研究活動の検索
研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。電子顕微鏡とデータ科学の融合による新奇ナノ物性の探索
電子顕微鏡とデータ科学の融合による
新奇ナノ物性の探索
ナノ物性顕微探索研究室
Laboratory on Microscopic Nano-characterization
教授:大島 義文(OSHIMA Yoshifumi)
E-mail:
[研究分野]
電子顕微鏡、表面界面物性、ナノ物質
[キーワード]
オペランド観察、新計測技術、データ科学
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究は、新しい何かを発見することです。そのなかでいちばん重要なのは「あきらめない」という強い気持ちです。能力としては、数学と物理の基礎知識を持っていることが望ましいです。
この研究で身につく能力
[基礎]:実験・学習・議論をとおして、固体物理学に対する深い理解が身につきます。
[技術]:電子顕微鏡、真空装置、3D-CADソフトの使い方を学びます。
また、Pythonプログラミングによるデータ解析を学びます。いずれも基礎から始めることができます。
[その他]:定期ミーティングでの発表をとおして、自分の研究を他者に分かりやすく伝えるスキルを学びます。
【就職先企業・職種】 電気・材料メーカー、材料分析会社、大学の技術職員など
研究内容

図1 (a) 実験の模式図。試料を保持するための装置 (試料ホルダー) は研究室で独自に開発しました。白金原子鎖の (b) コンダクタンス、(c) 剛性が測定できました。(d) 電子顕微鏡像。白金は暗く見えています。AとBにおいて、左右の白金を橋渡ししているのが単原子鎖です。

図2 (a) 金ナノロッドの電子顕微鏡像。奥行き方向にならぶ金原子の列が明るい点として見えています。(b) 従来手法で測定した原子変位と (c) データ科学で処理した原子変位。原子が正常な位置から左にずれるほど暗い青色、右にずれるほど明るい黄色で示されます。
本研究室では、ナノ材料がしめす新しい現象を探索しています。そのために、次のような研究に励んでいます。
☑ 電子顕微鏡によるナノ~原子スケールでの材料観察
☑ 材料の力や電気化学特性を測定できる新しい装置の開発
☑ データ科学の応用によって電子顕微鏡像から重要な情報を抽出
具体的な研究例を以下に示します。
よく伸びる白金原子の鎖状物質
電子顕微鏡のなかで材料を動かしながら、材料の電気伝導度、剛性、原子のならびを同時に測定できる特殊な試料ホルダーを自作しました1。このホルダーを用いて、幅が原子1個、長さが原子2~5個の白金鎖状物質の特性を調べました (図1)2。生活のなかで目にするふつうの白金は、原子が3次元的に結合しており、わずか数%しか伸びません。しかし、鎖状物質はもとの状態から+24%まで伸びました。1次元の単原子鎖にすることで、白金の結合特性が大きく変わることを発見しました。
データ科学による原子配列の解析
原子の正常な位置からのずれ(原子変位)を測定しました3。 従来の方法では、変位量が小刻みに変化して見えます (図2b)。これは原子変位の情報ではなく、解析のじゃまをするノイズ成分です。そこで、データ科学手法のガウス過程回帰を用いることで、原子変位の情報を抽出することに成功しました (図2c)。測定可能な最小の原子変位は0.7pm(ピコメートル、1兆分の1メートル)ときわめて小さく、材料のなかで生じる2.4pmの原子変位を検出することに成功しました。
主な研究業績
- J. Zhang, et al., Nanotechnology 31 (2020) 205706
- J. Zhang, et al., Nano letters 21 (2021) 3922
- K. Aso, et al., ACS Nano 15 (2021) 12077
使用装置
☑ 超高真空透過型電子顕微鏡
☑ 高度な物性測定をおこなうための電子顕微鏡ホルダー
☑ 3D-CADやデータ解析がおこなえるワークステーションPC
研究室の指導方針
研究室ミーティングを毎週おこなっています。担当の学生が、研究の進捗状況や、興味をもった論文について紹介し、みんなでディスカッションします。担当の頻度はおよそ3週間に1回です。固体物理を学ぶための読書会もあります。学生のあいだでの学びあい・教えあいや、ディスカッションを推奨しています。コミュニケーション能力を高めるために、国内外の学会で発表することも推奨しています。博士学生は、自らの研究に集中して科学雑誌に論文を投稿できるよう、最大限サポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist-oshima-labo.com/
人体に学び、自然を理解し、ナノ戦略で難治性疾患や老化に挑む
人体に学び、自然を理解し、ナノ戦略で難治性疾患や老化に挑む
抗疾患ナノファイター研究室 Laboratory on Anti-Disease Nano-Fighter
教授:鄭 主恩(CHUNG, Joo Eun)
E-mail:
[研究分野]
バイオマテリアル、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ナノメディシン、抗がん治療、アンチエイジング
[キーワード]
生体適合性ポリマー、ナノ粒子、非侵襲的薬物送達、ターゲティング、薬効増幅、緑茶カテキン、メラトニン
研究を始めるのに必要な知識・能力
特別な専門知識や技術は必要ありません。科学への探究心があり、向上心、自他への責任感、本気で世界トップレベルの研究に取り組む意欲と覚悟が大事です。
この研究で身につく能力
バイオマテリアルの合成やナノ粒子の調製から化学物質・細胞・動物を用いた様々な手法の評価まで、学際的な知識や分析技術を経験し習得することができます。社会実装価値の高い医療技術創出を目指し世界最先端技術と競う研究を行う中、実験・ディスカッション・プレゼンテーション・論文執筆を通して、論理的思考、慎重さ、忍耐強さ、トラブルシューティング能力、洞察力、コミュニケーション能力を鍛えられるよう指導します。
【就職先企業・職種】 大学教員、博士研究員、特許審査官、化学企業、製薬企業
研究内容

図1 自然由来のナノファイターによる難治性疾患治療および健康寿命の伸長
当研究室はバイオマテリアルを用いたナノシステムを開発し、現治療法の限界を克服することを目指しています。
昨今、医療技術の発展に伴い世界中の人々の寿命が長くなっていますが、健康寿命の伸長は平均寿命より遅く、そのギャップは老化に伴う様々な疾患による生活質(QOL)の低下や個人と社会への大きな負担をもたらしています。当研究室では自然や人体由来の物質からなる新規な生体分解性バイオマテリアルを合成し、様々な難治性疾患の治療や抗老化作用を発揮するナノ粒子を開発しています。例えば、緑茶カテキンまたは脳内睡眠ホルモンであるメラトニンの誘導体を薬物キャリアとしたナノ粒子の開発により、今まで薬物送達が困難とされている疾患部位(がん・脳・後眼部など)へタンパク質・抗体・低分子・核酸などの性質の異なる様々な薬物を高濃度で疾患部位へ特異的に送達し、従来の薬物治療の大きい問題となっている正常部位への副作用を低減すると共に、緑茶カテキンやメラトニンから由来するキャリア本来の治療効能とのシナジー効果により、著しく薬効を増幅することが可能であります(図1)。このナノ粒子は薬物送達の妨げになっている様々な生体バリアを効率よく克服する高い薬物送達能力と、副作用のない低濃度の薬物を用いても高い薬効を達成する薬効増幅能力を兼ね備えた革新的なテクノロジーであり、トップジャーナルに掲載され高い国際評価を受けています。さらに国際特許(90報以上)の出願・登録および大学や企業との共同研究など臨床応用及び産業化を目指した研究開発を推進します。
従来のDDS製剤とは異なる設計指針によって開発されている当研究室のナノメディシンにより、今まで治療困難であった難治性疾患の治療や老化により蓄積する生体へのダメージの修復を可能とし、健康な生活・社会の実現や産業の活性化を目指しています。
主な研究業績
- N. Yongvongsoontorn, J. E. Chung, S. J. Gao, K. H. Bae, M. H. Tan, J. Y. Ying, M. Kurisawa, Carrier-enhanced anticancer efficacy of sunitinib-loaded green tea-based micellar nanocomplex beyond tumor-targeted delivery, ACS Nano 13, 7591-7602 (2019).
- K. Liang, J. E. Chung, S. J. Gao, N. Yongvongsoontorn, M. Kurisawa, Highly augmented drug loading and stability of micellar nanocomplexes comprised of doxorubicin and poly(ethylene glycol)-green tea catechin conjugate for cancer therapy, Advanced Materials 30, 1706963 (2018).
- J. E. Chung et al. Self-assembled nanocomplexes comprising green tea catechin derivatives and protein drugs for cancer therapy, Nature Nanotechnology. 9, 907-912 (2014).
使用装置
動的光散乱測定装置、紫外可視分光光度計、HPLC、NMR、電子顕微鏡、細胞培養装置、動物実験関連機器、IVIS動物イメージングシステム
研究室の指導方針
自分が行っている研究の科学的・社会的意義やインパクト、そして最先端技術と競うレベルの新規性をしっかり理解することで、熱意と意欲を持って研究を進めるよう鼓舞します。研究の進捗状況に関する十分なディスカッションを行い、総合・分析・判断力や問題解決能力を身につけるよう指導します。研究課題を含め学生の個性と適性に合った方法で段階的なマルチプルマイルストーンを設定し、着実に自信をつけながら成長するよう努めます。迅速な意見交換やチームワークは研究遂行において重要であるため、コアタイム(10-17時)を設けます。雑誌会、研究発表、論文執筆を通して、実力・倫理観・リーダーシップを兼ね備えた科学者として活躍できるよう育成します。
[研究室HP] 作成中
ナノバイオテクノロジー
ナノバイオテクノロジー
ナノバイオ研究室 Laboratory on Nanobiotechnology
講師:高橋 麻里(TAKAHASHI Mari)
E-mail:
[研究分野]
ナノ材料科学、細胞生物学
[キーワード]
ナノ粒子、バイオ医療応用
研究を始めるのに必要な知識・能力
探求心があり、努力することを厭わず、向上心がある方ならバックグランドが違っていても研究を楽しむことができます。研究テーマに対して、自分がこの研究を進めるんだという主体的な立場にたつことが必要です。共同研究をすることが多いため、協調性やコミュニケーション能力も必要となります。
この研究で身につく能力
ナノ粒子の合成法、構造・特性評価及び解析方法に関する幅広い知識。金属・磁性・半導体材料とナノ粒子にすることで現れる特徴的な性質に関する一般的な知識。細胞生物学に関する一般的な知識。新たな課題に対して取り組むチャレンジ精神。
【就職先企業・職種】 製造業(化学、精密機器、ガラス・土石製品、繊維製品、その他製品など)
研究内容
ナノ粒子のバイオ医療応用に関する注目は年々高まっています。私達は金属・半導体・磁性体をナノサイズにすることで現れるバルクとは異なる性質を利用して、ナノ粒子のバイオ医療応用に関する研究を行っています。応用先は様々ですが、主に下記に示す3つの内容に力を入れており、それぞれの用途に合わせたナノ粒子の合成から構造解析、特性評価、応用までの一連の流れを一人の学生が担当して研究を進めます。
1. 磁性体ナノ粒子を用いた細胞内小器官の磁気分離
正常細胞と機能欠損細胞から細胞内小器官を分離し、タンパク質を解析し比較することは、疾患の分子機構の解明において重要です。超常磁性体ナノ粒子を合成し、表面を生体分子で機能化した粒子を用い、細胞内小器官を迅速かつ温和に磁気分離し、生化学的手法による解析を行います。種々の細胞内小器官の磁気分離法の構築や機能欠損細胞のタンパク質解析を通して、最終的には創薬分野への貢献を目指します。
2. 磁気粒子分光を用いたイムノアッセイ
人生100年時代と言われる現代、私達が健康に長生きするためには、疾病の早期発見のための診断技術・精度の向上がますます重要となります。磁気粒子分光(MPS)を用いたイムノアッセイ(抗原抗体反応を用いた抗原の検出)では、種々の磁性体ナノ粒子を合成しMPSで評価し、感度が高いプローブを複数選択することで同時多抗原検出を目指します。
3. アップコンバージョンナノ粒子による光遺伝学的研究
アップコンバージョンナノ粒子とは、波長が長い入射光を照射した際に波長が短い発光を示す蛍光体ナノ粒子です。光遺伝学とは光受容タンパク質を遺伝学的に細胞に発現させ、光で細胞の応答を制御する技術で、この2つを組わせることで、光による生体組織の制御を行う研究をしております。
主な研究業績
- D. Maemura, T. S. Le, M. Takahashi, K. Matsumura, and S. Maenosono: "Optogenetic Calcium Ion Influx in Myoblasts and Myotubes by Near-Infrared Light Using Upconversion Nanoparticles" ACS Appl. Mater. Interfaces 15 (2023) 42196
- T. S. Le, M. Takahashi, N. Isozumi, A. Miyazato, Y. Hiratsuka, K. Matsumura, T. Taguchi, S. Maenosono: "Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic–Plasmonic Hybrid Nanoparticles" ACS Nano 16 (2022) 885
- T. S. Le, S. He, M. Takahashi, Y. Enomoto, Y. Matsumura, and S. Maenosono: "Enhancing the Sensitivity of Lateral Flow Immunoassay by Magnetic Enrichment Using Multifunctional Nanocomposite Probes" Langmuir 37 (2021) 6566
使用装置
透過型電子顕微鏡(TEM) 超伝導量子干渉磁束計(SQUID)
走査透過型電子顕微鏡(STEM) 動的光散乱測定装置(DLS)
X線回折装置(XRD) 共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)
X線光電子分光装置(XPS) 核磁気共鳴装置(NMR)
研究室の指導方針
常に新しい内容の研究を行っており、研究内容に関しては教員が学生へ毎回指示を与えるのではなく、学生自身にも実験と論文調査から次の方向性を決めるといった、一緒に研究を進めていくスタンスで研究を行います。その過程で卒業後の進路(就職希望か進学希望)に合わせて必要な基礎知識と研究力が身につくように指導します。また、分野外の方でも最前線の研究が行えるように効率的な努力の仕方や学習法を身に着けられるように指導しますので、心配なことや研究に関する疑問等は積極的に相談してください。そのためにはコミュニケーション能力も重要であり、卒業後の社会人にとって必要不可欠なスキルが身につくようにサポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/~shinya/
タンパク質分子モーターで駆動する微小機械
タンパク質分子モーターで駆動する微小機械
バイオ分子機械工学 研究室
Laboratory on Bio-Molecular Mechanical Engineering
准教授:平塚 祐一(HIRATSUKA Yuichi)
E-mail:
[研究分野]
生命分子工学、機械工学、タンパク質工学、ナノバイオテクノロジー、生物物理学
[キーワード]
分子ロボティクス、MEMS/マイクロマシン、分子モーター、遺伝子工学
研究を始めるのに必要な知識・能力
平塚研究室ではタンパク質を使って人工の機械を作るという全く新しい研究分野を開拓しています。そのため分野を超えた幅広い知識が必要となりますが最も重要なことは「新しいものを作りたい!」という強い意識と「科学的な思考」です。専門的な知識は研究室で学ぶことができます。
この研究で身につく能力
本研究室では、バイオ・化学・微細加工技術・機械工学などを組み合わせた融合的な研究を進めています。融合研究を行うためには異なった専門分野を学んでいく必要があり、多くの学生は躊躇するかもしれません。しかし本研究室での研究開発の経験を通し融合領域では新しい発見や新しい可能性がたくさんあることを学び、専門分野間の垣根が低く感じることになるでしょう。もちろん基礎的な知識なくして融合分野に取り組むことはできません。本研究室では大きさ数ナノメータのタンパク質を人類が利用できるマイクロまたはミリメータサイズの機械として組み立てる研究をしています。そのためにタンパク質や化学物質の分子レベルの構造やナノメータ空間での挙動を理解し、分子レベルから設計できる能力を身につけます。
【就職先企業・職種】 化学メーカー、機械メーカー、IT企業、公務員など
研究内容

図1.光造形可能な人工筋肉で動く微小機械

図2.モータータンパク質で駆動する世界初のディスプレイ

図3.バクテリアで駆動する回転モーター
細胞は、大きさ数ナノメートルのタンパク質がその内部で働くことでさまざまな生命現象を生み出しています。タンパク質は一般に知られているような単なる栄養素の一つではなく「非常に精巧な分子機械」であり「細胞を構成する多彩な部品」です。本研究室では、タンパク質を分子部品として使うことによって、これまで人類が作り出してきた人工機械とは全く異なる夢の微小機械(マイクロマシン、微小ロボット)の創製に挑んでいます。本研究室ではタンパク質の中でも特に「動く」という機能をもった面白いタンパク質「モータータンパク質」に注目し、モータータンパク質で駆動するさまざまな微小な機械の開発に取り組んでいます。
1)光で自在に作製可能な生体分子モーターで動く人工筋肉
筋肉のような収縮性のファイバー(人工筋肉)を、光照射した場所に自在に形成させることに成功しました。光の照射形状を変えることで自由な形状・大きさの人工筋肉が造形でき、ミリメートルスケールの微小機械の動力に利用できます。将来、マイクロロボットやソフトロボットの3Dプリンタによる製造への応用が期待されます。
2)タンパク質により駆動するバイオディスプレイ
生き物には周囲の環境に合わせて体色を変化させる「保護色機能」を持つものがいます。これらの現象はモータータンパク質によって引き起こされています。本研究では微細加工技術とタンパク質工学を組み合わせ、保護色の分子機構を模倣した人工細胞を生体外に作り、世界初のタンパク質で駆動するディスプレイの開発に成功しました。
3) モータータンパク質・バクテリアで動く回転モーター
大きさ数十μmの微小な回転モーターもモータータンパク質やバクテリアを使って作製することに成功しています。これらは従来の人工モーターとは異なり糖や ATP といった化学物質を燃料として動くユニークなモーターとして注目を集めています。
主な研究業績
- Takahiro Nitta, Yingzhe Wang, Zhao Du, Keisuke Morishima & Yuichi Hiratsuka A printable active network actuator built from an engineered biomolecular motor Nature Materials 20, 1149–1155 (2021)
- Susumu Aoyama, Masahiko Shimoike, and Yuichi Hiratsuka Self-organized optical device driven by motor proteins Proc. Nati. Acad. Sci. (PNAS) 110, 16408-16413 (2013).
- Y. Hiratsuaka, M. Miyata, T. Tada and T. Q.P. Uyeda, Micro-rotary motor powered by bacteria, Proc. Nati. Acad. Sci. (PNAS) 103, 13618-13623 (2006).
使用装置
レーザー直接描画装置フォトリソグラフィ装置
タンパク質精製および解析装置高感度
蛍光顕微鏡
細胞培養装置
研究室の指導方針
本研究室の学生には誰もが見たことがない・驚かれるような研究に挑戦してもらいたいと考えています。しかし、そのような研究を成功させるためには基礎的な知識はもちろんのこと論文による学習が必須となります。また自分自身で考え失敗にめげず何度も挑戦し、そして何よりも研究を楽しんでもらいたいと考えています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/hiratsuka/
新しい固体触媒プロセスの構築による資源・エネルギー問題の解決に挑む!
新しい固体触媒プロセスの構築による
資源・エネルギー問題の解決に挑む!
触媒・資源変換プロセス研究室
Laboratory on Catalyst/Resource Chemical Process
准教授:西村 俊(NISHIMURA Shun)
E-mail:
[研究分野]
触媒化学、固体触媒、合金触媒、バイオマス変換
[キーワード]
資源・エネルギーの有効利用技術、金属ナノ粒子触媒、固体酸塩基触媒、新触媒の創成、触媒作用機構の解明
研究を始めるのに必要な知識・能力
基礎的な計算・データ処理能力と仲間と安全に研究を進められる方であれば、バックグラウンドを問わずに歓迎します。物理化学、有機化学、無機化学、分析化学、触媒化学などの基礎・経験があると、よりスムーズに研究を開始できます。失敗にひるまずに挑戦する「忍耐力」や「好奇心・探究心」がより自発的に研究を進める上で役に立ちます。
この研究で身につく能力
新しい固体触媒プロセスの開発は、触媒設計→触媒調製・条件の最適化→触媒活性評価・反応条件の最適化→触媒のキャラクタリゼーション→触媒作用機構の提案→検証・再考といった多くの研究段階からなっています。また、触媒作用に関連する因子は一つであるとは限りません。従って、触媒開発プロセスを経験することで、様々な分析・評価手法の技術習得、多角的に実験データを整理・解析・統合する力を身に付けることができます。また、英語の先行研究を読み自らの研究へフィードバックする力、自分の結果を他人へより分かりやすく伝えるためのプレゼンテーション力を、日常の研究室ゼミや学会発表等を通じて向上できます。
【就職先企業・職種】 化成品・ポリマー製造や自動車触媒製造を主とした化学・材料メーカーなど。
研究内容
触媒は様々な物質変換・合成プロセスに欠かすことができない材料で、身近な生活を力強く下支えしています。そのため、高機能な触媒プロセスの開発は、日常の生活様式の劇的な改善やより低環境負荷なスタイルへと大きく変えるインパクトを持っています。例えば、空気中の窒素の人工的な固定化を実現したアンモニア合成触媒の実現(1918年ノーベル化学賞)は、窒素を含む化学品合成の発展に繋がり、その後の安定的な食料生産による人口増加や火薬製造による工業の発展へと繋がりました。
当研究室では、「従来の在来型化石資源の利用技術で培われた触媒プロセス技術を生かし、より高効率な触媒を設計するための指針の提案」や、「固体触媒を用いた高効率な次世代バイオマス資源変換プロセスの構築」から、持続可能・低環境負荷な社会形成に貢献できる触媒・資源変換プロセス技術の構築を目指しています。
・金属担持触媒の高機能化に向けた触媒設計と作用機構解明
金属活性点を固体表面に固定化した金属担持触媒は、主に1. 金属活性中心の電子状態や形状、2. 金属活性点の周囲環境、3. 担体の性質によって、その触媒作用が大きく異なります。それぞれの因子を系統的に制御し、対象とする触媒反応への性能を評価することで、求める触媒作用に対して選択的に欲しい性能を付与できる触媒調製指針の策定を目指します。例えば、異種金属を合金化させた活性サイトの構築による高活性化、保護配位剤を作用させることによる活性点周囲の環境制御による高活性・高選択性の発現、特異な構造を有する担体合成による超高活性化を実現しています。
・高効率なバイオマス資源変換を実現する固体触媒プロセス開発
バイオマス資源は再生可能でカーボンニュートラルであることから、持続可能な次世代資源としての活用が期待されています。しかし、低いLCA(ライフサイクル・アセスメント)が課題です。固体触媒を用いた高効率プロセスの実現によるバイオマス資源利用の拡大を目指しています。例えば、常圧水素によるバイオ燃料製造プロセス、非可食性グルコサミン類からの高品位化成品合成プロセス、高活性な酸- 塩基反応プロセス、バイオマス由来有機酸・脂肪酸の高効率な水素化転換を実現しています。また、バイオマス資源の連続的なフロー変換プロセスの展開に必要な課題抽出とその改善にも取り組んでいます。
主な研究業績
- S. D. Le, S. Nishimura: Selective hydrogenation of succinic acid to gamma-butyrolactone with PVP-capped CuPd catalysts. Catal. Sci. Technol. 12 (2022) 1060.
- K. Anjali, S. Nishimura: Efficient Conversion of Furfural to Succinic Acid using Cobalt-Porphyrin based Catalysts and Molecular Oxygen. J. Catal. 428 (2023) 115182
- X. Li, S. Nishimura: Synthesis of 5-Hydroxymethy-2-furfurylamine via Reductive Amination of 5-Hydroxymethyl-2-furaldehyde with Supported Ni-Co Bimetallic catalysts. Catal. Lett. 154 (2024) 237.
使用装置
触媒活性評価(GC, HPLC, GC-TOFMS, FTICR-MS, 液体 NMR)
触媒構造評価(XRD, ガス吸着 / 脱着 , SEM/TEM, XPS, 固体 NMR, FT-IR, TPR/TPD, パルス分析など)
状況に応じて、外部の共同利用研究施設(KEK-PF, SPring-8, SAGA- LS など)での XAFS 測定も行います。
研究室の指導方針
当研究室では、月1~2回の研究室ゼミ(研究進捗報告・ディスカッション)を行います。コアタイムは設けませんが、社会人生活に向け て規則正しい生活リズムを作って実験・大学院生活を送ってください。本学には様々な分析機器が共通設備として整備されており、 装置によっては専門職員からのサポートも得られる充実した環境が整っています。在籍中にこのサポート・分析体制を存分に活か し、自らのスキルアップを実現してほしいと思います。在籍中に得られた成果は、国内外での学会等で対外発表を行うことを推奨 します。また、修了生1人に対して1報以上の学術論文・国際会議プロシーディングス等を公開し、各学生の成果を残せるように努めています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/~s_nishim/index.html
“量子スピンのダイナミクス”を計測・制御して応用へ繋げる
“量子スピンのダイナミクス”を
計測・制御して応用へ繋げる
量子センシング・イメージング研究室
Laboratory on Quantum Sensing and Imaging
准教授:安 東秀(AN, Toshu)
E-mail:
[研究分野]
量子スピンセンシング・イメージング、ナノMRI
[キーワード]
量子技術、ダイヤモンドNV中心、スピントロニクス、スピン波、プローブ顕微鏡、マイクロ波、共焦点顕微鏡
研究を始めるのに必要な知識・能力
固体物理、材料物性の基礎知識を習得していることが望ましいです。基礎を身につける勤勉さと新しいことにチャレンジする意欲。
この研究で身につく能力
研究活動を通して、自分で問題を設定し、これを解決し、他人や社会に成果を発信する能力を身につけます。このために、先ず、簡単な実験を通して自分で実験データの取得、装置の改良、解析、データのまとめ、研究発表ができる能力を育成します。その後、自分で新しくチャレンジングなテーマを設定し、これを解決してゆくことに取り組みます。その際には、他人と協調して研究を行うこと、英語文献の読解力や英語によるコミュニケーション力が必要で、これらの能力を身に付けることも重視します。
【就職先企業・職種】
研究内容

図1.電子や原子核の持つスピン自由度、電子スピン共鳴、スピン流

図2.ダイヤモンド中のNV中心と磁気共鳴スペクトル
電子の内部自由度であるスピンのダイナミクスを利用した新しい現象を探索し、これを応用したデバイスやセンサーを実現することを目指します。そのための基礎となるスピンダイナミクスの高感度センシングと高分解能イメージングの計測技術を重視して研究に取り組んでいます(図1)。
①ダイヤモンドNV中心を用いたナノ磁気センシング

図3.表面スピン波とダイヤモンドNV中心のスピン変換

図4.走査ダイヤモンドNV中心スピン顕微鏡
近年、ダイヤモンド中の窒素-空孔複合体中心(NV 中心)に存在する単一スピンは、高性能なスピンセンサーとして有用であることが判り(図2)、NV中心を利用したナノスピン(磁気)センシング(図3)・イメージング(図4)が注目されています。この NV 中心を走査プローブとした高感度・高分解能スピンセンサーを開発し、単一電子スピン、単一核スピンのダイナミクスをセンシングすることを目指します。
主な研究業績
- Yuta Kainuma, Kunitaka Hayashi, Chiyaka Tachioka, Mayumi Ito, Toshiharu Makino, Norikazu Mizuochi, and Toshu An "Scanning diamond NV center magnetometer probe fabricated by laser cutting and focused ion beam milling" Journal of Applied Physics 130, 243903 (2021)
- Dwi Prananto, Yuta Kainuma, Kunitaka Hayashi, Norikazu Mizuochi, Ken-ichi Uchida, and Toshu An "Probing Thermal Magnon Current Mediated by Coherent Magnon via Nitrogen-Vacancy Centers in Diamond" Phys. Rev. Applied 16, 064058 (2021).
- D. Kikuchi, D. Prananto, K. Hayashi, A. Laraoui, N. Mizuochi, M. Hatano, E. Saitoh, Y. Kim, C. A. Meriles, T. An, Long-distance excitation of nitrogen-vacancy centers in diamond via surface spin waves, Applied Physics Express, 10, 103004 1-4 (2017).
使用装置
磁気共鳴計測・制御装置(自作)、FPGA、LabVIEWによる電子制御
走査マイクロ波顕微鏡(自作)
共焦点光学的磁気共鳴顕微鏡(自作)
水晶振動子型AFMプローブ顕微鏡(自作)
超高真空・極低温走査スピン顕微鏡(自作)
研究室の指導方針
本研究室では、スピンのダイナミクスを利用してセンサーやデバイスへの応用へ繋げることを目標に、材料物性の基礎を理解し(“確かな知識”)、課題を自ら設定し(“自由な発想力”)、解決してゆく能力を育成します。毎日の研究において議論の場を多く設定し、コミュニケーション能力を高めます。課題を解決する手段としての新規計測手法の開発と工学的技術の取得にも取り組みます。意欲溢れる皆さんが研究に参加し、“わくわくする”研究の醍醐味に触れ、将来の活躍の基礎を確立する場を提供したいと考えています。
[研究室HP] URL: https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/toshuan-www/index.html
ヘテロ元素化学から未来エネルギーを考える
ヘテロ元素化学から未来エネルギーを考える
蓄電池・エネルギー材料化学研究室
Laboratory on Energy Storage Materials and Devices
教授:松見 紀佳(MATSUMI Noriyoshi)
E-mail:
[研究分野]
エネルギー材料の創出研究
[キーワード]
リチウムイオン2次電池、ナトリウムイオン2次電池、リチウム空気電池、スーパーキャパシター
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究への意欲、知的好奇心、多少の失敗にひるまない楽観性、他のメンバーと協調的に研究を遂行できる適応性。また、以下は研究室に入る時点で必須ではありませんが、有機合成化学、高分子合成化学、電池関連化学、光化学などの経験や知識があればアドバンテージになります。
この研究で身につく能力
物質をデザインし、合成し、キャラクタライズする能力。実験データの意味を客観的に考察する能力。短期的、長期的に研究計画を立てる能力。報告書を作成したり、効果的にプレゼンテーションを行う能力、ディスカッション能力などがそれぞれ身につきます。さらには英語でコミュニケーションをとるための実践的能力を身につける場としても適しています。よりテクニカルな点では、嫌気下で様々な物質を有機合成し、NMR等で構造確認するスキル、イオン伝導性材料をインピーダンス測定などにより評価し、それらの電気化学的安定性を評価し、実際に電池を構築して充放電評価するスキルが身につくほか、光電気化学反応を電気化学的に評価するスキルを身につけることが出来ます。
【就職先企業・職種】 総合化学メーカー、自動車関連メーカー、繊維系メーカー、素材メーカー、機械系メーカーなど。
研究内容

高分子バインダーと活物質から成る
高性能電極材料のイメージ図
次世代用高性能蓄電池の創成研究
これまで、リチウムイオン二次電池用負極としては長きにわたりグラファイト負極が使用されてきました。現在、従来型のグラファイト負極よりも10倍以上の理論容量を有するシリコン負極の適用に関する研究が注目を集めています。しかし、シリコンは充放電中の体積膨張・収縮が大きく、粒子や界面の破壊や集電体からの活物質の剥離などの問題を引き起こし、問題が山積しています。本研究室では特殊構造高分子バインダーを適用することで、次世代用高容量電池の創成を目指しています。また、現存する多くの電池系は、性能が大幅に経年劣化することがユーザーレベルで広く認識されており、長期耐久性の課題解決も重要となっています。この点においても、分子レベルでの高機能バインダーの設計を行っています。さらに、シリコン負極型リチウムイオン二次電池と同様に、高容量の革新型電池として期待されている蓄電池系として、リチウム―空気電池が挙げられます。リチウム空気電池の開発の鍵となっている酸素還元反応触媒、及び酸素発生反応触媒においても、独自のアプローチにより研究を進めており、とりわけ白金の代わりに卑金属を用いた低コスト系の開発を進めています。さらに、リチウムに依存しない元素戦略に配慮した次世代蓄電池設計も進めています。例えばナトリウムイオン二次電池の高性能化に関する研究を電解質設計の立場から進めており、汎用の電解質を利用した系よりも大幅にサイクル特性やレート特性に優れた全固体ナトリウムイオン二次電池系の開発につながっています。現在の本研究室の電池開発において、もう一点注力しているのが急速充放電への対応です。現状の電気自動車では、高速道路のサービスエリアなどで充電を行う際に約30分を要しており、ガソリンスタンドでの給油と比較すると極めて長時間を要しています。本研究室では特殊な活物質の合成や、特異的な人工界面形成により充放電時間を大幅に短縮する試みを行っています。それを実現するキーワードとなるのが積極的な界面設計です。長きにわたって電池研究は四大部材(電極、電解質、バインダー、セパレータ)の研究を中心に展開されてきました。しかし、固体電解質界面(SEI)の重要性がいっそうクローズアップされつつあり、その戦略的かつ合理的な設計が次世代蓄電池の成否の鍵を握っていると考えられます。本研究室では、有機合成化学や高分子合成のバックグラウンドを有する電池研究グループという個性を最大限に活かしつつ、独自のアプローチで未来社会のニーズに応える高性能電池系の創出を目指します。
主な研究業績
- "Densely imidazolium functionalized water soluble poly(ionic liquid) binder for enhanced performance of carbon anode in lithium/sodium-ion batteries", A. Patra and N. Matsumi, Adv Energy Mater (2024) 20243071.
- "Water-soluble densely functionalized poly(hydroxycarbonylmethylene) binder for higher performance hard carbon anode-based sodium-ion batteries", A. Patra, N. Matsumi. J Mater Chem A., 12 (2024) 11857-11866.
- "Confronting the issue associated with the practical implementation of zinc blende-type SiC anode for efficient and reversible storage of lithium ions"R. Nandan, N. Takamori, K. Higashimine, R. Badam, N. Matsumi. ACS Appl Ener Mater., 7 (2024) 2088-2100.
使用装置
充放電評価装置
インピーダンスアナライザー
電気化学アナライザー
核磁気共鳴分光装置
ソーラーシミュレーター
研究室の指導方針
合成化学を基盤にしながら、リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池など社会的要求の高い研究分野に果敢にチャレンジします。クリエイティブな発想力と失敗を恐れない実行力、社会貢献への意識などを有したバランスのとれた人材の育成を目指します。ヘテロな研究集団を目指していますので、様々なバックグラウンドを持った人材を歓迎します。入って来るメンバーの科学的知識レベルも様々でしょうが、2年間ないし5年間にそれぞれのレベルに応じて大きな成長と達成感、自信を味わって巣立っていただくことが目標です。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/matsumi
高分子材料の機能化、高性能化をレオロジー的な手法で行います
高分子材料の機能化、高性能化を
レオロジー的な手法で行います
材料レオロジー研究室 Laboratory on Materials Rheology
教授:山口 政之(YAMAGUCHI Masayuki)
E-mail:
[研究分野]
高分子レオロジー、成形加工
[キーワード]
インテリジェントポリマー、バイオマスポリマー、マテリアルリサイクル
研究を始めるのに必要な知識・能力
マテリアルサイエンス(材料科学)系分野に関する基礎知識があれば、これまでの専門は気にせずとも結構です。むしろ意欲ある学生を希望します。
この研究で身につく能力
高分子はひとつの分子が線状で長いことが最大の特徴です。このような分子形状であるため、高分子は“からみ合い”相互作用を示します。その結果、例えば液体状態でも弾性を示し、さまざまな成形加工が適用できるようになります。からみ合いは高分子らしさを表す最も適切な特性であると言え、レオロジーではその「からみ合い」により示される特性や、それによって形成される構造を取り扱います。当研究室ではレオロジー的な考え方や成形加工の技術を取り入れることで、新しい機能材料や、ポリマー系材料の高性能化へ取り組み、世の中の役に立つ新規材料を創出しています。これらの研究で身につく材料設計に対する考え方は、企業における研究でも大いに役立ちます。
【就職先企業・職種】 高分子材料を扱う樹脂メーカー、加工メーカー、ユーザーなど(詳細はHPに記載)
研究内容
当研究室では、レオロジー特性の新しい制御技術、成形加工技術、ブレンド・アロイやコンポジットなどの樹脂複合化の独自技術を「武器」として、新しい材料設計を化学反応に頼ることなく創出しています。
対象とする材料は、ポリ乳酸やセルロースなどのバイオマス系ポリマー、ポリエチレンやポリプロピレンなどの汎用高分子、ポリメタクリル酸メチルやポリカーボネートなどの光学ポリマー、各種エラストマーなど、ほとんどの高分子材料であり、さらにカーボンナノチューブなどのナノ粒子、各種樹脂添加剤を幅広く取り扱っています。また、高分子以外にも、化粧品や食品などを研究対象とすることがあります。これらの材料の組み合わせや改質、さらには成形により、さまざまな機能を付与し、また、高性能化を行っています。
応用分野はさまざまですが、自動車関係の材料や次世代のディスプレイなど、日本の技術力が強い分野を中心にした研究開発が多くなっております。得られた研究成果の一部は既に工業的にも応用されています。また、成形加工のトラブルや高速成形に対する研究も進め、高分子加工を技術的にサポートしております。以下、研究例の一部を紹介します。
【高分子系複合材料の研究開発】
分子レベルで異種物質の凝集状態を高度に制御することにより、ポリマー系複合材料の高性能化を目指す研究です。次世代気自動車などへの用途展開が期待できる透明樹脂や内装材向け樹脂、透明かつフレキシブルな導電性ポリマーフィルム、植物由来の原料を用いた革新的な光学デバイスなどの開発に取り組んでいます。また、ポリ乳酸の革新的な高性能化など低環境負荷材料を用いた研究も積極的に推進しています。
【レオロジー制御による機能性ソフトマテリアルの材料設計】
レオロジーの考え方はポリマーのみならず、さまざまな分野で必要とされます。特に、ソフトマテリアルである食品や生体材料、化粧品などではレオロジー特性の把握が必要不可欠です。本テーマでは、これら機能性ソフトマテリアルの材料設計をレオロジーの観点から進めています。切断しても再び元通りに治癒する自己修復性材料、形状記憶材料などの設計指針をこれまでに提案しています。
【成形加工技術の深化・構築】
優れた高分子材料でも、成形加工できなければ世の中で使用されません。そのため高分子産業では、成形加工に必要不可欠なレオロジーの専門家を常に必要としています。その基礎となる研究を実施すると共に、新材料のレオロジー特性を明らかにすることで実用化へ貢献しています。
主な研究業績
- 環境問題に立ち向かうポリオレフィンの成形加工技術,山口政之, 成形加工, 32(9), 301 (2020).
- 低分子添加による複屈折制御,山口政之,工業材料,66(4), 33-37 (2018).
- 成形加工性向上のための高分子レオロジー制御技術,山口政之,機能材料,38(4), 4-12 (2018).
使用装置
レオロジー測定装置
成形加工機
分光分析装置
力学特性評価装置
研究室の指導方針
当研究室では、主として高分子物性に関する知見に基づいて、材料の設計から成形技術に至るまで、さまざまな研究テーマを設定し活動しています。また、実際に役立つ研究を行うために、企業との共同研究を積極的に進めています。私自身の企業経験も活かしながら就職活動へのサポートも行い、総合的な力を伸ばしてもらいたいと考えています。
ポリマー材料の研究開発に興味をお持ちの方は、是非、当研究室を訪問してください。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/yamaguchi/
次世代の医用材料による医療の発展
次世代の医用材料による医療の発展
医用材料学研究室 Laboratory on Biomedical Materials
講師:西田 慶(NISHIDA Kei)
E-mail:
[研究分野]
生体材料学、合成高分子、タンパク質工学、ナノメディシン
[キーワード]
医用高分子、刺激応答性、バイオ界面、細胞膜、細胞内分解系
研究を始めるのに必要な知識・能力
特定分野の知識や能力は問いません。高分子化学、タンパク質工学、分子生物学、薬学、情報学を含む学際的な医用材料の研究について、学生のバックグラウンドに応じてテーマを設定します。新しい技術や分野を開拓する好奇心や向上心が最も大切です。
この研究で身につく能力
合成高分子やタンパク質、細胞を材料とした医用材料や疾患の診断・治療法の開発に取り組みます。学生の興味やバックグラウンドに応じて、有機合成や遺伝子工学、生物といった基盤材料を選択し、社会的にも学術的にも重要な研究テーマを進めてもらいます。各種材料の作製だけでなく、材料物性の評価、細胞や動物を用いた生命科学的な評価と多岐の分野にわたる実験技術や知識が必要になります。材料学と生命科学といった学問的な高いレベルの知識と技術が身につくとともに、理系人材としてどこでも活躍できる広い視野と知恵を養います。
【就職先企業・職種】材料、製薬、医療機器、食品関連企業
研究内容
私達は、がんをはじめとした疾患の治療や診断法の開発といった応用研究と、生体と医用材料の相互作用の理解や制御といった基礎研究を両立した医用材料の開発を進めています。有機合成、遺伝子工学、タンパク質工学、細胞工学を駆使して様々な材料を設計し、次世代の医用材料を創出しています。
1. 細胞の代謝機能を改善する刺激応答性高分子

図1 刺激応答性高分子やタンパク質からなる医用材料

図2 ステルス材料としての直鎖状タンパク質
がん化や老化した細胞は、正常な細胞と比較して代謝機能が大きく変わります。この代謝機能の変化に着目して、がんや老化の進行を逆転させる治療法の開発に取り組んでいます(図1)。特に、代謝産物や生理活性分子を細胞に送り込むことで代謝を改善し、疾患治療への応用を検討しています。具体的には、代謝産物などを原料とした刺激応答性合成高分子を設計し、細胞内の特異的環境に応答して分解・代謝物を放出する医用材料を合成しています。
2. 細胞膜構成分子に着目したがん治療・診断
がん細胞の細胞膜構成分子に着目した新たながん治療や診断法を開発しています (図1)。特に、がん細胞で異常性がある細胞膜のコレステロールや糖鎖を標的としています。このような細胞膜構成分子と相互作用するタンパク質材料を遺伝子工学的に設計し、がん治療や診断法を検討しています。例えば、細胞膜コレステロールに相互作用する合成タンパク質を設計し、がん細胞のコレステロール合成系やオートファジーといった細胞内分解系を制御し、がんの殺傷を可能にしています。
3. 直鎖状タンパク質のde novo設計とステルス材料
採血管や注射器から人工心肺、人工臓器、バイオ医薬などの医療機器・医薬品は、医療技術に必要不可欠なものです。医療機器・医薬品の表面は血液や体液と接触するため、血液の凝固や異物認識、免疫・炎症応答を抑制するためにタンパク質の吸着を抑制するステルス特性が重要です。私達は、医療機器・医薬品にステルス性を付与するタンパク質性の医用材料を構築しています (図2)。特に、計算科学やAIを活用した直鎖状タンパク質の設計法を考案し、ステルス性医用材料としての有用性を検討しています。
主な研究業績
- Kei Nishida, et al, Cholesterol- and ssDNA-binding fusion protein-mediated DNA tethering on the plasma membrane, Biomaterials. Science, 13, 299-309 (2025)
- Kei Nishida, et al., Sensitive detection of tumor cells using protein nanoparticles with multiple display of DNA aptamers and bioluminescent reporters, ACS Biomaterials Science and Engineering., 9, 5260–5269 (2023)
- Kei Nishida, et al., Selective Accumulation To Tumor Cells With Coacervate Droplets Formed From Water-Insoluble Acrylate Polymer, Biomacromolecules, 23, 1569–1580 (2022).
使用装置
NMR、高速液体クロマトグラフ、水晶振動子マイクロバランス、接触角計、フローサイトメーター、共焦点レーザー顕微鏡
研究室の指導方針
医用材料に関する研究では、様々な学問に関する知識や技術必要です。個々に独立した研究テーマを設定し、基礎知識や技術を指導するとともに自分の研究に愛着と興味を持って自らが研究を追求できるように導きます。さらに理系人材として重要な科学的な思考力や文章力、表現力を身に付けられるようサポートします。また、もっとも成長する場である学会の参加・発表のチャンスもたくさんあります。ディスカッション、就活、生活についての悩み等、なんでも相談してください。ウェルカムです。
[研究室HP] URL:https://miyakoeijiro.wixsite.com/eijiro-miyako-lab
先端材料でエネルギー社会をリードする
先端材料でエネルギー社会をリードする
エネルギーナノ材料研究室 Laboratory on Energy Nanomaterials
教授:長尾 祐樹(NAGAO Yuki)
E-mail:
[研究分野]
プロトニクス(高分子、無機化学、錯体化学、物理化学)
[キーワード]
水素社会、燃料電池、蓄電池、エネルギー関連材料
研究を始めるのに必要な知識・能力
多様なバックグラウンドを歓迎します。今までに修めた学問を大事にしながら、新しいことに取り組む意欲を持ち続ける力が求められます。
この研究で身につく能力
週2回のゼミ(英語で行います、具体的には研究相談と文献紹介)を通して、教員や先輩の助けを借りながら、自ら調べ、考える力を身に着けていきます。英語の会話スキルの向上が期待できます。実践の場として、高分子化学、表面化学、電気化学、錯体化学等に関連した研究を行うことで次のスキルが身に付きます。1.問題発見と解決方法。2.材料合成や各種分析方法の習得。3.論理的思考に基づいたデータの解釈方法と性格やセンスに帰着させない基本的なプレゼンテーション技術。
【就職先企業・職種】 電力関連、エネルギー関連、材料メーカー、精密機器関連など(企業名はwebに記載)
研究内容
資源の少ない日本が持続的な発展をするためには、多様なエネルギー資源を確保することが喫緊の課題です。ありふれた水から水素や酸素を作り出し、二酸化炭素を資源と見立てて炭素材料を作り出すことは人類の夢です。世界で急速に進む脱炭素社会には水素社会が必要です。我々は水素社会を支える燃料電池、蓄電池、センサーやプロトンスイッチなどに応用可能なイオン伝導性高分子材料、無機材料、有機無機ハイブリッド材料の研究を行っています。我々と共に水素社会に貢献しましょう。
研究テーマ例
- 燃料電池、リチウムイオン電池の性能向上の研究
電池反応場の界面近傍の構造とイオン輸送を調べる基礎研究と、反応界面をデザインして電池の性能を向上させる応用研究をしています。 - 充電可能な水素電池の開発
プロトンを使った次世代蓄電池の開発をしています。 - イオン輸送を利用した触力覚センサの研究
五感やロボットへの応用研究として、ヒトの皮膚のように力にイオン輸送が応答する高分子組織構造を研究しています。 - 外場印加によるイオンスイッチの研究
青木助教が主体的に取り組んでいる、光などの外場によってイオン伝導のオン・オフを制御する研究です。


主な研究業績
- T.Honbo, Y. Ono, K. Suetsugu, M. Hara, A. Taborosi, K. Aoki, S. Nagano, M. Koyama, Y. Nagao, Effects of Alkyl Side Chain Length on the Structural Organization and Proton Conductivity of Sulfonated Polyimide Thin Films, ACS Appl. Polym. Mater., 6, 13217 - 13227 (2024).
- Y. Nagao, Proton-Conducting Polymers: Key to Next-Generation Fuel Cells, Electrolyzers, Batteries, Actuators, and Sensors (Review), ChemElectroChem, 11, e202300846 (2024).
- Y. Nagao, Advancing Sustainable Energy: Structurally Organized Proton and Hydroxide Ion-Conductive Polymers (Review), Curr. Opin. Electrochem., 44, 101464 (2024).
使用装置
材料分析装置 (IR, UV-Vis, NMR, GPC, XRD, TG-DTA)
電気化学装置(LCR, CV, in situ QCM, fuel cell, battery test system)
表面分析装置 (XPS, in situ GIXRS, XRR, white interference, AFM)
分子配向分析装置 (IR, pMAIRS, polarized microscope)
外部の放射光や中性子実験施設
研究室の指導方針
研究室への参加にあたり、平日は研究活動に専念し、セミナーへの出席をお願いします。フレキシブルですが、9時から17時の間でメリハリのある研究時間を推奨します。英語のセミナーや留学生との会話を通じ、英語力の向上を目指しましょう。研究テーマは指導教員との相談で決め、皆さんの研究への情熱を全力でサポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/nagao-www/
エレクトロニクスの機能的多様化を目指す化合物半導体デバイス技術
エレクトロニクスの機能的多様化を目指す
化合物半導体デバイス技術
化合物半導体エレクトロニクス研究室
Laboratory on Compound Semiconductor Electronics
教授:鈴木 寿一(SUZUKI Toshi-kazu)
E-mail:
[研究分野]
化合物半導体エレクトロニクス
[キーワード]
化合物半導体デバイス、異種材料融合技術、超高速デバイス、省エネルギーデバイス、デバイス計測技術
研究を始めるのに必要な知識・能力
必要な知識・能力ということではありませんが、ものごとの本質を理解したいという意欲、数学や物理学の基礎力とそれを支える論理性は、研究を進める際に重要であると考えています。
この研究で身につく能力
化合物半導体電子デバイスの作製技術および測定解析技術を身に付けながら、デバイス内の電子の挙動を物理的に考察して理解することができるようになると思います。こうした能力は、将来エレクトロニクスの広い分野で活躍するための素地となると考えています。また、産学連携を通じて産業界の問題意識を感じてもらうことも期待しています。さらに、日本語および英語によるプレゼンテーション能力の向上も目指します。
【就職先企業・職種】 総合電機、半導体・電子部品、半導体製造装置、通信機器、輸送機器、自動車
研究内容

化合物半導体高速トランジスタ

デバイスの周波数応答特性

異種材料基板上化合物半導体デバイス

異種材料閉じ込めによる二次元電子状態
<エレクトロニクスの機能的多様化に向けて>
現在のディジタルエレクトロニクスの主役であるSiデバイスは、微細化による性能向上を続けてきました。しかし、こうした「More Moore」の軸に沿った進歩の限界が意識されるようになっています。今後のエレクトロニクスの発展のためには、「More than Moore」の視点に基づく機能的多様化が必要であり、それに向けて重要な役割を果たすのが化合物半導体デバイスです。
<化合物半導体とは?>
III-V 族を中心とした化合物半導体は多彩な材料系であり、これまでもSi では不可能な様々な機能を有するデバイスに応用されてきました。特に、高い電子移動度と高い電子飽和速度を有する化合物半導体は高速電子デバイス応用に、また、直接遷移型の化合物半導体は光デバイス応用に好適であるため、化合物半導体を用いたデバイスは、高速アナログ・ミックスドシグナルエレクトロニクス、光エレクトロニクス分野で利用されてきました。これまで、GaAs 基板上格子整合材料が化合物半導体の第一世代として、InP 基板上格子整合材料が第二世代として大きな役割を果たしてきましたが、今後は、高In 組成InGaAs、InAs、Sb 系材料などのナローギャップ化合物半導体と、GaN、AlN などのワイドギャップ化合物半導体の重要性が高まると考えられます。これらナローギャップ半導体は中赤外光に対応するエネルギーギャップを、ワイドギャップ半導体は紫外光に対応するエネルギーギャップを有しており、それぞれの波長域における光デバイス応用に重要です。また、電子有効質量は概ねエネルギーギャップと比例関係にあり、ナローギャップ化合物半導体は小さい電子有効質量を有しています。電子有効質量が小さければ、高い電子移動度と高い電子飽和速度が得易いため、ナローギャップ半導体は超高速デバイス応用に有用です。ただし、高耐圧化に適したワイドギャップ半導体に対し、ナローギャップ半導体の耐圧は低く、充分なパワー性能を得ることが困難です。一方、GaN は電子有効質量が大きく、この点ではデバイス高速化に有利ではないように思われますが、大きい光学フォノンエネルギーと特有のバンド構造により、電子移動度こそ低いものの、高い電子飽和速度を有しているため、高速性能とパワー性能を併せ持ったデバイスへの応用が期待されます。
<本研究室の取り組み>
こうした特長を有する化合物半導体を適材適所にデバイス応用することは、エレクトロニクスの機能的多様化に向けて極めて重要です。さらに、化合物半導体と異種材料を融合集積する技術によって、より高度な機能的多様化の可能性も期待できます。こうした背景のもと、本研究室では、ナローギャップ/ ワイドギャップ化合物半導体エレクトロニクスの研究に取り組んでいます。次世代の超高速デバイスや省エネルギーデバイスを目指し、ナロー/ ワイドギャップ化合物半導体デバイス技術とそれらの異種材料融合技術の研究を進めながら、デバイス動作を深く理解するためのデバイス計測技術も開拓しています。
主な研究業績
- Low-frequency noise in AlTiO/AlGaN/GaN metal-insulator-semiconductor field-effect transistors with non-gate-recessed or partially-gate-recessed structures, D. D. Nguyen, Y. Deng, and T. Suzuki, Semicond. Sci. Technol. 38, 095010 (2023).
- Mechanism of low-temperature-annealed Ohmic contacts to Al-GaN/GaN heterostructures: A study via formation and removal of Ta-based Ohmic-metals, K. Uryu, S. Kiuchi, T. Sato, and T. Suzuki, Appl. Phys. Lett. 120, 052104 (2022).
- Electron mobility anisotropy in InAs/GaAs(001) heterostructures, S. P. Le and T. Suzuki, Appl. Phys. Lett. 118, 182101 (2021).
使用装置
分子線エピタキシー装置
電子線・紫外線リソグラフィー装置
パラメータアナライザ
ネットワークアナライザ
ダイナミックシグナルアナライザ
研究室の指導方針
・理学の心で工学を。ものごとの本質を理解することを大切にします。
・少しづつであっても、自分でよく考え、納得しながら前進することが重要であると考えています。
・学生と教員がよき共同研究者となり、お互いに成長することを目指します。
・毎週行う研究報告会・日本語輪講・英語輪講を通じ、エレクトロニクス分野で活躍するための基礎を固めます。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/nmcenter/labs/suzuki-www/
からだの中のコミュニケーションツール・糖鎖に挑む
からだの中のコミュニケーションツール・糖鎖に挑む
分子糖鎖科学研究室 Laboratory on Molecular Glycoscience
准教授:山口 拓実(YAMAGUCHI Takumi)
E-mail:
[研究分野]
糖質科学、有機化学、生体機能関連化学、超分子化学、生物物理学
[キーワード]
糖鎖、分子認識、生命分子科学
研究を始めるのに必要な知識・能力
化学も生物も興味がある、という幅広い好奇心。新しい研究分野を創ることへの意欲。有機化学や物理化学、生化学などを扱いますが、その知識・技術は研究を通して身につけていくことができます。
この研究で身につく能力
当研究室が主な研究対象とする糖鎖は、創薬や医療のターゲットとして大きな注目を集めています。ところが、その取り扱いの難しさから、糖鎖に向き合った研究は多くはありません。既存のやり方にとらわれず、どうしたら問題を解決できるのか?自由な発想と論理的な思考によってプロジェクトを推進する力を身につけます。また、有機合成化学を中心に、分析化学やバイオテクノロジーなどの知識・技術を習得することができます。
【就職先企業・職種】 化学・材料⼯学系企業
研究内容
糖鎖 第3の生命分子鎖
糖鎖は、タンパク質・核酸とならぶ第3の生命鎖ともよばれ、私たちの生命活動の様々な場面で重要な働きをしています。例えば、糖鎖は細胞同士の接着をはじめ、生体内でのコミュニケーションにとって不可欠な役割を担っています。その一方で、糖鎖は、インフルエンザのようなウイルスの感染、がんの転移、さらにアルツハイマー病の発症にも深く関わっていることがわかりつつあります。また、バイオ医薬品の多くには糖鎖が関与しており、糖鎖は医薬品の特性に重要な因子としても注目を集めています。
糖鎖研究について
このように糖鎖は、創薬や医療のターゲットとして脚光をあびています。しかし、糖鎖の重要性が広く認識されてきたにもかかわらず、糖鎖そのものに対する研究はまだまだ発展途上です。例えば、多くのタンパク質のかたち(立体構造)が次々と明らかになってきているのに対し、糖鎖の3次元構造はほとんど未解明であるばかりでなく、アプローチ法すら十分に確立されていません。
糖鎖を知る 糖鎖を使う
私たちは化学的な手法を基盤にした多角的な実験を展開し、糖鎖研究に挑んでいます。糖鎖に構造情報取得のための化学プローブを導入することで、分子分光法による計測と分子シミュレーションを活用した立体構造解析を可能とし、水中で揺らめく糖鎖の姿を描き出すことに成功しました。さらに、細胞表面を覆う糖鎖を模倣したモデル化合物の合成や、糖鎖を応用した細胞機能の制御にも挑戦しています。

図1.糖鎖の3次元構造
化学と生物学の融合 その先を目指して
ライフサイエンス全体でみても、糖鎖をいかに取扱うかは今後の大きな課題となってきています。化学と生物学の融合による糖鎖研究を進展させることを通して、新たなサイエンスの地平を切り拓き、社会に貢献していきたいと考えています。
糖鎖は柔軟な構造をもち、水中で絶えず揺らいでいます。糖鎖と生体分子の相互作用は、とてもダイナミックな過程で進行します。図は、細胞の中でタンパク質の運命決定に関わる糖鎖の化学構造と立体構造モデルです。実験とコンピュータシミュレーションを組み合わせ、その姿を明らかにすることができました。
主な研究業績
- Comprehensive characterization of oligosaccharide conformational ensembles with conformer classification by free-energy landscape via reproductive kernel Hilbert space, T. Watanabe, H. Yagi, S. Yanaka, T. Yamaguchi, K. Kato, Phys. Chem. Chem. Phys., 23, 9753–9760, 2021.
- Experimental and computational characterization of dynamic biomolecular interaction systems involving glycolipid glycans, K. Kato, T. Yamaguchi, M. Yagi-Utsumi, Glycoconj. J. 39, 219–228, 2022.
- NMR analyses of carbohydrate–water and water–water interactions in water/DMSO mixed solvents, highlighting various hydration behaviors of monosaccharides glucose, galactose and mannose, H. Tatsuoka and T. Yamaguchi, Bull. Chem. Soc. Jpn., 96, 168-174, 2023.
使用装置
核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定装置
高速液体クロマトグラフィ
質量分析計
大規模計算機
研究室の指導方針
卒業研究の際、自分で合成した分子の完成をはじめて確認したときのドキッとした感覚は今でも覚えています。何かを新しくつくることへの意欲を大切にしたいと思います。また、実験データやアイデアについて研究室の仲間と相談することや、学会で研究成果を発表し議論することなど、研究を通したコミュニケーション能力の向上を重視します。これだけはゆずれない!という自分の幹を太く育てながら、広く科学を学んでいきます。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/t-yamaguchi/
ナノとバイオを融合して医療と環境の問題を解決する
ナノとバイオを融合して
医療と環境の問題を解決する
バイオナノ医工学デバイス 研究室
Bio-Nano Medical Device Laboratory
教授:高村 禅(TAKAMURA Yuzuru)
E-mail:
[研究分野]
BioMEMS、微小流体デバイス、分析化学、バイオセンサ
[キーワード]
血液分析チップ、一細胞解析、質量分析チップ、マイクロ元素分析、微細加工プロセス、バイオチップ、マイクロプラズマ
研究を始めるのに必要な知識・能力
私たちが扱う対象は分野融合的要素が強く、従って本研究室では様々なバックグラウンドの学生を受け入れております。生物、化学だけでなく、物理、機械、電子、制御、材料など、個人のバックグラウンドに応じたテーマを設定し、研究を進めます。
この研究で身につく能力
何かを解析するチップの研究が多いので、分析科学の要素は押し並べて身につきます。微量なサンプルを扱うので、微量な生体サンプルのハンドリング技術、生体分子と無機材料の界面の調整技術、微量な蛍光や光信号の観察・計測技術等が身につきます。また、チップを作成するには、フォトリソグラフィー等、マイクロマシンの技術が身につきます。新しい材料を使う場合は、成膜やエッチングの為のプロセス開発を行うこともあります。チップの開発では、流体の動きや熱の伝達をシミュレーションし設計することもあります。修了生は、計測機器メーカへの就職が多いですが、半導体製造機器メーカや、薬品会社へ就職する方もいらっしゃいます。
【就職先企業・職種】 計測機器メーカ、電気、機械、半導体製造機器メーカ、半導体メーカ、薬品関連
研究内容
半導体プロセスを応用して、ウエハ上に小さな流路や反応容器、分析器等を作りこみ、一つのチップの上で、血液検査等に必要な一通りの化学実験を完遂させようという微小流体デバイス、μTAS(micro total analysis systems)やLab on a chipと呼ばれる研究分野が急速に発展しています。これは、病気の診断、創薬、生命現象の解析に応用でき、大きな市場と新しい学術分野を開拓するものとして期待されております。また、いろいろな形状の微小流路内を、流体や大きな分子が流れるときの挙動は、ブラウン運動や界面の影響が支配的で、流体力学でも分子動力学でも扱えない新しい現象を含んでいます。当研究室は、このような新しい現象をベースに、ナノとバイオを融合した次世代のバイオチップ創製を目指した研究を行っています。
主なテーマを次に示します。

図1.作成したバイオチップの例

図2.汎用微小流体チップ案
1)高集積化バイオ化学チップの開発
高機能バイオチップの実現には、チップ内での流体の駆動機構と、高感度な検出器の開発が重要になります。本研究室では、溶液プロセスによるPZTアクチュエータアレイや電気浸透流ポンプをはじめ様々なチップ内での液体駆動機構と、ナノ材料を駆使した新しい検出器の開発を進めています(図1)。これらを用いて、組織中の一細胞を分子レベルで解析可能なチップや、高度な処理をプログラム次第で様々にこなす汎用微小流体チップの開発を目指しています(図2)。
2)高感度バイオセンシング技術の開発
一滴の血液には、体内の様々な状態を反映した多くの情報が含まれております。これらを頻繁に解析することで、重篤な病気の超早期発見や、日々の健康管理、あるいは老化や病気が起きにくい体質になるために食事や運動をガイドする等、様々なことが可能になると考えられております。このためには、非常に微量なバイオマーカを簡易に測定する技術が必要です。私どもは、自己血糖測定器と同じ手間とコストでpg/mLオーダの測定ができるチップや、質量分析チップの開発を行っております。
3)液体電極プラズマを用いたマイクロ元素分析器の開発
中央を細くした微小な流路に液体のサンプルを導入し、高電圧を印加するとプラズマが発生します。このプラズマからの発光を分光することにより、サンプル中の元素の種類と量を簡単・高感度に測定することができます。この原理を用いて、食物、井戸水、土壌工場廃水・廃棄物に含まれている有害な金属(Hg、Cd、Pbなど)などを、オンサイトで測定できるマイクロ元素分析器の開発を行っています。
主な研究業績
- Pulse-heating ionization for protein on-chip mass spectrometry,Kiyotaka Sugiyama, Hiroki Harako, Yoshiaki Ukita, Tatsuya Shimoda, Yuzuru Takamura, Analytical Chemistry, 86, 15, 7593-7597, 05 August 2014.
- Development of automated paper-based devices for sequential multistep sandwich enzyme-linked immunosorbent assays using inkjet printing, Amara Apilux, Yoshiaki Ukita, Miyuki Chikae, Orawom Chilapakul and Yuzuru Takamura, Lab Chip,13(1), 126-135, January 2013.
- High sensitive elemental analysis for Cd and Pb by liquid electrode plasma atomic emission spectrometry with quartz glass chip and sample flow, Atsushi Kitano, Akiko Iiduka, Tamotsu Yamamoto, Yoshiaki Ukita, Eiichi Tamiya, Yuzuru Takamura, Analytical Chemistry 83(24), 9424-9430, 04 November 2011.
使用装置
クリーンルーム半導体製造装置一式
電気化学測定装置
表面プラズモン共鳴測定装置
イムノクロマトグラフ製造装置
全反射蛍光一分子観察装置
研究室の指導方針
iPS細胞など最近の新しい医療技術の多くは、新しい工学的技術の進歩が発端になっていることをご存知でしょうか。その多くに、高度に発展したナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合技術が使われています。この分野は、まさに今アクティブで、また人類への多くの貢献が期待されている分野でもあるのです。私どもの研究室には、様々なバックグランドと目的を持った学生さんが来ます。私どもは一人ひとりの目的に合わせたゴールを設定し、そこに向かって必要なものを自ら獲得できる様に、サポートとガイドを行うことを主な指導方針としています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/takamura/index.html
光を知り、光で分析する ~分光学への誘い~
光を知り、光で分析する ~分光学への誘い~
基礎物理化学・超微量ラマン分光分析研究室
Physical Chemistry, Ultrasensitive Raman Spectroscopy Laboratory
准教授:山本 裕子(YAMAMOTO Yuko S.)
E-mail:
[研究分野]
物理化学境界領域・超微量ラマン分光、量子光学
[キーワード]
ラマン分光学、表面増強ラマン散乱、ナノマテリアル
研究を始めるのに必要な知識・能力
「光について学びたい」「光について詳しくなりたい」「光を使った分析手法を身につけたい」など、「光」あるいは「分光学」に興味を持ち学ぶ意欲があること。これが当研究室で研究を始めるにあたって必要な能力(意欲) です。実現に必要な知識や、技術の修得の仕方は教えます。
大発見したい・ノーベル賞を取りたい・大きな成果を上げたいなどの大きな野望を持つ学生さん・社会人学生さんも大歓迎です。
この研究で身につく能力
光を使った各種分析手法について、基礎~応用までが一貫して身につきます。特に、①ラマン分光法・超微量ラマン分光法(表面増強ラマン散乱, Surface-enhanced Raman scattering)、②紫外可視吸収分光法などの各種吸収分光法。また、可視光レーザーの取り扱いや、光学顕微鏡やミラー・レンズなど各種光学部品の取り扱い・装置の組み立て、分光器の基礎知識や取り扱い方も身につけることができます。
【就職先企業・職種】 化学系企業、起業等
研究内容
私たちは、光を使った検出方法を軸としながら世界最先端の研究を進めています。光検出は、マテリアル研究を行う上で最も基本的かつ重要な手法のひとつです。

図. 表面増強ラマン散乱法測定の概略図
1.強結合 新しい光学現象を生み出すナノスケール創成場
1970年代に、表面増強ラマン散乱 (Surface-enhanced Raman scattering,SERS) という現象が発見されました。これは、物質に光を当てたときにごくわずかに現れる「ラマン散乱光」が飛躍的に増強する現象のことです。SERS効果は当初、銀のナノ構造体表面で発見されました。そして、発見から50年経ち、なぜラマン散乱効果が飛躍的に増強するのか、そのメカニズムがおおよそ明らかになりました。
私たちは2014年に、ラマン散乱効果が飛躍的に増強する「ホットスポット」では「強結合」という現象が起きており、この「強結合」状態が別の新しい光学現象をも生み出していることを発見しました。
ホットスポットは、ナノ世界の光が作り出す未知のフロンティアの一つです。その発見以来、私たちは銀ナノ粒子がつくるホットスポットでの強結合をさらに深く、詳しく調べ、数々の新現象を発見し続けています。
2.超微量ラマン分光(表面増強ラマン散乱, SERS)
上記の通り、SERSは1970年代に発見され既に50年経っています。しかし未だ目立った実用化例がないことから「Sleeping Giant (眠れる巨人)」と呼ばれています。一方で SERSは人のこころをどこか魅了するのでしょう、巨人を眠りから覚まそうと SERS研究へ新規参入してくる研究者は後を絶ちません。
私たちの研究グルーブでは、銀ナノコロイド粒子を使って SERSを研究しています。銀ナノコロイド粒子は1997年に初めて1分子だけのSERS測定に成功した、極めて重要な実験系です。
その銀ナノコロイド粒子を使って、私たちの研究グループメンバーの一人が2024年に「希土類元素のSERS」という新しい研究分野の開拓に成功したので、次に説明します。
3.希土類元素とSERS
希土類元素(レアアース) は原子番号57番~71番に位置する非常に重い元素で、地球上にほとんど存在しないことから希土類元素と呼ばれています。希土類元素は最外殻の電子配置が互いに似通っているため、化学的な手法でその種類を同定することが難しい問題があります。
当研究室では2024年、希土類元素を含むキレート分子の SERSを測定することで、間接的に希土類元素であるLa(ランタン) とGd(ガドリニウム) を互いに識別することに成功しました。これは世界的に見て非常にユニークかつ重要な研究成果です。とても難しい研究ですが、研究に新たに参画する挑戦者をお待ちしています。
4.金属材料と電気化学
当研究室ではまた、物理化学分野、特に金属材料科学と電気化学の境界領域での研究もスタートしています。まだ詳しくお伝えすることができませんが、世界に大きなインパクトを与える大きな研究成果を期待しながら日々研究を続けています。
参考文献・これまでの研究業績や論文にご興味がある方は、お気軽に指導教員までメール(
)または指導教員室M4-40へお越しください。論文の別刷(論文のコピーのこと)を差し上げます。
主な研究業績
- Jin Hao, Tamitake Itoh and Yuko S. Yamamoto, “Classification of La3+ and Gd3+ rare earth ions using surface-enhanced Raman scattering”, Journal of Physical Chemistry C, 128, 5611 (2024)
- Tamitake Itoh and Yuko S. Yamamoto, “Basics and Frontiers of Electromagnetic Mechanism of SERS Hotspots” In Book: Procházka, M., Kneipp, J., Zhao, B., Ozaki, Y. (eds) “Surface- and Tip-Enhanced Raman Scattering Spectroscopy” Springer, Singapore (2024)
- 山本裕子 , “ プラズモンと分子の電磁相互作用の基礎 ”, 応用物理学会フォトニクスニュース , 9(2), 68-72 (2023)
使用装置
表面増強ラマン顕微鏡(自作)
ラマン顕微鏡
紫外可視吸収測定器
密度汎関数(DFT)計算装置
研究室の指導方針
世界トップレベルで基礎研究を行うための、自由闊達な研究環境を提供しています。当研究室にはコアタイムがありません。各自が自由な時間で研究を組み立てており、そのスタイルを奨励しています。研究室内のメンバーとの情報交換・互いの進捗の確認は、週一回の全体ミーティングおよび輪講セミナーにて行います。そのため、自律的にしっかりと研究生活を組み立てられるタイプの学生の方に適した環境です。
自らの研究成果を世に発信するため、年1回程度の学会発表を推奨しています。研究テーマの設定は、指導教員が提示する研究テーマを参考に、個々の学生さんの興味範囲・方向性を取り入れつつ最大限希望に添う形で行います。基本的に、研究成果は国際論文(英語)という形で世に広く発表することを目指していきます。プロの研究者を志望する方にお勧めです。
もちろん、指導教員による個別指導を随時行います。指導教員の持つ知識や経験をどんどん活用してください。
タンパク質の「形」や「動き」をしらべて、未知の生命現象をひもとく
タンパク質の「形」や「動き」をしらべて、
未知の生命現象をひもとく
タンパク質NMR研究室 Laboratory on Protein NMR
教授:大木 進野(OHKI Shinya)
E-mail:
[研究分野]
構造生物化学、生物物理学、NMR(核磁気共鳴分光法)
[キーワード]
タンパク質、構造と機能、立体構造、ダイナミクス、相互作用、NMR、安定同位体標識
研究を始めるのに必要な知識・能力
試料調製(遺伝子工学、生化学)、NMR実験(パラメータ設定、多様な測定、データ処理)、解析(NMRデータ解析、バイオインフォマティクス)の3つの要素のうち、少なくとも1つに関しての知識・能力があれば、この分野の研究を始めやすいです。PC操作に強い人も歓迎します。
この研究で身につく能力
生命現象を分子レベルで考える能力が養われます。研究で扱っているのは生体分子ですが、境界領域とか複合領域と呼ばれる研究分野のため、物理・化学・生物の幅広い基礎知識が必要になります。そのため、自ずとこれらを勉強して身につけることになります。また、具体的な研究立案を通して、大目標へ到達するための道筋を考えた中目標や小目標の立て方を学びます。実験がうまくいかないときの工夫やデータの解析・解釈など、実際に研究を進めていく中で困難な課題を少しずつ解決し、それらを統合して目標へ向かっていく能力が養われます。さらに、研究経過報告や学会発表を経験することで、学術的な文章を書く能力や発表資料の作成能力、プレゼンテーション能力も身につきます。
【就職先企業・職種】 製薬・食品・化学系企業の研究、技術職
研究内容

図.気孔を増やすストマジェンの立体構造。

図.1H-13Cの相関をみる2次元NMR(HSQC)スペクトルのメチル基領域の拡大図。タンパク質全体が13Cで安定同位体標識されている試料(左)とバリン・ロイシンのみが標識されている試料(右)。
(1)安定同位体標識技術の開発
NMR(核磁気共鳴分光法)で測定するタンパク質は、見たい部位の炭素が13C、窒素が15Nという安定同位体で標識されていることが必要です。このような特殊なタンパク質試料は、通常、遺伝子組み換え大腸菌を使って調製されます。類似の手法として、私たちは、これまで無かった植物培養細胞を利用する安定同位体標識タンパク質調製技術を開発しています。大腸菌よりも高等な植物細胞は、大腸菌では調製が困難な複雑な構造のタンパク質を調製する潜在能力を持っています。私たちはこれまでに、このオリジナル技術を使って試料タンパク質を13Cや15Nで均一標識することや、バリン、ロイシンなどのメチル基を有するアミノ酸残基だけを特異的に安定同位体標識することに成功しています。今後は、この標識技術のさらなる高度化に取り組んでいきます。
(2)ジスルフィド結合を有するタンパク質
ジスルフィド(SS)結合を有するタンパク質を大腸菌の系で調製することは困難です。私たちは、植物培養細胞を利用してSS結合を有するタンパク質を調製し、それらの構造と機能をNMRで研究しています。幾つかの成果の例を以下に紹介します。
ストマジェンは分子内に3組のSS結合を持つペプチドホルモンで、植物の気孔の数を増やす働きをします。大腸菌ではストマジェンを大量に調製することが困難でしたが、植物培養細胞での調製に成功しました。安定同位体標識されたストマジェンを調製し、その立体構造をNMRで解明しました。その結果、ストマジェンや類縁タンパク質の特異な機能と構造との関連が明らかになりました。今では、気孔の数を増やしたり減らしたりするペプチドを設計・調製し、実際にその効果を確認することが出来るようになっています。将来、植物の光合成量や成長を人為的に自在に操ることが可能になれば、環境改善や食料問題の解決に貢献できるはずです。
分子内に4組のSS結合を持つESFは、植物の種子が出来るごく初期の段階でのみ発現するペプチドとして発見されました。ESFが働かなくなると、種子の大きさや形が不揃いになります。私たちは、ESFを植物培養細胞で調製することに成功し、その立体構造をNMRで決定しました。この結果、ESF分子表面の特別な並びをしたトリプトファン残基の側鎖がその機能に必須であることが明らかになりました。大きな種子を収穫したり、種のないフルーツを簡単に作れる日が来るかも知れません。
他にも、昆虫や爬虫類の毒ペプチドや抗菌作用を持つディフェンシンなど、SS結合を持つタンパク質は数多く存在します。これらについても構造と機能の関係を研究しています。このような生理活性を持つ生体分子についての研究は、生命現象を深く理解するだけにとどまらず、その成果が新薬開発の大きな助けとなります。
(3)シグナルを伝達するタンパク質
生体内では、タンパク質、脂質、遺伝子など多くの分子の協奏によってさまざまなシグナルが行き交っています。これらのシグナルは、メチル化、アセチル化といった修飾や、マグネシウム、亜鉛などのイオンとの結合・解離による分子構造や構造の揺らぎ具合の変化がスイッチとなって、他の分子と相互作用することで伝達されています。私たちは、カルシウムを結合するタンパク質やリン酸化されるタンパク質に焦点を絞り、それらの構造と機能をNMRで研究しています。
主な研究業績
- L.M.Costa, E.Marshall, M.Tesfaye, K.A.T.Silverstein, M.Mori, Y.Umetsu, S.L.Otterbach, R.Papareddy, H.G.Dickinson, K.Boutiller, K.A.VandenBosch, S.Ohki & J.F.Gutierrez-Marcos. (2014) “Central Cell-Derived Peptides Regulate Early Embryo Patterning in Flowering Plants” Science 344, 168-172.
- S.Zhu, S.Peigneur, B.Gao, Y.Umetsu, S.Ohki & J.Tytgat. (2014) “Experimental Conversion of a Defensin into a Neurotoxin: Implications for Origin of Toxic Function” Mol. Biol. Evol. 31(3), 546-559.
- S. Ohki, M. Takeuchi & M. Mori. (2011) “The NMR structure of stomagen reveals the basis of stomatal density regulation by plant peptide hormones” Nature Communications 2, Article number: 512 doi:10.1038/ncomms1520
使用装置
Bruker AVANCE III 800MHz-NMR装置(1H/13C/15N三重共鳴クライオプローブ付き)
研究室の指導方針
将来全く別の研究・技術の領域に飛び込んだとしても十分活躍していけるような基礎的素養を持った人材を育成したいと思います。毎日楽しみながら、こつこつと努力し、粘り強く研究に取り組みましょう。失敗でも成功でも、取得した生の実験データを見ながら議論することに重きをおきます。データの解析や考察、次の実験についての提案など、新しいアイデアを出し合うことを日頃から繰り返していきながら、論理的な思考方法を身につけましょう。また、3ヶ月に1度程度は研究室のゼミで詳細な研究経過を口頭で発表する機会があります。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/nmcenter/labs/s-ohki-www/contents/Ohki_Lab.html
材料の柔らかさを活かした次世代ロボットの開発
材料の柔らかさを活かした次世代ロボットの開発
ソフトロボット研究室 Laboratory on Soft Robotics
教授:ホ アン ヴァン(HO Anh-Van)
E-mail:
[研究分野]
ロボティクス
[キーワード]
ソフトロボティクス、柔軟な触覚装置
研究を始めるのに必要な知識・能力
自然の物事と現象を解明することにより、柔軟物を積極的に利用した新機能の機構を開発する本研究室は、分析力や実践力を求め、機能材料の力を借りて技術課題を解決する想像力を重視しています。また、特定の分野・知識を問わずに、ものづくりに興味を持つ学生を歓迎します。
この研究で身につく能力
| ・機械設計、電子回路設計、加工方法 ・プログラミング、制御 ・計算、解析 |
・提案能力 ・コミュニケーション能力、論文作成力 ・グローバルな思考、起業魂 |
【就職先企業・職種】 機械設計会社、電機メーカ、大学等
研究内容
概要:
自然界のすべての現象には、何らかの形で必ずダイナミクスが関与しています。このダイナミクスを理解できれば、その現象を生じさせるために、メカニズムがどのように進化してきたかを理解することが可能になります。また、そのメカニズムをロボットの駆動装置または感覚装置に応用することで、新しい機構を創出できると考えられます。本研究室の長期研究計画・内容については以下の図をご参照ください。

内容:
本研究では柔軟物とその形態制御を用いてセンシング装置・アクチュエーター・知能は以下のようなテーマで行われています。
【短期のテーマ】
| ① | 織物のような柔軟な質感を持つ新しい触覚センサの開発、そのマルチ・モーダルな特性を活かすセンシングに基づいた制御方法の開発を積極的に進めています。 |
| ② | 遠隔操作システムにおいて、ロボット上の触覚センサによって得られた触感(圧力・摩擦・すべり)をヒトの指先に再現できる装置を開発しています。 |
| ③ | しわのメカニズムにヒントを得た、柔軟性を有するアクチュエータを用いて柔軟物を変形させることによって、同一のセンサのみでも異なるセンシング能力が得られる能動的な触覚センサの開発を目指します。![]() |
【長期のテーマ】
④ 柔軟物を掴めるソフトロボットハンドの開発
⑤ ラピッドプロトタイプ技術の開発
⑥ 柔軟な思考のあるロボットの開発 等
主な研究業績
- Van Ho et al., IEEE Transactions on Robotics, Vol. 27, No. 3, pp.411-424, 2011
- Van Ho et al., IEEE Sensors Journal, Vol. 13, No. 10, pp. 4065-4080, 2013,
- Van Ho et al., IEEE Robotics and Automation Letter, Vol. 1, Issue 1, pp. 585-592, 2016
使用装置
3Dプリンター、電動直動ステージ、6軸力覚センサ、触覚提示装置、小型NC加工機、高速度カメラ
研究室の指導方針

修士課程、博士課程に関わらず、本研究室に右側の図が示すような「研究活動のサイクル」や「3Cの研究者」を身につけた学生を育成します。そのため、毎週のミーティングで学生の進捗・成長を積極的にフォローします。
研究活動において、各メンバーの発想・アイデアを尊重にして、PDCA(Plan・Do・Check・Action)を通じて具体的な実現方法が見つかるまで指導します。
学生のキャリアパスの選択を全力でサポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/vanho/index.html


織物のような柔軟な質感を持つ新しい触覚センサの開発、そのマルチ・モーダルな特性を活かすセンシングに基づいた制御方法の開発を積極的に進めています。
遠隔操作システムにおいて、ロボット上の触覚センサによって得られた触感(圧力・摩擦・すべり)をヒトの指先に再現できる装置を開発しています。
