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研究

教員インタビュー(この人に聞く)

藤本健造 教授

「光」で、「秒単位」で、DNAを操作

藤本健造 教授

生命機能工学領域 藤本健造 教授 Fujimoto Kenzo

京都大学博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、京都大学大学院工学研究科助手を経て本学に着任。2009年より現職。専門は生物有機科学、核酸化学、化学生物学。

「光」を用いてDNAを秒単位で操作する独自の技術で、世界の注目を集めている藤本健造教授。遺伝子診断における課題を根本から改善する画期的な技術を確立したことにより、2015年度の文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞。2016年9月には、研究成果をもとにメーカーから超高速遺伝子解析用試薬が発売されました。



「光だからできること」を提案

現在、世界中の企業や研究機関がバイオテクノロジーに関する研究開発でしのぎを削っています。従来の遺伝子研究を支えてきたのは、DNAを切断する制限酵素や、DNAの切れ目を繋ぐリガーゼ、ポリメラーゼなどの「酵素」です。しかし酵素はいわば“なまもの”。pHや塩強度などの条件で使用が制限され、操作が複雑であるというデメリットがありました。
こうした点に着目し、「酵素を用いるのではなく、別のアプローチでの遺伝子操作法があってもいいのではないか」と考えた私は、本学に着任した2002年から、光でDNAを操作する技術の研究をスタートさせました。当時はこうした観点で行われている研究事例は数えるほどしかなく、そういう意味ではパイオニアのひとりであると自負しています。

私たちの研究活動の軸は、精密分子設計と、これに基づく精密有機合成です。世の中にない、オリジナル分子を自分達で設計・合成しています。私たちはこの技術を駆使して、光を秒単位で照射するだけで、DNAやRNAを高効率に「切ったり」「つないだり」「捕まえたり」することができるユニークな機能性核酸の創製に成功しました。

超高速クロスリンカー
1秒の光照射で標的DNA/RNAをがっちり捕捉



光を用いた遺伝子操作技術には、酵素を用いた従来の技術に比べて多くのメリットがあります。たとえば、光を当てるだけなのでハンドリングが容易で、作業するにあたって専門知識は必要ありません。制約条件が多い酵素とは異なり機械化・自動化もしやすく、LEDを光源とすればより低コストで運用できます。
特に強調したいのは、DNAやRNAの狙った場所に、狙ったタイミングで、リモートで操作できるという点です。リモコンのスイッチを押して、DNAの一部分に光を当てるようなイメージを思い浮かべていただけると、分かりやすいと思います。

狙った場所に、狙ったタイミングで、リモートで操作


科学の探求の延長線上に、産業応用がある

光を用いたDNA操作を遺伝子工学のツールとして用いると、遺伝子の検査をよりスピーディに、かつ正確に行うことができるようになります。
たとえば、私たちはお米の品種解析を即時に行うことに成功しています。産地偽装や遺伝子組み換え作物の混入など、食の世界で遺伝子検査・解析が求められる場面は増えており、その場でスピーディに検査ができる技術は、非常に有効だと考えます。このほか、光遺伝子治療薬などの先端医療、ケミカルバイオロジー、ナノテクノロジーなどでも応用が期待されています。

秒単位でお米の品種解析が可能


もちろん、一足飛びに革新的な研究成果が得られたわけではありません。
課題となったのは「時間」でした。研究を始めた当初は、DNAを切断・連結するために約6時間光を照射する必要がありました。やがて6時間が30分になり、現在では世界最速と評価される秒単位での操作が可能になりました。
試行錯誤しながらさまざまな分子を設計、合成する中で、徐々に“答え”に近づいていき、ある時一気に開花したわけですが、その過程で研究の方向性が、「純粋化学の追究」から「社会への貢献」に、自然とシフトしていったように思います。

2016年9月には、私たちの研究成果をもとに、日華化学(福井市)が超高速で遺伝子検査を可能にする試薬の量産化に成功し、販売を始めました。試薬を組み込んだ修飾オリゴ核酸も、同社の提携先にて生産・販売されています。

研究成果を産業応用に結びつけることに成功した私たちですが、まだ満足しているわけではありません。現在、光源として使用するのは366 nmの紫外線 LEDです。1秒の光照射とはいえ、細胞レベルで見ればわずかながら光毒性があります。
そこで次の段階では、紫外線の代わりに、細胞にダメージを与えない可視光を使う技術を実現したいと考えています。“細胞”という言葉を出しましたが、まさに私たちが今力を入れているのは、細胞に対してさまざまな操作を行うことです。すなわち、ダメージをうけたDNAやRNAを修復するような遺伝子疾患の治療に、本格的に踏み込んでいきたいと考えています。このときに、狙った場所に、狙ったタイミングで、リモートで操作できるという技術の特徴が生きてくるわけです。

自立した研究者、人材を社会へと送り出していく

私自身の学生時代を振り返ると、学部生の頃は企業に就職することしか頭にありませんでした。合成化学という専門を選んだのも、世の中にないものを作る技術を身につければ、就職の強みになると考えたからです。しかし研究室に配属され、研究に没頭する教授らの姿を間近に見るようになると、研究者という存在に憧れを抱くようになりました。その後大学院でDNAに出会い、研究対象として強く惹かれました。指導教授ならびに研究環境に恵まれたこともあって研究にのめりこみ、今に至ります。

JAISTにおいて研究室を主宰する立場となった今、重視している点は、自立した研究者、人材を育成するということです。たとえば、研究の進め方や研究テーマの設定については、私が一方的に指示するのではなく、学生に考えてもらうことから始めて、議論を重ねていきます。
研究室では、企業との共同研究を数多く行っていますが、できるかぎり学生にも参加してもらっています。企業側から市場の動向やリアルな研究開発について紹介してもらい、学生からは自分が取り組んでいる研究について披露する意見交換の機会も、年に数回設けています。

JAIST、すなわち北陸先端科学技術大学院大学は、「科学/サイエンス」と「技術/テクノロジー」を大学名に冠しています。科学を学んで多くの知識を蓄え、これを技術として世の中に出していく一連の流れを体験できる環境があります。実際、共同利用できる大型装置は充実していますし、産学連携の取り組みも活発です。JAISTで学ぶ学生には、この恵まれた環境を、思う存分活用してほしいと思います。

平成30年3月掲載

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