性能を有する熱電材料の創製に 世界で初めて成功 内田氏が開発を進めるうえで苦労したのは再現性の難しさでした。「良いモノができても再び同じモノができないのです。その時、なぜ良いものができたのかという根拠を、宮田助教がスーパーコンピュータで計算してその都度明らかにしてくれたことはとて有益でした」と言います。 宮田助教は、「スーパーコンピュータは材料の設計指針を立てるのに、材料の電子密度はどのあたりに最適値があるのか、どのような合成条件であれば電子密度の最適化ができ、性能を上げることができるのか、と予測ができたところが大きいですね」とスーパーコンピュータの有効性を指摘します。 そして、3者の共同開発は世界初の成果に結びつきました。 従来、高温部がプラスになるn型熱電材料と比較してその約2割程度の出力因子しか得られていなかった高温部がマイナスになる性質をもつp型熱電材料において、約2割程度から6割以上の性能を有する多孔質p型マグネシウムシリサイド系熱電材料の創製に世界で初めて成功したのです。 今回の新しい技術は、空孔を含まない熱電材料と同程度の導電率を保持しながら低熱伝導率である特殊性を備え、また一般的な生産方式に準じているため、工業生産への移行が容易であるという特徴があります。 ※「熱電材料」熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換する特性を持つ材料 JAISTのスーパーコンピュータ     材料開発と並行して進むモジュールの製作 お互いの強みを活かしながら研究は続く 熱電材料を実際に利用するには”モジュール“という形にくみ上げる必要があり、この研究も進んでいると内田氏は言います。「研究を続けていて改めて思い知らされるのが、我々だけで原理原則、理論を見極めることの難しさです。これまでの3~4年の間にJAISTからのアドバイスはすごく役に立っているので、これからも引き続き指導をお願いしたいです」と内田氏は期待を口にします。 試作した熱電変換モジュール   一方の宮田助教は、「今回の共同研究は、JAISTはシミュレーションや基礎物性の解析など、大学ならではの強みを活かしたアプローチ法で製品化を目指す試みと言え、この手法は凄く良かったと思います」と指摘し、共同研究に確かな手応えを感じています。 内田氏と豊田氏、そして小矢野教授、宮田助教が繰り広げる熱電材料開発の共同研究は、環境に優しい熱からの発電を可能にする材料の創製に向けて、着実に歩を進めています。   産学官連携本部と包括共同研究契約を結ぶ 加賀電子株式会社が確かな存在感を発揮 「今までの熱電変換素子が持つ課題の解決を目指して現在研究中である熱電変換素子の技術が確立されると、全く動力を使わない新しいデバイスとして今まで以上に利用できるようになります。利用される領域としては、車や家電ほか様々な分野で活用されることが期待されます」と、熱電変換の今後を見通しているのは加賀電子(株)の清水正之経営企画室事業開発プロジェクト長(当時)です。 加賀電子(株)は、JAIST産学官連携本部と包括共同研究契約を結んでおり、様々な共同研究において、研究資金の提供だけなくアドバイザーとしても関わっています。小矢野教授は、「加賀電子(株)は商社なので、デバイスの現在の市場の状況や今後の展開について、ビジネスの現場から様々なサジェッションをしてくれるので、大変ありがたい存在です」と、的確なアドバイスに感謝の言葉を口にします。 様々な領域での活用が期待される熱電材料   金沢駅前オフィスのセミナーから始まった3者の共同研究は、世界的な創製に結びつきました。現在は、経済産業省が実施する「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」に採択され、モジュール製造機や評価装置を導入するなどして、製品化に向けた取り組みが進められています。小矢野教授が「体温の熱でも発電できるようになれば、人々の暮らしにとって最も良いエネルギーになる」と語った熱電材料の実現に期待が膨らみます。   < episode 1 > 熱をエネルギーに変える材料開発に挑む(前編)はこちらです。   ■■■今回の共同研究に関わった本学教員■■■ 環境・エネルギー領域 小矢野幹夫教授 https://www.jaist.ac.jp/areas/ee/laboratory/koyano.html 小矢野研究室 宮田全展助教 https://fp.jaist.ac.jp/public/Default2.aspx?id=678&l=0
  • 2020年04月14日 (前編)熱をエネルギーに変える材料開発に挑む
    【産学連携レポート】 <episode 1 > 熱をエネルギーに変える材料開発に挑む(前編) JAIST-NETのホームページに新設した「産学官連携の取り組み」のページでは、JAISTの産学官連携本部が携わっている具体的な個々の事例を各2回に渡って紹介していきます。第1回目は、環境・エネルギー領域の小矢野幹夫教授の研究グループと(株)白山、石川県工業試験場による熱電材料の開発に関わる共同研究をお送りします。産学連携に至った経緯や、その実際を見ていきましょう。   熱を電気に、電気を熱に変換する熱電変換 環境に優しい発電を可能にする材料開発 人が生活を送るうえでエネルギーは欠かせません。そのエネルギーには様々なものがありますが、中でも熱エネルギーは一番たちが悪いものだと小矢野教授は言います。例えば光は100%をモーターで運動エネルギーに変えることができますが、熱エネルギーは絶対に100%を使うことはできない。この一番使いづらいとも言える熱から発電して電力に、つまり質の良いエネルギーに変えていくことは、環境問題等を考えると、とても大事なことだと分かります。 「体温のような熱でも発電できるようになれば、人々の暮らしにとって最も良いエネルギーになる」と小矢野教授が語る固い信念とともに進められているのが、熱電材料開発の共同研究です。   きっかけは金沢駅前オフィスでのセミナー 資金的な課題はNEDOの補助事業で解消 2015年6月。JAIST金沢駅前オフィスの開設記念として「エネルギーや環境問題に対して熱電技術で何ができるか?」と題したセミナーが開かれました。セミナーでは、新しい熱電材料の開発に取り組んでいる小矢野幹夫教授が、排熱から直接電力を得る「熱電発電」について講演し、それを聞いた(株)白山の関係者が熱電材料の共同開発の相談に来られました。既に熱電材料の開発に取り組んでいた(株)白山は、研究に必要となる資金を補助事業で確保することを思い立ち、様々な公募を調べたと言います。そのような中で目に留まったのがNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」プロジェクトでした。すると、応募したNEDOから石川県の大学に熱電を研究されている先生がいると教えられたのが小矢野教授であり、金沢駅前オフィスでの出会いにつながります。   産業側が期待したのはサイエンスと装置 大学が関心を寄せたのは製品化のプロセス 今回の共同研究で(株)白山の内田氏は2つのことをJAISTに期待したと言います。一つはサイエンス、もう一つが装置です。「私たちは新しいモノを作ることはできますが、なぜそうなるのか? といった成果物の背景やバックグランドの理解が追いついていないことが多いです。一方のJAISTは、原理、原則、物理に関する幅広い知見を有しているので、それらをベースにした指導を何度もいただきありがたかったです」と内田氏は感心します。また、JAISTはスーパーコンピュータをはじめ材料解析ができる非常に高度な装置を持っており、内田氏の職場ではできない数々の解析や分析ができたことも大きな力になったようです。 小矢野教授の指導の下、(株)白山との研究を担当したのは小矢野研究室の宮田全展助教でした。元々、理論と実験の両面から材料の探索をしていた宮田助教は、(株)白山から、「材料の理論的な予測や、性能を向上させるための材料の設計指針を予想して欲しい」との要望を受けたと言います。このことは正に自らが普段から携わっていることであり、企業の製品化のプロセスに携われることもモチベーションを高めたそうです。(後編に続く)   > 後編は、世界初の創製につながった産学連携の模様をお伝えします。     ■■■今回の共同研究に関わった本学教員■■■ 環境・エネルギー領域 小矢野幹夫教授 https://www.jaist.ac.jp/areas/ee/laboratory/koyano.html 小矢野研究室 宮田全展助教 https://fp.jaist.ac.jp/public/Default2.aspx?id=678&l=0
  • 北陸地域の産学連携・産産連携のマッチングイベント「北陸メッセ」に向けて Matching HUB Kanazawa2019 新産業創出を目指した地域連携のHUBへ
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JAIST-netとは?

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は、産業界との連携の広がりを目的に、
コアとなる新しい交流の場 JAIST-netを創設します。
この取組みは、本学の有する最先端技術や最新の科学的成果を
企業の皆さまに広くお知らせし、新しい事業や産業の創出につなげて頂くこと、
また各社の固有ニーズや課題に適確に対応し解決に貢献することを目的としています。
本ネットワークを通じて、各社特有の技術ニーズを企業間連携に発展させることにも貢献したいと考えています。
以上のような趣旨に基づき、JAIST-netでは、下記の活動を実施します。

ネットワーク関係図

活動内容

研究成果の産業利用や情報発信、産業界と研究者の交流の促進を目的に
さまざまな活動を行っています。

  • 技術相談(随時)
    技術相談(随時)
  • 技術相談会、セミナーへの招待
    技術相談会、
    セミナーへの招待
  • 産学連携活動等の情報提供(メール配信)
    産学連携活動等の
    情報提供(メール配信)
  • JAIST-net交流会の開催
    JAIST-net交流会
    の開催