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研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。革新的ポリマーを用いたタンパク質凝集阻害メカニズムの解明 ―タンパク質医薬品製造の効率化や神経変性疾患治療への応用に期待―

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国立大学法人 国立大学法人東京工業大学 |
革新的ポリマーを用いたタンパク質凝集阻害メカニズムの解明
―タンパク質医薬品製造の効率化や神経変性疾患治療への応用に期待―
ポイント
- 双性イオンポリマー(PSPB)によるタンパク質凝集阻害の複雑な分子メカニズムを先駆的に解明した。
- PSPBは、多様なタンパク質の熱凝集に対して高い保護活性を持ち、PSPBとタンパク質の相互作用を実験及びシミュレーションにより包括的かつ詳細に検討した結果、弱く可逆的な結合の重要性を明らかにした。また、PSPBはタンパク質と弱く可逆的に相互作用することで、凝集経路を妨げ、凝集性中間体の形成を阻止することも明らかとなった。
- タンパク質治療薬の安定化と長期保存を実現する可能性を見出した。
- 将来的にはアルツハイマーなどの神経変性疾患の治療への応用も期待される。
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)物質化学フロンティア研究領域の松村和明教授、ラジャンロビン元助教及びZHAO, Dandan研究員(超越バイオメディカルDX研究拠点)は、東京工業大学(学長・益一哉、東京都目黒区)生命理工学院生命理工学系の古田忠臣助教と共同で、双性イオンポリマーによるタンパク質凝集阻害メカニズムの解明に成功した。 本研究グループが合成したスルホベタインポリマーと呼ばれる双性イオン高分子は、タンパク質と弱く可逆的に相互作用し、凝集経路を妨げることで凝集性中間体の形成を阻止し、有害な凝集を防ぐ。この画期的な発見は、タンパク質治療薬を進歩させ、タンパク質のミスフォールディングに関連する様々な症状に対する新規治療法を開発する上で、計り知れない可能性を秘めている。 本成果は、2024年5月30日11時(米国東部標準時間)にCell Press発行「Cell Reports Physical Science」オンライン版に掲載された。 |
【研究の背景】
タンパク質の凝集は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患の主な原因とされている。また、タンパク質医薬品の生産と保管中に凝集が発生すると、薬剤の活性と有効性が失われる可能性がある。従来の方法では、これらの凝集を防ぐことは困難であり、効果的な安定化手法の開発が求められていた。
【研究内容】
本研究グループは、双性イオン高分子注1の一種であるスルホベタインポリマー(PSPB)及びその疎水性誘導体がタンパク質凝集を抑制するメカニズムを解明した。(図1)。PSPBはタンパク質と弱く相互作用し、凝集経路を妨げることで凝集性中間体の形成を阻止する。実験により、PSPBがインスリンやリゾチームなどの複数のタンパク質を熱ストレスから効果的に保護することが示された。特に、疎水性残基を導入したPSPBは、タンパク質の凝集抑制効果が著しく向上することが確認された。この効果は分子シールディング効果注2と呼ばれ、保護対象のタンパク質と保護高分子が可逆的な相互作用を示すことにより、物理的に凝集を妨げている様子が分子動力学シミュレーション注3の結果からも確認された。
【主な結果】
- PSPBの合成と特性評価:異なる疎水性モノマー(BuMA、HxMA、OcMA)を組み込んだ種々のスルホベタインポリマー(PSPB)を合成し、その特性を評価した。
- タンパク質の保護効果:インスリン、リゾチーム、乳酸脱水素酵素(LDH)をモデルタンパク質として使用し、PSPBがこれらタンパク質の凝集繊維形成を著しく抑制することを確認。分子量と疎水性が高いPSPBは、特に効果的であることが示された(図2)。
- 分子動力学シミュレーション:PSPBが分子シールドとして機能し、タンパク質分子間の距離を保ち、凝集を防ぐ効果を持つことが確認された(図3)。
- メカニズムの解明:熱分析、分光学的手法などを駆使し、PSPBによる凝集抑制効果の解明に成功した。モデルタンパク質のインスリンを加熱すると、タンパク質の高次構造がほどけるアンフォールディングが起こる。その後、さらに加熱することで凝集性の前駆体が形成され、不可逆な凝集体となる。ここにPSPBが存在することで、アンフォールディングする温度が高温側にシフトし、凝集前駆体の形成が阻害される。冷却時にはPSPBは脱離し、元の高次構造が維持される(図4)。PSPBへの疎水基の導入は、タンパク質の疎水性残基との相互作用を高める効果があり、より凝集前駆体の形成阻害効果を高めていることが示唆される。
【今後の展望】
PSPBによるタンパク質凝集抑制効果の分子メカニズムに迫った研究は初めてであり、このメカニズムにより、PSPBがタンパク質治療薬の安定化と長期保存に貢献できる可能性が示された。
さらに、この研究は新しい診断及び治療法の開発にも応用される可能性があり、将来的には幅広い疾患に対する効果的な治療法の提供が期待される。本研究グループは、今後さらにアミロイドβタンパクの凝集抑制などの研究を進め、アルツハイマー病やパーキンソン病などのタンパク質凝集が原因とされる神経変性疾患の治療や原因解明など、実用化に向けた具体的な応用方法の開発に取り組んでいく予定である。
図1 各種合成した双性イオンポリマー
スルホベタインポリマー(PSPB)にブチルメタクリレート(BuMA)、ヘキシルメタクリレート(HxMA)、オクチルメタクリレート(OcMA)を共重合したポリマーの構造を示す。
図2 インスリン溶液の凝集抑制の様子。i)加熱前、ii)加熱後、iii)PSPB添加後に加熱。
加熱することで凝集により白濁していることが確認される。一方、PSPBを添加することで白濁は抑えられる。
図3 P(SPB-r-BuMA)のモデルとしたスルホベタイン2量体にブチルメタクリレートを結合した化合物(SPB2_BuMA)とインスリンのMDシミュレーションによるスナップショット。インスリン二分子の間にモデル化合物が分子シールドとして可逆的にサンドイッチされ、凝集を妨げている様子が見られた。
図4 凝集抑制メカニズムの模式図。インスリン二量体(天然構造)が加熱により単量体に変性し、さらにアンフォールディングして立体構造が解消される。その際にポリマーがあると、分子シールディング効果により、凝集前駆体の形成を抑制し、繊維状凝集前駆体(prefibrillar aggregates)から繊維凝集体(mature fibrils)の形成を阻害する。
なお、本研究は、科研費基盤研究(B)20H04532、若手研究20K20197、23K17211、学術変革領域研究(A)21H05516、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)JPMJTR20UN、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業JPMXP09S21MS1051、JPMXP09S21MS1051b、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業JPMXP1222MS1007、ならびに北陸先端科学技術大学院大学超越バイオメディカルDX研究拠点、生体機能・感覚研究センターの支援のもと行われた。
【論文情報】
雑誌名 | Cell Reports Physical Science |
題目 | Molecular mechanism of protein aggregation inhibition with sulfobetaine polymers and their hydrophobic derivatives |
著者 | Robin Rajan, Tadaomi Furuta, Dandan Zhao, Kazuaki Matsumura |
掲載日 | 2024年5月30日11時(米国東部標準時間) |
DOI | 10.1016/j.xcrp.2024.102012 |
【用語説明】
同一分子内に正電荷と負電荷を持つ全体としては中性の高分子で、高い水和性と低い非特異的タンパク質吸着性を持つ。これにより、生体適合性が高く、医療分野やバイオテクノロジー分野で広く研究、応用されている。
Tunaccliffeらの報告によると、ある種の天然変性タンパク質が乾燥時に他のタンパク質の周りに保護相を形成し、物理的に凝集を抑制する効果のことを分子シールディング(molecular shielding)効果として説明している。
Chakrabortee S, et al., Mol. Biosys. 2012, 8, 210-219
分子系の運動を時間的に解析する手法。具体的には、原子や分子の初期位置と速度を設定し、相互作用ポテンシャルを用いてニュートンの運動方程式を解くことで、分子系の時間発展を追跡し、構造変化、相転移、拡散などの現象を解析する。例えば、タンパク質のフォールディング過程や薬物分子の結合動態、材料の熱物性などを詳細に調べることができ、生物学、化学、材料科学に広く応用されている。
令和6年5月31日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2024/05/31-1.htmleMEDX(イーメディックス)見学会のご案内 ~超越バイオメディカルDX研究拠点の力で生まれる未来~
下記のとおり、超越バイオメディカルDX研究拠点(eMEDX/イーメディックス)の見学会を開催しますので、ご案内します。
経済産業省令和3年度「産学連携推進事業費補助金(地域の中核大学の産学融合拠点の整備)」(Jイノベプラットフォーム型)の補助事業の採択を受け今年度より開設された当研究拠点は、DX・スタートアップ人材の育成、バイオメディカルベンチャーの創出を含む地域社会の発展に積極的に貢献し、他地域からの企業誘致などを通じて、能美市旭台に位置するいしかわサイエンスパークの活性化にもつながる取り組みです。データ駆動型の最先端DXを基盤として、疾病の超早期診断、創薬ツール、再生医療用バイオマテリアル、機能性食品、アンチエイジングなど多彩な業種・業界と協働して研究開発を行うための設備や体制を構築します。
当見学会では、施設紹介や研究所見学、担当教員による研究紹介などを通じて、当研究拠点について周知することを目的としています。本学のバイオメディカル研究の最先端を紹介する貴重な機会となりますので、ぜひご参加ください。
日 時 | 令和5年8月30日(水) 10:00~12:00 |
場 所 | 北陸先端科学技術大学院大学 超越バイオメディカルDX研究拠点(eMEDX/イーメディックス) 2Fシェアードオープンイノベーションルーム (石川県能美市旭台2-13/いしかわクリエイトラボ向かい) |
定 員 | 約20名 事前申込制 |
プログラム | 第1部 施設紹介および見学会(撮影可) 第2部 研究紹介および拠点活用事例紹介 詳細は、別紙開催概要をご覧ください。 |
申込方法 | メールの件名と本文に「eMEDX見学会参加希望」と明記し、 ・所属 ・参加者氏名 ・メールアドレス(連絡先) ・後日個別相談会 希望する or 希望しない ・個別相談を希望する場合は、本学教員またはURAの氏名 上記をご記入のうえ、下記申込み先にお送りください。 |
申込締切 | 令和5年8月25日(金) |
申込み・ 問合せ先 |
北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部 担当:山廣、竹田 E-mail:emedx@ml.jaist.ac.jp |

建物外観

最先端の研究を実現するオープンラボ

ワークスペースも完備

交流のためのシェアード
イノベーションルーム
令和5年8月10日
出典:JAIST イベント情報https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/event/2023/08/10-1.htmlMeet up Chubu イベント「超越バイオメディカルDX研究拠点」見学会を開催
7月27日(木)、中部経済産業局および中部経済連合会主催の、連携パートナーを探索するためのオープンイノベーションプラットフォームである『Meet up Chubu』が、本学の「超越バイオメディカルDX研究拠点(eMEDX)」にて開催されました。現地参加とオンラインのハイブリッド形式で行われ、当日は約60名の多種多様な業種・業界の方々にご参加いただきました。
最初にeMEDX拠点長である物質化学フロンティア研究領域の松村 和明教授から施設概要の紹介があり、その後、eMEDX施設内のオンラインツアーをライブ配信で行いました。
続いて、松村教授、同じく物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎准教授の研究紹介が行われました。各セッションの最後には参加者からたくさんの質問があり、活発な意見交換がなされました。
最後に、寺野稔学長からの挨拶では、eMEDXの展望について発言がありました。
eMEDXでは、本学が誇る世界トップレベルのバイオメディカル分野の研究に、スーパーコンピューターを活用したデータ駆動型のDXを組み合わせ、医療・ヘルスケア・メディカルなどに関わる広い分野でのイノベーションを目指すとともに、技術や知識をシェアして共創する「シェアードオープンイノベーション」という新しい考え方に基づき、多種多様な業種・業界の会員企業間のざっくばらんな交流を推進することで、北陸から世界のバイオメディカルを変えるイノベーションを共創していきます。

学長挨拶

松村和明 拠点長・教授

都英次郎 准教授

研究紹介の様子
施設に関するお問い合わせ先 北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部 担当:山廣、竹田 〒923-1292 石川県能美市旭台1-1 E-mail:emedx@ml.jaist.ac.jp |
令和5年8月10日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2023/08/10-1.html大学見本市2023~イノベーション・ジャパンに本学が出展
8月24日(木)・25日(金)の2日間、東京ビッグサイト南展示棟(東京都江東区有明)で国内最大規模の産学マッチングイベントである「大学見本市2023~イノベーション・ジャパン」が開催されます。
本学からは以下の2件が出展します。
ご来場の際にはぜひお立ち寄りください。
日 時 | 8月24日(木) 10時00分~17時30分 8月25日(金) 10時00分~17時00分 |
会 場 | 東京ビッグサイト 南展示棟 南1ホール(東京都江東区有明3丁目11番1) |
大学等 シーズ展示 |
超越バイオメディカルDX研究拠点 物質化学フロンティア研究領域 松村和明 教授 【小間番号】H-56 高田健司 助教 【小間番号】C-68 |
詳細はこちらをご覧ください。
・イノベーション・ジャパン2023公式サイト
・イノベーション・ジャパン2023出展課題一覧
eMEDX(イーメディックス)見学会 ~超越バイオメディカルDX研究拠点の力で生まれる未来~
下記のとおり、超越バイオメディカルDX研究拠点(eMEDX/イーメディックス)の見学会を開催しますので、ご案内します。
経済産業省令和3年度「産学連携推進事業費補助金(地域の中核大学の産学融合拠点の整備)」(Jイノベプラットフォーム型)の補助事業の採択を受け今年度より開設された当研究拠点は、DX・スタートアップ人材の育成、バイオメディカルベンチャーの創出を含む地域社会の発展に積極的に貢献し、他地域からの企業誘致などを通じて、能美市旭台に位置するいしかわサイエンスパークの活性化にもつながる取り組みです。データ駆動型の最先端DXを基盤として、疾病の超早期診断、創薬ツール、再生医療用バイオマテリアル、機能性食品、アンチエイジングなど多彩な業種・業界と協働して研究開発を行うための設備や体制を構築します。
当見学会では、施設紹介や研究所見学、担当教員による研究紹介などを通じて、当研究拠点について周知することを目的としています。本学のバイオメディカル研究の最先端を紹介する貴重な機会となりますので、ぜひご参加ください。
日 時 | 令和5年6月19日(月) 15:00~17:00 |
場 所 | 北陸先端科学技術大学院大学 超越バイオメディカルDX研究拠点(eMEDX/イーメディックス) 2Fシェアードオープンイノベーションルーム (石川県能美市旭台2-13/いしかわクリエイトラボ向かい) |
定 員 | 約30名 事前申込制 |
プログラム | 第1部 施設紹介および見学会(撮影可) 第2部 研究紹介および拠点活用事例紹介 第3部 個別面談 詳細は、別紙開催概要をご覧ください。 |
申込方法 | メールの件名と本文に「eMEDX見学会参加希望」と明記し、 ・所属 ・参加者氏名 ・メールアドレス(連絡先) ・個別相談会 希望する or 希望しない ・個別相談を希望する場合は、本学教員またはURAの氏名 上記をご記入のうえ、下記申込み先にお送りください。 |
申込締切 | 令和5年6月12日(月) |
申込み・ 問合せ先 |
北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部 担当:山廣、竹田 E-mail:emedx@ml.jaist.ac.jp |

建物外観

最先端の研究を実現するオープンラボ

ワークスペースも完備

交流のためのシェアード
イノベーションルーム
令和5年6月8日
出典:JAIST イベント情報https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/event/2023/06/08-1.html固体電解質薄膜トランジスタを用いたバイオセンサの製品化に着手 ~短時間で複数の核酸・病原体を同時に検出~

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三菱マテリアル株式会社 国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 |
固体電解質薄膜トランジスタを用いたバイオセンサの製品化に着手
~短時間で複数の核酸・病原体を同時に検出~
三菱マテリアル株式会社と北陸先端科学技術大学院大学(石川県能美市) バイオ機能医工学研究領域の高村禅教授、廣瀬大亮助教は、共同で新規の固体電解質薄膜トランジスタを用いたバイオセンサを開発し、実用化に向けた製品開発に着手しました。
医療の分野における遺伝子検査では、一般的にPCR(Polymerase Chain Reaction)法など核酸を増幅して検査する方法が用いられていますが、検査機器が高価であり、また、大型のため用途が限定されています。
三菱マテリアルでは、従来より金属や酸化物など様々な材料に薄膜を形成するための研究開発を行っており、湿式成膜による薄膜材料開発に関する高い技術力を有しています。このたびの共同開発ではその技術を応用し、検知部に独自に開発した固体電解質薄膜トランジスタを用いた新たなバイオセンサを開発しました(模式図参照)。
本バイオセンサでは、微小な電荷による電圧変化を検出することでPCRなどの増幅法に比べて短時間で検査結果を得ることができます。また、微細加工技術を利用してセンサ素子を並列に複数個配列することができるため、複数の核酸・病原体の同時検出が可能となります。さらに、固体電解質薄膜トランジスタ自体が小さいため、バイオセンサの小型化が可能であり今後も用途の拡大が見込めます。
今後は測定可能な核酸の種類を拡張するとともに、複数の種類を含む病原体を同時に検出可能なセンサの製品化に取り組み、実用化に向けた製品開発を推進します。
三菱マテリアルグループは、「人と社会と地球のために」という企業理念のもと、これからも非鉄金属素材およびライフヘルスケア分野に付加価値の高い製品の開発・提供を通じて、豊かな社会の構築に貢献してまいります。
新開発のバイオセンサ
【性能】
固体電解質薄膜トランジスタの表面に負の電荷を有する核酸が特異的に吸着した場合、表面電荷の変化が生じ、変化に対応した電圧変化を大きなシグナルとして読み取ることが可能です。(図1参照)
図1 新規開発品によるシグナル増強について
固体電解質薄膜トランジスタを用いて、大腸菌に含まれる稀薄な核酸について、増幅することなく検出できることを確認しました。(図2参照)。
図2 大腸菌検出結果
【関連情報】
本リリースで紹介している固体電解質薄膜トランジスタは、以下のJournalに掲載されています。
Journal of Applied Physics 127, 064504 (2020)
令和5年5月19日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/05/19-1.htmlマイクロロボットを"流れ"作業で迅速に作製 -生体分子モーターによる人工筋肉で自在にプリント・動的再構成可能に-

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国立大学法人 大阪大学 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 |
マイクロロボットを"流れ"作業で迅速に作製
-生体分子モーターによる人工筋肉で自在にプリント・動的再構成可能に-
【ポイント】
- マイクロ流路※1の中で、光に応答する材料を流しながら、マイクロロボット※2のボディと駆動源となるアクチュエータ※3を連続的に生産・組み立てを行う「マイクロロボットその場組み立て法」を開発
- 様々な機能をもつマイクロロボットの迅速な作製に成功
- より高機能なマイクロロボットの実現と、マイクロロボットの量産化に期待
【概要】
大阪大学・大学院工学研究科の森島圭祐教授、王穎哲特任研究員(常勤)は、 北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 バイオ機能医工学研究領域の平塚祐一准教授、岐阜大学・工学部の新田高洋教授との共同研究で、マイクロ流路内で、マイクロロボットの部品をプリント成形し、その場で組み立てることに成功しました。マイクロロボットの機械構造は光応答性ハイドロゲル※4でつくられ、アクチュエータは同じチームが開発した生体分子モーターからなる人工筋肉を利用しました。このアクチュエータと機械部品をマイクロ流路内で組み立てることにより、マイクロロボット製造の柔軟性と効率が向上しました。この方法で、様々な機能のマイクロロボットが実現されました。また、この成果により、これまで困難であった、特に柔軟な構造を持つマイクロソフトロボットの実現や、マイクロロボットの量産化が期待されます。 本研究成果は、2022年8月24日午後2時(米国時間)に発行される科学雑誌「Science Robotics」の表紙を飾りました。 |
【研究の背景】
マイクロロボット、特に柔軟な構造を持つロボットは、生物医学などの分野で非常に幅広い応用の可能性があるものの、小さなロボットにアクチュエータなど様々な機械部品を組み込むことは困難で、高機能のマイクロロボット開発の障害となっています。従来の方法では、通常、機械構造やアクチュエータなど、マイクロロボットの様々な部品を異なる場所で製造し、一つ一つ組み上げていくピック アンド プレース アセンブリによってマイクロロボットがつくられていました。この方法は時間と労力がかかり、また多くの制限があることが課題となっています。
【研究の内容】
本研究では、自然界の生体内システムの自己組織化プロセスに着想を得て、2021年に発表したプリント可能な生体分子モーターからなる人工筋肉(1)(2)に基づき、ロボット部品をその場で加工・組み立てしてマイクロロボットを製造する方法を開発しました。マイクロ流路内で、マスクレスリソグラフィー※5により、ハイドロゲル材料の機械的構造をプリントし、次に生体分子モーターからなる人工筋肉がハイドロゲル機構の狙った位置に直接プリントすることで、機構を駆動して目的の仕事を実施します(図1) 。 このその場組み立てにより、マイクロロボットを迅速に次々と生産することができます。
また、マイクロロボットに新しい人工筋肉を再プリントすることにより、アクチュエータを迅速に動的再構成し、複雑な仕事を行うマイクロロボットを実現しました(図2)。
さらに、生体分子モーターを使用する本研究とは異なる、生きた筋肉細胞を用いるアプローチとして細胞ハイブリッドロボット※6が注目されています。細胞ハイブリッドロボットは、柔軟性が高く、環境負荷が低いという利点があるものの、筋肉細胞の培養に数日かかってしまうという問題があります。本研究では、設計の柔軟性を向上させながら、製造プロセスを大幅に簡素化することに成功しました。今後のオンチッププリンティング技術の向上や人工筋肉の性能向上により、現在の細胞ハイブリッドロボットのボトルネックを打破し、実用化に向けた一歩を踏み出すことが期待される手法であると考えています。
(1) https://www.nature.com/articles/s41563-021-00969-6
(2) https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/04/20-1.html
図1 マイクロロボットその場組み立て法
図2 その場組み立て法によって製造したマイクロロボットが生体分子モーターからなる人工筋肉によって駆動する様子
【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】
今回の研究により、自然界の生体分子モーターによって運動が創発する自己組織化現象をオンチップ微小空間上で工学的に制御し、自在にデザインできる加工プロセスをボトムアップ的な発想でより簡便に実現できました。これにより、これまで超微小部品をトップダウン的に組み立てることが大きなボトルネックであったために遅れていた、マイクロロボットの組み立てやマイクロソフト機構のオンデマンド生産が可能になりました。今後、様々な機能を付与したマイクロロボットがオンチップ上で連続的にオンデマンド生産することが可能になり、化学エネルギーだけで駆動する超小型マイクロロボットが健康医療応用など様々な分野に展開、波及していくことが期待できます。
【特記事項】
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究(S)(課題番号22H04951)、基盤研究(A)(課題番号22H00196)、基盤研究(B)(課題番号19H02106)、学術変革領域研究(A)(課題番号21H05880)、挑戦的萌芽研究(課題番号21K18700)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」(JPNP15009)の支援を受けて行われました。
【論文情報】
タイトル | In situ integrated microrobots driven by artificial muscles built from biomolecular motors |
著者名 | Yingzhe Wang, Takahiro Nitta, Yuichi Hiratsuka ,and Keisuke Morishima |
DOI | https://www.science.org/doi/10.1126/scirobotics.aba8212 |
【用語説明】
ガラスや高分子材料で作製した数ミリメートルから数マイクロメートルの流路で、効率的に化学反応などを起こすことができる。微小なバイオセンサーや化学分析装置に利用されている。
数ミリメートル以下のサイズのロボットで、医療などへの応用が期待されている。
モーターやエンジンなどのように電気や化学エネルギーなどを利用して、動きや力を発生する装置。
紫外線などの光を照射することでゼリー状に固まる物質。
光照射による微細加工技術で、半導体デバイスなどの製造に利用されている。
培養細胞と機械部品を融合させて作製したロボット。
【SDGs目標】
【参考URL】
森島圭祐教授 研究者総覧URL https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/90351526dc15ef59.html
生命機械融合ウェットロボティクス領域URL http://www-live.mech.eng.osaka-u.ac.jp/
令和4年8月26日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/08/26-1.html物質化学フロンティア研究領域の松村教授らの論文がBiomacromolecules誌の表紙に採択
物質化学フロンティア研究領域の松村研究室による論文が、米国化学会(American Chemical Society :ACS)刊行のBiomacromolecules誌の表紙(Supplementary cover)に採択されました。本研究成果は、物質・材料研究機構および産業技術総合研究所との共同研究によるものです。
■掲載誌
ACS Biomacromolecules, 2022Volume 23, Issue 8
表紙掲載日2022年8月8日
■著者
Chiaki Yoshikawa, Keita Sakakibara, Punnida Nonsuwan(松村研究室修了生), Miwako Shobo, Xida Yuan(松村研究室修了生), Kazuaki Matsumura
■論文タイトル
Cellular Flocculation Driven by Concentrated Polymer Brush-Modified Cellulose Nanofibers with Different Surface Charges
■論文概要
今回の論文は、濃厚ポリマーブラシを表面グラフトしたセルロースナノファイバーが細胞と相互作用して凝集体を形成する際の表面電荷の影響について詳細に議論したものです。その結果、アニオン性のポリマーブラシをグラフトすることで良好な細胞凝集塊の形成がみられました。
本研究結果は、再生医療用三次元細胞足場材料への応用が期待できます。
本発表は、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所との共同研究による成果です。
表紙詳細:https://pubs.acs.org/toc/bomaf6/23/8
論文詳細:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.biomac.2c00294
令和4年8月9日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/08/09-1.htmlサスティナブルイノベーション研究領域の高田助教らの研究がPolymer Journal誌の表紙に採択
サスティナブルイノベーション研究領域の高田 健司助教、金子 達雄教授および物質化学フロンティア研究領域の松村 和明教授の共同研究に関する論文が、Springer Nature社刊行のPolymer Journal誌の表紙に採択されました。
■掲載誌
Polymer Journal 2022, 54 (4), 581−589.
掲載日2022年1月14日
■著者
Kenji Takada, Asuka Komuro, Mohammad Asif Ali, Maninder Singh, Maiko Okajima, Kazuaki Matsumura, Tatsuo Kaneko*
■論文タイトル
Cell-adhesive gels made of sacran/collagen complexes
■論文概要
本研究では、超高分子量多糖であるサクランとたんぱく質の一種であるコラーゲンを複合化させることで細胞接着性に優れたゲルを開発しました。
多糖サクランは化粧品分野の他にも医療用材料としての利用が期待されており、その汎用性の拡大が期待されています。中でもバイオマテリアルである細胞足場材料として利用するためには、分子配向性を有すること並びに、細胞との接着性を発揮するたんぱく質配列の存在が重要です。本研究では、サクランの配向性とコラーゲンの細胞接着性に着目してこれらコンポジット化による機能化を試みました。複合化条件を検討した結果、一様な配向性を有したサクラン/コラーゲン複合ゲルが形成される条件を見出しました。サクラン/コラーゲンゲルを用いて細胞培養を行った結果、コントロールとしての培養dishと同様の細胞接着・伸展が確認され、本複合ゲルが細胞足場材料への応用の可能性を広げるものであることが提案されました。
表紙詳細:https://www.nature.com/pj/volumes/54/issues/4
論文詳細:https://doi.org/10.1038/s41428-021-00593-w
令和4年4月27日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/04/27-1.htmlナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる! ~ ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子の開発により実現 ~

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国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
ナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる!
~ ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子の開発により実現 ~
ポイント
- 液体金属に生体分子を吸着させた複合体へのガンマ線照射によりコア-シェル型の構造を持つナノ粒子の作製に成功
- ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子がEPR効果により腫瘍に集積し、マウスに移植したがんの可視化と、光熱変換によるがん治療が可能であることを実証
- 当該ナノ粒子と近赤外光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出に期待
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 物質化学領域の都 英次郎准教授とセキ ウン大学院生(博士前期課程)は、量子科学技術研究開発機構(理事長・平野 俊夫、千葉県千葉市)、高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部(群馬県高崎市)の田口 光正上席研究員(「生体適合性材料研究プロジェクト」プロジェクトリーダー)、木村 敦上席研究員と共同で、量子ビーム(ガンマ線*1)架橋技術を用いて、ガリウム-インジウム合金から成る液体金属*2 表面に様々な生体高分子(ゼラチン、DNA、レシチン、牛血清蛋白質)がコートされ、安定な状態を保つことができるコア-シェル型*3 のユニークな構造を有すナノ粒子の作製に成功した(図1)。得られたゼラチン-液体金属ナノ粒子は、EPR効果*4 によって大腸がんを移植したマウス体内の腫瘍内に集積し、生体透過性の高い近赤外レーザー光*5 により、がん患部の可視化と光熱変換による治療が可能であることを実証した。さらに、マウスがん細胞とヒト正常細胞を用いた細胞毒性試験と生体適合性試験を行い、いずれの検査からもゼラチン-液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。当該ナノ粒子と近赤外レーザー光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出が期待される。 |
【研究背景と内容】
ガリウム・インジウム(Ga/In)合金からなる室温で液体の金属(液体金属)は、高い生体適合性と優れた物理化学的特性を有することが知られており、とりわけナノ粒子化した液体金属をバイオメディカル分野に応用する研究に大きな注目が集まっている。研究チームでも、液体金属をがん患部に送り込むことができれば、生体透過性の高い近赤外レーザー光を用いることで、患部の可視化や光熱変換を利用した、新たながんの診断や治療が実現できるのではないかと考え、研究をスタートさせた。
液体金属をナノ粒子化するためには煩雑な合成プロセスが必要であり、ナノ粒子化した液体金属の構造や機能を溶媒中で安定的に保持させることは難しい。そこで、研究チームは、液体金属をがん患部まで送り、がん細胞内に取り込ませるために、液体金属表面に生体高分子(ゼラチン、DNA、レシチン、牛血清蛋白質)を吸着させたコア-シェル型ナノ粒子の作製を試みた。Ga/In液体金属と生体分子の混合物に超音波照射することで、コア-シェル型ナノ粒子を形成できることを見出したが、そのままではナノ粒子の構造を水中で安定的に維持させることはできなかった。
この問題を解決するために、ナノ粒子表面の生体高分子がバラバラにならないよう、量子ビーム(ガンマ線)架橋反応を利用すれば、架橋剤などの細胞毒性を有する薬剤を用いることなく、生体高分子の特性を保持したまま安定化できると考えた。この方法でガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子は、30日以上の粒径安定性を有していること、細胞に対し高い膜浸透性を有し毒性が無いこと、近赤外レーザー光照射により発熱が起こることが確認できたため、がん患部の可視化と治療効果について試験を行った。
大腸がんを移植して10日後のマウスに、ゼラチン-液体金属ナノ粒子を投与し、4時間後に740~790 nmの近赤外光を当てたところがん患部だけが蛍光を発している画像が得られ、当該ナノ粒子がEPR効果によりがん組織に取り込まれていることが分かった(図2(左))。そこで、当該ナノ粒子が集積した患部に対して808 nmの近赤外レーザー光を照射したところ、光熱変換による効果で26日後には、がんを完全に消失させることに成功した(図2(右))。
さらに、ゼラチン-液体金属ナノ粒子の細胞毒性と生体適合性を評価した。2種類の細胞[マウス大腸がん由来細胞(Colon-26)、ヒト胎児肺由来正常線維芽細胞(MRC5)]を培養する培養液中に、ゼラチン-液体金属ナノ粒子を、添加量を変えて投与・分散させ、24時間後に細胞内小器官であるミトコンドリアの活性を指標として細胞生存率を測定した結果、細胞生存率の低下は見られず、細胞毒性はなかった(図3)。また、ゼラチン-液体金属ナノ粒子をマウスの静脈から投与し、生体適合性を血液検査(1週間調査)と体重測定(約1ヵ月調査)により評価したが、いずれの項目でもゼラチン-液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。
これらの成果は、今回開発した生体高分子のナノ粒子コーティング技術が、革新的がん診断・治療法の基礎に成り得ることを示すだけでなく、ナノテクノロジー、光学、量子ビーム工学といった幅広い研究領域における材料設計の技術基盤として貢献することを十分期待させるものである。
本成果は、2021年12月20日に先端材料分野のトップジャーナル「Applied Materials Today」誌(Elsevier発行)のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、日本学術振興会科研費(基盤研究A)及び総合科学技術・イノベーション会議 官民研究開発投資拡大プログラム(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM:PRISM)の支援のもと行われたものである。
図1. ガンマ線を利用した生体分子-液体金属ナノ複合体の合成と当該ナノ粒子を活用した光がん療法の概念。
LM: 液体金属、NIR: 近赤外、FL: 蛍光。
図2. ナノ粒子をがん患部に集積・可視化(左)し、光照射によりがんを治療(右)。
図3. CCK-8法によるゼラチン-液体金属ナノ粒子の細胞毒性評価。
赤:マウスの大腸がん細胞、グレー:ヒトの正常細胞、
RIPA: Radioimmunoprecipitation Buffer(細胞や組織の溶解に
使用される緩衝液、本実験の陽性対照に利用)
【論文情報】
掲載誌 | Applied Materials Today |
論文題目 | Sonication- and γ-ray-mediated biomolecule-liquid metal nanoparticlization in cancer optotheranostics |
著者 | Qi Yun, Atsushi Kimura, Mitsumasa Taguchi, Eijiro Miyako* |
掲載日 | 2021年12月20日にオンライン版に掲載 |
DOI | 10.1016/j.apmt.2021.101302 |
【関連研究情報】
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、先端科学技術研究科物質化学領域の都研究室では、近赤外レーザー光により容易に発熱するナノ材料の特性(光発熱特性)に注目し、これまでに、"三種の神器"を備えた多機能性グラフェン(2020年4月23日 JAISTからプレス発表)、ナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ(2020年8月17日 JAISTからプレス発表)、がん光細菌療法の新生(2021年2月16日JAISTからプレス発表)などの光がん療法を開発している。
量子科学技術研究開発機構(QST)、先端機能材料研究部プロジェクト「生体適合性材料研究」では、量子ビーム微細加工技術による先端医療デバイスの創製の一環として、これまでに、診断や創薬における微量検体の分析性能が数10倍に!(2019年6月25日 QSTからプレス発表)、平面状の細胞シートが立体的に!細胞が自分の力でシートを3次元化(2021年7月14日QSTからプレス発表)などの機能性材料作製技術を開発している。
【用語説明】
*1 ガンマ線
ガンマ線とは、放射性同位元素(コバルト60など)の崩解によって放出される量子ビームの一種。
*2 液体金属
室温以下あるいは室温付近で液体状態を示す金属のこと。例えば、水銀(融点マイナス約39℃)、ガリウム(融点約30℃)、ガリウム-インジウム合金(融点約15℃)がある。
*3 コア-シェル型
コアは核、シェルは殻を意味し、一つの粒子で核と殻の素材が異なるものをこのように呼ぶ。
*4 EPR効果
100nm以下のサイズに粒径が制御された微粒子は、正常組織へは漏れ出さず、腫瘍血管からのみがん組織に到達して患部に集積させることが可能である。これをEPR効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)という。
*5 近赤外レーザー光
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
令和3年12月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/12/21-1.html物質化学領域の松村教授が高分子学会三菱ケミカル賞を受賞
物質化学領域の松村 和明教授が公益社団法人高分子学会三菱ケミカル賞を受賞しました。
高分子学会は、高分子科学の基礎ならびに高性能材料などの応用分野に関する幅広い研究分野を対象とした会員数10,000を超える学術団体です。
三菱ケミカル賞は、高分子科学に基礎をおき、技術、産業に寄与する独創的かつ優れた研究業績を挙げた研究者に授与される賞です。
*参考:高分子学会三菱ケミカル賞受賞者
■受賞年月日
令和3年9月7日
■研究題目
両性電解質高分子の凍結保護効果の解明と生体材料応用
■研究内容
細胞の凍結保存技術は古くから開発されており、保護物質であるジメチルスルホキシド(DMSO)などを添加する必要がありました。松村教授らは、DMSOに比べて毒性が低く、しかも活性の高い高分子系の新規凍結保護物質を新たに見いだしました。その機序が既存の物質と異なることをNMRを用いた独自の手法で明らかとし、この機序を用いた再生医療用組織の凍結保存にも挑戦しています。さらに、和牛の受精卵や精子の凍結保護剤として産業応用もされています。また、凍結濃縮という凍結現象を用いた細胞内への物質送達手法を開発するなど、高分子化学と低温生物工学双方向の異分野融合型研究を進めています。
以上、基礎から産業応用に至るまで独創的かつ優れた研究成果であると国内外から高く評価されています。
■受賞にあたって一言
高分子学会よりこの度、三菱ケミカル賞を頂くことができ誠に光栄に思います。さらに高分子化学の発展に尽力して参ります。共同研究者や研究室の学生さんならびに研究費をご支援いただいた関係各所に厚くお礼申し上げます。


令和3年9月17日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2021/09/17-1.htmlがん光細菌療法の新生

がん光細菌療法の新生
ポイント
- 高い腫瘍標的能を有し、近赤外光によって様々な機能を発現する光合成細菌の発見
- 当該細菌を活用したがん診断・治療技術の創出
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)先端科学技術研究科物質化学領域の楊 羲研究員、博士前期課程学生の小松 慧、博士後期課程学生のラグー シータル、都 英次郎准教授らは、光合成細菌を使ってマウス体内のガン細胞の検出と治療を同時に可能にする技術の開発に成功した。 世界的にがんの罹患者数、死亡者数は増加している。体内の高精度ながん細胞検出技術ならびにがん細胞を根絶可能な治療法の開発は、がん医療における究極の目的である。 本研究では、低酸素状態の腫瘍環境内で高選択的に集積・生育・増殖が可能で、かつ生体透過性の高い近赤外レーザー光*1によって様々な機能を発現する非病原性の紅色光合成細菌*2を発見した(図1)。また、当該細菌の特性を活用することで体内の腫瘍を高選択的に検出し、標的部位のみを効果的に排除することが可能な "がん光細菌療法"という新しい概念・技術を創出することに成功した。 本研究で提案する概念・技術は、ナノ・マイクロテクノロジー、光学、微生物工学といった幅広い研究領域に貢献し、将来的に先進医療分野において世界の科学・技術をリード可能な革新的がん診断・治療法に成り得ると期待している。 本成果は、2021年2月15日にナノサイエンス・ナノテクノロジー分野のトップジャーナル「Nano Today」誌(Elsevier発行)のオンライン版に掲載された。なお、本研究成果は日本学術振興会科研費[基盤研究A、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)]の支援のもと行われたものである。 |
![]() 図1. がん光細菌療法の概念。NIR: 近赤外、FL: 蛍光、ROS: 活性酸素種、PA: 光音響。 |
【論文情報】
掲載誌 | Nano Today(Elsevier発行) |
論文題目 | Optically activatable photosynthetic bacteria-based highly tumor specific immunotheranostics |
著者 | Xi Yang, Satoru Komatsu, Sheethal Reghu, Eijiro Miyako* |
掲載日 | 2021年2月15日にオンライン版に掲載 |
DOI | 10.1016/j.nantod.2021.101100 |
【関連研究情報】
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、先端科学技術研究科物質化学領域の都研究室では、近赤外レーザー光により容易に発熱するナノ材料の特性(光発熱特性)に注目し、これまでに、"三種の神器"を備えた多機能性グラフェン(2020年4月23日 JAISTからプレス発表)、ナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ(2020年8月17日 JAISTからプレス発表)などの光がん療法を開発している。
【用語解説】
*1 近赤外レーザー光
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
*2 紅色光合成細菌
近赤外光を利用して光合成を行う細菌。水の分解による酸素発生は行わない。
令和3年2月16日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/02/16-1.html物質化学領域の松村研究室の論文が国際学術誌の表紙に採択
物質化学領域の松村研究室の論文が英国王立化学会(RSC)刊行のJournal of Materials Chemistry B誌の 表紙(inside front cover)に採択されました。
本研究成果はタイ王国チュラロンコン大学との協同教育プログラムによるものです。
■掲載誌
J. Mater. Chem. B, 2020, 8, 7904-7913 掲載日2020年8月13日
■著者
Wichchulada Chimpibul(松村研修了生), Tadashi Nakaji-Hirabayashi, Xida Yuan(松村研博士後期課程2年)and Kazuaki Matsumura*
■論文タイトル
Controlling the degradation of cellulose scaffolds with Malaprade oxidation for tissue engineering
■論文概要
再生医療では、幹細胞を体外で培養し機能化を行った後に再度移植し疾患を治療する際に細胞培養用の足場材料を使用します。一般的には動物性のコラーゲンや合成高分子などが利用されていますが、安全性や機能性に改善の余地があると言われています。
本研究では、自然界に豊富にあるセルロースを酸化することで生体内分解性を付与することに成功し、安全かつ高機能な細胞培養足場材料として再生医療分野での利用を提案しています。
表紙詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/tb/d0tb90155e#!divAbstract
論文詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/tb/d0tb01015d#!divAbstract
令和2年9月18日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2020/09/18-1.html"三種の神器"を備えた多機能性グラフェンの開発 -ガン分子標的治療技術を目指して-

国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
フランス国立科学研究センター
"三種の神器"を備えた多機能性グラフェンの開発
-ガン分子標的治療技術を目指して-
ポイント
- 三種類の機能性分子(近赤外蛍光プローブ、抗ガン剤、腫瘍マーカー認識分子)をグラフェン表面上に一度に化学修飾することに成功
- 多機能性グラフェンの合理的な分子設計によって選択的かつ効果的なガン細胞死を誘導することに成功
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科物質化学領域の都 英次郎准教授らはフランス国立科学研究センター(所長、アントワーヌ・プチ、フランス・パリ)のアルベルト・ビアンコ博士ら(同センター、細胞分子生物学研究所、フランス・ストラスブール)と共同で、多機能性グラフェン*1を活用した新しいガン分子標的治療技術の開発に成功した(図1)。
本研究は、グラフェンに様々な機能性分子を一度に化学修飾できること、そしてその合理的な分子設計に基づいた効果的なガン分子標的治療技術への応用の可能性を示した。今後は、この技術を応用して、マウスやラット等の実験動物の体内における抗ガン作用を詳細に調べていく予定である。 本成果は、2020年4月21日にWiley-VCH発行「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、日本学術振興会科研費[基盤研究A、基盤研究B、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)]、フランス国立研究機構、グラフェンフラッグシップ、スペイン財務省、バレンシア州自治政府の支援を受けて行われた。 |
図1. 多機能性グラフェンの分子構造
【論文情報】
掲載誌 | Angewandte Chemie International Edition (Wiley-VCH) |
論文題目 | Rational chemical multifunctionalization of graphene interface enhances targeting cancer therapy |
著者 | Matteo Andrea Lucherelli, Yue Yu, Giacomo Reina, Gonzalo Abellán, Eijiro Miyako*, Alberto Bianco* |
掲載日 | 2020年4月21日にオンライン版に掲載 |
DOI | 10.1002/anie.201916112 |
【用語説明】
*1 グラフェン
炭素原子だけで構成される二次元シート状のナノ炭素材料。厚さが炭素一個分に相当し、炭素原子が蜂の巣のような六角形に連結した構造を持つ。優れた電気伝導性、熱伝導性、機械的強度、化学的安定性などを持っており、幅広い分野での応用が期待されている。
*2 インドシアニングリーン(ICG)
医療診断で使用されるシアニン色素の一種である。生体透過性の高い近赤外波長領域の光が利用できるため生体深部の診断や治療に有用と考えられている。
*3 葉酸
葉酸はビタミンB群の一種。ガンマーカー認識素子として葉酸受容体を標的にしたドラッグデリバリーシステムが開発され、ガンの診断や治療に応用されつつある。
*4 ドキソルビシン(Dox)
抗ガン剤の一種である。腫瘍細胞の核内の遺伝子に結合することで、DNAやRNAを合成する酵素の働きを阻害することで抗腫瘍効果を示す。
令和2年4月23日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2020/04/23-1.htmlエクセレントコアシンポジウムの開催について
標題について、エクセレントコア「天然マテリアル」研究拠点シンポジウム(第11回サクラン研究会 年次大会)を下記のとおり開催しますので、ご案内いたします。
本シンポジウムは、天然マテリアル、特に本学にて発見されたサクランに関する研究のさらなる発展を目指し、幅広い分野の研究者との相互交流・意見交換を行うために本学のエクセレントコア「高性能天然由来マテリアル開発拠点」及びサクラン研究会が開催するものです。
参加は無料となっており、事前の参加申込み等も必要ありませんので、奮ってご参加下さい。
開催日時 | 令和元年10月25日(金) 10:00~17:50 |
会 場 | マテリアルサイエンス系 小ホール |
プログラム | 司会 金子 達雄 北陸先端科学技術大学院大学 教授(環境・エネルギー領域)
座長 三俣 哲 新潟大学 研究教授
座長 岡島 麻衣子
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物質化学領域の都准教授らの論文がNanoscale Advances誌の表紙に採択

物質化学領域の都 英次郎准教授、YU, Yue特任助教(物質化学領域、都研究室)、YANG, Xi研究員(同領域、同研究室)らの論文がNanoscale Advances誌の表紙に採択されました。なお、本研究成果は日本学術振興会科学研究費補助金[基盤研究A、基盤研究B、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)]の支援のもと、株式会社ダイセルと行われた共同研究によるものです。
■掲載誌
Nanoscale Advances
■著者
Yue Yu, Xi Yang, Ming Liu, Masahiro Nishikawa, Takahiro Tei, Eijiro Miyako
■論文タイトル
Anticancer drug delivery to cancer cells using alkyl amine-functionalized nanodiamond supraparticles
■論文概要
ナノスケールの薬物担持体はドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用が期待されている。本研究では、アルキルアミンを表面化学修飾したナノダイヤモンド(直径約5 nmの球状粒子)が自己組織化現象によりナノ集合体に変形することを見出した。また、形成されるナノ集合体の粒子径は、導入するアルキルアミンの鎖長を変えることで、およそ20 nmから90 nmの範囲内で容易に調整できることがわかった。一方、当該ナノダイヤモンド集合体に抗ガン剤(カンプトテシン)を封入し、薬物担持体としての機能を調査したところ、ポリエチレングリコールを修飾したポリマーミセルやリン脂質系のナノエマルジョンといった従来からDDSに良く利用されているナノキャリアと比較して、より効果的な抗がん活性を示すことが細胞やマウスを用いた実験より明らかとなった。
本研究成果により、がん医療に向けたナノダイヤモンド集合体を活用する機能性ナノメディシンの実現が期待される。
論文詳細はこちら
令和元年9月12日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2019/09/12-1.html