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Si版グラフェン「シリセン」が凸凹な表面上で成長することを発見
ポイント
- シリセンはグラフェンのケイ素版と言える原子層物質で、これまで実験的な合成報告は、原子レベルで平坦な単結晶表面上に限られていた。
- 今回の成果により、シリセンは凸凹な表面上でも起伏を乗り越えて横方向に成長し、シートを形成することが明らかとなった。
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・浅野 哲夫、石川県能美市)先端科学技術研究科応用物理学領域のアントワーヌ・フロランス助教、高村 由起子准教授らは、原子レベルで平坦な表面上にしか成長しない、と考えられていた二次元材料「シリセン」を凸凹な表面上にも成長させることに成功しました。 |
<今後の展開>
今回の成果は、シリセンが単に原子レベルで平坦な基板上に吸着したケイ素原子による再構成構造ではなく、凹凸を乗り越えてシートを形成する真の二次元材料であることを証明しており、大面積かつ究極に薄いケイ素系超薄膜材料として応用研究への展開が期待できる。
<論文>
"Insights into the spontaneous formation of silicene sheet on diboride thin films"
(二ホウ化物薄膜上へのシリセンの自発的形成機構に関する洞察)
DOI: http://dx.doi.org/10.1063/1.4974467
Antoine Fleurence and Yukiko Yamada-Takamura
Applied Physics Letters 110, 041601 (2017).
平成29年2月1日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/02/1-1.html欠陥修復した酸化グラフェンから優れた電気特性をもつバンド伝導の観察に成功

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大阪大学 北陸先端科学技術大学院大学 名古屋大学 公益財団法人科学技技術交流財団 あいちシンクロトロン光センター |
欠陥修復した酸化グラフェンから
優れた電気特性をもつバンド伝導の観察に成功
~高結晶性グラフェン薄膜のスケーラブル製造への道筋を開拓~
研究成果のポイント | ||
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<概要> 大阪大学大学院工学研究科の根岸良太助教、小林慶裕教授、北陸先端科学技術大学院大学の赤堀誠志准教授、名古屋大学大学院工学研究科の伊藤孝寛准教授、あいちシンクロトロン光センター渡辺義夫リエゾン副所長らの研究グループは、還元過程において微量の炭素源ガス(エタノール)を添加した高温(1100℃以上)加熱還元処理により欠陥構造の修復を促進させることで飛躍的に酸化グラフェンの結晶性を向上させ、還元処理をした酸化グラフェン薄膜においてグラフェン本来の電気伝導特性を反映したバンド伝導の観察に初めて成功しました。(図1)
このバンド伝導の発現により、還元処理をした酸化グラフェン薄膜としては現状最高レベルのキャリア移動度(~210cm2/Vs)を達成しました。 本成果によって、酸化グラフェンは、還元処理によりグラフェン薄膜の生成が可能なため、グラフェンを利用した電子デバイスやセンサーなど様々な応用が期待されています。 本研究成果は、日本時間 7月1日(金) 午後6時に英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports (Nature Publishing Group)」に公開されます。 ![]() 図1 酸化グラフェンの還元法に対する(a)従来法と(b)本手法との比較。(c)低結晶性と(d)高結晶性グラフェンにおける電子・ホールの流れる様子の違い。処理温度の異なるエタノール還元処理後の酸化グラフェン薄膜の伝導度における観察温度存性(e)900℃、(f)1130℃。伝導機構モデルに基づく伝導度の温度依存性解析から、1130℃の高温エタノール加熱還元処理した酸化グラフェン薄膜では観察温度が室温~40Kの範囲においてバンド伝導が観察されている((f)のグラフ)。 |
<研究の背景> | |||
![]() その発見者であるガイム、ノボセロフはその重要性から2010年にノーベル賞を受賞しています。大量合成可能な酸化グラフェンは、還元処理によりグラフェンを形成させることが可能なため、グラフェンの合成における出発材料として、世界中で大変注目されています。 しかしながら、酸化グラフェンは非常に多くの欠陥構造を有するため、還元処理後に得られるグラフェン薄膜のキャリア移動度(トランジスタ性能の指標となり、物質を伝搬する電子・ホールの速さ:速いほどトランジスタ性能が良い)はせいぜい数cm2/Vsに留まっていました。 現在、最も結晶性の高いグラフェンの合成方法は、HOPG(高配向性のグラファイト)からスコッチテープで一枚ずつ剥離して基板へ転写する方法です。しかしながら、この方法では得られるグラフェン片のサイズは数μm程度と小さい上に、小さなフレークを幾重にも重ねてデバイスとして利用可能な薄膜にしなければなりません。これは至難の作業です(図2(a))。 一方、酸化グラフェンは親水性のため水によく分散させることができるので、その水溶液を基板上に滴下して水分を飛ばし還元するだけで、容易に厚さ1-3層分の薄いグラフェン薄膜を形成させることが可能となります(図2(b))。そのため、グラフェンを大量に合成する原料として、酸化グラフェンの合成法や還元法が世界中で研究されています。
酸化グラフェンからグラフェンを生成するためには還元処理が必須となりますが、一般的な化学還元や真空・不活性ガス(アルゴンなどカーボンと化学反応を起こさないガス)中での加熱還元処理では、酸化過程で形成した欠陥構造が還元後も多く残るため、これまで薄膜のキャリア伝導機構は電子が局在したホッピング伝導※7を示すことが知られていました。 ![]() 図3 処理温度の異なるエタノール還元処理後の酸化グラフェン薄膜およびグラファイト(HOPG)からのX線吸収微細構造スペクトル。1130℃の高温エタノール還元処理では非占有準位であるπ*とσ*のピーク強度比が900℃処理よりも完全結晶であるグラファイトで観察された強度比に近い値を示しており、酸化グラフェンの高結晶化に伴いバンド(電子)構造が理想的なグラフェンに近づいていることが分かる。 図1(c),(d)の伝導機構に対する模式図で示すように、薄膜内に欠陥構造が多い場合(図1(c))、欠陥構造がキャリア(電子・ホール)の流れに対して大きな壁となります。キャリアは熱エネルギーの助けを借りてこの障壁を乗り越えるようにホッピング伝導します。これは、キャリアにとって大きなエネルギーを必要とし、著しい移動度の低下を引き起こします。一方で、欠陥構造の領域が減少すると障壁の高さが低下し(図1(d))、キャリアの流れはスムーズになり、グラフェンの結晶性を反映したバンド伝導を示すことが期待されます。 |
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<研究の内容> | |||
本研究グループは、1-3層(厚さ:~1nm)からなる極めて薄い酸化グラフェン薄膜をデバイス基板上へ塗布し、エタノール添加ガス雰囲気で1100℃以上の高温加熱還元処理を行うことにより(図1(b))、高移動度の薄膜形成に成功しました。還元処理をしたグラフェン薄膜における電気伝導度の温度特性解析から、バンド伝導が観察されました。低結晶性を示す低温(900℃)でのエタノール還元処理では、電子の流れ(図1(e)のグラフ:Y軸)は観察温度Tの-1/3乗(X軸)に対して線形に変化しており、この振る舞いはホッピング伝導モデルで説明することができます。一方、高結晶性を示すグラフェン薄膜が生成される高温条件(1130℃)では、観察温度が室温から40Kの範囲で伝導度(図1(f)のグラフ:Y軸)がTの-1/3乗に対して非線形的変化を示し、バンド伝導モデルで説明することができます。これは、カーボン原材料となるエタノールガスの添加により、酸化過程で生成した欠陥構造の修復が効率的に促進し、グラフェンの結晶性が飛躍的に向上していることを意味しています。実際、バンド伝導の発現を裏付けるデータとして、X線吸収微細構造スペクトル※8 を実施して電子構造※9 の視点からもこの物性を実証しました(図3)。さらに、ミクロ領域の構造解析法である透過型電子顕微鏡※10 観察からも、結晶性の向上を明らかにしました(図4)。
![]() 図4 処理温度の異なるエタノール加熱還元処理後の酸化グラフェン薄膜の透過型電子顕微鏡像(a)900℃、(b)1100℃。処理温度1100℃では炭素原子の蜂の巣構造を反映した輝点が周期的に配列しており、結晶性が飛躍的に向上していることが分かる。 |
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<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)> | |||
酸化グラフェンは、還元処理によりグラフェン薄膜の生成が可能なため、グラフェンを利用した電子デバイスやセンサーなど様々な応用が期待されています。本研究の成果は、グラフェンの優れた物性を活用したスケーラブルな材料開発の進展において重要なマイルストーンとなります。
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<特記事項> | |||
本研究成果は、日本時間 7月1日(金) 午後6時に英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports (Nature Publishing Group)」に公開されます。
タイトル:"Band-like transport in highly crystalline graphene films from defective graphene oxides" 著者名:R. Negishi, M. Akabori, T. Ito, Y. Watanabe and Y. Kobayashi なお本研究は、JSPS科研費PJ16K13639, 26610085, JST育成研究 A-STEP No. AS242Z02806J, AS242Z03214M, 大阪大学フォトニクス先端融合研究センター、「低炭素研究ネットワーク」京都大学ナノテクノロジーハブ拠点、北陸先端科学技術大学院大学ナノテクノロジープラットフォーム事業の一環として行われ、京都大学 大学院理学研究科 倉田博基教授、大阪工業大学教育センター 山田省二教授、大阪大学大学院理学研究科 髙城大輔助教、あいちSRセンター 仲武昌史氏、北陸先端科学技術大学院大学 村上達也氏の協力を得て行われました。 |
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<用語説明> | |||
※1 欠陥構造
グラフェンは炭素原子が蜂の巣状(ハニカム状)に結合したシート状の物質であり、欠陥構造とはこのハニカム状の構造の変形や、カーボンそのものが欠損した穴、カーボンがそれ以外の元素(酸素など)と結合した状態等を指す。 ※2 酸化グラフェン
酸化処理によりグラファイトから化学的に剥離させた厚さ1原子層分のシート状の材料。水や有機溶媒に溶け、液体として取り扱うことができるため、任意基板へ塗布するだけでグラフェン薄膜を容易に大面積で作成することができる。しかし、酸化処理により多くの欠陥構造や酸素含有基を含むため、その伝導特性は高配向性グラファイト(HOdivG)から得られるグラフェンと比較して著しく低い。このことが酸化グラフェン材料のデバイス応用に向けて大きなボトルネックとなっている。 ※3 バンド伝導
キャリアが周期的電子構造を持つ固体結晶内を波として伝搬する伝導機構。 ※4 キャリア移動度
固体物質内におけるキャリア(電子・ホール)の動きやすさを表わし、トランジスタ性能の基本的な指標となる。 ※5 還元処理
グラファイトの酸化処理により合成された酸化グラフェンは多くの酸素含有基を含むため絶縁性を示す。電子デバイスへの応用には、これら酸素含有基を取り除くための還元処理が必須となる。 ※6 スケーラブル
製造プロセスやネットワークシステムなどにおいて現時点では小規模なものであるが、リソースの追加により大規模なものへ拡張できる能力。 ※7 ホッピング伝導
キャリアが固体結晶内の欠陥構造などに起因した局在電子準位を熱エネルギーの助けを借りて移動する伝導機構。 ※8 X線吸収微細構造スペクトル
X線を物質に照射するとX線の吸収に伴い観察対象となる原子の電子が放出し、周辺に位置する原子によって散乱・干渉が起きる。このようなX線の吸収から原子の化学状態や電子構造を調べることができる。 ※9 電子構造
固体内の原子・分子の配置に起因した電子の状態。周期的な結晶構造を持つ物質では、物質中の電子のエネルギーと運動量の関係が物質間の相互作用のためにエネルギー状態が帯状に広がったバンド構造を持つ。 ※10 透過型電子顕微鏡
観察の対象となる物質に電子を照射し、それを透過してきた電子を観察する顕微鏡。原子スケールで固体結晶の構造解析が可能。 |
平成28年7月1日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2016/07/01-1.html2次元高分子を用いた高速プロトン伝導材料の開拓に成功
2次元高分子を用いた高速プロトン伝導材料の開拓に成功
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)のマテリアルサイエンス系環境・エネルギー領域の江 東林教授らの研究グループは、高速プロトン伝導を可能とする2次元高分子材料の開拓に成功しました。高速プロトン伝導材料は、燃料電池のキーテクノロジーとして世界中で熾烈な開発競争が繰り広げられています。2次元高分子の特異な多孔構造を活かして、高温下でも(100 °C以上)安定作業が可能な新型プロトン伝導体の構築に成功しました。従来の多孔材料を用いた伝導体に比べて、200倍も速く伝導することが可能となりました。 |
1. 研究の成果 | |||
2次元高分子注1) は、規則正しい分子配列を有し、ナノサイズの1次元チャンネル構造を創り出す高分子です。構成ユニットの開拓により、一次並びに高次構造をともにデザインしてつくることができる物質として、近年大いに注目されています。特に、周期的な骨格構造および1次元チャンネル構造を活かした機能材料の開発が盛んに行われています。 |
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![]() 図1.高速プロトン伝導を実現する2次元高分子(左:トリアゾール;右:イミダゾール) |
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2. 今後の展開 | |||
プロトン伝導体は燃料電池のキーテクノロジーであり、水素自動車などの性能を直接左右する主材料として、そのインパクトは大きく、特に、高温下で安定作業が可能な高速イオン伝導体は、燃料電池の効率向上、長寿命化、およびコストダウンにつながり、その開発が世界各国で熾烈な競争が繰り広げられています。今回の研究成果は、次世代燃料電池に新しいプロトン伝導体を提供するものであり、革新的なエネルギー技術の向上に貢献することが期待されます。 |
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3. 用語解説 | |||
注1)2次元高分子:共有結合で有機ユニットを連結し、2次元に規定して成長した多孔性高分子シートの結晶化による積層される有機構造体。結晶性と多孔性が2次元高分子の基本物性であり、安定な積層構造の構築が機能開拓をはじめ、応用の鍵を握る。 |
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4. 論文情報 | |||
掲載誌:Nature Materials(Nature Publishing Groupが発行する材料誌;インパクトファクター36.5) |
平成28年4月5日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2016/04/05-2.html学生の永原さんが第6回フロンティア太陽電池セミナーにおいて優秀ポスター賞を受賞

学生の永原光倫さん(博士前期課程2年、サスティナブルイノベーション研究領域、大平研究室)が、第6回フロンティア太陽電池セミナーにおいて優秀ポスター賞を受賞しました。
フロンティア太陽電池セミナーは、産官学の様々な分野で太陽電池研究に取り組む研究者が集まり、シリコンや化合物など無機系、有機薄膜系、ペロブスカイト型、さらには量子ドット型など新しい太陽電池も含み、広く太陽電池の開発研究および関連する基盤技術を題材に取り上げ、様々な視点から徹底的に議論し、研究者間での連携を深めることで、本研究分野の飛躍的な発展の促進を図るものです。
第6回フロンティア太陽電池セミナーは令和6年12月12日~13日にかけて、愛媛県(松山市)にて開催されました。
※参考:第6回フロンティア太陽電池セミナー
■受賞年月日
令和6年12月13日
■研究題目、論文タイトル等
封止材とカバーガラスを使用しない曲面結晶Si太陽電池モジュールの機械的強度および浸水試験
■研究者、著者
永原光倫、Huynh Thi Cam Tu、大平圭介
■受賞対象となった研究の内容
封止材とカバーガラスを使用しない曲面・大面積結晶Si太陽電池モジュールに対し、JIS規格に基づく砂袋式荷重試験と降雹試験の2種類の機械的強度試験を行った。結果として、砂袋式荷重試験では、切削加工により作製したポリカーボネート(PC)ベースが破壊されないことや、フロントカバーであるPC板と太陽電池セルの接触による破損がないことが分かった。降雹試験では、降雹によるフロントカバーに傷が確認されないことや、衝撃による太陽電池セルの破損が見られないことを確認した。以上のことから、従来型太陽電池モジュールの評価基準を満たす機械的強度を有することが分かった。また、ベースの端部にOリングをはめ込み、ポリカーボネート製カバーとフレーム状のクランプで押さえることにより水分浸入の抑止を試みた。この構造を持つ小型モジュールに対し浸水試験を行った結果、水分浸入がみられなかったことから、OリングとAlフレームは水分浸入を防ぐ構造であるということが示された。
■受賞にあたって一言
優秀ポスター賞を受賞でき、とてもうれしく思います。研究を進める中で、大平圭介教授をはじめ多くのサポートと貴重な助言をいただいたことが、今回の受賞につながったと感じています。これからも一層研究活動に取り組んでいきたいです。
令和7年1月31日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/01/31-2.htmlなぜ実用熱電材料の熱伝導率は低いのか?レーザーラマン散乱分光が出した答えは? ~実用熱電モジュールの性能向上に大きく期待~

なぜ実用熱電材料の熱伝導率は低いのか?レーザーラマン散乱分光が出した答えは?
~実用熱電モジュールの性能向上に大きく期待~
【ポイント】
- レーザーラマン散乱分光法を応用した格子振動の解析手法を、熱電材料の熱伝導率評価に適用しました。
- 実用熱電材料(ビスマス-テルル-セレン系材料)において、4次以上の高次の非調和振動はほとんど存在しないことを実証しました。
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)サスティナブルイノベーション研究領域のLiu Ruian大学院生(博士後期課程)、小矢野 幹夫教授は、レーザーラマン散乱分光法を実用熱電材料(ビスマス-テルル-セレン系材料)に適用し、4次以上の高次の非調和格子振動がほとんど存在しないことを実証しました。この成果は、なぜ実用熱電材料の熱伝導率は低いのかという問いに対して答えを与えるだけでなく、よりよい熱電材料、すなわち低い熱伝導率をもつ材料を開発するにはどうすればよいかという指針を与えるものです。 |
【研究背景と内容】
熱電変換技術は、固体素子(以下、「熱電素子」という。)のみを使って、熱エネルギーから電気エネルギーを取り出したり、電気によって熱の流れを制御する技術です。熱電変換技術のうち、熱電素子に直流電流を流すと素子の両端でそれぞれ吸発熱がおこるペルチェ効果と、素子に温度差をつけると電圧が発生するゼーベック効果があります(図1)。特に、ペルチェ効果は、インターネットや先進AI技術を支える光通信用レーザーダイオードの温度制御に使用されており、私たちの豊かな生活を陰で支えている必要不可欠なものです。
図1 一対のp型およびn型の熱電素子を組み合わせたπ型熱電モジュールの概念図。熱電モジュールに直流電流を流すと上下電極で吸発熱が起こり(左図)、温度差をつけると逆に電圧が発生する(右図)。 |
このように産業応用されている熱電素子の心臓部にはビスマス-テルル-セレン系の材料が使われています。この材料は、同じような結晶構造を持つビスマス-アンチモン-テルル系材料と組み合わせて熱電素子が製造されます。このビスマス-テルル-セレン系の熱電材料は、熱を伝えにくいという性質(低い熱伝導率*1)が特徴で、優れた熱電性能を持っています。電気の良導体であるにもかかわらず、窓ガラスのような絶縁体と同等の熱伝導率(約 1 W/mK)を示します。
低い熱伝導率の原因として、これまで格子振動の非調和項が熱の流れを阻害していることが効いているのではないかと考えられてきましたが、よくわかっていませんでした。本研究は、レーザーラマン散乱分光法をビスマス-テルル-セレン系材料に適用して、格子振動の高次の項がどのようになっているかを確かめた画期的なものです。
レーザーラマン散乱分光法は、試料に単色レーザー光を照射して、散乱してきた光(ラマン散乱光)と入射レーザー光のエネルギー差から、物質中の格子振動のエネルギーを測定する手法です。さらに散乱光ピークのピーク幅を解析することにより、格子振動の緩和時間(格子振動がどれくらいの速さで励起されて減衰するか)に関する情報が得られます。得られた振動エネルギーを、計算機でシミュレーションした結果と比較することにより、どの振動パターンがどのようなエネルギーを持っているかを推測することも可能です。
私たちは図2に示す温度可変ラマン散乱分光器を用いて、ビスマス-テルル-セレン系材料のラマン散乱スペクトルを広い温度範囲で測定し、その変化を詳細に解析しました。スペクトルは図3に示すように3本のピーク(一つ一つが格子振動のエネルギーに対応します)からなっており、その半値幅を温度に対してプロットすると、温度の上昇とともにほとんど直線的に増加しています(図4)。この温度変化をBalkanskiモデル*4を使って解析すると、「格子振動には非調和成分が存在するが、それは3次までの振動であり、4次以上の非調和振動*2*3は存在しない」ということが明らかになりました。4次の非調和振動は近似的には大きな振幅をもった格子振動に対応するため、この結果は、「大振動振幅が熱の流れを阻害することは、ビスマス-テルル-セレン系材料の低熱伝導率の原因ではない」ということを示しており、むしろ構成元素が重元素であることが主な理由であることを明確に表しています。
図2 レーザーラマン散乱分光実験の様子。温度可変チェンバー内のアルミ基板上に設置された試料に、光学窓を通してレーザー光を照射する。散乱されたラマン光は顕微鏡の接眼レンズを通して分光器で分光される。 |
図3 実測された熱電材料Bi2Te3のラマンスペクトルの一例。特徴的な3本のピーク(A1gおよびEgモード)が観測される。黒点が測定値、赤線はフィッテイング曲線である。 |
図4 ラマンピークの半値幅の温度依存性の一例。温度の上昇とともに、ほとんど直線的に半値幅が広くなっていることが分かる。4次の非調和項が含まれる場合は、この振る舞いが下凸の曲線となる。 |
これらの情報は、なぜ実用熱電材料の熱伝導率は低いのかという問いに対して答えを与えるだけでなく、よりよい熱電材料、すなわち低い熱伝導率をもつ材料を開発するにはどうすればよいかという指針を与えるものです。さらにレーザーラマン散乱分光法が物質の熱の伝わり方を解析する一つの有効な手法として提示されたため、今後、他の材料の熱測定にも同様の手法が応用されることが期待されます。
本成果は、2024年11月25日に科学雑誌「Physical Review B」に掲載されました。なお、本研究は、科学研究費助成事業基盤研究(C)20K05343の支援のもと行われたものです。
【論文情報】
掲載誌 | Physical Review B 110, 174310(2024) |
論文題目 | Investigation of phonon anharmonicity in Se-doped Bi2Te3 via temperature-dependent Raman spectroscopy |
著者 | Ruian Liu, and Mikio Koyano |
掲載日 | 2024年11月25日 |
DOI | 10.1103/PhysRevB.110.174310 |
【用語説明】
熱の伝わりやすさを示す指標。固体の場合、単位温度差を付けた場合に単位時間内に流れる、単位長さ単位断面積当たりの熱量で定義される(単位: W/mK)。一般に熱伝導率が高い物質(金属等)は熱をよく伝え、電気を流さない絶縁体は熱を伝えにくい。熱電変換材料の場合は、高い伝導率と低い伝導率という相反する物性が要求される。
物質中では原子の熱振動を通じて熱エネルギーが高温側から低温側に伝わっていく。このときの状態は、原子がバネで規則的につながれたモデルで記述することができる。フックの法則に従う理想的なバネで構成されていれば、原子が振動したとき、この連成振動系の固有振動のみが安定なエネルギーを持つ。この振動状態を調和振動と呼ぶ。
調和振動のみでは固体の熱膨張が説明できないため、実際の固体物質を構成しているバネは非線形バネである。非線形バネは、調和振動に加えて3次や4次の高次の非調和項を持っている(図5)。3次の項は振動の平衡位置のずれ、4次の項は大振幅振動に近似的に対応する。非調和項が存在すると音波同士の衝突が可能となるため、より減衰が速くなり熱エネルギーの伝播が阻害される。
音波とのアナロジーで考えると、調和振動は基準音(純音)に、非調和項は倍音に対応する。
物質の振動特性を解析するための理論モデルで、特にラマン散乱分光法のデータを解析する際に用いる。このモデルが提唱する半値幅の温度依存性を用いることにより、格子振動の非調和項を次数ごとに分離することができる。
図5 格子振動の調和項(調和振動)と非調和項の概念図。
令和7年1月6日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/01/06-1.html量子グレードの高品質・高輝度蛍光ナノ粉末ダイヤモンド ~ナノダイヤモンド量子センサの性能向上で超高感度の測定が可能に~

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岡山大学 量子科学技術研究開発機構 北陸先端科学技術大学院大学 筑波大学 |
量子グレードの高品質・高輝度蛍光ナノ粉末ダイヤモンド
~ナノダイヤモンド量子センサの性能向上で超高感度の測定が可能に~
【ポイント】
- 明るい蛍光イメージングとナノ量子計測法が利用可能な品質等級(量子グレード)を実現しました。
- 従来の蛍光ナノ粉末ダイヤモンド※1に比べて量子特性が10倍以上、温度感度が2桁向上しました。
- ナノダイヤモンド量子センサの性能を大幅に向上させた画期的な成果です。
- 細胞内やナノ電子デバイスの温度や磁場を超高感度で測定可能になることが期待されます。
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(理)の藤原正澄研究教授、押味佳裕日本学術振興会特別研究員、同大大学院環境生命自然科学研究科の中島大夢大学院生、大学院自然科学研究科のマンディッチサラ大学院生、小林陽奈非常勤研究員(当時)は、住友電気工業株式会社の西林良樹主幹、寺本三記主席、辻拡和研究員、量子科学技術研究開発機構量子生命科学研究所の石綿整主任研究員、北陸先端科学技術大学院大学ナノマテリアル・デバイス研究領域の安東秀准教授、筑波大学システム情報系の鹿野豊教授らとの共同研究により、従来の10倍以上の優れた量子特性(量子コヒーレンス※2)を持つ高輝度の蛍光ナノ粉末ダイヤモンドを世界で初めて報告しました。この蛍光ナノ粉末ダイヤモンドは、住友電気工業株式会社との協力によって実現されたもので、高い蛍光輝度で蛍光イメージングが可能で、高品質な量子センサ特性を有しており、温度量子測定においても1桁以上の感度向上が確認されました。 本研究成果は、2024年12月16日に「ACS Nano」のオンライン先行版に掲載されました。蛍光ナノ粉末ダイヤモンドを用いた量子センシング※3技術は、近年注目を集めている超高感度ナノセンシング技術です。しかし、これまで高い蛍光輝度と様々な量子計測法を行うのに要求される品質等級(量子グレード)の両立は困難とされてきました。本研究により、ナノダイヤモンド量子センサの性能が大幅に向上され、細胞内やナノ電子デバイスの温度や磁場を超高感度で測定できると期待されます。 |
【現状】
蛍光ナノ粉末ダイヤモンドを用いた量子センシングは、ナノスケールでの温度、磁場、化学環境の変化を高感度に計測できる技術として、生命科学やナノテクノロジー分野で大きな注目を集めています。この技術は、細胞内の微小領域やデバイス内部の構造を精密に計測できることから、将来的には癌の超早期診断や極微量ウイルスの検出などの医療分野や、リチウムイオンバッテリーの状態モニタリングなどのスマートデバイス分野での応用が期待されています。しかし、量子センシングの性能は蛍光ナノ粉末ダイヤモンドの電子スピン特性に大きく依存しており、このスピン特性の向上が技術の成否を左右します。特に、従来の蛍光ナノダイヤモンドでは、蛍光強度とスピン特性の両立が難しく、測定感度が劣化するという課題がありました。
【研究成果の内容】
本研究では、蛍光ナノ粉末ダイヤモンド中のスピン不純物(孤立窒素原子や天然炭素に含まれる約1%の13C同位体)を大幅に減少させ、スピン純度を飛躍的に向上させることに成功しました。また、窒素空孔欠陥中心(NV中心)※4を高効率で生成するためのダイヤモンド成長法およびナノ粒子粉砕法を最適化し、含有されているNV中心が約1 ppm、孤立窒素が約30 ppm、13C同位体が0.01%以下に制御され、平均粒径277 nmの大きさを有するナノ粉末ダイヤモンドを作製しました。その結果、光検出磁気共鳴※5信号(ODMR)が著しく改善され、従来の蛍光ナノ粉末ダイヤモンドと比較して量子コヒーレンス時間が10倍以上延長されました。(図1)
図1:細胞内の量子グレード蛍光ナノ粉末ダイヤモンドとそのスピン特性
さらに、これらの蛍光ナノ粉末ダイヤモンドを細胞内に導入し、従来の蛍光ナノ粉末ダイヤモンドに比べてより高感度にODMR信号が検出できることを実証しました。また、バルク結晶のみで実現されていた量子計測法の1つである、超高感度温度測定法「サーマルエコー」も観測することに成功しました。これにより、従来のナノダイヤモンド温度量子センシングに比べて1桁以上感度が向上することを確認しました(図2)。ナノダイヤモンド量子センサの実用に道を開く画期的な成果です。
図2:サーマルエコー法による超高感度温度測定と従来に比べた測定感度の向上
【社会的な意義】
本研究は、生命科学やナノテクノロジー分野におけるナノスケールセンシング技術の大きな進展をもたらす可能性を秘めています。蛍光ナノ粉末ダイヤモンドは、優れた光安定性と生体適合性を持ち、既に一部で商用化が始まっている有望な蛍光イメージング材料です。ナノダイヤモンド量子センサの応用が進展すれば、癌などの超早期診断や極微量ウイルス検出といった新しい診断技術の開発が期待されます。また、ナノメートルからマイクロメートルの微小領域で温度や磁場を検出する技術は、リチウムイオンバッテリー内部の状態モニタリングなど、スマートデバイスの革新的な性能向上にも貢献すると期待されています。本研究を通じて量子センシング技術が進展することで、蛍光ナノ粉末ダイヤモンドのバイオ医療やスマート電子技術分野での幅広い商用化が期待されます。
【論文情報】
論文名 | Bright quantum-grade fluorescent nanodiamonds |
邦題名 | 「高輝度量子グレード蛍光ナノ粉末ダイヤモンド」 |
掲載紙 | ACS Nano |
著者 | Keisuke Oshimi, Hitoshi Ishiwata, Hiromu Nakashima, Sara Mandić, Hina Kobayashi, Minori Teramoto, Hirokazu Tsuji, Yoshiki Nishibayashi, Yutaka Shikano, Toshu An, Masazumi Fujiwara |
DOI | 10.1021/acsnano.4c03424 |
URL | https://doi.org/10.1021/acsnano.4c03424 |
【研究資金】
- 独立行政法人日本学術振興会「科学研究費助成事業」
‣基盤A・24H00406,研究代表:藤原正澄
‣基盤A・20H00335,研究代表:藤原正澄
‣国際共同研究強化(A)・20KK0317,研究代表:藤原正澄
‣特別研究員奨励費・23KJ1607,研究代表:押味佳裕 - 国立研究開発法人科学技術振興機構
「先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)次世代のためのASPIRE」
(JPMJAP2339,研究代表:鹿野豊(筑波大学) - 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
「官民による若手研究者発掘支援事業」
(JPNP20004,研究代表:藤原正澄) - 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「ムーンショット型研究開発事業」
(JP23zf0127004,研究代表:村上正晃(北海道大学)) - 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業 「共通基盤」領域 本格研究
(JPMJMI21G1,研究代表:飯田琢也(大阪公立大学)) - 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ
(JPMJPR20M4,研究代表:鹿野豊(筑波大学)) - 国立研究開発法人科学技術振興機構 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業
(JPMJFS2128, 研究代表:押味佳裕(岡山大学))
(JPMJFS2126, 研究代表:マンディッチサラ(岡山大学)) - 公益財団法人 山陽放送学術文化・スポーツ振興財団「研究助成」(研究代表:藤原正澄)
- 公益財団法人 旭硝子財団「研究助成」(研究代表:藤原正澄)
- 文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」(JPMXP09F21OS0055)
- 国立研究開発法人科学技術振興機構 創発的研究支援事業
(JPMJFR224K,研究代表:石綿整(QST)) - 公益財団法人 村田学術振興・教育財団「研究助成」(研究代表:石綿整(QST))
【補足・用語説明】
ダイヤモンド中に存在する窒素欠陥中心によって赤い発光を示す、ナノメートルサイズのダイヤモンド粉末粒子。褪色がなく安定した蛍光を半永久的に示す蛍光材料。生体毒性も低く、バイオイメージングなどに利用されている。
量子力学において量子状態が外部からの影響を受けずに一貫性を保ちながら情報を保持できる性質。温度測定の場合、ダイヤモンド窒素欠陥中心の電子スピン状態が温度情報を感じることのできる時間であり、コヒーレンスが失われると温度測定の精度が低下する。
量子力学の原理に基づいてさまざまな物理量を超高感度に計測することができる。特に蛍光ナノ粉末ダイヤモンドでは、窒素欠陥中心が有する電子スピン状態を、量子力学の原理に基づいて操作・検出することで、さまざまな物理量(磁気・温度・電気)を超高感度に計測することができる。
ダイヤモンドの炭素格子中に含まれる結晶欠陥の1つ。窒素原子と隣接する空孔から構成され、緑色の光を吸収して赤い蛍光を示す。この蛍光は、光検出磁気共鳴を示し※5、これが磁場や温度によって影響されるため、蛍光を通したセンシングが可能。超高感度計測が可能な量子センサとして注目され、生体内での温度や磁場の計測、量子情報技術などで注目されている。
光検出を通して電子スピンとマイクロ波の共鳴を観測する手法。蛍光ナノ粉末ダイヤモンドの場合、2.87 GHz付近のマイクロ波を照射すると、電子スピン共鳴が生じ、それが蛍光輝度の減少に表れる。
令和6年12月23日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2024/12/23-1.html学生の永原さんが第21回「次世代の太陽光発電システム」シンポジウム(第4回⽇本太陽光発電学会学術講演会)においてInnovative PV奨励賞を受賞
学生の永原光倫さん(博士前期課程2年、サスティナブルイノベーション研究領域、大平研究室)が第21回「次世代の太陽光発電システム」シンポジウム(第4回⽇本太陽光発電学会学術講演会)においてInnovative PV奨励賞を受賞しました。
日本太陽光発電学会は、太陽光発電に関連する学術分野の研究の促進ならびに成果の普及に関する事業を行い、将来の脱炭素社会の実現とその発展に寄与することを目的としています。
同シンポジウムは、国内の太陽光発電にかかわる研究者や技術者が一堂に会し、分野の垣根なく議論する場として開催されています。
Innovative PV奨励賞は、同シンポジウムにおいて、太陽光発電ならびにその関連分野の発展に貢献しうる優秀な講演論文を発表した35歳以下の同会若手会員に対し授与されるものです。
※参考:日本太陽光発電学会
■受賞年月日
令和6年8月28日
■研究題目、論文タイトル等
封止材とカバーガラスを使用しない曲面結晶Si太陽電池モジュールの機械的強度評価
■研究者、著者
永原光倫、Huynh Thi Cam Tu、大平圭介
■受賞対象となった研究の内容
封止材とカバーガラスを使用しない曲面・大面積結晶Si太陽電池モジュールに対し、JIS規格に基づく砂袋式荷重試験と降雹試験の2種類の機械的強度試験を行った。結果として、砂袋式荷重試験では、切削加工により作製したポリカーボネート(PC)ベースが破壊されないことや、フロントカバーであるPC板と太陽電池セルの接触による破損がないことが分かった。降雹試験では、降雹によるフロントカバーに傷が確認されないことや、衝撃による太陽電池セルの破損が見られないことを確認した。以上のことから、従来型太陽電池モジュールの評価基準を満たす機械的強度を有することが分かった。
■受賞にあたって一言
奨励賞を受賞でき、とてもうれしく思います。研究を進める中で、大平教授をはじめ多くの方からサポートや貴重な助言をいただいたことが、今回の受賞につながったと感じています。これからも一層研究活動に取り組んでいきたいです。
令和6年9月24日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2024/09/24-2.html学生の福田さんとJANCHAIさんがPESI2024においてBest Poster Paper Awardを受賞
学生の福田雄太さん(博士後期課程1年、物質化学フロンティア研究領域、山口政之研究室)とJANCHAI, Khunanyaさん(博士後期課程3年、物質化学フロンティア研究領域、山口政之研究室)が、Polymer Engineering & Science International 2024(PESI2024)において、Best Poster Paper Awardを受賞しました。
PESI2024は、令和6年7月21日~25日にかけて東京工業大学にて開催された高分子加工に関する国際会議です。同会議では、高分子工学および高分子科学の様々な研究分野から国際的な研究コミュニティーが集まり、高分子材料、技術、方法論に関わる最新の研究成果について議論が行われました。
※参考:PESI2024
■受賞年月日
令和6年7月24日
【福田雄太さん】
■研究題目、論文タイトル等
Structure control of polypropylene extrudate by addition of hydrogenated poly(dicyclopentadiene)
■研究者、著者
Yuta Fukuda, Masayuki Yamaguchi
■受賞対象となった研究の内容
ポリプロピレン押出物にはクロスハッチ構造と呼ばれる構造が常に存在し、そのために固体物性の低下を招いている。この研究では、ポリプロピレンと溶融状態で相溶する異種ポリマーを添加することで、クロスハッチ構造の形成を抑制できることを明らかにした。
■受賞にあたって一言
この度はPolymer Engineering & Science international 2024においてポスター賞を受賞でき、大変うれしく思っています。日頃から熱心な指導をしてくださる山口政之教授、そして研究室のメンバーに心から感謝します。
【JANCHAI, Khunanyaさん】
■研究題目、論文タイトル等
Effect of the addition of low-density polyethylene on the rheological properties and crystallization behaviors under shear flow for polypropylene
■研究者、著者
Khunanya Janchai, Masayuki Yamaguchi
■受賞対象となった研究の内容
低密度ポリエチレンを添加することで、ポリプロピレンの流動誘起結晶化が顕著になることを明らかにした研究内容である。その結果、ポリプロピレン分子鎖の配向度が高くなり、剛性向上も期待できる。
■受賞にあたって一言
I am deeply pleased and honored to receive the BEST POSTER PAPER AWARD. I get the benefits of attending a conference to learn, develop my research skills, and have the chance to get feedback from experts on my work. I would like to express my sincere gratitude to my supervisor, Professor Masayuki Yamaguchi, who gave me invaluable advice, continuous support, and the excellent opportunity to join this conference. Also, I'd like to express my sincere thanks to the laboratory members for their good cooperation. This recognition is a significant milestone in my educational journey and a testament to my hard work and dedication to my studies. Thank you for recognizing my efforts and the potential you see in me. This honor will undoubtedly be a motivator for my future academic pursuits and a cherished accolade in my educational career.
令和6年8月19日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2024/08/19-1.html学生のLIUさんがICT/ECT 2024においてThe ICT2024 Outstanding Poster Prizeを受賞
学生のLIU, Ruianさん(博士後期課程3年、サスティナブルイノベーション研究領域、小矢野研究室)が40th International & 20th European Conference on Thermoelectrics (ICT/ECT 2024)においてThe ICT2024 Outstanding Poster Prizeを受賞しました。
国際熱電学会とヨーロッパ熱電学会が後援するICT/ECT 2024は、第40回国際熱電会議と第20回ヨーロッパ熱電会議の合同会議で、AGHクラクフ大学が主催し、ポーランド(クラクフ)にて令和6年6月30日~7月4日にかけて5日間にわたり開催されました。
国際熱電会議(ICT)は、理論とモデリング、物理現象、新素材、測定技術、熱電デバイス、システム、アプリケーションなどあらゆる側面を網羅するトピックを取り扱う、熱電変換技術に関する最も主要な国際会議であり、化学、物理学、材料科学の分野における新しいアイデアや発見、また熱電変換の進歩に寄与する産業およびエネルギー分野における実用的な応用について議論する場を提供しています。
ICT/ECT 2024では約300件のポスター発表があり、その中から優れた発表を行った8件の発表者に対してThe ICT2024 Outstanding Poster Prizeが授与されました。
参考:ICT/ECT2024
ICT/ECT2024参加レポート
■受賞年月日
令和6年7月3日
■研究題目、論文タイトル等
Investigation of lattice anharmonicity in Se-doped Bi2Te3 based on temperature-dependent Raman spectroscopy
■研究者、著者
劉鋭安(LIU, Ruian)、宮田全展、小矢野幹夫
■受賞対象となった研究の内容
SeドープのBi2Te3は、高性能なn型熱電材料としてインターネット光通信レーザーの温度制御などに広く応用されており、その熱電物性はよく調べられている。しかしながらこの機能性材料の低熱伝導率の原因であるフォノン散乱過程に関する実験はほとんど行われていない。私は、Seのドープ量を系統的に変化させたBi2Te3-xSex材料を合成し、ラマン散乱ピークの半値幅の温度依存性の解析から、結晶歪みやSe置換量による格子の非調和振動の変化を詳細に調べた。その結果、3次の非調和項の寄与が支配的である一方、4次以上の非線形的な非調和振動項はほとんど寄与しないことを明らかにした。いままでこの物質の低い熱伝導率は高次の非調和格子振動によるものと考えられていたが、私の実験結果はその考え方に修正をもたらすものであり、より現実的な低熱伝導率の原因の解明につながる重要な成果である。
■受賞にあたって一言
この度は、国際熱電会議よりThe ICT2024 Outstanding Poster Prizeを拝受しましたこと、誠に光栄に存じます。この表彰は私個人の力だけではなく、日々ご指導を賜りました小矢野幹夫教授、宮田全展講師(現産業技術総合研究所)をはじめ、研究室の皆様のお陰です。この場をお借りして心より深く感謝を申し上げます。また、渡航諸費用にご支援を頂いた丸文財団にも厚く御礼申し上げます。


令和6年7月26日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2024/07/26-1.html学生の福田さんがANTEC2024においてStudent Poster Winnerを受賞
学生の福田雄太さん(博士前期課程2年、物質化学フロンティア研究領域、山口研究室)がAnnual Technical Conference (ANTEC2024)においてStudent Poster Winnerを受賞しました。
ANTEC2024は、国際的なプラスチック技術者協会であるSociety of Plastics Engineers(SPE)が主催し、3月4日~7日にかけて米国セントルイスにて開催された国際会議であり、当該分野では世界で最も大きな学会です。
同会議はプラスチックのイノベーションに焦点を当て、ポリマー加工におけるリサイクルやAIを活用した射出成形、サーキュラーエコノミー、持続可能な輸送などのトピックを扱う講演者による最先端のセッションの宝庫です。プレナリー講演では、機械学習や革新的なポリマー設計、持続可能な成長について探求し、プラスチックの未来を垣間見ることができます。
※ANTEC2024
■受賞年月日
令和6年3月6日
■研究題目
Control of Cyrstalline Structure for Isotactic Polypropelylene Containing Hydrogenated Poyl
(dicyclopentadiene)
■研究者、著者
福田雄太
■受賞対象となった研究の内容
ポリプロピレン(PP)に水素化オリゴシクロペンタジエンを添加し急速冷却を行うことで、PPの結晶形態を制御できることを見いだした。その結果、得られるフィルムは高強度かつ高剛性となり、フィルムの薄肉化が可能となる。
■受賞にあたって一言
この度はANTEC2024においてポスター賞を受賞できたことを大変うれしく思っています。受賞にあたって日頃から熱心に指導してくださる山口政之教授、および研究室のメンバーに深くお礼申し上げます。


令和6年3月28日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2024/03/28-1.html学生の大橋さんが第14回半導体材料・デバイスフォーラムにおいて最優秀口頭発表賞を受賞

学生の大橋亮太さん(博士前期課程2年、サスティナブルイノベーション研究領域、大平研究室)が第14回半導体材料・デバイスフォーラムにおいて最優秀口頭発表賞を受賞しました。
第14回半導体材料・デバイスフォーラムは、熊本高等専門学校が主催し、令和5年12月9日、九州工業大学にてハイブリッド開催されました。同フォーラムは半導体材料・関連デバイス研究分野に重点を置き、研究発表や討論を通じて、高専学生と大学(院)生との学生間交流を図り、高専学生の教育・研究力向上への貢献を目指しています。
最優秀口頭発表賞は、同フォーラムにおいて、半導体デバイスの発展に貢献しうる最も優秀な口頭発表をした筆頭著者に贈られるものです。
※参考:第14回半導体材料・デバイスフォーラム
■受賞年月日
令和5年12月9日
■研究題目
ベイズ最適化を適⽤したCat-CVD i-a-Si およびn-a-Siの堆積条件探索
■研究者、著者
大橋亮太、Huynh Thi Cam Tu、東嶺孝一、沓掛健太朗、大平圭介
■受賞対象となった研究の内容
現在、太陽電池市場の大部分を占めているSi系太陽電池において、特に高効率なSiヘテロ接合(SHJ)太陽電池に着目し、高効率化を目指し研究を行っている。SHJ太陽電池の作製にあたり、我々は触媒化学気相堆積(Cat-CVD)法を用いて結晶Siウエハ上に非晶質Si(a-Si)を堆積している。しかし、堆積時のパラメータが多いため、高性能なSHJ太陽電池の作製条件の探索に膨大な時間がかかる。そこで、ベイズ最適化を用いて効率よく高い性能を示す条件探索を行っている。
本講演では、ベイズ最適化を用いて真性非晶質Si(i-a-Si)層とn型非晶質Si(n-a-Si)層の堆積条件探索について発表した。i-a-Si層及びn-a-Si層の探索を、それぞれ20回、21回とかなり少ない回数で完了することができ、高いパッシベーション性能と十分な導電性を兼ね備えるa-Si膜の堆積条件を確立した。
■受賞にあたって一言
この度、第14回半導体材料・デバイスフォーラムにおいて、最優秀口頭発表賞を賜り、大変光栄に思います。高専生が多い会議でしたので、自分の研究の面白さやJAISTの良さが少しでも伝わっていれば嬉しいです。本研究の推進にあたり、ご指導、ご協力いただいた大平圭介教授、HUYNH, Tu Thi Cam特任助教をはじめとした大平研究室メンバーの皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、ベイズ最適化のご指導をいただいた沓掛健太朗研究員(理化学研究所)、透過型電子顕微鏡にて試料の観察をご担当いただいた技術専門員の東嶺孝一様にも、心より感謝申し上げます。
令和6年1月22日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2024/01/22-1.htmlMoS2ナノリボンのエッジが示す特異な力学特性の観測に成功

MoS2ナノリボンのエッジが示す特異な力学特性の観測に成功
ポイント
- 雷、加速度、ガス、臭気などの環境電磁界を計測するセンサーの開発に必要な要素技術として、機械共振器がある。
- ナノスケールの超薄型機械共振器として期待されている、単層2硫化モリブデン(MoS2)・ナノリボンのヤング率測定に成功した。
- リボン幅が3nm以下になると、ヤング率がリボン幅に反比例して増加する特異な性質を発見した。
- リボンのエッジ部分における原子配列の座屈がエッジの強度を高める要因であることを、計算科学手法を用いて解明した。
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)ナノマテリアル・デバイス研究領域の大島義文教授は、サスティナブルイノベーション研究領域の前園涼教授、本郷研太准教授、鄭州大学物理学院の刘春萌講師、張家奇講師らと、独自に開発した顕微メカニクス計測法を用いて、リボン状になった単層2硫化モリブデン(MoS2)膜の力学性質を調べ、リボンのエッジ部分の強度が、リボンの内部より高いことを明らかにした。 単層MoS2ナノリボンは、ナノスケールの超薄型機械共振器への応用が期待されているが、その力学性質の解明が課題となっている。ナノリボンの力学性質について、そのエッジ部分の影響が予想されており、第一原理計算による予測値は報告されているが、明確な結論が得られていない。本研究では、世界唯一の手法である「顕微メカニクス計測法」を用いて、単層MoS2ナノリボンの原子配列を観察しながら、そのばね定数を測定することに成功した。解析の結果、エッジがアームチェア構造である単層MoS2ナノリボンのリボン幅が3nm以下になると、ヤング率が増加することを発見した。リボン幅の減少とともにエッジ構造の物性への寄与が大きくなるため、この結果は、エッジ強度が内部に比べて高いことを示す。 このエッジ構造を第一原理計算で調べたところ、エッジにおいてモリブデン(Mo)原子が座屈しており、硫黄(S)原子へ電荷が移動していることが示唆された。このことから、両原子間に働くクーロン引力の増加が、エッジ強度を高めることに寄与したと説明できる。 |
【研究の背景】
シリコンをベースとした半導体デバイスを凌駕する新奇ナノデバイスの開発、あるいは、加速度、ガス、雷などの環境電磁場を測定するセンサーの開発が精力的に行われている。このような開発に必要な要素技術として、機械共振器[*1]がある。従来、高い剛性を持ち、かつ、高品位な結晶が得られることから水晶が機械共振器として用いられてきたが、近年、ナノスケールの超薄型機械共振器が求められており、その有力候補として単層2硫化モリブデン(MoS2)のナノリボン(ナノメートルサイズの幅に切り出した帯状物質)が挙げられている。しかし、単層MoS2ナノリボンの力学性質は、明らかになっていない。その理由として、物質の力学特性を理解するためには、力学的応答を測定すると同時に材料の結晶構造や形状を観察する必要があるが、そのような観察手法が確立されていないことが挙げられる。
従来手法では、原子配列を直接観察できる透過型電子顕微鏡(TEM)にシリコン製カンチレバーを組み込んだ装置を用いて、カンチレバーの曲がりから測定対象材料に加えた力を求め、それによって生じた変位をTEM像で得ることで、ヤング率(変形しやすさ)を推量している。しかし、この測定法は、個体差があるカンチレバーのばね定数を正確に知る必要があり、かつ、サブオングストローム(1オングストローム(1メートルの100億分の1)より短い長さのスケール)の精度で変位を求める必要があるため、定量性が十分でないと指摘されている。
【研究の内容】
大島教授らの研究グループは、2021年、TEMホルダーに細長い水晶振動子(長辺振動水晶振動子(LER)[*2])を組み込んで、原子スケール物質の原子配列とその機械的強度の関係を明らかにする「顕微メカニクス計測法」[*3]を世界で初めて開発した。この手法では、水晶振動子の共振周波数が、物質との接触による相互作用を感じることで変化する性質を利用する。共振周波数の変化量は物質の等価バネ定数に対応しており、その変化量を精密計測すればナノスケール/原子スケールの物質の力学特性を精緻に解析できる。水晶振動子の振動振幅は27 pm(水素原子半径の約半分)と微小なため、TEMの原子像がぼやけることはない。この手法は、上述した従来手法の問題点を克服するものであり、結果として高精度測定を実現した。
本研究では、この顕微メカニクス計測法を用いて、単層MoS2ナノリボンの力学性質を測定した。特に、アームチェア構造のエッジを持つMoS2ナノリボンに着眼し、そのヤング率の幅依存性について調べた。
具体的には、単層MoS2ナノリボンは、MoS2多層膜の端にタングステン(W)チップを接触させ、最外層のMoS2層を剥離することで作製した(図1)。図2に示す2枚は、それぞれ、同じ単層MoS2ナノリボンを断面から観察したTEM像(2-1)と平面から観察したTEM像(2-2)であり、単層MoS2ナノリボンが、MoS2多層膜とWチップ間に担持した状態にあることが確認できる(図3のイラストを参照)。また、エッジ構造は、平面から観察したTEM像のフーリエパターンから判定でき、アームチェア構造であることが分かった。この平面から観察したTEM像から、ナノリボンの幅と長さを測定し、それに対応する等価ばね定数をLERの周波数変化量から求めることで、このナノリボンのヤング率を得た。図3右側のグラフは、異なるリボン幅に対するヤング率をプロットした結果である。
同グラフから、リボン幅が3 nm以上では、ヤング率は166 GPa前後でほぼ一定であり、一方、リボン幅が2.4 nmから1.1 nmに減少すると、ヤング率は179 GPaから215 GPaに増加することがわかった。リボン幅の減少とともに物性へのエッジ構造の寄与が大きくなることを考慮すると、この結果は、エッジ強度が内部に比べて高いことを示す。
さらに、このアームチェア構造を第一原理計算で調べ、アームチェア・エッジにおいてモリブデン(Mo)原子が座屈し、硫黄(S)原子へ電荷が移動しているという結果を得た。このことから、両原子間に働くクーロン引力が増加することによりエッジ強度が高くなったと説明できた。
本研究成果は、2023年9月11日に科学雑誌「Advanced Science」誌のオンライン版で公開された。
【今後の展望】
現在、雷、加速度、ガス、臭気などの環境電磁界を計測するセンサーの開発が精力的に行われている。このようなセンサーの開発に必要な要素技術の一つが機械振動子である。本研究の成果は、ナノスケールの超薄型機械的共振器の設計を可能にする。近い将来、これを用いたナノセンサーがスマートフォンや腕時計などに組み込まれ、個人がスマートフォンで環境をモニタリングしたり、匂いや味などの情報を数値としてとらえ、自由に伝えることができる可能性がある。
図1.MoS2多層膜の端にタングステン(W)チップを接触し、最外層の単層MoS2膜を剥離する過程を示したイラスト
図2.同じ単層MoS2ナノリボンを断面から観察したTEM像(2-1)と平面から観察したTEM像(2-2)
図3.(左)単層MoS2ナノリボンが、MoS2多層膜とWチップ間に担持した状態を示すイラスト、
(右)アームチェアエッジの単層MoS2ナノリボンに対するヤング率のリボン幅依存性を示すグラフ |
【論文情報】
掲載誌 | Advanced Science(Wiley社発行) |
論文題目 | Stiffer Bonding of Armchair Edge in Single‐Layer Molybdenum Disulfide Nanoribbons |
著者 | Chunmeng Liu, Kenta Hongo, Ryo Maezono, Jiaqi Zhang*, Yoshifumi Oshima* |
掲載日 | 2023年9月11日 |
DOI | 10.1002/advs.202303477 |
【用語説明】
[*1] 機械共振器
材料には、ヤング率、その形状(縦、横、長さ)、質量によって決まる固有振動があり、これを共振周波数と呼ぶ。この共振周波数は、他の材料と接触したり、あるいは、ガス吸着などによる質量変化に応じてシフトする。そのため、この変化から、接触した材料の等価ばね定数や吸着したガスの質量を評価できる。このような評価法を周波数変調法という。本研究でも、周波数変調法によって、単層MoS2ナノリボンのばね定数を算出している。
[*2] 長辺振動水晶振動子(LER)
長辺振動水晶振動子(LER)は、細長い振動子(長さ約3 mm、幅約0.1 mm)を長辺方向に伸縮振動させることで、周波数変調法の原理で金属ナノ接点などの等価バネ定数(変位に対する力の傾き)を検出できる。特徴は、高い剛性(1×105 N/m )と高い共振周波数(1×106 Hz )である。特に、前者は、化学結合の剛性(等価バネ定数)測定に適しているだけでなく、小さい振幅による検出を可能とすることから、金属ナノ接点を壊すことなく弾性的な性質を得ることができ、さらには、原子分解能TEM 像も同時に得られる点で大きな利点をもつ。
[*3] 【参考】「世界初! 個々の原子間の結合強度の測定に成功―強くて伸びる白金原子の鎖状物質―」(2021年4月30日 JAISTからプレスリリース)
https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/04/30-1.html
令和5年9月19日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/09/19-1.htmlサスティナブルイノベーション研究領域の大平教授の研究課題が「NEDO先導研究プログラム」に採択
サスティナブルイノベーション研究領域の大平 圭介教授の研究課題が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2023年度「NEDO先導研究プログラム」のエネルギー・環境新技術先導研究プログラムに採択されました。
NEDO先導研究プログラムは脱炭素社会の実現や新産業の創出に向けて、〔1〕エネルギー・環境分野(エネルギー・環境新技術先導研究プログラム)、〔2〕新産業創出に結びつく産業技術分野(新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム)において、2040年以降(先導研究開始から15年以上先)の実用化・社会実装を見据えた革新的な技術シーズを発掘・育成し、国家プロジェクトを含む産学連携体制による共同研究等につなげていくことを目的として、先導研究を実施するものです。
NEDOは〔1〕および〔2〕について公募を実施し、応募件数139件中25件のテーマを採択しました。
*参考:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
■研究課題名
次世代型超高効率太陽光パネルの実現に向けた要素技術の研究開発
■研究テーマ名
リサイクル容易な曲面・超軽量結晶Si太陽電池モジュールの開発
■研究期間
2023年5月~2026年3月
■研究概要
本研究では、封止材を用いない、あるいは剥離可能な封止材を用いた新概念結晶Si太陽電池のモジュールの開発に取り組みます。モジュールに使用する各部材が接着されていないため、廃棄の際の分解・分別や、部材リサイクルが容易となります。さらに、耐荷重や形状の問題で設置が難しかった建材への太陽光発電導入につながるよう、軽量化と曲面加工が可能となるモジュールの実現も目指します。本研究は、京セラ、新潟大学、青山学院大学、岐阜大学と共同で実施します。
■採択にあたって一言
近未来に予測されている太陽電池モジュールの大量廃棄時代に備え、廃棄や部材リサイクルの問題への対応が急務となっています。しかし、廃棄・リサイクルに適した太陽電池モジュールの開発は、あまり活発に行われていません。本研究を通して、太陽電池モジュールの構造を根本から見直し、新たなスタンダードとなるようなモジュールを実現したいと思います。
令和5年5月18日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2023/05/17-1.html炭素1原子層厚のグラフェン膜を使った超低電圧・急峻動作のナノ電子機械スイッチ開発に成功 - 究極の低消費電力エレクトロニクスや集積センサシステム実現に期待 -

炭素1原子層厚のグラフェン膜を使った
超低電圧・急峻動作のナノ電子機械スイッチ開発に成功
- 究極の低消費電力エレクトロニクスや集積センサシステム実現に期待 -
ポイント
- 単層グラフェン膜で作製した両持ち梁を、機械的に上下させて安定動作するNEMS(ナノ電子機械システム)スイッチを世界で初めて実現
- スイッチング電圧<0.5 Vの超低電圧動作と急峻なオン・オフ切替え(電流スイッチング傾き≈20 mV/dec)を実現。従来の半導体技術を用いたNEMSスイッチに比べて約2桁の低電圧化を達成
- 制御電極表面に単層の六方晶窒化ホウ素原子層膜を備えることで、従来のグラフェンNEMSスイッチの問題であったグラフェン膜張り付き(スティクション)を解消し、5万回のオン・オフ繰り返し動作を実現
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・寺野稔、石川県能美市)サスティナブルイノベーション研究領域の水田 博教授、マノハラン ムルガナタン元JAIST講師、デンマーク工科大学のゴク フィン ヴァン博士研究員(元JAIST博士研究員)らは、単層グラフェン[用語解説1](原子1層厚の炭素原子シート)膜で作製した両持ち梁を、0.5V未満の超低電圧で機械的に上下させ、5万回繰り返しても安定動作するNEMS(ナノ電子機械システム)[用語解説2]スイッチの開発に世界で初めて成功しました。本デバイスを用いれば、スイッチオフ状態での漏れ電流を原理的にゼロにすることが可能となり、現在のエレクトロニクス分野で深刻な問題となっている集積回路やセンサシステムの待機時消費電力[用語解説3]の飛躍的な低減が実現し、今後のオートノマス(自律化)ITシステムの実現に向けた革新的パワーマネジメント技術として期待されます。 |
【背景と経緯】
現在のIT技術は、シリコン集積回路の基本素子であるMOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)の堅調な微細化に支えられ発展を遂げてきました。最新のマイクロプロセッサでは、数十億個という膨大な数の高速MOSFETをチップに集積することで、大量のデータを瞬時に計算・処理しています。しかし、この半導体微細化の追求に伴って、MOSFETのオフリーク電流(トランジスタをスイッチオフした状態での漏れ電流)の増大が深刻な問題となっています。オフリーク電流によりシステム待機時の消費電力(スタンバイパワー)は急増し、現代の集積回路システムにおいてはシステム稼動時の消費電力(アクティブパワー)と同等の電力消費となっています。スタンバイパワーを低減するために、現在、デバイス・回路・システム全てのレベルにおいてさまざまな対策が検討されています。このうちデバイスレベルでは、トンネルトランジスタや負性容量電界効果トランジスタなどいくつかの新原理のスイッチングトランジスタが提案され、研究開発が進められていますが、未だ従来のMOSFETを凌駕するオフリーク電流特性を実現するには至っていません。
【研究の内容】
水田教授、マノハラン元講師らの研究チームは、原子層材料であるグラフェンをベースとしたナノメータスケールでの電子機械システム(Nano Electro-Mechanical Systems: NEMS)技術による新原理のスイッチングデバイスを開発してきました。2014年には、2層グラフェンで形成した両持ち梁を静電的に動かし、金属電極上にコンタクトさせて動作するグラフェンNEMSスイッチの原理実験に成功しています。しかし、このスイッチではオン・オフ動作を繰り返すうちにグラフェンが金属表面に張り付く(スティクション)問題が生じ、繰り返し動作に限界がありました。
今回、研究チームは、制御電極表面に単層の六方晶窒化ホウ素[用語解説4]原子層膜を備えることで(図1参照)、グラフェンと電極間に働くファンデルワールス力[用語解説5]を低減させ、スティクションの発生を抑制して安定したオン・オフ動作を5万回繰り返すことに世界で初めて成功しました(図2参照)。また、素子構造の最適化を併せて行うことでスイッチング電圧が0.5 V未満という超低電圧を達成し、従来の半導体技術を用いたNEMSスイッチに比べて約2桁の低電圧化を実現しました。同時に、従来のNEMSスイッチでは不可避であったオン電圧とオフ電圧のずれ(ヒステリシス)の解消にも成功しました。
5万回を超える繰り返し動作を経ても、5桁近いオン・オフ電流比や、電流スイッチング傾き≈20 mV/decの急峻性が維持され、それらの経時劣化が極めて小さいことも確認されました。
本成果は、2022年12月22日にWiley社が発行する材料科学分野のトップジャーナルである「Advanced Functional Materials」に掲載されました。
本成果を含めて、水田教授は「ナノメータスケールにおける電子-機械複合機能素子の研究」の業績で2018年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞 研究部門を受賞しています。
【今後の展望】
これらの優れた性能と信頼性の高さから、本新型NEMSスイッチは、今後の超高速・低消費電力システムの新たな基本集積素子やパワーマネジメント素子として大いに期待されます。さらに、今回の新型スイッチの作製においては、大面積化が可能なCVD[用語解説6]グラフェン膜とhBN膜を採用しており、将来の大規模集積化と量産への展望も広がります。
図1.開発に成功した超低電圧動作グラフェンNEMSスイッチの(a)作製方法, (b)構造, (c)CVDグラフェン膜とhBN膜のラマンスペクトル, (d)作製した素子のSEM(電子顕微鏡)写真
図2.オン・オフの繰り返し動作測定結果:(a)印加電圧(上)と電流応答(下)、(b)繰り返し測定直後と(c)25,000回繰り返し後のオン・オフ電流特性。特性の経時劣化は極めて小さい。
【論文情報】
掲載誌 | Advanced Functional Materials (Volume32, Issue52) |
論文題目 | Sub 0.5 Volt Graphene-hBN van der Waals Nanoelectromechanical (NEM)Switches |
著者 | Manoharan Muruganathan, Ngoc Huynh Van, Marek E. Schmidt, Hiroshi Mizuta |
掲載日 | 2022年12月22日 |
DOI | 10.1002/adfm.202209151 |
【用語解説】
2004年に発見された、炭素原子が蜂の巣状の六角形結晶格子構造に配列した単原子シート。
半導体集積回路作製技術によって形成されたナノメータスケールの機械的可動構造を有するデバイス。
電源に接続された集積回路・システムが、電源の切れている状態でも消費する電力。
グラフェンのユニットセルの2個の炭素原子の代わりに、窒素原子(N)とホウ素原子(B)で蜂の巣状格子構造を構成する化合物。電気的に絶縁体である。
原子や分子の間に働く力(分子間力)の一種。
さまざまな物質の薄膜を形成する蒸着法の一つで、基板物質上に目的とする膜の成分元素を含む原料ガスを供給し、化学反応・分解を通して薄膜を堆積する方法。
令和5年1月10日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/01/10-1.htmlナノマテリアル・デバイス研究領域の麻生助教の研究課題が澁谷学術文化スポーツ振興財団の研究助成に採択
ナノマテリアル・デバイス研究領域の麻生 浩平助教の研究課題が公益財団法人 澁谷学術文化スポーツ振興財団の研究助成「大学の新技術、研究活動への奨励金」に採択されました。
澁谷学術文化スポーツ振興財団は、大学における学術研究の充実を図ること等により、地域社会の発展の寄与することを目的としています。「大学の新技術、研究活動への奨励金」は、石川県地域の大学・大学院等の研究機関において、研究活動を行い、その研究成果が期待されるグループおよび個人を対象に贈呈されるものです。
*詳しくは、公益財団法人 澁谷学術文化スポーツ振興財団をご覧ください。
- 研究期間:令和4年11月~令和5年10月
- 研究課題名:「全固体電池内での局所イオン伝導を可視化するデータ駆動その場観察手法の開発」
- 研究概要:全固体リチウム (Li) イオン電池の実用化に向けて盛んな研究が進められています。例えば、充電がより早く完了する電池の開発が挙げられます。充電とともに、電池内部ではLiイオンが動くので、どういった条件だと動きが速まるのか理解することが大切です。ここで、結晶構造の乱れがLiイオンの動きに変化をもたらすと指摘されています。結晶構造の乱れはナノ(10億分の1)メートルスケールなので、そのスケールでLiイオンの動きを観察することが求められます。そこで本研究では、ナノスケールでLiイオンの動きを可視化する手法を開発します。電池を動作させながらナノスケールで動画を取得できる、オペランド電子顕微鏡法を用います。そして、データ科学の助けを借りることで、数千枚の動画からLiイオンの分布や速度を自動的に解析する手法を開発します。本研究によって、電池開発に新たなアイデアをもたらすことを期待しています。
- 採択にあたって一言:澁谷学術文化スポーツ振興財団、ならびに選考委員の皆様に心から感謝いたします。本研究を進めるにあたりいつも多大なご協力を頂いております大島義文教授、共同研究者の皆様、各研究室の皆様、ナノマテリアルテクノロジーセンターの皆様に厚く御礼を申し上げます。学術や社会に貢献しうる研究成果を挙げられるよう引き続き尽力してまいります。
令和4年12月5日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/12/05-1.html【12/20(火)開催】JAIST 物質化学フロンティアシンポジウム 2022
開催日時 | 令和4年12月20日(火)8:50~16:00 |
実施方法 | 現地開催、ネット配信(ハイブリッド開催) |
会 場 | 北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系講義棟 2F 中講義室(石川県能美市旭台1-1) 及び WebEx |
講演者 | 招待講演者 北浦 守 山形大学理学部 教授 小笠原 一禎 関西学院大学 理学部 化学科 教授 高垣 敦 九州大学大学院工学研究院応用化学部門 准教授 鎌田 慶吾 東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授 四反田 功 東京理科大学理工学部先端化学科 准教授 本学講演者 上田 純平 准教授(物質化学フロンティア領域) 西村 俊 准教授(物質化学フロンティア領域) BHARDWAJ,Rahul 研究員(サイレントボイスセンシング国際研究拠点) 青木 健太郎 助教(物質化学フロンティア領域) |
言 語 | 日本語(英語使用可) |
申込み | 以下の申込フォームより、参加ご希望の方は12/19(月)までにお申し込みください。 https://forms.gle/fJDY6dHquNWDWcss5 |