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研究

教員インタビュー(この人に聞く)

桶葭興資 准教授

GO BEYOND: DRY & WET matter 自然環境と生体物質の歴史に学んだソフトマテリアルの研究を推進

桶葭興資 准教授の写真です

2010年東京大学博士(工学)。日本学術振興会特別研究員DC1 (東京大学)、PD(理化学研究所、ハーバード大学)、海外(ハーバード大学)を経て本学に着任。助教、講師を経て2020年より現職。専門は高分子科学、光化学、ソフトマター。

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エネルギーやマテリアルの革新が喫緊の課題となっている中、サスティナブルイノベーション研究領域の桶葭准教授は、数十億年の歴史を持つ生体組織が「水」と歩んだ進化に注目しています。2021年度には「水と共生する生体模倣高分子材料に関する研究」が評価され、文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞。生体組織が有する環境適応やエネルギー変換の機能に倣ったソフトマテリアルの研究に期待が高まっています。



自然美に学ぶソフトマテリアル設計に挑戦

自然界を見渡すと、ミクロの世界でもマクロの世界でも、美しいパターンが存在します。目に見えるものであれば、シマウマや熱帯魚の体表の縞模様がありますし、巻貝のらせんもそうです。「水」に注目すると、水蒸気から生まれた美しい幾何学パターン、「雪の結晶」が20世紀中盤の科学史に刻まれています。「雪は天から送られた手紙」という詩情あふれる言葉で有名な石川県出身の科学者、中谷宇吉郎博士は、1936年に世界で初めて実験室で雪の結晶を創り出しました。
これらのパターンは物質そのものにだけ由来しているわけではなく、外的な環境が強く作用した結果として表れます。生命が変化する環境に適応できるよう進化した結果、多様な幾何学パターンやリズムが生まれているのです。こうした「自己組織化」と呼ばれる現象には、小宇宙を感じざるを得ません。

私たちの研究室では、医療、食品、化粧品など幅広い工業分野で使われるソフトマテリアルの研究をしています。
新しい材料を生み出す際、人工的に合成された分子から物理環境を制御してパターンをつくりだす研究には長い歴史がありますが、合成分子のままでは材料化する上で困難を極め、また、生体適合性や環境との共生にはいくつものハードルがあります。これに対して私たちは生体高分子に着目し、自然界に存在する美しい構造や優れた機能に学んだソフトマテリアル設計を実現したいと考えています。

水との関わりの中で組織化する生体高分子に着目

生体高分子は水との関わりが深い物質です。生物は、水中(WETな環境)から長い時間をかけて陸上(WETかつDRYな環境)に進出しました。すなわち、生体組織を構成するタンパク質、DNA、多糖などの生体高分子の構造には水との付き合い方が刻まれているといえます。
研究室では、水との関わりの中で組織化する生体高分子に着目し、「界面分割現象」「高分子ゾル/ゲルの幾何学的転移」「人工葉緑体」という3つのオリジナルの研究を進めています。共通するのは、自然界にある物理化学的な条件を実験室で再現、抽出し、自然美に迫るアプローチです。


「界面分割現象」は私たちのオリジナルの発見で、多糖の水溶液を乾燥環境下におくと、まるで界面から芽が出るようにセンチメートル単位で多糖が析出し界面が複数に分割される現象です。ワインがグラスの壁面に波のようなパターンを描き出す、通称「ワインの涙」と呼ばれる現象を大きく展開したものだといえば分かりやすいかもしれません。
また、このときに空間を区切るパーティションのように形成される多糖の薄膜を電子顕微鏡で観察すると、高分子がナノスケールで整然と揃っていることが明らかになりました。多糖水溶液を乾燥させるだけで高分子が3次元的に方向制御されることは、非常に興味深いことです。
すでに複数の種類の多糖で実験に成功しているほか、物理化学条件を整えることで別の天然高分子でも同様のパターンをつくる可能性があることが示されています。物理化学条件を明らかにして新しい現象論を確立するとともに、「乾燥」という簡便な手法を使った材料設計手法の開発につなげたいと考えています。


自然環境の多糖は常に乾燥と対面しており、界面分割現象のプロセスは私たちの身体の中に入り込んでいます。なぜこうした現象が起きるのかを解明することは当然重要ですが、それが水中から陸上進出した生物にとってどんな意味を持っているのか―という自然科学の大命題にまで行き着きたいと思っています。

研究を通じてサスティナブル社会の構築に貢献

当研究室は、サスティナブル社会の構築に資するマテリアル科学を推進することを目的とするサスティナブルマテリアル国際研究拠点の一翼を担っています。同拠点では、SDGsの7(エネルギー)、12(持続可能な生産と消費)、14(海洋資源)、15(陸上資源)への直接貢献を行うためのマテリアルの開発を目指し、結果として、4(教育)、9(インフラ、産業化、イノベーション)、13(気候変動)に関し国際的なレベルでの貢献につなげることを目指しています。
生体高分子を用いて生体適合性と環境適応性をあわせもつソフトマテリアルを設計するという研究室全体の方向性はSDGsに合致するものです。また、より直接的にSDGsに貢献できるテーマとして「人工葉緑体」の研究に取り組んでいます。これは実際の光合成に倣った光エネルギー変換システムを構築し、光を当てることで水から水素と酸素を発生する人工光合成ゲルを創出するというものです。太陽光によって水から水素と酸素をつくる技術が成熟すれば、石油のかわりに水素をエネルギーとして使う水素エネルギー社会への移行が見えてきます。

JAISTをめざす学生へのメッセージ

JAISTは、日本が20世紀後半に掲げたグローバル化を実現した研究大学です。研究室のメンバーも多様な研究と文化のバックグラウンドから結集し、21世紀の科学技術を創る今を歩んでいます。
サイエンスはひとが創り築くものである以上、仮説と検証の繰り返しです。うまく説明できないけれども「ん?」「なんで??」を繰り返し、議論し、思考回路を拡げ続けることが大事です。実験中、眼の前で起こるリアリティを全身で感じ、夢中になる時間をぜひつかみとってほしいと思います。



令和4年10月掲載

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