研究活動の検索
研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。光強度と反応温度を制御するだけで、光触媒反応の律速過程を判別可能な新手法を開発

光強度と反応温度を制御するだけで、
光触媒反応の律速過程を判別可能な新手法を開発
【ポイント】
- プロセス分離の難しい光触媒反応において、「励起キャリアの表面への供給」か「表面での酸化還元反応」のどちらが律速となっているかを簡便に判別できる手法を確立
- 光照射強度と反応温度を系統的に変化させることで、光触媒表面に過剰な励起キャリアが存在し始める"しきい値"を捉え、律速段階を見極めることに成功
- ナノ粒子化や結晶性向上など、今後の光触媒材料設計における具体的な指針を提示
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)物質化学フロンティア研究領域の張葉平特任助教(日本学術振興会特別研究員-PD)、谷池俊明教授らの研究グループは、光触媒反応における反応速度を決定づける律速プロセスを、光強度と反応温度を制御するだけで簡便に特定する方法を開発しました。光触媒反応は光の吸収から励起キャリアの拡散、そして表面での酸化還元反応まで複数のステップを経るため、どの段階が律速しているのかを従来は見極めにくいという課題がありました。本研究では、表面での励起キャリアが不足または余剰となる状態を温度変化から読み解く新たな指標を導入し、これにより「励起キャリアの表面への供給」と「表面での酸化還元反応」のどちらが支配的かを判別できることを示しました。今回の成果は、光触媒の性能向上や仮説検証の精度向上に加え、高効率な太陽光利用技術の開発にも波及効果が期待されます。 |
【研究の背景】
光触媒は、太陽光を活用し、水の分解による水素生成や二酸化炭素の還元、環境浄化など、多岐にわたる反応系への応用が期待されており、持続可能な社会の実現に向けた重要な技術として注目されています。しかし、光の吸収、励起キャリア(電子や正孔)の生成・拡散・表面での酸化還元反応といった複数のプロセスが絡み合うため、どの段階が律速しているかを明確にするのは容易ではなく、結果として効率的な材料改良が進みにくいという課題がありました。
【研究の詳細】
本研究では、光触媒反応を「励起キャリアの表面への供給」と「表面における酸化還元反応」の2つの過程に分け、どちらが律速となっているかを見極めるための簡便な手法を提案しました。具体的には、両過程の速度差は、表面における励起キャリアの過不足として現れ、それが光強度と反応温度を変化させた際の温度依存性として抽出されます(図1)。この考え方は、表面反応の方が温度変化に敏感であるという既知の性質を活用したもので、ある光強度以上になると温度によって反応速度が変化し始める「しきい値(オンセット強度)」が重要な指標となります。この指標を用いることで、律速過程を明確に記述できると考えました。
図1 光強度と反応温度の制御によって律速過程を特定する手法の概念図。反応速度に温度依存性が現れる光強度条件は、表面での励起キャリアの再結合が反応に転じる転換点に対応しており、励起キャリアの供給速度が表面反応速度を上回り始める"オンセット強度"として機能します。 |
この考えの実証に際して、代表的な光触媒である酸化チタン(TiO2)と酸化亜鉛(ZnO)を用い、メチレンブルーの分解反応をモデル反応として検証しました。反応温度を10˚Cと40 ˚Cに設定し、光強度を広範囲で制御しながら反応速度を測定した結果、TiO2では高い光強度で温度依存性が現れ、ZnOではより低い光強度から温度依存性が認められました。この結果から、相対的にTiO2はキャリア供給が律速し、ZnOは表面反応が律速すると判定され、材料ごとの律速特性の違いを明確に捉えることができました。このような判別は、材料選定や改良方針の誤りを防ぐ手がかりとなります。
さらに、酸化チタンの焼成温度を変化させた材料シリーズで同様の検討をしたところ、類似した材料においてはオンセット強度に顕著な違いが見られなかったものの、オンセット強度を超える強い光強度条件において性能と温度依存性を比較した結果、ナノサイズ化に伴ってキャリア供給が向上し、温度依存性も大きくなる傾向が確認されました。逆に、高温焼成によって粒子が大きくなった試料ではキャリア供給効率が低下し、温度変化に対する反応の応答も鈍くなりました。このことから、単なる結晶性の向上よりも、ナノ粒子化による表面へのアクセス性の向上がキャリア供給において重要であることが示唆されました。
従来のキャリア供給・移動・反応の解析には、レーザーを用いた瞬時分光法などの特殊装置や複雑な条件設定が必要でしたが、本研究で提案した手法は、一般的な光源と温度制御だけで実施可能であり、日常的な材料スクリーニングにも応用しやすい点が大きな特徴です。また、光強度の設定範囲が実使用条件に近いため、実際の性能と乖離の少ない律速過程の判定を行うことが可能です。
【今後の展望】
本手法は、光触媒の性能向上を目指した材料開発において、律速段階を簡便に特定できる有用な手段と考えられます。今後は、他の反応系や材料系への適用範囲を広げるとともに、ハイスループット実験への展開を通じて、より効率的かつ再現性のある材料評価を可能にしたいと考えています。特に、キャリア供給が律速か、あるいは表面反応が律速かを判断することは、材料改良の方向性を明確にする際に効果を発揮し、多くの光触媒研究の仮説検証に貢献できると期待されます。
【研究資金】
本研究は、日本学術振興会科研費 特別研究員奨励費(24KJ1201)、科学技術振興機構(JST) 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2102)、リバネス研究費京セラ賞の支援を受けて実施されました。
【論文情報】
雑誌名 | Journal of Materials Chemistry A |
論文名 | Identifying Rate-Limiting Steps in Photocatalysis: A Temperature- and Light Intensity-Dependent Diagnostic of Charge Supply vs. Charge Transfer |
著者 | Yohei Cho, Kyo Yanagiyama, Poulami Mukherjee, Panitha Phulkerd, Krishnamoorthy Sathiyan, Emi Sawade, Toru Wada, and Toshiaki Taniike |
掲載日 | 2025年5月2日 |
DOI | 10.1039/D5TA00415B |
令和7年5月12日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/05/12-1.html有機半導体の基礎研究と光エレクトロニクスへの応用


有機半導体の基礎研究と光エレクトロニクスへの応用
有機オプトエレクトロニクス研究室
Laboratory on Organic Optoelectronics
教授:村田 英幸(MURATA Hideyuki)
E-mail:
[研究分野]
有機EL・可視光無線通信・導電性材料
[キーワード]
有機EL素子の劣化機構解明、可視光無線通信用光アンテナ、導電性ペースト用フィラー
研究を始めるのに必要な知識・能力
出身学部が化学系の場合、有機化学や物理化学、物理系なら量子力学や固体物理学のいずれかの基礎知識が研究内容を理解するために必要です。専門知識は研究室に入ってから修得します。従って、学ぶ努力を継続する熱意と実行力が最も重要です。高校レベルの英語力は必要です。
この研究で身につく能力
研究室での研究活動を通じて自己研鑽を積み、自分で考えて自律的に行動できる研究者を育成することを目標としています。研究者として普遍的に重要な3つの能力が身につきます。
(1)研究を実践するために必要な専門知識を独習する能力
(2)設定した目標を達成するための計画立案能力
(3)研究成果の“価値”を伝えるためのコミュニケーション能力。
また、研究室の留学生との交流や国際共同研究、海外での学会発表などを通じて、国際的なセンスを磨く機会も多くあります。担当する研究テーマや努力の程度によって身につく専門知識は異なりますが、次の専門知識が得られます。
・光化学(励起状態のダイナミクス)、固体物性論(電荷注入と移動)、デバイス物理(有機デバイスの動作機構)
【就職先企業・職種】 総合電機メーカー、電機・電子機器・精密機器メーカー、印刷業、素材産業(化学、非鉄金属)
研究内容
村田研究室では、有機半導体に関する基礎研究の成果を、有機発光ダイオード(OLED)や可視光無線通信用の光アンテナなど、実用的なデバイス開発につなげることを行っています。民間企業との共同研究では、OLEDの精密な評価装置や有機半導体材料の真空昇華精製装置を開発しています。金沢市との共同研究では、金沢金箔を原料とした導電性ペースト用フィラー材料の開発を行っています。これら有機半導体デバイスの基礎研究を通じた社会貢献が目標です。
有機ELの劣化機構解析
有機ELディスプレイは高画質、低電力、薄型軽量、フレキシブルを特長とし、すでにテレビや携帯電話などで実用化されています。有機EL分野では、青色発光材料の耐久性向上が課題となっています。素子の長寿命化は、村田研究室の得意とするところであり、青色発光材料の劣化メカニズムを解明するとともに、高耐久性の青色発光有機EL材料を探索しています。また、精密な電子デバイスの作製から緻密な評価まで、一貫して研究を進める体制を整えており、これも私たちの強みとなっています。変位電流測定と電流ー電圧ー発光輝度特性を連続して高精度に測定できる新しい評価装置の開発にも成功しました。
金沢金箔を原料とする導電性ペースト用金属微粒子の開発
本研究では、金箔の新しい用途開拓を目指して、金箔を原料とする微粒子(金消粉)の導電性フィラーとしての応用を検討しています。これまでに、金消粉が導電性フィラーとして優れた材料であることを見出しました。そこで最近では、導電性フィラーの低コスト化に取り組んでいます。
可視光無線通信用の光アンテナの開発
可視光を使った無線通信は、近距離通信での活用が注目されています。我々は蛍光色素の特徴を生かした光無線通信用光アンテナの開発に挑戦しています。フェルスター型エネルギー移動(FRET)を光アンテナの発光材料に用いることで従来の光アンテナよりもはるかに高い利得と広い伝送帯域幅を実現し、より高速なデータ転送を実現しました。
主な研究業績
- C. He, S. Collins, H. Murata, Fluorescent antenna based on Förster resonance energy transfer (FRET) for optical wireless communications, Optics Express, 32, 17152 (2024).
- D. C. Le, D. D. Nguyen, S. Lloyd, T. Suzuki, H. Murata, Degradation of fluorescent organic light emitting diodes caused by quenching of singlet and triplet excitons, Journal of Materials Chemistry C, 8, 14873 (2020).
- V. Vohra, K. Kawashima, T. Kakara, T. Koganezawa, I. Osaka, K. Takimiya, H. Murata, Efficient inverted polymer solar cells employing favourable molecular orientation, Nature Photonics, 9, 403 (2015).
使用装置
真空蒸着装置(高真空対応2台、超高真空対応1台)
デバイス作製用グローブボックス
半導体評価システム
有機デバイス評価システム
逆光電子分光装置
研究室の指導方針
4年生までの学部教育が専門知識修得のための基礎を習得する場であるのに対して、大学院はさらに高度な知識を修得しながら、それを駆使して“研究を実践する場”であると考えています。研究がうまくいかず壁に突き当たったとしても、正面から向き合い試行錯誤して、困難を乗り越える経験をすることが最も重要です。最近は困難を回避しようとする人が多いように感じます。成功体験は今の自分に自信を与えますが、失敗の克服は新しい自分への飛躍をもたらします。一緒に困難を乗り越える体験をしてみませんか。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/murata/index.html
分子技術を核酸医薬・光ゲノム操作へ~DNA/RNAを光で操る~


分子技術を核酸医薬・光ゲノム操作へ
~DNA/RNAを光で操る~
DNA/RNA工学 研究室 Laboratory on DNA/RNA Engineering
教授:藤本 健造(FUJIMOTO Kenzo)
E-mail:
[研究分野]
核酸化学、有機合成化学、ケミカルバイオロジー、生物有機化学、遺伝子工学
[キーワード]
核酸医薬、光DNA/RNA操作、光ゲノム編集、有機合成、遺伝子治療、遺伝子診断、分子ロボティクス
研究を始めるのに必要な知識・能力
本研究室では「科学の基本原理を理解したうえで、合理的かつ緻密にデザインされた自身オリジナルの分子を創成・合成することで今までにない物性や能力を有する物質を創成する」ことを基本にしています。挑戦しようという意欲を求めています。異分野からの挑戦を歓迎します。
この研究で身につく能力
本研究室では日頃の雑誌会・研究会・実験・研究発表・研究室独自の取り組み(下記)などを通して自然現象・生命現象を科学の言葉で理解する力、自分自身で解釈し、新しいものを生み出す感性や俯瞰力、また最終的には自分を「活かし」ひいては社会に必要とされる人間力を身につけてもらいたいと思っています。
(取り組み事例)
◦最前線で活躍中の先生による研究室セミナー
◦東京・大阪方面で開催されている技術スクールへ参加支援
◦学会(国内、国外)への出席支援
◦海外雑誌への論文投稿の支援
◦ベンチャーラボラトリー等への積極的参画
◦共同研究先企業との合同セミナー・交流
【就職先企業・職種】 大学教員、化学系企業、製薬系企業、機械系企業、電機系企業、研究所研究員、医療機器系企業、食品
研究内容
(藤本研究室で行っている研究概要)
現代の遺伝子工学は酵素を用いた遺伝子操作に基づくものですが、生体内細胞中での操作、マイクロマシン上での操作には酵素のみでは限界があるとされています。藤本研究室では、即時に精密分子設計した光応答性の人工核酸を用いることにより、酵素ではなく光を用いてDNA あるいはRNA を操作する光遺伝子操作法を創出しています。さらには、分子生物学や情報科学、細胞生物学、データ科学などの学際領域のみならず遺伝子解析などの産業応用も含めた実用的新方法論(以下参照)へと展開しています。
1.超高速光DNA・RNA操作法の開発
(光応答性人工核酸の分子設計・合成とその応用研究)
光反応性を有するビニル基を埋め込んだ人工塩基をDNA 中に組み込ませた光操作用の人工DNAプローブを開発しています。この光応答性人工塩基を組み込んプローブ DNA をDNA チップ上で用いることで、従来の100倍以上正確に遺伝子解析が可能となります。特に藤本研究室で開発したシアノビニルカルバゾール(cnvK) は秒単位で核酸類を光架橋できることから国内外で市販されています。最近では、世界最速の核酸光架橋剤として認知されいます。このcnvK を含む光架橋により超高速プラスミド操作や任意の位置のシトシンをウラシルに変換できることを実証しています。遺伝子修復等の医学応用や産業面では DNA チップ上での超高速遺伝子解析への応用が期待されています。
2.核酸医薬(光による遺伝子発現制御)
核酸医薬は遺伝子を直接標的とする最新の医薬です。我々は光応答性人工核酸を組み込んだアンチセンス核酸を用いることにより、高い発現抑制効果を示すことを報告しています。また、光照射の場所・タイミングや照射エネルギーにより発現量を時空間的に制御することにも成功しており、抗ガン剤としての応用も期待されています。また、学術論文の表紙に採用されるなど、高く評価されています。
3.光ゲノム編集(遺伝子疾患治療に向けた核酸光編集)
核酸編集法は遺伝子疾患に対する有用な治療法とされており、CRISPR/Cas システムやADAR などが報告されています。藤本研究室では核酸光編集法(Photochemical RNA editing) を報告しており、光架橋・脱アミノ化反応・光開裂の一連の操作により配列選択的に標的のシトシンをウラシルへと変換できます。酵素を用いない新たな編集法として注目されています。従来のゲノム編集を凌駕する高い配列選択性を有した新たな光ゲノム編集法の開発をおこない、遺伝子疾患の治療等に貢献したいと考えています。
主な研究業績
- J. Mihara and K. Fujimoto, Photo-cross-linking of DNA using 4-methylpyranocarbazole nucleoside with thymine-base selectivity, Organic & Biomolecular Chemistry, 45, 9860-9866 (2021)
- T. Sakamoto, Z. Qiu, M. Inagaki. K, Fujimoto, Simultaneous amino acid analysis based on 19F NMR using modified OPA-derivatization method, Anal. Chem., 92, 1669-1673 (2020)
- K. Fujimoto, H. Yang, S. Nakamura, Strong inhibitory effects of anti-sense probes on gene expression through ultrafast RNA photo-cross-linking, Chem. Asian. J., 14, 1912-1916 (2019)
使用装置
DNA/RNA自動合成機
共焦点レーザー顕微鏡
UPLC-HPLC
マイクロプレートリーダー
蛍光分光光度計
研究室の指導方針
私たちの研究の根本はDNAに関連した精密分子設計とこれに基づく合理的な精密有機合成の技術にあります。学生一人一人がそれぞれオリジナルの研究テーマに取り組む中で、基礎的な合成技術、解析技術ならびに科学的に物事を捉える視点を養います。その上で化学系企業、医療機器メーカー、医薬品関連企業との共同研究を体験し、研究者の社会貢献のあり方について肌で感じてもらいます。その他、研究室独自のプログラム(研究室セミナー、合同セミナー、技術スクールなど)も活用してもらうことで自立した研究者育成を目指します。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/fujimoto/fujimotohp/
固体電子構造と局所配位環境のデザインにより所望の光機能を発現させる!


固体電子構造と局所配位環境のデザインにより所望の光機能を発現させる!
光機能無機材料化学研究室
Laboratory on Optical Functional Inorganic Materials Chemistry
准教授:上田 純平(UEDA Jumpei)
E-mail:
[研究分野]
無機化学、固体化学、光化学、ガラス
[キーワード]
蛍光体、蓄光材料、応力発光体、白色LED、レーザー励起、白色光源、近赤外蛍光体、蛍光温度計、高圧物性、有機長残光蛍光体
研究を始めるのに必要な知識・能力
知的好奇心をもち、積極的に研究に取り組み、コミュニケーションとディスカッションを通して学問の発展や新分野の開拓、自己の成長を遂げたいという意欲が必要です。必要な知識は問いませんが、無機固体化学の知識があると研究に有利です。
この研究で身につく能力
研究テーマは、材料合成、物性評価、応用展開の一連の内容を含み、研究を通して計画能力、課題把握能力、論理的思考や幅広い知見と様々な測定技術を習得できます。英語での研究発表会や最新英語学術論文を紹介する雑誌会のゼミによって、プレゼンテーション力と英語コミュニケーション力が鍛えられます。
専門的には、材料合成技術(無機固体粉末、セラミックス、透光性セラミックス、ガラス、単結晶)や物性評価技術(X線回折測定、X線吸収分光、基礎的な光学特性評価、蛍光寿命測定、光伝導度測定、真空紫外分光、蓄光材料評価手法、ダイアモンドアンビルセルによる高圧実験)など、固体化学と分光学の研究者としての能力を身に付けることができます。
【就職先企業・職種】 材料・化学メーカー、電機メーカー
研究内容

組成に伴う化学的、幾何学的変化により光物性を制御
身の回りには発光する材料やデバイスが多く存在します。例えば、白色LED照明、レーザープロジェクター、テレビやスマートフォンのディスプレイはその一例です。これらの発光デバイスには、短波長の光を吸収して長波長の光に変換する蛍光体と呼ばれる発光中心イオン(希土類や遷移金属など)を添加した無機固体材料が使われています。蛍光体の光物性は、発光中心イオンの種類やその幾何学的・化学的な配位環境、結晶ホストの固体電子構造で大きく変化します。本研究室では、これらの光物性を支配する要因を詳細に調査・特定し、高効率蛍光体や近赤外蛍光体、残光蛍光体など所望の光機能を有した固体材料をデザインしています。
◆白色光を創る!
白色LED照明やレーザー励起白色光源は、青色LED(またはレーザー)と可視蛍光体から構成されています。白色光源用蛍光体は、用途により要求される特性が異なり、最近ではディスプレイ用の発光バンドの半値幅の狭い「ナロ―バンド蛍光体」やレーザーの強励起でも消光しない「レーザー励起用蛍光体」などの開発が求められています。我々は、物理現象の解明を通し、より高い特性を有する蛍光体を戦略的に創製します。

開発した長残光蛍光体
◆光を蓄える!
通常、蛍光体は励起光を遮断すると、直ちに減衰し光らなくなります。しかしながら、励起電子の一部を結晶ホストに存在する電子トラップに蓄えることにより、数分から数日の時間スケールで光続ける蛍光体(長残光蛍光体または蓄光材料)を作製できます。我々は固体電子構造に着目し、光誘起電子移動機構を制御することにより、残光蛍光体を設計しています。
◆光で測る!
蛍光体の光物性は、温度や圧力により変化するので、特徴的な発光の変化を利用することにより、非接触・非侵襲型の温度センサーや圧力センサーとして使用できます。バイオ応用に向けた近赤外サーモメーターや高感度圧力センサーなどを開発しています。
◆その他研究テーマ
透光性セラミックス、フォトクロミック材料、熱ルミネッセンス蛍光体、応力発光体、アップコンバージョン蓄光、有機長残光蛍光体、太陽電池用波長変換材料、消光機構解明、圧力誘起相転移
主な研究業績
- A. Hashimoto, J. Ueda, et al., J. Phys. Chem. C. 127, 15611(2023).
- J. Ueda, et al., ACS Appl. Opt. Mater. 1, 1128(2023).
- Jumpei Ueda, Bull. Chem. Soc. Jpn. 94, 2807(2021)
使用装置
真空高温管状炉、X線回折装置
蛍光分光光度計、クライオスタット
波長可変レーザー、蓄光材料評価装置
ダイアモンドアンビル高圧セル
研究室の指導方針
当研究室では、メンバーの人数により調整しますが、1週間に一度の研究報告会と雑誌会(最新英語論文の紹介)を行います。規則正しい生活のために、コアタイムを9時から17時とします。研究テーマは、材料合成、物性評価、応用展開の一連の内容を含み、研究室での実験だけでなく、共通分析機器の利用や学外との共同研究により、幅広い専門知識と技術の修得ができます。基本的に、在籍中に国内学会や国際学会で、一度は研究発表を行って頂きます。また、得られた研究成果は、国際論文雑誌にて学生が第一著者または共著者として発表することを目指します。
[研究室HP] URL:https://uedalab.com/
表面・界面の理解に基づいたナノマテリアル開発


表面・界面の理解に基づいた
ナノマテリアル開発
先端ナノ材料科学研究室
Laboratory on Advanced Nanomaterials Science
教授:高村 由起子(YAMADA-TAKAMURA Yukiko)
E-mail:
[研究分野]
材料科学、材料工学、表面科学
[キーワード]
ナノマテリアル、二次元材料、薄膜成長、走査プローブ顕微鏡、放射光実験
研究を始めるのに必要な知識・能力
我々の研究室で行っている研究に向いているのは、ナノマテリアルの表面や界面で原子が並んでいる様子を見てみたい、という好奇心が強く、とにかく実験するのが好き、という方です。
この研究で身につく能力
最先端の装置、しかも世界に一台しかないような特殊な装置、を自分で操作して一定の期間内に成果を出すことを要求されますので、自ずとそのような装置の操作に必要な慎重さと大胆さが養われます。また、数多くの実験をこなすことで、効率的な実験計画の立て方が身につくのと同時に、装置の不具合などで実験が思い通りに進まない、といった経験から、想定外の事態に対応する能力も養われます。実験で得られた結果などについて自分でまとめ、考え、理解・学習する能力だけではなく、先輩や教員と一緒に議論することによって、説明する力、論理的に考える力が養われます。
【就職先企業・職種】 電気・電子、機械、医療機器メーカーのエンジニア職、研究職
研究内容

研究室での実験風景
現代の産業の基幹を支える薄膜材料の高品質化には、薄膜-基板界面の高度な制御が欠かせません。特に超薄膜やナノ構造体を対象としたナノマテリアル研究では、表面・界面が全体に占める割合が高くなり、表面・界面構造が成長や機能発現に果たす役割が重要となってきます。本研究室では、新奇ナノマテリアルには表面・界面の理解と高度な制御が必要であるとの認識から、表面・界面の詳細な分析とその制御に基づいたナノマテリアル開発を目指します。より具体的には、薄膜及びナノ構造成長表面のその場観察と異種材料界面構造の解析から得られる知見を有効に成長過程に還元するために、不純物混入の少ない超高真空における薄膜成長に取り組み、電子等のプローブと検出器を導入した装置を使用します。このユニークな装置を用いた薄膜成長とその場観察、放射光施設における表面・界面構造の解析と第一原理計算を組み合わせ、新しいナノマテリアルの創成とその構造・性質の解明に挑みます。
原子層厚みの究極のナノマテリアル、ケイ素版グラフェン「シリセン」の研究
シリコンウェハー上にエピタキシャル成長させた二ホウ化物薄膜表面を、光電子分光を専門とする研究室と第一原理計算を専門とする研究室と共同で詳細に調べている過程でシリセンを思いがけず発見することができました。この成果は国内外の大学や研究機関との共同研究に発展し、最近では、絶縁性の二次元材料である六方晶窒化ホウ素とシリセンを重ねることに成功しました。
二次元フラットバンドマテリアルの研究
ゲルマニウムウェハー上にエピタキシャル成長させた二ホウ化物薄膜を詳細に調べると、上記のシリセンの場合の蜂の巣構造とは異なる二次元的な結晶構造を持つGe層が形成されていました。また、我々の理論研究から、同様の結晶構造を持つ二次元材料の電子状態に「フラットバンド」の発現が期待できることが明らかとなりました。フラットバンドは物質に強磁性や超伝導を付与することがあり、現在、実験と計算の両面から研究を進めています。
カルコゲナイド系二次元材料の研究
セレン化ガリウム(GaSe)は、非線形光学特性を持つ層状物質として古くから研究されてきました。積層多形はこれまで何種類か報告されていましたが、我々の研究室の学生が、結晶多形を新たに発見しました。この従来とは異なる結晶構造を持つGaSe がどんな性質を持つのか、実験と計算の両面から調べています。
主な研究業績
- First-principles study on the stability and electronic structure of monolayer GaSe with trigonal-antiprismatic structure, H. Nitta, T. Yonezawa, A. Fleurence, Y. Yamada-Takamura, and T. Ozaki, Physical Review B 102, 235407 (2020).
- Emergence of nearly flat bands through a kagome lattice embedded in an epitaxial two-dimensional Ge layer with a bitriangular structure, A. Fleurence, C.-C. Lee, R. Friedlein, Y. Fukaya, S. Yoshimoto, K. Mukai, H. Yamane, N. Kosugi, J. Yoshinobu, T. Ozaki, and Y. Yamada-Takamura, Physical Review B 102, 201102(R) (2020).
- Van der Waals integration of silicene and hexagonal boron nitride, F. B. Wiggers, A. Fleurence, K. Aoyagi, T. Yonezawa, Y. Yamada-Takamura, H. Feng, J. Zhuang, Y. Du, A. Y. Kovalgin and M. P. de Jong, 2D Materials 6, 035001 (2019).
使用装置
超高真空走査プローブ顕微鏡、超高真空薄膜成長装置、薄膜材料結晶性解析X線回折装置、X線光電子分光装置、国内外の放射光施設、本学の超並列計算機
研究室の指導方針
我々の研究室では、迷ったらどんどん手を動かして、実験や計算をしてみることを学生さんに勧めています。実際にその実験や計算に従事している学生さんにしか思いつけない、新しいアイデアというのが必ずあります。アイデアとやる気とスキルがあったら、まずは、とことんやってみましょう。教員と先輩ができる限りのサポートをいたします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/yukikoyt/groupHP/Home.html
タンパク質の「形」や「動き」をしらべて、未知の生命現象をひもとく


タンパク質の「形」や「動き」をしらべて、
未知の生命現象をひもとく
タンパク質NMR研究室 Laboratory on Protein NMR
教授:大木 進野(OHKI Shinya)
E-mail:
[研究分野]
構造生物化学、生物物理学、NMR(核磁気共鳴分光法)
[キーワード]
タンパク質、構造と機能、立体構造、ダイナミクス、相互作用、NMR、安定同位体標識
研究を始めるのに必要な知識・能力
試料調製(遺伝子工学、生化学)、NMR実験(パラメータ設定、多様な測定、データ処理)、解析(NMRデータ解析、バイオインフォマティクス)の3つの要素のうち、少なくとも1つに関しての知識・能力があれば、この分野の研究を始めやすいです。PC操作に強い人も歓迎します。
この研究で身につく能力
生命現象を分子レベルで考える能力が養われます。研究で扱っているのは生体分子ですが、境界領域とか複合領域と呼ばれる研究分野のため、物理・化学・生物の幅広い基礎知識が必要になります。そのため、自ずとこれらを勉強して身につけることになります。また、具体的な研究立案を通して、大目標へ到達するための道筋を考えた中目標や小目標の立て方を学びます。実験がうまくいかないときの工夫やデータの解析・解釈など、実際に研究を進めていく中で困難な課題を少しずつ解決し、それらを統合して目標へ向かっていく能力が養われます。さらに、研究経過報告や学会発表を経験することで、学術的な文章を書く能力や発表資料の作成能力、プレゼンテーション能力も身につきます。
【就職先企業・職種】 製薬・食品・化学系企業の研究、技術職
研究内容

図.気孔を増やすストマジェンの立体構造。

図.1H-13Cの相関をみる2次元NMR(HSQC)スペクトルのメチル基領域の拡大図。タンパク質全体が13Cで安定同位体標識されている試料(左)とバリン・ロイシンのみが標識されている試料(右)。
(1)安定同位体標識技術の開発
NMR(核磁気共鳴分光法)で測定するタンパク質は、見たい部位の炭素が13C、窒素が15Nという安定同位体で標識されていることが必要です。このような特殊なタンパク質試料は、通常、遺伝子組み換え大腸菌を使って調製されます。類似の手法として、私たちは、これまで無かった植物培養細胞を利用する安定同位体標識タンパク質調製技術を開発しています。大腸菌よりも高等な植物細胞は、大腸菌では調製が困難な複雑な構造のタンパク質を調製する潜在能力を持っています。私たちはこれまでに、このオリジナル技術を使って試料タンパク質を13Cや15Nで均一標識することや、バリン、ロイシンなどのメチル基を有するアミノ酸残基だけを特異的に安定同位体標識することに成功しています。今後は、この標識技術のさらなる高度化に取り組んでいきます。
(2)ジスルフィド結合を有するタンパク質
ジスルフィド(SS)結合を有するタンパク質を大腸菌の系で調製することは困難です。私たちは、植物培養細胞を利用してSS結合を有するタンパク質を調製し、それらの構造と機能をNMRで研究しています。幾つかの成果の例を以下に紹介します。
ストマジェンは分子内に3組のSS結合を持つペプチドホルモンで、植物の気孔の数を増やす働きをします。大腸菌ではストマジェンを大量に調製することが困難でしたが、植物培養細胞での調製に成功しました。安定同位体標識されたストマジェンを調製し、その立体構造をNMRで解明しました。その結果、ストマジェンや類縁タンパク質の特異な機能と構造との関連が明らかになりました。今では、気孔の数を増やしたり減らしたりするペプチドを設計・調製し、実際にその効果を確認することが出来るようになっています。将来、植物の光合成量や成長を人為的に自在に操ることが可能になれば、環境改善や食料問題の解決に貢献できるはずです。
分子内に4組のSS結合を持つESFは、植物の種子が出来るごく初期の段階でのみ発現するペプチドとして発見されました。ESFが働かなくなると、種子の大きさや形が不揃いになります。私たちは、ESFを植物培養細胞で調製することに成功し、その立体構造をNMRで決定しました。この結果、ESF分子表面の特別な並びをしたトリプトファン残基の側鎖がその機能に必須であることが明らかになりました。大きな種子を収穫したり、種のないフルーツを簡単に作れる日が来るかも知れません。
他にも、昆虫や爬虫類の毒ペプチドや抗菌作用を持つディフェンシンなど、SS結合を持つタンパク質は数多く存在します。これらについても構造と機能の関係を研究しています。このような生理活性を持つ生体分子についての研究は、生命現象を深く理解するだけにとどまらず、その成果が新薬開発の大きな助けとなります。
(3)シグナルを伝達するタンパク質
生体内では、タンパク質、脂質、遺伝子など多くの分子の協奏によってさまざまなシグナルが行き交っています。これらのシグナルは、メチル化、アセチル化といった修飾や、マグネシウム、亜鉛などのイオンとの結合・解離による分子構造や構造の揺らぎ具合の変化がスイッチとなって、他の分子と相互作用することで伝達されています。私たちは、カルシウムを結合するタンパク質やリン酸化されるタンパク質に焦点を絞り、それらの構造と機能をNMRで研究しています。
主な研究業績
- L.M.Costa, E.Marshall, M.Tesfaye, K.A.T.Silverstein, M.Mori, Y.Umetsu, S.L.Otterbach, R.Papareddy, H.G.Dickinson, K.Boutiller, K.A.VandenBosch, S.Ohki & J.F.Gutierrez-Marcos. (2014) “Central Cell-Derived Peptides Regulate Early Embryo Patterning in Flowering Plants” Science 344, 168-172.
- S.Zhu, S.Peigneur, B.Gao, Y.Umetsu, S.Ohki & J.Tytgat. (2014) “Experimental Conversion of a Defensin into a Neurotoxin: Implications for Origin of Toxic Function” Mol. Biol. Evol. 31(3), 546-559.
- S. Ohki, M. Takeuchi & M. Mori. (2011) “The NMR structure of stomagen reveals the basis of stomatal density regulation by plant peptide hormones” Nature Communications 2, Article number: 512 doi:10.1038/ncomms1520
使用装置
Bruker AVANCE III 800MHz-NMR装置(1H/13C/15N三重共鳴クライオプローブ付き)
研究室の指導方針
将来全く別の研究・技術の領域に飛び込んだとしても十分活躍していけるような基礎的素養を持った人材を育成したいと思います。毎日楽しみながら、こつこつと努力し、粘り強く研究に取り組みましょう。失敗でも成功でも、取得した生の実験データを見ながら議論することに重きをおきます。データの解析や考察、次の実験についての提案など、新しいアイデアを出し合うことを日頃から繰り返していきながら、論理的な思考方法を身につけましょう。また、3ヶ月に1度程度は研究室のゼミで詳細な研究経過を口頭で発表する機会があります。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/nmcenter/labs/s-ohki-www/contents/Ohki_Lab.html
化学と生物の融合による新たな人工タンパク質の創製


化学と生物の融合による
新たな人工タンパク質の創製
人工タンパク質合成研究室
Laboratory on Nonnatural Protein Biosynthesis
教授:芳坂 貴弘(HOHSAKA Takahiro)
E-mail:
[研究分野]
遺伝子工学・タンパク質合成・ケミカルバイオロジー
[キーワード]
遺伝暗号拡張、人工タンパク質、非天然アミノ酸、無細胞翻訳系、蛍光分析
研究を始めるのに必要な知識・能力
タンパク質や遺伝子に興味を持っていること。生物化学・有機化学に関する基礎的な知識や実験技術が必要になりますが、入学後に修得することも可能です。
この研究で身につく能力
遺伝子工学・タンパク質合成・有機合成・蛍光分析などに関する専門的な知識と実験技術を修得することができます。また研究活動を通じて、実験計画の立案・関連研究の調査・実験データの取得と分析・研究成果のまとめとプレゼンテーション、に至る一連の研究プロセスを学ぶことができます。これらの能力は、技術者・研究者としていずれも必要不可欠なものです。
【就職先企業・職種】 化学・生物関連企業、研究機関
研究内容
遺伝子工学・タンパク質合成などの生物化学的手法と、有機合成などの化学的手法を組み合わせることで、新たな人工タンパク質の創製を目指して研究を行っています。具体的には、以下のような研究テーマを進めています。また、研究室で得られた成果を企業と共同で実用化するための研究も行っています。

図1.4塩基コドンを用いた非天然アミノ酸のタンパク質への導入

図2.抗原分子を検出できる蛍光抗体センサーの例
1.遺伝暗号の拡張による非天然アミノ酸のタンパク質への導入
タンパク質はDNAの遺伝暗号に従ってアミノ酸が連なって合成され、それが精密な立体構造を形成することで、高度な機能を発揮しています。しかし生物が使用しているのはわずか20種類のアミノ酸のみです。私たちは、この20種類の制限を超えて、人工的に合成した「非天然アミノ酸」をタンパク質の特定部位に導入することのできる、新たな技術の開発に成功しています。これは、4塩基コドンなどの拡張遺伝暗号に非天然アミノ酸を割り当てる(図1)、という新しい概念によって達成されています。
2.新たな機能を持つ人工タンパク質の創製
上記の技術を利用することで、新たな機能を持った人工タンパク質の創製を進めています。例えば、抗体などの特定の分子を認識して結合するタンパク質に、蛍光分子を付加した非天然アミノ酸を導入することで、蛍光により標的分子を検出できるタンパク質センサーを合成できます(図2)。また、非天然アミノ酸の導入技術を利用することで、新しいタンパク質医薬品の合成も試みています。これらの研究の一部は、企業・研究機関との共同研究により進めています。
3.生物の潜在能力を利用した新たなバイオ技術の開発
非天然アミノ酸のタンパク質への導入技術は、生物がもともと持っている潜在能力を、人工的に引き出して活用したものと言えます。私たちは、そのような生物の持つ潜在能力を新たに見つけ出し利用することで、人工タンパク質などの有用物質を合成することのできる、新たなバイオ技術の開発にも挑戦しています。
主な研究業績
- A. Yamaguchi, T. Hohsaka, Synthesis of novel BRET/FRET protein probes containing light-emitting proteins and fluorescent nonnatural amino acids, Bull. Chem. Soc. Jpn., 85, 576-583 (2012).
- R. Abe, H. Ohashi, I. Iijima, M. Ihara, H. Takagi, T. Hohsaka, H. Ueda, “Quenchbodies”: Quench-based antibody probes that show antigen-dependent fluorescence, J. Am. Chem. Soc., 133, 17386-17394 (2011).
- 芳坂貴弘、非天然アミノ酸のタンパク質への導入技術-バイオメディカル応用に向けて、メディカルバイオ別冊, 72-77 (2010).
使用装置
蛍光分析装置(分光光度計・蛍光寿命測定・蛍光スキャナなど)
遺伝子解析装置(DNAシーケンサー・リアルタイムPCRなど)
質量分析装置
研究室の指導方針
人工タンパク質に関連した研究テーマに対して、実験を通じて新たな成果を挙げるとともに、その研究プロセスを修得することを目標としています。具体的には、各自の研究テーマに対して、実験を試行錯誤的に繰り返す過程を通じて、実験計画の立案、結果の解釈と問題点の把握、次の実験計画へのフィードバック、などを独力で遂行できる能力を鍛錬します。そのために、研究室ゼミでは定期的に研究報告会を開催して、進捗状況の確認と指導・助言を行います。また、研究成果は積極的に学会等で発表する機会を設けています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/hohsaka/
結晶が成長する様子を観察してメカニズムを探る


結晶が成長する様子を観察してメカニズムを探る
次世代シリコン太陽電池研究室
Laboratory on Next-Generation Silicon Photovoltaics
講師:前田 健作(MAEDA Kensaku)
E-mail:
[研究分野]
結晶成長、太陽電池、非線形光学
[キーワード]
その場観察、結晶粒界、双晶
研究を始めるのに必要な知識・能力
学部や高専で習う基礎的な物理や数学の知識
思い込みで実験結果を判断せず、公平な視点で研究に取り組む姿勢
この研究で身につく能力
研究活動を通して、実験装置(ガス制御機構、加熱機構、顕微鏡など)の使い方やデータの収集と解析方法が身につきます。
また、定期的なゼミ活動や随時のディスカッションを通して、コミュニケーション能力や問題解決能力が鍛えられます。
失敗と思えるような実験から新しい発見が生まれることはよくあります。普通は気付けないような特徴を注意深く読み取る力や俯瞰的かつ合理的に考察する力など、修了後に社会で活躍する際にも役立つ能力を鍛えて欲しいと願っています。
【就職先企業・職種】 製造業など
研究内容
エレクトロニクス、オプトエレクトロニクスの発展を進めるには、材料となる結晶の高品質化や高性能化が不可欠です。結晶とは原子が規則正しく整列した固体であり、融液や溶液などの環境相から徐々に大きく成長することで形成されます。「成長」という言葉は主に生物に対して使われますが、立派な人間に成るには成長過程が重要であることと同様に、高性能な結晶を得るには成長過程が重要となります。この成長過程を注意深く観察することでメカニズムを解明し、高機能結晶を育てる技術を開発します。
1.薄膜多結晶シリコンの形成過程のその場観察
太陽電池の基板材料には半導体のシリコンが広く用いられています。薄膜多結晶シリコンはガラス基板上の非晶質シリコンにパルス光(フラッシュランプアニール光)を当てることで作ることができ、インゴットを薄くスライスして作る結晶基板よりも生産性とコスト面で優れています。非晶質シリコンが多結晶化する過程を観察することで、太陽電池の劣化の原因となる組織の形成機構を解明し、その形成を抑制する技術を開発します。
2.レーザー波長変換素子(周期双晶結晶)の作製

Li2B4O7の双晶成長過程(左)、顕微鏡観察炉(右)
半導体リソグラフィの極微細化やレーザー加工の超高精度化に伴い、高エネルギー効率で小型の全固体レーザー光源の短波長化が求められています。全固体レーザーは固体レーザーを非線形光学結晶により波長変換することで実現でき、光源にガスを用いるよりも安定で小型な装置となります。
非線形光学結晶の分極を周期的に反転することで変換効率を向上でき、強誘電体に電界印加することで生産されています。本研究では非強誘電体においても周期構造を導入するために、双晶形成を用いた反転技術の開発に取り組んでいます。
3.化合物半導体の融液成長過程の観察
シリコンSiは地殻中で酸素に次いで2番目に多い元素であり、単結晶シリコンは半導体デバイスの基板材料として世界中で広く生産されています。化合物半導体(InSb, GaSb, GaAsなど)の生産量は少ないですが、これからのエレクトロニクスの発展に無くてはならない結晶であり、単結晶育成技術の開発は重要です。結晶が成長する様子を観察して、双晶や粒界などの欠陥がどのように形成されるのか、そのメカニズムを解明することを目指しています。
主な研究業績
- K. Hu, K. Maeda, H. Morito, K. Shiga, K. Fujiwara, In situ observation of grain-boundary development from a facet-facet groove during solidification of silicon, Acta Materialia, 153, 186(2018).
- K. Maeda, A. Niitsu, H. Morito, K. Shiga, K. Fujiwara, In situ observation of grain boundary groove at the crystal/melt interface in Cu, Scripta Materialia, 146, 169(2018).
- K. Maeda, S. Uda, K. Fujiwara, J. Nozawa, H. Koizumi, S. Sato, Y. Kozawa, T. Nakamura, Fabrication of Quasi-Phase-Matching Structure during Paraelectric Borate Crystal Growth, Applied Physics Express, 6, 15501(2013).
研究室の指導方針
研究活動は自主性を重んじる方針で、学生自身の発想が研究に活かせます。毎朝一度、研究室メンバー全員が集まるミーティングを行い、その日の各自の活動を報告します。ミーティングでは、簡単な研究の相談もでき、メンバー間のコミュニケーションも十分行えるシステムです。当番の学生が文献紹介を行う勉強会では、細部にわたる質問への回答が求められ、しっかりとした基礎学力が身につきます。学術会議などでの外部発表は、積極的に行います。また、博士前期課程期間中に、英語の論文を執筆し投稿できるよう指導します。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/ohdaira/
第3回研究科セミナー(ナノマテリアル・デバイス研究領域)「円偏光イメージングによる磁気・カイラル構造分析とその展望」
日 時 | 令和7年5月28日(水)15:30~16:30 |
場 所 | マテリアルサイエンス講義棟 1階 小ホール |
講演題目 | 円偏光イメージングによる磁気・カイラル構造分析とその展望 |
講演者 | 文部科学省 初等中等教育局 教科書調査官(物理) 成島 哲也 氏 |
使用言語 | 日本語 |
お問合せ先 | 北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアル・デバイス研究領域 准教授 安 東秀 (E-mail:toshuan ![]() |
● 参加申込・予約は不要です。直接会場にお越しください。
出典:JAIST イベント情報https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/event/2025/05/26-1.html機能性バイオマテリアルで難治性疾患を治療する


機能性バイオマテリアルで難治性疾患を治療する
先端ナノ医療・長寿創生研究室
Laboratory on Advanced Nanomedicine and Longevity Creation
教授:栗澤 元一(KURISAWA Motoichi)
E-mail:
[研究分野]
バイオマテリアル、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ナノメディシン、再生医療
[キーワード]
生体内分解性高分子、ナノ粒子、緑茶カテキン、インジェクタブルゲル、薬物徐放・ターゲッテイング、細胞治療
研究を始めるのに必要な知識・能力
高分子化学の基礎知識があれば、問題なく研究を始めることができますが、入学前に特別な知識・能力がなくても大学や企業で活躍出来るように本気で指導します。要は日々の研究活動に対する心構え次第で、いくらでも成長できます。そのためには自他共栄の精神を研究スタッフ・学生と共有できる研究室づくりが大切だと考えています。
この研究で身につく能力
栗澤研究室では、ナノ粒子やゲルの設計・合成、キャラクタリゼーションを行い、細胞実験や動物実験によって、目的とする機能が十分であるのか否かを評価します。幅広い領域を学ぶので、種々の測定装置や実験手法の基礎を身につけることができます。動物実験を完了するころには、緻密な実験計画を立てる能力、討論・プレゼンテーション能力を習得することができます。研究目的を達成することに邁進することは大事なのですが、フェアに実験結果を評価できる能力を習得できるように指導します。
【就職先企業・職種】 大学教員、博士研究員、特許審査官、化学企業、製薬企業
研究内容

図1.緑茶カテキン・ナノ粒子による疾患治療
当研究室では、高分子科学、生体材料、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、再生医療などの学問領域を基盤とし、難治性疾患を治療可能とする機能性生体材料を開発します。昨今、遺伝子治療や再生医療などを含む先端医療が実施され、これまでに治療不可能とされてきた疾患に新しい治療法が切り拓かれてきています。このような先端医療を支える生体材料に関する研究は、難治性疾患を将来的に治療可能とする医療技術開発において益々重要な役割を果たすものと考えられます。シンガポール、韓国、米国をはじめとする海外研究機関との共同研究を展開しており、臨床応用及び産業化を目指した研究開発を推進します。
[緑茶カテキン・ナノ粒子を用いたドラックデリバリーシステム]
栗澤研究室では、タンパク質・抗体・低分子・核酸などの性質の異なる医薬品の内包を可能とする緑茶カテキン誘導体を薬物キャリアとしたナノ粒子の開発によって、癌をはじめとする難治性疾患の治療を目指したドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究を展開します(図1)。 緑茶カテキン・ナノ粒子は、薬物を疾患部に送達することを主な目的とした従来のDDS製剤とは異なる設計指針によって開発されています。疾患部への送達に加えて、薬物キャリアの主成分である緑茶カテキンが抗癌活性を有するために、薬物と緑茶カテキンのそれぞれの抗癌活性に基づくシナジー効果によって、抗腫瘍効果を増幅することを特徴としています。

図2.インジェクタブルゲル・システムによる医療応用
[インジェクタブルゲルによるヘルスケアへの貢献]
生体内での安全なハイドロゲル形成を可能とするインジェクタブルゲルシステムの開発及びその生体機能性材料としての応用研究を展開します。従来、注射によって生体内で安全に化学架橋を誘導する事は困難でありましたが、高分子—フェノールコンジュゲートと酵素溶液の同時注入により、コンジュゲート中のフェノールの酸化カップリングを誘導し、生体内で安全にゲル化させるプラットホームテクノロジーを開発しています(図2)。この手法によって、生体内で薬物及び細胞をゲル内に固定し、長期間に及ぶ薬物徐放及び細胞増殖・分化の制御が可能となることから、様々な疾患に対して新たな治療法をDDS及び再生医療分野において確立されることが期待されます。
主な研究業績
- N. Yongvongsoontorn, J. E. Chung, S. J. Gao, K. H. Bae, M. H. Tan, J. Y. Ying, M. Kurisawa, Carrier-enhanced anticancer efficacy of sunitinib-loaded green tea-based micellar nanocomplex beyond tumor-targeted delivery, ACS Nano 13, 7591-7602 (2019).
- K. Liang, J. E. Chung, S. J. Gao, N. Yongvongsoontorn, M. Kurisawa, Highly augmented drug loading and stability of micellar nanocomplexes comprised of doxorubicin and poly(ethylene glycol)-green tea catechin conjugate for cancer therapy, Adv. Mater. 30, 1706963 (2018).
- J. E. Chung et al. Self-assembled nanocomplexes comprising green tea catechin derivatives and protein drugs for cancer therapy, Nature Nanotechnol. 9, 907-912 (2014).
使用装置
紫外可視分光光度計、NMR、動的光散乱測定装置、HPLC、レオメーター、電子顕微鏡、細胞培養装置、動物実験関連機器
研究室の指導方針
学生に寄り添うスタイルで研究室を運営することをモットーとします。研究のディスカッションや勉強会・雑誌会はできる限り、 頻繁に行い、学生の研究能力の向上に努めます。当然ながら、レベルの高い研究成果を多く創出することは重要ではありますが、学生には先ず、自身が携わっている学問や研究が開拓しうる将来の社会を楽しく想像しながら研究することを提案します。応用研究を遂行する際には、社会貢献の可能性について、学生と十分に議論し、将来に学生が社会でリーダとして活躍するべく力を養う機会にします。また、学生であっても情報受信だけではなく、情報発信ができるよう指導いたします。学生の興味や個性をよく把握し、学生の能力を伸ばします。研究室内では常に世界の最先端の研究を意識しつつ、研究室もその舞台の中であり、世界に向けて発信したいと強く学生が意識する雰囲気を創ります。
[研究室HP] URL:https://kurisawa-lab.labby.jp/
ヘテロ元素化学から未来エネルギーを考える


ヘテロ元素化学から未来エネルギーを考える
蓄電池・エネルギー材料化学研究室
Laboratory on Energy Storage Materials and Devices
教授:松見 紀佳(MATSUMI Noriyoshi)
E-mail:
[研究分野]
エネルギー材料の創出研究
[キーワード]
リチウムイオン2次電池、ナトリウムイオン2次電池、リチウム空気電池、スーパーキャパシター
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究への意欲、知的好奇心、多少の失敗にひるまない楽観性、他のメンバーと協調的に研究を遂行できる適応性。また、以下は研究室に入る時点で必須ではありませんが、有機合成化学、高分子合成化学、電池関連化学、光化学などの経験や知識があればアドバンテージになります。
この研究で身につく能力
物質をデザインし、合成し、キャラクタライズする能力。実験データの意味を客観的に考察する能力。短期的、長期的に研究計画を立てる能力。報告書を作成したり、効果的にプレゼンテーションを行う能力、ディスカッション能力などがそれぞれ身につきます。さらには英語でコミュニケーションをとるための実践的能力を身につける場としても適しています。よりテクニカルな点では、嫌気下で様々な物質を有機合成し、NMR等で構造確認するスキル、イオン伝導性材料をインピーダンス測定などにより評価し、それらの電気化学的安定性を評価し、実際に電池を構築して充放電評価するスキルが身につくほか、光電気化学反応を電気化学的に評価するスキルを身につけることが出来ます。
【就職先企業・職種】 総合化学メーカー、自動車関連メーカー、繊維系メーカー、素材メーカー、機械系メーカーなど。
研究内容

高分子バインダーと活物質から成る
高性能電極材料のイメージ図
次世代用高性能蓄電池の創成研究
これまで、リチウムイオン二次電池用負極としては長きにわたりグラファイト負極が使用されてきました。現在、従来型のグラファイト負極よりも10倍以上の理論容量を有するシリコン負極の適用に関する研究が注目を集めています。しかし、シリコンは充放電中の体積膨張・収縮が大きく、粒子や界面の破壊や集電体からの活物質の剥離などの問題を引き起こし、問題が山積しています。本研究室では特殊構造高分子バインダーを適用することで、次世代用高容量電池の創成を目指しています。また、現存する多くの電池系は、性能が大幅に経年劣化することがユーザーレベルで広く認識されており、長期耐久性の課題解決も重要となっています。この点においても、分子レベルでの高機能バインダーの設計を行っています。さらに、シリコン負極型リチウムイオン二次電池と同様に、高容量の革新型電池として期待されている蓄電池系として、リチウム―空気電池が挙げられます。リチウム空気電池の開発の鍵となっている酸素還元反応触媒、及び酸素発生反応触媒においても、独自のアプローチにより研究を進めており、とりわけ白金の代わりに卑金属を用いた低コスト系の開発を進めています。さらに、リチウムに依存しない元素戦略に配慮した次世代蓄電池設計も進めています。例えばナトリウムイオン二次電池の高性能化に関する研究を電解質設計の立場から進めており、汎用の電解質を利用した系よりも大幅にサイクル特性やレート特性に優れた全固体ナトリウムイオン二次電池系の開発につながっています。現在の本研究室の電池開発において、もう一点注力しているのが急速充放電への対応です。現状の電気自動車では、高速道路のサービスエリアなどで充電を行う際に約30分を要しており、ガソリンスタンドでの給油と比較すると極めて長時間を要しています。本研究室では特殊な活物質の合成や、特異的な人工界面形成により充放電時間を大幅に短縮する試みを行っています。それを実現するキーワードとなるのが積極的な界面設計です。長きにわたって電池研究は四大部材(電極、電解質、バインダー、セパレータ)の研究を中心に展開されてきました。しかし、固体電解質界面(SEI)の重要性がいっそうクローズアップされつつあり、その戦略的かつ合理的な設計が次世代蓄電池の成否の鍵を握っていると考えられます。本研究室では、有機合成化学や高分子合成のバックグラウンドを有する電池研究グループという個性を最大限に活かしつつ、独自のアプローチで未来社会のニーズに応える高性能電池系の創出を目指します。
主な研究業績
- "Densely imidazolium functionalized water soluble poly(ionic liquid) binder for enhanced performance of carbon anode in lithium/sodium-ion batteries", A. Patra and N. Matsumi, Adv Energy Mater (2024) 20243071.
- "Water-soluble densely functionalized poly(hydroxycarbonylmethylene) binder for higher performance hard carbon anode-based sodium-ion batteries", A. Patra, N. Matsumi. J Mater Chem A., 12 (2024) 11857-11866.
- "Confronting the issue associated with the practical implementation of zinc blende-type SiC anode for efficient and reversible storage of lithium ions"R. Nandan, N. Takamori, K. Higashimine, R. Badam, N. Matsumi. ACS Appl Ener Mater., 7 (2024) 2088-2100.
使用装置
充放電評価装置
インピーダンスアナライザー
電気化学アナライザー
核磁気共鳴分光装置
ソーラーシミュレーター
研究室の指導方針
合成化学を基盤にしながら、リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池など社会的要求の高い研究分野に果敢にチャレンジします。クリエイティブな発想力と失敗を恐れない実行力、社会貢献への意識などを有したバランスのとれた人材の育成を目指します。ヘテロな研究集団を目指していますので、様々なバックグラウンドを持った人材を歓迎します。入って来るメンバーの科学的知識レベルも様々でしょうが、2年間ないし5年間にそれぞれのレベルに応じて大きな成長と達成感、自信を味わって巣立っていただくことが目標です。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/matsumi
“探索・学習・予測”のシナジーを実践する次世代マテリアル設計


“探索・学習・予測”のシナジーを実践する
次世代マテリアル設計
マテリアルズインフォマティクス研究室
Laboratory on Materials Informatics
教授:谷池 俊明(TANIIKE Toshiaki)
E-mail:
[研究分野]
ハイスループット実験、マテリアルズインフォマティクス、計算化学
[キーワード]
固体触媒、重合、ナノコンポジット、分離膜、グラフェン、データ科学
研究を始めるのに必要な知識・能力
私たちの研究はユニークであり、様々な専門の研究者が活躍できる非常に学際的なものです。新しい分野に創意工夫を持って挑戦する志を重視し、元々の専門分野を問わず多様な学生を受け入れています。所属学生の専門は、例えば、化学(触媒・高分子・ナノ材料)、化学・機械工学、データ科学、計算科学などです。
この研究で身につく能力
所属学生は、自身の研究やゼミ活動への参画を通して、1)ハイスループット実験、データ科学、計算化学のいずれか、ないしはこれらを組み合わせて用いる先進的な材料科学研究の実践方法、2)与えられた資源の中で成果を最大化するための研究計画能力、3)国際・学際的な環境でチームワークするスキルなどを習得できます。
【就職先企業・職種】 材料、化学、化学工学、マテリアルズインフォマティクスなどに関する研究開発職
研究内容

ハイスループット実験とマテリアルズインフォマティクスによる材料科学研究
気候変動や少子高齢化など、人類社会や我が国が置かれた避けられない課題に鑑み、谷池研究室では、ハイスループット実験、データサイエンス(マテリアルズインフォマティクス)、シミュレーションを基盤とした、イノベーション志向の物質科学を目指しています。かつてない効率で膨大な材料候補を探索し、社会問題の解決を目指しています。
❶ ハイスループット実験
異なる元素や物質を組み合わせることで得られる材料の数は膨大です。マテリアルサイエンスの目標の一つは、特別に優れた組み合わせやうまい組み合わせ方(プロセス)を発見し、より優れた材料を生み出すことです。私たちの研究室では、高度に自動化・並列化された実験装置を駆使するハイスループット実験を行っています。新しい装置やプロトコルの開発を通して実験のスループットを最大化し、浮いた時間を思考や情報収集に当てる研究スタイルを志向します。
➋ データ科学
ハイスループット実験は材料の合成条件、構造、性能を紐づけた材料ビッグデータを生み出します。効率的な材料探索を行うためには、良い材料を選出するだけでなく、材料性能の良し悪しがどのような因子と相関しているかを見極める構造性能相関を明らかにしていく必要があります。多変量解析や機械学習を駆使し、全てのデータから余すことなく学習することで物質探索を飛躍的に加速します。
➌ コンピュータシミュレーション
コンピュータや計算化学の発展によって、現実的な精度でのシミュレーションが可能になってきました。一方で、コンピュータを使った新しい材料の予測(in-silico設計)にはまだまだ距離があります。最も難しい問題は、複雑な材料を代表するような分子モデルを如何に構築するかです。実験も行う当研究室では、実践的な計算化学を標榜し、計算化学の夢であるin-silico材料設計に取り組んでいます。
ハイスループット実験装置の開発やデータサイエンスのプログラミングに加え、以下5つのテーマに注力しています:触媒・ポリマーインフォマティクス、構造性能相関、MOF やグラフェンなどのナノマテリアル、ポリマーナノコンポジット。
主な研究業績
- L. Takahashi, T. Taniike, K. Takahashi et al., Constructing Catalyst Knowledge Networks from Catalysts Big Data in Oxidative Coupling for Methane for Designing Catalysts, Chemical Science 2021, 12, 12546-12555 (press released, selected as Front Cover).
- T.N. Nguyen, K. Takahashi, T. Taniike et al., High-Throughput Experimentation and Catalyst Informatics for Oxidative Coupling of Methane, ACS Catalysis, 2020, 10, 921-932 (press released).
- G. Takasao, Toru Wada, T. Taniike et al., Machine Learning-Aided Structure Determination for TiCl4-Capped MgCl2 Nanoplate of Heterogeneous Ziegler-Natta Catalyst, ACS Catalysis, 2019, 9, 2599-2609.
使用装置
ピペッティングロボット Andrew+
多目的並列反応装置(研究室開発装置)
自動マイクロ波合成装置
触媒スクリーニング装置(研究室開発装置)
光触媒スクリーニング装置(研究室開発装置)
オペランド化学発光分析装置(研究室開発装置)
化学発光イメージング装置(研究室開発装置)
その場中・遠赤外分光光度計
レーザラマン分光光度計
マイクロプレートリーダー
X線回折装置 (オートサンプラー付)
蛍光X線分析装置 (オートサンプラー付)
研究室の指導方針
私たちの研究室にはコアタイムがありません。実験や研究のスループットを最大化し、ワークライフバランスを自身で設計して下さい。豊富なスタッフ陣があなたの研究をサポートします。チームミーティング(数週間に1回)やコロキウム(月に1回)を通して密な議論や指導を行います。また、国内外の学会への参加も積極的に支援しています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/taniike/
新しいプロセス技術を駆使してシリコン系次世代太陽電池を開発しよう


新しいプロセス技術を駆使して
シリコン系次世代太陽電池を開発しよう
次世代シリコン太陽電池研究室
Laboratory on Next-Generation Silicon Photovoltaics
教授:大平 圭介(OHDAIRA Keisuke)
E-mail:
[研究分野]
太陽電池、半導体工学、薄膜形成
[キーワード]
結晶化、パッシベーション、モジュール耐久性
研究を始めるのに必要な知識・能力
学部もしくは高専で習う固体物理、半導体の基礎知識がある方が望ましい。
地球環境問題、エネルギー問題への関心は研究を進める原動力となる。
この研究で身につく能力
各学生の研究テーマを遂行することで、真空装置の取扱いの他、薄膜形成およびその物性評価技術、デバイス作製・評価技術が身につきます。また、データの解析や日々のディスカッション、ゼミ活動などを通じて、特に半導体や太陽電池に関する基礎学力を習得できます。さらに、学生の自主性を重んじる研究室の方針から、いわゆる「指示待ち人間」にならない、問題解決能力の高い人間に成長できます。国内・国際学会での発表や、展示会でのブース展示などを通して、プレゼンテーション能力や、英語も含めたコミュニケーション能力も鍛えられます。
【就職先企業・職種】 大学研究教育職、企業研究職(電機、精密機器メーカー)など
研究内容
地球上に豊富に存在するシリコンを用いた太陽電池は、現在でも市場の大部分を占めており、また今後も、太陽光発電技術の主役であり続けることが期待されています。一方で、さらなる低コスト化、高効率化、長寿命化が求められており、より一層の技術的なブレークスルーが必要です。当研究室では、以下の新技術に着目し、シリコン系高性能太陽電池実現のための基盤技術の確立を目指します。
1.瞬間熱処理による太陽電池用多結晶シリコン薄膜形成
キセノンランプにおけるミリ秒台の瞬間放電を利用したフラッシュランプアニール(FLA)は、数十J/㎠という、瞬間的には地上における太陽光の数万倍の強度のパルス光を照射できます。当研究室では、この手法を、安価なガラス基板上への多結晶シリコン薄膜の形成に応用する検討を行っています。非晶質シリコン膜をガラス基板上に形成し、一度のFLA光照射を行うだけで、膜厚4µm以上の多結晶シリコン膜が形成できます。水素を含有した非晶質シリコン膜を前駆体に用いると、結晶化後も膜内に多量の水素原子が残留し、シリコンの未結合手が終端されるため、低欠陥の多結晶シリコン膜が形成でき、高効率薄膜太陽電池用材料としての利用が期待されます。このFLAによる非晶質シリコン膜の結晶化の現象解明および制御と、形成される多結晶シリコン薄膜の太陽電池応用について研究を行っています。

FLA装置の発光の様子(左)と
Cat-CVD装置の触媒体(右)
2.触媒化学気相堆積(Cat-CVD)の太陽電池応用
加熱触媒体線での接触分解反応により原料ガスを分解して薄膜を形成するCat-CVD法は、膜堆積時の基板材料への損傷を低減でき、結晶シリコン表面でのキャリアの再結合を大幅に抑制可能な高品質パッシベーション膜を形成できます。触媒分解により生成するラジカルを用いたCatドーピングとともに、高効率バルク結晶シリコン太陽電池への応用を目指しています。
3.結晶シリコン太陽電池モジュールの耐久性と新構造開発
多数のモジュールが直列に接続される大規模太陽光発電所などで、モジュールのフレームとセルの間にかかる高電圧が原因で発電特性が低下する、いわゆる電圧誘起劣化(PID) の問題が顕在化しています。当研究室では、結晶シリコン太陽電池モジュールのPIDの機構を解明し、抑止技術を開発する研究を行っています。また、現行の太陽電池モジュールは、各部材が封止材で固められています。そのため、封止材由来の各種劣化が発生し、モジュールを廃棄する際の部材分別やリサイクルも困難です。この問題を解決するため、封止材を用いない新概念モジュールの開発にも取り組んでいます。
主な研究業績
- K. Ohdaira, M. Akitomi, Y. Chiba, and A. Masuda, Potential-induced degradation of n-type front-emitter crystalline silicon photovoltaic modules — comparison between indoor and outdoor test results, Sol. Energy Mater. Sol. Cells 249, 112038 (2023).
- R. Ohashi, K. Kutsukake, H. T. C. Tu, K. Higashimine, and K. Ohdaira, High passivation performance of Cat-CVD i‑a-Si:H derived from bayesian optimization with practical constraints, ACS Appl. Mater. Interf. 16, 9428 (2024).
- Z. Wang, H. T. C. Tu, and K. Ohdaira, Formation of n-type polycrystalline silicon with controlled doping concentration by flash lamp annealing of catalytic CVD amorphous silicon films, Jpn. J. Appl. Phys. 63, 105501 (2024).
使用装置
フラッシュランプアニール装置
触媒化学気相堆積(Cat-CVD)装置
太陽電池特性評価装置
太陽電池モジュール作製および信頼性評価装置
各種薄膜物性評価装置
研究室の指導方針
研究活動は自主性を重んじる方針で、学生自身の発想が研究に活かせます。毎朝一度、研究室メンバー全員が集まるミーティングを行い、その日の各自の活動を報告します。ミーティングでは、簡単な研究の相談もでき、メンバー間のコミュニケーションも十分行えるシステムです。当番の学生が文献紹介を行う勉強会では、細部にわたる質問への回答が求められ、しっかりとした基礎学力が身につきます。学術会議などでの外部発表は、積極的に行います。また、博士前期課程期間中に、英語の論文を執筆し投稿できるよう指導します。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/ohdaira/
ナノとバイオを融合して医療と環境の問題を解決する


ナノとバイオを融合して
医療と環境の問題を解決する
バイオナノ医工学デバイス 研究室
Bio-Nano Medical Device Laboratory
教授:高村 禅(TAKAMURA Yuzuru)
E-mail:
[研究分野]
BioMEMS、微小流体デバイス、分析化学、バイオセンサ
[キーワード]
血液分析チップ、一細胞解析、質量分析チップ、マイクロ元素分析、微細加工プロセス、バイオチップ、マイクロプラズマ
研究を始めるのに必要な知識・能力
私たちが扱う対象は分野融合的要素が強く、従って本研究室では様々なバックグラウンドの学生を受け入れております。生物、化学だけでなく、物理、機械、電子、制御、材料など、個人のバックグラウンドに応じたテーマを設定し、研究を進めます。
この研究で身につく能力
何かを解析するチップの研究が多いので、分析科学の要素は押し並べて身につきます。微量なサンプルを扱うので、微量な生体サンプルのハンドリング技術、生体分子と無機材料の界面の調整技術、微量な蛍光や光信号の観察・計測技術等が身につきます。また、チップを作成するには、フォトリソグラフィー等、マイクロマシンの技術が身につきます。新しい材料を使う場合は、成膜やエッチングの為のプロセス開発を行うこともあります。チップの開発では、流体の動きや熱の伝達をシミュレーションし設計することもあります。修了生は、計測機器メーカへの就職が多いですが、半導体製造機器メーカや、薬品会社へ就職する方もいらっしゃいます。
【就職先企業・職種】 計測機器メーカ、電気、機械、半導体製造機器メーカ、半導体メーカ、薬品関連
研究内容
半導体プロセスを応用して、ウエハ上に小さな流路や反応容器、分析器等を作りこみ、一つのチップの上で、血液検査等に必要な一通りの化学実験を完遂させようという微小流体デバイス、μTAS(micro total analysis systems)やLab on a chipと呼ばれる研究分野が急速に発展しています。これは、病気の診断、創薬、生命現象の解析に応用でき、大きな市場と新しい学術分野を開拓するものとして期待されております。また、いろいろな形状の微小流路内を、流体や大きな分子が流れるときの挙動は、ブラウン運動や界面の影響が支配的で、流体力学でも分子動力学でも扱えない新しい現象を含んでいます。当研究室は、このような新しい現象をベースに、ナノとバイオを融合した次世代のバイオチップ創製を目指した研究を行っています。
主なテーマを次に示します。

図1.作成したバイオチップの例

図2.汎用微小流体チップ案
1)高集積化バイオ化学チップの開発
高機能バイオチップの実現には、チップ内での流体の駆動機構と、高感度な検出器の開発が重要になります。本研究室では、溶液プロセスによるPZTアクチュエータアレイや電気浸透流ポンプをはじめ様々なチップ内での液体駆動機構と、ナノ材料を駆使した新しい検出器の開発を進めています(図1)。これらを用いて、組織中の一細胞を分子レベルで解析可能なチップや、高度な処理をプログラム次第で様々にこなす汎用微小流体チップの開発を目指しています(図2)。
2)高感度バイオセンシング技術の開発
一滴の血液には、体内の様々な状態を反映した多くの情報が含まれております。これらを頻繁に解析することで、重篤な病気の超早期発見や、日々の健康管理、あるいは老化や病気が起きにくい体質になるために食事や運動をガイドする等、様々なことが可能になると考えられております。このためには、非常に微量なバイオマーカを簡易に測定する技術が必要です。私どもは、自己血糖測定器と同じ手間とコストでpg/mLオーダの測定ができるチップや、質量分析チップの開発を行っております。
3)液体電極プラズマを用いたマイクロ元素分析器の開発
中央を細くした微小な流路に液体のサンプルを導入し、高電圧を印加するとプラズマが発生します。このプラズマからの発光を分光することにより、サンプル中の元素の種類と量を簡単・高感度に測定することができます。この原理を用いて、食物、井戸水、土壌工場廃水・廃棄物に含まれている有害な金属(Hg、Cd、Pbなど)などを、オンサイトで測定できるマイクロ元素分析器の開発を行っています。
主な研究業績
- Pulse-heating ionization for protein on-chip mass spectrometry,Kiyotaka Sugiyama, Hiroki Harako, Yoshiaki Ukita, Tatsuya Shimoda, Yuzuru Takamura, Analytical Chemistry, 86, 15, 7593-7597, 05 August 2014.
- Development of automated paper-based devices for sequential multistep sandwich enzyme-linked immunosorbent assays using inkjet printing, Amara Apilux, Yoshiaki Ukita, Miyuki Chikae, Orawom Chilapakul and Yuzuru Takamura, Lab Chip,13(1), 126-135, January 2013.
- High sensitive elemental analysis for Cd and Pb by liquid electrode plasma atomic emission spectrometry with quartz glass chip and sample flow, Atsushi Kitano, Akiko Iiduka, Tamotsu Yamamoto, Yoshiaki Ukita, Eiichi Tamiya, Yuzuru Takamura, Analytical Chemistry 83(24), 9424-9430, 04 November 2011.
使用装置
クリーンルーム半導体製造装置一式
電気化学測定装置
表面プラズモン共鳴測定装置
イムノクロマトグラフ製造装置
全反射蛍光一分子観察装置
研究室の指導方針
iPS細胞など最近の新しい医療技術の多くは、新しい工学的技術の進歩が発端になっていることをご存知でしょうか。その多くに、高度に発展したナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合技術が使われています。この分野は、まさに今アクティブで、また人類への多くの貢献が期待されている分野でもあるのです。私どもの研究室には、様々なバックグランドと目的を持った学生さんが来ます。私どもは一人ひとりの目的に合わせたゴールを設定し、そこに向かって必要なものを自ら獲得できる様に、サポートとガイドを行うことを主な指導方針としています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/takamura/index.html
ナノ粒子工学:機能材料の創製から応用まで


ナノ粒子工学:機能材料の創製から応用まで
ナノ粒子工学研究室 Laboratory on Nanoparticle Engineering
教授:前之園 信也(MAENOSONO Shinya)
E-mail:
[研究分野]
ナノ材料化学、ナノ材料物性、コロイド化学
[キーワード]
半導体ナノ粒子、磁性体ナノ粒子、金属ナノ粒子、バイオ医療、エネルギー変換、センシング
研究を始めるのに必要な知識・能力
基礎学力、コミュニケーション能力、知的好奇心、柔軟な思考
この研究で身につく能力
修士課程では、(1) ナノ材料の化学合成技術、(2) 各種分析機器(透過型電子顕微鏡、X 線回折装置、X 線光電子分光、組成分析装置など)の操作スキル、(3) 基礎学問の知識(無機材料化学、結晶学、コロイド化学、固体物性など)、(4) ナノ材料に関する先端専門知識を身につけて頂きます。博士課程では、1-4に加え、英語によるプレゼンテーション能力、英語論文執筆能力、研究課題設定能力、共同研究遂行能力など、研究者に必要なあらゆる能力を身につけて頂きます。
【就職先企業・職種】 製造業(化学、精密機器、電気機器、ガラス・土石製品、繊維製品、その他製品など)
研究内容
物質をナノメートルサイズまで細かくしていくと、種々の物性がサイズに依存する新奇な材料となります。このような新奇材料を一般に「ナノ材料」と呼びますが、我々はその中でも特に「ナノ粒子」に興味を持ち、ナノ粒子に関する基礎から応用に亘る研究を行っています。半導体、磁性体、金属などのナノ粒子を化学合成し、その表面をさまざまな配位子によって機能化し、さらにそれらナノ粒子の高次構造を制御することによって、バイオ・医療分野あるいは環境・エネルギー分野で新たな応用を開拓することを目指しています。
1.磁性体ナノ粒子の合成とバイオ医療分野への応用
超常磁性体のナノ粒子を独自の方法によって合成し、その表面を自在に修飾することによって、バイオ医療分野での様々な応用の道を開拓しています。具体的には、細胞やタンパクの磁気分離、MRI 造影剤、ドラッグデリバリーシステムなどのナノ磁気医療に応用するための技術開発を行っています。
2.半導体ナノ粒子の合成とエネルギー変換素子への応用
狭ギャップ化合物半導体から広ギャップ酸化物半導体のナノ粒子まで、幅広い種類の半導体ナノ粒子を化学合成し、それらを用いて低炭素社会の実現を志向したナノ構造エネルギー変換素子の創製に関する研究を行っています。特に、ナノ構造熱電素子や光機能素子などに興味を持っています。
3.金属ナノ粒子を用いたバイオセンシング技術の開発
近年、金ナノ粒子を用いた様々なバイオセンサが開発され、簡便かつ迅速に DNA 配列検出やタンパク質機能解析などが可能となってきています。我々は、ナノ粒子プローブを用いたバイオセンシング技術の更なる高度化を目指し、異種金属元素からなるヘテロ構造ナノ粒子や合金ナノ粒子のプローブの開発を進めています。
主な研究業績
- T. S. Le, M. Takahashi, N. Isozumi, A. Miyazato, Y. Hiratsuka, K. Matsumura, T. Taguchi, and S. Maenosono, “Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic-Plasmonic Hybrid Nanoparticles”, ACS Nano 16 (2022) 885
- J. Hao, B. Liu, S. Maenosono, and J. Yang, “One-Pot Synthesis of Au-M@SiO2 (M = Rh, Pd, Ir, Pt) Core-Shell Nanoparticles as Highly Efficient Catalysts for the Reduction of 4-Nitrophenol”, Sci. Rep. 12 (2022) 7615
- T. S. Le, S. He, M. Takahashi, Y. Enomoto, Y. Matsumura, and S. Maenosono, “Enhancing the Sensitivity of Lateral Flow Immunoassay by Magnetic Enrichment Using Multifunctional Nanocomposite Probes”, Langmuir 37 (2021) 6566
使用装置
透過型電子顕微鏡 (TEM) 超伝導量子干渉磁束計 (SQUID)
過型電子顕微鏡 (STEM) 動的光散乱測定装置 (DLS)
X 線回折装置 (XRD) 共焦点レーザー顕微鏡 (CLSM)
X 線光電子分光装置 (XPS) 核磁気共鳴装置 (NMR)
研究室の指導方針
就職希望者には、基礎・専門知識はもちろん、コミュニケーション能力、英会話力、論理的思考力および柔軟な対応力を涵養し、不確実性の時代を生き抜くことができる人材となってもらうための指導を行います。企業経験を活かした実践的就職指導も行っています。
博士後期課程への進学希望者については、先端的かつ国際的な研究環境を提供することによって、将来的に大学教員や企業研究者として活躍できるグローバル研究人材を育成します。
[Website] URL:https://www.jaist.ac.jp/~shinya/
電磁波と原子核でナノ空間を視(み)て、制御する


電磁波と原子核でナノ空間を視(み)て、制御する
固体ナノ化学研究室 Laboratory on Solid-State Nanochemistry
教授:後藤 和馬(GOTOH Kazuma)
E-mail:
[研究分野]
物理化学、無機材料化学
[キーワード]
核磁気共鳴(NMR)、炭素材料、二次電池(リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、次世代電池)、その場分析
研究を始めるのに必要な知識・能力
化学の基礎知識があれば研究をすみやかに始められますが、必要なことは学ぶという意欲さえあれば知識の有無は問題ありません。研究を通して自分の成長(能力的&人間的)を望み、新しいことに取り組む意思があれば大丈夫です。
この研究で身につく能力
ものづくりに始まり、測定機器による分析、得られた実験結果・測定結果の考察までを行うので、無機材料を中心とした材料合成の実験技術、電池作製および評価の技術、NMRをはじめとする各種機器分析の技術など幅広い技術が身につきます。また、研究室でのセミナーや学会発表、海外研究グループとの国際交流を通してプレゼンテーション能力、英語力なども磨かれます。しかし一番大事なことは、得られた実験・測定結果から「物質の中で何が起きているか」を総合的にとらえ考察する能力や、課題を解決し研究をまとめるための論理的な思考力など、AIにとって代わられることのない「人間」としての考える力であり、これを特に重視しています。社会に出て長くずっと第一線で活躍できる能力を持った人になってもらいたいと考えています。
【就職先企業・職種】 化学・材料メーカー、電機・電池・自動車および関連メーカー、分析機器メーカー、公設試験研究機関、教員
研究内容
ナノサイズの空間や表面などの構造、およびミクロな環境を解明することをテーマとして、細孔物質(物質の中に多数の小さな穴=細孔をもった固体材料)の内部空間や、黒鉛などの層状化合物の層間に吸蔵された分子やイオンの状態、動的挙動、内部空間の表面状態などを、核磁気共鳴(NMR)法を中心に様々な方法で研究しています。内部空間への分子やイオンの導入(インターカレーション)は電池電極反応とも密接な関連があることから、特にリチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池や今後実用化が期待される次世代電池など、各種二次電池の電極材料の研究を積極的に進めています。
【固体NMR開発と二次電池電極の状態分析】


電池のリアルタイムNMR解析(左上)*),金属リチウム析出イメージ(右上)2.
非晶質炭素の充電,過充電挙動モデル(下)2.
*) K.Gotoh et al., Carbon (2014).
・固体材料についてのNMRは、固体物質中の局所構造やダイナミクスの解析に極めて有効な分析手法です。特にナノ空間の構造や環境を調べる際には、吸着された物質中の原子やイオンを「プローブ(探針)」として利用し直接的に内部環境を調べることができます。よって、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池ではそれぞれリチウム、ナトリウムのNMR共鳴信号を解析することで、電池内部の微小な状態変化を検出できます。軽元素であるリチウムやナトリウムは電子顕微鏡やX線分光など他の分析手段では直接観測が非常に難しいため、NMRでリチウムやナトリウムなど電荷を担持する重要な核種の状態を観測することが、イオンの吸脱着メカニズム、すなわち電池の充放電メカニズムの解明に大きく役立ちます。
・最新のリチウムイオン電池や次世代電池であるナトリウムイオン電池、全固体電池などの電極内に吸蔵されたリチウム、ナトリウムの状態を解明しています。充放電により刻々と変化する内部環境をリアルタイムで観測するためには、電池の「その場観測(オペランド解析)」が必須となるため、電池観測のための高感度オペランドNMR法の開発を積極的に進めています。本手法により電池が過充電された際の金属析出メカニズムも解明できるため、安全性評価にも貢献できます。
・充放電メカニズムの解析から、新たな材料の設計指針を立て、それに基づいた負極材料の開発を行っています。炭素材料は以前から負極に用いられてきましたが、次世代電池用電極材料としても期待できることから、新たな炭素材料の開発を進めています。
主な研究業績
- Dynamic nuclear polarization -nuclear magnetic resonance for analyzing surface functional groups on carbonaceous materials. H. Ando, K. Suzuki, H. Kaji, T. Kambe, Y. Nishina, C. Nakano, K. Gotoh*, Carbon, 206, 84 (2023).
- Mechanisms for overcharging of carbon electrodes in lithium-ion/sodium-ion batteries analysed by operando solid-state NMR. K. Gotoh*, T. Yamakami, I. Nishimura, H. Kometani, H. Ando, K. Hashi, T. Shimizu and H. Ishida, J. Mater. Chem. A 8, 14472 (2020).
- Combination of solid state NMR and DFT calculation to elucidate the state of sodium in hard carbon electrodes. R. Morita, K. Gotoh*, M. Fukunishi, K. Kubota, S. Komaba, T. Yumura, N. Nishimura, K. Deguchi, S. Ohki, T. Shimizu and H. Ishida, J. Mater. Chem. A 4, 13183 (2016).
使用装置
Bruker AVANCE NEO 400MHz NMR(固体測定専用)拡散測定システム付, Bruker AVANCE Ⅲ500MHz-NMR(固体対応)オペランド測定用特殊プローブ付
X線回折,X線光電子分光(XPS),熱分析,電子顕微鏡,ガス吸脱着装置,電気化学測定装置(充放電試験装置等),電池作製設備(グローブボックス等),高温熱処理炉(2200℃)
研究室の指導方針
社会人としてどのような分野でも力を発揮できる基礎力と、専門家として活躍できる知識経験の、両方を持った人になってもらうことを目的として指導します。定期的な研究室でのセミナーや報告会がありますが、実験については装置の都合により個々のスケジュールがかなり異なってくるので、自分自身で研究計画を立案し、実行してもらうことになります。国内外の学会での発表のほか、海外研究グループや企業と進めている多彩な共同研究にも積極的に参加してもらい、国際的な幅広い視野を持てる機会を提供したいと考えています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/nmcenter/labs/gotoh-www/